Delighting World Break Ⅳ.Ⅸ ~ボルドー・バーンと忘却の少女~
目が覚めると知らない惑星にポツンと立っていた。
歩き続けて出会ったのは1人の人間の嬢ちゃんだった。
俺様に「生きたい?死にたい?」と聞いた。おかしなことを聞くもんだと思ったさ。
だってもう俺様は死んでるんだから。
でも、俺様の答えは決まっていたんだ。
「…生きてぇよ。」
全てが道半ばだった。
自分が命を落とした時の選択に後悔はない。だが、その先にあったであろう未来は全て閉ざされてしまった。だから心残りはとても多い。
平気そうに見えてこれでも結構落ち込んでいる。
しかし、嬢ちゃんは
「そう。ならしばらくここに居ると良いわ。いつかきっと、光指す道が現れる。」
と、言った。
光指す道ってなんだ?これ以上、何があるというんだ?
何も分からないが、とにかく俺様はここに居なきゃならねぇ。そんな気がしたんだよ。
嬢ちゃん曰く、ここは忘れられた惑星。
生と死の狭間にある惑星で、俺様は迷い込んでしまったらしい。
何故迷い込んだのか、何故狭間なんてモンに迷い込んじまったのか…さっぱり分からねぇが、嬢ちゃんはここに居れば良いと言った。
どのみち何も出来ることは無い。
だから俺様はこの惑星で厄介になることに決めた。
嬢ちゃんには昔名前があったそうだが、“忘却の少女”で良いと名乗るが…
呼びにくいから嬢ちゃんでいいや。
まずは…この惑星を探索でもしてみるかな。
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昔、夢でこんな場所に似た場所を見た。
あの時は…なんであんな夢を見たんだっけな。
見たことは覚えているが、その時自分がどういう状況だったかってのは覚えていない。
なんせもう30年も前の頃だ。
21歳と言えば…初めて世界周りの旅に出たあたりだったような気がするぜ。
…あれ。あの時の旅…なんかうまく思い出せねぇ…あぁ、そうだ、あの時俺様は―――
―――
「ほー…自然が満ちてていい場所だな。」
この惑星はどうやらとても小さな惑星で、簡単に1周出来てしまうほど小さなモンらしい。
そして、何よりもこの惑星には不思議な光の球体が宙を漂っている。
「この光は…魔力を感じるな…目視で確認出来る魔力…的な感じか?」
漂う球体を捕まえると分散して消えてしまうが、地面から次々と出てきている。
「おお…感じるぜ。」
捕まえた球体が体内に吸収されるのが分かる。やはりこれは魔力のようだ。
魔力が肉眼で確認できる。これだけでも驚きだが、それほど高濃度なのだろう。ひと球で身体に魔力が満ち溢れてくるようだ。
「すげぇ場所だな、ここ。マジで何なんだよ。」
「だから忘れられた惑星だってば。」
嬢ちゃんが後ろからついてきている。
最初からついてきているのは分かっていたが…監視でもしているのか。
「俺たちの住んでいる世界にはこんな場所無いし、噂にも聞いたこともねぇんだよ。だから珍しい。それに…」
周りには小さな小動物たちや小鳥が気持ちよさそうにしている。
時々俺様のことを見ては不思議に首をかしげているが、威嚇されたりすることもなく、中には寄り添ってくる奴も居る。
「皆、気持ちよさそうにしてるじゃねぇの。良い場所だよここは。」
「でも、何も無いのよ。本当に。」
嬢ちゃんは小さくため息をつく。
「…なぁ、嬢ちゃんよ。」
「嬢ちゃんは嫌。」
「だったら名前、教えろって。忘却のなんとかじゃなくてよ。」
嬢ちゃんと呼ばれるのは嫌なようだ。だからこそ俺様は名前を聞く。
「いじわる。」
「いじわるはひでぇな。名前聞いてるだけだろ?」
「…カナタ。」
「カナタな。うし!カナタ!この惑星でのことについて、もっと詳しく教えてくれよ。」
嬢ちゃんの名前は“カナタ”というらしい。
恐らくこの名前を告げたのも何百万年、いや、何千万年?でもそれぐらいぶりなんだろうな。
そもそもこのカナタという嬢ちゃんは何故ここに居るのか。何者なのか。謎は多い。
だが、あまり細かく話を聞くのもあまり良くはない。だからまずはこの惑星の良いところや思い出なんかを聞くことにした。
「…詳しくと言われても。あなたがここに来た時に話したじゃない。ここは生と死の狭間にある惑星で…」
「そうじゃねぇって。もっとこう…なんだ。カナタが思うこの惑星での良いところとかよ、思い出とかよ。そういうのが知りてぇんだよ。」
「…それを知ってどうなるの?」
まぁ、当然の返答かもしれねぇが…話題が欲しかった…ってのが本音だ。会話している方が余計なことを考えずに済むからな。
今の俺様には何も出来ないのだから…
「良いじゃねぇか。俺はお前のことも知りてぇんだよ。教えてくれよ。な?」
「…思い出なんて…もう忘れちゃった。」
カナタはそう言い、目を瞑るが…それはすぐ嘘だと分かった。
「お前、分かりやす過ぎだろ。」
俺様はカナタの目の前に行き、目線を合わせる。
カナタは驚いて目をパッチリあける。
「…な、なに?」
「目が泳いでる。ダッハハハハハ!!!嘘がへったくそだなぁお前ッ!」
「むー…あなた、やっぱりいじわるね。」
カナタは目を細めて俺様を睨む。
「ずーっと誰とも話してこなかったんだろ?寂しかったんじゃねぇのか?」
「…別に…そんなこと…ないケド…」
「また目が泳いでら。」
「むー…」
少女は目を瞑る。
「余計に嘘だって分かるっての!お前面白れぇなッ。」
「あなたってほんと…」
カナタは少し声を大きくして…
「…お人よしね。やっぱりバカなのかしら…。」
「バカで良いさ。自覚はあるさ。」
俺様はカナタを引き寄せて背中に乗せた。
「ちょっ、何を…!?」
「ホレ、高いだろ。」
カナタと俺様は1.5倍以上の身長差がある。
ちょっとした巨人の背に乗っているような感覚になるはずだ。
「子供扱いしないで欲しいんだけど…」
「ダハハ!ま、お前に比べりゃ短いけどよ!なんつーかよ。可愛いじゃんかよ、お前。」
「…バカな人。」
カナタは俺様の背中に身体を寄せて、呟いた。
まんざらでもなさそうなので俺様はそのまま走り出す。
「ホレ、行くぞ~!」
「えっ、ちょっと…!」
なんだか楽しくなってきた。
草原を走り、花が舞い散り、魔力の光球もゆらゆらと揺れる。
「ダハハ!どうだ?楽しいかッ?」
「お、降ろして…!」
「もうちょいもうちょっ…おっとっとと!」
足元がふらつき、ドテンと大きな音を立てて尻餅をつく俺様だが、カナタはしっかり肩にしがみついていたようで、大事には至っていなかった。
「わりぃわりぃ、大丈夫か?」
「もう…」
カナタの長いポニーテールの髪はほどけてしまい、くしゃくしゃだ。
「…ぷっ、ダハハ、なんだよその髪!」
「…もう、ホント…フフッ。」
カナタは笑った。初めて笑った顔を見た。小さくて上品な笑い方で素直に可愛いと思った。
「なぁカナタよぉ。」
「何?」
「ここで出会ったのも縁なんだからよ。もっと話をしようぜ。な?」
「…ホント、変な竜人。それに聞かないの?あなたが何でここに居るのかとか。どういう状況なのかとか…」
「あー…まぁ、知ってるなら教えて欲しいけどよ。ゆっくりでいいよ。」
この状況がどういうことなのかは分からない。けどそれは自分では確かめられないことだ。
「…良いわ。話してあげる。」
カナタは髪を直しながら言う。
「あなたも、知りたいでしょうし。」
「ボルドーだ。」
「?」
カナタは首をかしげる。
「俺の名。知ってるんだろ?」
「うん。」
「俺もお前のことはカナタって呼ぶからお前も俺のことはボルドーって呼んでくれや。」
カナタは少し黙った後、口を小さく動かし…
「…ボルドー。」
「おう。カナタ。」
「不思議。人の名前なんて久しぶりに口にした。」
カナタは少し顔を赤くして微笑んだ。
「へへっ。」
風が周囲の花を巻き上げて空に花びらを散らす。
そして小動物たちが周囲に集まってきて、カナタや俺様の周りに集まってワイワイと騒がしくなってきた。
―――
「…ボルドー、あなたはね。“まだ死んでない”の。」
「…マジで言ってんのか…?」
「うん。」
「…詳しく、聞いても良いんだよな?」
「うん。望むなら。」
カナタの口から告げられる衝撃の事実に困惑したぜ。
だが…もしそれが真実なら、俺様は…戻れるのか?みんなの待つ…あの場所へ。
希望のひとかけらが生まれた。
メルシィ、ブランクの元に戻ることが出来る…?家族の、国民たちが待つドラゴニアに…?本当に叶うのならば嬉しいが…それと同時に…
カナタ、もし俺様がここを去ったら…お前はまた一人なのか?
という気持ちも生まれたんだ。
これは、俺様、ボルドー・バーンと、不思議な惑星で出会った少女、カナタとの、不思議な物語の記録。
~ボルドー・バーンと忘却の少女~