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Delighting World  作者: ゼル
第二章 ドラゴニア編~優しい魔法と竜の国~
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Delighting World Ⅵ



世界は思っている以上に綺麗で、そして汚れていた。



それでも、これから向かうドラゴニアは…







~第二章ドラゴニア編 優しい魔法と竜の国~



ヒューシュタットから南へ向かい始めて2日が経った。

ビライトたちは現在、南に広がる密林を歩いている。


「もーっ、どうなってんのよ!ずーーーっと森森森!森ばーっかり!」

レジェリーが叫ぶ。

「仕方ないだろ。ヒューシュタットからドラゴニアに向かうんならこのルートしかないんだから。」

「ドラゴニアはヒューシュタットから大体4日ぐらいだ。密林を出ることが出来ればもうあとは目と鼻の先だぜ。」

ビライトは叫ぶレジェリーにやれやれとし、ヴァゴウは実質あと2日はずっと密林であることを伝えた。


「うー…薄気味悪いし、魔物は出るし、何よりこの薄暗さ!!お日様浴びたい~!」

密林は巨木で覆われている。

陽の光もあまり当たらない程にだ。故にこの密林を越えてドラゴニアへ向かうのは精々腕に自信のある冒険家ぐらいだ。


「ヒューシュタットで買ったこの世界地図(仮)の通りに行けばきっと大丈夫だよ!」

キッカはビライトが見ている地図を指差して言う。

「しかし(仮)って…」

「この世界にはまだ未到達な場所や謎に包まれた場所も多く、地図なんてモノによって全然違ったりと曖昧なんだよ。(仮)なんてつけるのが証拠だ。」

ヴァゴウも別の地図を片手に歩いているが、ビライトがヒューシュタットで購入した世界地図(仮)とまるで違うため、あてにはしていなかった。


「この密林もやっぱり世界統合前からあったものなのかな。」

「昨日見た古文書によるとそうみたい。なんでもここには昔、巨体を持つ守護神様が居て、森を守っていたって話だよ。」

本を手に取れないキッカの代わりにビライトが読んだ古文書。

キッカはそこで得た情報を提供する。




「守護神様ねぇ…今はもういないのかしら?」

レジェリーが聞く。

「統合前の話だし流石にな。でもどっかに守護神様を祀る教会があるって話だ。」

「それ!ねぇ、ドラゴニアを目指している間に偶然見つかったりしないかなぁ?」

ビライトの話に食いつくキッカ。

キッカの好奇心スイッチがオンになったようだ。こうなるとキッカのワクワクは全開だ。

「見つかると良いけどな。俺も見てみたい。」

「うん!そうだよね!はぁ~守護神様の教会!見つかってくれないかな~!!」


------------------------



「おっとォ!ビライト!相手がひるんでるぜ!」


「レジェリー!魔法の準備だ!」

「オッケー!」


密林には魔物も居る。

視界が良くないので、魔物から不意打ちを受けることは多く、少し劣勢になることもあるが、そこはコンビネーションである。

気配を察したビライト、キッカやヴァゴウ、魔力を感知できるレジェリー。


的確に魔物の気配や位置を把握して、不意打ちはヴァゴウの盾で防ぎ、ビライトはエンハンス魔法で肉体強化。

大剣で魔物を叩き、弱ったところをレジェリーの魔法でトドメを刺す。


「エンハンスだ!うおおっ!」

「よーし!あたしの魔法受けなさいっ!」


「なかなかいいじゃねぇの。」

「あぁ、結構良い戦いが出来てると思う。」

「ヴァゴウさんは盾以外にも色んな戦い方が出来るから良いわね!」

「そうかァ?レジェリーちゃんだって色んな属性の魔法使えるからいくらでも応用効くじゃねぇか。」

「もっちろん。あたし天才だからね!」

笑いあうレジェリーとヴァゴウ。



「頼もしいよな。」

「うん。」

ビライトとキッカもレジェリーとヴァゴウを当てにして、戦いを潜り抜けている。

密林に生息する魔物は、ヒューシュタットとコルバレーを結ぶ山脈に比べるとレベルダウンしており、ビライトやヴァゴウにとっては難なく戦える相手である。

レジェリーは魔力を使いすぎて魔力切れを起こさない限りは誰よりも優秀な魔法を唱える。


並みの魔物程度であれば、この4人で協力すれば倒すことはたやすいだろう。


「よし、とにかく体力に気を付けて進もう。」

一行は先に進む。


その後も魔物と何度か戦うことはあれど、足場が悪かれど、順調に足を運んでいた。


そしてヒューシュタットを出て3日目の夕方。予定通りであれば翌日にはドラゴニアに着くはずだ。

一行は野営の準備を始めた。



「はー!このくっらーい密林も!よーやく終わりかって思うと今日一日の野営ぐらいどうってことないわー!」

レジェリーは半ばヤケクソのように叫ぶ。

「でも冒険してるって感じで私は楽しかったな~」

「そうだな。でも俺達には時間が無いってことも忘れちゃ駄目だぞ。」

「分かってるって~」

「まァ急いだところで良い結果にはならねェさ。体力をしっかりつけないとなッ」

ヴァゴウの魔蔵庫からヒューシュタットで買い込んだ食料が飛び出す。

「いつになく豪勢だな。これだけは旅してるって感覚が無くなりそうだ。」


肉、魚、野菜…必要な食物は一通りそろっている。

それで皆がそれぞれ協力して料理を作る。


「ビライトもヴァゴウさんも手際良いわね~あたしは細かいの苦手だけど~…」


「ワシはずっと一人暮らしだからなァ。一通りの調理ならお手の物だぜ。」

「俺もずっとキッカと二人だったからな。生きていく上で絶対に覚えなきゃいけないことだったからさ。」


「ふ~ん…なんだか大変ね。」


「大変なことなんてないさ、俺にとっては当たり前のことだからさ。」

「私も手伝いたいんだけどなぁ…」

何も手が出せないキッカはもどかしそうに見つめる。

「元に戻ったらお前の手料理楽しみにしてるよ。」

「うんっ、美味しいの作れるように料理の本も読まなくちゃ!」


ワイワイと作る野営の食事、皆と囲う食事。

旅は順調だった。



そして夜。



「…ぐおー…ぐぅぉー…」

ヴァゴウは爆睡しているのか、テントからも大声のいびきが聞こえる。

レジェリーは…

「相変わらずうるさいイビキなんだから…ドラゴニアで耳栓買おうかしら…!」

眠れないようだ。



ビライトはというと、少し離れた場所でキッカと星を見ていた。


「お兄ちゃん、まだ寝ないの?」

「ん、ちょっとな。」

「ヒューシュタットのこと、気にしてる?」

「…そうだな。やっぱあんなことがあって…忘れろって方が無理な話だ。オッサンもレジェリーもいつものようにふるまってるけど、内心気にしてる部分はあると思う。」

ビライトはヒューシュタットで起こった事件が忘れられなかった。

目の前での子供の死、そしてスラム街で起こっている悲惨な現状。


アリエラから告げられる世界の、ヒューシュタットの現実。

ビライトたちだけでは到底どうにもならないような世界の闇は世界を知らなかったビライトとキッカにとってはとても衝撃だったのだから。



「私もね、やっぱりあのときのこと考えたらとても辛い。私たち、何もできなかったし…」

「そうだ、それにアリエラさんの言っていることに何も言い返すことは出来なかった。世界の闇ってのは俺たちがどうにか出来る問題じゃないんだって…でもそんな悔しいっていう気持ちも捨ててはならないってアリエラさんは言った。」

「私たちに出来ること、あればいいんだけど…」


その言葉からしばらく沈黙が続く。



しばらく経ったその時だ。


「あるかもしれないぜ?」


声が聞こえる。



「誰だ!?」

ビライトは起き上がり大剣を構える。

「そう構えるなよ。俺は敵じゃない。」

暗闇から現れたのは獣人だ。

テンガロンハットをかぶっていて、少し変わった容姿をしている。

赤い髪に牛のような尻尾。だが牛型の獣人ではない。

まるで色々なものが混ざっているかのような姿をした獣人だ。

そして、それはヴァゴウが言っていたレジェリーを連れてきた獣人の特徴そのものだった。



「あんた、オッサンが言ってた…」

「そ、俺があの魔法使いの子を連れてきた。」

「私たちに出来ること…って?」

キッカが尋ねる。


「その前に。」

獣人は指を前に出す。

「世界を知らないお前らに世界を知っている俺から一つ教えておいてやるよ。」

「何?」



「あのヒューシュタットで起こっていることはヒューシュタットだけで起こっていることじゃない。この世界では差別、暴力、貧困差…それらは当たり前のもので、決して無くなることじゃねぇってことだ。」

「そんな…」

「残念だがこれが現実だ。お前らはそんな世界をこれから巡り、イビルライズに向かおうとしている。」


「!…あんた、イビルライズを知っているのか!教えてくれ!イビルライズは…いや、キッカの身体はイビルライズにあるのか!?」

ビライトは獣人に押し入るように聞く。

「あせんなよ。」

「良いから教えろ!じゃないとっ!」

「お兄ちゃん!駄目だよ無理やりは!」

掴みかかりそうなビライトをひょいっと躱して獣人は後ろに回り込む。


「そーそー。嬢ちゃんの言う通り。良いか?人の話は最後まで聞くのが道理ってもんだ。」

獣人の爪がビライトの首に当たる。

「…!」

ビライトは一瞬で感じた。この獣人には得体のしれない力があることを。

その奇妙な感じにビライトはこれ以上何も言えなくなった。


「分かってくれたらよろしい~。」


爪を離し、ニッコリ笑い、話を続ける獣人。



「お前らはこれから世界を回ることになる。その中で世界の闇を知っていくことになる。だが、それと同じく光だって見ることになるだろう。それらの経験全てを身に宿して先に進むことだ。」


動けなくなっていたビライトの耳元に口を近づける獣人。

「お前たちには期待してるんだぜ、お前たちが目指す場所はこの世界の闇を振り払えるだけの場所なんだ。そして…世界に絶望を与えることの出来る場所でもある。」

「…!」

「お前たちは世界に選ばれた。俺”たち”はお前たちの行く先を見ている。」

言葉一つひとつに身震いがする。

その言葉にはとてつもない圧力がのしかかっているように感じた。


獣人は口を離し、立ち去ろうとする。


「ま、今は難しいこと考えずにとっととイビルライズを目指しな。また会おうぜ。ビライト・シューゲン、キッカ・シューゲン。」


「あ、ま、待ってくれ!まだ聞きたいことがっ」


「おーそうだ。俺の名前。アトメントっていうんだ。ヨロシクバイビ~」


アトメントと名乗った謎の獣人はスッと姿を消してしまった。



「…キッカ、話を整理したいんだが…」

「う、うん。私もわけわかんなくなっちゃった…」





レジェリーを引き合わせた謎の獣人の名はアトメント。

彼は得体のしれない力を秘めた不思議な獣人だ。


そして、イビルライズのこと。そしてビライトたちのことをよく知っているようだ。

世界には闇が巡っている。ヒューシュタットで起こっていることは世界中で当たり前に起こっていること。それが現実であること。


そして、ビライトたちが目指す場所は世界を照らすことも、絶望を与えることも出来る場所であることを告げられる。


そして…

「俺たちが世界に選ばれている…?」

「このシンセライズに私たちが選ばれているってことなの?」

「…何で俺達なんだ?」

「分からない…私の身体が無くなったことと関係しているのかな…」



更に、世界をめぐり、イビルライズを目指す中で世界の事を知り、そしてすべての経験を身に宿し前に進むこと。

今はとにかくイビルライズを目指して旅を続けること。


「…キッカ、俺たちはもしかしたら何か大きな運命の中にいるのかもしれない。」

「……私、これからどうなるんだろう…」

「大丈夫だ、何があっても俺は、俺はキッカを守る。」

「私も…私もお兄ちゃんを守るから。」


帰り道、真っ暗な道を進む。

「…あっ」

「どうした?」

キッカは野営地とは違う方向に指をさす。

「あれは…建物?」


奥の方に建物が見えるが明かりは無く、随分と廃れているようだ。


「もしかしてアレ、守護神様の?」

「かも、しれないが…」

「行ってみようよお兄ちゃん!」

「イヤ、でもアレ明らかにヤバくないか?凄くなんというか…出そうっていうか。」

「そんなの私の光魔法で追い払っちゃうよ!行こーよー」

さっきまでのシリアスムードはなんだったのか。

キッカのワガママにビライトは仕方なく付き合うことにした。


「明らかにもうずっと人の手がかかってないな。」

「扉開くかな?」

ビライトは恐る恐る扉に手をかけたするとドアノブを回す前に扉は大きな音を立てて中へ倒れた。

「うおっ!?」

情けない声を上げて驚くビライトと明らかに古い建物だとキャッキャするキッカ。

「~…分かったよ。行けばいいんだろ…やれやれ。」

ビライトは奥へと足を運ぶ。



中は狭く、普通の教会のような感じだ。ボロボロの椅子や赤いカーペット。

砕け散った女神像に割れたステンドグラス。壁には植物が生い茂り、本当に何百年、何千年…いや、何万年も使われていないような場所だった。


「…特別変わったものは無いように見えるけど。」

「そうだね、あっ!裏庭に行けるみたいだよ!」

キッカは教会の奥の扉からわずかに月の光が当たっているのが見えた。

どうやらその先は裏庭のようだ。


「キッカ…そろそろやめといたほうがいいんじゃないのか?」

ビライトはキッカに言うが…

「せっかくだもん、見てみようよ~」

「やれやれ…」


キッカの好奇心スイッチが入り、行動に移るともう止められない。

まぁキッカが楽しいなら良いかとビライトも開き直りつつ、いつ魔物が出てもいいように武器を構えて奥へと進む。


「わぁ…なんだろここ!」


裏庭は明るかった。

月の光が直接この庭だけを照らしていて、周囲には光る昆虫が無数に飛び回っていた。

「不思議な感じだな。他の場所はあまり光が当たらないのに、ここは月の光がそのまま降り注いでいる。」


裏庭自体もとても狭いものだった。

周囲は外壁に覆われていて、植物でみっしりと支配されている。

ツタの葉が生い茂り、地は優しい芝生で覆われている。


明らかにここだけ様子が違う感じだった。


「真ん中に何かある。」

真ん中には小さな墓。そして何か書かれている墓石。

「誰かのお墓…みたいだね。」

「えーと…”森の守護神…ギ…様、大地…森……つまれ…の命優………むる。そ…命………森を未来永劫守…続ける…あろう”……」


「「…」」

2人は確信した。ここがやはり森の守護神を奉る教会なのだと。

そしてこの森の守護神は今もこの地に命を分け与えている。この場所で。


「…今もまだ森の守護神がここでこの森を見守っているんだな。」

「そうだね…死んでもなお優しく包み込んでくれるなんて、とっても優しい存在だったんだね。」


ビライトたちは墓に祈った。


(お参りとか、神に祈るとか…そんなんじゃないけど…俺たちの旅の思い出になってくれてありがとう。よければ…見守って欲しい。)

ビライトは密かに祈った。


その時だ。

「…!」

墓が鈍く光りだした。



(ありがときてくれて。とっても、おで、うれしい。)







「今の声…!」

「お兄ちゃん、なんだかあったかい。」

「あぁ、なんだろ…この感じ。」

ビライトの中に何かが入り込んでいったような感じがした。


それが何なのかは分からないが、きっと何かを受け取ったような。

そんな気がした。


「…こういう経験も全部身にして…先に進む…ってことなんだろうな。」


ビライトたちは教会を後にした。






「来てよかったでしょ?」


「ま、まぁな。こういうことが思わぬ経験をすることに繋がるのかもしれないな。」


「アトメントさん、きっと私たちがイビルライズを目指すために必要なことを教えてくれたんだよ。私たちに足りないこと…」


「そうかもしれない。俺たちには経験が足りないんだ。だから世界を回ってその経験を身に宿して…進まなきゃいけないんだ。」








思わぬ経験をし、頭を整理した2人はひとまず野営地に戻り、身体を休めることにした。


そしてやがて夜が明ける。

ドラゴニアまでもう少し。

新しい土地に対するワクワク感と別に、アトメントの言うこと、そしてヒューシュタットでの出来事。

様々なことを胸に抱えながらビライトとキッカの旅は続くのだ。



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