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Delighting World  作者: ゼル
Break 第一章 ドラゴンの集落編 ~レミヘゾルを目指して~
61/139

Delighting World Break Ⅲ

「よく来たな。冒険者たち。私の名前はザイロン・ウインド。この集落の長をしている者だ。」


「…大きい。」

「む?そうか?いやはや、今や私より弟の方が大きいのだがね。」

ザイロンの体長は大体6m程度。

ファルトとよく似ているようだが…ファルトよりも鱗の色は濃い青色をしている。


ドラゴンの集落に辿り着いたビライトたち。


そこでレミヘゾルに入る為の許可証は4つあることを知る。そして最後の1つがこのドラゴンの集落にあることも同時に判明。


ビライトたちはドラゴンの集落の族長であるザイロン・ウインドに会う。

果たして、最後の許可証を得ることができるのか…?


「あっ、えっと俺はビライトです。」

「ヴァゴウだ!」

「クライド。」


3人は名を名乗る。

「で、そなたはレジェリーだな。久しぶりだ。」

「えぇ、お久しぶりです族長さん!」

レジェリーはここを経由してこちらに来ているのでもちろん顔見知りだ。


ザイロンはアトメントに頭を下げる。

「アトメント様、お久しぶりでございます。」

「おう、しばらくだな。」

アトメントは神様だ。

ザイロンはそれを知っている為、アトメントに頭を下げ丁寧に挨拶をする。


「アトメント様が連れてきたということは…彼らが探していた者たち…ということですか?」

「おう、お墨付きなんだぜ?」

アトメントはなんだか誇らし気だ。正直ビライトたちからすればアトメントは相当ビライトたちを買っているようだが、本人たちにはあまり自覚は無い。


「フーム…確かに…色々な経験をしてきたのだろうな。君たちの佇まいを見れば分かる。」

ザイロンは族長と言う割にはあまり威厳は無いように見える。

むしろとても親しみやすい。年齢も若いようだが…


(なんかあんまり族長って感じがしないな。)

(ん~…確かになァ。)

ビライトとヴァゴウはボソッと会話をする。

「さて、では早速だけど…レミヘゾルに必要な許可証を見せてもらおうか。」

「あ、そうだった。」

ビライトは3つの許可証をザイロンに見せる。


「うんうん、確かに。ドラゴニアのベルガ・バーン。ワービルトのヴォロッド・ガロル。そしてヒューシュタットのホウ・ワルト。3人の許可証だな。」

ザイロンは許可証を傍の机に置き、頷いた。


「あの、族長さん!さっき集落のドラゴンに聞いたんだけど…!」

レジェリーは4つめの許可証のことについて尋ねようとする。

「あぁ、許可証のことだろう?言っていることは正しいとも。許可証は4つある。」


ザイロンは4つ目の許可証をビライトたちに見せる。



「…ホントに4つあったんだ。」

「ここは未踏の地唯一の入り口で、この先は神聖なる地。ここはそこへ足を踏み入れるための資格があるかどうかを試す場所だからね。」

「な、何をするんだ?戦いか?それとも何か条件が?」

ビライトは訊ねる。


「私からの題は簡単さ。“会話”だよ。」


「「会話?」」

ビライトとヴァゴウが言う。


「そなたたちがこれまでこの3つの許可証を集め、ここに来るまでの道のりを私に聞かせて欲しい。それだけで良い。」



「…それだけで良いのか?」

ザイロンが言う題材に拍子抜けする一行。


「ウム、そなたたちは多くの経験をしてきただろう?それに興味がある。」

ザイロンはそう言い、早く話して欲しいのかそわそわしている。


「相変わらずお喋り好きだなァお前は。まぁそういうこった。俺はその辺ぶらぶらしてるからあとは上手くやれよ~」

アトメントはヤレヤレと外へと出ていく。


「あっ。」

出ていくときにニヤリと笑うアトメントの顔が見えた。


((((逃げた…))))


「さぁでは…と、その前に。君の荷物から懐かしい匂いがする。」

ザイロンはビライトが持っていた書類に目を付けた。

「あっ、そうか。これ…!」

ビライトはファルトから受け取っていた書類を渡した。


「どれ、拝借……ウン、なるほど。元気そうで何よりだ。」

ザイロンはしみじみと書類を見て頷いた。


「それはこの集落出身だというファルトというドラゴンから預かったものだ。」

クライドが言う。


「あぁ、そうだろうね。ファルトの匂いがする。」

ザイロンは微笑んだ。

「ファルトさんを知ってるの?」

レジェリーが訊ねる。


「あぁ、ファルトは私の“弟”だよ。」

「「えっ!」」

「マジか!」


「なるほど、ファルトが書類を預けた理由はこれか。」

クライドは納得し、ビライトたちは驚いた。確かにファルトに似ているが、兄弟だと思わなかったようだ。


「ファルトは小さい頃から外に憧れていてね。しかしこの集落の掟で外に出ることは出来ない。もし出るならば二度とここに戻ることは許されない。」

ザイロンは目を閉じて語りだす。


「今でも覚えている。ファルトが出ていった日のことをね。あの時は今は亡き父上も母上も動揺していたが…私はファルトが選んだ道だからとその背中を押したのだ。」

ザイロンは目を開け、ビライトたちに聞く。


「ファルトは…幸せに暮らしているかい?」


ビライトたちは顔を合わせ、頷いた。

「ファルトさんは俺たちの為にたくさん頑張ってくれたんだ。誰かを乗せて飛ぶのが大好きで、凄く速くて…」

ビライトは笑顔で語る。


「えぇ、ホント速すぎてクラクラしちゃうけど…でも、飛んでる時のファルトさんはとても楽しそうだった!」

レジェリーも語る。


「ファルトはドラゴニアの為にも、ワービルトの高速ドラゴン便部隊長として…ホント世話になりっぱなしだったな。」

「そうだな、アイツが居なければ今頃もっと悲惨なことになっていたかもしれない。」

ヴァゴウとクライドも続けて語る。


「そうか、アイツはアイツで頑張っているのだな。ウム、ありがとう。弟のことを知れて嬉しかったよ。」

ザイロンはお礼を言う。


「そうか、ウム、そうか。父上と母上にも聞かせてやりたかった。」

ザイロンはそう呟き、「さて、話を戻そう」と話を戻した。



「さぁ、そなたたちの旅を早く、早く聞かせてくれたまえ!私は我慢ならんぞっ!そなたたちの思い出話を私にも聞かせてくれたまえ!」


ザイロンの早く聞かせて圧が凄まじいのでビライトたちは気を取り直して語りだした。



----------------------------------------



ビライトたちは最初から語りだした。


まずはビライトたち全員の簡単な自己紹介と、旅の目的や夢を話した。

ここに居ないキッカのことも含めてだ。キッカの特徴、キッカの置かれている状況、そして人によって見える見えないがあることなど、詳しくザイロンに話した。


それから旅の話を始めた。


今はこの場に居ないが、イビルライズにさらわれたキッカのこと。

そしてクライドから得たイビルライズの情報。


ヴァゴウと一緒にヒューシュタットに向かうまでを語りだすビライトたち。


「今思えば俺はあの時レジェリーともクライドとも出会っていたんだよな。」

「そうねぇ…あたしはまさかあんたちと旅することになるなんて思ってもいなかったけどね。クライドもでしょ?」

「まぁ、そうだな。俺は最後まで裏方に徹するつもりだったのだがな。アトメントに同行しろと言われたからな…やれやれだった。」

クライドはため息をつく。


「で?結果的にはどうだった?」

ザイロンが訊ねる。


「…まぁ、悪くはない。」

「そうか。」

ザイロンは微笑んだ。満足そうだ。



―――


ヒューシュタットに辿り着いてからはガジュールに殺された少年の話、アリエラとの出会い、スラムの現状。

ビライトとキッカが世界の残酷さを知った時であった。


「あの時は…本当に辛かった。世界のことを俺とキッカは知らなかった。」

「ワシの知っているヒューシュタットは何処にも無かった。しばらく行かない間にすっかり変わっちまっていた。」


ビライトたちはここでヒューシュタットの現状、そして目の前で殺される命を目撃した。


これは今でも忘れたくても忘れられない思い出としてビライトたちの心に刻まれている。


この時は既にレジェリーは同行しており、クライドだけがもう少し後の出会いになっている。



「ヒューシュタットの偽王、ガジュール…奴は世界に負をばら撒く悪しき者であった。私の住むこの地にもその噂は届いていたさ。」

ザイロンは呟く。


「私たちドラゴンの集落の者たちは外に出ることは出来ない。そういった法の元、我々はこの地を、そして未踏の地を守り続けているのだからね。」

ザイロンたちには何もすることは出来ない。だが、心の底ではやはり穏やかではいられなかっただろう。

ガジュールの目的は世界の支配だった。ドラゴンたちにとってもそれは脅威だったはずだ。


「だが、私たちは法を優先した。悪しき者は必ず滅ぶ。そう信じてな。」


―――



ヒューシュタットの許可書を後回しにして、まず一行が向かったのはドラゴニア。


道中の守護者の森でビライトとキッカはアトメントと出会い、世界の進み方。そして心構えを教わる。

森の中に会った廃教会では守護神メギラの加護を受け、ビライトたちはドラゴニアへと向かった。



「あの時メギラの教会を見つけていなかったら…今俺の力はまだまだ中途半端だった。」

ビライトは呟く。

まだ実践では試していないが、今ビライトはメギラと同化したことで、とても強力な力を宿している。


ここでの何気ない行動が今こうやって実を結んでいるのだ。



ドラゴニアに辿り着いた一行は観光と情報収集の際、ヒューシュタットのオートマタに襲われていた竜人を助けた。


「それがクルト様だったんだよね。」

「おう、クルトもだけどよ、ドラゴニアはワシの故郷だ。友人のゲキと再会出来た時は嬉しかったなッ。」

ここはヴァゴウの故郷。そしてドラゴニア王のベルガ・バーンはとても寛大な存在。

会うのは難しくはないと聞かされていたが、ヒューシュタットの不穏な行動が目立っていたドラゴニアは謁見を断っていた。

だが、クルトを助けた際に怪我をしたビライトたちはクルトの計らいで城に入れることに。

強めの怪我をしたヴァゴウが治るまで城で滞在し、そして一行はベルガと出会う。


事情を話し、許可証を得るための条件を出されたビライトたち。


その内容は、ドラゴニア領最南端にあるサマスコールの町長に親書を渡すことだった。


ドラゴニアの象徴である古代人の大型ドラゴン、フリードに乗り、ビライトたちはサマスコールに向かった。


「フリード様との空の旅は楽しかったわね。」

「そうだな。ホント…あの時は今よりずっと気楽だったよ。急いでたはずなのにな。」

レジェリーとビライトは頷きながら言う。


「楽しむことは大事だ。その気持ちは忘れてはいけないな。」

ザイロンもまた、アトメントやボルドーと同じことを言う。

この世界は楽しく生きるべきだという考えを持つ者は少なくはない。むしろ皆、心の底ではそれを望んでいるはずだ。



―――


サマスコールに向かう道中の話を始めるビライトたち。



「サマスコールまでの道のり。そこで俺たちはクライドに会ったんだよな。」

「…そうだったな。」

ビライトとクライドは頷いた。


道中、ヒューシュタットのオートマタに襲われたビライトたち。

フリードは怪我を負い、深い森の中に不時着した。


オートマタがビライトたちを探している中、クライドが現れたのだ。クライドはアトメントに言われてビライトたちをイビルライズに導くように依頼された。


「クライドのお陰で俺たちはあの危機を潜り抜けることが出来たんだよなッ。」

ヴァゴウはクライドの肩を叩き、クライドはため息をつき、その手を放す。

「気は進まなかったがな。」


クライドは依頼だからという理由で仕方なくビライトたちと同行することになった。

クライドの指示の元、無事にオートマタを倒し切り、フリードの怪我が癒えた頃、再び空を飛び、サマスコールに辿り着くことが出来たのだ。




「サマスコールは最初は全然活気が無くてさ。聞いていた話と違うって感じだったわよね。」

「あぁ、でもそれは…ヒューシュタットが既にサマスコールに侵入していたからだったんだ。」


「ほう…それも君たちが何とかしたのかい?」

ザイロンは訊ねる。

「ほとんどクライドのお陰だよ。俺もあの時はヘマをしちゃったし…」

「フム。」


情報を集める為、ビライトたちはクライドの指示の元に動いた。

そして、サマスコールの町長がヒューシュタットのオートマタと、それを操る者に監禁されていることを突き止めた。

町に活気がなく、人がほとんど居ないのは町長が危険だからと住民たちに外に出ないように指示を出していたからだということも分かった。


ビライトたちはヴァゴウが集めてきた武器を持ち、夜間に侵入を試みた。



そしてビライトはそこで聞いたヒューシュタットのブロンズの計画に腹を立て、単身飛び込んでしまう。


「あの時は気が立っていて周りのこと何も考えられなかったよ。」

ビライトはあの時のことを思い出していた。自分はあの時本当に馬鹿なことをしたと今でも思っている。


「勝手な行動は誰かを傷つける結果に繋がる。だがお前はあの後反省を見せた。それで十分だ。」

クライドはあの時のことをフォローするようにビライトに言う。


「間違いは誰にでもある。その結果取り返しのつかないことになるかもしれぬが…幸い大きな影響が無かったのであれば、次は同じ過ちを繰り返さぬようにする。クライドはそれを君に教えたんだな。」

ザイロンはなるほどなるほどと頷く。


「君たちは良い仲間関係を持っているようだ。」

ザイロンは微笑んだ。


「あの時は俺も一歩成長出来たような気がするよ。あの時はフリードさんも、オッサンもレジェリーも、キッカも。みんながサポートしてくれた。俺は…昔も今も、誰かに支えられてるんだ。でも、俺もいつまでも誰かに頼られてばっかりじゃダメだとも思うよ。」


「そうか。立派な志だな。その想いがあれば君はもっと強くなるだろう。」


その後、ビライトの襲撃により撤退したヒューシュタット。解放されたサマスコール。

町長に親書を届ける役目を果たしたビライトたちは再びフリードに乗り、ドラゴニアに戻った。

ベルガから許可証を貰い、ビライトたちは次の許可証を求めて北西にあるワービルトを目指し、竜の鍾乳洞を通り、ジィル大草原を目指した。


―――


竜の鍾乳洞では、ビライトたちはそれぞれが魔物によって何か良くないものを見せられたりなどの事件があったが…


「ワシはこの先でその事実を知ることになったけどよ。レジェリーちゃん、クライドは何を見せられてたんだ?」

ヴァゴウはせっかくだからと訊ねるが…


「俺は昔の話だ。だが俺にとっての昔は何の意味も成さない。故にすぐに断ち切った。」

「あたしは…師匠と…ううん、やっぱ言いたくないかも…」

クライドはアッサリと告白したが、レジェリーは言うのを躊躇っていたようだ。


「あァ、言いたくなければいいって。すまねぇな。」

「ううん、ごめんね。」



竜の鍾乳洞を抜け、ジィル大草原に辿り着いたビライトたち。


「ここで俺たちが出会ったのが…」

「おう、ボルドーだな!ボルドーの妻のメルシィ、そして生まれたばかりの子供のブランクだ。」


「ボルドー・バーン。ドラゴニアの次期国王となる男だな。そしてその妻、メルシィ・バーンと子であるブランク・バーン。」

ザイロンもボルドーたちのことは知っているようだ。

ドラゴニア国王、ベルガの息子と、その家族なのだから当然と言えば当然ではあるが…


「ジィル大草原からワービルトに向かう途中よね。酒癖の悪い獣人に絡まれてね~…」

「そうだったな。その時にたまたま近くに居たボルドーさんが助けてくれたんだ。」


魔蔵庫を盗られてしまったビライトたちを助けてくれたボルドー。


ボルドーはヴァゴウとは幼馴染で友人だった。

故に久々の再会を喜んだ。


「あの時のワシはまだ色々モヤモヤしてた時期だったけどよ。ボルドーと再会出来た時は素直に嬉しかったわな。」

ヴァゴウは微笑んだ。


「ボルドー・バーンはとてもおおらかで優しき者であると聞いている。それは間違いではないようだな。」

「あぁ、ボルドーはホントお人よしでよ…ホント、良い奴なんだ。」

ヴァゴウは今のボルドーが立たされている現状を知っているから故に少し複雑な表情を見せるが…



「俺たちの突拍子もないキッカやイビルライズの話を聞いてさ、すぐに信じてくれたよな。メルシィさんもあっさりだったし!」


「そうね、キッカちゃんが見えなかったのにホントあっさり受け入れちゃうんだもの。流石ボルドー様!って感じだったわ!」


ビライトもレジェリーもボルドーのことを本気で尊敬している。

それが表情でしっかり見えていたが故、ザイロンもボルドーのことが気になった。


「ボルドーさんはワービルトまで同行してくれるって言ってくれたけど…結局最後のヒューシュタットの時まで一緒に居てくれたもんな。」


「ホントな。鍛えてくれたり、たくさん飯食わせてくれたり…ホント、良い奴だった。」


「ちょ、死んだみたいに言わないでよ!まだ決まったわけじゃないんだから!」

「あ、あぁそうだ、すまんすまん!」


「ボルドーがここに居ないのは…何か理由があるようだな。」

「えぇ、その時に話します。」

ザイロンは続きが気になって仕方ない様子。


―――


ジィル大草原からワービルトに向かう途中、ビライトたちとボルドーはヒューシュタットのオートマタから襲撃を受けた。


その際にヴァゴウがヒューシュタットに捕らえられてしまったのだ。


「ここからはワシの話だな。」

ヴァゴウは少し口が重そうだが…

「言いたくない話、思い出したくない話は言わなくても構わんが…」

ザイロンはヴァゴウの顔を見て気を遣うが、ヴァゴウは「いや、大丈夫だ」と言い、話を続けた。


「ワシはヒューシュタットのシルバーって奴に捕まって、出生を知らされた。ワシはジィル大草原の西にある廃草地で生まれたんだ。」


ヴァゴウは重血だ。

父親は竜人と人間の混血であるドルグラ・オーディル。

そして母親が廃草地を支配していた魔竜グリーディ。


その間に生まれたヴァゴウはグリーディの贄になるべくして生まれた存在だった。

だが、ヴァゴウはドルグラにドラゴニアまで逃がされ、生存した。

グリーディはその時にドラゴニアに多くの犠牲が生まれたが、討伐されてドルグラはここで力尽きた。


ヴァゴウは重血の拒絶反応により、5年という長い時間、毎日のように命の危機に晒された。

ドラゴニアのクルトを始めとする多くの人たち。

そしてここで出会ったボルドーやゲキに支えられてヴァゴウはここまで生きることが出来た。


ヴァゴウはドラゴニアにとって特別な存在となった。重い運命を背負いながら生き続けるヴァゴウの姿はドラゴニアに勇気を与えた。

だが、そんな特別な存在となったヴァゴウは自分の特別を嫌悪するようになった。

自分のなかにある特別を捨てたくて成人になったヴァゴウはすぐにドラゴニアを離れ、コルバレーに移住したのだ。



「あの時はよ、本当に自分が嫌で仕方なかったし、ドラゴニアの優しさを棒に振るようなことをしちまった。」


特別扱いが嫌で逃げてきた。

それを受け入れて、特別扱いを辞めるように宣言してくれたボルドーやゲキの優しさも無視してヴァゴウはコルバレーに逃げるようにやってきたのだ。

ただ、ドラゴニアに対しての恩義は忘れずに武具をドラゴニアに送るだけの支援は欠かさずに行っていた。



「生まれてからよ、拒絶反応で毎日苦しんでいた日々を疑似体験させられてよ…あンときはホント、心めちゃくちゃにされちまった。そして挙句の果てにはコレだ。」

ヴァゴウは自分の顔を触る。

左目の周囲にある大きな傷、胸に刻まれた大きな傷。これは最初に潜血覚醒を引き起こした時の傷跡だ。


潜血覚醒引き起こし暴走したヴァゴウを助ける為、ボルドーはビライトたちの支援を受けてヴァゴウの心の中に入った。

「ボルドーはよ、自暴自棄になって死んでもいいと思っていたワシを必死で繋ぎ止めようとしてくれた。特別だとか、そんなことはどうでもいい。俺様はお前の友達だ。それで十分だって、な。」


ヴァゴウは微笑んだ。

「嬉しかったぜ。今まで自分はこんなにも支えられていたのによ。何でそれを全部蹴飛ばしてきたのかってな。」

「ヴァゴウにとって、この出来事は大きなことだったのだな。」

「おう、しばらく落ち込んでいたりはしたけどよ。今は吹っ切れてるさ。これからもボルドーにも、みんなにもたくさん支えてもらったからな。」



ヴァゴウはそのあとすぐに予めボルドーが呼んでいたクルト、ゲキ、フリードの支援を受け、そしてクルトの懸命な治療と、その時にキッカに発現した不思議な力によって一命を取り留めた。


「フム、それがキッカに眠っていたシンセライズの力…ということか?」

ザイロンはビライトに質問する。


「多分だけど。キッカには確かにシンセライズの力があった。それは本当に凄い力だった。オッサンの命を救ってくれたキッカとクルトさんにはホント、頭が上がらないよ。」

「なるほど…面白いことが絶えぬな。君たちの話は。」

ザイロンはビライトたちの話を真剣に、楽しそうに聞いている。


真剣な話には真剣な表情と態度で聞き、楽しい話には笑顔で楽しそうに聞く。


ザイロンは本当に会話することが大好きなのだということが伝わってくる。


―――


ヴァゴウの治療を終えたビライトたちはクルト、ゲキ、フリードと別れ、ボルドーたち一家と共にワービルトへ向かった。

クライドは理由があり、ワービルトには入らず外で待機したが、ビライトたちはワービルトの中で過ごすことになった。


ワービルトではまず、アルーラとの出会いがあった。


「アルーラはレジェリーと知り合いだったんだよな。」

「うん、アルーラは師匠とヴォロッド様と二人の主が居たみたいでね。普段はワービルトに居る…って感じだったみたいね。あたしも詳しくは知らなかったから驚いたわ。」

「アルーラ・ポット。ヴォロッド王に仕える従士であったな。」

のちにアルーラもまた、アトメントや魔王デーガと同じく古代人であり、抑止力の関係者であったことが明かされるのだが、それはまだのちの話だ。


アルーラに案内され、ヴォロッドに会ったビライトたち。

そこでヴォロッドは力を示せば許可証を出してくれるとビライトたちに言ったのだ。

「5日間の時間を与えるからその間に修行してこいとか、ホント思い切りが凄いというか…」


「ヴォロッドはより強い相手と戦い、楽しみたいという気持ちを強く持っているからな。そういった条件を出すのはヴォロッドらしい。」

ヴォロッドの戦闘好きはザイロンもよく知っているようだ。


修行の期間は今回の戦いに不参戦となったボルドーたち一家の支援を強く受けることが出来た。


「ボルドーさんに俺たちたくさん鍛えてもらったよな。」

「そうだな。ワシの今の戦い方もボルドーに教わったものだ。」

「あたしは単身魔物と戦ったりしてたけどね~」


ビライトとヴァゴウはボルドーに。

キッカはメルシィがブランクの育児の合間にそれぞれ教えられ、独自の戦闘スタイルを創り上げていった。


ビライトはエンハンスをより強くし、それに耐えられる身体を作ること。そして高レベルのエンハンスをあえて使い倒すことで抵抗力を高めるというスパルタ指導の下での修行を行った。


ヴァゴウは武器を魔蔵庫から展開し、宙に浮かせる。そしてそれを射出するという一風変わった遠距離攻撃を会得。元々近接戦闘が得意だったヴァゴウに新たな戦闘スタイルを開拓させ、前衛でも後衛でも活躍できる万能型へと成長した。


レジェリーは修行中に出会ったナグという獣人から水魔法と氷魔法を褒められたこともあり、そちらの魔法を重点的に強化。


キッカはメルシィの指導により、一定範囲内の仲間に魔法を降り撒けるアクセル系魔法の習得を実現した。


それぞれが強くなりいよいよヴォロッドとの戦いが始まった。


「ヴォロッドさんは本当に強かった。」

「ホントよね…結果的には負けちゃったけど、それでもあたしたち、最後まで一生懸命戦ったよね!」


「して、ヴォロッドを納得させ、許可証を手に入れたのだな。」

「そうだな。けどよ、その後すぐに“あの事件”が起こったンだよ。」


ヴァゴウの言葉に一行は沈んだ顔をする。

「フム、ドラゴニアが襲われたと聞いているが…それのことか?」

ザイロンの言葉に一行は頷いた。


―――


ドラゴニアが襲撃された。

ヒューシュタットはヴァゴウの母親である魔竜グリーディをゾンビ体として復活させ、ドラゴニアを襲わせたのだ。


一帯火の海になり、多くの怪我人や死者が出た。

アルーラと、ワービルト高速ドラゴン便部隊隊長であるファルトと共にビライトたちはドラゴニアに戻ることになった。



「ここでファルトと出会うのだな。」

ザイロンはファルトの名前に少し嬉しくなる。

「ファルトさんのお陰で俺たちはドラゴニアに行くまでそんなに時間はかからなかったんだけど…辿り着いた時にはもうドラゴニアは火の海だった。」

ビライトたちはドラゴニアで人命救助を行いながら、ドラゴニアを襲った大元を叩くためにオートマタを退けながら動き出した。


アルーラは禁断魔法の防御結界を城に展開し、防御を固めた。

そして、現れたのは…魔竜グリーディ。ヒューシュタットに無理矢理蘇生させられ、ゾンビ体としてドラゴニアに現れてドラゴニアを火の海にしたのだ。


「ワシは怖かった。グリーディは元々ワシを贄として産み、父親は死に…そしてあの時、グリーディはドラゴニアを…ワシの故郷を滅ぼそうとしていた。けどよ、ビビッて逃げだしそうになってたワシを…」

ヴァゴウはビライトの頭に手を置いた。


「コイツがよ、怒ってくれたンだ。」

「あの時は夢中だったから…」


ビライトが前を向いて戦えとヴァゴウを怒った。皆が居る。大丈夫。そう言葉を贈ってくれたビライトの言葉にヴァゴウは決意を固める。


そして、ヴァゴウは自らの意志で潜血覚醒を発動し、無事に制御してみせた。


「あの状態になるとよ、自分でもよく分かんねぇことになるんだけどよ。なんとなく意識っつーか。自分の望むように本能が動いてくれるっていうか…よく分かんねぇけど、あれもワシの1つの力なんだと今は受け入れているぜ。」


国民皆に背中を押されて戦うボルドー。

ビライトに背中を押されて戦うヴァゴウ。


そしてビライト、キッカ、クライド、レジェリーも、ドラゴニアの戦える者たちもそれぞれの意志の元、グリーディに立ち向かった。



「結果的に俺たちではグリーディを倒すことは出来なかった。だから…フリードさんが動き出してしまったんだ。」


「古代人フリード。抑止力では無い適用外者ではあるが…彼にはアレがある。それを行使したのだろう?」


ザイロンは“聖なる竜の浄化【ドラゴニック・ピュリフィケーション】”の存在を知っているようだ。



―――


聖なる竜の浄化【ドラゴニック・ピュリフィケーション】。

それは国土全体を包むほどの浄化魔法。魔法使用者の命の重さによってその力の強さが異なる。


何百万年も生きてきたフリードが使うそれは、とんでもない力の大きさになるだろう。

だが、その分身体への負担もまた、計り知れない。


フリードは死ぬ気だった。

自らの命を使い、フリードはグリーディごとドラゴニアを浄化の光に包み込んだ。



「フリードは灰になっちまった。そして無力化されたグリーディに…ワシはトドメを刺した。」

ヴァゴウは胸をぎゅっと締め付ける。


「ヴァゴウさん…」

レジェリーが心配して声をかけるが…ヴァゴウは真剣な目で言う。

「アイツの責任はワシが取る。この旅が終わったらワシはドラゴニアに移住して、国の為に頑張ろうって思ってんだ。グリーディによって奪われた命は戻らねぇ。ボルドーもゲキも、ワシのせいじゃないって言うけどよ。それでもワシはアイツの子なんだ。だからよ。少しでも責任を取れるなら、なんだってやるつもりだ。」


ヴァゴウの真剣な目にザイロンは頷いた。


「その強い目、君ならばきっと出来よう。私も応援しよう。」

「ありがとよ。」


―――



ついにヒューシュタットとの決戦の時がやってきた。


ヒューシュタットへと潜入し、前国王ホウを助けだしたビライトたちはついにヒューシュタットの現王、ガジュールとの戦いに臨む。


道中ビライトとキッカはブロンズと。

ボルドーとヴァゴウはシルバーと。

そしてクライドとレジェリーはナグと。


それぞれがヒューシュタットの幹部たちと戦い、勝利した。



「ナグは良い奴だった。」

ナグはクライドと幼馴染のように育ってきた。

かつてクライドが所属していた暗殺組織ヴォール。

そこで共に力を高め合いながら相棒のように育ってきた2人は、それぞれの依頼の為に全力で戦った。


レジェリーをビライトたちの元に行かせ、2人は最後の殺し合いを行った。

クライドはネムレスの名の元にその掟を守る為、ナグを殺した。


「掟は絶対だった。だから殺した。だが…その結果俺は取り乱した。その結果がこれだ。」


クライドの顔には鱗のような棘が複数飛び出し、首周りも棘のような鱗が飛び出している。

中途半端に精神不安定によって発現した潜血覚醒を食い止めてしまったせいで、身体の異常がそのままになってしまったのだ。


「まだ、後悔しているか?」

ザイロンは訊ねる。

「…していない。と、言えばウソになる。だが…俺は誓った。俺はネムレス最後の生き残りとして…この依頼を必ず完遂する。それが俺がナグに出来る唯一の罪滅ぼしなのだ。」

「そうか、ヴァゴウと言い、君と言い…この旅で本当に強くなったのだな。」



そしてボルドーとヴァゴウは、シルバーからとある魔法を撃たれていた。

咄嗟にヴァゴウに向けられた魔法をかばったボルドーだけがその魔法を受けたが…その正体は後に判明する。



―――



グリーディ含む幹部…四従士を全員倒し、ついにガジュールとの決戦が始まった。


その圧倒的強さの前に苦戦するビライトたち。


だが、そこに襲い掛かったのは…ボルドーが倒れるという絶望的状態であった。


ボルドーがシルバーに撃たれた魔法は時限爆弾魔法“カウントデス”。

身体の力を奪われ、爆弾が成長し、最後には身体の内部から爆発する、治療困難な魔法であった。


力を失い倒れてしまうボルドー。彼の存在抜きに戦うビライトたち。

ナグから死ぬ前にウイルスプログラムを受け取ったクライドが、半機械のガジュールに打ち込む。


ガジュールは追い込まれるが、ガジュールは真の姿を見せる。


「ガジュールは魔族だった。更に凶悪になったガジュールに俺たちは成す術も無かった。」

諦めかけたその時、ボルドーがガジュールの前に立ち塞がった。


ガジュールの攻撃を一身に受け止め、そしてボルドーはビライトたちに最後の言葉を残し、ガジュールを巻き込んで、カウントデスの爆発で…命を落とした。



「…そうか、ボルドーは…」

ビライトたちは悔しい表情を浮かべ、拳を握る。


「…ボルドーさんは俺たちに前に進めって言ってくれたんだ。でも、俺にはもうその言葉は届かなかった。俺は…おかしくなってしまったんだ。怒りでどうにかなってしまった。」


ボルドーの犠牲も虚しくガジュールは生き延び、そして命を散らしたボルドーの身体を弄んだ。


そして…ビライトは怒りを爆発させた。その怒りで現れたのがビライトの中に眠っていたイビルライズだった。



「俺の中にはイビルライズがずっと眠ってた。イビルライズは俺の身体の中でずっと覚醒するのを待っていたんだ。」

「イビルライズは負の感情を餌に成長する。ビライトの怒りと憎しみが爆発したあの瞬間、イビルライズは覚醒できるだけの力を取り戻したのだろう。」

クライドが補足するように言う。


「そうか…それで、ガジュールは?」


「ビライトはガジュールを倒したよ。そのあとすぐに気絶しちまって…出現したイビルライズはキッカちゃんを取り込んでキッカちゃんごと消えちまった。そしてワシも…昔の記憶を思い出したよ。」

「フム…それは一体…」



ビライトとヴァゴウは記憶の改ざんについてザイロンに話した。

幼い頃、死にかけていたビライトにイビルライズが。まだ赤ちゃんだったキッカにシンセライズが宿り、息を吹き返した兄妹。


イビルライズは死んだはずのビライトが生きているのは都合が悪いと判断し、ビライトを操って力を解放。コルバレーの住民たち、そしてキッカ、ビライトの記憶を全て改ざんした。

事故でビライトとキッカは巻き込まれていないことになり、イビルライズは心を閉ざしたビライトに“クロ”と名乗り、ビライトにしか見えない友達として関わることになった。



「クロはある時突然居なくなった。俺を急に1人ぼっちにして負の力を高めようとしたんだろう。でも、そうはならなかった。俺は1人にならなかったからだ。」

「あぁ、どうやらワシがあの時ビライトを1人にしなかったのが功を奏していたみてぇだ。」

ヴァゴウはキッカと共にビライトを1人にはしなかった。

それがビライトのイビルライズ覚醒を抑え込んでいたのだろう。


「俺にはイビルライズを覚醒させてしまった責任がある。それに…キッカは俺の家族だから。大切な妹なんだ。」

「ワシもそうさ。コイツもキッカちゃんも家族だ。だからよ。助けてぇんだ。」


ビライトとヴァゴウの覚悟はここで決まっていた。

ヴァゴウはこの旅で自身の気持ちと向き合い、トラウマを克服し、そして唯一の肉親である腹互いの妹、サーシャとの出会い。

そして、幼い頃からの大事な友、ボルドーとゲキ、そして家族同然のビライトとキッカ。旅で出会ったレジェリーやクライド。

多くの人に出会い、成長した。

ビライトもヴァゴウと同じだ。

多くの人に出会い、そしてビライトの純粋な気持ちに多くの人が背中を押した。


今、2人は固い決意によって今ここに居る。


「ウム、そなたたちのしっかりとした佇まいの理由はここにあるようだ。」

ザイロンは納得する。

「辛かったな。」

ザイロンはそう言うが、ビライトたちは語る。

「辛かったです。でも、俺たちは前に進みたい。俺には。」

「ワシには」

「「夢があるから」」

2人は声を揃えて言う。


「そうか…そなたたちの覚悟があればきっと叶う。そう信じたいものだ。レジェリー、クライド。君たちも同じか?」


レジェリーとクライドは頷いた。


「…あたしはあの時、自分が死ぬかもしれないけどボルドー様を助けたい気持ちで必死だった。」

レジェリーはあの時の、ボルドーが死んだときのことを思い出して話しだす。


「あたしは禁断魔法“ライフスフィア”を使ってボルドー様の肉体・精神・魂の情報をスフィアに封じ込めた。」

レジェリーの言葉を聞き、ヴァゴウは持っていたボルドーのスフィアを取り出す。

「魔王デーガの持つ禁断魔法“スフィアレイズ”…それを使えばボルドーは生き返るんだ。」



「…つまりあたしの師匠に会わなければならない。あたしは人を蘇らせようとしているんだ…きっと師匠は許してくれないと思う。」


「…禁忌…か。」

「はい。でもあたしは、あたしたちはボルドー様を絶対にあきらめない。」

レジェリーの言葉にビライトたち全員が頷いた。


「ボルドー様はあたしたちの為にたくさんのものをくれたの。だから、あたしたちはそれに応えたい。ううん、もっとボルドー様にたくさんもらいたい。あたしたちもたくさん与えたい。あたしはボルドー様が大好きだもん。とっても、とっても尊敬してる。大好きな人だもん。キッカちゃんだって!初めての友達だったもん。キッカちゃんだって助けるんだから!」


レジェリーは泣きそうになりながらも自分の覚悟を伝える。


ビライトとヴァゴウはレジェリーの肩を叩く。

「俺たちも一緒さ。」

「おう、ボルドーを取り戻す。キッカちゃんも取り戻す。ワシらはそのためにここに居るんだ。」

「うん…そうだね。」


「…いいね。気持ちがしっかり決まっている。素晴らしいことだ。クライドはどうだ?」

ザイロンが尋ねる。


「…最初は依頼の為だった。だが、今はそれだけではない。俺はナグと約束した。必ずこいつらをイビルライズに届けるという依頼を成し遂げる。そして最後までコイツらの目標に付き合うとな。」

クライドは続けて話す。

「だが…俺は忘れていたことを思い出した。俺もかつては…コイツらのように皆で力を合わせて戦っていた。そして…俺はそれが楽しかった…ということもな。」

クライドは一息入れる。


「…悪い気はしないということだ。だから…最後まで付き合うつもりだ。依頼が破棄されたとしても俺はこの旅を最後まで終わらせる。コイツらの旅を見届けるつもりだ。」


クライドは他の3人とは少し異なるがそれでも瞳の奥にはしっかりと強い意志があった。

ザイロンはそれをしっかりと感じ取った。




「…ウム、分かった。君たちは本当に短いようで長い長い旅をしてきたようだ。」

そう、ここまでの期間は半年も無いほど短い時間だ。数か月での話だが、とても濃密なものであった。


「良いだろう。君たちほどの強い意志を持てる者たちだ。未踏の地でもきっと大丈夫。本当に世界を救ってしまうかもしれないな。」

ザイロンはすなわち、ドラゴンの里での許可証を出すことを認めたということだ。


「!」

「それ、つまり…」


「あぁ、合格だよ。」


「…ガハハ!やったぜ!」

「あぁ!やっと未踏の地に行けるんだな!」

「フッ、そうでなくてはな。」

「素直に喜びなさいよっ!やったって!!」

ビライトたちはそれぞれ喜び合った。ザイロンは笑顔で頷いた。


「今日はここに泊まっていくといい。明朝、門を開くように手配しておこう。」


「「ありがとうございます!!」」

ビライトとレジェリーはお礼を言い、ザイロンは満足そうに微笑んだ。


「いやはや、ここまで濃密な話を聞いたのはいつぶりだっただろうか。楽しかったぞ。」


すっきりとした顔で笑いながらビライトたちの寝床を準備し始めるザイロン。

ビライトたちはそれを手伝いながら、今日の1日は終わりを迎えようとしていた。



夜は宴会が行われた。


族長が強く認めた冒険者たちの旅を見送る盛大な宴会だ。

ビライトたちはまるでヴァゴウ飯の時やボルドー飯の時のようにたらふくと食事を取り、たくさんのドラゴンたちから応援を受けた。



ドラゴンの集落での夜。

ビライトたちは今、この時の笑顔と、歓迎。そして幸せをかみしめた。



明日からは険しい旅が再び始まるのだ。

だが、今は…今この時は……楽しんでもいいじゃないか。

そう思えるほど、この1日は充実したのだ。


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深夜になり、ドラゴンたちは解散し、ビライトたちは族長の家に泊まることになった。


皆が寝静まる中、ビライトは用を足す為に起き上がった。


「……明かりだ。」


ビライトは明かりのついている部屋を覗き込んだ。

ザイロンの家の隣にあるドラゴン1.5匹分ぐらいの大きな建物。ドラゴンにとっては狭い家屋だがビライトにとっては大きい。


そこにはザイロンが居た。

ザイロンは目の前にある墓の前で手を合わせ祈りを捧げていた。


「…」

(ザイロンさん…あの墓は…もしかして…)


「ん?あぁ、ビライトか。」

「あっ、ごめんなさい!邪魔しちゃったかな…」

「構わない。良かったらそなたも祈ってくれないか?私の父母なのだ。」

「は、はい。」

ビライトは大きな墓の前で祈った。


「ありがとう。」

「いえ。良いんです。」

ザイロンはお礼を言い、外に出る。


「ビライト、少し私と話をしないか?」

「え?今からですか?」


「あぁ大丈夫、長い話にはしないよ!多分!多分ね!」

「は、ははは…」


ザイロンと2人で話をすることになったビライト。

夜遅く、誰も居ないが星空がキラキラと輝くこの夜空の下でザイロンは何を語るのだろうか…


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