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Delighting World  作者: ゼル
Break 第四章 魔王城編 ~死の宴と勇気の心(ブレイブハーツ)~
80/139

Delighting World Break ⅩⅥ

魔王デーガの試練、死の宴。

特殊な結界内で繰り広げられるビライトたちと魔王デーガの戦いは想像を絶する条件での戦いだ。


死の宴内では死を44回迎えるまで死ぬことを許されない結界であった。

ビライトたちは早々に死の宴内でバラバラになってしまった。


早期に合流出来たビライト・レジェリー・クライドであったが、途中経過の報告をアルーラから受けた3人は、唯一合流できていないヴァゴウが既に20回死亡していることに動揺する。


魔王デーガと会敵している可能性が高いと判断し、ビライトたちは魔王デーガの元へと急ぐ。


しかし、魔王デーガは遠距離から即死級の攻撃を放つ感知射撃魔法“センサー・オブ・カタストロフ”によりなかなか近づけずにいた。


そんな最中、ヴァゴウは魔王デーガによって何度も殺され、満身創痍となっていた。

潜血覚醒を発現させ、抵抗を試みるも、抑止力として本気を出し立ち塞がる魔王デーガに対して、ヴァゴウはあまりにも力不足だった。



ビライトたちを信じて待ちながら何度も殺され、やがて心が折れかかったその時、ビライトたちは何度かの死を乗り越え、ついに魔王デーガの元へとたどり着いたのだった。


ついに4人が揃い、魔王デーガは不敵に微笑んだ。



ここからが本当の抑止力の試練となるのだった。



残り死数


ビライト・シューゲン あと38回

ヴァゴウ・オーディル あと17回

レジェリー・ウィック あと37回

クライド・ネムレス  あと40回




--------------------------------------



「さぁて、お前たちの実力を見せてもらおうじゃねぇか。最も、死を乗り越え、心折れずにセンサー・オブ・カタストロフをかいくぐってきた時点で十分ご立派だが…果たして4人がかりでも俺の身体に一撃与えることができるかな?」


魔王デーガの魔力は依然溢れ続けている。

ヴァゴウと会敵してから今に至るまで、少しの消費もできていないことが分かる。魔王デーガの魔力は1000万年以上蓄積され、あふれ出している。

それだけではない、魔族は魔法の原点を生み出した始祖と言われている。

そんな者の王が持つ魔限値はきっとビライトたちの物差しでは測れないほど絶大なものだ。


最早これから先は、死などに怯えている場合ではない。4人で力を合わせ、魔王デーガに一撃を与えなければならないのだから。




「俺たちは…絶対に乗り越えて見せる…!」

ビライトは鋭い目で魔王デーガを睨む。

その目はメギラエンハンスが発動していて、獣のような目をしており、髪の毛が逆立っている。


「なるほど、アトメントから聞いてはいたが…メギラの力を有しているってのはマジみたいだな。お前ももはや普通ではないってわけだ。」


メギラの力は抑止力と同等とはいかないが、それに近いだけの力を秘めている。故にデーガ自身もあまり軽い気持ちでビライトを見ることはない。むしろ、警戒に値する。


「うし、ひとまずだ。ここまで辿り着き、そして耐え抜いたお前たちに少しだけサービスをしてやるよ。」

「何!?」


デーガは右手を前に差し出した。

すると、そこから赤い光が現れ、その光は4つに分かれて拡散していく。


それはビライトたち4人に目掛けてくる。

「!」

「気を付けろ!」


その光を躱そうと試みるビライト達だが…

「そいつは避けなくてもいいぜ。攻撃じゃねぇ。」

後ろで見ていたアトメントがビライトたちに言う。


「…!」

ビライトたち4人に赤い光がまとわりつき、そしてそれは身体に浸透していくように消えていった。


「…何をした…?」

クライドがデーガに問う。

「へっ、ちょっとした力を発動する“素質”を与えた。それを発現させることができれば、俺の防御壁を打ち破れるかもしれねぇぞ?」


「素質…?」

「それを発現させる手段は分かんないけど、とにかく…可能性を与えたってことね。」


「そーいうことだ…ってことで、会話は終わりだ。少しは休めたかよ…?」

目を大きく開き、魔力を更に放出するデーガ。


「こっからはマジだ。精々心ぶっ壊れねぇようにすることだなッ!!!」


「ぐ…大地が…揺れているのか!」

「と、とんでもない…!さっきまでもヤバかったけど…それを超えるぐらい強い魔力…!」

デーガを中心として大地は揺れ、そして身にまとう紫色の魔力からは触れただけで死んでしまいそうなほど高密度の雷が輝きを増す。


「クッ、ハハハハハハッ!!!」


紫に光り輝く目と、不敵に口を大きく開けて笑う。


「さぁ…見せてみろ…!」

デーガの身体がゆらりと前へと動く。

その動きを見逃さないビライトはすぐに大剣を構える。

(来る!)


「魔法の準備をするわ!」

「…ッ…」

レジェリーは魔法の準備に入る。そしてヴァゴウは度重なる連続した死の影響でまだ上手く動けずにいる。


「オラァッ!!!」

「はああっ!!!」

デーガは足を思いっきり踏み出し前進。一瞬でビライトの前まで突っ込んでくるが、ビライトは大剣を前に振り、デーガは拳で受け止めた。


「くっ…!ぐぐっ!」

「こいつを受け止めるか!おもしれぇ!」


「相手はビライトだけではない。」

クライドは空からデーガを狙って足技を振るう。


それは防御壁に命中するが…


「おっと、それは自殺行為だぜクライド。」

「何…ッ!」

「!これは…!」


防御壁と接触したクライドの足、そしてビライトの手に変化が起こった。


「うっ…ああ…!?」


「!ビライト!クライド!」


2人の接触した部分が黒く染まり、そして…砕け散った。


「うあああっ!?」

「クッ…!?」


ビライトの右手は砕け散り、そしてクライドの左足も同じように砕け散り、そのまま身体全体が防御壁と接触してしまったクライドは全身が黒く染まり、砕け散ってしまったのだ。



「この防御壁はいわば高濃度の魔力で出来てんだよ。迂闊に触れようものなら…こうだぜ。」

「っぐ!?」

ビライトの首元をデーガが掴む。すると、ビライトの身体が黒く染まっていく。

「う、あぁ…!?」


「まずは1回。」

ビライトの身体は黒くなり砕け散る。


「このおおっ!!グランドヴォルケーノ!」

レジェリーは上級魔法の火属性魔法を撃ちこむ。

火の柱がデーガの左右に出現し、それはぐるぐる回り、デーガに集まり燃え盛る。

「へぇ、上級魔法使えるようになったのか。」

それを受けても顔色一つ変えないデーガ。


「あたしは…もっと強くなるのよ!師匠だって超えるんだから!」

「フン、その程度だとババアになっても超えられやしねぇよ。」

「くっ、馬鹿にすんじゃないわよ!」


「火属性魔法、グランドヴォルケーノね。」

デーガは手を横にあげ、手のひらに朱色の魔法陣を展開する。


「良いか?本当のグランドヴォルケーノはこうだ。骨身に刻んどけ。」

「えっ、ぐっ、あああっ?!」

「レジェリーちゃん…!」


レジェリーが放ったヴォルケーノとは大きさも威力も桁違いの炎の柱がレジェリーを焼き尽くす。


「まだまだだなぁ。レジェリー。」




「はああっ!」

「はっ!」


次は復活したビライトとクライドだ。


今度は接触しないように気を付けながらも、ビライトは魔力を纏わせた大剣を振るう。

そしてクライドは魔力を纏った足でデーガの防御壁へ叩きつける。



「ほう、魔力を纏わせたか。」


「クライド、ちゃんと中和出来てる!効果的だ!」

「あぁ。」


クライドがビライトと自身に魔力の膜を張ったのだ。

身体との接触が出来ないならば、膜を張って魔力の侵食を中和しているのだ。

しかし、防御壁には全く手ごたえはない。


「工夫は認めるが…それでこいつを破れる程生ぬるくはねぇぞッ!!」

デーガはビライトの振りかざす大剣を片手で受け止める。


「ぐぐっ…!」


「メギラエンハンスだっけ?お前はまだその真価を発揮出来てねぇみたいだな。」

「くっ…!」

「メギラの馬鹿力はこんなもんじゃねぇ。お前はまだまだ半端もんだ。」

デーガはもう片手でビライトの腹に爪を立て、切り裂いた。


「あぐっ…!?」

そしてデーガから伝った魔力は再びビライトの身体を黒く染め、その命もろとも砕かれた。




「で、お前はこうだッ!」

頭上から連撃を叩き込み続けているクライド。

デーガは高く飛び、クライドを尻尾で叩きつける。

「速い…!?」

「お前が遅いんだよ。」

デーガは地面に落ちたクライドを上部から勢いよく身体ごと貫いた。





「せっかくジャイロが力貸してやってんのにその程度じゃ興ざめだぞ?」


デーガは小さくため息をつき、そして魔法を撃とうとしているレジェリーと、未だ動けずにいるヴァゴウを見る。


「どうした?お前らはその程度か?」


「ぬかしなさいよ…あたしはまだまだやれる!」

「…なめ…んな…!」


レジェリーは魔法を放つ。そしてヴァゴウも武器を召喚し、デーガに向かって放つ。

だが…


「ヌルいっつーの。」

まず先に来たヴァゴウの武器をまたしても片手で受け止め、それを勢いよくヴァゴウに向かって投げる。

「グアッ…!」

ヴァゴウは頭部を狙われていたがそれを間一髪で躱そうとするが、右肩を貫いてしまった。


そしてレジェリーの魔法はまるで当たっていないかのように無傷であり…

「ひっ!?ぐっ…!?」


一瞬で懐へ。

その大きな手で身体を掴まれ、身体が黒く染まっていく。

「いっ…ぐっ…!」

痛みというより、何かが体の中に蠢き、中から潰してくるような気持ちの悪い感触だ。


これまでの死はほぼ即死だった。

痛みもほんの一瞬のレベルであったが、これは即死ではなくじわじわと来るタイプだ。


やがて感触は痛みへと変わっていき、内部から何かが飛び出そうとするような激痛に見舞われる。

「あっ、がっ…」


「レジェリーちゃん…!」

ヴァゴウがフラッと立ち上がりデーガに迫るが…

「ぐうッ…クッソ…」


もはや見ていなくてもヴァゴウの動きは捕らえられ、アッサリとサーチ・オブ・カタストロフと同じ光線により心臓を撃ち抜かれた。




「ま、努力は認めてやるがな。」

「し…師しょ…」





--------------------------------------


それからもビライトたちはどうにか防御壁を崩す為に様々の方法を試しながら戦った。



力づくから、複数同時攻撃、連携攻撃、魔法の連続射出。


持てる限りの力をデーガに目掛けて攻撃するが、デーガは涼しい顔でそれをことごとく打ち砕き、そして返り討ちにしていく。



「ハァ…ハァ…どうすれば…いいんだ…ッ…」

「ハッ、ハッ…あたし…もう…ヤバイ…」


「諦めるな…まだ手は…」


「…」


弱音が出てきている。

しかし、弱音が出てくるのは当然だ。4人のカウントダウンはどんどん減っていった。




ビライトはレジェリーとクライド、そしてヴァゴウの手の甲を見る。そして自分の手の甲も見た。



(あと…14回…こんなに…減ってしまったのか…!それに…オッサンはもう限界だ…)


ビライトは特に状態がよくないヴァゴウを気にかける。

ヴァゴウの手の甲のカウントダウンは10回を切っていた。



ビライト・シューゲン あと14回

ヴァゴウ・オーディル あと9回

レジェリー・ウィック あと16回

クライド・ネムレス  あと15回





「…マズイ…このままだと何も出来ずに終わる…!」



「どうした?こんなもんか?」

「ッ…グッ…!!」


デーガからの攻撃の勢いが強くなっていく。

ビライトたちは成す術もなくただひたすらにやられ続けていた。



(このままじゃ本当にマズイ…!何か…何か手は…)





―――ちょっとした力を発動する“素質”を与えた。それを発現させることができれば、俺の防御壁を打ち破れるかもしれねぇぞ?




(…魔王デーガが俺たちに与えた“素質”…そしてその力の正体…それが分かれば…!けど、それが何なのか分からない…!)


「このっ…!」


「遅いぜッ!」


満身創痍の3人を後ろにビライトは単身デーガとメギラエンハンスで渡り合う。だがデーガの方が何枚も上手だ。

メギラエンハンスで力が大幅に増していても届かない。

それほど遠い存在であってもビライトの目はまだ諦めの目を見せなかった。


「ッ、ハッ、ハッ…」


「まだまだ諦めてない良い目をしている。だがまだ足りねぇ。」

「くそおっ!!」

余裕の表情を見せ続けるデーガ。ビライトは必死にその攻撃に食らいつこうとしているが、やはり力の差。ビライトの攻撃は全て防御壁により無と化し、そしてデーガの攻撃を受け、身体が黒く腐敗していく。

「ぐっ…アァッ…」


「ビライト…!」

「まだだぁっ!!」


レジェリーの呼びかけに応えずビライトは再び大剣を持って突っ込んだ。


「待てビライト…!闇雲に突っ込んでも意味がないぞ…!」

クライドもビライトを引き留めるが、必死になったビライトには何も届かない。


「…それじゃいつまで経っても駄目だ。」

デーガがそう呟いたと同時にビライトの額にはデーガの手が乗っていた。


「死ね。」


その言葉と同時にビライトの頭は黒く染まり砕かれた。


ビライトだった黒い塵を見て、レジェリーは拳を強く握る。


「悔しい…!あたしたちじゃまるで…歯が立たないじゃない…!やっぱり…駄目だったんだ…!」


「レジェリー、心を強く持て…まだ、終わりではない。まだカウントダウンは0になっていない…」

クライドはレジェリーに声をかけるが、レジェリーは頭を抱えて涙を流している。

「…」

ヴァゴウも言葉が出ず、座り込んで放心状態に近い状態になってしまっている。


「しっかりしろ!!」

クライドが大声を上げる。

その声と同時にビライトも復活し、悔しい表情を浮かべながらクライドを見る。


ビライトもまた、自分の力の未熟さを恨み、絶望する。


「お前たちの旅はこんなところで終わるのか…!ここで負ければ…お前たちの大事なものは二度と戻ってこないのだぞ!まだお前たちは“取り戻せる”!俺とは違うんだ…その手で掴める可能性があるのなら…それを掴め!救える可能性があるならば…救って見せろ!」

クライドは短剣を構えてデーガに向かって走る。


「来るかクライド。」

「おおおお!!!」

クライドは高く跳躍する。


「無駄だぜ!」

「見切った!」

「おっ!?」


クライドの目が一瞬まるで違う人物の目のように鋭くなり、デーガの爪を足で受け流し、短剣で防御壁に一撃を与えた。

「はっ!!」

クライドの動きが素早くなっていく。

明かにこれまでとは動き方が違う。

「ほう、この動き…!」

「はああああっ!!」

クライドの魔力が纏われた回し蹴りがデーガの防御壁にヒットした。

バチッと大きな音を立てる防御壁にクライドは手ごたえを感じた。


「その力…転生者の力だな。」


「そのようだ。俺の中に知らない何かが流れてくるようだ…!」

クライドは足技の連撃をデーガの防御壁に命中させ続ける。


ついに防戦になったデーガ。クライドの連撃は今までに聞いたことのないクライドの咆哮と共に繰り出される。


「やるじゃねぇか…それに…これはジャイロの力だけじゃねぇ。発現しつつあるようだな…!」

「何をブツブツ言っている!」


「へっ、良い傾向だってことだよッ!」

「ッ…!」


デーガの拳を握り、クライドの足技に対抗する。

あっという間に防戦一方となってしまうクライドだが、負けじとなんとか対等に持ち込もうと位置を変えたり、攻撃の時間やリズムを変えたり瞬時に戦い方を変えながらデーガに対抗する。



(1人発現の兆しが見られたら…もう一息か?)

デーガの中から声が聞こえる。

「あぁ、もう一息かもな。」


「俺は…最後まで諦めん!必ず俺は…依頼を全うし、これまでの全てを清算する!そして…新しい道を歩むと決めたのだッ!」


「へっ、良い夢じゃねぇか。諦めない心ってのは良いモンだな。」

デーガはそう呟き、そして…


「オラッ!!!聞いてんのかテメェらァッ!!!!」


大声を出すデーガ。相手は動けずにいるビライトたち3人だ。


「テメェらの根性はそんなもんかッ!テメェらの仲間が諦めずに戦ってんだッ!!!仲間を見ろッ!!立ち向かう仲間の姿を見ろッ!!それも出来ねぇならとっとと死ねッ!!!」


デーガの魔力が更に増大した。

黒い魔力が衝撃波となりビライトたちを襲う。


「ぐああっ!?」

「っ!?」

「…ッ…」

衝撃波はビライトたちを黒く侵食させる。


「…!」

動けない。身体が動かせないビライトたちの頭上にはデーガが恐ろしい形相でこちらを見ている。

右手には衝撃波を食らい動けなくなったところを掴み、首をへし折られたクライド。

「戦うつもりがねぇならてめぇのカウントが0になるまでぶっ殺し続けてもいいんだぞ…!」


「…クラ…イド…!」



「いいや、0になっても構いやしねぇ。この場でてめぇら全員亡き者にしてやってもいいんだぞ。」

「く…ぐっ…」


「―――戦意喪失は敗北とみなす。宴は終わりだ。」

デーガはそう呟き、結界を解こうとするが…デーガの防御壁に何かが命中した。

「…あ?」


「…」

ヴァゴウだった。武器を召喚し、剣を飛ばしてデーガの防御壁にぶつけたのだ。


「…あンだよ、まだやれんじゃねぇか。」


「…目ェ…覚めたんだよ…!ワシは何のためにここに居る…!何度も言い聞かせなきゃ分からねぇかァッ!!!ワシはッ!!!!グルァァァーーーーッ!!!」

ヴァゴウは叫ぶ。

身体が大きくなり、姿を変えたそれは潜血覚醒だ。


武器を無数に召喚し、一斉に発射。

「…どこにそんな力が?」

「ガアアッ!!!」


ヴァゴウの気力も魔力もほぼ切れかかっているはずだ。それは魔力を感知できるデーガも知っている。だが、ヴァゴウの魔力は飛躍的に上昇している。


「こいつも…兆しありかッ!」

デーガの表情が険しくなる。

「合わせろッ!」


デーガの手から離れた復活したクライドはヴァゴウの背に乗り、ヴァゴウの拳と、ヴァゴウのスピードを利用してクライドの足技が勢いよく同時にデーガの防御壁を揺らした。

「…!」

防御壁からバチッと魔力がはじける音が聞こえた。

「…ヒビだ!いけるぞヴァゴウッ!」

「グルアアアアーーーーーッ!!!」

ヴァゴウの叫びと共にクライドも気合を入れて叫ぶ。

防御壁に触れた影響で右足が黒く腐敗し、砕けそうだ。だがクライドは左足を使い、再びヴァゴウと同時に防御壁に一撃を加えた。


「やるなッ!」



「諦めんぞッ…!」

「グルァッ!!」

ヴァゴウの目も訴えていた。諦めない。絶対に全てを取り戻す。そのためにこの試練を超えて見せる。


クライドとヴァゴウは攻撃の度に身体を崩し、死ぬ。

だが、それでも何度も立ち上がり防御壁を狙い続ける。


それを受け止めるデーガは何も手出しをしなかった。

(もう少しだ。もう少しだぜ。)

デーガは小さく微笑んでいた。



「…クライド…オッサン…」

メギラエンハンスも解かれ、限界を感じるビライト。


「ビライト…」

だが、そんなビライトを見てレジェリーは手を掴んだ。


「レジェリー…?」

「しっかり…しようよ…あたしたちも…!こんなところで呆けてる場合じゃないよッ…!」

座り込んでいたレジェリーは立ち上がり、杖を構える。


「何度死んだって良い…あたしは…そうよ、あたしはレジェリー・ウィック…伝説の英雄トナヤとウィックの血を引く者…あたしは世界一素敵な魔法使いになるんだッ!!」

レジェリーは魔法陣を展開。それは赤い魔法陣だった。


「禁断魔法…!」



「天地を砕く灼熱の業火の煌めきよッ!シューティング…プロミネンス!!」


レジェリーの杖から炎を纏った流星群が発射される。

「チッ!」

デーガは防御壁とは別の防御魔法を展開し、レジェリーの魔法を防いだ。


「ぐぅっ…」

レジェリーは口から血を吐き、膝をついた。

「ガッ、アッ、ハッ…ハッ…」

「レジェリー…!」

禁断魔法はとてつもない魔力を使う。レジェリーにはとてつもない魔法を抑制してくれる髪飾りが無い。

故に禁断魔法は諸刃の剣だ。その1発で命を失いかねない。

「まだ、まだ…あたしは…やれ……―――」

レジェリーはグラッと身体を揺らし、地面に倒れた。


「レジェリー!」


「アイツめ、カウントダウン尽きるまで禁断魔法で応戦する気か。だが…今のシューティング・プロミネンス…俺が出せるものよりも明らかに威力が勝っていた。下手したこの防御壁も危うかったかもしれねぇ。」

レジェリーが放った禁断魔法、シューティング・プロミネンスはかなりの威力だったようで、デーガは少しだけ焦りを見せていた。

それと同時にデーガの心は少しの喜びも生まれていた。




(近いようだな…コイツも…分かってきたじゃねぇか。)


「…まだまだッ…」

レジェリーは復活後も禁断魔法を撃つ準備を始めた。


「レジェリー無茶だ!」

「無茶でも…やんなきゃいけないのよ…!あたしは…天才魔法使いなんだから…!あたしは…笑顔で帰るの!ボルドー様を蘇らせて…キッカちゃんも連れて、みんなと一緒に!そして…笑顔でまた…お父さんとお母さんにただいまって言うんだッ!」

レジェリーは震える身体をぐっと堪え、涙を流しながら禁断魔法を撃つ。


「ビライト!あんたにも…笑顔で迎えに行かなきゃいけない…大事な人がいるでしょっ!?だったら…こんなところで立ち止まっちゃダメなのよ!」


そしてまた命が砕ける。



ヴァゴウとクライドも身体が何度も黒くなり砕け散りながらも諦めずに攻撃を続ける。



デーガは攻撃を行わない。

そしてデーガの見ている先は…ビライトだ。


「…これはお前の旅だ。そんなお前が示さねぇでどうする。妹を、友を助けたいんだろうが。」


「…キッカ…ボルドーさん…」

ビライトはキッカの笑顔、ボルドーの暖かさ、ぬくもりを思い出す。


(お兄ちゃん!)

(ビライトッ!)


「そうだ…俺は…」



「だったら俺に見せてみろ。お前の覚悟、お前の決心、お前の…勇気を見せてみろ。それとも…ここで何も出来ず俺の手で哀れに死ぬか…?」

デーガはビライトを挑発する。


「ビライト!」

「ビライトッ!」

「グルアッ!!」



「…みんな…」

クライド、レジェリー、ヴァゴウは皆、ビライトを見る。

3人の目は同じ目をしていた。

立ち上がれ、信じてる、諦めるな。


その気持ちがビライトの心を突き動かした。



「ビライト、力を合わせよう。みんなで…打ち勝とう!」

「ビライト、お前が俺を信じてくれたように…俺もお前を信じる。共に戦うぞ。」

「グルル……!」


「…あぁ、ありがとう…俺は…まだやれるんだ。そう、みんなが居るから…みんなが俺の背中を押してくれたのに…また立ち止まった…ホント…俺は弱いな…」

ビライトは大剣を構える。


「だから…弱いからこそ…みんなで力を合わせるんだ。みんなで叶えるんだ…俺たちの未来を…掴むんだ!!そのためにあんたの試練を超えて見せる!魔王デーガッ!」



「…良い目だ。」


ビライトはメギラエンハンスを再発動。

そして…ビライトの身体からメギラエンハンスとはまた別の赤い光が飛び散る。


「来たか…!」


「はあああーーーーっ!!!」

ビライトはデーガの元へ目掛けて大剣を振るう。


「へへっ、良いぞ。そのままだ。そのまま来い!死線の乗り越え、恐怖と絶望を乗り越えたお前らに残されてんのは…希望、覚悟、決心…そして―――」




「“ブレイブハーツ”だ。」



ビライトの振るった剣により拡散した赤い光はクライド、ヴァゴウ、レジェリーにも注がれた。

それはまるでビライトの力が伝播したかのように、3人の力も大きく増幅した。


「こ、これは…?」

「強い力を感じるわ!」

「ガルゥッ!」


「みんな、行くぞ!!」


「「おおっ!(グルァッ!!!)」」


全員が赤い光を纏い、一斉に魔王デーガ目掛けて攻撃を始める。



「発現したようだな。それが俺たち抑止力が失い…お前たちこのシンセライズに生きる生物が持つ心の力が戦う力となったものだ。」



アトメントはその光景を見て微笑んだ。

「かつてレクシアに存在した奇跡…勇者の力、“ブレイブハーツ”。この世で唯一イビルライズに対抗出来る、強き心の力と、“素質”があれば誰にでも使える可能性のある魔法。」




「グルアアアアーーーーーッ!!」

巨大化したヴァゴウの体当たりでデーガの防御壁は再び大きく揺れた。

「へ、へへっ、良いねぇ…!」


「ハアアアアアッ!!」

クライドは宙を舞い赤い魔力を込めた足をかかとから防御壁に叩きつけた。

ビビッと音を鳴らしヒビが広がっていく。


「まだだッ!」

デーガは防御壁を修復しようと試みるが…


「やあああーーーーっ!!!大地眠りし自然の種よッ!プラント・バインド!!」

「!」


レジェリーの禁断魔法だ。

大地から植物が無数に現れ、防御壁を貫通してデーガの身体をツタで縛り上げる。


「この程度で止められるかッ!」


デーガはプラント・バインドをすぐに引きちぎり、目の前にいたヴァゴウに手を出そうとする。


「「ビライト!!!」」


「何っ!」

「ビライトォッ!!いけぇッ!!!」

ヴァゴウの潜血覚醒が解かれたのだ。

一気に身体が元の大きさに戻っていき、そしてそのすぐ後ろにいたビライトの大剣が…

「うおおおおおおお!!!くっ…だ…けェェェェェェッ!!!!!」


「ハ、ハハッ!やるじゃねぇかッ…!」

防御壁がバキバキと音を立てて割れていく。

ビライトのメギラエンハンスと、ブレイブハーツの力が合わさり、その力はイビルライズに抵抗出来るほどの強い輝きと力を今まさにデーガの前に見せつけていた。


「だあああああああーーーーーーーーーっ!!!!」


「…ヘヘッ!!見事ッ!!!!」


バキィーン!!!

ガラスが割れるような音が響き渡る。

そして―――ビライトの大剣の一撃は魔王デーガの腹を貫いた。


「…ガフッ…!」



「ッグッ!」

ビライトは勢い余って地面を転がる。

「ビライト!」

「ビライト!大丈夫!?」


「…あ、あぁ…平気だ…!それより…デーガは…!?」



ビライトたちはデーガを見る。

デーガはビライトの大剣で腹を貫かれ、宙に浮いたまま項垂れている。




「…死んだのか…?」


「死んだとしても死の宴の中だから本当に死にはしないがな。そしてこの試練はお前たちの勝ちだ。」

アトメントがその場に降り立ち、拍手を送る。



「よくブレイブハーツを発現したな。ま、俺はやれると信じてたがな。」

アトメントはデーガの身体を触る。


「お前たちは力を合わせて抑止力を倒したんだ。誇りに思えよな。」

アトメントはデーガの手の甲を見せる。デーガのカウントダウンは42と表示されていた。1減っているのだ。


「…勝ったのか…俺たち…勝ったんだ…!」

「ビライトッ!」

「あぁ!」

「ガハハ…ホント…死ぬかと思ったぜ…」

「全くだ…フフッ…」


ビライトたちは手を上げて全員で手を合わせ、ハイタッチした。


残り回数

ビライト・シューゲン あと6回

ヴァゴウ・オーディル あと4回

レジェリー・ウィック あと3回

クライド・ネムレス  あと5回


――ギリギリの戦いだった。

だが、ビライトたちはなんとか残りわずかのところで、勝利を収めることができた。



「どうだ?俺が連れてきた奴らはよ。」


(…あぁ、予想以上であった。)


「…!」


項垂れる魔王デーガの中から声が聞こえる。


(この気配…!)

(…!)

レジェリーとクライドはこのただならぬ気配にすぐ気が付いた。






―――“魔王”が来る。




ドックン。


大きな心臓の鼓動と共に、死の宴は解かれ、魔王城謁見の間の風景へと戻る。


「…」

結界の外に居たアルーラはその様子を見て、デーガに向かって膝をついた。


「アルーラ?」

レジェリーはそれに気が付くが…


「主がお見えになる。」

そう呟くアルーラ。

すると更に心臓の鼓動が、ドックンと鳴り響く。



そしてデーガの身体が更に宙に舞い、閉じていた目が大きくカッと開く。

身体が震え、そして…


「ゥゥゥッ…!」



唸るような声を上げ…


「ヌゥゥゥ…!」


バキバキと音を立てて、肩から無数の棘が飛び出し、尻尾は二つに割れ、腰からは翼が2つ身体から勢いよく音を立てて飛び出した。


そして頭部はよりトゲトゲしくなり、グググと音を立てて変化していく、歯を剥き出しにして唸りそれは勢いよく閉じられ、全身から黒いオーラが溢れ、それはデーガを覆う。


「…こ、これがレジェリーが言ってた…?」

「…!」

ビライトとヴァゴウは話にしか聞いておらず、初めて見ることとなる。



「うん…師匠の裏にいる…真なる魔族の始祖…“魔王カタストロフ”よ…!」


「―――」


黒いオーラがはがれ、その姿がついにビライトたちの前に現れた。

元々あった翼は竜人のそれではなく、無数の角に紫色の翼膜が不気味に光るまるで違うものとなった。

何処かデーガの面影もありながらも、その顔はもはや別の存在であった。


「カタストロフ様」

「――見届け、ご苦労であった。」

「ハッ、ありがとうございます。」


カタストロフは横で膝をつくアルーラを見て、言葉を与え、そしてカタストロフはビライトたちを見る。


「――死の宴を乗り越え、そしてブレイブハーツを発現させるとは…見事だ、シンセライズの者たちよ。」

とても低く、唸るような声がテレパシーのように周囲に伝播していく。


「えと、カタストロフ。デーガは…どうなったんだ?」


ビライトは確かにデーガを1度倒した。今、ここにいるのはカタストロフであるため、デーガがどうなったかが分からずにいたビライトはカタストロフに訊ねた。


「デーガは死の宴による死、そして激しい魔力の乱用による作用で少しばかり休眠している。直に目を覚ますであろう―――しかし、死の宴の中でとはいえ倒されるとは思わなかったようだ。それほどまでにブレイブハーツの力は強大だということだな…」


「ぶ、無事なんだな…ならよかった…」

ビライトはひとまずホッとした。



試練を超えたビライトたち。


そして現れたデーガのもう一つの人格である、魔族の始祖であり真の魔王・カタストロフが姿を現した。



カタストロフはビライトたちに何を語るのか。


そして、ボルドーの復活と、ビライトたちに宿った力・ブレイブハーツ、そして―――魔王デーガと魔王カタストロフの絶対悪化の運命はどうなるのか…

まだまだ気が休まることは―――無さそうだ…




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