Delighting World Ⅶ
「ふーん…つまり、そのアトメントって獣人があたしをあんたたちと引き合わせて…」
「ビライトとキッカちゃんが世界に選ばれた…って言ったのか?」
「うん。」
「どこまで信用出来るのかは分からないけど…嘘を言ってるようには見えなかった…と思う。」
アトメントと出会った翌日の朝、ビライトとキッカはレジェリーとヴァゴウにアトメントと出会ったことを伝えた。
「ホント不思議ね、一体何の因果であんたたちにそんなことが起こっているのか、ここまで来ると気になってくるわね。」
「ウーム…ワシは直接会ったから分かるが…あのアトメントとかいう獣人、只者じゃねぇぞ。」
「あぁ、俺もそれは感じたよ。アイツは普通の獣人じゃない。きっとキッカがこうなった理由も、イビルライズのことも…何か知っているのかもしれない。」
ビライトたちはうーんと考えるが…
「ま、悩んだところで仕方ねぇだろ!アトメントはイビルライズを目指せって言ったんだろ?だったら今は目指そうじゃねぇの!」
ヴァゴウは言う。考えるのが苦手なヴァゴウらしい言葉に、レジェリーも、ビライトたちもクスッと笑う。
「そうだな、その通りだな。」
「ええ、そうね、ホントその通りだわ。」
「考えても分からないもんね。」
ビライトは南を向いて言う。
「行こう、ドラゴニアに!」
「うん!」
「ええ、行きましょ!」
「ガハハ!良いぞ良いぞぉ!盛り上がって来たぜ!」
ビライトたちは改めてイビルライズに向けて進むことを決意した。
密林を歩くビライトたち。南へ歩き出す。
出口が近いのか、魔物は現れず、順調に歩を進めた。
そしてその先に待っていたのは…
「おお!見てみろよキッカ!」
「わぁ…!」
密林を抜けた先は崖の上。
しかしその崖から見えたのは広大な草原。
そしてその奥に見えたのは…
「あれが…魔法国家ドラゴニア…!」
「おう、竜人とドラゴンが築き上げた魔法文化都市だ。」
ヒューシュタットとはまるで真逆。
どの町とも違う、古風さに満ちた都市。
都市を囲う壁はとても古く、植物を纏っていて、瓦礫があちこちに散らばっている。
そして草原を流れている美しい小川はドラゴニアの町を通っている。
水にも、自然にも恵まれた地。
しかし都市には多くの建物があり、その都市の大きさはとても広大。
遠くから見てもいかにこの都市が発展しているかが分かるほどに。
しかしそれは決してヒューシュタットのようなものではないと、なんとなくビライトたちは分かったのだ。
「行こう。」
ビライトの声に頷く一行。
崖から降りられる場所を探し、ビライトたちはドラゴニアに向けて歩き出した。
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「おおー!」
キッカの驚く声。
ヒューシュタットと違い、とても古く、昔の建物や風景をそのままに大切にしており、道行く人々もとても活気に満ちている。
魔法国家と呼ばれるだけあり、民家には魔法を使って家事をこなす人や、魔法で遊ぶ子供たちの姿、そして何よりも、空を舞うドラゴンや、ドラゴン便の数々。
ヒューシュタットと同じく発展した都市であるにもかかわらず全く違うその在り方にビライトとキッカは興奮せずにはいられなかった。
そしてそんな2人よりも更に興奮していたのは…
「うーーーっ!ドラゴニア!本当にここに来られるなんてっ!!」
レジェリーだった。
「ご機嫌じゃねぇのレジェリーちゃん。」
「もっちろん!魔法使いにとってここは聖地よ聖地!」
レジェリーは魔法使い。
魔法の起源と呼ばれ、魔法技術が大きく発達したこのドラゴニアはレジェリーたち魔法使いにとっては夢の都市なのだ。
興奮しないはずがない。
「ビライト!みんな!まずはこの都市を見て回りましょうよ!あたしもう我慢できないわ!」
ビライトたちも顔負けなほどに目を輝かせるレジェリー。
「レ、レジェリー、そんなにここに来たかったのか?」
「当然!」
「今までそんな素振り見せてなかったじゃないか…?」
「馬鹿ね!楽しみすぎてずーっと内に秘めてたに決まってるじゃないの!」
今までそんな素振りを見せてこなかったのにこの舞い上がりようだ。
しかしそれはずっと楽しみで楽しみで、逆に表現出来ないくらいだった故に、それが爆発したのだと主張する。
とにかく舞い上がるレジェリーに付き合う形で、ビライトたちはまずドラゴニアの都市を見て回ることになった。
「ドラゴニアは世界が統合される前から存在している、世界最古の都市って言われてるんだってな。」
「ええ、ドラゴニアがあった世界では魔法がとても発達していたらしいわ。超一流の魔法学校があって、それが今もこのドラゴニアに残っているのよ!」
レジェリーは目をキラキラさせて熱く語る。
「ドラゴニアの魔法学校!伝説の魔法使いたちはみーんなこの学校の卒業生だって話よっ!」
レジェリーは北を指す。その先にある大きな宮殿のような建物。それがドラゴニアの魔法学校のようだ。
「伝説の魔法使い?」
「ええそうよ!この学園の伝説の魔法使いたち!”精霊魔法使いの獣人ミール姉弟”!”激流の水魔法使いウィック”!”魔法を武器に変えて戦う魔法騎士アーガス”!そして全ての属性を余すことなく使いこなしとてつもない魔法力で世界を救った英雄トナヤ!」
レジェリーは一人ずつ高らかに紹介する。
「そして~!」
レジェリーは更に中央広場にそびえたつ銅像を指差した。
「あの銅像の竜人がこのドラゴニアで最も偉大な第88代目の王!爆炎魔法を操りし英雄王バーン様よっ!」
レジェリーはもはやテンションが荒ぶっている。
しかし、レジェリーにとってこのドラゴニアに伝わる英雄たちは本当に憧れなのだろう。
それがひしひしと伝わってくる。
「あーあたしもあの魔法学校で魔法の勉強したいなぁ~!!」
レジェリーは憧れのまなざしで魔法学園を見つめる。
「難しいのか?」
「難しいのよねぇ…あたし天才だしきっと合格することは出来ると思うのよ!」
相も変わらず自身を天才と呼び、レジェリーは指を輪っかにして…
「お金よお金。入学費用が圧倒的に足りないのよねぇ~…」
魔法学園は最高レベルの魔法を勉強する場所だ。
もちろんそれにかかる費用は尋常ではない程に高額だ。
無論、国営ではあるが国が補助しても自己負担額が高いのだ。
特待生になろうにも、それは無論国王に認められなければならない。
この魔法学園に入るのは、実力だけでなく、金銭的にも相当ハードルが高いのだ。
「まぁでも…あたし、いつかは入学したいんだ。この魔法学園に!」
「そっか……待てよ?」
ビライトは考える。今自分たちは何のためにドラゴニアに来たのか?
そう、王に会い未踏の地へ向かうための許可書を貰いに来たのだ。
「なぁレジェリー。俺たちはこれから王様に会いに行くんだぞ。」
「…何よ今更。当たり前のこと言わな…言わ…な……あっ。」
「特待生、狙えない?」
「…」
「…」
「それよーーーーっ!!」
レジェリーは沈黙を打ち破り叫んだ。
「うわっ、急に叫ぶなよ!」
「そうよ!王様についでにお願いすればいいんだわっ!ビライトってば良いこと思いつくじゃないの!」
レジェリーは目を輝かせて言う。
「お、おう…ははは…」
ちょっと引いて、ビライトは苦笑いする。
「けどよ、レジェリーちゃんが入学することが出来たらワシらとお別れじゃねぇの?」
ヴァゴウの言葉にピキッと固まるレジェリー。
「…」
「…」
「しまったーーーーっ!!」
レジェリーはまた沈黙を破り叫んだ。
「それもそうだ。」
ビライトは今度は驚かずに言うが、確かにその通りだ。
レジェリーがもしも入学してしまうとここでビライトたちとお別れになる。
「あー…やっぱりあたしに魔法学園に入学することは叶わないのねー!」
ガッカリするレジェリー。
「イヤ、レジェリー…もしさ、王様から入学斡旋してもらえたら夢を叶える為に入学しろよ。」
ビライトはレジェリーに提案する。
「お兄ちゃん…」
「俺たちの旅は別にお前に強制するものじゃないんだ。だったらお前はお前の道を選ぶべきじゃないか?」
ビライトは真面目に答えるが…
「うーん、でもあたしはさ。キッカちゃんをこのままにして入学なんて出来ないわよ。」
レジェリーは迷いつつも、キッカの為にビライトの提案を断った。
「レジェリー…でも…」
「いいからいいから!学園に入らなくてもあんたたちと旅してたら魔法の修行にもなるし、キッカちゃんを助けたいって気持ちはちゃんとあるし。」
レジェリーはそうは言うが、それでも少しだけ目が泳いでいるのが見えた。
ビライトたちはそれに気づいて、やはりそれは申し訳ないと思ってしまった。
特にキッカは自分の為にチャンスを捨てていることに胸がきゅっと締め付けられた。
「もーっキッカちゃん!そんな顔しちゃ駄目!」
「ふぇっ?」
「まだ王様からオッケー貰えるって決まったわけじゃないし、それにあたしはキッカちゃんが元に戻るまで付き合ってあげるわよ!だからあんたが悩むことじゃないの!」
「ご、ごめんね…」
「良いのよ良いのよ。気にしないで!さっ!この話はおしまいっ!それよりあたしこの都市をもっと見て回りたいから!行きましょ!」
レジェリーは話を終わらせて元気よく走り出した。
「…お兄ちゃん、私の為にレジェリー、無理してるかなぁ…」
「キッカが思いつめることじゃないさ。レジェリーだって考えて決めてくれたんだ。だったらその気持ちに応えてあげないと。」
「…そうだね!でも私、レジェリーと別れるの寂しいなって思ったから…嬉しいんだ。」
「あぁ、そうだな。騒がしい奴だけどレジェリーは良い奴だ。」
ビライトとキッカは微笑みあう。
「おう、ビライト、キッカちゃん。レジェリーちゃんが行ってしまうぞォ?浸るのも良いが追いかけなくていいのかァ?」
「あっ、おーいレジェリー勝手に行くなよー!」
ガンガン進むレジェリーを追いかけるビライトたち。
ドラゴニアの観光…もとい、許可証を求めて探索を開始した。
「しかし、この都市はヒューシュタットとは大違いだ。」
「そうだね、ここの人たちは凄く穏やかっていうか…コルバレーともまた違うよね。」
「まァ町によってその雰囲気ってのは違うもんさ。」
ドラゴニアに住んでいる過半数が竜人やドラゴンだが、獣人や人間も住んでいる。
しかし、ヒューシュタットのように種族差別はなく、異なる種族でも仲良く接している。
ドラゴンが獣人や竜人サイズの道具を運んで持ってきたり、異なる種族で協力して仕事をしたりしている姿も見える。
日差しがたっぷり当たる植物の同化したような古風な家々が並ぶ自然と優しさに包まれた町。
ドラゴニアという国はとても豊かな国なのだと、歩いているだけで感じることが出来る。
そもそも種族に隔たりが無いのはコルバレーの町と同じではあるが、ヒューシュタットを通ってここに来たビライトたちだ。
このような当たり前だった風景にとても安心する。
「おっ、こいつァ…」
ヴァゴウがとある建物に目を付けた。
「オッサン?」
「いンや、懐かしい店を見つけた。入っていいか?」
ヴァゴウが指した店。
武具屋のようだ。これまた石で出来たとても古風な建物だ。
「良いけど…レジェリーもう先に行っちゃったな。」
「まぁ…レジェリーちゃんなら大丈夫だろ!じゃワシは遠慮なく。」
ヴァゴウは扉を開けた。
「いらっしゃ…っておお~!懐かしい顔じゃないか!」
「いようゲキ!久しぶりだな!」
ヴァゴウは大きく手を振る。そして武具屋の店員、ゲキもそれに返すように手を振り、そして互いに握手を交わす。
ゲキはヴァゴウと同じ竜人ではあるが、ヴァゴウの方が一回りでかい。
やや細身ではあるが、それはヴァゴウがでかすぎるだけであり、ゲキは普通の竜人としての体格である。
「どうしたんだお前、コルバレーの武具屋はどうした?」
「おーう、今はちょーっとワケあって旅をしてんだ。こいつらとな。」
ヴァゴウはビライトたちを紹介する。
「こいつ…”ら”?」
ゲキはビライトだけを見て、キョロキョロする。
「複数系じゃなくない?」
「ん?…あーそいうことかァ!そりゃ失礼!ガハハ!」
「こんにちは、俺、ビライトって言います。」(なるほど、この人…)
ビライトは横目でキッカを見る。
「私の事、見えてないんだと思う。」
そう、ゲキはキッカが見えないようだ。
キッカの姿は見える人と見えない人が居る。
その基準は不明だが、ゲキはキッカが見えない部類に入るようだ。
「よろしくビライト、俺はゲキ。ヴァゴウとは幼馴染だ。」
「幼馴染?オッサン、ドラゴニア出身だったのか?」
「生まれは違うが幼少から成人するまではドラゴニアに住んでた。」
「へぇ…知らなかったなぁ。オッサンとは俺が幼い頃からの付き合いだけど…」
ビライトとヴァゴウも長い付き合いだ。だが、ビライトはヴァゴウとかかわる前のことはもちろん知らない。
ヴァゴウはあまり過去の話はしないからだ。今の話しかしないヴァゴウは今をひたすらに楽しく生きている。
「ゲキ、商売の方はどうだ?」
「まぁぼちぼちってやつだな。お前の武具最近入荷しないからな。」
「ガハハ、ワシは直感でしか作ってねェからなッ!」
「どーせサボってんだろ。噂は聞いてるぞ。”仕事しない凄腕職人”め。」
笑いあう二人。
「ビライト、しばらくゲキと話がしたいンだが…」
「あぁ、俺は俺で色々見てくるついでにレジェリーも探すよ。夕方にバーン像の前に集まる形にしよう。」
「おう、すまねぇな。」
「じゃ、ゲキさんまた。」
「おう、ちょっとヴァゴウ借りるぜ。」
挨拶をし、ビライトは外へ出た。
「しかし、ヴァゴウ、お前ホント元気そうで良かったよ。幼少期のお前を知ってるから言えるけどさ。」
「ガハハ、いつの話してんだ!ワシは元気だぞ!」
「そうだな、今が元気なら…それで良いよな。」
ーーーー
「ったく、レジェリーのやつ何処行ったんだ?」
ビライトはレジェリーを探して都市を回る。
「あっ、お兄ちゃん、ここ…」
「ん?ここは…」
ビライトたちが見たのは大きな建物。
その正門には、”ドラゴニア国立 魔法学園”と書かれている。
「ここが魔法学園か。」
「おっきいね!」
庭では様々の種族の人々が魔法の練習をしており、窓の向こうには、真剣に勉強する生徒たちの姿が見えた。
「ここが世界で一番の魔法の学校なんだな。」
「レジェリー、やっぱり入りたい…よね。やっぱり…」
「キッカ。」
「あっ、うん。ごめん。」
ビライトはキッカが言おうとしたことを止めた。
レジェリーがキッカの為に頑張ろうとしている。素直にそれを受け止めるべきだとビライトは考える。
「でも、私…ちゃんとレジェリーと話すよ。レジェリーが私の為に迷ってくれるの、嬉しいってことと…レジェリーが私の為に目標を叶えられなくなるかもしれないのが辛いって。」
「キッカ…分かった。ちゃんとレジェリーと話してみろよ。俺も見守ってるからさ。」
「うん、ありがとうお兄ちゃん!」
「ほらキッカ、あっち行ってみようぜ。向こうが城みたいだ。」
「う、うん。」
ビライトたちは城に向かって歩き出した。
一方その頃レジェリーはというと、レジェリーも学園を見ていた。
ビライトたちとは離れた場所に居たため、ビライトたちは気が付かなかった。
校庭には銅像が。この魔法学園の学園長である竜人、クルト・シュヴァーンの銅像だ。
世界統合前の魔法学園から代々シュヴァーン家の竜人がずっとこの魔法学園を学園長として治めているらしい。
「…魔法学園…かぁ…やっぱ…良いなぁ…」
レジェリーは少し寂しそうな目で見る。
(あたし、やっぱりここに入学したいのかな…でもあたし…あたしは……キッカちゃんやビライトたちを見捨てるなんて…)
レジェリーは内心やはり迷っていた。
キッカを元に戻すまでは付き合うと言ったが、その気持ちはもちろん嘘ではない。
だが、レジェリーは魔法の修行をする為に旅をしている。
この魔法学校に入るということはレジェリーにとってもっと立派な魔法使いになることへの第一歩だ。
「ううん、魔法学園に年齢制限は無いもんね、旅を終えて…それからでも遅くない!」
レジェリーは迷ってる自分に言い聞かせた。
「それに、あたしは素敵な魔法使いになるんだから。素敵な魔法使いが困ってる子を見捨てるなんて出来るもんですか!当たり前じゃない!」
レジェリーの夢を叶えるために。そして、素敵な魔法使いになる為に。
「ビライトたちとはぐれちゃったし、探さなきゃ。」
レジェリーは城の方向とは逆、つまり来た方向へと戻った。
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「ここがドラゴニアの城かぁ…」
「魔法学園よりも大きいね…!」
「まぁ城だしな。ついでだから王様と会う方法を聞いてみよう。」
ビライトは正門に向かう。
正門には橋がかかっていて、鎧を着た竜人が2人、入り口を守っていた。
時刻は昼前。橋は降りている。
「あの、すいません。」
ビライトは声をかける。
「んん?どうかしました?」
優しい声で対応する竜人兵士。
「えっと、未踏の地に行きたくて。王様から許可証を頂きたいのですが。」
ビライトは未踏の地に行きたい旨を伝えた。
「…フム…失礼、理由をお聞かせ願えますか?」
兵士たちの顔が少し張り詰めた。
「えーっと…目指している場所があります。そこに大切な人が居ます。」
(やっぱそういう反応になるよなぁ…)
説明に困る。
世間的に見てイビルライズなんてものは誰も知らない。
そもそも、未踏の地はまだ開拓されおらず、強力な魔物がウヨウヨ居て、何があるかも全く分かっていない。
未知数で非常に危険な領域なのだ。
故に兵士たちも警戒する。当然の反応だ。
「目指している場所?大切な人?…ご存知かと思いますが…未踏の地に何があるのかはこの国はおろか、他の国でさえも分からない。そのような場所にあなたの求めているものがあるのですか?」
「突拍子もない話なのは分かってます。けど…俺達は…行かなきゃいけないんです!」
ビライトは信じてもらえなくてもいい。とにかく熱意を伝えよう。
その気持ちで兵士に伝えた。
「俺達…?うーん…分かりました。では後日またここへ来てください。本日私の方であなたのことを王へ伝えましょう。その上で判断をさせて頂きたい。」
「あ、ありがとうございます。では…お願いします!あっ、俺、ビライトって言います。コルバレーの町から来ました。」
ビライトは感謝を伝え、名と出身地を伝えた。
兵士もゲキと同様、キッカが見えていない様子だった。
兵士はキッカの方を全く見ていない。そして複数形の言い方に疑問を抱いていた。間違いなくキッカは見えていない。
ビライトは軽く頭を下げ、その場を立ち去った。
「はー…なんかすごく緊張した…」
「大丈夫?お兄ちゃん。」
「あ、あぁ。王国の兵士と会話するなんて初めてだし…なにより、未踏の地に行きたいなんてやつあまり居ないだろうから絶対怪しまれると思ったからさ…」
ビライトは軽く冷や汗をかきつつ、ヴァゴウと待ち合わせをしてるバーン像の前へと足を運んだ。
バーン像がある広場。その周辺の店を見て回りながら、ヴァゴウが戻るのを待つビライトとキッカ。
そしてヴァゴウはというと、ゲキとの話に盛り上がっていた。
「へぇ~お前さんにそんなでかい魔法適正があるなんてな。やっぱ血は争えないのかねぇ。」
「お陰様で結構自由に魔蔵庫が使えるってもんよ。」
「あっ、ヴァゴウさん居た!」
レジェリーだ。魔法学園を見た帰り、武具屋の扉を開けっぱなしにしていたから、外側からレジェリーが発見したのだ。
「ん?仲間か?」
「おう、魔法使いのレジェリーちゃんだ。」
「あっ、こんにちは!」
「おう、良い杖持ってるなレジェリー。ヴァゴウ製か?」
「あっ、そうなんです!結構気に入ってるの!」
レジェリーは杖をくるくる回す。
「あったりまえよ。ワシが作ったんだからなッ!」
ヴァゴウは笑い飛ばす。
「ところでレジェリー。魔法学園はどうだった?」
「うっ、ばれてたのね…」
レジェリーが魔法学園を見に行ったのは案の定バレバレだった。
ヴァゴウはこう見えても結構人のことを良く見ている。雑で豪快だがとても面倒見が良いのだ。
「凄かった。あたし、この旅が終わったら絶対入学出来るように今からもっと素敵な魔法使いを目指して頑張ろうって思ったわ。」
「そっかァ。ならその意志をちゃんとキッカちゃんに伝えてやらねぇとな。」
「うん!キッカちゃんの為にも頑張らなきゃ!」
レジェリーの悩みは完全にとはいかないかもしれないが、ほとんど吹っ切れたようだ。それを感じ取ったヴァゴウは安心した。
「なんか父親みてぇだな。ヴァゴウ。」
「ガハハ、そんな柄じゃねぇよっと、そろそろビライトが待ちくたびれてそうだ。何日かはドラゴニアに居る予定だ。また来るぜ、ゲキ。」
「おう、またな。」
ヴァゴウとレジェリーはビライトたちが待っているであろうバーン像の前へと向かった。
「…ヴァゴウ、ホント元気になったな。"乗り越えた"だけあってな。」
「あっ、ヴァゴウさんとレジェリー。」
「よーう、待ったか?」
「わりと。でも久しぶりの再会だったんだろ?」
「まーな!楽しかったぜ!」
バーン像の前で待ち合わせた一行。
「一応俺とキッカで城に行って兵士と話をしてきたんだけど…」
「お、仕事がはえーなビライト!」
「まぁ話をする前に。キッカ。レジェリーに言うことあるだろ?」
「う、うん。」
キッカはレジェリーを申し訳なさそうに見つめる。
「キッカちゃん…」
「あの、レジェリー。私の為に…えっと、ありがとう。」
「えっ?」
「レジェリー、私の為に魔法学園に入学するのを悩んでくれてるの…嬉しかった。だからありがとうって言いたかったの。」
キッカはちょっと涙目になっている。
「でもね、でもね。レジェリーが私の為に目的が叶えられないかもしれないのも…私にとっては辛いの。」
キッカは段々と目がウルウルとしてくる。
「だからね、だからね。」
「キッカちゃん。」
レジェリーはキッカに近づく。
「あたしね、別に諦めたわけじゃないよ。」
「…え?」
「あたしは確かに今すぐにでも魔法学園に入学したいわよ。だってあたしの目標に凄く近づくもの。」
「だったら…!」
「あのね、あたしが目指してるのは素敵な魔法使いなの!素敵な魔法使いになろうってのに困ってるキッカちゃんを見捨てられるもんですか!」
レジェリーは笑顔で言う。
「レジェリー…」
「だからキッカちゃん、あたしにあなたを助ける手伝いをさせて。あたしが素敵な魔法使いになる為だけじゃないよ。まだ付き合いは短いけどあたしはキッカちゃんのこともっと知りたいしもっと仲良くなりたいよ。」
「うう~…!ありがとレジェリーぃ~!」
キッカは実体が無く、涙を流すことが出来ない。だが、そのウルウルとした目にきっとキッカはたくさん泣いてくれているのだろうと感じる。
「というわけだから、この旅が終わるまで入学はお預けよ!」
「よかったな。キッカ。」
「うん…うん!」
キッカとレジェリーは再び笑いあい、ビライトとヴァゴウはそれを優しく見守った。
「うっし、じゃレジェリーちゃんもキッカちゃんもスッキリしたことだ!ビライトの話を聞こうじゃねぇの。」
「あぁ、分かった。」
ビライトは兵士と会話したことをレジェリーとヴァゴウに伝えた。
「なるほどな。キッカちゃんのことやイビルライズのことを伝えるのは確かに難しいよなァ。」
「とにかく明日またみんなで城に行ってみよう。駄目でももう一度怪しまれてもいいからお願いしてみよう。」
「じゃ、宿探しだな!良い宿を知ってるんだ。行こうぜ。」
ヴァゴウを先頭にビライトたちは歩き出す。
「これからもよろしくね。キッカちゃん。ビライト。」
レジェリーは改めて言う。
「あぁ、よろしくな。」
「うん、よろしく!だよ!」
笑いあう3人。
ビライトたちは今日、ドラゴニアで初めての夜を迎える…
明日はドラゴニア王に会うことが出来るのか…ビライトたちは許可証を手に入れることが出来るのだろうか…
ドラゴニア地方での冒険はまだ始まったばかりだ。