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Delighting World  作者: ゼル
Break 第六章 トーキョー・ライブラリ編 ~届け、想いの力、鳴り響け勇気の歌~
94/139

Delighting World Break ⅩⅩⅥ



「初めまして。魔王カタストロフ。フフッ。」




「イビル―――」

(―――ライズ―――)


その無邪気過ぎる声に、我の心は酷く――――震えあがった―――――――


その姿も球体のフワフワした何かの姿をしているが、姿が安定していないのか、時折人間の少年のような姿がぼやけて見えることがある。


ここはカタストロフの心の中。

悪の心と善の心は対話をする。



そしてそこに現れたのはイビルライズだった。




「くだらないことで言い争ってるね。あはは。笑っちゃうなぁ。」

「くだらない…だと。」

肉体を持つ善のカタストロフが言う。


「お前か。善の心は。」

急に冷酷な低い声を出すイビルライズはカタストロフの善の心に触れ、負の力を注ぐ。


「アッ…グッ…キサマ…ッ!!」


「ふふっ、邪魔だなぁ君。君は絶対悪なんだよ?世界を地獄に叩き落とす悪の化身。君のやることは世界の破壊、世界の支配。そうだろう?」

「グッ……!」


力を失い、声も出せなくなる善のカタストロフ。


(…)

肉体の無い悪のカタストロフは言葉を発さずにこの状況を見ているが…


「さぁ、今のうちだよ。乗っ取っちゃいなよ♪」

イビルライズは悪のカタストロフに言うが…


(横やりを入れるなァ!!)

「はぁ?」

予想外の返答に首をかしげるイビルライズ。


(これは我とコイツの問題ぞッ!部外者が手を出すでないわッ!!)

悪の心はイビルライズに大きな声で怒鳴るが…イビルライズはその迫力にも全く動じていなかった。


「ふーん…せっかく君が有利になるようにしてあげたのに。むしろ感謝して欲しいものだけど?」

(余計な世話だと言っているのだッ!勝手に我が身体に入り込みおって…覚悟はできているのだろうなッ!!)

悪のカタストロフは自分の領域に勝手に干渉されたことに怒り、イビルライズに言うが…


「ボクに勝てると思ってるの?馬鹿だね。」

(ッ…!)

イビルライズは不敵に微笑んだ。

「肉体の支配権はまだ善の方にある。君はまだ魂だけの雑魚だ。君こそ覚悟できてる?」

(グッ…ウグッ…)

イビルライズは悪の心に触れ、負の力を注ぎ始めた。


(この深闇は…ッ…我がモノよりも…!?)

「深いだろうねぇ~…ボクの存在はこのシンセライズ全ての闇さ。君の一個人の闇なんかよりもずっとずっと深く、重い。」


(ヤメロ…それ以上は…ッ!!)

「やめてほしい?でも駄目!あはは!」

(グアアアアーーーッ!!!!)

「あははははははは!!!」

高笑いするイビルライズに善のカタストロフはただ見ていることしか出来なかった。


「…皆…すまない…我は、ここまでのようだ。」


善のカタストロフは前に出た。


「何?コイツを殺したら次は君の番だから待っててよ。」


「やめてくれ。やるなら我を…我をやれ。お前の狙いは我だけのはずだ…」

善のカタストロフは悪のカタストロフを庇う形でイビルライズを止めさせた。


「ふーん、君を支配しようとしている奴を庇うなんて。馬鹿だねぇ。」

「頼む。」

善のカタストロフは頭を下げる。


(お前…何故…)


「分からぬ…我はこれからも我のままで居たいと願う。それは今も変わらぬことだ…だが…もう、良いのだ。もう、苦しむな。苦しむのは…我だけで良い。」

(…)


「全く、反吐が出るね。」

イビルライズは悪のカタストロフへの干渉を辞め、善のカタストロフの首をつかむ。

「…誰も、苦しんではならぬ…お前も、苦しいのだろう…我が悪の心よ…お前にも心がある…だから…お前も怒れるのだろう…?」

(…我にも…心が…だと…?)


「ボクはお前みたいな善が大嫌いだ、死にたきゃとっとと死ねよ。自己犠牲野郎。」

「…」


イビルライズは善のカタストロフに負の力を注ぐ。

「グッ…アアアッ…グアアアーーーーッ…!レ、ジェ、リ…デ……デーガッ………」

愛する者たちの名を呼ぶ善のカタストロフ。


(…クソッ!)

悪のカタストロフが動き出した。


なんと、善のカタストロフの中に入り、無理やり善のカタストロフの魂を追い払い、肉体の支配権を奪ったのだ。


(!何を…!?)


「はぁ?何やってんのお前?」

「ナ…何故、だろうな…フフ、我は…善の心など…くだらぬと思っていたはず…だが…気が変わった…」


肉体を得た悪のカタストロフは小さく笑って見せた。




「良いものではないか…心を持つということは…フッハハ…まさか憎き善の心に教えられるとはな…ッ…肉体を得て確証に変わった…善の我が抱えていたもの…器や、我を気にかける者たちへの想い…これも全て心なのだな…」

(…!)

「……あーあ、つまんない。」

「グァッ…!?」


「もう良いよ。じゃお前が死ね。」

「善の心よ…ッ…いいものだな…心を持つということは…最後に、知れて良かった…」

(―――まっ…!)

言葉を交わす前に、カタストロフの肉体は項垂れてしまった。



善の心を知った悪の心は完全に消えてしまった…




(…)


そして強制的に身体に戻って行った善の心が目を覚ます。


「さて、あとは君だけだね♪」

「…」

「でもね~ボクもう飽きちゃった。だから最後に君にお仕事与えてボクは帰ることにするよ。」

「何…?」

イビルライズは顔をグッと近づける。


「今から君をボクの力で絶対悪にしてあげる。」

「…!」

「そして君はボクの干渉から抜け出せないまま暴れ散らかしてこの世界を好きなだけぶっ壊してよ。」

「馬鹿な…」

イビルライズは歪んだ顔で大きく笑う。


「楽しみだねぇ~…君の愛した世界、君の愛した人たちを君が殺すんだ。君が壊すんだ。」

「やめろ…!ふざけるな…我を殺せッ!殺してくれッ!!そのようなこと出来るわけが「やれよ。」


イビルライズは低い声で呟く。


「忘れたの?お前は絶対悪カタストロフ…世界を支配し破壊するためだけに生まれた―――世界の敵なんだよ。」

「…!」

「誰もお前を愛さない、誰もお前を受け入れない。お前の罪は一生消えない。良いじゃん。君の最後に待つのは無様に正義に倒される醜くて愚かな結末さ。」


「…我は…」


「あぁ、かわいそうなカタストロフ、なんて愚かなカタストロフ。」


イビルライズは低い声で呟いた。

「恨むならこの世界を恨めよ。世界のゴミが。」


そう吐き捨てるように言い、イビルライズはカタストロフの心臓を貫いた。


「アガッ…アッ…グアッ…ゴフッ…」


「楽しみだな。君が愛する人を殺し、君が世界をぶっ壊す姿を見るの。そして…君が正義の裁きによって殺される姿を見るの。たぁぁぁぁのしぃぃぃぃぃぃみぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ~!あっははははははははははは!!!」

歪んだ、狂った顔で笑い転げるイビルライズはそのまま姿を消してしまった。





「…」(レジェリー…デーガ…ッ……すまない……すまな……―――――――――――――)













殺戮だ。










--------------------------------------







トーキョー・ライブラリでの戦いはいよいよ本番に入ろうとしている。



トーキョー・ライブラリを覆う酸の雨を展開している魔法陣を打ち払うことに成功したビライトたちは、ついにカタストロフが居るスミダへと向かおうとしていた。



魔法陣を打ち破るために利用した赤い電波塔を降り、ブレインから後方支援をすることになったルフと別れ、ビライトたちはいよいよスミダへと向かうこととなった。



「ところで、スミダまでどうやって向かうんだ?車はルフが乗って帰って行ったじゃないか。」

「あぁ、その辺は対策済みだぜ。」

車が無い為、移動手段が無くなったビライトたちだが、アトメントは策があるようだ。


「この近くに車を販売していた店があるんだよ。ルフがそこの車も動くように手はずを整えているはずだ。」

「いつの間にそんなこと…」


「この街はルフの手足のようなもんだ。遠隔で整備したりするのなんてチョロイのさ。」

どうやってやっているかは分からないが、何にしてもルフの采配によりビライトたちは新しい車でスミダまで向かえるようだ。


電波塔から歩いて数分。

車が無数に並ばれているガレージへと辿り着いた一行。

建物はすっかり廃屋でボロボロだが、車は比較的綺麗に整備されている。


「…うし、動くぜ。」

アトメントは車の動作を確認し、乗り込んだ。

乗り込んだ車はルフが運転した車と同じぐらいの大きさだが…ルフの車よりは速い速度が出せるもののようだ。



「車、運転出来るのか?」

クライドが尋ねる。


「おう、任せろって!ただし…ぶっ飛ばすから舌噛むなよ?」


「「「…」」」

「―――またか…」


アトメントは全員が乗り込んだのを確認し、エンジンを入れる。

助手席にはデーガが座り、残りのビライトたちは後ろへ乗る。


「行くぜオラアアアアアアアアア!!!」


「ちょ、性格変わってない!?」


「あー…お前らマジで舌噛むなよ?」



「ちょ、まっ…っアアアアアアアア!!!」


ブオンと大きな音を立てて車が勢いよく飛び出す。

そしてその速度、有に150kmを軽く超える爆速スピードで凸凹のアスファルトを駆け抜ける。


「ーーー!!!」

「ルフよりひっどい!!!」



この調子であればあっという間にスミダまで辿り着くだろう。

そして、アトメントが何故これだけ爆走するのかにはちゃんとした理由がある。



「来るぜ。しっかり防御しとけよ!!」

「えっ!?」


スミダに近づく。

それはすなわちカタストロフの領域に近づくということだ。

魔法陣の破壊により既にビライトたちはカタストロフに認識されている。

そして、近づく者に対して行う防衛行為。これはもう言うまでもない…


前方から紫の雷を纏った光線が飛んできたのだ。


「!」

アトメントはそれを急ハンドルで躱す。光線は地面に着弾し大爆発を引き起こした。


それが無数に迫ってきているのだ。


「ほっ、よっ、ほれ!」


「わわわわわ!!」

「こ、これやばくない!?」

「こいつは…デーガ!防御壁は貼ってんだろ!?」

ヴァゴウがデーガに聞き、デーガは頷く。


「一応な。だがカタストロフの攻撃の方が格上だ。この防御壁も効くかどうかは分からねぇ。当たらないのが一番だ。ってなるとお前次第だぞアトメント!」


「ハハ!当たるわけねぇだろ!俺のドラテク舐めんなよ!?」

アトメントは楽しそうに光線を急ハンドルで躱していく。

無茶苦茶な方向に身体が跳ねるビライトたちにとってはたまったものではない。

「皆!ワシの身体に捕まっとけ!!」

ヴァゴウがこの中で唯一身体が大きい。

身体の重心をしっかり支え、ビライト、レジェリー、クライドを抱える。


「オ、オッサン!」

「キツイ~!!」

「…」


「我慢しろッ!!」



「見えるぞ。あれがトーキョー・ライブラリで最も高い場所、電波塔のスカイ・ライブラタワーだ。」

本来であれば1時間弱程度で辿り着くはずが、その半分の時間で辿り着いたビライトたち。

迫りくる光線をアトメントの無茶苦茶なドラテクで躱しながらもビライトたちはその高いタワーを見て驚く。

そして…

「あ、あれは…!」

「あの黒い靄がかかってる場所、あれがカタストロフの根城ってわけだ。」


スカイ・ライブラタワーの上層。展望台らしき場所より上はポッキリと折れており、展望台の周りは強い闇の力で纏われた黒い靄で覆われていた。

紫色の雷が周囲にはじけ飛び、そしてその黒い靄は少しずつ大きくなっているように見えた。


「あそこに…カタストロフが居る…!」

レジェリー、は息を呑む。ついにここまで来たのだと。


「あそこまでどうやっていくんだ!」

「赤いタワーと同じだ!下に直通エレベーターがある!」


光線を躱しながらついにスカイ・ライブラタワーの手前まで辿り着いたアトメントの運転する車。


「急いで降りろ!」

ビライトたちは休むことなくすぐに車を降りる。

一人ずつ降りていくビライトたちだが…


「!やべぇ!」

デーガは咄嗟に前に出る。車の上に立ち防御壁を張る。


「デーガ!」

「チッ!!早く降りろッ!」


光線が真上から落ちてきたのだ。

それをデーガが受け止める。

その間にビライトたちは全員車から降りることができ、車から慌てて離れた。

「デーガ!もう良いぞ!」


「わーーってる…てのッ!!うらああああっ!!!」


デーガは咆哮し、光線の向きを少しだけ逸らし、自身はビライトたちの方へ身体をずらして飛ぶ。

光線は車の頭上を貫通し、大爆発を引き起こした。

アスファルトの道に大穴が空き、車は激しく燃え、その破片が飛び散った。


「く、車が…!」

「何してんだ!さっさと中に入れ!」

爆風でたじろぐビライトたちだがデーガの声で一斉にスカイ・ライブラタワーの中にビライトたちは潜入した。


--------------------------------------



スカイ・ライブラタワーの中に入ったビライトたち。もう光線は降ってこないようだ。


(…スーパーコンピューターは無事のようだ…地下から音を感じる。)

(…だな。)

デーガとアトメントは小声で会話する。


スカイ・ライブラタワーの地下にはスーパーコンピューターと呼ばれるものがあるようだ。

これはトーキョー・ライブラリの頭脳と呼ばれているものであり、抑止力の序列分析もここで行ったものである。

このことは抑止力たちとルフしか知らないものであり、ビライトたちにも伝えるものではない。

かなり抑止力たちにとっても大事なものであり、デーガとアトメントはスーパーコンピューターの無事を確認してひとまず安心していた。


「静かね…でも、上からとんでもなく強い力を感じるわ…」

レジェリーは上を見る。

この上にカタストロフが居るのだ。そのあふれ出る闇の力にゾクッと背筋が凍るようだった。


「それにしても、中には光線は飛んでこないようだな。これは…」

クライドは呟く。デーガは頷いた。


「お前ら全員心当たりあるだろ。あれは“センサー・オブ・カタストロフ”だ。」

抑止力の試練でデーガが使用していた技だ。


センサーのようなもので、魔力や生物を感知して攻撃する遠距離型の禁断魔法だ。


「そうか、あの時も森の中では攻撃されない時があった。」

「あぁ、遮るモンがあると感度が落ちる。つまり中から登って行けばセンサー・オブ・カタストロフに狙われる可能性は下がる…が…」

デーガはエレベーターに触れる。


「こいつは使えねぇ。」

「なっ、なんでだ?」

「このエレベーターは途中からガラス張りになって外の様子が見えるようになってるんだ。つまり…」

「センサー・オブ・カタストロフの索敵範囲になってしまう…ということか。」


「その通りだ。」

クライドの回答にデーガは頷き、そしてデーガは階段を見つけて指さした。


「この階段から行けばセンサー・オブ・カタストロフの索敵からは逃れられる。だがこのスカイ・ライブラタワーの高さはおよそ600m…そしてカタストロフの位置する場所はおおよそ500m付近…かなり長い時間階段を登り続けなければならんし、時間もかかる。それにだ。」

デーガは上を見る。


「師匠、何か感じるの?」

「あぁ。魔物の気配だ。しかも結構な数だぜ。カタストロフめ…俺たちがここから登ってくることも計算済みってか…」

「魔物か…」

息を呑むビライトたち。レミヘゾルの魔物は強力だ。それが無数に控えているとなると激しい戦いを続けなくてはならない。それは体力の消耗となるため、カタストロフまでに体力を温存出来ないかもしれないのだ。


デーガは舌打ちする。

この上には魔物が大勢控えているようだが…


「…妙な話だ。」

デーガは小さな声で呟いた。

「妙ってなんだよ。」

アトメントが言う。


「考えてみろ。絶対悪化したカタストロフの理性はほぼ失われているはずだ。なのに俺たちの行動を予測したり、センサー・オブ・カタストロフで襲撃を狙ったり…こんな器用なことが出来るとは思えねぇ。」

デーガは目を細め、アトメントだけに聞こえるように言う。

「嫌な予感がするぜ。」

「気は抜けねぇな。」(デーガ、お前も気が付いてんだろ…これには“奴”が絡んでるぜ…)



(“カタストロフとは別の意志がこの状況を企てている気がする”…まさか…)


デーガはおおよそ予想はついていたが…そうなると…デーガはレジェリーを見る。


「…どうしたの?師匠。そんな思いつめた顔して…」

「いや、何でもねぇ。」


(カタストロフを救う手立てが閉ざされちまうかもしれねぇ。考えたくはねぇが…断定できない以上口には出さねぇが…クソッ、厄介なことになってやがるかもしれねぇ…)


「とにかく登ろう!じっとしてても仕方ないよ!魔物は師匠の権能でなんとかなるんじゃない?」

レジェリーはそう言いながら、階段を登りだす。


「…いや、そうはならんだろう。」

階段を登りながらクライドが言う。


「どういうことだ?クライド。」

ビライトは尋ねる。


「デーガ、カタストロフはお前より格上なんだろ?」

「…あっ、そういうことか…!同じ権能だから…」


「チッ、痛い事言うんじゃねぇよ…まぁ、事実だがよ。」

デーガは舌打ちして嫌そうに呟いた。


「デーガとカタストロフは同じ抑止力であり、一心同体だ。そして権能も同じく魔物の支配。カタストロフが魔物を従わせてここに配置しているのならば…デーガの権能は通じん。」

「…癪だがその通りだ。だから迫りくる魔物は殺してでも押しのけろ。良いな。」

ビライトは冷や汗を流しながら頷く。



途方もなく長い長い階段を登るビライトたち。

これは非常階段なので、10階に1つ程度内部に入れるフロアがあるだけで、それ以外はただの階段だった。


しかし…



「ガルル…!」

「おいでなすったな。」

ヴァゴウは魔蔵庫から斧を取り出し、構える。

ビライトたちも武器を構え、戦闘態勢を取る。



「一気に駆け抜けるぜ!」

「あぁ!行こう!」



「グルアアッ!!」

ビライトたちはそれぞれが得意技を駆使して一気に魔物を倒しながら進んでいく。


10m、20m、30m。

着実に、無視できる魔物、倒さずに階段から落下させて事を凌ぐ。

とにかくあらゆる手段で魔物たちを退けビライトたちは先に進む。




実に高さで言うと200m程度まで辿り着いたビライトたち。やっと3割と言ったところだ。


「ハァ…ハァ…魔物多すぎるだろ…しかも階段だから狭くて戦いづらいことない…!」

「文句を言ってる場合ではないぞ…俺たちは…まだまだ上を目指さなければならないのだ。」

弱音を吐いてしまうビライトにクライドは言い、奮い立たせる。


「…でけぇのが来る!」

ここはフロアがある位置だ。


奥の扉を叩いて壊したのは大きな巨人型の魔物。全長は4mほどあり、巨大な鉄の棒を持っている。

禍々しい闇の力を纏い、高く咆哮する。


「こいつは…!カタストロフの権能でより強化されてやがる…!」

「そんな…!こんな奴に構ってる場合じゃないのに!!」

戦う準備をするが、そこに立ち塞がったのは…



「ここは俺が囮になる。お前たちは行け。」

クライドだった。


「クライド!何を言ってるんだよ!みんなで行かなきゃ…!」

「こんな木偶の坊は俺一人で十分だ。そんなことよりも早くいかねばカタストロフを救えなくなるぞ。」

クライドは短剣を構え、魔物に突っ込む。

「ハッ!」


クライドはスライディングで魔物の股を潜り抜け背に回る。そして短剣で切り裂いた。

「よく滑る床だ。動きやすい。」

「グオオッ!!」


「クライド!」

「行け!すぐに追いつく!」


「…行くぞビライト!」

「でも!」


「クライドの言ってることは事実だ!俺たちは急がなきゃならねぇ!」

デーガに説得され、ビライトは拳を握りしめる。

「…必ず追いかけて来いよ!!信じてるから!」

「あぁ。」

「死ぬなよ!」

「当たり前だ。」


ビライト、デーガは振り向き階段を登る。


先に上にいたアトメントと合流して階段を登り続けた。


「クライド!」

「クライドッ!」

レジェリーとヴァゴウがクライドに声をかける。


「あんた、こんな奴に負けんじゃないわよ!」

「信じてるからなッ!必ず追いかけて来るってよ!」


クライドは頷き、再び魔物とのぶつかり合いを行う。


レジェリーとヴァゴウもまた、上を向き、ビライトたちの後を追った。


(馬鹿クライド…!死ぬんじゃないわよ!!)


--------------------------------------




それからも迫りくる魔物たちを倒しながらビライトたちは更に上を目指す。

ようやく位置は400m程度。

あともう少しでカタストロフの領域に手が届く。


しかし、ここもまた、先程のクライドと同じくフロアがあるエリアだ。


「…また来るぞ!!」

「グルアアーーーッ!!」

今度はドラゴンだった。

全長5mを超える大きなドラゴンが狭い空間の中立ち塞がる。


「くっ…!どけええええっ!!」

ビライトはメギラ・エンハンスを発動し、ドラゴンに向かって突撃する。

「だああーーーっ!!」

その力でドラゴンを吹き飛ばし、更に追い打ちをかける。

「あたしたちも!」

レジェリーとヴァゴウも加勢し、一気に数で押しきる作戦に出た。


だが…


「…!」

デーガは上を向く。

一心同体だったデーガには分かるのだ。もうカタストロフは間もなく目覚め、覚醒してしまうということが。

それはすなわち、カタストロフの中にある善の心の消失を意味しているようなものだ。

カタストロフの善の心は完全に心の奥に封じられてしまい、時間と共に消えてしまう。


「…近いのか?」

「あぁ。」

アトメントがデーガに尋ね、デーガは頷いた。もう一刻の猶予もないようだ。


「しゃぁねぇ、酒のツケはここで返すぜ。」

「ヘッ、お前ならあんな魔物目じゃないだろ。」


「そりゃどーも。」

アトメントは身体を揺らし、一気にドラゴンに詰め寄った。




「てめーの相手は俺がしてやる。」

アトメントはドラゴンの腹に目掛けて回し蹴りを入れる。


「グギャッ!!」

ドラゴンは塔のガラスを破り外へと飛び出すが、すぐに襲い掛かろうと体勢を立て直してくる。


「アトメント…!」

「もう時間がねぇ。さっさと行きな。」

「でも!」

「俺を誰だと思ってんだよ。コイツをさっさと潰してクライド回収して向かってやるからさっさと行けッ!」


アトメントは力を解放し、再び背中から炎の翼を纏う。


「暴れ散らかしてやらぁ。てめぇらまとめて一網打尽だ。」

周囲に居る魔物たちを挑発するアトメント。


「…ゴメン!行こう!レジェリー!オッサン!」

「うん…!」

「アトメント!頼むぜッ!」

「おう。任せときな。」


アトメントは辺りを見渡し、ビライトたちが階段を登っていくのを確認して一呼吸置いた。



「やれやれ、最初は見てるだけだったんだけどなァ。」

アトメントは迫りくる魔物たちの攻撃を躱しながら呟く。


「抑止力は干渉してはならない…そんなルールではあるが……もうこいつは非干渉じゃいられねぇだろ?“奴”が関わってるなら尚更だ。」

アトメントはドラゴンに拳を突き出す。


「わりぃがこっからは全力で暴れさせてもらうぜ。説教なら後で聞いてやらァ!!!」


カタストロフの力を受けて強くなった魔物だ。

カタストロフよりも格が下がるアトメントでは恐らく実力は互角だろう。

だが、アトメントはただではやられない。彼は―――カタストロフよりも格が下だと言われていても。


「ワリィが力だけで押し切れるほど甘くはないぜ。」


アトメント・ディスタバンスは、戦を司る神だ。



その戦闘センスは―――序列3位、世界最強の守護神を超えるとされているのだから。



--------------------------------------




階段を登り続けるビライト、レジェリー、ヴァゴウ、デーガ。

もう間もなくカタストロフのいる500m付近だ。


登れば上るほど、上から感じる強い力に押されそうになりそうだった。


「身体が…重い…」

「強い力をすぐ上に感じる…もうすぐね…」

デーガは平気そうだが、ビライトたち3人はその重みに潰されそうだった。


そして、500m付近、登った先に見えるのは1つの大きな扉だ。

その扉は銀の鉄の色をしているはずなのだが、その扉だけは黒色に染まっていた。


「…ここだ。この先にカタストロフが居る。」


「…」

息を呑むビライトたち。とてつもない闇の力を一身に浴びる…


「…行こう。」

ビライトの声に頷き、デーガが扉に手を当てる。

「…良いか?この扉には触れずに入れ。俺は耐性があるから良いがお前らが振れると毒だ。」

「分かった。」


デーガは扉を開ける。

すると、奥からモワッと黒い霧のようなものが吹きだす。

「うっ…な、なんだァ…?こいつは…!」

気分が一気に悪くなりそうな黒い霧を浴び、ヴァゴウはつい言葉を吐く。


「…魔物の気配は無い。行くぞ。」


デーガを先頭に扉をくぐるビライトたち。

中は今までと雰囲気はまるで違った。

黒く禍々しい茨のようなもので部屋は覆われており、一つ一つの茨は脈を打って動いており、ドクドクと音を鳴らしている。


「な、何なのよこれ…グロいってレベルじゃないわよ…!」

「なんて禍々しいんだ…!」


その明らかな異質な空間に驚くビライトたちだが、デーガはそんなことは気に留めずに前に進んでいく。


そして…


「ここだ。」

通路を抜けた先にある大部屋。その中には赤紫色の球体が見えた。

それは血のような赤い液体で包まれており、先程の禍々しい黒い茨によって宙吊りにされている。


そしてその中には―――


「!カタス、トロフ…!」

「あぁ…!」

球体の中にはカタストロフが眠っていた。


「助けなきゃ!」

レジェリーはそう言うが、デーガが静止する。

「馬鹿かてめぇは。アイツは絶対悪だぞ。封印を迂闊に解いたら真っ先に狙われるのは俺たちだ。」

「じゃぁどうしたら…!」


「!動いてるぞ!」

ヴァゴウがカタストロフを指さす。

すると球体は大きく揺れ始めた。


「チッ、俺たちに反応したか!」

デーガはビライトたちを後ろに下げ、自身が前に出て身構える。



「…おやぁ???随分来るの早かったんだねぇ。」

「…!誰だテメェ…!」

「!この声…!」


カタストロフから聞こえるのはカタストロフではない声。

ビライトには聞き覚えがあった。


「でも、遅かったみたいだね。彼はもうボクが絶対悪に染め上げてあげたよ。」

「んだと…!」


「フフフ。」

その声は微笑んだ。するとカタストロフの身体が大きく鼓動し始める。


「あんた…何者なの!カタストロフに何をしたっていうのよ!」

レジェリーが言う。


「…」

「ビライト?」

ビライトはカタストロフを睨む。ヴァゴウはそれに気が付き心配するが…


「彼にとってもう君たちはただの殺戮対象さ。せいぜい頑張って殺すことだね。あはは。」


「…お前は…お前はカタストロフの善意を知っているんじゃないのか!それを…それをお前はどうしたんだ、答えろ!!イビルライズ…いいや、クロ!!!」

「イビルライズ……!そうかてめぇが…妙な力を感じていた。まさかとは思ったけどな…!」


ビライトはイビルライズ…いいや、クロに叫ぶ。


イビルライズは姿を現した。

その姿は人間の子供のような姿をしている。だが、黒い靄がかかっているためはっきりとはよく分からない。


イビルライズは高笑いをして見せた。


「あはは!カタストロフは絶対悪だ!本来の彼に戻してあげただけだよ!理性も心も無い!ただの世界を支配し、滅ぼすだけの殺戮兵器にね!!そんな奴に…善の心なんていらないだろ~?コイツは悪の心こそが本質なのさ。」


「ふざ…「ふざけないでッ!!!」

ビライトが言う前にレジェリーが叫んだ。


「あんた何なのよ!カタストロフは…あの人は誰よりも優しくて誰よりも気配り上手で…ちょっと天然なところもあるけど!それでも…あの人の善意は決して失ってはいけないものだった!世界の為に一生懸命動いて一生かかっても償いきれない自分の罪を償おうとして頑張っていた…優しい人だった!!せっかく芽生えた心を、あんたは…あんたはそれを奪ったっていうの!?」


レジェリーは涙を目に溜めてクロに訴えた。


「くだらないなぁ。コイツは絶対悪なんだ。罪なんて意識はない。コイツはただの道具であり、癌なんだよ。善意なんてくだらない!そんなものはコイツにはいらない!死ぬまでボクの駒として使ってやるのさ。」


「…おう、ビライト。」

「…オッサン。」

ビライトが睨みつける中、ヴァゴウもまた身体を震わせていた。

「いい加減ワシも堪忍袋の緒が切れそうだぜ。お前のかつてのダチだ。けどワシは許せねぇ。」

「…あぁ。大丈夫だ。俺も…許せない。」


「許せなかったらどうする?ボクを倒す?君の妹が待ってるもんねぇ。すぐにボクに切りかかりたいよね~あははは!」

「…まずはカタストロフを助け出す。その後だ!その後にキッカを返してもらうッ!」

ビライトは本当ならすぐにでもクロと戦い、キッカを取り戻したい。

だが、ビライトはそれを理性で抑え込んだ。


「キッカだったら…自分よりもカタストロフを助けてって言うと思う。だから…まずはお前を退けてカタストロフを助け出す!」

ビライトは大剣を構えメギラ・エンハンスを発動させる。


「フフ、残念!ボクはこれからやることがあるからね。カタストロフの暴走に巻き込まれる前に退散するよ。」

フッと姿を消してしまうイビルライズ。


「逃げるのかよッ!」

「テメェ、逃がすと思ってんのか!」

ヴァゴウとデーガは声を上げる。だが、クロはどこにいるのかが分からない。狙いを定めて攻撃するのは不可能だった。


「フフ、もうコイツは仕上がっているからね。善意とかいうくだらないものが邪魔していて覚醒までもうちょっとかかりそうだったからボクが早めておいてあげたよ!優しいね~ボクってば。まぁ精々なんとかしてみるんだね!あっははははは!!!」


高笑いをしてクロの声はしなくなってしまった。

「…クソッ、気配が消えやがった。」

クロはもうこの場には居なくなっていた。


「…くそっ…キッカが…キッカが遠のいてしまう……」

「…よく抑えた、ビライト。だがこうなったらもうどうにもならねぇ…カタストロフを止めるぞ。」

「…あぁ!」

ビライトたちは改めてカタストロフの救出に当たろうとする。


だが…



「!」


カタストロフの身体が再び動き出す。


「…来る!」

その不気味な赤い目をカッと開き…

「グルオオオオーーーーーーーーーーッ!!!!!」


高く、おぞましい咆哮を周囲に響かせ、その球体を破りその禍々しい身体を見せつけた。



「……カタストロフ…!」


「ハァ…ハァ…グルル……」

もはや理性は何処にもないその姿にビライトたちは震える。

大きな鋭い歯を剥き出しにして涎が口元を流れ、地面にボタボタと落ちる。

小さく口を開け、黒い息を吐く。



そしてカタストロフはその恐ろしい形相でビライトたちを睨みつけた。


襲ってくると思ったが…カタストロフはレジェリーを見て…荒い息を吐きながら…


「…ウ、ア…レジェ…リ…」

「!カタストロフ!!」

カタストロフは絞るように声を出した。レジェリーは走り、カタストロフの元へと向かう。


「馬鹿!あぶねぇぞ!!」

デーガはそれを追う。


「カタストロフ!カタストロフ!!」

レジェリーは涙を流し、カタストロフに呼びかけるが…


「ク、クルナッ…」

「!」

カタストロフに制止され、立ち止まるレジェリー。そしてデーガもそれに追いつく。


「ニゲ、ロ…レジェ、リー……」

「嫌だ!あなたを助けるって…あたし決めたもん!絶対に見捨てない!」


「ハヤク…!ワレガ…ワレデ…ナクナル……マ、エ…ニ……!」

「嫌だって言ってるでしょ!」

「レジェリー…」

必死に涙を流しながら訴えるレジェリーにデーガは何も言えなかった。


「イビルライズに何されたかは分からない…それが今あなたを苦しめてるっていうなら…あたしが…あたしたちがなんとかしてあげる!だから…」

「モウ、モタヌ…ノ、ダ……デ…ガ……タノ、ム…」

「…カタストロフ…」


デーガはレジェリーの腕をつかみ、レジェリーを後ろへひかせた。

「師匠!!なんでよ!」


「…もう、手遅れだ。ここまで来ちまったらブレイブハーツでも救えねぇ。ブレイブハーツを以って…殺すしかねぇんだ。」

「嘘よ!まだなんとかなる!なんとかするのよ!」


「カタストロフ、良いんだな。」

「ア、ア…ワレヲ……“コロシテクレ”。」


「…嫌だっ!!!」

「そうだ、まだ何かあるはずだ!手段が!」

「喚くんじゃねぇ!!」

デーガは大きな声でレジェリーと後から追いかけてきたビライトを制止させる。



「もうコイツの善意はほとんど残っていない。本当ならまだ余裕はあったはずだった。だがイビルライズが干渉したせいでコイツの善意はまもなく消えちまう。そうなったら…もうコイツは俺たちの知るカタストロフじゃねぇ…世界の敵だ。」

デーガの身体も震えていた。

「カタストロフの善の心が残っていたからこそ、ブレイブハーツで救えるチャンスがあったんだ…だが、もうコイツの心は…もうそれを受けても助かるだけの力が残ってねぇんだよ…!イビルライズが全てを狂わせたんだ…!」

「そんな…そんなのってないよ…!」


「レジ、ェリー…ワレ、ハ…」

「…ッ…」


「レジェ、リー…アキラメナイデ…クレテ…ウレシ…カッタ……」

「嫌だ…!」


「タノシ、カッタ、ゾ。」

「嫌だよ…カタストロフ…!」


「アリガ…トウ。」

「――――!!」


目に浮かぶ赤い涙を一滴に、カタストロフの全身から強い闇の力が渦を巻いて放たれた。


「嫌だああああーーーーっ!!」

レジェリーの悲痛な叫びはもう届かない。


「ウオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッ!!!!!!」


「ウワッ…!!」

「チッ!!」


トーキョー・ライブラリ全体に響き渡るほどの大きな音と大きな咆哮だ。


「皆ワシの身体に!!」

デーガは単独で、そしてヴァゴウはビライトとレジェリーを掴んで潜血覚醒した。


「グルアッ!!」


スカイ・ライブラタワーを飛び出し、空を飛ぶデーガと潜血覚醒したヴァゴウ。



「グルゥゥゥ…ウ"ルオオオーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!」


スカイ・ライブラタワーの展望台だった場所が爆発を起こし、その瓦礫が地面に落ちていく。

そして、その中から黒いオーラと紫の雷を纏ったカタストロフが姿を現した。

ヴァゴウよりも大きくなったその巨体で4枚の翼をはためかせ更に高く咆哮する。


そして、戦いは始まる。



「!」


カタストロフがデーガたちの方を向き、大きく口を開ける。

「ヤベェ…でかいのが来るぞ!」

口から魔法陣が出現し、それは巨大化する。そこから巨大な紫色の光線が放たれた。

「でけぇ…!」

デーガとヴァゴウはそれをなんとか回避するが、その光線はトーキョー・ライブラリの遥か先まで飛んでいき…



ドオオオオオ!!と大きな音を鳴らし、大爆発を引き起こした。

「うわっ…爆風が…!」

遥か彼方で巻き起こった大爆発の爆風がこのトーキョー・ライブラリを襲った。

あらゆるビルがその爆風で倒壊し、ガラガラと大きな音を立てて崩れていく。


「…!ルフの街が…!」

ビライトは壊れるビルを見て拳を握る。


「…こうなっちまったら…もうやるしかない。」

デーガは目を閉じる。

デーガの頭に過るカタストロフとの思い出。


カタストロフと語り合い、共に生きてきた1000万年以上の長い時間。

誰も、友も置いてやってきたこの孤独な世界でずっと一緒に居てくれた相棒。

そんなカタストロフが…苦しんでいる。もう、これ以上彼に罪を重ねて欲しくはない。


「ハハッ、俺はいつからこんな青くなっちまったのか。昔の俺みたいだ。こんな状況でも、レジェリーに諦めろって言ってはみたが…俺はどうやらまだ諦めたくないらしい。」

「師匠…!」

デーガの心は決意でみなぎった。

目を開き、一呼吸するデーガ。


覚悟は決まった。

だが、それは殺す覚悟だけではない。


自分よりも圧倒的に格上の絶対悪に立ち向かうという覚悟もそこには含まれている。





「お前ら、戦う決意が湧かねぇなら引っ込んでろ。元々コイツは俺一人でなんとかするつもりだったんだ。」

「…」


レジェリーとビライトはただデーガを見ることしか出来なかった。

潜血覚醒したヴァゴウもまたビライトたちの様子をうかがっている。



デーガは魔蔵庫を展開。

そこから取り出したのはギターだった。


「ギター…?」

「あれ…師匠が弾いてた…部屋にあった…」




「砂漠の時辺りからずっと感じてたんだよ。胸の中に響く心の音がよ…どうやら俺はまだ、生物として当たり前の心を持っていたらしい。」

デーガはギターを構え、弦を鳴らした。


「…よし、音色は変わらねぇな。力、貸してくれるか?」

「!デーガ!危ない!」


次の攻撃が来る。カタストロフの口に集結する光線は一気に集中し、大きく、大きくなっていく。

すぐに発射されずどんどん力がチャージされていく。大きいのが来ることは明白だ。



“その日、世界は災厄に見舞われた”



その言葉が放たれた時、デーガの周囲には赤い膜のようなものが出現。

それはデーガを覆い、そこには魔法陣に描かれている文字のようなものが刻まれ始める。


デーガによるギターの演奏だ。




“天は暗黒に染まり、地は赤く焦げ、焦土となった”




「!」

光線が来る。


“焦土の彼方よりいでし名も無き者、魔を倒すべく立ちあがり、剣を取る”


光線はデーガに直撃した。


「!師匠!」

「いや、待て!光線が…当たっていない!あの膜が守ってるんだ!」




ギターを弾き続けるデーガ。やがて彼の目は力を解放した時と同じように紫に染まりだし、そして全身からふつふつと赤い光が溢れてきている。


「こ、この力は…」

「グルアッ!」

「まさか…」


“勇気ある者は剣を振り上げる、戦え、戦え。そして平和を掴み取れ。これは世界の願いである”




カタストロフは光線を撃ち続けている。

やがて膜にはヒビが入っていく。このままだと膜は破られてしまう。デーガの演奏は終わりにさしかかる。





“この日、世界に満ちたのは勇気の力、世界よ、友よ、愛よ――――今こそ全てが輝く時也。”






“我が名をこの世に刻め、そのは…“勇者・ブレイブ・ハーツ”!”


「膜が…破れる!」

「師匠ーッ!」


「ウラアアアーーーーーーッ!!!!」

デーガの叫び。そしてその手は光線に触れていた。

右手で光線を受け、左手にギターを持つ。


「響け、勇気の歌ッ!!響けッ、轟けッ、力を貸せッ!!!」


デーガの右手が上に上がる。それと同時に光線も上へと角度を変えた。



「あ、あれは…!」

デーガの全身から見覚えのある赤い光が飛び散り、全身にみなぎっている。


「まさか…ブレイブハーツ…!」




「そうよッ!!こいつが本家、ブレイブハーツだッ!!!」

「!!」


デーガに宿った力はブレイブハーツだった。

本来、ブレイブハーツを所有しているのがデーガだけだった。

かつて勇者の子孫であったリュグナという少女から受け取った力。

現在ではデーガのみがその素質を持っていた。


ブレイブハーツは強い心さえあれば誰でも使えるものだが、素質と、生物として当たり前の心を持ったうえでの、強い心の力が必要だった。


デーガには素質はあっても生物としての心を失いかけていた為、ブレイブハーツは使えなかった。


1000万年の長い時間を生き、心をすり減らして生きてきたデーガにはもう二度と使えないものであったはずだ。だが…


「俺はまだ死んじゃいねぇ。この短い旅で俺はそれを知った。こんなにも心が高ぶり揺さぶられている。癪だが全部お前らのお陰だ!」

デーガはビライトたちに微笑んだ。


「レジェリー!ビライト!ヴァゴウ!!そして、下で戦ってるクライドもだ!俺たち全員のブレイブハーツをぶつけるぞッ!その先にきっと、カタストロフを救う道があるはずだッ!!」


「…レジェリー!」

「うん!師匠!」

「グルァッ!」


ビライト達3人の身体からもブレイブハーツの力が溢れだす。





それは下で戦うクライドにも伝わっていた。

「…感じるぞ、皆の心を。」





全員のブレイブハーツの力が満遍なくビライト全員に上乗せされて注がれる。


「これは…!」

「ブレイブハーツは使用者が集まれば集まるほどその力をより増してく。今の俺たちに打ち破れねぇモンはねぇぞ!!」


「グルアアアーーーーッ!!!」

ただごとでない気配を感じ咆哮するカタストロフ。




「ケッ、お前にも分かるか?カタストロフ。たっぷり浴びせてやるよ。俺たちのお前に対する気持ちをなッ!!」

デーガはギターをしまい、拳を構える。


「みんな!決戦だ!みんなで…カタストロフを救おう!俺たちの繋がりと絆で…闇に打ち勝つんだ!!」

「うん!」

「グルァッ!!」



(それが…俺たちの力なんだ…!そうだろ?ザイロンさん!)




――――下で戦うクライドとアトメント。

そして上空でカタストロフと対峙するビライト、レジェリー、ヴァゴウ。


そしてブレイブハーツを発動出来るようになったデーガ。


イビルライズによって狂わされたカタストロフの心を取り戻し、救うための戦いが始まる…



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