Delighting World Break ⅩⅩⅠ
ストレンジ砂漠を歩き、魔王カタストロフが居るトーキョー・ライブラリを目指すビライトたち。
砂漠での一夜、クライドとレジェリーの提案により、ブレイブハーツを試す為の本気の手合わせを行った。
ビライトはクライドと、レジェリーはヴァゴウと本気で戦い、それぞれの力を高め合った。
皆が改めてブレイブハーツの力の凄さ、そしてぶつけ合うことで高まった絆を感じあうことができた。
そしてその翌日。
突如襲い掛かった砂嵐で宙に浮き、ビライトたちは散り散りになってしまう。
落下したビライトは砂漠のオブジェを貫通し、地下洞窟へと転落してしまった。
しかし、唯一はぐれなかったデーガに助けられ、ビライトとデーガは地下へと着地した。
デーガは仲間を探そうと魔力感知を使うが、それは妨害されていた。
そしてデーガからビライトに告げられたのは。
「こいつは抑止力の試練だ…」
「…え?」
突如始まる抑止力。
カタストロフを助けるために少しでも進まなければならないこの時に急に始まった抑止力の試練に戸惑うビライト。
果たして仲間たちは合流できるのか。
そしてこれが抑止力の試練ならば、それを無事達成し、トーキョー・ライブラリに向かうことができるのか。
達成手段も、誰の差し金かも分からない抑止力の試練が幕を開けた。
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ストレンジ砂漠の下にあったのは広い洞窟だった。
上を見ると、わずかに空が見える。そして、陽の光があまり当たらないからか少し涼しい。
「抑止力の試練…だって…?」
「あぁ…っと、試練だってことは俺はあんまり干渉出来ねぇ。まぁ軽くアドバイスぐらいはしてやるから安心しな。」
デーガはめんどくさそうに歩き出す。
「あっ、待てよデーガ!何処に行くんだよ!」
「あん?合流だよ合流。さっさと探しに行くぞ。こんなところで待ってても誰も来ねぇぞ。」
「そ、それもそうか。」
デーガの後ろをビライトはついていくが…
「って、俺が先導しちゃ意味ねぇだろうが。ホレ、お前が道を選んで進め。」
デーガはビライトを前に立たせ、自分は後ろに移動した。
「そうだよな、試練なら…俺が選ばなくちゃ。」
ビライトは辺りを警戒しながら、洞窟を進む…
そして、その同じころ―――
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「きゃあああ!!」
「レジェリーちゃん!」
「ヴァゴウさん!」
飛ばされた後、潜血覚醒が解除されたヴァゴウの目には腕に必死でしがみつくレジェリーが居た。
「どわあああっ!!」
ヴァゴウとレジェリーは砂漠の下ではなく、上に落ちた。
砂が勢いよく舞い上がり、ヴァゴウとレジェリーはその舞い上がった砂を丸々顔に受けた。
「ぶえっ、ぺっ!!ペッ!!もーーー!なんなのッ!?」
砂を口から吐き出そうとするレジェリー、そしてヴァゴウもまた砂をはらう。
「はぐれちまったな…」
ヴァゴウは辺りを見渡すが、奇妙なオブジェがあちこち点在しているだけで、はぐれた仲間たちの姿は見えなかった。
「ど、どうしよう…こんな広大な砂漠じゃ探しようがないわよ…」
「レジェリーちゃん、魔力感知で分からねぇか?」
ヴァゴウは冷静に状況を分析するため、レジェリーに問うが…
「や、やってみる――――あれ?…あれ?」
「ダメか?」
「うん…感知できないんじゃなくて…使えない…変ね…まるで何かに妨害されているみたい。」
「そっかァ…方角も分かんなくなっちまった。」
ヴァゴウは魔蔵庫からコンパスを取り出す。
「それコンパス?」
「あァ。旅の必需品、だろ?」
ヴァゴウはコンパスを見るが、針が色々な方角に動き回り、方角が分からない。
「…やっぱダメか。針がめちゃくちゃに動いてやがる。」
ヴァゴウはコンパスをしまって、太陽を見る。
「太陽だけじゃ西と東しか分からねぇ。正午になったら太陽の位置で方角が分かるようになるが…今じゃこっちが東ってことしか分からねぇ。とにかく歩くしかねぇな。」
「じっとしてなくて大丈夫かな。」
「じっとしててもしょうがねぇからな。道中で何か手がかりが見つかるかもしれねぇ。」
ヴァゴウは西を指さした。
「ワシらは向こうから飛ばされてきたからな。ひとまず飛ばされた場所を目指して歩いてみようぜ。」
「そうね…早く合流しましょう!」
「おう!けど無理はすんなよ。」
「うん、ありがとう。」
ヴァゴウとレジェリーはひとまず飛ばされてきた方角を目指して歩くことにした。
ビライトとデーガと違い、2人は砂漠の陽ざしが強く当たる砂漠だ。
特にレジェリーは暑いのが苦手だ。ヴァゴウもそれが分かっているからか、人一倍レジェリーに気を遣って歩く。
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「…ここは…?」
クライドは1人、オブジェに身体をぶつけて気を失っていた。
しかも、そこは飛ばされた場所からそう遠くはない場所であった。
むしろ飛ばされた場所から見えていたオブジェであり、宙に浮いている。
クライドはその宙に浮いているオブジェに身体を叩きつけられ、気を失っていたようだ。
「…誰も、いないか。」
クライドは誰とも一緒ではなかった。
辺りを見渡すが、人影はない。
「…暑い…」
クライドはオブジェに空いた空洞の中に入り、日差しを回避した。
「…一体なんだというのだ…あの砂嵐は…」
クライドは気配察知を使用するが…
「…気配察知が使えない…妨害されている…?」
クライドはこの時点で察しがついた。魔法が使えない状況など、本来自然現象としてあり得ない。つまりこれは人的によるもの。
そうなれば…
「…試練…か…仲間と合流することが試練か、はたまた別か…」
クライドは魔蔵庫から水を取り出し、グイッと一飲み。
「…俺だけでも、トーキョー・ライブラリを目指さねば。きっと皆、同じ気持ちだ。」
クライドはオブジェから飛び降り砂漠に着地する。
そして、クライドは北を目指して歩き続けたのだった。
そして、それを上空から見ていたのはアトメントだった。
「結構派手にやったな?」
アトメントはその背後に居た誰かに声をかけた。
「儂の役目は彼らを分断させること。そして…無事に皆がそれぞれ自分の力で知恵を出し合い、合流すること。それが儂が課す試練じゃよ。」
「なるほどね…デーガがブレイブハーツの適性と勇気を試し、お前は知恵を試す…って感じか?魔法に頼らず、自分たちの知識と足で合流を目指す。」
「まぁ…そんなところじゃ。」
「で、“もう一人”いるな?」
「彼にはビライト・シューゲンについてもらう。なんといっても…イビルライズと最もゆかりがあるからの。もう少し手の込んだことをさせようかと思っての。」
「へぇ、ヴァジャスの奴、焦ってんのか?ここで2人も抑止力を出すなんてよ。」
「…イビルライズは活性化を続けておる。時間はあまり残されてはおらぬが…カタストロフの問題もある。あまり時間をかけてはいられぬよ。」
「そりゃそっか。ま、高みの見物と行きますかね~、な?抑止力序列第6位、魔法を司る神、“レクシア”さんよ。」
「ウム。見定めようではないか。」
アトメントと会話していたのは、抑止力の1人であり、八神の一柱、レクシアであった。
棘の生えた亀の甲羅のようなものを背負っており、茶色いフードで顔以外が隠れている。
そして、アトメントと同じ神とは思えないほど年老いている獣人…神にも色々な容姿がいるようだ。
「で、もう一人って誰だよ。お前と一緒に行動してると言えば…ナチュラルかシヤンか?」
「ナチュラルは今、忘却の惑星で仕事中じゃ。故に、シヤンじゃの。どうしてもビライトたちと友達になりたいと言っていてな。」
「友達ねぇ~…アイツ、なんでも友達になりたがるからなぁ。」
「若いのじゃよ、彼も。」
「若いねぇ。1000万年以上生きてても、中身はガキンチョだからなぁ。持ってるモンはでけぇけどよ。」
アトメントはビライトとデーガが居る方を見る。
「デーガも一緒に居るけどよ、アイツには詳しい事言ってないぜ。」
「構わんとも。デーガがビライトに協力したとしても、儂は何も言わんよ。むしろ…デーガ自身、本来の心を取り戻す良い機会と思わんか?」
レクシアはアトメントを見て微笑む。
「ま、そらそっか。俺たち神々は元々心の力なんてもんここに在らずだ。ブレイブハーツは素質があっても使えねぇ。イビルライズは倒せねぇし、カタストロフも“ガディアル”が出ればアッサリ殺すことは出来る。だが…救うとなると必要なのはやはりブレイブハーツだ。そして、デーガには素質もあるし、心もある。ただ心の力を失いかけているだけだからな。」
「短くともきっとこの旅はデーガにとって良き旅になるじゃろう。そしてきっと、カタストロフを救い、イビルライズの脅威も打ち払えるじゃろうて。儂は信じておるよ。」
「だな。」
2人は砂漠を見つめ、この試練を乗り越えられることを信じている。
「まぁ…デーガの死の宴を乗り越えたんだ。こんぐらい軽いだろ。」
「フム…まぁ…死の宴に比べればまだ優しいかもしれんの。」
「いきなり灼熱地獄に突き落としたようなもんだからなぁ~へへ。」
「嬉しそうじゃの。お主は相変わらず人が苦しむ姿が好きなんじゃのぅ。」
「一応元、邪神なもんで、へへっ。」
アトメントはヘラヘラと笑う。
「ま、その苦しみを乗り越えた姿を見るのが一番好きだよ、俺はな…さて、俺はクライドと合流するぜ。あくまで傍観、だけどな。」
「ウム、試練が終わったのち、また会おう。」
アトメントはレクシアと別れ、クライドの後を追う。
「さて…合流できる時間が早ければ早いほど良いのだがな。果たして…」
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「ここは涼しいな。」
「まぁ、日差しがほとんど当たらねぇからな。お前にとっては楽で良いだろ。」
「でも、こんなところでじっとなんてしてられないよ。」
ビライトとデーガは砂漠の地下洞窟を歩く。
辺りはかなりじめじめしている。
湿気が強く、本当に砂漠の地下なのかを疑いたくなるが…
「あっ、水だ。」
ビライトは地底湖のようなものを見つけた。
水は澄んでいてとても綺麗に見える。
「飲めるのかな。」
「どうだかな。」
ビライトは魔蔵庫から容器を取り出して水をすくう。
「…見たところは変な色はしていなさそうだなぁ…」
ビライトは試しに掌にすくって、一飲み。
「…変な味はしないな。一応補給しておこうかな。良いか?デーガ。」
「好きにしな。」
ビライトは持っている容器に水をくんで備蓄した。
いつ出られるか分からないのなら、飲めるか分からないものでも一応確保しておくべきだと判断した。
そして4本の水を確保したビライトはデーガに2本渡す。
「俺はいらねぇって。」
「喉渇かないのか?」
「俺は別に飲食しなくても生きていけんの。だからお前がとっとけ。」
「そっか。じゃ行こうか。」
ビライトは水を魔蔵庫にしまい、歩き出す。
(…この上はオアシスだな…そしてここの水は飲める水。しかも上等の水だ。)
デーガはそう思いながらもビライトには言わず、ビライトに判断を任せることにした。
「どこまで続くんだろ…」
「さぁな。」
ビライトたちの洞窟を進む道はまだまだ続きそうだ。
―――
「…ぐすっ」
「あん…?」
「聞こえたか?いったいなんだろう…?」
何かすすり泣く様な声が聞こえる。
ビライト達は先を警戒しながら進む。
そして曲がり角を慎重に曲ると…
「えっ、こんなところに子供…!?」
ビライトの目の前では、獣人と思われる子供が壁に背中を寄せて泣いていた。
「…」
デーガは一瞬顔を顰めるが…
「だ、大丈夫か!こんなところで何で…」
疑問に思いながらもビライトは獣人の子供に声をかける。
「えっ、おにいちゃん、誰…?」
「そ、それは俺のセリフだよ…いったいなんでまたこんなところに子供が…いや、そんなことはいいか、怪我とかしていないか?」
「う、うん…怪我は、してないよ。」
その獣人は茶色の髪で尖った小さな耳が見える犬型の獣人のようだ。
目が…少し変わった目をしている。
何処かでみたことがあるような気がするが、ビライトはあまり気には留めなかった。
そして背中には小さな羽のようなものが生えている。これはアトメントが背に生やしているものとよく似ているが、質は大きく異なっている。
「…俺はビライト。君の名前は?」
ビライトは子供の獣人に目線を合わせて自己紹介をする。
「僕は…僕はリヤン。」
「リヤンか。よろしく。リヤンはここで何をしていたんだ?」
ビライトはリヤンと名乗る獣人の子供に質問した。
「えっとね、村の外で遊ぼうと思ったら…迷っちゃって。」
「村があるのか…?こんなところに?」
「うん、上は暑いから、地下に村を作ったって…大人が言ってた。」
「そうか…デーガ、村があるみたいだしこの子の村を探して送っていくついでに少し休んでいかないか?」
「ん、あぁ。構わねぇよ。」
デーガは何故か目を逸らしている。
だが、ビライトの提案は受け入れ、小さく「お人よしめ」と呟き、ため息をついた。
「決まりだな。俺たちも君の村を探すの手伝うよ。」
「…いいの?おじさんも?」
「おじッ…んまぁそうか…あぁ、構わねぇよ。」
「えへへ…ありがとう!」
リヤンは笑顔でデーガに言う。
デーガは相変わらずリヤンの顔を見ようとしない。それどころかまた小さくため息をつく。子供が苦手なのだろうか。
「リヤン、どっちから来たか分かるか?」
少し行くと左右の分かれ道だ。ビライトはリヤンに尋ねる。
「こっち。」
「そうか、じゃこの先に進んでみよう。」
ビライトたちはリヤンが来た方向に進んでいく。
―――
歩き出して随分と長い時間が経った。
リヤンはすっかり笑顔になり、さっきまで怯えていたのがうそのようだった。
「ねぇねぇ、ビライトたちは何処に向かっているの?」
「えっと、砂漠の向こう側にトーキョー・ライブラリっていう場所があって…」
「あっ僕それ知ってる!おっきいんだって!」
「そうみたいだな。そこでさ、待ってる奴が居るんだ。」
「待ってる人かぁ。会えると良いね!」
「ありがとう。」
「…」(ケッ、白々しいやつ。)
デーガはビライトとリヤンのやり取りを見て、目を顰める。
デーガは何かこの状況に心当たりがあるのだろうか。
「それにしても…いつになったら…」
どんどん道は入り組んでいく。
まるで迷路のように複雑になっていき、分かれ道が頻繁に来る。
ここまでくるとリヤンも流石に何処から来たか覚えていないようだったので、ビライトが自分で道を決めて進んでいた。
だが道はどんどん複雑になるばかりか、同じ道を歩いているような錯覚にまで陥りそうだった。このような道が続いて1時間以上が経っていた。
「どうなってるんだ…どんどん入り組んできて…」
「…おいビライト。」
デーガはしびれを切らしたようにビライトに言う。
「そろそろおかしいと思ってんだろ。これ見ろ。」
デーガは岩の柱をビライトに見せる。そこには爪痕がついていた。
「これは…爪痕?」
「俺がつけた。1時間前にな。」
「1時間前って…!」
「そーだよ。お前、ずっと同じ場所ぐるぐる回ってるんだよ。」
デーガはため息をつく。
「ど、どうして教えて…って、そっか…」
「そういうことだ。ただ流石に俺もイラついてきた。」
デーガは舌打ちをする。
「ゴメン…俺、早くみんなと合流して、リヤンを村に送ってあげなきゃって必死で…」
落ち込むビライトだが、リヤンはそれを心配そうに見ている。
「だ、大丈夫。必ず俺が送ってやるからな。」
ビライトはリヤンに言う。
「うん!」
リヤンはビライトの笑顔を見て笑顔で返した。
デーガはそれを見て、顔を顰めている。
(…ここまでお人よしだと流石に馬鹿なのか?)
デーガはそう思うが、小さくため息をつきながら、ビライトとリヤンの後ろをついていく。
「考えないと…いつもと同じじゃだめだ。」
ビライトは考える。
まずは色々試そうと、さっきデーガがやっていた、目印を残すことを実践してみた。
そこで、通ったことのない道をしらみつぶしに探して歩く。
「ねぇ、大丈夫?顔色…悪いよ?」
「へ、平気だよ。」
リヤンはビライトの表情が険しくなっていくのを見て心配するが、ビライトは微笑んで見せる。
(…ダメだ、冷静にならなきゃ…クライドにも散々言われてたじゃないか。)
ビライトは一回深呼吸して改めて周囲を見る。
「考えろ…柱の形…地形の異なる部分はないか…何か他とは違う何か…」
ビライトは必死に考えるが、まだ有力な手掛かりは見つからない。
「…少し休憩しとけ。いったん休めば何か見えてくんだろ。」
「…そう、だな。」
ビライトはその場で座り岩の柱に背中からもたれる。
「…ごめんデーガ。急いでるっていうのに…」
「お前だって急いでんだろ。それにこれは試練だ。しゃーねぇよ。」
デーガはそう言うが、ビライトはやはり気が気ではなかった。
さきほど汲んだ水を飲んでみるが、良い水の味がする。
やはり飲める水のようだった。
特に苦みも、違和感も無く、気分も悪くならない。天然の水のようだった。
「…」
「クライドから聞いてる。お前は熱くなるといささか周りが見えなくなりがちだってな。」
「…返す言葉もないよ。」
ビライトは自分がそうであることを自覚はしていた。前ほどは冷静でいられるようになってきたが、まだまだそうでない時も多い。
「…ま、生物らしいっちゃらしいけどな。俺も思い当たるところはあるから気持ちは分かる。」
「デーガ…そっか、カタストロフの時…」
デーガは頷いた。
「俺が言えた口じゃねぇが…まぁ一旦冷静になるのも大事ってことだ。」
「そう、だよな。ゴメンデーガ。」
「ケッ、いちいち謝んじゃねぇっての。」
「あっ、こういう時は、ありがとう…の方がいいよな。」
「どっちでもいいっての。」
デーガはチラッとリヤンを見る。
リヤンはデーガの顔を見てニコッと微笑んだ。デーガはまた小さくため息をついた。
「…あーあ…俺って、ホントまだまだだな…みんなに色々教えてもらわないと何にも出来やしない。」
「まぁ、頑張ろうとしてるだけマシだ。自覚があって何もしねぇ奴じゃねぇだけマシだ。」
「そうかなぁ。」
「お前はまだ成人になってねぇし若いんだ。失敗したらまた頑張りゃいい、何度失敗しても諦めずに立ち上がりゃいい。本当に失敗しちゃいけねぇのは誰かの命がかかってる時だけだ…俺みたいに全部失わなけりゃそれでいいんだよ。」
「…デーガ…あんたは…」
「…昔の話だ。」
デーガは寂しそうな顔を見せる。
「俺、もっと頑張んなきゃな。」
「頑張る、かぁ~。それって疲れない?」
リヤンが言う。
「僕はあまりそういう好きじゃないなぁ。楽して生きれたらそれでいいと思わない?」
「リヤン?」
リヤンは微笑んでビライトに言う。
「ねぇビライト。もう諦めたら?僕別に君と一緒ならここで死んでもいいよ。」
「な、何言ってるんだよ!」
リヤンは笑顔でとんでもないことを言うものだから、驚くビライトだが、そこに映るリヤンは先ほどの無邪気な子供の目では無かった。
「お前…一体…」
「ねぇビライト、君がこれから向かおうとしているところって、そんなに大事なところ?」
「だ、大事に決まってるだろ!妹が…デーガの相棒が…それに、皆が待ってるんだ。俺が行かなきゃいけないんだ!」
「君である必要は?君より強い人に任せちゃえば?そこに居るデーガさんとか…さ。」
「…ケッ。」
「…そうかもしれない。でも…それでも俺は行く。」
「どうして?」
リヤンは首をかしげて尋ねる。
「大事な人だからだよ!家族を助けに行くんだ!当たり前じゃないか!」
「ふ~ん…まぁいいけどね。ふふっ、ごめんね。変なこと聞いちゃった!」
リヤンのいつもの笑顔が戻ってきた。
「…リヤン…」
リヤンが急に見せた表情は何だったのか、この獣人の少年は、ただの獣人ではないのかもしれない。
ビライトはそんなことを脳裏によぎらせた。
「…そいつの言う通りじゃねぇか?」
デーガはビライトに言う。
「あんたまで…!」
「カタストロフはどちみち俺が片付けるつもりだったしな。お前の妹はお前より強い仲間にでも任せればいいじゃねぇか。」
「…」
確かに自分はまだまだかもしれない。自分の至らないところは多いだろう。
だが、ビライトは…
「それでも、俺は行く。行かなきゃいけないんだよ。」
「それはお前がイビルライズと関わっているからか?責任の為か?」
「それもある。キッカを助けたい気持ちも同じだよ。だけどそれだけじゃない…俺は、この世界が好きなんだ。“楽しい”からだよ。」
「…楽しい?」
リヤンはその言葉に食いついた。
「そうだよ、俺は旅をして色んな出会いや別れを経験した。辛いことの方が多かったけど、そんなことよりもずっとずっと楽しくて、温かいものを知ってるんだ。それを俺は守りたい。この世界を守りたいんだよ。」
「ハッ、青臭いな。」
デーガはそう言うが、顔は小さく微笑んでいた。
「悪かったな。試すようなことを言った。」
「…」
「ったく、お前らといると青臭くて退屈しねぇな。」
デーガは立ち上がり、指を差す。
「出口はこっちだ。」
デーガは歩き出す。
「えっ、それって…」
「もう良いんだろ。“合格”で。」
デーガはそう呟く。
「うん!」
リヤンはデーガの声に頷いて返事をした。
「リヤン?」
「えへへ、ごめんね。後で話すからまずはここを出ようよ!」
そう言ってリヤンはデーガの背中に飛び乗る。
「ひっつくなよ。」
「え~慣れないことして疲れたからさ~乗せてってよ~」
「うるせぇ、自分で歩けっての。」
「けち。カタブツ。昔の君はもっとこうブイブイ言ってたよ?」
「うるせぇっての。」
デーガとリヤンは急にまるで友達感覚のように話をし始め、デーガはリヤンの身体をつまんで地面へと放り投げた。
「あーそういうことするんだ!みんなに言いつけちゃうぞ!」
「勝手にしろ馬鹿。」
「…なんなんだよ…」
ビライトは混乱しながらも、デーガとリヤンについていく。
これまでの問答も全て試練なのだろうか。
リヤンは何者なのか。そして全てを知っていたかのように見せたデーガ。
色々と謎を残したまま、ビライトは出口目指して歩くのであった…
これが順調だというのなら、ビライトは順調のようだが…
他の分散した4人はどうなっているのか。
レジェリーとヴァゴウ。
単身となったクライド。
彼らは砂漠を進み、合流するまで試練となっている。
果たしてレジェリーとヴァゴウ、クライドはそれぞれ仲間たちと合流することができるのか。
ビライトもまた、この洞窟を抜けた先で、仲間たちと合流しなければならない。
砂漠での冒険はまだ続きそうだ…