Delighting World Break ⅩⅩⅢ.Ⅴ
5章キャラクター紹介
リヤン・シヤン
・性別…男性
・年齢…???
・身長…114cm
・体重…約29kg
・種族…八神・抑止力(容姿:犬獣人)
・一人称…僕
世界創生から存在している7人の神の一人であり、八神の一柱の抑止力。
抑止力序列、第9位。
神の中では2番目の新参であり、世界統合戦争中に誕生した。
元は世界を改変させてしまうほどの力を持つ人工生命体、“アルカディア”として生を受けたが、世界統合戦争前に存在していた神、“邪神グァバン”によって大怪我を負い、記憶を失う。
記憶を失い、時を超えた先で出会った大事な人たちとリヤンという名で過ごし、記憶を取り戻し世界統合戦争へと導かれる。
その後、グァバンが死に、グァバンの世界の新たなる神としてエテルネルに抜擢され、新たにシヤンという名を貰い、リヤン・シヤンとして神となった。
記憶を失いリヤンとして過ごしていた時期に出会った獣人の少女のことを特別に想っていて、彼女を失った現在でもその彼女のことを愛している。
司るものは、“意思”・“心”であり、ビライトを試した際もビライトの想いや心の強さを見ていた。
純粋な子供のように振るまうが、時折大人のような言動を行うこともある。
親しい者にはくっついてスキンシップを取ろうとすることが多く、デーガやレクシアにもよく懐いている。
誰に対しても友達になりたいと考えており、全ての戦いが終わったらビライトたちとも友達になりたいと思っている。
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タイトース・レクシア
・性別…男性
・年齢…???
・身長…240.2cm
・体重…約188kg(甲羅含む)
・種族…八神・抑止力(容姿:亀獣人)
・一人称…儂
世界創生から存在している7人の神の一人であり、八神の一柱の抑止力。
ヴァゴウよりも少し大きいほど、大きな身体をしており神たる風格を感じさせる佇まいをしている。
抑止力序列、第6位。
見た目はどの神よりも年老いていて、喋り方も老人そのものであるが、創生から存在している神々と年齢は同じである。
司るものは“魔法”。
この世界の魔法という存在を守る者であり、彼の消滅は魔法の消滅であるとされている。
基本的に表に出て行動することをしないが、今回は世界の危機であることもあり自らの足でビライトたちを試すことになった。
実はかなり前からビライトたちのことを見ていたようで、デーガからは“回りくどい”と言われる。
デーガの暮らしていた世界の神であるため、デーガを世界統合戦争に導いたのも彼であり、その後のケアも担当していた。
デーガ同様、魔法に特化した知識と技能を所有している為、魔法を使わせると右に出る者は居ない。
とても穏やかで温厚な性格をしているが実際に行ってることはかなり手数を踏んでいたり、細かい部分までこだわっていたりと、意外と繊細な一面もある。
邪神ではないため、エテルネルとは特に古くから仲が良く、エテルネルの心を支え続けてきた存在でもある。
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ルフ
・性別…男性
・年齢…???
・身長…???cm
・体重…???kg
・種族…熊獣人(?)
・一人称…俺
トーキョー・ライブラリで出会った糸目の熊獣人であり、トーキョー・ライブラリの核であるブレインで暮らしている。
ブレインは何気ない普通の一軒家であるが、1人で暮らすには広い場所であるため、過去に誰か一緒に暮らしていた者が居たと思われる。
自身とそっくりの身体をデーガに廃棄させたり、ひょうひょうとした態度でビライトたちを困惑させる。
果たして、何者なのだろうか…
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キャラクター紹介(ボルドー・バーンと忘却の少女編)
オンゲルグ・ナチュラル
・性別…男性
・年齢…???
・身長…99.9cm
・体重…約99.9kg
・種族…八神・抑止力
・一人称…僕
ボルドーとカナタの前に現れた八神の一柱。
抑止力序列 第7位。
“自然”を司っており、彼の存在はシンセライズ全ての自然と気候を安定させているが、基本的には自然のままに任せている為、異常気象や災害を防止しているわけではない(特異な自然現象も世界の在り方であると考えている為)
どの種族にも似ていない、とても特徴的な姿をしており、球体で獣人の耳のようなものが生えており、ふわふわと浮いている。
右手と左手が隔離されており、自由に遠隔操作が出来る模様。
とてものんびりとした喋り方をしており、とても穏やかでのんきな性格。
元々は現在の姿ではなく、人間の子供のような容姿をしていたが、本人が研究気質で、本人曰く一番動きやすくて合理的な姿に自身の姿を改造して現在の姿となった。
世界統合戦争の際はエテルネル陣営のブレインとして活躍したようだが、戦時中に致命傷を負い世界統合戦争の記憶を失い、本来の真面目で研究気質な性格も全て失ってしまい、現在のような穏やかでのんきな性格になってしまった。
基本的には傍観の立ち位置を取っているが、カタストロフの呼びかけに応じ、ボルドーとカナタの前に現れた。
忘却の惑星のことを気に入っているらしい。
―――序列一覧
9位…リヤン・シヤン
8位…???
7位…オンゲルグ・ナチュラル
6位…タイトース・レクシア
5位…アトメント・ディスタバンス
4位…デーガ・カタストロフ
3位…???
2位…???
1位…エテルネル・シンセライズ
序列例外…カナタ・ガデン
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ショートエピソード
~ドラゴニアとワービルトの同盟~
ドラゴニアの玄関とも呼べる英雄バーン像のある広場はざわついていた。
その入り口に立つは、大柄の貫禄ある獣人の姿。
その佇まいで周囲の人々を驚かせた。
「フム、相変わらず平和な国よな。」
「王よ、皆見ておられますが…」
「良いではないか。悪い気分ではない。さて…王城へと向かうぞ。」
「仰せのままに。」
ワービルト王、ヴォロッド・ガロルはドラゴニアの治安が悪くなっており、グリーディ襲撃で被害を受け、やりどころのない悲しみや憎しみをドラゴニア国にぶつけているワービルトの民がいると報告を受け自らがそれを正すためにドラゴニアへやってきた。
更には、自分の国出身の者がドラゴニアの復興を遅らせている原因になっているとなれば、王としての面目がない。
ドラゴニアの復興が遅れるとそれだけ流通が止まったり遅れたりと、影響が及ぶのだ。
ヒューシュタットもホウが王に戻ってからというもの、多くの人々がドラゴニアの復興に協力をし、ガジュールに操られていた何も事情を知らないヒューシュタットの人間たちもホウの采配により、多くの救援物資を送り、人材も派遣し、ヒューシュタット特有の技術でドラゴニアに力を貸しているのだ。
ドラゴニア国民は絶対に王族を恨んだりしない。困った時は皆で力を合わせて愛する国を守ろうと尽力している。
つまり…今治安の悪さを物語っているのは大半がワービルトの民であることが明らかであった。
だからこそワービルトの王であるヴォロッドが自ら動いたのだ。
ドラゴニアまでの道のりはドラゴン便で訪れ、兵士を4人連れてヴォロッドは城へと向かった。
―――
「ヴォロッド、まさかそなたが来るとは思わなかったぞ…」
「久しいなベルガ殿。そしてメルシィ殿。」
「お久しぶりでございますわ、ヴォロッド様。」
玉座に座るベルガ、そしてその隣にはメルシィが立っている。クルトは不在のようだ。
「ドラゴニアの復興が上手くいっておらぬと聞いてな。それも、原因の1つが我が国の民が関わっていると聞いてな。」
「我々はただ、謝ることしか出来ぬ問題だ。失った物や建物は復興すれば戻ってくる。だが…命は返っては来ない。我々の防衛力が足りなかったばかりにだ…」
「魔竜グリーディ。あのボルドーですら歯が立たなかったと聞く。我がワービルトに万が一グリーディが襲撃していたとしても、同じ結果であったであろう。そなたたちの責任ではあるまい。」
ヴォロッドもグリーディの脅威はよく分かっていた。だからこそ、今のこのドラゴニアの状況は、自分の国でも起こる可能性があったとヴォロッドは言う。
「と、いうことでだ。私は数日ここに滞在するが故、我が国の者が押しかけて来た時は私が対応しよう。」
「…ありがたい話ではあるが……自国のことは構わぬのか?」
ベルガはヴォロッドに尋ねる。
「フハハ、構わぬとも。あちらには我が国最強の盾、アルーラがいる。奴が居れば何も恐れることはあるまいて。」
「そなたが良ければ構わぬのだが…手荒な真似はするでないぞ。」
「善処しよう。」
ドラゴニアに数日ヴォロッドが在中することとなった。
このヴォロッドの在中がドラゴニアの治安にどう影響してくるのか…
「あぁ、そうだ。そなたにも伝えておこう。ボルドーのことだ。」
「ム?あぁ、手紙に記されておったな。」
「ウム、会ってやってくれ。」
ベルガは改めて、ボルドーの身体がレミヘゾルから送られてきたことを伝えた。
そして、ビライトたちの状況が記されたレジェリーからの手紙も共に送られてきたことなど、より詳しいことをヴォロッドに話した。
「ほう…なかなか面白そうなことをしておるようだな。全く、ズルい奴らめ!」
「全く…そなたは相変わらずだな…」
面白そうだと興味津々なヴォロッド。ベルガは小さくため息をつくが、メルシィも小さく微笑んだ。
「まぁ良い…部屋を用意させよう。」
「ウム、しばらく世話になるぞ。部下たちの部屋も頼むぞ。」
ヴォロッドと一緒に同伴していた獣人の兵士たちの部屋もそれぞれ1室ずつ提供することとなり、ヴォロッドたちはドラゴニアに滞在することになった。
―――
兵士たちには入り口で待つように命じ、ボルドーの部屋へと足を運ぶヴォロッドとメルシィ。
「まーまー」
「ブランク、パパと良い子にしてましたか?」
「あう~」
メルシィはボルドーの傍で遊んでいたブランクを抱いて頭を撫でる。
「元気そうだな。」
「えぇ、お陰様で。」
ヴォロッドは眠っているボルドーを見る。
「なるほど…生気を感じぬ。レジェリーの手紙に書かれていることは本当なのだろうな。」
ヴォロッドはボルドーの身体に触れ、呟いた。
「…」
メルシィはボルドーを見て悲しみの顔を浮かべる。
「案ずるな。こいつはこの程度のことで死ぬ男ではない。」
「…えぇ…それでも私、不安なんです。私は…この人の笑顔に…優しさに救われました。私、酷い人なんです。」
メルシィは座り、ボルドーの身体を触る。
「主人は優しい人です。きっと…誰かの助けになろうとしているからまだ帰らないんだと思います。それはとても彼らしいことです。でも―――」
「…嫉妬か?」
「…否定はしませんわ。私は酷い女です。私を待たせるなんて…なんて思っちゃうんです。」
メルシィは自分の気持ちの狭さに落ち込んでいた。
誰かの為だなんて、そんなことよりも私の元に早く帰ってきて欲しい。私を抱きしめて欲しい。そんな気持ちが、どんなものよりも勝っていくのだ。
「それは妻としてあっても良い気持ちだ。自身を責めることはない。」
「だとしても…こんなことを思っちゃうなんて…私はこれから彼の隣に立ち、この国を導いていかねばならないというのに…いけませんよね。こんなことでは。」
メルシィは小さく微笑んだ。
「そう気負うことでもあるまい。」
ヴォロッドは窓の外を見る。
「この国は全ての国民が力を合わせて創り上げてきたものだ。そなたも、ボルドーもそうやってこの国を導いていけば良い。まぁ、私にとってはそのような国は退屈でしかないがな!」
「…ウフフ、励ましてくださるのですね。」
「落ち込んでいても仕方のないことよ!前向きに進まねば何も成すことは出来ぬ!」
「あう~!」
ヴォロッドは高らかに言い、それに応えるようにブランクも手を挙げてキャッキャと笑っている。
「お主もそう思うかブランクよ。そなたは良い王になりそうだなァ。」
ヴォロッドの巨体にも驚かずに懐いてくるブランクにヴォロッドは未来のドラゴニアの安寧を見たような気がした。
「と、言うわけだ。露払いぐらいは私も協力しよう。今後ともドラゴニアとの貿易をより一層ヒューシュタットも交えて強化していきたいからな。」
「ありがとうございます、ヴォロッド様。」
「ウム、では私は早速部下を連れて町に繰り出してこよう。この街の状況を知りたい。」
「今、ドラゴニアは治安があまりよくありません。お気をつけて…と、言っても、ヴォロッド様に手を出す者は居なさそうですわよね。」
「誰が来ようと私の敵では無いわ!ふはは!」
ヴォロッドはそう言い、部屋を出る。
そしてヴォロッドは城の入り口で待機していた獣人兵士たちを連れて外へと向かった。
「相変わらず豪快な男だ。」
「えぇ、でも…とても頼もしいですわね。」
「そうだな…我々には何も出来ぬが…ヴォロッド殿ならば何か変わるかもしれぬな…」
「私たちも、出来ることをしましょう。」
「そうだな…」
メルシィはブランクを抱きながらベルガと共に外へと向かうヴォロッドを見る。
そのとても大きな背中には心強さを感じた。
ボルドー目覚めぬドラゴニア。
ヴォロッドの数日間の在中はこのドラゴニアをどう動かすのか。
ドラゴニアの街はこれからどう変わっていくのだろうか。まだまだ元のドラゴニアに戻るのは時間がかかりそうだ…
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ショートスキット
~紫雲を眺めて~
「ごちそうさま~」
ルフの作った鍋を平らげ、腹を膨らませた一行。
「ありがとうヴァゴウ、手伝ってくれて。」
「良いってことよ!」
ルフの料理に途中からヴァゴウも参加し、2人で作った大人数の特大鍋はあっという間に無くなったのだった。
「それにしても珍しいね~デーガがご飯食べるなんて。」
「別にいいだろ。」
「満足そうにしている。」
「だっ!うるせぇっての!」
デーガは気づかないだけでかなり美味しそうに食べていたようだ。
クライドは茶化すようにそう言い、デーガは恥ずかしそうにそっぽを向いてしまう。
「師匠照れてる~」
「うるせぇ!」
笑いが零れる食卓にルフは満足そうにして…
「少し外に気分転換なんてどう?」
「え?でも酸の雨が…」
ビライトは外を見るが…
「この都市は俺の手足みたいなもんだよ。特にこのブレインの周りは好きにいじれると言っても過言じゃないね!」
ルフはズボンのポケットに入れていたリモコンを取り出した。
赤・青・緑・黄色のボタンがあり、ルフは黄色のボタンを押す。
すると外からウィーンと音が聞こえ…
「あれは?」
ブレインのすぐそばにある河川敷。少し先に行ったところにあるビライトたちが渡ってきた橋から、ブレインのすぐ傍までに複数のアンテナのような機械が出現する。
「まぁ見てて。」
機械は青い光を放ちそれは河川敷の一部とブレインを覆った。
すると、さっきまで振っていた黒い雨が消えた。
いいや、青い光が酸の雨をはじいているのだ。
「結界か。」
アトメントが呟く。
「そ。この付近しか実行できないけど、ブレインを防衛するために作ったものだよ。これで2・3時間ぐらいは外に出られるよ。結界の中だけだけどね!」
ルフはリモコン1つでこの都市に配置されたものを使った。まさにルフの指示に都市が応えたようだった。
「うちの前の河川敷は結構落ち着く良い場所だよ。興味があったら行ってみてね~」
ルフはそう言いながら鍋や一行たちの皿を片付ける準備を始める。
「あ、俺も手伝うよ。」
「ワシもだ!」
「ありがと~ビライト、ヴァゴウ。」
人が多すぎても邪魔になるため、片付けはこの3人に任せることにし、他の者たちは各々で行動することになったのだった。
時刻は夕刻。
カタストロフの張っていた結界と似ているのか、結界の中はとても酸の雨に覆われているとは思えないほどに、元あるトーキョー・ライブラリの人気のない廃都市の姿を見せていた。
結界の外は紫の雲に覆われ、巨大な魔法陣が展開されているとは思いもしないほど、オレンジ色の空と美しい夕日が河川敷の大きな川をキラキラと照らしていた…
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ショートエピソード
~抱えし罪 夕刻:河川敷にて~
「…」
意外にも開放された河川敷に初めに降り立ったのはデーガだった。
まっすぐにカタストロフが居ると思われる方向を眺めている。
「あっ、師匠先に来てる。」
「あぁ、お前か。」
レジェリーは河川敷で座っているデーガを発見して駈け寄る。
「景色も全然違うね。さっきまでの酸の雨が嘘みたい!」
「これが本来のトーキョー・ライブラリの姿だ。」
美しい夕日が河川敷をキラキラとさせ、穏やかな音が流れる。
川には壊れかかった橋の大きな破片が突き刺さっていたり、水草が流れてきたと思われる木材のからみついていたり、色々な漂流物が色々なところに絡まっていてまさに廃都市の河川敷という呼び名が相応しい、悲壮感溢れる場所だった。
しかし、これが妙に落ち着く。
人の気配も無い。静かで自然音だけが聞こえる都市で、今ここにいるレジェリーとデーガは…
「なんだか不思議。あたしたちしか居ないみたい。」
「お前と2人きりなんてごめんだ。」
「あはは~あたしは師匠と2人きりでも良いけどね!」
「バーカ。」
デーガとレジェリーは小さく笑いあう。
「…殺す覚悟、決まったかよ。」
「…分かんない。」
デーガは改めて、カタストロフを倒す覚悟を問う。
レジェリーはまだ答えを出せなかった。
「でも、殺したくないっていう気持ちは忘れない。あたしは…カタストロフを助けたい。」
「…そーかよ。ま、お前はそれでいいさ。もしアイツを殺さなきゃならねぇなら…そいつは俺の役目だ。」
デーガの目は覚悟を決めているように見えた。
だが、夕日に照らされるその漆黒の竜人の身体はどこか寂しそうにも見えた。
「師匠…」
「俺とカタストロフの罪だ。だが、アイツは罪を1人で背負おうとした。アイツは俺を捨てた。」
「カタストロフは師匠に死んでほしくなっただけだよ…!」
「俺はそれをありがとうだなんて思わねぇ。ふざけんなって話だ。」
デーガとカタストロフは不本意とはいえ、一度世界を壊滅状態に追い込んでいる。
それを2人は永遠に罪として心に刻んでいるのだ。
その罪を死を持って償えるチャンスだった。だが、カタストロフは自分だけがそれを背負った。
これは約束だった。
1000万年以上生きていく中で、デーガとカタストロフは生きる時間も、死ぬ時も一緒だと約束を交わした。
だが、カタストロフはそれを善意で破った。デーガはそれが許せなかった。
「許せるもんかよ。絶対にぶん殴ってやる。その後でしこたま謝らせてやる。俺にも、お前にもだ。」
「…あたしも?」
「分かってんだよ。お前がアイツのことが好きであるように…アイツも…お前のことが好きなんだよ。」
「や、やだ師匠ったら!何をッ!」
「何赤くなってんだよ。」
分かってるくせにとデーガはレジェリーに言うが、レジェリーは照れているものだから、デーガは目を細めて「好きなんだろ?」と言う。
「そ、ソウダケド…」
レジェリーは顔を真っ赤にして下を向く。
「だったら尚更許せねぇよ。好きな女を泣かせる男はクソ野郎だ。」
デーガは目を閉じ、拳を震わせた。
「師匠?」
「…なんでもねぇよ…」
デーガにとって、その言葉は重みのあるものだったのだろう。それはまるで、自分にも言っているような…そんな気がした。
「照れてんじゃねぇよ。」
「うっ、ゆ、夕日のせいよ!」
「へいへい。そういうことにしといてやるよ…」
(…カタストロフ、必ず助けてやる。だから…もうちょい粘れよ。)
デーガはカタストロフの悪口を口では言いながらも、やはり内心ではカタストロフを助けたい気持ちは確実に胸にある。
そして、デーガの心は沸々と煮えていた。
1000万年という長い時間を生きてきて失ってしまった心をほんのわずか数日で取り戻そうとしているのだ。
砂漠を超える中で、そしてあの試練時からレジェリーやビライトたちと触れ合うことで…彼の心は確実に燃えようとしていたのだった。
「おーい!レジェリー!」
「あ、ビライトたち読んでる!じゃあ後でね!師匠!」
「あぁ。」
ビライト、クライド、ヴァゴウに呼ばれたレジェリーは立ち上がり、走り出す。
「…元気だねぇ…」
デーガはそう呟き、空をじっと…眺めては目を閉じ、風を感じるのだった。
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ショートエピソードⅡ
~ルフの家族って?~
レジェリーとデーガが河川敷で合流する少し前のこと。
ビライト、ヴァゴウは、ルフと共に食器や鍋の片づけを手伝っていた。
「ありがとね~手伝ってくれて。」
「いや、美味いモン食わしてもらったからな。」
「俺たちの方こそありがとうだよな。」
ビライトとヴァゴウは元々2人共料理が出来るので片付けも手際が良くあっという間に終わってしまった。
「いや~ありがとう、2人も河川敷に出てみたら?レジェリーとデーガもクライドも出たみたいだよ。」
リビングに居るのはアトメントだけだ。そしてそのアトメントはゴロンと床にだらしなく寝転んでいる。
「アトメントは行かないのか?」
「あーパスパス~見慣れた景色眺めてもつまんねぇじゃん?」
アトメントはそう言いゴロゴロと床を転がる。
「相変わらず丁寧に掃除してんな~」
「ま、俺の家じゃないしね。丁寧に使いたくもなるよ。」
「え?ここはルフの家じゃないって…じゃぁここは誰の?」
ここはルフの家ではないと聞いたビライトは尋ねる。
「住んでるのはここだけど俺の家じゃないっていう意味なんだけどね。ここは―――俺の大事な…そうだね、家族みたいな…うん、家族の…家かな。」
「…?」
ヴァゴウにはルフの笑顔には少し陰りが見えたように感じたが、いつも糸目で目が開いているかどうか分からないのだから表情は読み取りにくい。
「家族…か。」
ビライトはキッカのことを思う。
今頃きっと苦しい思いをしているだろう。そう考えると胸が締め付けられそうになるが…だが、もう少しだ。もうすぐそこまで来ている。
だからこそ今ビライトはここに居て、キッカを迎えに行くその時の為にやるべきことをやりたいと今ここに立っているのだ。
「俺の大事な人たちなんだ。今でも―――うん、ずっと俺は忘れないよ。へへっ。」
ルフはこれでもクルトのクローン技術で1000万年以上魂を生き長らえている、いわば古代人…いや、それにも属さないイレギュラーのようなものだ。
つまり、ルフの思う人たちは…その時一緒にルフと居たのだろう。
そして、この家にはその思い出がたくさん詰まっている。だからこそ、日々この家を綺麗にしている。
「俺はもう会えないけど、ビライトはこれから会いに行くもんね。」
「…そうだな。うん、取り戻しに行くんだ。妹を。」
「俺はこの都市を出ることはできないけど、応援してるからね。」
「ありがとうルフ。」
ルフにはこの都市を守るという気持ちがある。だからこの都市を出られない。
しかし、ルフの気持ちは確かにビライトに伝わった。
「思ってくれる人が増えたな。」
「あぁ。心強いよ。」
ビライトとヴァゴウは微笑んだ。
「いいねぇ、しっかり繋がってるじゃん?」
アトメントもそれを見て小さく微笑んだ。
「…うっし!食後の運動だ!なぁビライト、少し身体を動かさねぇか?」
「良いね。軽く特訓でもしようかな。」
「よーっし、なら河川敷に出ようぜ!レジェリーとクライドも誘ってよ!」
「あぁ!」
ビライトとヴァゴウは家を飛び出し河川敷に走り出す。
「…彼らがこれからのシンセライズの未来を創っていくんだね。」
「おう。頼もしいと思わねぇか?お前も元生物なんだから分かるだろ?」
「うん、俺たち心ある生物には無限の可能性がある。でも、彼らの心はひときわ輝いているね。」
「だろ~?」
ルフとアトメントは窓から河川敷で話をするビライトたちを見て微笑んだ。
「頑張れ、未来の希望たち、ってね。」
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ショートエピソードⅢ
~思い出の記憶~ 夜:河川敷にて
陽が沈んだ。
結界はあと30分ほどで消えてしまう。
ビライトたちはブレインで久々の入浴をし、身体を洗い流し綺麗サッパリした。
元々は大人1人入るのがやっとな狭い風呂場だったらしいが、ルフが改良して大浴場にしたようだ。
レジェリー以外は男性なので先にレジェリーが1人で入浴し、男性陣はその後一度に入浴した。
「は~気持ちよかった~」
「全くだぜ。ガハハ!」
ビライトたちはリビングでゆっくりとくつろいでいた。
明日からトーキョー・ライブラリを探索し、大砲の部品を回収する。
そして完成したらいよいよカタストロフの元へ向かうのだ。
今のこの時間は自由な時間。それぞれが気分を落ち着かせていた。
「みんな、更に強くなったよな。」
修行を終えたばかりの一行。
「あぁ。誰と手合わせしても手ごたえを感じる。」
クライドがそういうのならば間違いないとビライトたちは頷いた。
「ブレイブハーツを自由にはまだ扱えないけど…これでカタストロフを助けられるかなぁ…」
レジェリーはそう呟くが…
「あっ、ごめん、自信ないわけじゃないんだけど!」
「いや、レジェリーちゃんの言うとおりだぜ。相手は抑止力。デーガの時みたいな死の宴も無い。そりゃ不安にもなるぜ。」
ヴァゴウは謝るレジェリーにフォローを入れる。
「自信なくしては戦いに影響が出る。見栄張りでも良いから気持ちは強く持て。ブレイブハーツも発動出来なくなるぞ。」
「分かってるわよ。あたしは絶対カタストロフを助けるんだから。ボルドー様だって救えたんだから、きっとカタストロフも助けられる!」
「その意気だ!俺たちも頑張ろう!」
ビライトたちは改めて決心を固めるのであった。
「ところで、デーガとルフは?」
「アトメントも居ねぇな。」
辺りを見ると2人も、アトメントも居なかった。
「…外に気配を感じる。」
クライドが気配感知で3人の気配を感じ取った。
「3人そろって何の話してるんだろ。」
「さぁな。興味も無い。」
――――――
「…」
「いつまでボーッとしてんだよ。」
「…別にいいだろ。」
陽が沈んでもまだ河川敷でぼーっと空を眺めているデーガは寝転がり、夜空を見上げる。
「アイツらには厳しい事言ってるけどよ、一番カタストロフのこと思ってんのはお前だろ。」
「…どうだか。」
「図星だな。」
「うるせぇっての。」
アトメントはヘヘッと笑い、デーガの隣に座る。
「ま、お前とカタストロフはずっと一緒だったもんな。」
「…そうだな。」
「しっかしまぁ…真面目過ぎんだよカタストロフは。んでもって自己犠牲が過ぎる。」
「アイツはいつまでも過去に縛られている。それは俺も同じだってのにアイツはいつだって自分だけが悪者だと言い張る。あの時の未熟な俺が起こした悲劇だってのによ。勝手に1人で背負ってんだ。」
デーガは自分の過去の罪を背負わせようとしないカタストロフに苛立ちも覚えていた。
だが、それもカタストロフの罪の形なのだ。
だからこそデーガはその苛立ちは胸の中に閉まっていた。だからせめてその罪を一緒に背負うと約束していた。
「…俺も、お前も…ルフも、皆が罪背負いだ。罪を背負っていない抑止力や古代人なんていねぇ。皆がそれぞれ重いモン抱えてんだ。だろ?ルフ。」
「あれ、バレた~」
すぐ後ろにルフが立っていた。
「もうすぐ結界切れちゃうからブレインに戻った方が良いよって言いに来たんだけど~…聞いちゃった!」
ルフは「あと10分ぐらいだからね」と言い、デーガの隣に座る。
「デーガとカタストロフはレクシアの世界を滅ぼした罪、アトメントは邪神であったことへの罪、そして俺やクルトは生物の尊厳を無視したクローン技術による延命。他の抑止力や古代人なんてどいつもこいつもトンチキなものばっかりでしょ!」
ルフは今更だね~と笑う。
「そうかもな…俺たちはみんな異物だ。本来の生物としてあり得ない存在だ。だが…だからこそ出来ることがある。俺やカタストロフは死ぬまでこの世界で罪を償い続けるつもりだ。一緒にな…だがアイツは今、勝手に罪を1人で背負っただけじゃなくて俺を置いて先に死のうとしてるんだぜ。ンなこと許せるかっての。絶対ぶん殴ってやる。」
「あはは!その瞬間俺も見たいな!」
「笑い話で済まねぇっての。」
「あははごめんごめん!」
笑うルフに突っ込むデーガだが、まんざらでもない顔をしていた。
こうやって明るく接してくれることが今のデーガにとってはありがたいことなのかもしれない。
そうでないと、きっととっくに情緒不安定になっていたかもしれないからだ。
「ルフはどうだ?大分消耗してるように感じるが…まだこの世界に居座る気満々ちゃんか?」
アトメントは尋ねる。
「もちろん。」
ルフの返事は即答だった。
「俺は最後までこの都市と一緒だよ。――この家と、何度身体が朽ちても変わらないこの魂に刻まれた大好きなみんなとの思い出を最後まで大事にしたいんだ。なんとか死ぬ前にこのトーキョー・ライブラリが無人でも無くならないように全部オートメーション化出来れば良いんだけどね~…進めてはいるけど難しそうだよ~」
ルフはそう言いながら、河川敷で遊ぶ昔の自分を思い出していた。
その中にはかつてルフと一緒に暮らしていた3人の獣人と1人の竜人が居る。
「大好きなみんなと遊んだこの河川敷を残したい。大好きなみんなと過ごしたこのトーキョー・ライブラリを残したい。みんなと暮らしたあの家を残したい。俺の想いなんて世界の為なんかじゃないちっぽけな私情だよ。でも、エテルネルはそれを受け入れてくれたじゃない。クルトと一緒にさ。」
「懐の深い奴…というより単にお人よしバカなんだよ。誰かの熱意や決心に弱いんだよ。ホント…カタストロフみてぇな奴らばっかでウンザリだ。」
デーガはため息をつく。
「お前も元はそうだったろ。元気ハツラツ、スーパーお人よしな青臭いデーガちゃんは何処に行っちゃったんだろうなァ~」
「昔は昔、今は今だっつーの。」
アトメントにからかわれながらもデーガはそう言い返し、立ち上がる。
「結界が終わっちまうからさっさと戻ろうぜ。」
「だな。」
「明日は部品よろしくね~」
「へいへい。」
ルフは守りたい場所を守るためにここで生き続けている。
古代人や抑止力たちもまた、ビライトたちとはまた違う重みを抱えているが、ビライトたちと同じものを抱えていたりもする。
そこには古代人、抑止力、現代人…何の隔たりもない。
皆が皆、同じ生物として心を持って生きているのだから。
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ショートエピソードⅣ
~深き闇にて嗤う~
深い闇の中、朦朧とする意識の中、どれぐらいの時間が経ったのか。
イビルライズに囚われているキッカの前に現れたのはイビルライズ。
黒い靄のような姿だったイビルライズだが、今は何やら亡霊のような、魔物のような姿をしており、大きさは2m程度。
悪魔のような角や翼が生えているが、丸々とした形をしていてふわふわしている。
するどく大きい吊った目を不気味に開き…
「やぁ、元気?」
ノイズのかかったような声で語り掛ける。
「…元気に…見える…?」
「あはは、そうだよねぇ、だって君の中にあるシンセライズの力は少しずつ弱まっている!今君はシンセライズの力でボクの力の影響を受けないようにしている。でも…それも時間の問題だね。」
朦朧とする意識の中、キッカはイビルライズを見る。
イビルライズは前に見た時よりもより姿がはっきりしており、性格も少し陽気な性格になっているように感じた。
力を取り戻しているが故に起こることなのだろうか。
「ボクは覚醒してから少しずつシンセライズを侵食している。邪魔な抑止力共がボクの侵攻を抑え込んでいるけど…ボクがもっと力を高めれば…フフフ、シンセライズは終わりだよ。」
「…あなたは…どうしてこんなことを…」
「フフ、“復讐”だよ。」
「ふく…しゅう…?」
「君には関係ないことさ……おやぁ?」
イビルライズはシンセライズの様子を確認している。
「…フフ、良いものを見せてあげるよ、シンセライズの器。」
イビルライズはキッカに映像を見せつける。
「これは…何…?」
そこに映っていたのは魔王カタストロフ。
場所はトーキョー・ライブラリだった。
「ここはここから少し近い場所にある廃都市だよ。」
「…苦しそう…辛い、苦しい、助けて、助けてって言ってる気がする…」
キッカは映像に映るカタストロフの気持ちが伝わってくるほどに辛く、苦しそうな顔を見て胸を激しく締め付けられた。
カタストロフは自分の中にある善意の心を失うことなく、絶対悪の心と戦っている。
だからこそ、トーキョー・ライブラリという生物がなるべく居ない場所へ行き、戦っているのだ。
そして、レジェリーやデーガたちを信じている。
カタストロフは必死で、自分の心と戦っているのだ。だが1000万年分の瘴気の毒を吸い込み、正気で居られるはずがない。こちらもまた、時間の問題なのだ。
カタストロフからあふれ出る世界を滅ぼさんとする闇の力はトーキョー・ライブラリを中心に激しく溢れている。
イビルライズはそれを見て不敵に微笑んだ。
「良い闇だと思わないかい?これは利用しない手はないよね…?」
「な、なにを…そんなこと…だめ…だよ…!あの人が誰だか分からないけど…あの人は良い人だよ…!自分の光を持っていて…闇と戦ってる…抗ってるよ…」
「だからじゃないか。」
「えっ…」
イビルライズはもっと、もっと顔を歪ませて笑う。悪魔のような微笑みでキッカの顔に接近してケタケタと笑う。
「そんな光とか、希望とか…そんなものボクが打ち砕いてやるのさ…そうしたらアイツは晴れてホントの悪となる。ボクが手を下すことなくこの世界は大きな被害を受けるだろうね…そうするとどうなる?大きな被害を受けた人々はより負の感情をあらわにするだろう!そうすればボクの力はよく高まり!正の力は大きく落ち込み…シンセライズは終わるッ!!そうすれば誰もボクを止めることは出来ないッ!アイツも、抑止力も!シンセライズもボクが滅ぼして、この世界は終わる!!アッハハハ、最高のシナリオだと思わない?アッハハハハハ!!!」
イビルライズはくるくると身体を回転させ、大喜びで笑い飛ばした。
「…酷い…そんなこと…!」
「お前には何も出来はしないさ。お前の大事なお仲間もね。」
その映像の最後にはトーキョー・ライブラリでカタストロフを救おうとするビライトたちの姿が映し出された。
「!お兄ちゃん!レジェリー!ヴァゴウさんにクライドさんも…!」
キッカはビライトたちの姿を少しだけだが見ることができた。
そこにはデーガやルフの姿も映っていた。
キッカにはこの2人のことは分からないが、ビライトたちと協力しているところが見えたので味方だろうと判断出来た。
ボルドーの姿が見えなかったことにも気が付いて、あのあとボルドーが結局どうなったのか知らないキッカはそこだけが引っかかったが…ビライトたちは…来ている。自分を助けに、世界を救いに…ここを目指しているんだ。
それを知ることができたキッカの目には光が戻ったような気がした。
「あれ?変なところ映っちゃったね。」
「…」
キッカは下を向いてしまった。
「…ん?絶望した?ねぇねぇ。」
「…逆だよ。」
「…は?」
「お兄ちゃんが、みんなが近づいている。みんなが…頑張ってる…私にとってこれは…絶望なんかじゃない!希望だよっ!」
「…ふ~ん…まぁいいや。そう思っていられるの今のうち。ボクは彼の元へ行ってこようかな~」
イビルライズはトーキョー・ライブラリに向かおうとしている。
「…!駄目!彼を…あの人をこれ以上傷つけないで!」
キッカはカタストロフに干渉しようとしているイビルライズに訴えるが…
「うるさい。器ごときがボクに指図するな。」
イビルライズはそう吐き捨て、姿を消した。
「…お兄ちゃん…みんな…あの人…苦んでる……助けてあげて…お願い…!」
キッカは、届かない思いを願い、祈るのだった…
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ショートエピソードⅤ
~カタストロフの抗い~
――――苦しい。
胸を激しく抉られるような痛みを感じる。
それだけではない、多くの絶望の声が、多くの悲鳴の声が、多くの涙を流し訴える声が、命乞いをして泣く声が―――大人、老人、子供、赤ん坊―――魔物、動物
世界中の人々の悲しみが、怒りが、絶望が聞こえる。
「―――これが…絶対悪…だったな…」
絶対悪という存在が何故生まれたのか。
それは、神であるレクシアですら分からないことだった。
邪神ヴァジャスの影響を受けて世界が生み出してしまった世界の敵…ということが最有力であるとレクシアは語っていたが…この心には希望があった。
それが――今の我、善の心を持つ自分だ。
絶対悪であったころ、心の無かった我であったが…長い戦いを経て疲れ、ラドウの言葉によって我は絶対悪から解放され、善の心たる我が生まれた。
しかし、我の罪は消えることは無い。絶対悪であったとき、魔王カタストロフとして君臨し続け、世界を闇で覆い、どん底に叩き落とし、多くの者を殺してきた我には…生きる価値などない。この世にいてはならない存在だと思っていた。
だが、ラドウやデーガは我の自死を許してはくれなかった。
世界が認めずとも、彼らは認めてくれた。
だからこそ、我は生き続けることで、得た心を…世界の為に、世界で生きる子らに捧ぐと…決めたのだ。
例え気づかれなくてもいい―――少し、寂しいが…
怖がられるのも少し―――寂しいが…それでもいい。
自分の贖罪が償われることがないと分かっていても、何もせずにはいられなかったのだ。
小さなことでもいい。誰かの力に。誰かの助けに。
それでいい。それでいいと思った。それが我の生きる理由なのだから。
だが、瘴気の毒やイビルライズの存在が全てを変えてしまった。
瘴気の毒が発生するのは我の力が強すぎるせいだ。
器のデーガは何も悪くない。我が全て…悪いのだ。
だから我は決めた。この瘴気の毒を全て我が請け負い、我が死ぬことで…デーガはただの魔族の古代人として、瘴気の毒にも悩まされることなく生きることができ、そして我は死を持って最後の罪滅ぼしとして責任を果たす。
これで…すべてが終わる。
そう、思っていた。
だが―――
(何故抗う?)
「…」
今、我の中には2つの人格がある。
昔の我、絶対悪だったころの自分に心が芽生えた…悪のカタストロフ。
そして、今の我がその相対的存在であるならば、善のカタストロフ…と言ったところか。
(我は絶対悪。この世界を支配し、滅するために生きる者。その貴様が何故我が心を拒む?何故善の心を捨てぬ?)
「…約束、した。」
(…あぁ、あの小娘か。愚かな奴だ、実にくだらぬ。貴様、その抗いが“愛”だとでもいうのではあるまいな。)
「…違う…我には……誰かを愛する資格など…無い。そう、我は……数え切れぬ命を奪い、滅ぼしてきた…永遠に消えることのない罪を背負い続ける…愛など…そのようなものを抱いてはならぬ…」
(消えぬ罪ならば消さなければ良い。重ねてしまえば良い。どんなに貴様が善行を積んでも何も変わらぬのならば諦めてしまえ。全てを我に委ねよ。貴様の抱える罪ごと全てを無に帰してやろうぞ。)
悪のカタストロフは我の支配権を奪おうと心に話しかけてくる。
しかし、これに屈するわけにはいかなかった。
魔王城で瘴気の毒に呑まれた時には支配権を渡してしまったが、すぐに我は支配権を取り戻し、今はトーキョー・ライブラリで我は悪の心を抑え込んでいる。
ルフには申し訳ないことをしたが今我が出来るのは可能な限り生物が住んでいない場所へと移動することだけだった。
本来ならばストレンジ砂漠などの誰も無い場所を望んだが…身体がいうことをきかなかった。
我に出来る限界が…ここだったのだ。
何故、抗うか。
レジェリーと約束したからだ。
抗ってみせると、戦ってみせると。
そして―――また…お前の笑顔を…この目で見たい。
そして…勝手なことをした我を怒ったデーガにも…謝りたい。
だからこそ―――
「まだ…屈するわけにはいかないのだ。」
(フン、まぁ良かろう。貴様がそうやって抗っていられるのも時間の問題よ。瘴気の毒を一身に受けた我は今や絶対悪として最高の状態に在る。分かるだろう?貴様の心に巣くう我の闇が貴様の光を蝕んでいることが。)
「…」
言い返すことは出来なかった。悪のカタストロフの言う通りだったからだ。
確かに、我の――善の心たる我の心は徐々に蝕まれているからだ。
時間の問題だった。やがて我の心は完全に闇に覆われ―――我の人格そのものごと消えてしまうだろう。
そうなれば我は…デーガも、レジェリーも…他の者たちのことも忘れ―――全てを絶対悪の衝動のままに暴れまわるだろう。
だが、最後には我は死ぬ。
このシンセライズには誰にも負けることはない“最強の守護神”が居るからだ。
悪の我が善の我を支配し、完全な絶対悪となったとて、我は負ける。これは決まっていることなのだ。
つまり…悪の我が何を言ったところで我の手によってこの世界は滅びはしない。
世界の脅威と呼べるのはイビルライズだけなのだ。
(貴様の考えていることは分かるぞ?確かに我ではシンセライズ最強の守護神には勝てかもしれぬ。だが、この衝動、抑えることは出来ぬ!たとえこの身体引きちぎれようと我が野望は潰えぬ!我が魂は何度でも器を求め、再び蘇らん!)
カタストロフは過去に何度も魂を移し替えて生存してきた。
例え守護神に敗れたとしてもその魂は生き延びるだろう。
(それにお前は死にたがっていたのではないのか?)
「…そうだ。我は死ぬことを望んでいた。それが我に出来る唯一の許される道筋なのかもしれぬ。」
そう、死をもって全ての罪を償うこと。
それが我の最後の役目であった―――はずだった。
「だが…!こんな我に生きて欲しいと願う者が現れた、別れを拒む者が現れた、我を……好きだと言ってくれた者が…現れたのだ…!」
そうだ。
だからこそ…今だからこそ言えるのだ。
「我は…死にたくない。」
(…不快な…貴様をそこまで駆り立てる力というのは実に不快だ…だがそう言っていられるのも今のうちだ。やがてお前は我が力に呑まれるのだから。)
「我は最後まで抗い続ける……そして――――」
「そして、どうするんだい???」
「!!」
(貴様…!いつからそこに居た…?)
我にささやく無邪気な声が心臓に深く突き刺さる。
「初めまして。魔王カタストロフ。フフッ。」
「イビル―――」
(―――ライズ―――)
その無邪気過ぎる声に、我の心は酷く――――震えあがった―――――――
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次回のDelighting World Break!!!
デーガだ。
カタストロフをぶん殴る為…あぁ、いや…救うため。
トーキョー・ライブラリでの行動を開始した。
ルフの協力もあり俺たちはカタストロフの元へと辿り着くが…っておい、様子が変だぞ。
この気配は…テメェ…カタストロフに何をしやがったッ!!
次回、第六章
トーキョー・ライブラリ編
~届け、想いの力、鳴り響け勇気の歌~
この気持ち、とっくに失ったと思ってたが…全く、溢れて止まらねぇ。
かつて刻んだ、かつて俺が愛した―――クッハハ!!久々に奏でるとしようか!!
響け、勇気の歌ッ!




