Delighting World Break 第0章① ~ボルドー・バーンと小さな惑星(ほし)~
作者最推しであるボルドー・バーン誕生1周年記念描きおろしショート小説。
これからの物語にも隣接するお話の序章的なお話です。
少し、長い夢を見ていた。
今から30年ぐらい昔の話だ。
―――
ボルドー・バーン21歳。
ドラゴニアの王子として生まれ育ってきた。
父親であるベルガ・バーンはまだまだ現役であり、成人を迎えてもまだ、王の座には就けずにいた。
最も、これから30年経ってもまだ王子なのだが…
「まだボルドーさんが若い頃のお話ですか?」
「おう。昨日その時のことを夢で見たんだ。」
ボルドー・バーン49歳。
ビライトたちと出会う2年前。ブランクはまだ生まれておらず、ボルドーは嫁候補であるメルシィと共に世界を見て回る旅に出ていた。
ドラゴニアを出て1年。まだまだドラゴニアに戻る予定はない。
そんな時にボルドーがふと語りだす30年前に見た夢のお話。
「よく夢を見るんだ。昔の記憶もそうだけどよ。中にはちょっと不思議な夢もあってな。」
「へぇ…例えばどんな夢なんですか?」
「そうだな…」
その時語った夢のことは約30年経った現在でも覚えている。
舞台は小さな惑星だ。
それはとても小さく、その惑星を1周するに必要なのは徒歩10分ぐらいの小さい惑星。
「自然豊かで、小さい小動物がたくさん居るんだ。そんでよ、色々遊んでよ。楽しかったんだ。」
「あなたでもそんなファンシーな夢を見るんですね。なんだか意外。」
「ダハハ、俺様もそう思うわ。」
ボルドーは笑いながら話を続ける。
「んでよ、その惑星には1人の年老いたドラゴンが住んでいてな。夢だから会話なんて出来なかったけどよ。そのドラゴンと目が合うや否や、目が覚めちまったんだ。」
「へぇ…不思議ですね。」
「おう、でもよ…この夢はなんというか、妙にリアルだったっていうか…」
ボルドーは腕を組んで頷く。
「感覚とか…そういうったものを感じたといったところですか?」
「おう、それだ。」
ピンと来たようだ。
しかし、夢で起こったことが感覚として現実で起こることはわりとよくあること。
溺れる夢を見れば息苦しくなる、誰かに触れる夢を見れば、何かを触っている感覚になる。
だが、そんなものとはまた違う、妙なリアルさがあったようだ。
「でも、素敵な場所ですわね。そんな場所が本当にあるとしたら私も行ってみたいです。」
「あるかもな。なんせこのシンセライズはまだまだ謎に満ちていやがる。未踏の地なんてものがあるぐらいだからな。」
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深い闇の底に俺様は居た。
感覚も無い、意識もおぼろげだ。
今、自分は夢を見ているのか。それとも…これが“死”なのだろうか。
あぁ、そうだ。俺様は…死んだんだ。
ヒューシュタット王、ガジュールを巻き込んで…
あの後、皆はどうなっただろうか。
ガジュールは倒れたんだろうか。
ビライトは…ヴァゴウたちは…大丈夫だろうか。
…いいや、もう関係の無い話かもな…だってよ…俺様は死んだんだから。
これ以上俺様が出来ることは…何も―――
ごめんな、ブランク…ごめんな、メルシィ…
フワッ
「!」
赤い光を感じる。暖かい。これはなんだ。
自分の情報…なんつーのか。身体?精神?魂?
そういったものが再構築されていくような感覚。
身体が…動く。
動ける。
身体を動かしてみるが、まるで今自分は無重力のようにふわふわしている。
周りは真っ暗で何も無い。
一体どうなっているのか。
本当に俺様は死んだのか?
―――
とにかく身体を動かして前に進むことにした。
平泳ぎをする感覚で前に進むと…
「…光だ。」
白い光が見える。
その奥からは小川のせせらぎ、小鳥の鳴き声。木々のざわめく音が聞こえる。
ほんのり暖かさも感じる。
俺様はその光までたどり着きその奥へと進んでいく。
日差しが暗い場所にずっといた俺様の目を刺激する。
「…ッ…眩しい…」
ゆっくりと目を開けると、そこは小さな森のようだった。
とても穏やかな気候で、弱い風がひゅうひゅうと吹き、木々がザワザワと音を立てている。
辺りには小さな小鳥が鳴いており、小動物たちが散歩をしていた。
「…こいつは…夢か?」
いいや、おかしい。俺様は死んだはずだ。
なのに何故夢を見る?そもそもここは何処だ。“天国”か?
ふらりと歩き出し。森を歩く。
その森はあっという間に終わってしまう。
その先は小さな草原。
中央には小さな花畑があった。
「…綺麗な場所だな…なんつーか…さっきまで戦ってたとか嘘みてぇだ。」
―――
「…あ?」
奥に何か居る。
花畑の中央に…あれは人間だろうか。
「…」
間違いない。人間だ。
女性の人間。青い服、黄色い髪。
何処か不思議な感覚を覚えたが、何はともあれ人が居るのはラッキーだ。ここがなんなのかを尋ねるチャンスだ。
「おーい!」
俺様は少女を呼んだ。
少女はゆっくりと振り向き、俺様を見る。
すると少女は何も言わず、手招きをした。
「…来いってことか?」
少女は頷いた。
俺様は少女の元に歩きだす。
「人が居るとは思わなかったぜ。あんた、ここが何処だかわかるか?俺様…いんや、俺はどうしちまったんだ?」
少女はじーっと見つめてくる。
「な、なんだ?顔になんかついてるか?」
あまりにも色々なアングルで見つめてくるものだから話しかける相手を間違えたか?と少し焦るが…
「…悪い人じゃないみたい。」
少女はそう呟いて、花を摘み始めた。
「…おいおい、答えになってないぜ。」
それからしばらく少女を見ていた。
花を使って何かを作っている。
「はい。」
それから10分…少女は花を使って小さな装飾品を作った。
花の輪の小さなリング。
「これ、あげる。」
少女はそのリングを俺様の左腕に通す。
「…お、おう。ありがとよ…ってそうじゃねぇ!ここは何処なんだよ!俺はなんでこんな。」
少女は再びじっと見つめてきた。
「言葉通じてるよな?」
ついに不安になって零した言葉。
少女は呟いた。
「ここは忘れられた惑星。」
「忘れられた惑星…?」
「そう。ここは生と死の狭間にある小さな惑星。あなたはどういうわけかここに迷い込んだみたい。」
少女は俺の胸を触る。
「不思議。私の管轄から外れた変な状態。あなた変な人。変人?変態?」
「変態は失礼だろ!ていうか、容赦ねぇな!?」
少女は歩き出した。
「あなたは生きたい?死にたい?」
「…は?」
「答えて。その答えによって私はこれからあなたにすることが変わるから。」
意味が分からなかった。
自分は死んだはずだ。生きるも死ぬもクソもないはずだ。
だが、この胸に宿る気持ちは変わらない。
「…生きてぇよ。」
多くの大事なものを置いてきたんだ。
国、妻、息子、親友…
全て道半ばだった。
だけど、自分が取った行動は後悔はしていない。
どのみち助からなかったんだ。だからこそ、最後に自分が取った行動に後悔はない。
残されたビライトたちにも言葉を贈ることが出来た。
けどよ…欲を言えばもっと一緒に居たかった。
それだけじゃねぇ。
メルシィも、ブランクも…オヤジも…クルトも…
ヴァゴウ、ゲキ、ビライト、キッカ、レジェリー、クライド…
皆に会いたい。
それに、約束したんだ。
フリードに…立派な王になるって。誓ったじゃねぇか。
メルシィとブランクを置いていかないって約束もした。
後悔は無くても…心残りは無限にあるに決まってる…!
「そう。ならしばらくここに居ると良いわ。いつかきっと、光指す道が現れる。」
少女はそう言い、森の方へ歩き出す。
「おい、どういうこった?」
「そのままの意味なんだけど…ごめんなさい、もう何百万年…何千万年前?もお話してないから話し方を忘れてしまったの。」
「…はぁ?」
桁がおかしくないか?
つくづく不思議な場所だ。
「あ~…分かった分かった。とりあえずだ。しばらくここで過ごしてりゃ分かるってことだな?」
「うん。」
「オッケー分かった。最後に一個。」
俺様は指を立てる。
「嬢ちゃん。名前は?」
少女は呟いた。
「…昔、名前があった。でも今は無い。そうね…――――“忘却の少女”…なんてどうかしら。」
「呼びづれぇよ。」
昔見た夢に酷似した小さな惑星。
ここは何処なのか。自分はどうなってしまったのか。
ビライトたちとはまた違った小さな世界で、ボルドー・バーンは少女と出会った。
これはシンセライズから遠く離れたもう一つの物語。
この歴史はきっと、ビライトたちの物語の節目に少しづつ紐解かれていくだろう。
これは、そんなお話。
第0章②(第2部本編開始)は12月上旬を予定しています。
もうしばらくお待ちください。
pixivには記念イラストもあげています。