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Delighting World  作者: ゼル
第十章 真実編 ~踏み出す、一歩~
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Delighting World ⅩⅩⅩⅩⅦ (第一部 完)

Delighting World ⅩⅩⅩⅩⅦ (第一部 完)




「帰ったか。」


「おう!」

「…なんだ、嬉しそうだな。」

「おう、色々あったんでな。ただ、判明したことは残酷ではあったけどな…」


コルバレーから無事にドラゴニアに帰ってきたヴァゴウは早速城にいたクライドたちに報告を入れていた。



「んで、ホウとレジェリーちゃんとビライトは?」


ヴァゴウは尋ねる。


「ホウとレジェリーは目を覚ました。ビライトはまだだが…」

「皆さん!」

クライドとヴァゴウが会話していると、クルトが走ってやってきた。


「どうしたんだそんな慌てて…」

「ビライトさんが目を覚ましました…!」

「おお!!」


ビライトが目を覚ましたという報告を受け、喜ぶヴァゴウ。

クライドは小さく頷く。

「会話は出来そうか?」

クライドが尋ねる。


「色々と記憶が混乱しているようで…今は安静にしておいた方が良いかもしれませんが…どうしますか?」

クルトはヴァゴウたちに聞くが…


「どうするよ、クライド。」

「…時間が惜しい。ビライトには悪いが行こう。レジェリーにもビライトの所に行くように伝えてくれ。」

クライドはクルトに言う。

「分かりました。ですが…今日は手短にお願いします。」

「分かった。」

クルトの許可を得て、ヴァゴウとクライドは病院で入院中のレジェリーと合流し、ビライトの元へ向かうことになった。


-----------------------------------------------------

城から病院に向かう道中…


「よう。」

「お、ゲキ!」

「戻ってたんだな。俺にも色々話を聞かせてくれよ。」

「おう、一緒に行こうぜ。良いよな?クライド。」

「好きにしろ。」


クライドはそう言い、クルトについていく。

「てわけだ、行こうぜ。」

「おう。好きにさせてもらうぜ。」


「…一応、レジェリーから聞いた話は今のうちに話しておくぞ。」

ヴァゴウとゲキにクライドは病院に移動する道中でレジェリーから聞いた話は全て話すことにした。



「ボルドーが…まだ死んでない…か!!ゲキッ!」

「オオッ!良かったぜ…!ホントによ!」

ボルドーがまだ死んでいない。ボルドーの帰還はレジェリーや自分たち次第であるが、それでも希望が残されていることにヴァゴウとゲキは喜んだ。


「とにかくだ、未踏の地“レミヘゾル”。ワシらはそこを目指すことに変わりはねぇんだな。」

「あぁ。あとは…ビライト次第だ。」

「だな…。」


今、ここに居る全員に覚悟は決まっている。

レジェリーも命を懸けてボルドーをこのドラゴニアに戻すことを考えている。そしてキッカを助ける。

しかし、ビライトだけがまだその決意が出来ているかどうかが分からない。

この戦いで最も深く傷ついているのは間違いなくビライトだ。


ビライトの意志がどうなっているか。

それを皆は確認する必要があった。



「あっ、ヴァゴウさんにゲキさんも。」

病院の入り口でレジェリーと合流したレジェリー。


「おう、レジェリーちゃん、目覚めて良かった!」

「迷惑かけてごめんね。」

「気にすんなよ。」

レジェリーは謝るがヴァゴウは笑って気にするなと言う。


「あたしのこと、クライドから聞いた?」

「おう、全部聞いた。けど関係ねぇよ。お前はお前だ。」

「ふふっ、ヴァゴウさんらしいかも!さ、ビライトのところに行きましょ!」

レジェリーは車いすに座っている。


まだ立って歩ける状態ではないので、車いすを使っての移動となっており、常に魔力を安定させる装備品を身体に装備させられている。

これが外れると魔力が不安定になってしまい、危ないらしい。

安定するまでにはまだもう少し時間が必要で、それが安定してくると、立って歩けるようになってくるらしい。



ビライトの病室前に着いたクルトはコンコンとノックをし…

「ビライトさん、クルトです。」


「あ、はい。」


ビライトの声が聞こえる。

これだけでレジェリーとヴァゴウはホッとする。


扉を開けると同時にヴァゴウは飛び出す。


「ビライトッ!」

「わっ!オッサン!?」


ヴァゴウはビライトの手を持ち、笑う。

「良かったぜ…ホントによ!!ガハハ!!」

ヴァゴウは嬉しくてついに手をブンブンと振る。

「わわ、ご、ごめんオッサン、心配かけちゃって!」

ビライトは慌てながらもヴァゴウに謝る。


「ビライト、身体の調子はどうだ。」

クライドが尋ねる。

「見たところ、あたしよりは大丈夫そうな気がするけど。」

レジェリーは言う。

「よっ、ビライト。来たぜ。」

ゲキも微笑んでビライトに言う。


「クライド、レジェリーも…ゲキさんも…そう、だな。身体は多分大丈夫…と思う。」

ビライトは目立った外傷はほとんどなく、怪我はほとんど完治している。


「ただ…なんだろ……色々頭がこんがらがって…」

ビライトは頭を抱える。


「あの戦いから2週間、色々なことがあった。それをお前にも伝えたい。だが、今日はやめておこうと思っている。」

クライドは言う。

「…うん、俺も…なんとなくは察してる部分もある。俺も…眠っている間に変化があったみたいで…」

ビライトの目は力を失っている。クライドはいち早くそれに気が付いた。ビライトの心は閉じかかっている。


「色々と整理がつかぬこともあるのだろう。どちみち、すぐに旅立つのは不可能だ。完全に良くなるまで大人しくしていろ。」

クライドはそう言い、クルトに「俺は今日はもう大丈夫だ」と言い、病室から出る。


「ビライト、ワシも色々話したいことがたくさんあるんだ。けどよ、今日はいったんここまでにするぜ。」

「…ごめん、オッサン。」


「いいって。気にすんなよ。んじゃまた明日な。」

「ビライト、ゆっくり休めよ。」

「ありがとう、ゲキさん。」

ゲキとヴァゴウも部屋から出る。


「レジェリー、足…大丈夫なのか?」

「うん、もうちょっと歩けるようになるまでかかりそうだけど…」

「そっか…」


「あたしからも言いたいことあるの。だけど、あんたの頭がこんがらがってる時に言っても余計に混乱しちゃうもんね。また今度にしておくわ。」

「あぁ、分かったよ。」

「それじゃね。」

レジェリーも挨拶し、病室を出た。


残ったのはクルトのみだが。


「では私は皆さんを送りますね。その後でビライトさん、あなたの記憶を整理しましょう。」

「…はい。」




-----------------------------------------------------



クルトはレジェリーの病室にレジェリーを送ったが、クライドはいったんここで話をしたいとここにとどまることに。

「では、私はビライトさんの記憶を整理する為、検査をして参ります。」

「おう、頼んだ。」

クルトは一礼し、病室を出てビライトの病室へと再び戻って行った。






「ビライトの心は大きく疲弊している。」


クライドが言う。


「元気そうに見えてわりと無理してるような…そんな感じはしたな。」

ヴァゴウもビライトと触れ合ってそれを薄々と感じていた。



「ビライトの記憶の整理が終わるまで俺たちは自分の出来ることをしよう。ひとまずヴァゴウ。コルバレーで得た情報を俺たちに共有してくれるか。」

「おう。分かったぜ。」





ヴァゴウはこの場にいるクライド、レジェリー、ゲキの3人にコルバレーでの情報を伝えた。


レジェリーには記憶の改ざんのことは伝えて居ない為、そのことも踏まえてレジェリーには全ての情報を共有させた。


「そうか…やはりコルバレーでも記憶の改ざんが行われていたか。」



「あぁ、コルバレーの住民はビライトとキッカは死んだ扱いになっててな…もう誰もアイツらが生存しているとは思っていなかったよ。」

「そんな…そんな悲しいことってあるの…?」

レジェリーはショックを受けた。

「これまでビライトとキッカちゃんが関わってきたコルバレーの人たちの思い出が丸々消えてしまってるなんて…!」


「…残念だが…事実なんだ。後はビライト自身の記憶がどうなっているかだ。さっき記憶がこんがらがっていると言ってたからな…本当の記憶と偽りの記憶が混ざり合って混乱してるのかもしれねぇ。」

「そっか…それにビライトももう気が付いてるよね…キッカちゃんが居ないこと…」

レジェリーはため息をつく。


「あぁ、取り乱してもいなかったということは、もうすでにその後だったということだろうな。」

クライドは呟く。


(ビライト…あんたが立ち直れなかったら…あたしたちの道も閉ざされちゃうのよ。)

レジェリービライトの病室の方を見て思う。


「とにかく今はクルトの検査の結果を待とう。」

「そうね…あたしも早く身体を治さなきゃ。」



この日はひとまず解散することになった。


-----------------------------------------------------




「ビライトさん、脳波がやはり乱れているようです。」

「…はい…」

「今起こっていることをお聞かせください。」

クルトはビライトに尋ねる。


「…クルトさんは…記憶が改ざんされたって言われたら信じますか…?」

ビライトは言う。

「ええ、信じます。改ざんされたのはあなただけではないようですから。」

クルトが城を見て呟く。


「…じゃぁ…事実なんですね。」

「…えぇ。詳しくはヴァゴウさんから聞いていただければと思いますが…」

「…そう、ですね。そうします。」


ビライトの記憶の改ざん。あの両親を失った事件のこと、そしてクロのこと。

イビルライズのこと。そしてシンセライズのこと。


夢でみたものが正しいということだった。

ある程度おぼろげであるが、今までのコルバレーでの記憶が偽りだったことは分かった。


「そっか…俺…やっぱり一回死んでるんだなぁ…ははは…ほんと…俺って……なんなんだろうな。」

「…ビライトさん……」

ビライトは涙を流す。

「俺、あの事故で死んでたはずなんです。なのにさ…世界がどうだかの話に勝手に巻き込まれてさ…イビルライズに散々利用されて…キッカはもう俺の隣に居なくて……俺は……一体…何のために…ここまで生きて来たんだろう…」

ビライトは酷く落ち込み、涙が流れることを止められない。


「ビライトさん、生きることが無意味だなど、思ってはいけません。あなたはあなたなのです。」

クルトは優しく声をかける。

「…」

ビライトは流れる涙を拭く。だが、涙がボロボロと出てきて止まらない。

「ごめ、なさい…」

「ビライトさん。堪えなくて良いのです。今は泣きなさい。そのあと、皆でこれからを考えましょう。忘れないでください。大事なものを多く失ったあなたでもまだ残っているものはあります。どうかそれを忘れなきよう…」

クルトはビライトが泣きつかれて眠るまで病室で見守り続けた。


「…ビライトさん。しかし今のあなたの姿を見たら…きっとボルドー様は悲しまれます…あなたは…ここで立ち止まるべき存在ではないのです…」

クルトそう呟き、この日はひとまず検査を取りやめ、病室を出た。




-----------------------------------------------------


その日の夜…


(ビライト)

(強くなれよ。必ずキッカの身体を取り戻すんだぞ。)


(待って!待ってくれ!嫌なんだ!もう!)


(お兄ちゃん…どうして…助けてくれないの?)


(キ、キッカ!)

(さよなら。)








「…待ってくれッ!!」

目が覚めてしまったビライトは起き上がり、窓からドラゴニアを見る。


「ハァ…ハァ……俺…」

ボルドーが死んでしまったときのこと、キッカが消えてしまったことによる幻聴。

そんな悪夢を見て呼吸を荒げるビライト。

しばらく深呼吸をし、心を落ち着かせた。



ビライトは長い間眠っていた時に夢で見たことを思い出そうとしていた。


記憶の偽りを知った。

その時、イビルライズとシンセライズのことを聞いた。


そして…



「…ッ…頭が…痛い…」


それ以外が曖昧で、おぼろげだった。


ビライトは守護神メギラから力を与えられた。

そして、不思議な声に励まされ、シンセライズに励まされ、希望は残っているということに決意を抱いてこの現世に戻ってきたはずだ。

だが、その肝心の部分がビライトの中ではおぼろげになっていた。


この決意を持って帰ることが出来なかったこそビライトの心はまだその堅い扉を開けずにいるのだ。










ガジュールとの戦いから約2週間。

その間にビライトの知らない所で色々あったこともヴァゴウ達の言葉から理解はしている。

だが、ビライトにはそれをすべて受け入れるだけの余裕がない。

だから、せめて自分の中にあったはずのものを思い出したい。そう思っていた。




-----------------------------------------------------



翌日以降、クルトの定期的な検査で、脳波がなるべく安定しているタイミングを見計らって少しずつビライトに情報を提供する方向にしようとクライドから提案があり、まずはレジェリーがボルドーのことについて、そしてボルドーをこの地に再び帰すための手段、そして師匠である魔王・デーガのこと。

それらをゆっくりと話すことになった。



「ボルドーさんが…死んでない…」

「うん、でもボルドー様をなんとか出来るかどうかはあたしたち次第。師匠はきっとそれを許さない。だからあたしたちは師匠に認めてもらわなきゃダメってこと。」

「…そっか…でも、ボルドーさんを取り戻せる可能性があるんだ…」


「うん。だからね、ビライト。あんたにも力を借りたい。あたし一人じゃ多分無理だから…」

レジェリーはビライトにお願いする。


「ボルドー様を助けたいの。お願い。」


ビライトしばらく沈黙し、呟いた。

「…あぁ…考えとく…」


「か、考えとくって…~…まぁ、良いわ。良い返事待ってるから。」

レジェリーは少しショックだった。


なんとも曖昧な返事だったからだ。本来のビライトであれば快く分かったと言ってくれると思っていた。

だが、レジェリーはビライトの予想外の返事に少し落胆してしまった。


(ビライト…どうしちゃったのよ…)



ビライトも内心、何故あんな返事をしたのだろうと後悔していた。

何故、いつものように分かったと言えなかったのか。自分に自信が持てないのか、自分に何か出来るわけでもないと思っているのか。

ビライトの自信は喪失していた。




―――――――



「そうか、ビライトがそんなことを…」

ヴァゴウはレジェリーからそのことを聞いて目を瞑る。

「あんなの…ビライトじゃないわ…アイツ、どうしちゃったのよ…ボルドー様を助けたくないの…?」

レジェリーはビライトが言ったことがやはりショックだったようだ。

拳を震わせるレジェリー。

ビライトからそのような言葉が出て来るなんて思いもしなかったからだ。それほどまでにビライトの心は疲弊しているのか。

「…ビライト…」

ヴァゴウはビライトの病室の方角を見る。


「…うし、明日はワシが行く。任せとけ。」

「…うん…」


「俺も行こう。」

クライドが言う。

「うし、2人で行くか。」

「あぁ、本当に手間のかかる奴だ…」




-----------------------------------------------------




翌日、今度はヴァゴウがビライトの病室に行く。


そして、この日がビライトにとって転機となる。






「よっ、ビライト。調子はどうだ?」

「…あぁ、まぁまぁ…かな。」

ビライトは日に日にやつれているようだった。

返事も曖昧になって、ぼーっと虚無を見つめているような。



「あんだよ、元気ねぇな!ちゃんと飯食ってんのか?」

「…あぁ。」


「…なぁビライト。レジェリーちゃんになんであんなこと言ったんだよ。」

ヴァゴウはビライトの顔を見て言う。


「…さぁ。」

ビライトは適当な返事をするばかりで、まともに話を聞こうとしなかった。


「…重症だな…」

クライドはボソッと呟いた。


「ボルドーが助かるかもしれねぇんだぜ?素晴らしい事じゃねぇか!ワシらが頑張れば、ボルドーが助かるんだよ!なっ!」

ヴァゴウはビライトの曖昧な返事に動じることなくビライトに話しかけ続けた。

クライドはそれを見守っている。


「…どうせ」

「…ん?どした?」


「どうせ…何も出来やしないよ。」

「…どういうこった?」

ヴァゴウの顔が曇る。


「何も出来ないって言ったんだよ!」

ビライトは大きな声で言う。



「ビライト…?」


「俺たちに何が出来るって言うんだよ!誰かの犠牲が無いとまともに何も出来ない俺たちに!これ以上先に進む力なんて…あるわけないじゃないか!」

「…」

ビライトは身体を震わせ、声を震わせ、叫ぶ。


「ボルドーさんを救うためにとんでもなく強いやつを納得させる?イビルライズをなんとかする?そんなこと…出来るわけないだろ!」

「…何?」

ヴァゴウの表情が段々曇っていく。


「俺たちは…ただの平凡な奴らなんだ…大っぴらに夢を語っても…圧倒的な力の前には何もできやしないんだッ!その結果が…!その結果でドラゴニアはめちゃくちゃになって!ガジュールとの戦いで俺は…キッカを奪って…!俺が!俺が旅さえ始めなければ!こんなことにはならなかったんだ!!俺が…あの事故のときにすぐに死んでれば!こんなことにはならなかったんだ!!」

ビライトは自暴自棄になり叫び出す。

「俺は…結局誰かを巻き込んで不幸にするだけなんだ!!俺は…独りぼっちなんだ!!誰も…俺に関わっちゃいけないんだ!!」


「何事ですか!?」

大きな声を聴き、クルトが駆けつける。

しかし、その時、既に事は次に動いていた。


ヴァゴウがビライトの胸ぐらを掴んでいた。

「そこまでにしとけ。ビライト。」

「…離せよ!」

「離すかよ。ビライト。」

ヴァゴウはビライトに言う。


「お前、本当にそんなこと思ってんのか?だとしたら…お前をワシは見損なった。お前…本当に死んでもいいなんて思っていやがるのか。」

「…」

「ボルドーは死ぬ間際、お前に、ワシらに何て言った?忘れたとは言わせねぇぞ!!思い出してみやがれッ!!!」

ヴァゴウはビライトに怒鳴る。


「ヴァゴウさん、それ以上は…!」

クルトが制止しようとするが、クライドがそれを止める。

「クライドさん…」

「良い機会だ。ビライトの心を溶かせることが出来るのはもうヴァゴウしか居ない。アイツが一番ビライトと付き合いが長いのだ。任せよう。」


「クライド…!」

レジェリーも車いすで駆けつける。

クライドはレジェリーを見た。今はヴァゴウに任せようという意志をレジェリーに目で伝えた。

「…うん、分かった。」

レジェリーはそれで理解をしたようで、見守ることに徹した。



「…」

―――


(ビラ…イト…お前にはいかなきゃ…いけねぇところ…あるんだろ…だったら…こんなところで…終わるんじゃねぇ……!)

(お前たちの旅はまだ終わってねぇ!だからよ…進め!振り返らずに、前にッ!)


―――

「ボルドーは進めって言った!前に進めと言っただろ!そうさ、ワシらはまだ…入り口にすら立ってねぇッ!なのに…お前はここで諦めて…ボルドーが命かけて伝えた言葉を…信じて待ってるって言ったキッカちゃんの気持ちを全部捨ててしまうってのかッ!!!」


「…じゃぁ、どうしたらいいって言うんだ!!」

「馬鹿野郎!!!」

「!」

ヴァゴウは怒鳴った後、ビライトの胸を放し、肩に手を置く。


「お前一人で抱え込んでんじゃねぇ!!勝手に関わっちゃダメとか決めつけんなッ!!ビライト!お前の目には何が見えるッ!?」

「…」

ビライトはヴァゴウの顔を見る。

「ぁ…」

その時だ。ビライトに夢の中での記憶のカケラが脳内を駆け巡った。


―――



(お前は一人じゃねぇ。良いか?目を覚ましたらまず周りを見ろ。お前の目には何が見えているか…よーく考えろよ?)




―――



「お前は…1人じゃねぇ!ワシが居る!クライドも、クルトも、レジェリーも、ゲキも、ベルガも…メルシィだってブランクだって!ワービルトのヴォロッドだってアルーラだって!ファルトだっている!キッカだって信じて待ってる!ボルドーだってそうだ…!お前は…いつから1人になったんだッ!」

「…オッサン…」


「お前が無価値な存在だってなら…ワシは否定するッ。だってお前は…グリーディにビビッて震えてたワシに…前向いて戦えって怒ってくれたじゃねぇか…!お前があの時ああ言ってくれなかったらワシは逃げてた。今のワシは無かった。だから…お前はワシを救ってくれたんだよッ!その時点でお前は無価値じゃねぇ!死んでもいいなんて言わせやしねぇ!」


「…っ…」


「悔しいんだろ、辛かったんだろ。分かるさ…ワシだって悔しい。何も出来なかったのはワシだって同じだ。けどな…ボルドーはワシらに…いつだって前向きな言葉をかけてくれたじゃねぇか!お前にはそれが全部届かなかったっていうのか!?違ェだろッ!!」


「俺は…俺は…悔しかったんだ…!弱い自分が許せなくて、強くなろうとしたけど…ボルドーさんにも、ガジュールにも遠く及ばなくて…ずっと悔しかった!!ガジュールとの戦いでもだ!何も出来ずにボルドーさんは俺を庇って…そして…キッカまで失って…ッ…いつだって俺は…誰かの力になれなかった!もう…終わりなんだよ!何もかも!!」


「馬鹿野郎!!まだ間に合うんだよ…!取り戻せるんだよ!お前が立ち上がってくれりゃ…ここに居るみんなが!お前の手を引っ張り上げてくれるッ!だからビライト!手を取れ!!」

ヴァゴウは片手をビライトの肩から離し、ヴァゴウはビライトの前に手を出す。


「お前はさ、優しい奴だよ。だからそうやって悩んで苦しんで、誰かのために悲しめる。けど…自分の手が及ばないと悔しい気持ちになるのも…お前が優しいからだ!けどよ…悔しさに負けてそれで足を止めたら…そこで終わりなんだよ。お前を応援してくれてたやつらのこと、背中を押してくれた奴らのこと、思い出せよ。」



ビライトは更に脳内に記憶のカケラがよぎる


(おで、知ってる。お前、優しい。いい奴。だっておで全部見てた。お前はだれかのためにわらって、ないて、おこれる。それでイビルライズめざめちゃったけど、でもそれ、お前の優しさだから!おで、お前のこと悪くないとおもう!)



(お前の目の前に広がる世界はまだまだこれからも続いてく。そして…お前には夢がある。キッカと行くんだろ?世界の果てまで!)


(ビライト、がんばれ!おで、おうえんしてる!)


(ここからずっと見てるからな。だからよ、くじけんな!言ったよな。振り返らず、前を向いて、進むんだッ!頑張れよッ!!)


「あ、ああ…うああ……」


守護神メギラの言葉、そして世界の向こう側から聞こえた励ましの言葉。


(君は一人じゃない。君には君を助けてくれる仲間がいる。孤独にならないで。)

シンセライズの言葉。

ビライトは全てを思い出した。


そして、ビライトをこれまで支え、励ましてくれた皆、ビライトの背中を押してくれた人たちの声、記憶、思い出。

それらは全て1つになり、ビライト・シューゲンという一人の人間の全てとなった。


イビルライズの器なんかじゃない。ビライト・シューゲンという一人の人間のたった一つの記憶だ。


「あああ…うあああっ…!」

ビライトは涙で顔がぐしゃぐしゃになりながら、ヴァゴウの手をぎゅっと掴んだ。

ヴァゴウは微笑んで、ビライトをぎゅっと抱きしめた。


「辛かったな。」

「ああっ…!」

「苦しかったよな。」

「あああっ…」


「でもよ、もう抱え込むなよ。お前は…たくさんの人に心配されてるんだ。支えられてるんだ。だからよ…もう、そんな悲しい事…言うんじゃねぇぞ…」


「ごめん、ごめん…なさい…うあああ…っ!!」

ビライトは子供のように泣きじゃくり、ヴァゴウの胸元で泣き続けた。


ヴァゴウは静かにビライトの背中をポンポンと叩き、その大きな体で包み込んだ。


それを見守っていたレジェリーも自然と涙を流し、微笑んだ。

クライドとクルトもそれを見て頷き、小さく笑った。


「たっぷり泣いたらよ。前に進もうぜ。皆でな。」



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「…落ち着いたか?」

「あぁ…俺、大事なこと…たくさん忘れてた…俺、色んな人に励まされて…背中を押されてきたのに…」

「思い出してくれたなら良いんだよ。」


「…みんな、ごめん。俺…どうかしてた。」

ビライトは最後まで見守り続けたレジェリー、クライド、クルトに謝った。


「色々なことがあったのだ。無理もない。だが…俺が言いたかったことは全部ヴァゴウが言った。だから良い。」

「ビライト、あたしたちが力を合わせたらきっとなんとかなるわよ。だから…みんなで行こっ。」

レジェリーは笑う。クライドも小さく微笑んだ。


「…ありがとう。俺じゃ力不足かもしれないけど…でも、俺はみんなで行きたい。俺自身の決着の為に、キッカやボルドーさんを助け出すために…」


クライド、レジェリー、ヴァゴウは頷いた。


決意は1つに集まった。


ビライトたちの新しい旅が始まる狼煙が今、ここに上がった。






(ボルドーさん、メギラ、エテルネル。俺、前に進むから。だから…どこかで見てるなら…見守っててくれ。そして…キッカ、必ず助けてやるからな。だから…信じて待っててくれよ…!)







-----------------------------------------------------



翌日、レジェリーは車いすから立ちあがろうとしていた。


「ふっ、ぐぐぐ…うー…っ…」

レジェリーは足をプルプルと震わせ…

「だああっ!!」

気合を込めて足を地に踏みしめた。


「おお…!」


「ハッ、ハッ、ど、どうです?クルト様ッ!!」

「素晴らしい。お見事ですレジェリーさん。」

「あ、あはは…やっと立てた…!」

実にレジェリーがここに搬送されて2週間。ようやくレジェリーは立てるところまで回復した。


禁断魔法1つでここまでの重度のリスクを負ってしまうのだ。レジェリーはそんな禁断魔法を求めて師匠の所に行こうとしているのだ。


「レジェリーさん、もう禁断魔法を使える状態ではありません。今後の使用は厳禁にされた方が…」

「そうですね…あたしが今まで禁断魔法を使えてたのは…髪飾りのお陰だし…それが無いなら多分弱い禁断魔法でもあたしにとっては毒だと思う…」


「ええ、ですからこれからは通常魔法のみをお使いください。」

クルトは「あなたの命を守る為です」と釘を刺す。


「ええ。でも…ライフスフィアだけは…」


「それをあなたが使用しないことを願っています。」

「…ですね…あたしも、魔法学園に入るまで、世界一素敵な魔法使いになるまで死にたくないから!」



レジェリーはゆっくり一歩一歩、足を動かし歩き出す。

「うん、ここまで歩ければもう一息です。」

「はい!」



レジェリーは快方に向かっている。退院ももうすぐだろう。

そしてビライトもまた、脳波が安定し、もうまもなく退院できることだろう。




ヴァゴウとクライドは空いている時間でドラゴニアの復興を手伝ったり、自身の修行に時間を当てた。



そして、ビライトからもようやく話を聞きだすことが出来た。


ビライトの病室には、ビライト、ヴァゴウ、レジェリー、クライドの4人が集まっていた。




「…そうか、やっぱりお前の記憶も改ざんされてたか。お前が取り乱した時に言ってたけどよ…こうやって冷静になって聞くと真実味が出たぜ。」

「あぁ…俺はあの事故で死んだ。でもイビルライズが憑依して俺は生き返った。キッカにはシンセライズが…」


ビライトは夢で見た光景、夢で起こったことを皆に話した。

イビルライズとはそもそもなんなのかを改めて皆に周知。それに加えて、クロの正体。

そして守護神メギラの力を貰ったこと…

そして…ボルドーらしき声から背中を押してもらったこと。


「ボルドーの声がした…?」


「あぁ…ボルドーさんかどうかは分からないけど…声も似てたし…それになぜかそれを聞くだけで安心した。」


「そうか…へへっ!もしかしたら何処かで見てんのかもしれねぇな!」


「そうかもしれないな…だとしたら…かっこ悪いところ見せちゃったかもな。」

ビライトとヴァゴウは笑いあう。


「で、お前の中には守護神メギラの力が宿ったと?」

クライドは少し半信半疑のようだが、ビライトに尋ねる。


「あぁ、試しにエンハンスを使ってみたけど、今まであった身体の痛みとが全然ないんだ。それだけじゃない。サードを超える力も使えるみたいだ。」


「凄いじゃんビライト!よく分かんないけど凄く強くなったってことでしょ!」


「ま、まぁそうだな…そういうことかな。」

レジェリーはそれを素直に喜ぶ。クライドも「まぁ、それでいいだろう」と呟く。


「で、シンセライズの核、抑止力…本当に色々なことを聞いたようだな。」

クライドは言う。

「でも、これは全部俺の夢の中で起こったことなんだ。信憑性は…低いよな。」

ビライトは言う。


だが、それを全て肯定する言葉が放たれた。

「真実だぜ。」


「!」


皆が振り向くと、そこには獣人…に近いが少し違うような異質な姿を持った存在。

「あんたは…?」

「誰…?」

ヴァゴウとレジェリーが言う。


「アトメント!」

ビライトが言う。


「あ、あんたがアトメントだったのか!?」

ヴァゴウは言う。ヴァゴウはヒューシュタットに初めて来たときにレジェリーを託されていた時に会っていたが、それがアトメントだとは知らなかった。


「その節はどーも。」

アトメントは右手を上げ笑う。


「あたしを助けた人…ってことよね。」

「そゆこと。さてさて、挨拶はこのぐらいにしてだな。」

アトメントは歩き出し、ビライトに言う。


「ビライト、未踏の地、レミヘゾルに行く覚悟は決まったか?」

「…あぁ。決まってる。俺にどこまで出来るか分からないけど…それでも…最後まであがき続けようと思う。それに…俺がイビルライズを目覚めさせてしまったんだ。だからイビルライズをなんとかしなきゃいけないのも…俺の責任だと思ってる。」

ビライトの決意を聞いたアトメントはニヤリと笑った。


「結構!あれだけのことがあってもなお、お前は仲間たちの力を借りて見事に立ち直った!良いぞ!それでこそ俺が目を付けた者ッ!ハーッハッハッハッ!!」

アトメントは高らかに笑う。


「ビライトが話したことは全て事実だ。安心して信用しろ?そう、お前たちはレミヘゾルを目指し、そして世界を救う。俺の予感がそう告げている。」

アトメントは皆の顔を見て言う。


「ここまでよく頑張った!俺はずーっとお前たちを見ていたんだぞ?」

「見ていた…って。」


「俺はお前たちがイビルライズに対抗出来るかどうかをずっと見極めていた。お前たちが笑っている時も、辛い時もな。お前たちがこれから訪れる険しい道を超えられるかどうかをな。」


アトメントは続けて話す。

「そして俺はヒューシュタットの戦いにおいてお前たちの絶望と希望を見た。そのうえで俺はお前たちにわずかな可能性を見たんだよ。」


アトメントはレジェリーを見る。

「レジェリー・ウィック。お前はお前の師である魔王・デーガの元で魔法を学び、そしてこのシンセライズにやってきた。その中でこいつらと旅をし、立派に成長し、大事な仲間の命を救うためにその命を懸けた。その覚悟と決意は本物だ。」


続けてクライドを見る。

「クライド・ネムレス、お前もまた最初は誰とも深く干渉しようとせず、誰からも距離を置いていた。だが、こいつらと旅をしていく中で心を育て、そして友との別れ、誰も死なせたくないという強い意志を俺はずっと見ていたぜ。」


そしてヴァゴウ。

「ヴァゴウ・オーディル、お前は自身の心の闇を抱えながら、躓き、前に進めなくなったとしても、ボルドー・バーンやビライト・シューゲンや仲間や友たちの声で何度も立ちあがる不屈の闘志を見せてくれた。そして親との別れを乗り越え、今お前は多くの経験をし、ビライト・シューゲンを立ち上がらせるために真剣になって行動した。お前の魂は最高に輝いてるぜ。」


最後にビライトを見て…

「そしてビライト・シューゲン。お前も何も知らない状態で旅をし、それを続け多くの出会い、多くの優しさ、多くの悲しみ、多くの絶望を知った。だが、お前のその誰かのために笑い、誰かのために泣き、誰かのために怒り。その純粋さで多くの仲間に恵まれた。そしてお前は自暴自棄からこんなに最高の仲間たちに手を掴まれ…ついにはシンセライズにも認められちまった。」



アトメントは全員を改めて見て言う。

「お前らを、そしてお前らの為に今ここに居ないボルドー・バーン、キッカ・シューゲンも含め、今ここに俺の名の元に認めよう。」



アトメントは宣言した。




―――






「俺の名は、アトメント・ディスタバンス。」





「ディス…えっ!?」

その名で身体を動かしたのがレジェリーとクライド。

「…!」


「俺はこのシンセライズを守る“八神”の1人であり、この世界の“抑止力”の一人だ。」


「え、ええええええっ!?」

「か、神様…だとォ…?」


「…!」


驚きを隠せない一行。


-----------------------------------------------------



“かつて世界は7つに分かれていました。”



“この世界に生まれた1人の神様はよりよい世界を作るため、6人の神様を作り出しました。7人は力を合わせてよりよい世界を作ろうとしましたが、それは失敗に終わったのです。”


“世界は1つだったのにそれは7つに分かたれ、神々はそれぞれの世界に閉じ込められてしまったのです。”


“最初に生まれた神様“主神”は閉じ込められた神様を助け出すために奮闘しましたが、せめて意識を飛ばすことが限界でした。”


“そんな中、主神と最も親しかった神様が閉じ込められた場所は、世界中の“負”が集まる恐ろしい世界でした。その恐ろしい力に翻弄され、苦しむ神様はついに“邪神ヴァジャス”となってしまったのです。”




“閉じ込められてしまった残りの神様の次々と邪神となっていきました。戦の神“邪神ディスタバンス”。歪みの神様“邪神アーチャル”。滅びの神様“邪神グァバン”。”


“邪神となった神様の世界は滅びの道を歩むように崩壊していきました。争いが絶えない世界、空間が歪んでしまった世界、守護者が居なくなった世界…”


“そんな中、希望を捨てなかった“主神”と残り2人の神様、自然の神“ナチュラル”、魔法の神“レクシア”。合わせて3人の神様は手を取り合いました。”


“手を取りあった3人は各世界から英雄を集めました。邪神となった各世界の神々の力に抵抗し、打ち勝った者を。神々の力を恐れずその世界を生きる強き者を。集まった戦士たちは“負”が集まる世界に捕らわれた邪神ヴァジャスの暴走を止めるために動き出しました。”





“彼らは邪神ヴァジャス以外の邪神たちにも協力を仰ぎました。英雄たちに力を示され、敗れたディスタバンスは手を貸すことを約束し、アーチャルは英雄たちの強い意志の力に敗れ手を貸すことを約束しました。”



“邪神グァバンは自身の命を捨て、新たな神を抜擢。新しい神、歴史の神“シヤン”を生み出しその命を散らせました。終結した6人の神と英雄たちは邪神ヴァジャスの元へと飛び込みました。”



“邪神ヴァジャスを救いたい。世界の負はすべての神が引き受けるべきだ。戦いの果てに導き出した神々たち。その手を掴んだ邪神ヴァジャスは黒き邪神の黒き体から解放され白銀の神となり、7人は改めて世界の統合を願い世界は生まれ変わりました。”


“すべての世界がひとつになり、すべての生物の血は混ざりあい、1つの7つ分の世界を統合した大きな、大きな世界が誕生しました。これが新世界“シンセライズ”の誕生なのです。”




-----------------------------------------------------


「あ、あの世界誕生の歴史にあった…邪神ディスタバンス…!?」

レジェリーが驚きながら言う。


「今はもう邪神じゃねぇけどな。」

アトメントはとりあえずそこだけは否定したいらしく即答で否定した。


「ちょ、ちょっと待てよ!あの歴史では神様は7人のはずだ!八神だと数が合わねぇぞ!」

ヴァゴウが言う。


「あー。そっか歴史上では“アイツ”はカウントされてないんだった。まぁそれは行けば分かるよ。」

「行けば…?」

ビライトが言う。


「だってこれからお前たちが目指す場所は“神の領域”だからな。」

「…え?」


アトメントは続けて語る。

「レミヘゾルの遥か北の地。世界の最北の果てに存在するシンセライズ始まりの地。それが神の領域だ。俺たち八神はそこでシンセライズを守ってるんだよ。」


「…イヤ、何だ…いきなり神とか言われてもだな…」

クライドも困惑している。

クライドもここまでは知らされていないようで、今、ここに居る者たちは全員困惑している。


「まぁそりゃそういう反応になるわな。けどお前らが目指すイビルライズはそこにあるんだよ。」

「えっ、神の領域にイビルライズがあるって…どういうことだよ…」

ビライトは尋ねる。


「まぁ要はシンセライズとイビルライズの境界がそこにあるってこと。俺たち八神はイビルライズがシンセライズに侵食してこないように守ってるってわけ。」

「…じゃぁ…その神の領域の向こう側に…キッカが囚われているんだな?」

ビライトが聞く。

「その通り。お前らの旅のゴールだよ。」


ビライトたちは全員の顔を見る。

目的地は分かった。だが、神の領域など、誰も知らない場所だ。


「レジェリーちゃん、レミヘゾル出身なんだろ、神の領域なんてもんホントにあるのかよ。」

ヴァゴウがレジェリーに聞く。


「あ、あたしも知らないわよ。それにあたし、アーデン以外のレミヘゾルの地名知らないし…」

レジェリーにも神の領域のことは分からないようだ。


「と、いうわけでお前らにはまずアーデンに向かってもらう。そこに居る抑止力の1人、魔王・デーガに会え。」

「魔王・デーガ…レジェリーの師匠なんだろ?」

ビライトはレジェリーに聞く。


「うん、でも師匠が抑止力だったのは知らなかった…でも良い機会だわ。あたしたちはどのみちアーデンに行ってボルドー様を助けなきゃいけないんだから。」

一行は頷いた。


「ビライト、エテルネルは言ったんだろ?抑止力に認めてもらえば力を貸してくれるってよ。」

「あ、あぁ。」

「それが正解。それがイビルライズに対抗する唯一の手段だ。お前たちの存在、実力、そして心の強さ。それを抑止力共に認めさせろ。そして抑止力全員を味方につけ、共に戦うこと。それが世界を救う唯一の道だ。」

アトメントは言う。


「…あんたも抑止力なんだろ?」

ビライトは聞く。


「あ、俺は良いの。言ったろ?俺の名のもとに認めるって。俺は十分お前らの強さを認めてるからな。」

「あ、あぁ…喜んでいんだよな…それ。」


「勿論。神様のお墨付き貰ったんだから盛大に誇れ!ハッハハハハ!!!」

アトメントは高笑いする。


「てなわけで。ここからの旅には俺も同行する。」


「!」

「えっ!」


アトメントは旅の同行を宣言した。

「…良いのか?お前は神様なんだろう?」


「あ、同行するだけだぞ。俺はあくまで見守るだけ。本当にヤバい時だけ干渉するけどそれ以外はお前らだけでやってもらう。」

アトメントは言う。


「…何かあるの?」

レジェリーは聞く。

「そ、せっかくだ。抑止力について説明してやる。」

-----------------------------------------------------



「抑止力ってのはこの世界に住む古代人すべてに適用される絶対不変の法則だ。」



この世界に存在する世界のバランスが乱れた際に動く存在。

主に古代人がこの対象者となる。


基本的にはとてつもなく強く、世界のバランスを大きく乱してしまうほどの能力を持っている者がこの抑止力と呼ばれており、基本的に世界の出来事には不干渉でなければならない存在。


この抑止力に当たる存在は、他の抑止力から世界干渉の同意を得られない限りはシンセライズに干渉してはならない。


ただ、基本的には世界のことは抑止力以外の者が行わなければならないので、あくまで抑止力が動くのは最終手段である。






「…と、こういったところだ。」



「なるほど…つまり、あんたはそれに適用されるから余程のことが無い限り干渉できないと。」


「そ、だから俺はこれまでのお前たちの旅や戦いに干渉しなかった。悪く思うなよ。」


-----------------------------------------------------


アトメントは「あ、そうそう」と更に呟く。


「ちなみにだ。ガジュールの野郎は魔王・デーガが殺したから安心して良いぞ。」

「!?」

「へっ!?」

しれっととんでもないことを言うアトメントに驚くビライトたち。


「こ、殺した?師匠が!?」

レジェリーが慌ててアトメントに聞く。


「あの野郎は私用で負をまき散らしたクソ野郎だ。お前らがトドメを刺せなかったから神々の同意による特例でデーガの抑止力の制限をこの時だけ解除させた。」

「…そっか…アイツは…ガジュールは結局…最後まで改心など望めなかったんだな…」


ヴァゴウは呟く。ボルドーは最後まで改心を希望していたからだ。


「アイツはどうあっても改心はあり得ねぇ。1000万年以上世界征服を企み続けた大馬鹿野郎だからな。」


ガジュールは転生者だった。故に、世界統合前に生きていたゲージュと呼ばれる世界支配欲の強い魔族の生まれ変わりだ。


深い深い世界支配欲が塗り替わることなどありえなかったのだ。


「というか…師匠どんだけヤバいのよ…あのガジュールを殺したなんて…」

「抑止力なめんなよ?あの程度の奴なら秒殺出来るぞ。」


「「「…」」」


一同、(怖っ)という感想しか出てこなかった。


そんな相手とこれから会いに行くのかと思うとゾッとしたが、そんなことは言ってはいられない。

ビライトたちには必ず行かねばならない道なのだから。



アトメントは「ついでにだ。」と言い。

「この抑止力の対象にならない古代人も居てな。それを俺たちは“不適用者”と呼んでる。」

-----------------------------------------------------


不適用者。



それは抑止力の対象となる古代人の中でも、世界に大きな影響力を及ぼさない程度の力しか所有していない場合はこちらのカテゴリーに属する。


世界への干渉が許可されている存在であるため、基本的な大きな縛りは存在しない。

主に抑止力たちの中継者となったりすることが多い。



「…といったところだ。お前たちが出会ったやつらで言う、フリードやアルーラがそれにあたる。」

「アルーラってやっぱ古代人だったんだ…」


レジェリーはここで初めてアルーラが古代人であることを知る。薄々勘づいてはいたが、それが明確な真実だと分かった。



-----------------------------------------------------

「つまり…抑止力の強さを味方につければいいんだな。」


「そういうことだ、けど一筋縄ではいかねぇぞ。俺みたいに物わかりの良い奴ばかりじゃねぇからな。」

アトメントは腕を組んで言う。


「ホントカタブツみてーなやつとかよ、めちゃくちゃ捻くれてるやつとかよ、千差万別。めんどくせぇ奴らばっかなのよ。」


「そ、そうなんだ…」

アトメントは片手で頭をポリポリ搔きながらめんどくさそうに言う。


「そして、抑止力の力…そしてお前たちの強い意志や思い。俺たち抑止力がとっくに失ってしまった“心の力”が合わさればきっとイビルライズの侵攻を食い止めることが出来るって俺は信じてる。」


「心の力…」




「俺たち抑止力は長く生き過ぎた、お前たち普通の生物が持っている心や意志なんてもんはほとんど無い。そしてだ。これまでも起こってきた戦いには必ずこの心の力や意志の強さが悪しきものを打ち砕いてきた。その意志を持ち、戦えるのは…お前たちだけだ。」

アトメントは続けて言う。


「そうとは思えんぐらいお喋りだぞお前。」

クライドは小さく呟く。





「聞こえてんぞー…まぁ良いわ。んでよ。ビライト、ヴァゴウ、レジェリー、クライド。最後に聞かせてくれ。“この世界は楽しいか?”」


アトメントは問う。

これまでも、フリードにも、ボルドーにも言われていた言葉だ。

それぞれがその答えを言う。


「…うん、辛い事も多い。悲しいことも経験した。でも、みんなが楽しいと思わせてくれたよ。」

ビライトは皆を見て、笑顔で言う。


「そうね、この世界は辛いことが多いわ。でもその中で幸せを見つけてみんな生きている。それが楽しいと同義なんだって思うわ。」

レジェリーも全員を見て頷く。


「だな。それを乗り越えていくこと。それも含めて人生で、思い出でよ。それを笑って話せるようになったら、それはこの世界が楽しかったってことに繋がるとワシは思うぜ。」

ヴァゴウもそう言い、笑って見せた。


「…そうだな。コイツらと旅をして、俺にもそのような気持ちが芽生えてきたのかもしれん。精いっぱい生きること。それも生きる上での楽しさだ。」

クライドも、旅で触発された自分の素直な気持ちを言い、小さく微笑んだ。



アトメントはそれを聞いてホッして、笑った。


「結構。それぞれで良いんだ。俺たちの主神はな。そんな誰もが“楽しむ世界(Delighting World)”を願ってこの世界を作ったんだ。きっと喜んでるさ。きっとな。」


アトメント少し寂しそうに笑う。

もうずっと会っていないのだろう。主神のエテルネルは今、核としてシンセライズをイビルライズから守っているのだ。そして力の大半はキッカの中にある。つまり、実体も無い。

きっと会話も出来ない状態なのだろう。


―――


「俺たちさ…助けられなかった子供が居たんだ。あの時は本当に辛かったし、この世界の現実を見たようで…本当に…でも……そんな世界でも…みんな生きてる。皆が楽しく生きられるように努力していると思っている。そして…俺たちが目指すイビルライズをなんとか出来れば…きっともっと世界は輝ける。イビルライズに負けない世界になれる。その先には…みんなが楽しいと本気で思える世界があると思う。」


ビライトはヒューシュタットに初めて来たときのことを思い出して、語る。

ガジュールに殺された子供、スラム街で苦しんでいた人たち、差別で追いやられていた人々…

だが、ヒューシュタットはこれから変わる。きっとスラムなんて無い昔の姿に戻るはず。


そこで生まれた負の力もイビルライズの力になるのならば、それを覆す正の力をぶつけてやればいい。

そして、助けられなかった人たちが安心できるように、今生きている人々は楽しく、一生懸命生きなければならないのだ。


アトメントはそれを聞いて…

「イビルライズに憑依したのがお前でよかったわ。性根の腐った奴に憑依されてたらこうはいかなかっただろうしな。」

そう言い、ビライトの背中をポンと叩き、微笑んだ。


「さて、話が長くなったな。お前らが万全な状態になるまで俺はこの街で滞在してぶらぶらしてるからよ。まぁゆっくり休めよ。じゃな~」


アトメントはそう言い、窓からひょいっと飛び降りてそのままどこかへ消えてしまった。



「…なんというか。」

「あぁ…ヒューシュタットの戦いが終わってからというものの…突拍子もない話ばかりだな…」

「ははは…」




-----------------------------------------------------





アトメントとの会話を終えてから3日後、レジェリーとビライトはついに病院から出ることが出来るようになった。退院だ。


「よく頑張りましたね。2人共。」

クルトは微笑んで2人の退院を祝福した。


「ありがとう、クルトさん。」

「ありがとうございました!」

ビライトとレジェリーはクルトにお礼を言う。


「いえ、当然のことをしたまでですよ…さて、みなさんおそろいのようですね。」


今この場にはアトメント以外の4人が揃っている。


「ホウ殿は一足先に城に行ってますので、我々も参りましょう。」

ホウも前日に退院して、城に滞在していたようで、許可証の作成に取り掛かっていた。そして今日、許可証が完成した。




ビライトたちは許可証を貰い、ドラゴニアの皆に旅立ちの挨拶をするために謁見の間を訪れた。


そこにはベルガ、メルシィ、そしてホウが居た。


「ビライト殿。」

「ベルガ王…」

「フム、良い目をしている。そなたが絶望していると聞いていて心配しておったが…その心配は無用であったようだな。」


「皆のお陰です。」

「そうか。」

ベルガは小さく微笑んだ。


「ビライト殿、皆様。」

ホウがビライトたちの前に立つ。

「ヒューシュタット王、ホウ・ワルト。今ここに君たちに感謝を伝えさせていただきたい。私の国を救ってくれてありがとう。」

ホウは頭を下げてビライトたちに感謝を伝えた。



「いえ、俺たちも必死だっただけで…それに、本当にヒューシュタットを救ったのは…」

ビライトはメルシィを見た。

メルシィは頷く。


「そうでしたな…だが、君たちも、そしてボルドー殿も…皆が私の恩人だ。私はこれからヒューシュタットに戻り、ガジュールが残した爪痕を修繕することにするよ。」

「頑張ってください。俺たちも頑張りますから。」

ビライトが言う。


「あぁ、君たちの旅が無事に終わることを願っているよ。受け取ってくれ。」

ビライトたちはヒューシュタットの許可証を貰った。

これでようやく3つの許可証が手に入り、ビライトたちはレミヘゾルに入る権利を得た。


「やっと…これで行けるんだな。」

「あぁ、ホント、長かったな!」

最初から旅をしていたビライトとヴァゴウは特に感極まってつい笑みが出てしまう。



「さて、ビライト殿、ヴァゴウ殿、レジェリー殿、クライド殿。」

ベルガが4人の名を呼ぶ。


「そなたたちがこれから目指す場所はきっと我々の想像を超える果てしない場所なのだろう。決して楽な旅ではないはずだ。だが……ドラゴニアの王としても…1人の親として…そして…」

メルシィが前に出る。

「1人の妻として…お願いします。」


「「私たちの王を…頼む(みます)」」

頭を下げる二人に続いてクルトも頭を下げる。


2人はボルドーの全てをビライトたちに託した。

「…必ず、ボルドーさんを再びこの国に立たせます。そして…キッカも連れて…」

ビライトたちは皆で顔を合わせ頷いた。




「「「必ず皆で帰ります」」」

3人は声をそろえる。

クライドのそれに応えるように静かに頷いた。


ベルガとメルシィ、クルトは更に、頭を下げる。

-----------------------------------------------------




「…行ってしまったな。」




「はい。」

「彼らならきっと…成し遂げられる。私は信じている。」



「はい、私も…私も信じます。」


「ベルガ様、メルシィ様。祈りましょう…彼らの無事を。そして…我々に出来る最大の見送りを。」


クルト、ベルガ、メルシィは祈った。


クルトはテレパス魔法で兵士たちに伝えた。

ドラゴニアを守ってくれた現代の英雄たちの旅を、盛大に見送ろうと。



彼らの旅が上手くいくことを願って。

そして、ボルドーとキッカを助けることが出来ると願って。





-----------------------------------------------------



ドラゴニアの城でベルガ、メルシィ、クルトと別れを告げ、ドラゴニアの入り口へやってきたビライトたち。ホウも一緒だ。


「ゲキ!」

「よっ、ヴァゴウ。みんなも元気そうだな。」

「やぁ。」

「ファルトさんも!」


入り口にはゲキとファルトが待っていた。



「行くんだな。ついに。」

ゲキが言う。

「あぁ。」

ヴァゴウは頷く。


「ヴァゴウ、ボルドーのこと、任せたからな。」

「おう、必ず連れて帰る。」

「それだけじゃねぇぞ。絶対に…みんなで帰って来いよな!これは選別だ!」

ゲキは全員に装備品を渡した。


「これは…」


「生きてた工房を借りて武器と防具、装飾品を作ったんだ。」


ビライトは新しい上防具。

レジェリーは魔力の籠った腰につけるドラゴニアの国旗のついた布ベルト。

ヴァゴウも腰につける魔力の籠った毛皮の紐ベルト。

クライドは新しい短剣だ。


「ありがとうゲキさん!」

「これ…ドラゴニアの国旗だ…!凄いわ!魔力を感じる!」

「フム、なかなかの上物だ。大切に使わせてもらう。」


皆が喜ぶ中、ヴァゴウは驚いていた。


「この毛皮…!」


「あぁ、ボルドーの服の襟と同じ素材だ。探すの苦労したんだぜ。」

「…嬉しいぜゲキ。ホント、ありがとな。」

ヴァゴウはちょっと泣きそうになるが、笑顔でゲキにお礼を言った。


「頑張れよ!応援してるからよ!」


ゲキのプレゼントをもらい、続いてファルトが言う。


「私からはこれを。」

ファルトはビライトに書類を手渡した。

「これって…ファルトさんの字?」

「あぁ、君たちが向かう未踏の地の手前にはドラゴンの集落があるのは知っているね?未踏の地に入る前にまずドラゴンの集落で許可証を拝見されたうえで、色々と問われることもあろう。その時、これが役立つはずだ。」

「そっか…ファルトさん…」

ファルトはあの集落出身だ。

だが、あそこから飛び出したファルトは二度と戻ることは出来ない。

だが、ファルトの知り合いが大勢いるあの集落できっとこれは役に立つだろう。


「私があと出来るのはヒューシュタットまで君たちを送っていくことだけだ。」


ファルトは翼を羽ばたかせる。


「ファルトさん、最後まで足になってくれてありがとう。」

レジェリーがお礼を言う。

「いいんだよ。こんな私でも、君たちの役に立てて嬉しい。ホウ殿もどうぞお乗りください。」

「ありがとう、ファルト殿。」


ビライトたちはファルトに乗るが…


「そういえばアトメントは?」

「あぁ、そうよ、合流するんじゃなかったのかしら。」

アトメントが居ないようだが…


「居るぜ。」


「うわっ!びっくりした!」

アトメントはいつの間にか背中に乗っていた。


「へへ、びびってやんの。」

「ま、まったく…」


「ハハハ、新しいお客さんを仲間にしたんだね。では皆で行くとしようか。」

ファルトは翼を羽ばたかせ空を飛ぶ。




「ヴァゴウ!みんな!!頑張れよーーーっ!!!!」

ゲキは手を振り小さくなっていくファルトに叫んだ。



皆は手を振り、ドラゴニアを飛ぶ。



「必ず…帰って来よう。」

「もちろんだ。」

「ええ。必ず。」

「目指すは未踏の地。ここからが本当の旅だ。」


――


その時だ。城の方から閃光が輝いた。

「!」

「なんだ…!?」


「わぁ…!」


城から、城下町から、魔法学園から、病院から。

ドラゴニアのあちこちからなんと虹が現れ始めた。

淡く、薄い緑色の光が辺りを照らし、そしてドラゴニアの国旗が屋上から大きな音を立てて垂れ幕のように現れる。


ドラゴニアの街を流れる小川が青く輝き、その光は宙に舞い一つになる。それは竜の紋章となり輝きを放つ。


ビライトたちからも見える場所。屋上の一角にはクルト、ベルガ、メルシィ。


そして多くの兵士たち。

病院にも、魔法学園にも多くの兵士たちと国民たちが魔法を使い、鮮やかで美しい虹を描き出した。

どういう原理でこのようなことをしているのかは全く分からないが、その光景は全ての負を洗い流してくれるような温かい光のようだった。


「ドラゴニアを守ってくださった勇敢なる旅人たちの新たなる旅路に…敬礼!!!」


クルトの呼び声に兵士たちは一斉に敬礼、一般市民の人々もファルトに乗っているビライトたちに手を振っていた。



「…ははっ、なんだかなぁ…凄いや…」

「嬉しいな。」

「…あぁ。」

ビライトの目には涙が流れる。ヴァゴウはビライトの肩を叩き、微笑んだ。


兵士やクルトたちはボルドーのことを知っている。一般市民たちはそのことを知らされてはいないが、ビライトたちがグリーディからドラゴニアを守るために全力で立ち向かってくれたことは皆知っている。

ビライトたちはもうこのドラゴニアでは、立派な英雄なのだ。


そんな旅立ちをドラゴニアの人々は、全員で見送ってくれた。


「あたし、こんなに感動したの…初めて…」

レジェリーは涙を流し喜んだ。


「…フッ、大げさすぎる気もするが…ドラゴニアらしい。期待に応えてやらんとな。」

クライドは小さく微笑む。


「ありがとう。ドラゴニア…必ず…帰るから。」

「その時は、ボルドー様も一緒だよね。」

「あぁ、もちろんだ。」

ビライトとレジェリーは涙を流しながら手を振る。



「…君たちのこれからの旅路の始まりに関われて、私は嬉しいよ。では、ヒューシュタットに向けて、出発しよう。」


ファルトの声でビライトたちは一気にドラゴニアからヒューシュタットに向かって飛び出した。






「発進。」


-----------------------------------------------------



多くの出会いがあった。

多くの悲しみがあった。


多くの笑顔があった。


多くの光と闇があった。



そして、これから行く場所は、世界の運命を決する神の領域…




ビライトたちの旅は、これからが本当の冒険なのだ。





これからも、楽しい世界を生きる為、生き抜く為。

大切な人たちを取り戻す為。




ビライトたちの旅はついに、未踏の地、“レミヘゾル”へと舞台を移す。







――――さぁ、冒険を続けよう








第10章

真実編~踏み出す、一歩~ 完



Delighting World


第一部 完

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次回のDelighting World



レミヘゾルを目指してドラゴンの集落を訪れたビライトたち。

全ての許可証を見せ、ドラゴンたちから歓迎を受けるが、それは同時にビライトたちの強き心を試す試練でもあった。


望むのは対話。

望むのは心の力。


世界を旅してきたビライトたちに課せられた冒険の集大成を今こそ証明し、ビライトたちは未踏の地、レミヘゾルへの扉を開く。







Delighting World

第二部



Delighting World Break

第1章

ドラゴンの集落編 ~レミヘゾルを目指して~


新しい冒険の扉が開かれる…




ここまで閲覧頂きまして、ありがとうございました。

これにて第一部は完結です。

次回から章がリセットされ第二部が始まります。(2022年12月開始予定)

月1~2程度の更新になりますので気長にお待ちくださいませ。

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