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Delighting World  作者: ゼル
Break 第五章 ストレンジ砂漠編 ~砂漠・修行のち、大災害?~
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Delighting World Break ⅩⅨ

魔王デーガの試練、“死の宴”を乗り越え、イビルライズに唯一抵抗出来るという力、“ブレイブハーツ”を会得したビライトたち一行。


瘴気の毒を全て吸収し、絶対悪化した自分たちをブレイブハーツを使えるようになったビライトたちに倒してもらおうと考えていた魔王デーガと、魔王デーガの中に眠る魔族の始祖である真の魔王である魔王カタストロフ。


しかし魔王カタストロフは魔王デーガの身体から分離し、瘴気の毒を一身に受ける。


絶対悪化したと思われた魔王カタストロフだったが、まだ彼の中に眠る善の心は完全に消えてはいなかった。

魔王カタストロフはレミヘゾル北部に位置する廃都市、トーキョー・ライブラリへと去って行った。


まだカタストロフが絶対悪化していないのであれば、ブレイブハーツで瘴気の毒を浄化したうえで、カタストロフを助けることができるかもしれない。

アトメントが提示した案を受け、ビライトたちは魔王デーガを仲間に加えて、トーキョー・ライブラリを目指す。




しかし、アーデンを出てトーキョー・ライブラリに向かうためには必ず避けては通れない広大な砂漠、“ストレンジ砂漠”がビライトたちの前に立ち塞がるのであった。



果たしてビライトたちは魔王カタストロフが完全に絶対悪化する前に救い出すことができるのか。




善の心を持ったカタストロフは誰よりも恐ろしい外見をしておきながらとても気配り上手でお人好しで、そして優しい心の持ち主だ。

そんなカタストロフが死んでいい理由などあるはずがない。

特にカタストロフに叶わぬ恋を抱くレジェリーと、1000万年以上相棒であり続けた魔王デーガにとって、カタストロフは特別な存在なのだ…


--------------------------------------

第五章 ストレンジ砂漠編

~砂漠・修行のち、大災害?~


--------------------------------------



森を歩き続けるビライトたち。

アーデンの魔王城を出て1日経過したその時だ。

地面が草ではなく、砂に変わっていく。

そして森の木の葉の色も緑色から黄色へと変化していく。



「お、見えてきたな。ホレ、こっからがストレンジ砂漠だ。」


「こ、これは…!」



ビライトたちの眼前に現れたのは途方もない砂の丘。

先には植物など一切無い。

見えるはひたすらに続く砂の大地。

砂の粒子は非常に小さく靴や髪の毛、そして鼻や口にも容赦なく侵入してくる。


「うげっ、何よこれ!」

「ストレンジ砂漠は日中は猛暑で夜間は極寒の温度差が激しい場所でな。そんでもって遮るものもないもんだから風も強い。時々バカでかい砂嵐が襲ってくることもあるから気を付けろよ~」


アトメントは心なしか楽しそうだ。

ふわふわと宙に浮き、身体をさかさまにして楽しんでいる。


「なんか楽しそうじゃね?」

ヴァゴウはアトメントの楽しそうな仕草に疑問を持つ。

「あぁ、そうかお前熱いの好きだったな。」

デーガはアトメントに言う。

「おう、元々俺は炎属性に特化してっからよ。こういう熱い場所は大歓迎だ。」

「でも夜は寒いんだろ?」

ビライトはアトメントに訊ねるが…

「あぁ、それは全然。俺は神様だからな。熱い寒いを遮断することなんて朝飯前だよ。」

流石神様というべきか。

補助魔法で熱や冷気を抑え込むことは出来なくはないが、生憎、今このメンバーでそれが使用出来る者は居ない。

アトメントの場合は魔法によるものではなく、神様としてのいち能力と言ったところだ。



「…ところでだ…」

クライドはとても気だるそうに言う。


「…暑い…」

クライドらしからぬ言葉が出てビライトたちは驚くが、しかし、そう言われるとビライトたちの頬には汗が流れ落ちた。



「た、確かに…暑いかも…」

「…これは確かに厳しい…!一筋縄ではいかなさそうだ…!」

ビライトとレジェリーは段々身体のほてりを感じやがて体がようやく暑いということを認識しだしたようで、汗がぼたぼたと流れ落ちるようになった。


「ん?ワシは意外と大丈夫みてぇだ。武器作ってる時の方が暑いしよ。」

「へ、へぇ~…」

「う、羨ましい…」

「…フゥ…」


ヴァゴウ、アトメント、デーガ以外の3人は暑さでかなりしんどそうだ。


「ケッ、そんなんじゃ先が思いやれるぜ。」

デーガはやれやれとため息をつく。

「…行こう。」

クライドはそれだけ呟き、砂漠へと足を踏み出す。


「おいおい、強がらなくても良いぜ。」

「…問題ない。」

デーガはクライドを追いかける。


「…ほーん…お気に入りって感じだねぇ。」

アトメントはクライドの元へ行くデーガを見てニヤリと笑う。


「え?なんだって?」

「なーんでもねぇよ。さ、行こうぜ~」

アトメントはふわふわと浮きながら先に歩き出したクライドとデーガについていく。


「…い、行こうか。」

「えぇ…早く抜けちゃいましょ…!」

「大丈夫か?ビライト、レジェリーちゃん。しんどかったらおぶってやるからよ。」


「だ、大丈夫!平気だから!あたしこんなんで負けないんだから!」

レジェリーは子供扱いして欲しくなかったのか、見栄を張ってクライドたちを追いかける。



「俺も負けてられないな。」

「行こうぜッ。」

「うん。行こう。」


ビライトとヴァゴウが最後尾としてクライドたちを追う。


ビライトたちはついにストレンジ砂漠に入った。

--------------------------------------



ストレンジ砂漠の空には謎の物体がどういう原理か分からないまま浮いていたり、逆三角形の大きなオブジェが埋まっていたり、わずか数センチの海があったり、とにかくまるで色々な世界のものをごちゃ混ぜにして、何の整備も管理もなされていないような…まさに意味の分からないものが転がる、埋まっているゴミ捨て場のような場所であった。


「…あっつ~…」


「ホント…これは参った…」


ビライトとレジェリーは砂の熱さと照らす強い日差しで汗が流れる。

「水の備蓄はあるからな。一応常備しとけよ。」


ヴァゴウは買いだめしていた水をビライトたちに分配した。

「ありがとうオッサン…大事にしなきゃな…」

ビライトたちは水を少し飲み、余ったものは魔蔵庫にしまった。


「ホレ、クライド。なんかしんどそうだから多めに持っとけよ。」

「…あぁ…」

クライドは特にしんどそうだった。

獣人だからか、毛が余計に蒸れて暑いのだろう。


「いざとなったら手貸してやる。」

「…あぁ…」

デーガはクライドにそう言うが、クライドは暑すぎて空返事しか出来ないようだった。


「なんというか…師匠ってばクライドには結構優しいよね~…嫉妬しちゃうかも。」

レジェリーはクライドとデーガを見て呟く。

「レジェリーちゃんはホントにデーガが好きなんだな。」

「えぇ。あたしの大事な師匠だもん…カタストロフだってそう。あたしは…」

「必ず助けてやろうぜ。」

「うん。」



―――砂漠はどこまでも続く。あまりにも同じ景色が続く。


密林を歩いている時もそうだが、レミヘゾルはオールドと異なり、代わり映えの無い景色が続くことが多いようだ。

そして地平線の先にも何も見えてこないことが多く、本当にこの先にヒューシュタットと同じぐらいの大都市があるのかと疑いたくなるほどだった。




「なぁデーガ、アトメント…ここからトーキョー・ライブラリって…どのぐらいかかるんだ?」

ビライトはデーガとアトメントに問う。

「あー…そうだなぁ。まぁ3日もあれば行けんだろ。」

「だな。そんぐらいで間違いない。」


「…」

「3日…」



「…はぁ…」


あまり聞きたくはなかった言葉だった。クライドは特に大きくため息をついた。


普段ならここで間違いなく喚くのはレジェリーだが、今回はクライドが真っ先に音を上げそうだった。


「まぁ時期に夕方になる。そしたら暑さは和らぐぜ。」

アトメントはそう言うが、その後に待ち受けるのは極寒の夜だ。


「…俺は寒い方が良い。」

クライドはそう言うが…ビライトたちを始めとする3人はというと…

「あたし寒いのも…」

「ワシも寒いのはあんましだなァ…」


「み、みんな!こんなことで音を上げてたら駄目だ!頑張ろう!」

ビライトはなんとか皆を励まそうとするが、ビライト自身も顔が引きつっている。


「生物って大変だねェ~」

「他人事だなお前は。」

「お前も魔法でどうにでもなるだろ?」

「まぁな…」


アトメントとデーガは余裕の表情で歩き続けるものだから、ビライトたちはあの2人がうらやましいと感じていた…



--------------------------------------

やがて夕方になっていき、ストレンジ砂漠に入って最初の夜が訪れようとしていた。


今日が1日目、3日目に晴れてトーキョー・ライブラリだ。



「ね、ねぇ…寒くない?」

「あ、あぁ…さっきまであんなに暑かったのに…!」

レジェリーとビライトはブルッと身体を震わせる。


「これが砂漠ってやつか…」

「…フゥ…」


ヴァゴウはあまり変わりはないようだが、少し寒いと感じるようだ。

そしてクライドは先ほどのしんどい顔は見せなくなっていた。

素肌に直接来ない分、ビライトたちよりは寒さに耐性があるようだった。


「うし、今日はここらで一泊だ。夜営の支度を始めようぜ。」

アトメントは砂の丘の上に位置する何か良く分からない大きなオブジェを指さす。


オブジェは真四角で、真ん中には大きな空洞が開いていた。

そこだと風を凌げそうだ。寒さもある程度は遮断できる。



「は、早く行こう!」

「えぇ!あったかい火が恋しいわ!!」

ビライトとレジェリーは小走りでオブジェに向かう。


「生物って大変だねェ~」

「それはもう聞いた。さっさと行くぞ。」



ビライトたちはこのオブジェの中で夜を過ごすことになった…



―――


「「あ~~」」

「…」

「身に染みるなァ…」


ビライトたちは早速火を起こし、身体を温める。

さっきまで猛暑に苦しんでいたというのに、今は暑さが恋しくて仕方ない。

しかし、また翌日になると逆のことを思うのだろう。砂漠とは予想を遥かに超えて大変だということが身に染みたビライトたちであった。



「よし、飯出来たぞ!あったかいもん食べて身体を温めようぜ。」


ヴァゴウ飯の時間がやってきた。

今回は豪快に様々な食材を盛り合わせた巨大な鍋がぐつぐつと湯気を立てている。


「うわ~…あったかくて美味しそ~…」

「あぁ…いただきまーす…!」

ビライトとレジェリーは鍋から肉や野菜を取り皿に取り、口に運ぶ。



「ん~…おいし~…」

「あぁ…温まるなぁ…」

「…あぁ、そうだな。」

「ガハハ、たくさん食えよッ!」

笑顔がこぼれる晩飯の食卓を見つめるアトメントは微笑んだ。


「ホレ、デーガとアトメントもどうだ?」

ヴァゴウは取り皿に具材と汁を入れ、アトメントとデーガに手渡そうとする。


「俺は飯食わなくても生きてけるって。」

アトメントは相変わらずだが、デーガは…


「…飯…か。」

デーガも恐らくアトメントと同じく、食べなくても問題ないのだろう。だが、デーガはヴァゴウからその皿を受け取った。


「…ン…良い匂いだ。」

デーガはよく煮え、出汁がしっかり中まで浸透した肉を手に取り口に運んだ。

ほくほくと湯気が口の中から外へと流れだし、柔らかい触感にデーガは目を瞑る。


「あぁ…懐かしいな。これが…美味しいという気持ちだったっけなァ…忘れていた。」

デーガはしみじみと感じつつ、「もう少し頂こうか。」と言い、ヴァゴウたちの食卓に交じって食事を取った。


「デーガもアトメントと同じで食べなくても大丈夫な身体なんだな。」


「ん、あぁ…けど、食えないわけじゃねぇからな。それに…俺だって元々はお前らと何も変わらねぇ生物の一員だったんだからよ。」

だが、デーガ自身は食事と言う行為が本当に久しぶりだったようで、誰よりもその一口を堪能していた。

滅多に笑わないデーガだが、この時ばかりは口元が緩んでいた。


「えへへ、師匠美味しそうに食べるね!」

レジェリーはそれを見て微笑むが、デーガは「見てんじゃねぇ馬鹿」と恥ずかしそうに後ろを向いて、誰にも見られないように食べる。


「素直に美味しいと言えばいい。」

クライドはそう呟きながら食事をする。


「あんたもこないだまで1人で食べようとしてたけどね~」

「やかましい。」


「ホレホレどんどん煮えるぞ~デーガもクライドもたくさん食えよなッ!」


「オッサンは相変わらずだなぁ~、でもありがとう。オッサンの飯はいつも元気出るよ」

「ガハハ!作った甲斐があるってもんよ。たくさん食って明日も乗り切ろうぜッ!」


急ぐ旅路だ。だが、こういった時だけでも笑顔で旅をしたい。皆の気持ちは同じだった。

そしてこの楽しい気持ちを、キッカや、ボルドー、そしてカタストロフにも。いつか―――そんな気持ちを皆が胸に抱え、食事を囲むのであった。



--------------------------------------

食事を終えたビライトたち。


「このオブジェ、奥にも空洞があるな。」


「そうだな、中はあまり広くはないけどよ…後で火を移して中で眠るとしようぜ。」


オブジェの入り口付近で火を囲っていたが、更に奥に別の入り口があり、その中は空洞になっていた。

風や砂を防ぐにはもってこいだった。



「…よし、皆聞いてくれ。」

クライドがビライトたちに声をかける。


「実は俺とレジェリーは少し前から修行をしていた。強くなるためだ。」

クライドはこれまでレジェリーと修行をしていたことを告白した。


「あたしたち、まだまだ強くならなきゃ駄目だと思うの。だからビライトとヴァゴウさんも一緒にやらない?」

レジェリーはビライトとヴァゴウに提案した。



「みんなで修行か…うん、そうだよな。やろう!」

ビライトは既に1人で毎朝修行をしているが、1人で行う修行よりも、複数人で行う修行の方が出来る幅も増える。

「あ~…だったらよ。ワシからも話があるんだ。聞いてくれるか。」


ヴァゴウはここで初めて、皆に自分の身体に起こっていることを話した。ビライトには軽く話をしているが、レジェリーとクライドにこの話をするのは初めてだ。

今、ヴァゴウの身体は潜血覚醒が起こりやすい状態にある。


ヴァゴウは自分の肩を見せる。

そこには小さな岩の棘のようなものが無数に生えており、ヴァゴウが少し力を入れるとその棘が大きくなる。


「…潜血覚醒か…制御できていないのか?」

クライドはヴァゴウに問うが、返答に困りながらもヴァゴウは自信なさそうに首を横に振る。


「そういうわけじゃねぇんだが…イヤ、そうかもな。なんつーか…心の奥がザワつくっていうか…暴れたくなるっていうかよ…」

「ヴァゴウさん…それ、いつから?」

「あー…そうだな…ヒューシュタットからレミヘゾルに向かう前ぐらい…からだな。」

レジェリーはヴァゴウに聞くが、ヴァゴウは少し応えづらそうに言う


「そんな前から…!どうして言ってくれなかったのよ!」


「あー…悪かった。心配させたくなくてな。アーデンに向かう途中、どうしても抑えきれねぇ時があってな。そんときはアトメントが相手してくれたんだよ。結界張ってくれてな。」

ヴァゴウはアトメントを見て言う。アトメントは軽く手を振り、俺がやってやったんだぞと言わんばかりのアピールをしてきたが、とりあえずそこは皆無視する方向にした。


「でだ。修業するってなるとワシの課題はこの潜血覚醒をどうにか完全に制御下に置くことなンだよ。だからよ、場合によってはお前らも巻き込んじまうかもしれねぇって思うんだ。」

ヴァゴウは自身の衝動でビライトたちに危害が及ぶかもしれないことを酷く心配していた。


基本的に潜血覚醒を起こしても意思はある。そして制御も基本的にはできている。だが、長い時間潜血覚醒をせずにいるとそれは段々暴走衝動に変わっていってしまうのだ。


「デーガの試練でワシは潜血覚醒を引き起こした。だから今は大分落ち着いてはいるが…落ち着いてはいても少しでも意識すりゃこうだ。」

ヴァゴウは自分の左腕だけを潜血覚醒させて見せた。

左腕がバキバキと音を立てて大きなドラゴンの腕になっていく。


「…!」

自由に潜血覚醒が出来るようになっているヴァゴウではあるが、定期的に部分覚醒ではなく、全体を潜血覚醒させておかないと段々衝動に駆られるようになり、危険行為に出てしまうのだ。


「つーわけだ。なんというかよビライトがボルドーと修行してた時と同じような感じで潜血覚醒を積極的に引き起こして身体に順応させるのが一番の近道じゃねぇかと思うんだ。」

ヴァゴウは力を抜き、左腕は元に戻っていく。


「なるほど、ならばその状態を俺たちにも活かす方向で考えよう。」

「…どういうこった?」

クライドは腕を組んで考える。

そして、一つの答えを出した。


「お前は修行の時は潜血覚醒を遠慮なく行え。場所は選ぶことにはなるがな。そこで俺たちと手合わせすればいい。」

「それ、かなり荒療治すぎないか?」


クライドらしからぬ提案にビライトは疑問を持つが…


「ヴァゴウが潜血覚醒した時の能力は高い。今までの姿を見たところだと状況によって型を変えられる器用さも兼ね備えている。そんな相手と手合わせできるのならば良い修行になるだろう。違うか?」


「まぁ…それはそうかもしれないけど…」

「ち、違わないけど…良いのかしら…」

ビライトとレジェリーは少し迷っているが…


「――いンや、やってくれ。ワシもなるべくお前らを傷つけないよう、暴れないように努力する。いざとなったら止めてくれる奴らもいるしな。」

ヴァゴウはアトメントとデーガを見る。


「ん?俺に頼る?頼っちゃう?しょ~がねぇな~神様である俺に頼れるなんて光栄なことめったに(「はいはい。分かったから。お願いね、神様。」

アトメントの言葉を遮ってレジェリーはアトメントにお願いした。

「おいおい最後まで聞けって~お~い」



「って…待て待て。何で俺も含まれてんだよ。」


「一応抑止力だろ?頼りにしてる。」

ヴァゴウはデーガにもいざという時の保険をお願いした。

「ケッ、わーったよ。」

デーガはため息を吐き、渋々承諾した。




「よし、では修行を始める。今日はまずブレイブハーツを実際に試してみよう。」


「あっ、でも…」

ビライトは呟く。



「…ブレイブハーツってどうやって出すんだ?」



「「「……」」」


しーんと黙ってしまう一行。

「…クライド知ってる?」

「…いや…」

「ワシも知らねぇぞ?」

「…あ、あたしも知らないわよ?」


試練の時は無我夢中だった。

気が付いたらブレイブハーツに目覚めていて、気が付いたらブレイブハーツは解かれていた。

しかし、一度発現したのだから出せるだろうという感覚にあったのだ。

だが、まさかの全員知らないという事態が発生してしまった。


「ク、クライド!!あんたが言い出しっぺなんだから出し方知ってると思ったのに!何であんたも知らないのよッ!」

「うるさい、俺は試そうと言っただけだ。出し方を知っているとは言っていない。」

「言い訳じゃんそんなの!!」

「やかましい!俺にも知らぬことはある!」

「何よばーか!!」


口喧嘩を始めるレジェリーとクライド。


「えっと…そうなったら…」

「…元の所有者に聞くしかねぇよな…?」

ビライトとヴァゴウはデーガを見る。



「…」


「あっ、目逸らした。」

「おーい、デーガ!聞きてぇことがあるンだけどよ!」

「…ハァ…」




結局、ビライトたちはブレイブハーツの出し方が分からず、元々の所有者であるデーガに聞くことになった。


「…まず、ブレイブハーツは心の強さが力となったものだ。それは純粋な力や魔力…身体能力の大幅な向上はもちろんだが、この力は振るうだけであらゆる闇を照らす光となる。まさに勇者の力と言ったモンだ。心の力が高まった時でないと発現はしない。つまりだ。自分の意志で発動するもんじゃねぇんだよ。」


デーガの言うところによると、この力は自分の意志で発動するものではないらしい。


「誰かを守りたい、誰かを助けたい、絶望的状況から立ち上がりたい、勇気を振り絞りたい。そういった自身や誰かの命の危機や、誰かを想う強い思いにブレイブハーツは応えるんだよ。命の駆け引きもないような修行じゃブレイブハーツは応えてくれねぇ。つまり諦めて普通の修行してろってことだ。」


デーガは言うことだけ言ってまた黙り込んでしまった。


「…ってことらしいけど…どうする?」


「う~ん…自分の意志で発動出来ないんじゃどうにもならないわね…」

「…だが、俺は命がけでもブレイブハーツを使用した修行には価値はあると思う。」

クライドは命がけの修行に肯定意見を示した。


「えっ、正気なの!?修行で大怪我したらシャレにならないじゃない!」

レジェリーは反対するが…


「アトメント、デーガ。怪我の治療を任せられるか?」

「あぁ、構わねぇぜ。好きにしろよ。」

「無茶しすぎてどうなっても知らねぇぞ。」


アトメントとデーガはクライドの頼みに同意した。


「…つまり本気で手合わせして修行ってことになるのか…?」

ビライトはクライドに尋ねる。クライドは首を縦に振った。


「俺たちはこれから1度きりの命をかけて世界の脅威に立ち向かわなければならない。死の宴ではいくつもの死をくぐり抜けてきたが、これでも俺は足りないと思っている。もっと、もっと俺たちは力を付ける必要がある。」

クライドは命がけの修行を行うべきだと提案する。


「だが、俺も強制はしない。治療はアトメントとデーガに任せることは出来るが、危険であることに変わりはないからな。」


「…ワシはやるぜ。」

ヴァゴウはクライドの提案を呑む。

「オッサン…」


「生憎ワシは防御力には自信があるからな。それに全力でやる方が潜血覚醒の制御の近道にもなれそうだ。それによ、強くなりてぇ気持ちはワシも同じだ。」


「レジェリー、お前はどうする?」

「…あたしもやる。あたしも強くなりたいもん。だから手加減しないんだからね。」

クライドの言葉にレジェリーも決心を固めた。

「ビライトはどうする?」

ヴァゴウがビライトに聞くが…


「…やろう。ブレイブハーツのことをもっとよく知らないといけないし…本気には本気で応えたい。」

「よし、決まりだな。外に行くぞ。」

クライドは極寒の外に出るが…ビライトとレジェリーは寒さはやはり苦手のようで、少し身体を震わせながら外に出る。



突如として始まったブレイブハーツの力を試す為の本気の手合わせ。


ビライトはクライドと。


レジェリーはヴァゴウと。


ブレイブハーツの力を確かめる為。それぞれの力を確かめ合い、そしてより強い連携と絆を作る為の、本気の手合わせが幕を開けようとしていた…


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