Delighting World Break ⅩⅧ.Ⅴ
敵(?)キャラクター紹介
絶対悪・カタストロフ
・性別…男性
・年齢…1000万年以上
・身長…239.9cm
・体重…151kg
・種族…魔族・古代人:抑止力
・一人称…我
魔王デーガの中に居た魔王カタストロフの魂が密かに構築していた肉体を得て、瘴気の毒を一身に受けて、変貌した姿。
デーガの肉体を借りてカタストロフ人格になった時の姿をより禍々しく、より魔族に近づけた姿をしている。
絶対悪となったカタストロフは善の心を失い、眼前に移った者は全て殺し、世界の支配と崩壊を望むだけの存在となり果てたはずだが、カタストロフの善の心がまだ完全に消え切っていないようで、絶対悪化の後も眼前に映ったビライトたちを襲わず、レミヘゾル北に位置する廃都市、“トーキョー・ライブラリ”へと飛んで行った。
新パーティメンバー
古代人・魔王デーガ
・性別…男性
・年齢…1000万年以上
・身長…199.9cm
・体重…110.1kg
・種族…亜血魔族・古代人:抑止力
・一人称…俺
※8.5巻と同様
カタストロフの魂が別離した魔王デーガ。
カタストロフの魂が抜けたことにより、大幅に戦闘能力が弱体化しているが、抑止力の一柱ということもあり、カタストロフ不在でもその能力は高水準で、禁断魔法もリスクなしで使える。
昔のデーガは陽気で明るい性格だったが現在はカタストロフよりもドライであり、滅多に笑うこともなく全てにおいて気だるげで面倒臭いと思うことが多い。
かつての仲間、ジャイロの転生者であるクライドのことを第一に気にしており、他の仲間とは少しだけ対応が異なるぐらいにはクライドとは仲良くなりたい模様。
レジェリーやビライトたちと関わることで自分の中でとっくに消えてしまった心を取り戻せるかもしれないと、アルーラから期待されているようだ。
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用語・設定解説
~死の宴~
魔王デーガの使う結界魔法。
発動すると自身の思うがままの場所を作ることができ、更にこの結界内では43回の死が許されており、1回死ぬたびに手の甲に浮かび上がった43の数字が1ずつ減っていく。
43回死に、カウントダウンが0にならない限りは死んでも復活できるが、復活の際には外傷を受けた部分に強い痛みが残る。
魔王デーガと魔王カタストロフが世界に仇名すものや、個人の意思での怒りにより粛清する際に必ず行われている(ガジュール殺害時や、サベージ殺害時で発動していたのも死の宴である。ガジュール殺害の時は過剰な魔力を注ぎ込んでいたが、その際に死と復活を何度も繰り返していた為に遥かに速い速度でカウントダウンが減っていた。)
この結界魔法はデーガとカタストロフが同化している状態でないと使用できない特殊なものであるが、カタストロフは簡易的なものであれば行うことは可能のようだ
~ブレイブハーツ~
かつて世界統合前のレクシアという世界に存在していた、“誰にでも使える可能性のある勇者の力”として語られる伝説の魔法。
勇者の力としての認識をされているが、ブレイブハーツは生物の全てに眠る可能性のある心の力であり、それを力として行使できる人々のことを勇者と呼んでいた。
世界統合後も生物であれば誰しも使える可能性は保有している者ものの、それを力として行使出来る者は居なくなった。
力として行使出来る者はデーガしかいなくなったが、生物としての心の力が無いとブレイブハーツは発動出来ない為、抑止力として長い時間を生きて人の心を失いかけているデーガにはブレイブハーツを力として行使することはできない。
更にもう一つの特徴として、ブレイブハーツを力として行使する力、つまり素質を不特定多数に伝播させることができる特性を持っている。
魔王デーガはその特性を利用し、ビライトたちにブレイブハーツを行使できる素質を与え、ビライトたちはブレイブハーツを発動させることに成功した。
イビルライズに対抗できる唯一の手段だと言われており、ビライトたちがイビルライズに立ち向かい、キッカを助けるためには絶対に外せない力である。
そして心の力をほとんど失っている抑止力たちにはブレイブハーツが使えない為、ブレイブハーツを使えるようになったビライトたちがイビルライズを止める唯一の希望となっている。
~デーガのギター~
デーガが世界統合前から愛用していたギター。
ギターの名は“ブレイブハーツ”。
デーガが幼い頃に知り合いの魚人に貰ったものである。
何故この名前がつけられているのかは不明だが、ギターを持っていた魚人が勇者とゆかりのある人物だったのかもしれない…
~トーキョー・ライブラリ~
レミヘゾル北部に位置する廃都市で、絶対悪・カタストロフが向かった場所。
ヒューシュタットの技術の原点となった場所と言われているが、ヒューシュタットとトーキョー・ライブラリはそれぞれ違う世界から統合されたものなので、トーキョー・ライブラリの技術を誰かがヒューシュタットに持ち帰り、そこからヒューシュタットの技術はヒューシュタットの技術として独立していったものである。
ただし、原点はトーキョー・ライブラリであるため、ヒューシュタットの技術はトーキョー・ライブラリの技術に似ているものが多く、中にはそのまま流用されたものも存在する。
世界統合直後は多くの人で賑わう都市であったが、移動した場所が世界の果てであったことと、新しい世界の誕生に興味を持った人々が離れていき、最終的には人が大幅に減少して魔物たちが勝手に住み着くようになってしまったため、誰も住まない廃都市となってしまった。
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ショートストーリー
~ドラゴニアにて:ボルドー・バーンの居ない国~
「…!」
「…こ、これは…どういうことだ?」
ベルガ・バーンとクルト・シュヴァーンは驚愕していた。
玉座の間で商人との面会をしていた2人が自室に戻ると…なんと、ベッドの上にボルドー・バーンが眠っていたのだ。
「ボ、ボルドー様が…何故…!?」
クルトはボルドーの身体に近づく。
異常を確かめるために身体に触れるが…
「冷たい…それに…息をしていない。」
「――ム?」
ベルガはボルドーの腹の上に手紙が置かれているのを発見する。
「クルト、これは。」
「手紙…ですね。」
クルトは手紙の宛先を見る。
すると、そこにはベルガ、クルト、メルシィ、ゲキ。
4人の名前が書かれてあった。
「我々と…メルシィ様とゲキさんの名前…」
クルトは手紙の裏を見る。
「…レジェリーさん…!」
差出人はレジェリーだった。
「クルト、メルシィとゲキ殿を。」
「ハッ。直ちに手配いたします。」
「あぁ、クルト。ゆっくりでいい。身体を労われ。」
「…申し訳ありません。」
クルトの身体は限界が近かった。故に過剰に動くのは厳禁だ。クルトは歩いてメルシィを呼びに部屋の外に出た。
「…ボルドー…」
息もしていない。冷たい身体をしたボルドーの身体を触り…
「ビライト殿たちから聞いたぞ。無茶をしおって…バカ息子が…」
ベルガの目から一粒の涙が零れ落ちた―――
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「あなた!!」
先に来たのはメルシィだった。
酷く血相を変えて汗が流れ落ちている。よほど急いで来たのだろう。
「メルシィ。」
ベルガはボルドーの身体をメルシィに見せる。
するとメルシィはフラリフラリとボルドーの身体に近づき、その身体に触れる。
「あぁ…あなた…ッ…」
メルシィは今までずっと辛さをひた隠しにしてきた。だが、今回ばかりは溜まっていた感情が一気に噴き出したようでボルドーの身体に抱き着いて涙を流した。
「メルシィ…」
メルシィが落ち着いたころ、クルトがゲキを連れてやってきた。
「ベルガ様!ボルドーが…ボルドーの身体が現れたってマジなのか!?」
「あぁ、見てみろ。」
ゲキはボルドーの傍に泣くメルシィを横目に、ボルドーの身体に触れる。
「冷てぇ…それに…これ…死…」
ゲキは動揺を隠せずにいた。
ボルドーがどうなっていたか、そしてビライトたちがこれからボルドーを蘇らせるために動いていたこと。
皆はそれを知っている。故に今この状態は最悪の結末だったとでも言いたいのだろうか。
「皆様、手紙が置かれていました。レジェリーさんからです。読みますね。」
クルトは手紙を取り出し、その文章を読む。
――――――――――
ベルガ様、メルシィ様、クルト様、ゲキさん。レジェリーです。
突然ボルドー様の身体が現れたものだからきっと驚かれたと思います。
まずは落ち着いてこの手紙を読んでくれると嬉しいです。
あたしたちは今、未踏の地、レミヘゾルのアーデンという村の外れにある、あたしの師匠、魔王デーガの城の中に居ます。
あたしたちは師匠の試練に打ち勝ち、師匠の中に眠るもう一つの人格、魔王カタストロフによって、ボルドー様の身体を再生してもらうことに成功しました。
―――ですが、ボルドー様自身が再生を拒みました。
――――――――――
「…ボルドー様が…生き返ることを断った…?」
そんなことがあるのかとざわつく一同。
「…続きがあります。」
―――――――――
カタストロフはボルドー様に語りかけたそうです。
ボルドー様の肉体・精神・魂の一部がこの世界ではない別のどこかに居て、そこでやりたいことがあるそうです。
それを成し遂げたら必ず帰ってくるから待っていて欲しい。そう語ったそうです。
ボルドー様が何処に居て、何をしようとしているのか。それは残念ながらあたしたちには分かりません。
ですが、ボルドー様はきっと帰ってきます。あたしはそう信じています。だから皆様も信じて待ってあげてください。
カタストロフのスフィアレイズでボルドー様の肉体と精神情報の一部のみは復元出来ました。
あとはボルドー様が戻るときに、完全な状態となり、目を覚ますでしょう。
なので、カタストロフの魔法を使いボルドー様の身体をそちらへ転送しました。ゆっくり眠らせてあげてください。いつか目覚める時を信じて、待ってあげてください。
あたしたちはこれから更なる抑止力たちと会い、イビルライズに囚われているキッカちゃんを助け出す為に、更にレミヘゾルの奥へと進んでいきます。
この旅が無事に終わったら…みんなで帰ります。その時はボルドー様も一緒に迎えてくれると嬉しいです。
その時を楽しみにして、あたしたちは進みます。
ボルドー様のこと、お願いします。
レジェリー
――――――――――
「…以上です。」
「…」
「…ボルドー…やりたいことってなんなんだよ。ただでさえドラゴニアによくねぇ噂が広まってるってのに…それに…目の前に…いるのによぉ…」
ゲキは呟く。
「…そう、ですね…その問題もなんとかせねばなりません。」
現在のドラゴニアでは噂が飛び交っている。
それはボルドーの行方だ。
現在、ボルドーは特別な場所で治療が行われていることになっている。
だが、そんな付け焼刃の嘘ではもう限界だ。ドラゴニアはボルドー様死亡説、ボルドー様行方不明説、ボルドー様が国を捨てた説など、何処で広まったのか分からない噂が多く出回っている。
そして…噂だけではない。
ドラゴニアは優しい国だ。
全ての国民が国を愛している。
だが…グリーディ襲撃のあの日、ドラゴニアの外から来ていた人々も大勢いた。
そういう人たちはどうであろうか。
グリーディの襲撃で家族を失った別国の者も大勢いた。
そんな人々はやりようのない怒りや悲しみをこのドラゴニアに吐き捨てていた。
中には「お前たちが無能だから俺の家族は死んだ」と、泣きながら訴えに来る者も居る。
誰も悪くはない。ただ、怒りを、悲しみを、憎しみをどう処理して良いか分からない者というのは何かに当たることでその鬱憤を晴らしている。
ベルガはそのような者が来るたび、頭を下げて謝ることしか出来なかった。
「…情けないものだ。この国で生まれてしまった大きな傷を防ぐことすらできていない…」
ベルガも、そしてそれを聞くクルトやメルシィも、酷く心を痛めていた。
「あなた…やはり私たちだけではどうにもならないかもしれませんわ…でも…こうしてあなたが戻ってきた。目覚めなくてもいつか目覚めてくれると信じて…よろしいんですのね…?」
メルシィはボルドーの頭を撫で、呟いた。
「…ベルガ様…ボルドー様の行方についてはこのままでいかれますか?」
クルトはベルガに聞くが、ベルガは悩んでいるようだった。
「これ以上民に嘘をつくわけにはいかぬ…そうは思っている。」
「ドラゴニアなら…俺たちの国なら受け入れてくれると思うがな。俺は信じる。」
ゲキはそう言うが…
ベルガはしばらく悩むが…やがて「仕方あるまい」と呟いた。
「…ベルガ様。」
「…分かった。では…治療中であることはそのままに、ボルドーがこの城に居ること、そして意識が戻らぬが故、面会が出来ぬことを民に伝えよう。これならばおおむね真実であろう。」
「かしこまりました。では後日、ドラゴニアの街全域に知らせるよう段取りを致します。」
「あぁ…すまぬ。頼んだぞ。」
クルトは準備に取り掛かる為、ゆっくりと身体を動かして自室へと戻って行った。
「…クルト、何か元気ないな。疲れてるんじゃないのか。」
ゲキはクルトの秘密を知らないが故に、ただの体調不良だと思っているようだ。
「…アイツには無理をさせる…私は何も出来ぬ…歯痒いな…」
ベルガはそう呟きながら部屋を出る。
「ゲキ殿、せっかく来られたのだ。ゆっくりしていくといい。」
「あぁ、そうさせてもらいますわ。ボルドーの顔ももうちょっと見ておきたいしな。」
ベルガは頷き、部屋を出た。
「…メルシィ、大丈夫か?」
「大丈夫…ではないかもしれません。」
ボルドーに一歩引かせるほどの強い心を持っていたメルシィでさえ、この一件は相当堪えたらしい。
メルシィはボルドーを見つめるたびに心がぎゅっと締め付けられるように辛い気持ちになっていた。
「…主人は…戻ってきてくれるでしょうか…本当に。」
「…話が突拍子もなさすぎるもんな…だけど俺は信じる。アイツは…アイツはあんたを、息子を置いたままどっか行くような奴じゃねぇ。そうだろ?」
「えぇ…」
メルシィは呟いた。
「あなた、きっとあなたのことだから…お人よしのあなただから、きっと誰かを助けようとしてるんですよね。信じてますからね…必ず、帰ってきてください…必ず…」
メルシィはボルドーを見ながら傍のソファに座る。
「私の傍から…いなくならないで…」
「…ボルドー、待ってるからな。」
眠るボルドーが目覚めるその時まで、ドラゴニアは未来の王の帰還を待つ―――
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数日後、ボルドーの状態の知らせがドラゴニア中に広まった。
皆がボルドーの帰還を望んでいたが、今の現状はそこまで良いものではなく、民たちは酷く落ち込んだ。
他方から来た怒りや悲しみを何処に向けて良いか分からない人々の中には“ざまぁみろ”と罵る者も居た。
そんな人が出る度にドラゴニアのあちらこちらで喧嘩やトラブルが絶えなくなった。
特に多いのは親しい者を失ってやり場のない怒りを抱えるドラゴニアに住んでいたワービルト出身の民たちと、ボルドー様や国のことを悪く言うなと怒るドラゴニア国民との争いだった。
どちらの言い分も悪くはない。
そして、全員共通の認識で、グリーディに対する強い憎しみであった。
更には、それを引き起こしたかつてのガジュールが統制していたヒューシュタットにも恨みを持つ者も居るようだ。
最も、ガジュールの統制から解放されたヒューシュタットは、何も状況が分からずにいる。
ただ、ホウから事情を聴き、理解することしかできないため、誰かに恨みをぶつけられても“何故怒られなければならないのか”と感じてしまうだろう。
ドラゴニア・ワービルト・ヒューシュタットの三大国家は大きく荒れていた。
ただ1匹のドラゴンの襲来だけで、このオールドは大きく揺らいでいるのだ。
「…そうか、やはり混乱しているか。」
「えぇ…ですが、それと同時にようやく行方がハッキリしたということでホッとされた方も多いようです。」
ついに所在と状況を知ることができて喜んでいる者たちは、ボルドーの目ざめを祈って、今は復興に全力を注ごうと前向きに動き出した。
しかし、それを八つ当たりのように邪魔をしたりトラブルになったりする者たちも現れているのも事実であった。
「…嘘をつかなくて良くはなったが…だが、その代わり…ドラゴニアの治安が悪い方向に向かっているようだ…やはりボルドーが目覚めるまでは忙しなくなりそうであるな…」
「えぇ…」
その後、ボルドーは自室のベッドへと移動される。服を通気性の良いものへと着替えさせ、病院から少しだけ上半身を起こせる角度変更が可能なベッドを借り、そこで静かに寝かせることになった。
念のためクルトから依頼された医師が交代でボルドーの状態を確認できるような段取りを進め、ボルドーがいつ戻ってきてもいいようにした。
―――
メルシィはあれから毎日ボルドーの元に顔を出し、何時間も眠り続けるボルドーを眺めている。
「ブランク、パパは深く眠っているのよ。お寝坊さんね。」
「あう、ぱっぱ、ぱっぱ」
「そう、ぱっぱよ。」
ブランクと一緒にボルドーの傍に居続けるメルシィ。
そしてボルドーの状況など知るはずもない幼いブランク。
「…ブランクも、待ってますから。」
ボルドー・バーンの魂は忘却の空に。
いつか、彼が目覚めたその時たくさん怒ってやろう。
たくさん泣いてやろう。
たくさん…抱きしめてやろう。
愛する家族が帰るその時まで、メルシィは待ち続ける。いつか、あなたのやりたいことが叶うその時を願って――――
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ショートストーリーⅡ
~アルーラの帰還~
「ヴォロッド王、アルーラ戻りました。」
アルーラはビライトたちを見送った後、ワービルトへと戻っていた。
「ウム、よく戻った。」
ヴォロッドはいつものことだが、アルーラに不在の間のことは特に何も問わない。
アルーラは時折暇を貰い、デーガの様子を見に行ったりしていたので、これはよくあることであったのだ。
「ヴォロッド様、ドラゴニアの様子はいかがでしょうか。」
「ウム、ビライトたちが上手くいっているのだろう。レミヘゾルからボルドーの身体が送られてきたそうだ。」
「左様ですか。何とも妙な。」
アルーラはその時現地にいたのでもちろんこのことを知っているが、知らないふりをする。
「ウム、抑止力とやらは我々の常識を超えたことを平然と行えるようだ。興味深いな。いつか手合わせをしてみたいものだ。フッハハハハ!」
面白いと感じることにはヴォロッドはいつだって前向きだ。
「しかしボルドーは目覚めぬようだ。ベルガからの手紙には目覚めるのはいつになるか分からぬと書かれておる。」
「…そうですか…ドラゴニアは、無事に立ち直れるでしょうか。」
「どうだろうな…今ドラゴニアはかつてないほどに荒れておる。ドラゴニアの国民共は皆、王族を慕っておる。復興を全力で支援するドラゴニアの王族たちに感謝をしているであろうが…グリーディ襲撃で被害にあったのはドラゴニアの国民だけではない。我がワービルトや、他の地域から来た者にも多くの被害が及んでおる。」
「…そうですね、流通もまだ上手く行われておらず、あらゆる流通が麻痺しているようです。」
アルーラは留守にしている間の流通状態を確認しているが、やはりドラゴニアからの輸入輸出がまだ復興できておらず、麻痺しているようだ。
「…」
「どうかされましたか?」
ヴォロッドは少し浮かない顔を見せていた。
「いや、ボルドーが眠っている、目覚めるのはいつか分からぬ…というのがな。つまらぬと感じるのだ。」
「つまらぬ…ですか?」
「奴とは犬猿の仲…というものであろうか。いつも互いを高め合ってきた存在である。そんなボルドーがおらぬドラゴニアなど…我にとってはつまらぬ…ということだ。」
ワービルトとドラゴニアでは思考が異なるのは当然ではあるが、ヴォロッドにとってのドラゴニアは同盟国でもあり、ライバル国でもある。
その中でも特にボルドー・バーンに対してだけはより強いライバル意識を持っているヴォロッドは、ボルドーが意識が戻らぬまま眠っているという状況が気に入らないようだ。
「さらにだ。もっと気に入らぬこともある。」
「…と、言いますと?」
ヴォロッドはため息をつく。
「我が国の者たちもグリーディ襲撃で被害を受けている。そのやりどころのない悲しみや憎しみをドラゴニア国にぶつけておると報告があってな。中にはヒューシュタットを憎む者のいるようだ。」
「…嘆かわしいことです。気持ちは察しますが…誰かを、国を傷つけるのは間違っている。そんなことをしても…虚しいだけだ。」
アルーラもまた、ため息をついた。
「我が国の者たちがドラゴニア国の復興を遅らせている…というのであれば、こちらとしても対策を講じなければならぬ。ドラゴニアの復興が進まねば我が国の経済にも影響が出るのだ。」
ヴォロッドは立ちあがる。
「故に、私はこれよりドラゴニアへと向かうぞ。アルーラよ。」
「王自らお出になると…いうのですか?」
「ウム、私が直接出向き、嘆かわしい大馬鹿どもをまとめて成敗してくれようぞ。」
それもそれでどうなのだろう、とアルーラは思うが…こうなってしまったヴォロッドを止めることはアルーラでも難しい。
「分かりました…留守はお任せください。」
「ウム、お前に留守を任せるために私はお前の帰還を待っていたと言っても過言ではない!ファルトを呼べ!まずはヒューシュタットに行き、ホウに会いに行く!その後にドラゴニアに行くぞッ!1週間は戻らぬと覚悟せよ!ワハハハハ!!!」
ヴォロッドはやけに楽しそうな表情を見せる。
ヒューシュタットでの戦い以来、ヒューシュタットは元の状態に戻りつつも流通や経済などのインフラを始めとする、あらゆる状況を元に戻そうと全力を注いでいる。
ホウの采配が良いのか、その成長ぶりは大変素晴らしいものだと感じている。
そしてドラゴニアもグリーディ襲撃を経て、少しずつだが元の街並みを取り戻している。
ヒューシュタットやワービルトからの応援もあり、その回復力も素晴らしいものだと感じる。
だが、ワービルトに至っては何も変わっていない。
ヒューシュタットの戦いから特に変わったことも無く、ヴォロッドは非常に退屈していた。
故に今回、ドラゴニアで起こっているワービルトの不始末を自ら処理することで、退屈を紛らわせようとしているようだ。
「…相変わらず豪快なお方だ。」
アルーラは勢いよく出ていくヴォロッドを見て、小さく微笑んだ。
そして空を見上げ…
「こちらのことは任せておけ。だから…ビライトたちよ…デーガ様を、頼んだぞ。」
アルーラは遠くの地で旅を続けるビライトたちにそう語るのであった。
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ショートストーリーⅢ
~魔王デーガと冒険者たち~
アーデンを出て北を目指すビライトたち一行。
1日歩くが景色は未だに森。
アトメントが言う砂漠というものはまだ見えてこない。
「ここをずっと北に行けば、“ストレンジ砂漠”だ。なーんにもない砂だけの過酷な環境だが、昔からその環境に適応した魔物たちや動物たちも暮らしているが…色んな世界の片鱗が混ざっていてな。ただの砂漠じゃないんだぜ。」
アトメントがこの先の砂漠、ストレンジ砂漠について説明する。
「色んな世界の片鱗って?」
レジェリーが訊ねる。
「そうだな、例えば真四角の形をした岩がどういう原理か分からず浮いているとか…三角の形をした遺跡がさかさまになって埋まっているとか…直径1mしかない海とか?」
「…なにそれ…」
「だから色んな世界の片鱗や不必要なモンがあちこちに散らばってんの。おもしれぇだろ。」
「まるで奇妙なゴミ捨て場…だな…」
クライドは呟く。
世界の色々なものが無造作に落ちている、考えられないような原理が散らばっている。
そして誰にも干渉されない、誰も住んでいない過酷な環境だ。
「アトメント、ストレンジ砂漠にはいつ出られるんだ?」
ビライトはアトメントに質問する。
「ん~そうだな、あと3日ぐらい?」
「3日!?そんなに~!?」
レジェリーは、はぁとため息をつく。
「あと1日もあればストレンジ砂漠に出る。適当なこと言ってんじゃねぇよ」
「ありゃ~バレた?」
アトメントはデーガに言われ、ヘラヘラと笑いながら歩き続ける。
「けど、3日密林に居た方が幸せだったかもな。ストレンジ砂漠は過酷だ。生半可な気持ちだと死ぬぞ。」
デーガはそう言いながら、木々を避けて歩き続ける。
「師匠は砂漠を歩いたことあるんだ。」
「昔の話だ。」
「ふ~ん、師匠的にはどんな感じ?」
「…行けば分かんだろ。」
「えへへ~」
「…ンだよ気持ちわりぃ。」
「師匠とこうやってお喋りするの楽しいな~って」
「あっそ。」
レジェリーはデーガと会話しているだけで楽しいようだ。
だが、デーガはいつだってめんどくさそうだ。かったるい顔をしてレジェリーの話を適当に流している。
「…ありゃぁ会話してるっていうのかァ?」
「言わんだろう。」
後ろで歩くヴァゴウとクライドはそう呟くが、ビライトはというとレジェリーと同じでデーガと積極的にコミュニケーションを取ろうとしている様子がうかがえる。
「…カタストロフ、大丈夫かな。」
ビライトはカタストロフを心配して呟く。
「どーだかな。もうアイツを感じねぇ。あれだけ長く居たんだ。離れていても繋がっているなんて…クッサイセリフの一つでも吐ければどんなに楽か。」
「…でも、カタストロフはまだ抗っているんだろ。だったら…信じるしかないよな。」
ビライトは前向きに言うが、デーガはどっちつかずの気持ちでいた。と、いうより考えがまとまっていないのだ。
「…お前らはイビルライズのことだけ考えてりゃいーんだよ。カタストロフのことは俺がケリをつけてやる。」
デーガは1人でもカタストロフと対峙しようとしている。その目は本気でカタストロフをぶん殴ってやろうという気持ちを一身に感じる程だった。
「ブレイブハーツが使えないお前じゃ無理だろ。」
「ンだとてめぇ喧嘩売ってんのかよ。」
「素直にビライトたちに頼ってりゃいいんだよバーカ。」
「こんのやろ!!」
アトメントはデーガを挑発し、謎の追いかけっこが始まった。
「あっずるい!あたしも!」
レジェリーはレジェリーでデーガにべったりだ。カタストロフのことも気にしている様子はあるが、これから助けに行くんだと前向きに捉えているようで、今は元気に振舞っているようだ…
「なんというか…抑止力っていう凄い存在なのに…」
「意外に普通なところもあンだよな。」
ヴァゴウとビライトはその光景を見て、アトメントやデーガも少しドライなところはあるが、基本的には自分たちと変わらないんだと感じる。
「大体俺だってブレイブハーツさえ使えりゃお前らに頼まねぇっての!!」
「でもカタストロフにはボルドーさんを助けてもらった恩があるんだ。それにカタストロフは悪い存在じゃないと思うから。」
「そう言ってもらえるだけ、あいつは幸せモンだな…っと!いつまで逃げてんだゴルアアアア!!!」
「カタストロフが抜けたお前なんか敵じゃねぇっての!」
「この野郎…今ここで決着つけてもいいんだぞ!」
「あ~?やろうての?」
喧嘩腰の2人。
「今なら序列4位のお前に勝てるかもなァ。」
「あぁ?調子乗んなよ5位。」
「あっ、てめ!俺の序列言うなッ!」
(5位なんだ)
(5位だったのね)
(5位だったようだ)
(5位かァ)
「…あー、おい落ち着け。お前らが争ったらこの辺一帯焼け野原だ。それにうるさい。」
クライドはしびれを切らし、2人に声をかける。
「ケッ。」
「へへ。」
アトメントもデーガもその言葉で追いかけっこを辞め、デーガはそっぽを向き、アトメントは舌を出して挑発する。
「あはは…なんというか…」
「えへへ!元気だよね。あたしたちも元気出していかなきゃね!」
レジェリーは2人を見て笑っている。
「そうだな。たまにはこういうのも良いよな。」
「おう、頑張って元気出して行こうぜ。」
ビライト、レジェリー、ヴァゴウの3人は揉めているデーガ、アトメントと仲裁しているクライドを見て、微笑ましさを感じた。
最初に事を起こしたのはアトメントだが、なんだかんだで笑い話のような揉め方なので、アトメントなりの気配りだったのかそれは分からないが、少なくともビライトたちにとっては前向きな気持ちになれるような、楽しい時間だった。
ひと段落したところでクライドはレジェリーの元へと行く。
「レジェリー、今夜から修行再開だ。まだまだ俺たちは強くならねばならんからな。それにブレイブハーツを試したい。」
「あたしもそれは思ってた。付き合ったげるわよ。」
クライドとレジェリーは再び強くなるための修行を再開することにした。
「でだ、隠す必要もあるまい。ビライトとヴァゴウにも伝える。そして皆を巻き込んで行うぞ。」
「へぇ…あんたにしては良い事言うじゃん。」
「2人より4人、だ。」
「あんたホント変わったよね。」
「…先に行くぞ。」
クライドはレジェリーの言葉を受け流し、先を歩く。
「照れてんのかしら…そんなわけないわよね。」
まもなく、砂漠に入る。
そしてその先は絶対悪・カタストロフの居る廃都市、トーキョー・ライブラリだ。
しかし、まだビライトたちは知らなかった。
この先にある砂漠にも、新たな抑止力の試練が待ち受けていることを・・・
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次回のDelighting World!!!!!
俺こそが世界の戦を司りし八神の一神、抑止力のアトメント様だ。
ストレンジ砂漠に足を踏み入れたビライトたちと俺だけどよ。
ブレイブハーツの力を試す為に本気で手合わせするって言うんだぜ。熱い奴らだよなァ。
まぁそれはともかく。
なーんか砂漠が妙なんだよな~砂漠が。
砂漠を歩く途中で急に魔力が満ちはじめてあらゆる自然が魔力を帯びて暴走しちまってる。
こいつはもしかしたら…“アイツ”がビライトたちを試してるのかもしれねぇぜ。
おっと、でっかい砂嵐だ。こいつはまた散り散りの予感がするな。
だとしたら抑止力の俺とデーガは見守るだけだ。
カタストロフの居るトーキョー・ライブラリを目指す前の肩慣らしと行こうじゃねぇの?
しっかりブレイブハーツに慣れておけよな。
次回、第五章
ストレンジ砂漠編
~砂漠・修行のち、大災害?~
さぁて、無事に砂漠超えが出来るかな?それが出来れば…大きく前進できそうだぜ?