表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Delighting World  作者: ゼル
Break 第三章 アーデン編Ⅱ ~Episode クライド・ネムレス 赤き月光の夜~
77/139

Delighting World Break ⅩⅢ.Ⅸ ~ボルドー・バーンと忘却の少女~

ここは忘れ去られた小さな惑星。


確かに俺様は死んだはずだが、レジェリーの機転により、中途半端な状態でこの惑星に迷い込んでしまった俺様、ボルドー・バーンはここで不思議な人間の少女と出会う。


少女の名はカナタ。なんでも世界統合前からずっとこの惑星で暮らしているという。

その正体は元々ドラゴンだったらしいが…どう見ても人間なんだよなァ…


カナタに俺様の魂は完全に死んでおらず、俺様を生き返らせるためにビライトたちが今頑張ってくれているらしいということを知らされた。

その事実を知る前に絶望してしまったビライトを俺様は惑星にあった妙な機械を使うことでビライトを励ますことが出来た。

ビライトはしっかり立ち直ってくれたようだ。しかし、俺様の命はビライトたちの行動に全てがかかっている。


その間何もできねぇのはなんとも歯痒いが、この惑星でずっと独りぼっちだったカナタの心を埋めてやるために、今はこの惑星でカナタと過ごすことを考えるようにしたんだ。



もし俺様がビライトたちのお陰で生き返ることが出来たらよ、カナタ…お前はまた独りぼっちになっちまうんだよな。



―――一緒に、行けたらいいのにな…そんなことを考えながら、俺様はこの惑星で過ごしている。



--------------------------------------

あれからカナタは時々ビライトたちの様子を教えてくれる。

ただ、カナタ曰く見過ぎると疲れるというのでほどほどにしてもらっている。


ビライトたちは無事に未踏の地に入り、アーデンという場所を目指しているらしい。


その時についでにメルシィやブランク、そしてドラゴニアがどうなっているのかも聞いているが、結構荒れているみたいだった。

グリーディ襲撃で大事な人を失った者たちがやり場のない怒りと悲しみを振りまいている…


そしてメルシィは酷く悲しんでいる。涙を流している。

ブランクも時々を俺様の名を呼んでいるらしい。



…帰りてぇ。けど、今の俺様には何もすることは出来ねぇ。それに今俺様の傍には…なんとかしてやりたい奴が居る。


彼女を置いていくという選択は…取りたくなかったんだ。


--------------------------------------


とある日の一日。

カナタから俺様はまだ死んでいないことを告げられてからというものの、何もせずにはいられず、1つ日課を始めたんだ。



「ほっ、よっ。はっ。」


「…何してるの?」


「あ?筋トレだよ筋トレ。」



俺様は筋トレを始めた。


カナタに聞いたところだと、この惑星の時間の流れとシンセライズの時間の流れは異なるらしい。

ここで過ごした数日は向こうでは1日だったりするわけだ。

つまり予想以上にここで過ごす時間は長くなりそうなんだ。


結局ここで鍛えたところで元の世界に戻れたときにそれが引き継げるかどうかは分かんねぇが、何もせずにはいられなかったんだ。



「ふーん…」

カナタはあまり興味無さそうな視線で俺様を見つめてくる。


「気になんのか?」

「別に。」

「大丈夫だ、筋トレっつっても周りの木や花を傷つけたり燃やしたりはしねぇよ。」

「そういうことじゃないんだケド…」


俺様は筋トレの場所に湖のほとりを選んだ。いや、これもカナタ曰く海らしいんだが…後でコッソリ口に含んでみるか。海は塩の味がするからな。


ここは周囲に木や花は無く、あるのは目の前の湖もとい海程度だ。

周りを傷つけずに修行に努めることが出来るってもんよ。


「ここの木や花は潰されても次の日になったら再生してるから大丈夫よ。」

「そうなのか?まぁでも、やっぱ花や木は大事にしねぇとな!」

万が一壊したり傷つけても大丈夫…とのことらしいが、やはり気が引ける。


「壊したりするのも気が引けるしな。何故ならこの惑星の自然はどんな場所よりも美しいって感じるからよ。このフワフワ漂ってる魔力も綺麗じゃねぇか。」


「…」


カナタは「え、何それ」って感じのジト目で俺様を見る。


「あ、あンだよそんな顔して。」


「いや、悪気があるわけじゃないんだケド…何だろ、あなたからそんな言葉が出るとは思わなくて。」


「美しいって感じる気持ちぐらい俺にだってあるっての!」

「ふーん…例えば?」


「例えか?そうだな…」

美しいもの、美しいもの…


やはり過るのは妻の顔だ。


毎日寝る前になったらつい考えちまうことだがこの時はメルシィとブランク、2人の笑顔が頭を過った。


「…向こうに残してきた…家族とか、だな。」

「家族…か。」

カナタも何か思うことがあったのだろうか。少し考える表情を見せる。


「カナタもそんな家族が居たんだよな?」

「えっ、えっと…そう、ね。血が繋がってる家族って私には居ないけど…でも、家族だって言ってくれた人は居た。」

「あぁ、そんなこと言ってたな。良い人だったんだよな。」

「…うん。」

カナタは少しだけ恥ずかしそうに言う。だが、俺様もちょっと照れ臭くなってたんだ。

メルシィやブランクの笑顔を思い浮かべると変に頬が緩んじまう。


他にも、オヤジや、クルト、それに…ヴァゴウやビライトたち。

みんなの顔を思い浮かべると、心が満たされたような気持ちになる。


「…なぁ、カナタよ。」

「何?」


「ずっとここに居てよ。寂しくないか?」

「…もう忘れちゃった。そんな気持ち。」

カナタには前にも似たような質問をしたが、やはり返ってくる返事は同じだった。まったくもってここだけは本当に素直じゃねぇな。

「もしも、もしもだぜ?ここから出て、シンセライズに来られるって言われたらどうする?」

まどっころしいのは性に合わねぇ。ストレートに俺様は質問してみたが、カナタは表情を変えることなく呟いた。


「私はここの管理人だもん。それはあり得ないから考える必要もないよ。」

「夢がねぇなぁ。」

「夢なんてないよ。私はこの目でシンセライズの様子を見れるだけ。私が直接行くことは未来永劫あり得ないわ。私はこれからもずっとここで生き続けるの。」


――カナタはきっと諦めちまったんだ。



最初はきっと立派な使命や覚悟を持ってこの惑星の管理人になったんだろう。

詳しいことは分からねぇが、きっとそう決意出来るほどの何かがあったんだ。


けどそれは時間と共に薄れていき、やがては寂しいという感情を隠し、そしてここで過ごす以外の選択肢を持たないようになっちまったんだ。


ここで根性が足りないとか言う奴は居るかもしれねぇ。だが…1000万年っていう途方も無さすぎる時間を過ごしてきたんだ。

俺様だって心が折れちまう。だがカナタはその途方もない時間をここで生き続けてたんだ。



俺様は筋トレをしながら、なんとかしてやりてぇという気持ちがどんどんと湧き上がってきていたんだ。


「―――でも、ありがと。」

カナタは呟いた。


「あ?」

「そうやって心配してくれるだけでも私は嬉しい。だからありがと。」

カナタは少し顔を赤らめながら小声で呟いた。


その顔は嬉しそうにも見えるし、寂しそうにも見えるし…涙を流しそうな顔にも見えた。

――そんな顔見ちまったら…もう見て見ぬふりなんて出来ねぇ。




「…なぁカナタ。」

「何?」


「俺がなんとかしてやる。」

「…え?」


「だから、俺がなんとかしてやるってんだよ。」

「…なんともならないよ。」

「ンなのやってみなきゃ分かんねぇだろ。お前にこれからも寂しい思いをさせねぇ方法を俺が見つけてみせるぜ。」


何の確証もない。何のヒントもない。どうしたらいいのかも分からん。

けど、カナタをこのままにはしておけなかった。


「私平気だから。大丈夫。」

「大丈夫じゃねえだろ。」


俺様は筋トレを辞めて、カナタを見て、肩を掴んだ。


「ボルドー…?」

「分かんだよ。お前、嘘が下手なんだよ。」

「う…」

否定できないのかカナタはたじろいでしまう。


「正直に答えろよ。お前はどうしたい?」

カナタはなかなか口に出せずにいる。


「…私は…」

「お前がずっとここに居たい、この惑星を守り続けたいって本気で思うなら俺は何も言わねぇよ。だがよ、お前の顔見てたらそうじゃねぇってなんとなく分かんだよ。俺は王になる男だ。色んなやつの顔は見て来たから分かんだよ。」


「…」

カナタは答えを出せずにいた。


「…ま、すぐに答えろとは言わねぇし、俺の勘違いだったらすまねぇ。けどよ、俺はお前に寂しい思いさせたくねぇ。お前がこれから楽しく生きられる方法を探してぇ。けど仮に見つかったとしても最終的に決めんのはカナタだ。」

「…」


「…すまんな、余計なお世話かもしれねぇが…俺がそうしてぇんだ。だからお前も自分の気持ちと向き合ってくれや。な?」

微笑む俺様に、カナタは小声で「考えとく…」と、呟いた。



俺様はまた筋トレに戻った。

拳を右左と出し、身体を動かす。


「…お?」


カナタは頭を使って疲れたのか、俺様の隣で真似をするように小さな手を右左と出す。

今はあまり考えても仕方ないから気分を紛らわせたい…といったところか。

「…へへ。そうそう、もうちょい腰を落とすと良いぞ~」


「あなたって…ホント変な人!おせっかい!」

「誉め言葉として受け取っとくぜ。」


俺様に何が出来るか分からねぇ。

見栄張ったはいいが、最終的に何も出来ねぇかもしれねぇ。

けど俺様は、この小さな惑星で静かに暮らし、夢も希望もとっくに諦めちまったカナタの為に、楽しい時間を与えてやりてぇ。何かしてやりてぇと思うんだ。



それは王だから誰かを助けるのは当たり前だとか、カナタがかわいそうだから、哀れだからとか、同情みたいな理由でもねぇ。単純に俺様がなんとかしたいと思ったからだ。それだけだ。


誰かを助けるのに理由なんていらねぇんだ。

見つけてみせるぜ。カナタがこれからも笑顔で生きて行けるような道をな。


かといい、俺様もずっとここに居るわけにはいかねぇ。ビライトたちも頑張ってくれてんだからな。

だから…あまり時間は残されてねぇと思っていいだろう。


まずはこの惑星をよく見て、何かのヒントだったり、カナタからも知っている限りの情報を得ることからだなッ




俺様はカナタにこれからを楽しく生きられるようにするための道を探すことにした――――


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ