Delighting World Ⅷ
「夜は静かなんだな。」
ドラゴニアに訪れたビライトたち。
現在は夜。ビライトたちはヴァゴウ一押しの宿で一泊する。
石で作られたとても古代風な宿ではあるが、ほんのり光るライトと、絡み合うツタの葉で覆われた建物はとても味があり、自然に満ちている。
そしてこのドラゴニアの都市の夜は非常に静かであった。
人通りはほとんど無いが、町の明かりは眩しく、人々は皆、家の中で過ごしているようだ。
この都市の明かりや暖炉等はすべて魔法で発生している。生活のあらゆるものは魔法で管理されており、このドラゴニアは魔法で全てが生きている。
「あちこちから魔法の力を感じるわ。あの明かりも全部魔法で付いているのね。」
「凄いな…俺たちの町では明かりに魔法は使われてないし、ヒューシュタットは機械っていう金属で明かりがついていたし…」
文化の違いに驚くビライト。ビライトたちの地域では火を使った灯りを使用していたため、全く異なる文化だ。
まるで違う世界に来たようだった。
「でもみんな楽しそう。」
キッカは窓の向こうの人たちを見ていた。
笑顔で食事をする家族、一人でリラックスしている人。
家の中で遊んでいる子供たち。
色々な幸せが窓の向こうにはあった。
「このドラゴニアは本当に穏やかで優しい場所でな、ワシもここには本当に世話になったんだ。」
ヴァゴウは笑顔で言う。
「あたし、あんまり見られなかったし、明日色々見てみようかなぁ~」
「城に行くことも忘れるなよー」
「分かってるって!」
ビライトたちは2部屋に分かれ、一夜を過ごした。
もちろん女性のレジェリーだけが個室だ。「レディにはたしなみってもんがあるのよ!」…だそうだ。
翌朝になると外は溢れんばかりの人が行き交っていた。
昨日にも見た光景だが、宿の窓から見るのとはまた違った感じがする。
他種族が言葉を交わし、物を売り、そして笑いあっている。
家では主婦が子供の世話をしていたり、魔法を使って家事をしていたり。
窓から見えるドラゴニアの都市は夜とは違う活気を見せていた。
「おはよ、ビライト、キッカちゃん。」
「お、レジェリーおはよう。」
廊下ですれ違った3人。
「ヴァゴウさんは?」
「まだ爆睡してる。おおいびきかいてな。」
「ヴァゴウさん良い顔して寝てたんだ。面白かった~」
「あはは、昨日はご機嫌だったもんねー」
「ゲキさんと飲んでたらしい。」
「あー…なるほど…オッサン酒癖悪いんだわ。」
「そうなの?」
「あぁ、すぐ裸になって高笑いする。」
「うわ、サイテー。」
「あはは!」
会話を交わす3人。
それからヴァゴウも気持ちよく起床し、ビライトたちは宿を出た。
明るい日差しが照り付ける。
すがすがしい朝だ。
「良い天気だな。」
「うーーーーん!気持ちいい~!」
「ドラゴニアは少し乾燥しているが気候的には温暖でな。誰でも過ごしやすい気候なんだ。ここから南に向かうと段々と熱帯になってくんだけどな。」
「流石。詳しいな。」
「ガハハ、もっと褒めろ!」
そんな話をしながらビライトたちはドラゴニア城に向かった。
「あぁ、お待ちしておりました。」
城の前までやってきたビライトたち。
入り口前には昨日と同じ竜人の兵士たちが居た。
「おはようございます。」
ビライトが挨拶をし、レジェリーはそれに合わせた。
「おー、久しぶり。」
ヴァゴウは違う言葉を発した。
「おぉ、ヴァゴウさんではありませんか。お仲間だったのですね。」
「お前たちも元気そうだなァ。」
一瞬硬直するビライトとキッカ、そしてレジェリー。
「えっ、オッサン知り合いなのか!?」
「おう、というかここの兵士たちは全員知り合いだが?」
ヴァゴウはしれっとこちらにアドバンテージがある発言をしてみせる。
「え…それ本当なのか…?」
「ヴァゴウさんの作る武器は我々ドラゴニアにも送られておりましてな。とても世話になっているのです。」
「ヴァゴウさんって顔が広いのね…」
「おう、まぁこれでも商売人だからなァ。顔が広くねぇとやってらんねぇさ!まぁワシの顔の広さはドラゴニア地方に限るけどよ!」
ヴァゴウの顔はドラゴニアではとても広いようで、特にこのドラゴニアでは、兵士たちにとっては有名人のようだ。
「あぁ、話がそれました。未踏の地に行きたいという話ですが…」
兵士たちは顔を合わせ頷く。
「申し訳ない。許可は頂けませんでした。」
「え…」
「ええーーっ!駄目なの!?」
声を上げたのはレジェリー。
「はい、未踏の地は危険な場所。名も知れない人を通すわけにはいかない…とのことでした。」
「ウーン…そこをなんとかならないかァ?ワシらはやらねばならんことがある。そのために行かなければならねぇんだ。未踏の地に。」
「王は旅の者たちの身の安全を思い、決断されました。残念ですが…」
王は寛大だ。だがやはり、名も知れない人を危険な場所にあっさりと行かせてしまうのは危険だと判断されたのだろう。
「…」
何も言えなくなったビライトたち。
「ドラゴニア王は?直接会って頼みたい。」
ヴァゴウは引き下がらずに頼み込む。
「申し訳ない。ヴァゴウさんの頼みでもそれは叶いません。」
「ウーム…」
「「……」」
-------------------------------------------------------------------------------
一旦その場から離れたビライトたち。
「…どうする?」
「うーん、なんとかして王に許可証を貰える方法はないか…」
ビライトたちはもちろん諦めることは出来ない。
「妙だなァ」
ヴァゴウは言う。
「え?何が妙なの?」
キッカが聞く。
「ドラゴニア王に謁見が出来ねぇってことだ。」
「王様に直接会うのって難しいんじゃないのか?」
ビライトは尋ねるが、ヴァゴウは首を横に振る。
「いンや。ドラゴニア王の謁見は難しくはないんだよな。他の国よりもこの国は国民や旅人たちのことを良く思っている。王も同じだ。予約すらも取れないのはおかしい。」
なにやらおかしいと思っているヴァゴウ。
「この国…何か起こっているかもしれねぇな…」
ヴァゴウはヒューシュタットに居た時と似たような表情をした。
「もしかしたら何か事情があるかもしれない。少し調べてみないか?」
ビライトは提案した。
「そうね、このまま諦めていいわけないじゃん!」
「うん、調べてみようよヴァゴウさん!」
「…そうだな、調べてみっか!」
いつもの表情に戻るヴァゴウ。何かよくない予感、出来事に敏感なのかもしれない。
ビライトたちは手分けしてドラゴニアの都市を回り、調べることにした。
ビライトとキッカは住宅街を調査した。
「ドラゴニアで変わったこと?」
「はい、小さなことでも良いので何かありませんか?」
「うーん…そうだな…最近妙な奴を見かける。」
「妙な奴?」
ビライトは住宅街に居た竜人の男性に話を聞いた。
それによると妙な奴を見かけるとのことだ。
「人間なんだけどさ。見たことも無い容姿をしていたんだ。ああいうの…なんていうんだっけか。人間の国でよく見る…」
「…機械?」
「おーそれだそれ。えーと、人間の国の…そうそう。ヒューシュタットって国で流行ってるっていう奴だ。」
怪しい人間。そして機械。
そしてヒューシュタット。
あまり良くない単語を聞いてしまったビライトとキッカ。ちなみにこの竜人にもキッカは見えていない。
「お兄ちゃん、これ、何かの参考になるかも。」
「そうかもな…」
「ん?なんて?」
「あぁいや、なんでもないです。ありがとうございました!」
ビライトは慌ててその場を去った。
「なんだかこの町はキッカが見えない人が多いな。」
「うん…確かに。」
ビライトたちが集めた情報。
それはヒューシュタットが関わる情報だった。怪しい感じがする。不安を感じながらビライトたちは集合場所のバーン像の前に集まった。
「どうだった?」
「あたしはなーんにもなし、ビライトたちは?」
バーン像の前に居たレジェリーと合流したビライトとキッカ。ヴァゴウはまだ戻ってきていない様子。
「関係があるかどうかは分からないけど、もしかしたら…ヒューシュタットが関係してるかもしれない。」
「えっ?ヒューシュタットが?」
ビライトとキッカはレジェリーに聞いた情報を伝えた。
「なるほどね…ヒューシュタットが何か変な動きをしてて…ドラゴニアはそれを警戒しているのかしら。」
「可能性の一つだけどな。」
「おーう、待たせたな」
ヴァゴウが戻って来た。
「オッサン、どうだった?」
「おう、良くねぇ情報だ。ヒューシュタットが何やら怪しい動きをしているみてぇだ。ゲキに聞いてきた。」
「ゲキさんが?」
「おう、あいつはこのドラゴニアではそこそこ有名な武器屋の店主だ。間違いねぇ。」
ヴァゴウは険しい表情を見せる。
ヒューシュタットが絡むとなると一行にはヒューシュタットでの理不尽な出来事を思い浮かぶ。そしてヒューシュタットでまるで死んだような顔で働く人間たち。
明らかに異常な様子が蔓延るあの都市がかかわっているかもしれない。嫌な予感がする。
「ヒューシュタットの人間…その機械の容姿をしているっていう奴を探してみない?」
レジェリーが提案。
「そうだね、それしかないと思う。」
キッカが頷いて言う。
「よし、皆で探そう。」
一行は機械の人間と言われていた人間を探すことにした。
-------------------------------------------------------------------------------
「でもこの国はとても穏やかだ。王の謁見が難しくなってることとか、ちょっと不穏な感じがしていることにみんな気が付いていないのか?」
「王はきっと民に不安な気持ちになって欲しく無いんだろうな。ドラゴニア王は優しいンだよ。」
ヴァゴウは誇り気に言う。
「オッサンはこの国が好きなんだな。」
「おう、ここはワシにとっては…何処よりもな。」
「そっか、だったら何か起こっているかもしれないなら見逃せないよな。」
「…だな。」
ヴァゴウは険しい顔が抜けない。
ヴァゴウにとってドラゴニアはそれほど思い入れがあって、傷ついてほしくない場所なのだと。ヴァゴウのあまり見ないその表情でビライトは感じ取った。
ビライト兄妹とヴァゴウは兄妹が幼い頃からの付き合いがある。
兄妹の両親はキッカが生まれて間もなく事故で亡くなってしまうが、生前は行商人で顔も広い中間業者を生業にしていた。
------------------------------------------------------------
生産者と販売者の橋渡しをする存在であった両親は世界中を回り、世界流通を回していた。
生産が盛んなコルバレーは両親にとってはとても商売のやりやすい場所であった。
ヴァゴウと両親はほぼ同時期にコルバレーに居住し始めたこともあり、お互いに挨拶も兼ねたついでに取引先になったのだ。
それからはお得意様のような関係ではあったが、昔からあまり仕事をしなかったヴァゴウは両親不在の間の幼いビライトと遊んだり一緒に素材集めに行ったり。
両親がビライトを一緒に連れていくこともあったが、危険な場所に行くときはヴァゴウに預けることもあった。
ドラゴン便が使えれば危険を伴う可能性は大幅に減るのだが、非常に高額なので無暗に使うことは出来なかった。
キッカが生まれてからは両親は、数か月は行商には出ず、愛情を注いで育てていた。
そんなとき、急な仕事でドラゴン便を利用しての取引があった。その移動の時不運にも墜落事故が起こり両親は命を落とした。
遺体すらも見つからない程に現場は悲惨だったという。
当時4歳だったビライトは幼いながらも両親の死を自覚。
周囲の住民たちやヴァゴウの支援を受けながら、ビライトはキッカの為に奮闘した。
その過程には色々あったが無事に成長出来た兄妹。
ビライトは成長してからはヴァゴウにお願いして武器屋で働くことになった。キッカはビライトを支えるために家事を覚えて、魔法を勉強した。
キッカの趣味は歴史の勉強。世界の歴史を知り、そして世界中を自分の目で見て回りたいと思うようになった。
ビライトもキッカに影響され、世界に興味を持つようになっていた。
すくすくと育ちビライト17歳。キッカ13歳の時、あの事件が起こったのだった…
つまり、ビライトとキッカはヴァゴウとは10年以上の付き合いだ。
ただ、今のヴァゴウの表情はビライトたちが知っているヴァゴウの表情としては珍しいのだ。
常に大らかで笑顔で豪快で。
ビライトたちが知っているヴァゴウはそんな感じであった。
旅に出てからはヴァゴウの知らないところが見えてきた。
実は商人としての顔がかなり広く、知識も豊富で博識。
そして…
(こんな表情も見せるんだな…)
よくよく考えたらヴァゴウの険しい顔なんて滅多に見ない。
ビライトはそれだけ、変わっていた世界に疑念を抱くヴァゴウが気になっていた。
--------------------------------------------------------------------------------------------
「あたしはこっちを探すわ。ビライトたちは向こう!」
「分かった。」
「気を付けてね。」
レジェリーは単独で住宅街の方へ。
ビライト、キッカ、ヴァゴウは反対側を探すことになった。
探している中でもヴァゴウの表情は重いままだ。
「オッサン、大丈夫か?」
心配になったビライトはヴァゴウに聞く。
「ん?あぁ大丈夫だが…どした?」
きょとんとするヴァゴウ。
まるでさっきから自分がどんな顔をしているか分かっていない様子だ。
「いや、俺さ、オッサンがそんな顔するの見たことなくて。ちょっと気を張ってるというか…なんからしくないなって思った。」
隠すこともあるまい。
ビライトたちとヴァゴウは長い付き合いだ。気を遣う必要などない。
そもそもヴァゴウは元々色んなところに土足で入る男だ。ビライトはそれを知っているからこそお互い様だと思っている。
「ワシ、そんな顔してた?」
「してた。なぁキッカ?」
「う、うん。あまり見ない顔してるかも…」
ヴァゴウはうーんと悩みだし、白い髪をガサガサと掻き出した。
「いかんなァ。すまねェ。」
ヴァゴウはストレートに謝った。
「イヤ、謝る必要はないんだけど…何か考えてることがあるなら聞かせてくれよ。」
ビライトはヴァゴウに手を差し伸べる。
キッカも頷く。
「あー…いけねぇなァ。ビライトとキッカちゃんに心配なんてされちゃシューゲン夫妻に合わせる顔がねェや。」
ヴァゴウは顔をパンと叩く。
竜人特有の顔の突起に手が当たり「いてっ」という声が出るが、その後ヴァゴウは笑って見せた。
「ワシはここ数十年、コルバレーから出てなくてなァ。世間にもすっかり疎くなっていた。だが最後に世界を回っていた時はヒューシュタットもドラゴニアも不穏なことなんてなくて平和だったんだよな。」
ヴァゴウは空を見上げる。
「けどなァ。ヒューシュタットにはスラムが出来て、種族差別が出来上がり…悪いことをした子供を償う間も与えず殺すような国になってた。」
「…」
「ドラゴニアも何やら怪しい感じがしてなァ。ドラゴニアはワシにとっては大切な場所だ。決して変わって欲しくない場所だ。」
次に見せたヴァゴウの顔は寂しそうな顔。そしてその何処かで小さな怒りを飼っているような。
「この世界は楽しいことに満ちている。そりゃ悲しいことも辛いこともある。けどなァ。そんなものを塗りつぶしてしまえるぐらいの世界が確かにあったんだよ。でもそれが失われちまっている。」
ヴァゴウは手をぎゅっと握る。尻尾は力なくうなだれる。
「なんつーかな。やりきれねェなって。モヤモヤすんだよな。」
ヴァゴウの知っている世界はいつの間にか無くなっていた。
このドラゴニアでも消えてしまいそうになっているかもしれない。
「いや、とにかくすまなかったなビライト、キッカちゃん。」
ヴァゴウはビライトたちを見て頭を下げた。
「イヤ、気にしないでくれ。むしろ言ってくれて良かった。」
「ヴァゴウさん、私たちもヴァゴウさんが知ってる世界を見たいから目指そうよ!そんな世界を!イビルライズに行けば何か分かるかもしれない!」
「サンキューな。よーし!考えるのはいったんヤメだッ!ホレ!ドラゴニアをもっと調べようぜ!」
いつもの表情を見せてくれたヴァゴウ。
それを見て安堵したビライトとキッカ。
ヴァゴウは最初は人助けの一環としてビライトたちに付き合った。
だが、ヴァゴウ個人にも、イビルライズに向かう目的が出来た。
イビルライズに世界が変わった原因があるかもしれない。
ビライトたちが出会ったアトメントの言う、世界の闇を振り払えるかもしれない場所。
そこに世界が変わったきっかけがあるのだとしたら。ヴァゴウの目指す場所もまたイビルライズかもしれない。
ビライトたちが元気になったヴァゴウと再びドラゴニアを見て回る。
そんな時だ。
「な、なんですか貴方たちは!」
声が聞こえる。
ドラゴニアの町の路地裏に竜人がいた。
その周囲に居たのは人間だが、体中に金属を纏っている。
恐らく例の人間だ。6人で竜人を囲っている。
その竜人は高価な装飾品をしていて、白いローブを着ている。
「お?アイツは…」
ヴァゴウは竜人を見る。
「あれ、なにをして…あっ!」
人間側が無言で竜人の腕をつかむ。
「いてて!触らないでください!」
「揉め事か?」
ヴァゴウが呟いた矢先、ビライトは駆け出した。
「おい!何をしているんだ!」
ビライトは大剣を構える。
「…」
「…」
人間側はビライトを見るが何も言わない。
キッカはあることに気が付いた。
「お兄ちゃん、この人たち…変な音がする。ウイーンみたいな…」
「え?つまりそれ…」
「ビライト!」
ヴァゴウは魔蔵庫から盾を取り出し前に出た。
その瞬間だ。人間の腕から銃の弾が飛び出た。
あまりに無機質な顔には目が一つしかなく、カメラのようなレンズ。
なにやら文字の羅列と共に、ピーピコピコ…という音がする。
「ッ!」
弾は盾に直撃し、弾き飛ばした。
「あぶねェ…!」
「オ、オッサン!大丈夫か!?」
「あぁ、けど盾にヒビが入った…!2度はねェ!あいつは…機械人間…オートマタだ!」
「機械人間だって!?」
驚くビライト。
これもヒューシュタットの技術なのか。
「オートマタなら遠慮はいらねぇ!全力でぶっ壊しちまうぞ!」
ヴァゴウは戦いの目をしている。今までの魔物と戦ってきたときの顔ではない。
ただでは済まない戦いになるかもしれない。
「よく分かんないけど…分かった!キッカ!サポート頼んだ!」
「うん!」
周囲の住民たちは先ほどの銃声で悲鳴をあげて逃走。
遠くにいたレジェリーもその銃声と悲鳴に気づいた様子。
「何?ヴァゴウさんたち…何かあったのかも!?」
「行くぞ!エンハンスだ!」
ビライトはエンハンス魔法を発動。
「サポートする!」
キッカはスピードを速める魔法をビライトとヴァゴウに与えた。
腕から飛び出す銃弾を躱していくビライト。
「ゲキ!使うぜッ!」
ヴァゴウの魔蔵庫から飛び出したのは槍だ。
ゲキの武具屋で買ったもののようだ。
銃撃を槍で弾き飛ばすヴァゴウ。
流れ弾があちこちに被弾する。
「おい!!逃げろ!ドラゴニア兵を呼べッ!」
ヴァゴウは絡まれていた竜人に言う。
「は…はい!ありがとうございますヴァゴウさん!」
知り合いのようだ。だが今はそんなことを聞いている場合じゃない。
ビライトは襲い掛かる銃弾をを躱しながら近づくのが精一杯。だがその銃弾の数は多くなかなか近づけない。
それどころか銃弾はビライトの顔をかする。
「ッ!」
「お兄ちゃん!」
「大丈夫!手ごわいが…なんとかなる!」
ビライトはエンハンスを重ね掛けした。
「危険だが…エンハンスのレベルを上げる!」
エンハンス魔法は重ね掛けすることで更に能力を向上出来る。
「ッ…!」
ビライトに重い重圧がのしかかる。
エンハンス魔法の重ね掛けは身体に負担を与える。やりすぎると自らを破滅させてしまう可能性だってある。
「うおおお!」
ビライトは銃弾をかわしながら突撃。当たりそうな銃弾は大剣で受けながら先に進む。
相手は6体。こちらは2人。あまりにも分が悪い。
「お兄ちゃん!」
キッカはビライトにかかっている負荷を抑えるため、回復魔法をかけ続ける。
「だああああっ!」
そばまで来た。
ビライトの大剣はオートマタの機械の身体を両断。
そこから噴き出すは血ではなくオイル。
無機質に地面に転がるオートマタ。
まずは1体。
一方ヴァゴウには4体のオートマタが一斉に銃撃を浴びせていた。
「チッ!持たねぇぞ!」
ヴァゴウは魔蔵庫を展開。
目の前に現れたのは大きな鉄球だ。
「おらっ!!」
鉄球を蹴り飛ばすヴァゴウ。魔力がかかっているのか鉄球は勢いよくボウリングのようにオートマタに直撃していく。
「っしゃ!」
ヴァゴウは武器を変更。取り出したのは大きな鈍器。ハンマーだ。
「おおっらあああああああああ!」
倒れたオートマタを潰していく。
ヴァゴウは3体のオートマタを一気に機能停止させた。
これでビライト側に1体。ヴァゴウ側に1体。
「オッサン!大丈夫か!」
「おうよ!そっちこそ怪我すんなよ!」
「もう顔にかすっちゃったよッ!」
ビライトは1体となったオートマタに連撃を叩き込む。
エンハンスを重ねたビライトに銃弾が貫通することはない。
強度を高め、力を込めた一撃でビライトはオートマタの身体を再び両断した。
バラバラになり機能を失うオートマタ。
ヴァゴウも予備の盾で銃撃を防ぎながらハンマーで頭に一撃。
オートマタの機能を停止させた。
「…終わったか。」
ビライトはエンハンスを解いた。
フラッと立ちくらみを起こすビライト。
「お兄ちゃん!大丈夫?」
「あ、あぁ…やっぱ重ね掛けはきついな…」
へたりこんだビライト。
「フゥ…ったく…オートマタなんかが何でドラゴニアに…」
「あっ!ビライト!ヴァゴウさん!」
レジェリーだ。
戦いが終わったあとの様子を見てレジェリーは慌てて駆け寄る。
その時だ。
(パァン)
銃声だ。
「あぶねぇ!!」
その銃声と共にビライトを突き飛ばし、ヴァゴウは倒れた。
ビライトを飛んできた銃弾から咄嗟にかばい、その身に受けたのだ。
「オッサン!!!」
ヴァゴウは右胸を撃ち抜かれた。
「カッ…」
口から血が流れる。
「っ!そこっ!」
レジェリーは魔法を放った。
残党が居たのだ。
雷の魔法が最後のオートマタをショートさせた。
もう動かない。残党も居ないようだ。
「ヴァゴウさん!!」
レジェリーが駆け寄る。
「キッカちゃん!回復魔法!」
レジェリーが声を上げる。
「お兄ちゃん!ヴァゴウさんの傍まで!!」
ビライトは必死に動こうとするが、エンハンスの重ね掛けのリスクにより動けなかった。
「っ…動け…!オッサンが…!!」
「ビライト!!」
レジェリーがビライトを抱えてヴァゴウの元へ連れていく。
ここまでで数分。急いで回復魔法を当てないと危険だ。
キッカは回復魔法をヴァゴウに当てた。
「私の力で…助ける!」
少しずつ効いてはいるようだが、これはあくまで応急処置にしかならない。
キッカの魔法ではせめて怪我の進行を防ぐ程度にしかならない。
「私、兵士を呼んでくる!」
レジェリーは慌てて城に向かおうとする。
「その必要はありません!」
「あっ…あなたたちは…!」
奥から現れたのはドラゴニアの兵士たち。中央には先ほど絡まれていた竜人が居た。
「今助けます!」
竜人は駆け寄り、回復魔法をかけた。
「合わせます。良いですか?」
竜人はキッカに声をかける。
「えっ!?あっ、はい!!!」
キッカの回復魔法と竜人の回復魔法が合わさった。
竜人の回復魔法はかなり強力な回復魔法なようだ。
それにキッカの魔法が合わさりより強い効果を生み出した。
ヴァゴウの胸の傷はふさがり、顔色も良くなっている。
「…ッ…あぁ…死ぬかと……思っ…た~…」
ヴァゴウはようやく声を出した。
「ヴァゴウさん!良かった…」
キッカはホッとして大きなため息をついた。
「オッサン、無事か…?」
「おーう…」
満身創痍の2人。
「ビライト!ヴァゴウさん!良かった~…」
レジェリーは安心して肩をなでおろした。
「申し訳ない。国で起こった騒動で旅人を傷つけてしまった。」
竜人と兵士たちは謝罪した。
「いったい何があったっていうの?」
レジェリーが聞く。
「…とにかく城へ。ここでは怪我人に良くありません。」
兵士たちはビライトとヴァゴウを担架に乗せて城へと急ぐ。
レジェリーはそれについていく。
「…キッカ。」
「?」
「俺、オッサンが助かってホッとした…それで…オッサンがやられた時ゾッとした。」
「うん…」
「キッカ、ありがとな。」
「私よりも竜人さんの魔法のおかげだよ。」
「それでも…それまでの間、オッサンの命を繋いだのはキッカだ。だからありがとな。」
「うん。私、もっと役に立てるように強くなる。」
「俺も…強くならなきゃ。」
ビライトとキッカは満身創痍の中、強くならないといけないと思った。
ヴァゴウの命が危なかった。それだけでビライトたちにとっては恐ろしいことこの上ない。
一行たちは思わぬ形で城に入ることになった。
この後ビライトとヴァゴウは治療室に入り、手当を受けた。
ビライトは魔法力の欠損と肉体の回復。
ヴァゴウは怪我が治るまで安静にすることになった。
見守るキッカとレジェリー。
「レジェリー、キッカをオッサンの傍に連れてってくれてありがとな。」
「ううん、あたしこそ、もっと早くあの場に急ぐべきだった。」
「でも急いで来てくれた。だからありがとな。」
「うん…」
ビライトは1日で動けるようになったが、ヴァゴウはまだもう少し時間がかかりそうだ。
--------------------------------------------------------------------------------------------
「…というわけなんです。」
「そっか…ヴァゴウの奴…」
ビライトとキッカはゲキの店に来ていた。ヴァゴウの状態を知らせに。
「とにかく、お前たちが居てくれて良かった。元気になったらまた顔を見せてくれと伝えてくれ。」
「はい、伝えます!それでは。」
ビライトたちは帰ろうとする。
「あ、ビライト。」
「はい?」
「ヴァゴウはさ、ああ見えて繊細な奴なんだ。いつも元気で大らかで豪快な奴だけど…本当は誰よりも他人のことが心配で、誰かの為に全力で身体を張って無茶をして…そして傷つくんだ。」
「…俺もそう感じます。」
ビライトはゲキの方を向いて言う。
「ヴァゴウのオッサン、旅に出るまではゲキさんの言うように元気で大らかで豪快で…それで、顔がうるさいオッサンって感じでした。」
ビライトは思い返す。まだ数週間程度の旅だが、その中でビライトはヴァゴウの色々な顔を見てきた。
「でもオッサンだって時には辛い顔をしたり、怒りの顔を見せたり、悩んだような顔をする。あのヒトはホントに誰かの為に一生懸命で…俺たちの中で誰よりも世界が大好きなんだなって…だから無理をするし、自分が傷つくんです。」
ビライトは続けて言う。
「俺は…幼少の頃に親を亡くして…それからはオッサンに育てられたようなものだから、家族みたいなものだ。だから…俺はもっと強くなってオッサンもレジェリーも…そして…妹も守れるようになりたい。」
「妹がいるのか?」
「はい、俺の一番大切な存在です。でもオッサンもレジェリーも大事な仲間だから…」
ゲキにはキッカは見えていない。
キッカは静かにビライトたちの話に耳を傾ける。
「そっか…よし、ビライト。こいつを貰ってくれ。」
ゲキは奥から大剣を取り出した。
「これ…大剣…?受け取れませんよ!お金もないし…!」
「持って行ってくれ。ヴァゴウの剣よりも軽い大剣だからより動きを軽やかにできる。威力の高いヴァゴウの大剣と俺の動ける大剣とで使い分けてくれ。」
「…」
ビライトは大剣を受け取った。
「ヴァゴウを頼む。アイツはこれからもまたお前たちや誰かの為に傷つくかもしれない。」
「分かりました。ありがとうございます、ゲキさん。」
ビライトは感謝を述べ、武具屋を出た。
「あのお人よしめ。いつまでたっても変わんないな…死ぬんじゃねぇぞ。」
--------------------------------------------------------------------------------------------
それから1日。
ビライトたちは、王には会えずとも城の中でヴァゴウの回復を待つために宿泊した。
そして…
「ビライトさん、レジェリーさん。そしてキッカさん。」
先程の竜人だ。
「あなたは…オッサンを助けてくれてありがとうございました。」
ビライトはお礼を言う。
「いえ、お礼を言うのはこちらです、それに謝罪も…」
竜人は頭を下げた。
ちなみにその竜人にはキッカが見えている。
「ヒューシュタットのオートマタ…奴らの目的は分かりませんが、助けて頂きありがとうございました。私は攻撃魔法はあまり得意ではなく…周りを巻き込んでしまうような抵抗しか手段がなく、手出しが出来ませんでした。そして我々が居ながらヴァゴウさんやビライトさんを傷つけてしまって申し訳ありませんでした。」
「いえ、みんな無事だったならそれでいいと思います。」
ビライトは謝る竜人に言う。
「あぁ、そういえば名乗るのが遅れました。私はドラゴニア国、魔術部隊隊長のクルト・シュヴァーンと申します。」
竜人はクルトと名乗った。
魔術部隊…魔法得意とする部隊のようだ。
「クルトさん、よろしくお願いします。」
「クルト…クルト?えっ!!クルト・シュヴァーンってまさか!」
レジェリーは一瞬考えそして驚いていた。
「魔法学園の!?」
レジェリーは食いつくように言う。
「え、ええ。私は魔法学園の学園長も務めております。」
「やっぱり!何処かで聞いた名前だなって思ったんです!うわっどうしよ!魔法学園の学園長さんと顔見知りになっちゃった!」
レジェリーは顔を真っ赤にしてあたふたとしている。
なんともテンションが高い。
「あ、あぁそうだ。レジェリーさんも魔法使いでしたね。私で良ければ今度機会があれば共に魔法について語り合う時間を設けましょう。」
「は、はいっ!あっえっとクルトさん!そういえば何か用事があって来たんじゃ!」
レジェリーはあたふたしながらもとりあえず話を戻した。
「あぁそうでした。ビライトさん、キッカさん、レジェリーさん。本当ならばヴァゴウさんにも同席願いたかったのですが…王があなた方にお会いしたいとおっしゃっています。同行を願えますか?」
「「「…!」」」
王に会える。
その言葉に唖然とする3人。
「いいんですか…?」
「ええ、そのためにドラゴニアに来たのでしょう?それに、王とて本来は謁見を拒否なさることはあり得ないことでした。ただ、今は事情がありましたので。ですがあなたたちならばと。いかがですか?」
クルトは再度問いかける。
「は、はい!喜んで!」
ビライトたちは王と会うことを許された。
ヴァゴウの傷がまだ癒えない中ではあるが、ビライト、キッカ、レジェリーは王との謁見の為にクルトと共に玉座へ向かう。
果たして、未踏の地に入る為の許可証の1つ目である、ドラゴニア王からの許可証を貰うことが出来るのだろうか…