Delighting World Break 第0章③ 誕生編 ~世界が、生まれるまでの Ⅱ~
世界は何度も生まれ変わっていた。
作られる世界は不安定で、何度も何度も壊れ、何度も何度も創り…
やがて僕の仲間たちは心を壊していまい…
そんな状態で世界を創ろうとした結果が…この惨状だった。
世界は7つに分かれ、それぞれ僕たちは1人ずつ世界に閉じ込められた。
言葉での干渉は可能だが、それ以外のことは何も出来ない。
邪神となったディスタバンス、アーチャル。
心を壊してしまったグァバン。
そして…全ての負の全て受け止めることになってしまった僕の最高の友人、ヴァジャスは…
他の2人とは比較にならないレベルの最悪の邪神になってしまった………
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これから僕は世界統合までの歴史を語る。
それはとても複雑で、語ろうと思えばとてつもなく長い物語になる。
だから僕からは簡単に伝えさせてもらうとしよう。
それでは、シンセライズが生まれるまでの物語を続けよう。
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「世界中から英雄たちを集めよう。」
「…英雄じゃと?」
レクシアはよく意味が分からずに僕に尋ねる。
「色々な世界を見て分析したんだ。例えば…」
僕はまず可能性としてまずディスタバンスの世界を見た。
ディスタバンスの世界では数千年の周期で大戦争が起き、世界を壊滅状態にしている。
しかし、何故その大戦争は繰り返しているのだろう。
「ディスタバンスの世界の歴史を見てみたんだ。ディスタバンスの世界では大戦争を誰かが終わらせているんだよ。神様であるディスタバンスではなく、その世界に居る神でない生物が。」
「それは…つまり、神の意志に抗える力を…持っている人物が居るかもしれないってことかい?」
ナチュラルが尋ねる。
「うん。そして次に目を付けたのはアーチャルの世界。」
アーチャルの世界は不安定な世界。
各世界へのゲートのようなものが勝手に開いては色んな世界から色んな人が混ざりあってしまっている。
「僕はこのアーチャル世界の特性を利用して英雄たちを僕たちの元に集められないかと考えた。」
「…フム…言いたいことは分かるが…アーチャルからエテルネルの世界へは繋がっておらんだろう。」
レクシアが言う。
「ううん、僕の世界に連れて来るんじゃないよ。行先は君たちの世界だよ。レクシア、ナチュラル。」
「…僕たちの世界に?つまり、まず英雄たちを僕らの世界に集めて…」
「集まったタイミングでアーチャルへ飛ぶ…ということか?」
ナチュラルとレクシアが尋ねる。正解だ。僕は肯定した。
「もしこれが実現できれば、君たちもアーチャルに直接干渉出来るかもしれない。英雄たちと君たちでアーチャルを仲間に戻すんだ。」
「しかし…可能なのか?アーチャルは聞く耳を持たぬだろう?」
レクシアは尋ねる。
「そうだね…今のアーチャルには何を言っても無駄かもしれない。でも…ディスタバンスよりはまだ望みがあるよ。」
僕はディスタバンスが一番の曲者だと考えている。
彼は好戦的な性格だ。きっと暴力を持って僕たちに抵抗してくるだろう。
しかし、僕はここで更なる仮説を立てた。
「アーチャルはもしかしたら言葉と意志のぶつかり合いでなんとかなるかもしれない。そしてディスタバンスは…力で証明するしかないと思う。」
「力って言うけどさ。ディスタバンスに勝てる神は居ないよ。あいつ武力だけで言うと最強だよ?」
ナチュラルは言う。その通りだ。ディスタバンスは強い。きっとレクシアとナチュラル、僕でも勝てないだろう。
でも、ディスタバンスを打倒できる可能性は残されている。
「そうだね、でも僕はさっき言ったよね。ディスタバンスの仕向けた戦争を終わらせている誰かが現れているって。」
「ウム…だとしてもディスタバンスに武力で勝つのは不可能ではないか…?」
「そうかもしれない…でも、きっと現れるはずだ。ディスタバンスに対抗出来るほどの強い力を持った“英雄”が。もう、小さな可能性でも縋らなきゃいけないんだ。」
僕は小さな可能性を信じた。
ディスタバンスに抵抗出来る強さを持つ英雄が現れることを信じた。
だからその時まで、まずはナチュラル、グァバン、アーチャル、レクシア。
この4つの世界から英雄を集めよう。
そしてその強さと僕たちの力でアーチャルを説得する。
ディスタバンスは英雄が現れるまで残念ながら様子見だ。
アーチャルに対抗するために集めようとしている英雄は、強さだけのものではない。
世界にとって大きな変化、革命をもたらした存在であれば、それは世界を変える“改変力”があるということだ。
それは立派な強さだ。
「時間はかかるかもしれない。それでも…2人共、ヴァジャスを助けるために力を貸して欲しい。お願いだ。」
僕はレクシアとナチュラルに一生懸命お願いした。
「…うん、僕もヴァジャスを助けたい。彼だって僕たちの仲間だ。」
「そうじゃな…今もワシらの想像をはるかに超える苦しみを受け続けておるのじゃろう…見て見ぬふりなど出来んよ。」
ナチュラルとレクシアは僕のお願いを快く受け入れてくれた。
こんなにも仲間が心強いなんて。僕は嬉しい気持ちでいっぱいだった。
「ありがとう…じゃぁ…早速行動しよう。ヴァジャスを助けるために僕たちは戦う。これは…君を助けるための“戦争”だ。」
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~ナチュラルの英雄たち~
ナチュラルの世界は自然に満ちた世界だった。
そこに暮らしていたのは“幻獣”と呼ばれる、魔物と近い容姿をしていながらも、生物として生き続ける特殊な生物だった。
幻獣たちは大自然の中を懸命に生き抜いていた。
だが、そこから突然現れたのは人間だった。
そう、その人間はアーチャルからやってきた。
この時のアーチャルは人間しか暮らしていない世界で、まだ色々な世界から色々な種族がやってきていなかった。
その人間は見たこともないナチュラルの世界と幻獣たちに惚れこみ、自分のものにしようと企んだ。
幻獣たちは次々と捕らわれてしまった。
その人間はなんと、アーチャルとナチュラルを行き来していたのだ。
だからこそ、アーチャルの世界の道具を持ち込み、あらゆる手段で幻獣を捕獲していたのだ。
そんな中、また新たな人間が5人も現れたのだ。
彼らはまだ13歳~16歳の若い少年たち。
そんな彼らは最初に現れた人間とは違い、優しい思いやりの気持ちを持っていた。だからこそ、自身が選んだ幻獣をパートナーとしこのナチュラルを守るために戦ってくれたのだ。
最初にやってきた人間の野望は打ち破られ、幻獣たちは救われたのだ。
幻獣たちはその長である“龍”と呼ばれる存在と共に、少年たちを英雄と呼び…やがてアーチャルの世界とのつながりは絶たれ、少年たちは元のアーチャルの世界へ戻って行ったという。
やがて、少年たちは成人となり、大人になった。
そして…僕は彼らとコンタクトを取った。
だけど、僕たちの戦いに連れていけるのは人間2人と幻獣1匹、そして幻獣の長だけだった。
そこで彼は名乗りを上げた。
「俺が行くよ」
「分かった。ならば俺も行こう。」
ヴァジャスも、アーチャルも。このままにしてしまうといつかすべてが滅んでしまう。
だからこそ、少年だった男は手を挙げた。
あの時、一緒に戦った仲間たちに涙を流して見送られながら。
「私も行きます。だって…私のパートナーが…私の旦那が行くなら…私も行かなきゃ。そうでしょ?」
「…ウム。君の力を貸してくれ。」
【4人の英雄 人間:ユウジ・テラオカ 人間:ユリ・テラオカ ドラゴン:フォース・ウインド 龍:ゴッド】
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幻獣たちの世界はやがて終わりを迎える。
その先に待っていたのは、人間、竜人、獣人の3種族が暮らす魔法社会だった。
魔法も種族もアーチャルから持ち込まれたナチュラル。
やがて3種族はそれぞれの国を創り上げ、それぞれの王によって各国が統治された。
特に魔法文化を大きく発達させていた国。
それが、“ドラゴニア”だった。
竜人が多く暮らすこの国を中心に魔法文化が発達した。
獣人はその文化を得るためにドラゴニアと良い関係を築いていたが、人間はそうはいかなった。
ドラゴニアを狙い襲い掛かる人間の国の王“ギン”に対抗するべくドラゴニアの王子であった“オルセルド・バーン”が立ち上がった。
彼は、魔法学園から優秀な生徒と、強い意志を持った魔法使いを選別し、ギンと戦った。
当時は3つ以上の属性を使えることは非常に稀だった。しかし、生まれながらにその力の才能を開花させたティンク・トナヤ。
将来彼と結婚することになる激流魔法を使うことに長けた少女、ナナ・ウイック。
ティンクの幼馴染であり、最後まで支え続けた魔法を武器に変えて戦った少年、ロン・アーガス。
世界でも珍しい召喚魔法を使用する姉弟。クリル・ナイク。マロン・ナイク。
そして現在のシンセライズで英雄と謳われたドラゴニアを大きく発展させた偉大なる王、オルセルド・バーン。
6人の少年たちはギンを打ち倒し、世界に平和をもたらした。
そして、僕は彼らにもコンタクトを取った。
そして、僕がその中から選んだのがティンク、ナナ、オルセルドの3人だった。
しかし、ティンクはナナを連れていくことを拒んだ。
「君を必ず置いていかない。だから…待ってて欲しいんだ。」
「…必ず、帰ってきなさいよ…!!待ってるんだから…!」
オルセルドは国中から行かないで欲しいと声が上がったが…
「必ず戻る。信じて待っていてくれ。後は任せたぞ。クルト。」
「はい、お任せください。オルセルド様。」
初代クルト・シュヴァーンはオルセルドに深く頭を下げ、見送った。
【2人の英雄 人間:ティンク・トナヤ 竜人:オルセルド・バーン】
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そこから遥か未来。
ドラゴニアに1匹のドラゴンが舞い降りた。
その名はフリード。
この時代のナチュラルにドラゴンは存在しない。アーチャルからやってきたのだ。
だが、彼は元々は人間だったという。
アーチャルからこちらに渡ってくる際に原因不明の現象に見舞われ、姿が変わってしまったという。
そのドラゴンは有に30mを超え、超巨大ドラゴンとして現れたのだ。この時、行方不明となっていたドラゴニアの王妃、セラス・バーンと、その付き人であったアバロン・カイオルと共に。
その変化による、非常に長い寿命を会得し、膨大な魔力を抱える存在となった。
最初はもちろん非常に警戒されたが、セラスとアバロンの必死の説得でドラゴニアは彼を受け入れる結論に至った。
それからというものの、フリードはセラスとアバロンが先に旅立った後も、ずっと、歴代の王たちに大事にされながら悠久の時を生きた。
そんな彼だからこそ、僕は彼をスカウトした。
彼は言った。
「儂には魔力はあれど、魔法の才能はゼロだ。故に…儂はこの有り余る魔力を提供しよう。連れていってくれ。」
フリードは戦いには参加しないが、魔力の提供や、何かの手伝いをしようとその提案に乗った。
その理由はとても簡単なものだった。
彼は、彼の大事なものを、ただ守りたかっただけなんだよね。
―――
言い忘れていたけど、僕の居るエテルネルの世界は“魂が還る場所”だ。
つまり死んだ魂は全てエテルネルに送られるのだ。
そしてそこで魂はエネルギーとなり、各世界を循環する。
しかし、中にはエネルギーとならず、その魂のままエテルネルに在中する者も居る。
それは、待ち人が居る魂。誰かがここに来るのを待っている。そんな人たちはこのエテルネルに在中するのだ。
僕は自身のエテルネルを調べた。すると、君の大切な存在だったセラスとアバロンがまだ残っていることが判明した。
彼女らに会いたい。その願いを叶える代わりに、フリードは僕の誘いを受けてくれたんだ。
やがて彼は僕の世界でセラスとアバロンに再会し、いつか必ずそっちに行くことを伝えた。
そしてセラスとアバロンはいつまでも待っていると言ってくれたみたいだ。
【1人の英雄 元人間のドラゴン:フリード・バーン】
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やがてフリードはこの戦いを生き延び、再びドラゴニアに帰り、世界統合後もそのドラゴニアで何百万年も生き続けた。
しかし、先日のヒューシュタット襲来で彼はその命を散らし、ようやくセラスとアバロンと…歴代の王たちと一緒に、魂の流れに乗って消えていった…
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~グァバンの英雄たち~
世界の文明を何度も壊し、再生してきたグァバンの世界。
そんな1つの時代を生き抜いた少女とドラゴンが居た。
少女の名はノエル。ドラゴンの名はグアロ。
2人は人間とドラゴン。決して相いれることの無かった種族同士の関係を元に戻す為、世界中を巡ったと言われている。
この時代は彼女たちのお陰でよりよい方向へと向かっていた。
彼女らが暮らす村“アーデン”を中心に世界の輪は繋がっていった。
しかし、そこにグァバンの手が下ることになる。
滅びようとする世界。しかし、その滅びていく世界を止めようと立ち塞がったのはノエルとグアロだった。
「この世界は変わろうとしている!だから…もうちょっと待って欲しい!」
しかし、その声はグァバンには届かなかった…かに見えた。
グァバンは1つの情けを残してこの文明を終わらせた。
グァバンはこのアーデンの街だけを残し、それ以外を壊したのだ。
アーデンはグァバンの世界から隔離されたように断崖絶壁の真下、深い深い世界の底に移動させられた。
ノエルとグアロはその魂と身体を全て石像にされ、生きながらも世界の平和を祈った。
世界が統合され、世界が救われたその時役目を終え、その命を共に散らしたと言われている。
そして、2人の石像は今もまだ、アーデンの村を見守り続けているという。
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そして、それからずっと、ずっと、未来。
高度文明になっていたグァバンの世界に少年が居た。
少年の名はサトル。
この世界でとても窮屈な生活をしていた。
そんな彼は高度文明から切り離された場所で蛇の頭をした獣人、ケツァルと出会う。
そこでサトルはグァバンの存在を知る。
この世界はまもなく滅びる。
グァバンは何度も創り直した世界に納得がいかず、もう全てを諦めて全てを滅ぼし、もう二度と新しい世界を生み出さずにいるつもりでいた。
自分にとっては無価値な世界でも、それでもケツァルのように一生懸命生きようとしている者が居る。
サトルは自分の持つ超能力を使ってグァバンと戦った。
長い戦いの末、サトルはグァバンを倒した。
しかし、神の死は世界の死。世界は死に絶え、サトルは守るはずだった世界を滅ぼしてしまい、絶望した。
もう二度と次は間違わない。この手で次生まれ変わったらきっと…そんな気持ちを持ち、彼は力尽きた。
其の願いはやがて“ブロンズ”という人間の転生者としてよみがえるが、結局のその願いは叶うことは無かった。
そこに居たのはもはやサトルではない、ただの狂ってしまったただの愚者であった…
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隔離されたアーデンでは穏やかな時間が過ぎていった。
ここで暮らしていた獣人の少女シエルはある日、とある獣人の男の子と出会う。
少年の名はリヤン。
シエルとリヤンは一緒に暮らすことになり、記憶がないリヤンのお手伝いをすることになった。
アーデンに住む友達や大人たちと一緒にリヤンの記憶を戻す為に動き出した。
そして、リヤンは記憶をよみがえらせる。
リヤンはずっとずっと昔、ノエルたちの世界よりもずっと昔。
高度文明を維持していた世界で人口生命体として生まれた存在“アルカディア”であることが判明した。
アルカディアは世界を塗り替える程の強い力を持っていたが、それがグァバンに目を付けられてしまい、命を狙われる。
その時生きていた獣人の青年たちの命懸けの行動により、アルカディアは命からがら生き延びた。
そして、獣人の青年たちの世界文明は…滅びた。
激しい戦いで時空の歪みが起き、アルカディアはそこに巻き込まれてしまう。
時の流れに乗り、彼はシエルたちの住む時代に流れ着き、記憶を失いリヤンとして活動を始めたという…
そして、リヤンをエテルネルに飛ばすための儀式で、シエルはその儀式の触媒となる。
世界統合の為の戦いに呼ばれたリヤンは皆を残して一人、戦いに行く。
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グァバンが死んだ世界には何も残らなかった。
アーデンも滅び、そこに居た人々も皆が死んでしまった。
しかし、リヤンを戦いに送り出す際に行った儀式で触媒となったシエルだけは生き残った。
彼女は不老不死となり、世界が死んだあとも1人孤独に生き続けていた。
もう何千年、何万年経ったか。
感情も失ってしまったシエルだったが、世界統合戦争が終わった時、リヤンはシエルを迎えに来た。
リヤンはその力の高さを認められグァバンの代わりに新しい神。シヤン・リヤンとして抜擢されたのだ。
シエルはリヤンが迎えに来てくれたことを喜び、リヤンの腕に抱かれて死んでいった。
シエルの歩く道の先に居たのは昔一緒に過ごしたアーデンの仲間たち。
皆と一緒に手を繋ぎ歩き、魂となりて…消えていった。
「彼女の最後の笑顔が、忘れられないんだ。僕は…君の笑顔がまた…見たいよ…シエル。」
グァバンの代行者。
新しい神・シヤンが呟いた、とても悲しい言葉だ。
彼女が居た。
確かに居たこの世界を…守りたい。
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~アーチャルの英雄たち~
アーチャルの世界は人間しか存在せず、魔物を討伐してそれを食して生きていた。
だが、人間は文化を得た。
人間は町を、村を、都市を作り、科学を発展させた。
いつしかアーチャルの世界には魔法が消えた。
そして…ナチュラルの世界とアーチャルの世界がリンクを始めた。
アーチャルの世界はとても不安定だった。世界の存在自体が揺らぐほどに不安定で、他の世界の影響を受けその結果、アーチャルは他の世界と繋がるようになってしまった。
このような事態になってもアーチャルは放任を貫いた。
邪神となったアーチャルは完全に世界を管理することを放棄し、ただその世界のあるままをボーッと眺めているだけであった。
アーチャルのとある時代。“日本”と呼ばれる国とナチュラルが繋がった。
これはナチュラルで話した英雄の4人中2人、【人間:ユウジ・テラオカ 人間:ユリ・テラオカ】が生きていた時代だ。
この時代が終わった先も、アーチャルはずっと不安定が続いていた。
【人間:ユウジ・テラオカ 人間:ユリ・テラオカ】の時代から数千年。
世界中には他の世界を繋がる渦が各地で発生していた。
向こうから何かがやってくることもあれば、アーチャル側から誰かが向こうへ飛ばされることもあった。
そして、一度巻き込まれると抗うことは出来ない。
この時代に生きていた一人の中年の人間。
彼の名はフリード。彼は冒険家だ。世界中を冒険し、お宝を発見したり、未踏の地を目指したり、自由な旅をしていた。
そんな道中、彼は渦に巻き込まれこちら側に来てしまった竜人の女性、セラス・バーンと出会う。
彼女を保護する形で同行させることにしたフリードだが、やがてセラスは一国の姫であり、付き人のアバロン・カイロルと共にここに来たことを知る。
旅をしながらアバロンを探し、可能であれば元の世界…ナチュラルのドラゴニアに帰りたいと願うセラスにフリードは協力することになる。
そして“日本”という国でアバロンと再会したフリードたちはその旅の道中で渦に巻き込まれる。
その過程でフリードはドラゴンの姿になってしまい、セラスとアバロンはフリードと共にドラゴニアに帰還することに成功した。
これらの話は、ナチュラルと通ずるものがあるので、ある程度は簡略しよう。
しかし、これからは新しいアーチャルの話だ。
フリードが居た時代よりも更に、更にずっと未来。
他種族の介入により人間が滅んでしまった未来の“日本”にある“東京”という都市。
そこにはとある獣人と竜人が日常を過ごしていた。
彼らは特別何か力を持っていたわけではなかった。
ただ、彼らが持つ…そう。“心の力”に僕は目を付けた。
心の力は時にただの力を超える強い可能性を発揮する。
それは理論的でない未知数な力であり、無限の可能性を秘めている。
僕は魔法も力も持ち合わせていない彼らを夢という媒体を使用して他世界へ招き、色々な経験をさせた。
そのうえで僕は彼らをスカウトした。
彼らは自分たちの日常を守る為、世界を守る為、快く引き受けてくれた。
彼らは後に、その勇気ある心を、気持ちをぶつけ、アーチャルの心を溶かす存在としてアーチャルを救った英雄として僕は称えた。
【5人の英雄 獣人:レスタ 獣人:タック 獣人:ゼル 竜人:ギャラン 獣人:ランゼ】
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~レクシアの英雄たち~
レクシアの世界は魔法に満ちた世界だった。
人々は魔法を使い、剣を使い、道具を使い…
魔物を討伐し、報酬を得る冒険者が存在し、そしてこの世界には“勇者”と“魔王”が存在していた。
かつて勇者は魔王を倒し、世界を救った。
だが、勇者はその自身の力を暴挙へと使い始め自身を破滅させた。
勇者は自身の立場を利用し、多くの女性と性交し自分の血を受け継ぐ子たちを雑にばら撒いた。
中には混血も多く存在し、更にその中には重血だった子も多く存在し、赤ん坊のまま死亡した悲しい子も多く居たと言われている。
そんな勇者の血はどんどん薄くなっていき、もはや勇者の血も、勇者が持っていたという【周囲の人々に勇気の心を伝播させる力“ブレイブハーツ”】も廃れてしまった。
一方魔王は魂を他の魔族を器として移したことで、魂のみが生存することが出来た。
魔王は器と対話をしながら共存をし、魔族を、魔物を統治し続けた。
魔王は戦うことに虚しさを覚えていた。
だが魔族は好戦的だ。世界を混沌に堕とそうとする者ばかり。自分はただの魂でしかない。
だからこそ魔王とは言うが、器に逆らうことは出来ず、ただ仕方なく世界を闇に包み込んでいた。
そして、そんな惰性を急変させたのが魔王・ラドウだった。
魔王の新たな器として選ばれたラドウは戦いを望んではいなかった。
むしろ、このようなことは辞め、魔族は慎ましく暮らすべきだと謳った。
魔王の言うことは絶対。逆らうことは出来ない魔族たちは戦意を喪失させ、世界には平和がやってきた。
勇者はもういない。魔王も大人しくなった。この世界に安寧が訪れた。
魔族もやがて数を減らし、最終的にはラドウのみとなった。
そしてラドウは竜人の女性と結婚し子を産んだ。
それにより純血の魔族の血筋は終わりを迎えた…
産まれた子は魔族と竜人の混血。名はデーガ。
現在、シンセライズに存在している“魔王・デーガ”とは彼のことである。
デーガは冒険者に憧れていた。ラドウから魔王を引き継ぐまでの間、デーガは冒険者として仲間たちと共に世界中を回った。
その中でデーガは勇者の子孫、“リュグナ”と出会う。
交流を重ねる中でいつしか2人はお互いのことを意識し始め、両想いになった。
しかし、旅の途中でデーガは生き残っていた魔族“ゲージュ”と対峙することになる。
ゲージュの悪逆非道な行いにより、仲間を殺されたデーガは魔王の魂を受け入れるために溜めていた魔力を暴発させてしまう。
その力に吸い寄せられるようにラドウの中に居た魔王の魂がデーガと同化し、デーガは魔王・デーガとして覚醒した。力の暴走で世界を破滅に導き、生き残っていた仲間たちの言葉も届くことなく、仲間たちをも惨殺したデーガ。
我に返った時にはもはやそこには何も残されてはいなかった。
絶望するデーガに死に絶える直前だったリュグナはデーガに自身の中に眠っていた勇者の力“ブレイブハーツ”を託した。
「貴方はまだやり直せる。だから…絶望しないで。」
その言葉を残し、リュグナは絶命した。
その言葉を受け止めきれず、引きこもってしまったデーガ。
そんな彼を僕とレクシアはスカウトした。
後悔でいっぱいだったデーガ。仲間たちに謝りたい気持ちでいっぱいのデーガに僕は提示した。
「僕と一緒に戦ってくれたら、君の仲間にもう一度会える機会を作ってあげる」
デーガは自身の行った行為の罪滅ぼし、そして仲間たちに謝る為に僕の手を取ってくれた。
そして彼は魂の道の向こう側に居た仲間たちと再会し、仲間たちに背中を押され…この先も世界の為に生きていくことを選んでくれたんだ。
更にデーガは自身の中に居た魔王の魂とも対話し、彼は完全に魔王の力をモノにした。
世界を守る立派な戦士として、世界のバランスを守る“抑止力”として彼は今日もそこに居る。
あの時仲間に背中を押されて選んだ選択を彼は今も守ってくれている。だからこそ彼は今、“抑止力”としてシンセライズの魔王としてここに居る。
【1人の英雄 魔族と竜人の混血 魔王・デーガ】
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~ディスタバンスの英雄たち~
ディスタバンスの世界はとにかく残酷で無慈悲な世界だった。
数千年に一度世界を巻き込む大戦争が発生し、その度に何億もの生物が命を落とす地獄のような世界だった。
大戦争が終わって、生物が再び増えたタイミングで再び大戦争を起こさせる。
そしてまた何億人が死ぬ。
大戦争を誘発しているのは邪神となったディスタバンスだった。
どうやったらこの世界を絶望させて滅ぼせるかを唯一の楽しみとし、まるでおもちゃのように生物を使って遊んでいた。
だが、そのディスタバンスの世界ではその度に滅びを食い止めた存在が居た。
―――
まずは星の外から無数のドラゴン“死竜”を呼んだ。
世界中を火の海で包み込み、多くの生物が死に絶えた。
しかし、死竜たちの中にはこの滅びに疑問を抱く者が居た。
それらは地上に生きていた人間を選定し契約を交わした。
死竜と死竜の戦い。そこに人間が関わることでただの死竜には成しえない力を得た者たちは世界崩壊を食い止めた。
そして…死竜の力の核だった“光と闇”の力は生き残った人間が責任を持って封印した。
―――
それから幾度となく大戦争が繰り返された。
死竜の大戦争から実に数十度目の大戦争。ここでターニングポイントを迎える。
世界は再び大戦争への道を歩き出していた。
この時代には2つの国があった。クーズライジ国、エークライト国。2つの国はお互いの領土をかけて激しく戦った。
その大戦争の真っ只中、死竜の大戦争の時に封印した光の力と闇の力を宿した兄妹が居た。
兄妹はこの大戦争に巻き込まれ、酷い虐待を受け、逃げ出したとしてもずっと追われ続けた。
その身に宿る力を得ようと暴虐の限りを尽くすクーズライジ国。
それを防ごうとするエークライト国。
しかしエークライト国も考えることは一緒だ。保護してその力を自国のものとし、クーズライジ国を倒すつもりだった。
兄妹は遥か北の大地まで逃げ、小さな遺跡の中で力尽きた。
その時に光と闇の力はその遺跡の中に封印された…
ちなみに、その後クーズライジ国とエークライト国は互いに滅ぼしあい、結果手に両国とも滅びたと言われている。
―――
それから更に数千年。
今度は世界の何処からか現れた魂を持たぬ兵士が現れ、人々を襲いだした。
それはやがて軍隊となり、世界の生物を殺戮し始めたのだ。
これらの存在を“破壊軍”と呼び、人々はそれに対抗する軍“平和軍”を結成した。
しかし、破壊軍は疲れを知らず、強大な力を以てして平和軍を蹂躙していく…
そんな中、破壊軍に親を殺された一人の竜人が居た。
彼が逃げ込んだ先はかつて光と闇の力が封印された遺跡。
竜人はその力を取り込み、光闇の使い手として復讐鬼となった。
彼の名は“グロスト”。
やがて世界を救った英雄として歴史に名を残す存在である。
破壊軍を殲滅するべく平和軍に入隊したグロストは最初こそ復讐のために暴れまわったが、軍の中で信じ合える人に恵まれ世界平和のために戦った。
そして、その存在はついに今までの戦いを仕向けたディスタバンスを動かした。
直接世界に舞い降りたディスタバンスと戦ったグロストはその命と引き換えにディスタバンスを打ち倒した。
しかし、ディスタバンスは半身のみを活動させていたに過ぎなく、ディスタバンス自身は生存した。
その命を散らしたグロストだったが、僕は彼とコンタクトを取った。
ディスタバンスはまだ生きていること。そして、倒すのではなく、ディスタバンスを救って欲しいということ。
そして…その力を貸して欲しいということ。
彼はそれを受け入れた。それは彼が生前に共に戦った大切な友との約束だったからだ。
「君の力は世界を救う力だ。僕は君の背中を押す。心はずっと一緒だから。だから…戦おう。」
グロストは世界を救うため、僕の手を掴み、新しい戦場へと踏み出した
【1人の英雄 竜人:グロスト】
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~世界統合戦争~
14人の英雄と、僕、ナチュラル、レクシア、そしてグァバンの代わりに神となったシヤン。
総計18人が集まった。
そこからアーチャルの不安定さを利用して皆をナチュラルに集める計画だったが、シヤンの誕生が僕らの計画をより簡単にしてくれた。
3人だった神にシヤンが加わったことで、少人数であれば各世界に送ることが出来るようになったのだ。
アーチャルを経由しなくても僕らは英雄たちを移動させられるようになっただけではなく、アーチャルからはどうやってもいけなかったエテルネルの世界にも移動が可能になったのだ。
僕たちは英雄たちとナチュラル、レクシア、シヤンの18名をエテルネルに集合させた。
僕たちは早速アーチャルとディスタバンスを仲間に引き入れることを計画した。
アーチャルは何をしても無反応だった。
だが、同じアーチャルに暮らす5人の英雄たちはアーチャルを説得するためにアーチャルの元へと赴いた。
アーチャル曰く、「今思えばほんとうにしつこい連中だったわ」とのことだ。
何度も何度も対話を試みては、何度も何度もあしらっても決してあきらめなかった。
だからこそアーチャルも折れたのだ。
「あの人たちは私がどんなに冷たい言葉を投げても決して笑顔を絶やさずに向き合ってくれたわ。ホント、おかしな人たちだったわ。でも…不思議とね。悪い感じじゃなかったのよね。」
―――
そしてディスタバンス。
グロストの時代から更に未来。
半身を失ったディスタバンスは力を取り戻し、今度こそ世界を滅ぼそうと本気で考えていた。
それを阻止する為、僕たちはディスタバンスの元へと向かった。
ディスタバンスはその強い力を振るい、僕らを攻撃した。
でも、僕たちはもう1人でも、2人でもない。
僕らは、負けない。
アーチャルが加わり、19人になった僕たちはディスタバンスに立ち向かった。
かつてディスタバンスの半身を倒したグロストを筆頭に、そしてその時代を生きていた人々とも力を合わせ、ついにディスタバンスを打ち倒したんだ。
「…もう手遅れだろうが。俺を仲間に引き入れたとしてもよ。」
「手遅れなんてことはない。君の力があればより僕たちはヴァジャスに近づける。」
ボロボロになっても諦めず僕たちはディスタバンスの手を掴み続けた。
「…分かったよ。俺の負けだ。」
長い時をかけて戦い続けた英雄たちの手をついにディスタバンスが取った。
最後のカケラは揃った。
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~シンセライズ誕生~
20人になった僕たちはヴァジャスに干渉した。
ヴァジャスの世界は今のイビルライズと同じだ。
真っ暗で、深い深い闇に包まれていて、そこに居るだけで気が狂ってしまいそうになるほどに恐ろしい負の力で満ちている。
こんな場所でずっと負の力を受け続けているなんて、想像するだけで吐き気が止まらない。それほどまでにこのヴァジャスの世界は地獄だった。
「助けに来た。ヴァジャス…!」
「ウゴゴゴゴ…エテルネル…エテル…ネル…!!!!」
ヴァジャスにはもはや恨みという感情しか残っていなかった。
自分だけが何故こんな目に、何故自分だけがこんなに負を背負わなければならないのか。
痛みも、悲しみも、絶望も。全ての世界の負を一身に受け続けたヴァジャスにはもはや一かけらの心も存在していなかった。
だからこそ、その悲しみを僕たちは…
「ヴァジャス…!僕らは…もう君を1人にしない!君にだけ悲しみを背負わせない!」
僕は叫ぶ。
「我々で受け入れよう。さすれば…お主も救われよう。手を取るのじゃ。」
レクシアは言葉を投げかける。
「ダマレッ!!!ダマレエエエエエエエエッ!!!!!」
暴れ狂うヴァジャスを僕たちは必死で食い止めた。
ヴァジャスの攻撃はディスタバンスや英雄たちが食い止め、皆は僕に全てを委ねてくれた。
全ての世界の人々の願いも、英雄たちの心の力も、そして僕たち神々の思いも全てをぶつけ、僕はヴァジャスの心の中へ入り込み、制御の効かなくなったヴァジャスの心を救いあげた。
「エテルネル…ごめん…私は…自分でも抑えきれない…」
「いいんだ。全部僕が悪いんだ。君は何も悪くないんだよ。」
僕はヴァジャスを抱きしめた。
「帰ろう。君の背負ってたものは僕たちも受け止める。みんなで…みんなで今度こそ…僕たちの願いを乗せた世界を創ろう。」
真っ黒に染まった巨大な竜となったヴァジャスを僕たちは支え、そしてやがて彼の身体の漆黒は剥がれ落ち、白き竜へと姿を変えた。
「やっぱり君は…白銀が似合うね。」
「エテルネル…皆…ありがとう…」
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簡単に掻い摘んで語ったけど、これが世界統合までの歴史だ。
でも、これはあくまでもシンセライズでも探せば見つかる歴史。
でも、この先のことは誰も知らない。
僕たちは全員で力を合わせ、世界を統合させ、シンセライズを生み出した。
英雄たちもシンセライズで自分たちの居場所を見つけた。
中には僕たちと同じ神と同じ立場になることで、世界の“抑止力”として生きてくれる英雄たちも居た。
魔王・デーガはそのうちの1人だ。
そして魔王・デーガの配下であったアルーラ・ポット。
とてつもなく長い寿命を得てしまったフリード・バーン。
この2人は“抑止力”を支える“適応外”としてこのシンセライズに古代人として残ることになった。
他にも何人かの英雄たちが残ることを決めてくれた。
だが、その彼らは長き時を生きることを望まなかった為、今はこのシンセライズには居ない。
―――
やがて僕たちはシンセライズを管理していく中でやはり同じ壁にぶつかった。
それは負のエネルギーの処理だ。
僕たちは今までヴァジャスだけが背負っていたこのエネルギーを僕らで背負うことにした。
この負のエネルギーが溜まっていく場所を僕たちは“イビルライズ”と呼んだ。
生物が生きるためには必ず発生する負のエネルギー。それが溜まっていく場所を消し去ることはどうしても出来なかったんだ。
だからこそ僕らはそれを受け止め、少しでも負のエネルギーを抑えられる、温かく、優しく、楽しい世界を願っていた。
だけど、やはり負のエネルギーは少しずつ蓄積していく。
数百万年後にはイビルライズはシンセライズにも侵食を始めようとしていた。
イビルライズに残っていたのはヴァジャスが邪神だった頃の残留思念。
その残留思念はやがて1つの存在を生み出してしまう。
それがクロ・イビルライズだった。
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~ビライト・シューゲン(クロ・イビルライズ)とキッカ・シューゲン(エテルネル・シンセライズ)~
クロはその勢力を拡大し、イビルライズとシンセライズを繋ぐ扉を侵食し始めた。
「このままだとマズいぞ…!」
一刻の猶予もない。このままだとシンセイライズはイビルライズに飲み込まれ、再び破滅が訪れる。
今度こそ神々はそれに囚われ邪神になってしまうかもしれない。
「…みんな、後は任せたよ。」
「エテルネル…!待てッ!そんなことをしたらお前は…!!」
「ごめんね。」
「エテルネルーーーッ!!!」
僕の力のほとんどを扉に封印することでイビルライズを閉じ込めた。
残った僕の核はイビルライズから逃げ延びるために、世界の狭間へと逃げ出した。
でも僕はクロが気がかりだった。
きっとクロはあの時のヴァジャスと同じだ。
負の力に侵されてしまっている。きっと心の何処かでは助けを求めているに違いない。
だから僕は更に力を削り、世界をさまようクロを追いかけた。
その最中、出会ったのがあの兄妹だったんだ。
ビライト・シューゲンとキッカ・シューゲンだ。
ビライトの身体の中に入り、潜伏を始めたクロ。
僕はそのクロの干渉からビライトを守る為、妹のキッカの中に潜伏した。
僕の僅かな抑止力としての力を作用させ、クロは思うように力を育てられずにいた。
そこでクロはビライト自身に負の力を目覚めさせ、覚醒をしようと計画した。
しかし、その作戦はその時は失敗に終わった。
ビライトは負の感情を育てることを辞め、正の感情を育て始めた。
ビライトを正しい道へと戻してくれたヴァゴウ・オーディル。そしてキッカ・シューゲン。
2人に囲まれて育ったビライトは純粋で心優しい青年に成長した。
だけど…
「お前だけはァァァァッ!!絶対にィッ!!許さないッ!!!」
―――ビライトは負のエネルギーを抱え、爆発させた。
結果、イビルライズ…クロは覚醒してしまったんだ。
僕が見つかってしまうのも時間の問題だ。
そして境界を守る僕がクロに見つかってしまえば…この世界はイビルライズに完全に侵されてしまうだろう。
今でさえも、ヴァジャスたちが抑えてくれていてやっとだというのに…
そして、イビルライズを止める方法。それは…シンセイライズに生きる生物と…僕たち“抑止力”が力を合わせることだ。
お互いが持っている力を合わせて立ち向かえばきっとイビルライズを食い止めることが出来る。
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アトメント…いや、ディスタバンスが動き出した。
ビライトたちを認めたディスタバンスはビライトたちを連れてこれからレミヘゾルに向かって歩き出す。
「…ナチュラル、レクシア、シヤン、アーチャル…ヴァジャス。もうすぐ君たちの“希望”がそっちに行くから。だから…彼らを…見極めて欲しい。でも僕は信じてる。彼らなら…守るべきものを、助けたい人がいる彼らなら…きっと僕たち抑止力が忘れてしまった“心の力”でイビルライズを、クロを助けてくれるって…信じてる。」
―――
「…デーガ。まずは君の前に彼らは現れる。でも君ならきっと…ビライトたちの力になってくれるよね。」
(それはアイツら次第さ。)
「そうだね…でも、僕は信じるよ。」
(俺も信じてる。けど手加減はしない。それでいいんだよな。)
「うん、でも殺しちゃダメだよ。」
(分かってるって。)
ディスタバンスが動き出したことを感知した僕はデーガにそのことを言葉で伝えた。
デーガは笑みを浮かべる。
(楽しみだ。久々に暴れられるかもな。それに…いい加減俺も…限界だしな。)
デーガは手を胸に当てる。
「大丈夫かい?」
(あぁ。今はな。けど…多分俺は“制御が効かなくなるだろうな”)
「…辛い役目を背負わせているね…ごめん。」
(謝るなよ。俺“たち”が選んだ道なんだ。そうだろ?)
(その通りだ。お前が気に病む必要はない。)
違う声が響く。低くとても重い声…
「…ビライトたちが君たちの渇きを満たしてくれるって…僕は信じてる。」
(あぁ、俺たちも信じるよ。まぁ最も、俺を満足させられないようじゃ…“アイツ”は納得しねぇだろうけどな。)
「確かにね。世界統合の際、8人目の神となった“彼”はきっと…最後までビライトたちの前に立ち塞がるだろうね。」
(頭堅いからなぁアイツ。)
「ふふっ、そうだね。おっと…そろそろ会話は終わりだ。あまり話しているとイビルライズに見つかってしまうかもしれない。」
(おーハイハイ。まぁあとは任せとけって。じゃな~)
「うん、またね。」
そこで僕の声は終わる。
デーガは呟いた。
「さぁ来い。シンセイライズの選ばれし者たち。“抑止力”の1人、魔王・デーガが相手をしてやるよ。」
――――精々、俺たちを束ねて世界を救えるように頑張ってくれよな。
第0章 誕生編 ~世界が生まれるまでの~ 完
次回から本編1章開始になります。