Delighting World ⅩⅩⅩⅩⅥ
Delighting World ⅩⅩⅩⅩⅥ
「シンセ…ライズだって?」
「そう、僕はシンセライズ。そう名乗ることにするよ。」
「…ハハ、おかしな話だ。だってそうだろ…ここは俺の心の中なんだろ…なんで世界の名前をした奴がここに居るんだよ。」
ビライトは深い、深い眠りについていた。
ドラゴニアでもいつ目覚めるか見当がつかないと言われているビライト。
そんな彼が深い深い意識の底で出会ったのは、自身のことをシンセライズと名乗る声。
少年のような声をしているその不思議な声は姿を現し、ビライトの心の奥深くで対話する…
昔昔のおとぎ話で出てきたエルフや妖精のような姿をした少年で、背には羽が生えている。
他のどの種族にも当てはまらない顔をしていた。
「ここは君の夢、深い深い夢の底。そして君の意識は生と死の狭間の世界…のちょっとだけ生の方に近い場所に居る。」
「…夢なのかそうじゃないのか…曖昧な言い方だな…」
「そうかもね。でもそんな曖昧な感じで良いんだよ。だってこれは夢なんだから。」
「夢…か……今までのことも…全部夢だったらいいのに。」
ビライトは自分に起こったことをよぎらせる。
ヒューシュタットの戦いで…ボルドーを失った。
そして自分はわけもわからず大暴れして…その後のことはどうなったのか分からない。
そして…
「俺の記憶…」
「そうだった。君は思いだしたんだよね」
「…あぁ。」
ビライトとキッカに起こったあの事故でのこと。
そして2人の運命が決まったあの時。
「君にその時の光景を見せることが僕には出来る。君が思い出したのは君の主観での記憶。もっとその奥深くの出来事を知ることが出来るけど…君は真実を知りたいかい?」
「…あぁ…見るよ。」
「では、お見せしよう。」
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事故の日、シューゲン夫妻はビライトとキッカを連れてヒューシュタットに行商に出た。
「そうだ、俺は…あの日…」
ビライトたちの記憶と食い違っていた部分だ。
ビライトとキッカは、あの事故の日両親には付いていかず留守番をしていたはずだ。
ビライトはそう記憶していたし、ヴァゴウも、コルバレーの人々もそうだった。
だが、あの黒い影の出現でビライトの記憶は元の記憶へと置き換わった。
ビライトとキッカは両親と共にヒューシュタットに向かったのだ。
そして帰り、ドラゴン便に乗っていたビライトたちは事故にあった。
ヒューシュタット山脈の山中でビライトたちを乗せていたドラゴンが何らかの理由で墜落し、積荷が燃えて山火事が起こるほどの大火災を引き起こした。
そして、ビライトたち乗客は上空から勢いよく全身を強く打ち、ほとんどの人々が即死だった。
あの炎の光景が…夢で少し片鱗をみたあの炎の海の記憶が今、目の前にある。
だが、これは…
「俺の視点じゃない。」
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「ゴホッ…グフッ……ビ、ラ…イト…キッ…カ……」
ビライトたちの父親の視点だろうか。
墜落した直後、生存していたのはビライトたちの父親、そしてビライト、キッカの3人だけだった。
母親は即死しており、父親も腹に乗り物の木の柱が刺さっており、生きているのが不思議なほど致命傷を受けていた。
「…この子…だけ…でも……ハッ…ハッ…」
父親は最後の力を振り絞り、ビライトを炎の当たらない場所まで投げ飛ばす。
「……お前だけでも…生き…」
視界がブラックアウトした。
死んだのだ。
「あ、あぁっ。うああ…」
(俺の声だ。俺の視点か。)
「あああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!」
走る。炎の中へ走るビライト。
死んでいる父親、母親を見るが…母親の腕の中には赤ん坊のキッカが居た。
息が無い。
「あ、あぁ。ああああ…」
ビライトはキッカを引っ張り上げ、炎から逃げようとする…だが、その時だ。
大きな音を立てて炎を纏った積荷が落ち、退路を塞がれてしまった。
「ゴホッ、ゴホッ…」
煙が身体に入っていき、息が出来ない。
「だ、だれ、か……た…す……」
再び視界がブラックアウトした。
ここで俺は死んだらしい。
しばらくだ。
声がする。
(待って!!イビルライズ!!)
これは…シンセライズの声。
イビルライズの名を呼んでいる。
そして…
(…チッ、、面倒だネ…おや?死にかけの人間か…?)
二つの声がビライトたちの周りから聞こえてきた。
(ちょうどいい。お前の身体を借りル。)
「あ、あああああっ!!!?」
ビライトの身体の中にイビルライズと呼ばれる小さい黒い影が入っていく。
(…この人間の身体を器にするつもりか…!そして力を蓄えるつもりなのか…!)
シンセライズは周囲を見る。
すると、ビライトに抱かれたキッカに気づいたシンセライズ
(彼女はまだ幼い…でもまだ…魂が離れていない。だったら…!)
シンセライズはキッカの身体に入っていく。
(今こソ…蘇ル!)
(今こそ…蘇って!)
2つの世界の意志とも呼べる者はまだ幼い兄妹に憑依した。
彼らは世界の器として選ばれたのだ。
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「…俺、こうやって生き延びたんだ…俺は一度あの事故で死んだはずっていう記憶が戻ったっていうだけで…そこにイビルライズとかシンセライズが絡んでいたなんて知らなかった。」
「君はイビルライズに。キッカはこの僕、シンセライズが入ることで君たちを蘇らせたんだ。」
「…俺は…今までイビルライズに生かされてきたのか…」
「ううん、君の魂は完全にビライト・シューゲンのもの。むしろイビルライズが抜けた今、君は正真正銘のビライト・シューゲンだ。」
「…」
ビライトはイビルライズに憑依されたことで生き返り、それから今までずっとイビルライズを自身が育てていたのだ。
キッカも同じだ。キッカはシンセライズに憑依され生き返り、今までも、そして今もシンセライズがキッカの中に居る。
「…待てよ、キッカの中にはまだシンセライズが居るんだろう?じゃぁあんたは…」
ビライトはシンセライズに尋ねる。
「あぁ、それは僕が自身の力を“2つ”に分散しているからだよ。」
「2つだって…?」
「そう、まず1つはキッカの中。1つは核としてシンセライズとイビルライズの境界で、イビルライズが侵食してこないようにするための抑止力となっている。それが今の僕だよ。そして今ここに居る僕の方がシンセライズの核。キッカの中にあるのは僕の核を除いた力の全て。」
「…それが今、イビルライズの手中にある。」
「そう。もうあまり時間は残されていない。イビルライズは準備を整えたら境界を超える為、僕の核を潰しに来るだろう。」
「そんなことになったら…シンセライズはどうなるんだ?」
「僕が消えるのは大した問題ではないんだ。でも完全となったイビルライズがシンセライズに侵入した瞬間、シンセライズは闇に覆われるだろう。僕らのシンセライズは“抑止力”と呼ばれる存在たちが居る。彼らがイビルライズと戦うことになるだろうが…完全体になったイビルライズは世界を闇に包み込めるほどとてつもない力を秘めている。抑止力たちでも勝てるかどうか分からないだろう。」
「…そんなとんでもないことに…俺たちがなんとか出来るものなのか?」
「なる。」
シンセライズは即答した。
「どうして…だよ。俺は…誰も守れなかった。俺は弱い。弱いんだ…そんな神様同士の戦いみたいなのに割って入れるわけないじゃないか…」
「君たちシンセライズに生きる人々にあって僕らに無いものがある。それが抑止力を超える力になるかもしれないんだよ。」
「…そんなの…」
「それはね――――生きようとする力。心の力だよ。」
「…僕らの命は有限じゃない。外傷で無理矢理殺されても完全には死なないだろう。僕らは死ぬことが出来ない。つまり、生きようとする力、そういった意志、情熱。想い…そんな目には見えない熱き気持ちが君たちにはある。僕らにはとっくに失われたもの。」
「そんなもので…そんなものじゃ誰も守れないッ!」
ビライトは叫ぶ。
「君たちには底知れない無限の可能性があることを僕は知っている。シンセライズが出来る前の世界でも君たちはそうやって負の力を打ち倒し、この世界を作ったんだ。」
「…そんなの…」
「さて、話が脱線したね。続きを見ようか。」
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炎の中から生還したビライトとキッカ。
この時、キッカは気絶しており、ビライトはイビルライズに操られるようにキッカを抱いてコルバレーに向かっていた。
まだビライトを完全にコントロール出来ていないイビルライズはキッカを手放すという意志をビライトに指示することが出来なかった。
そしてコルバレーに着いたビライトとキッカ。
「…あの事故で生きているはずがなイ。怪しまれると面倒ダ。」
ビライトは独り言を言いながら歩く。
「ビ、ビライト!?」
「キッカ!!」
奥で事故を嘆いていた町の人と、ヴァゴウが居た。
(オッサン…ははっ、若いなぁ…)
「お、お前ら…どうして…どうして…“生きてるんだ”…」
「そ、そうだ。あの事故での生存者は確認できなかったってさっき…」
ヴァゴウたちはちょうど、事故の現場を見て、調査を終えて、戻ってきたところだった。
生存者の確認は出来ず、死んだ人々ももう何処で死んでいるのかも分からないぐらいになっていて、遺体すら骨ごと綺麗に燃えてしまっていた。それほどまでに大きい大火災だったのだ。
「おいっ、ビライト!キッカ!」
ヴァゴウは慌てて2人に駈け寄り声をかける。
「無事なのか?無事なんだな!?なんで生きているのか分からねぇが…!」
ビライトもとい、イビルライズは呟いた。
「…都合が悪イ」
「は?」
「…そうだ、ボクたちは最初から事故に遭っていないことにしよウ。そうダそうダ。」
「お、おま、何を……お前…ビライトじゃねぇな!?何者だッ!」
ヴァゴウはビライトの顔を上げさせる。
するとビライトの目は真っ黒に染まっており、大きく口を開き笑った。
「!!!?」
そのあまりにも狂ったような顔に驚き手を離すヴァゴウ。
「ビ、ビライト…?」
「フフッ、クキキキキキキキ…クキャハハハハハハハハ!!!アーーーーッハハハハハハ!!!」
ビライトの周囲から黒い靄が出現。
それは一瞬にしてコルバレー全体に広がった。
「ウ…なんだ…これはッ…!」
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次の瞬間にはもう記憶は改ざんされていたのだ。
「…おぉ、ビライト、キッカ…ここに居たか!」
ヴァゴウは先ほどまでの真剣な表情が嘘のようで、笑顔を見せた。
ビライトとキッカはコルバレーに居た。
事故には巻き込まれていない。
その記憶がコルバレーに居る人々全員に刷り込まれ、ビライトとキッカが死亡した事実を虚無へと消し去ったのだ。
「…ねぇ、何があったの?お父さんは?お母さんは?」
そして、ビライトの人格は元のビライトに戻っていた。
そしてビライトとキッカの記憶も改ざんされ、2人は最初からコルバレーに居ることになっていた。
つまり、真実を知っているのはイビルライズとシンセライズのみとなってしまった。
「…ちょっとトラブルでな。なぁに、すぐに…戻ってくるさ…」
このあと、気休めはすぐにビライトに気づかれ、ビライトは両親の死を知る。
「この後は、君の記憶の方が詳しそうだね。」
シンセライズが言う。
「あぁ…そうだな…両親を亡くして、心を閉ざしていた俺に…1年後ぐらいだったかな…声をかけてくれた奴が居たんだ。それが…“クロ”だ。」
クロ。
それはビライトが幼い頃に一緒に居たと言われている所謂イマジナリーフレンド。
いや、実際は本当に存在していたのだが、これが見えているのはビライトだけ。
他の人々には見えていなかったのだ。
そして、このクロこそがイビルライズだった。
「…お父さん…お母さん…ううっ」
毎日のように涙を流して落ち込んでいた幼いビライト。
「どうしたノ?」
「…君は?」
ビライトの隣には黒い影のような存在。
「ボクは…クロ…ってことにしとこうかナ。」
「クロ…僕は…ビライト。」
「そウ、ビライト。君は何故泣いているんだイ?」
「お父さんとお母さんが死んじゃったんだ…妹はまだ小さいし…今はヴァゴウさんっていう人の所でお世話になってるけど…でも…僕たち…これからどうなっちゃうんだろうって…不安で、怖くて…寂しくて……」
ビライトは思っていることを羅列するように語りだす。
「そうカ、寂しいのカ。よし、じゃぁボクが君の友達になってあげル。」
「友達…?」
「そウ、友達。君の悲しい気持ち、辛い気持ち、ボクにも教えてヨ。」
「…クロ…」
心のよりどころが欲しかった。
この時のヴァゴウは仕事をまだ一生懸命やっていた頃で、店を切り盛りするのが忙しかった。
なんとか時間を作ってビライトたちの世話をしていたが、それでもビライトの孤独は埋められなかった。
それにヴァゴウは2人3人居るわけではない。まだ0歳のキッカのお世話に多く時間を割いてしまう。
ビライトは心では分かっていても、キッカがうらやましかったと同時に恨めしいとも感じていた。
だからこの時ビライトはキッカのことはあまり良く思っていなかった。
ビライトは誰かに聞いて欲しかったのだ。
だからビライトは全て話した。
「そうカ。辛かったネ。」
「うん…」
「これからは毎日ボクを頼るといいヨ。ボクだけは君の味方だからネ。」
「ありがとう、クロ…」
「いいんだヨ。フフ。」
――――今思えば、クロの狙いは…
「そうだね、クロ…イビルライズは君を孤独にしようとしていたんだ。」
シンセライズが言う。
「孤独は人を良くない方向へと導かせる。孤独であればそれだけ寂しいという気持ちを助長させ、それは負のエネルギーとなる。イビルライズは負のエネルギーで成長する存在だ。」
「…でも、俺は…」
「そう、君は孤独にはならなかった。」
あれからビライトはクロと一緒に毎日遊んでいた。
ヴァゴウにもクロを紹介したり、クロといろんな場所に探検に行ったり…
(そうだ、あの時は楽しかった)
「でもそれから数年。ある日突然クロは消えたんだ。」
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ビライト、9歳。
「クロ、何処?」
ある日、目を覚ますとクロは居なかった。
いつも傍に居たクロ。
だが、クロは突然姿を見せなくなった。
外にいるのかと、一日かけて探検した場所、遊んだ場所を回った。
でも、クロはどこにもいなかった。
それがクロの狙いだったのだ。
「クロは君の唯一の心のよりどころ。それを失った君は完全に孤独となる。それがクロの狙いだったんだよ。」
孤独になったビライトは心を閉ざし、より負の力を強める。そしてビライトの内部に潜むクロはイビルライズの力をより強く高め、覚醒に近づく。
――――
「ありがとう、また来るよ。」
「あいよ、毎度ありッ!」
最後の客を送り出したヴァゴウ。
「うし、今日は店じまいっと…っと、ビライト。帰ったか!」
ビライトは下を向いたまま黙っている。
「どうした?ビライト。腹減ったか?…って…泣いてるのか?」
「…なんでも…ない。」
ビライトはそう呟き、そのまま部屋に閉じこもってしまった。
「…うし。」
――――
「……ビライト。何があったんだ?良かったら話してくれよ。」
ヴァゴウがビライトに話しかける。
「…関係ないよ。」
「関係なくないだろ。良いから話してみろって。」
ヴァゴウは笑顔でビライトの前に座り、頭を撫でる。
「…うぐっ、ううう~…」
ビライトは涙をボロボロとこぼして泣く。
「おうおう、泣きたいときは泣きな。泣き止むまで待つぜ。」
ビライトはしばらくしてから泣き止んで、ヴァゴウに話し始めた。
「そうか、クロがいなくなっちまったのか。」
「うん…」
ヴァゴウにはクロは見えない。
だが、ビライトが嬉しそうにクロを紹介し、笑顔を見せていたのでヴァゴウはそれを肯定し続けていた。
しかし、ビライトはクロを失い、孤独になろうとしている。
「僕は…また一人になっちゃった…」
ビライトは涙を流しながら言う。
「お前は1人なんかじゃねぇよ。」
ヴァゴウは言う。
「え…?」
「お前には…大事な妹がいるだろ?」
ヴァゴウはキッカを指さす。
「……妹…」
ビライトは立ち上がり、キッカを見る。
まだ赤ん坊のキッカはその顔を見てえへへと笑う。
「…そっか…僕は、一人じゃないんだ…」
「もちろん!ワシも一緒だぞッ!」
ヴァゴウはビライトの肩を掴んで笑う。
「ヴァゴウさん…」
「さんはよせやい。ワシはお前の両親じゃねぇけどよ…お前の親代わり…が出来ればと思ってるんだ。もっと頼ってくれよ。ワシも。」
「うん。ありがとう…」
(そうだ。この日…俺はクロしか居ないと思ってたけど…俺の周りには俺を支えてくれる人が居て…そして…妹は笑ってくれているんだと気が付いた。)
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そして翌日…ビライトは家に戻るとヴァゴウに言った。
「どうしたんだビライト。お前らはまだ幼い。一人前になるまでここに居てもいいんだぞ?」
「ううん、俺たちいつまでもみんなに守ってもらってるだけじゃだめだから。俺がキッカを守んなきゃ。」
ビライトは突然大人になったようになっていた。
目にも光が戻り、まるで別人のようだった。
「そっか…成長したんだなビライト!ワシも応援するぞ!」
ヴァゴウはビライトの意志を尊重した。
「立派だな!ビライト!クロも喜んでるだろ!」
「クロ…?それ…誰?」
「あぁ?クロだよ、お前の友達の。」
「…ん?知らない。それ、誰?」
「は?」
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作戦は失敗だ。
ビライトを孤独にして、負の力を高め…覚醒を早める作戦だった。
ビライトと仲良くなり、ビライトにボクを依存させる。そして、成熟したらボクはビライトの潜在意識の中に消え、ビライトを更に絶望させる。
そんな作戦だったのに。
ビライトは孤独にならなかった。あのヴァゴウとかいう目障りな竜人が手を差し伸べてしまったせいだ。
それどころか、ビライトはキッカに目をつけてしまった。
キッカは幼く、シンセライズが憑依しているとは言え、その真価を全く発揮できずにいる。
だが、キッカが成長してしまうとそれにシンセライズが順応してしまう。そうなればボクの脅威になる。
ビライトがキッカに目を付けてしまったことで、キッカのシンセライズの力がボクにも干渉してしまう。
その結果、ボクは……クロとしてビライトの前に出てくることが出来なくなってしまった。
ならば…ボクは眠る。
そしてビライトが成長し…ボクが力を行使できるようになったら…キッカごとシンセライズを奪ってやる…!!
ビライト、君はボクを忘れてしまうだろう。
でも、それでいい。
いつか君もボクのものにしてあげる。
―――
「そうか、だから俺は…クロのことを忘れてしまったんだ。」
「クロは君が負の感情を抱えて成長することを待って機会を伺っていた。そしてあの日、その時を迎えたんだ。」
「…あの…すべてが始まった…」
―――
(な、なんだ!?)
(いやぁ!)
(!?キッカ!?)
(た、たすけ、助けて!お兄ちゃーん!)
(キッカーーーーッ!!)
(な、なんで…なんでこんなことに…)
―――
「あの日、俺はキッカを助けるためにイビルライズを目指すことになる。」
「そう、そして君は…多くの優しさを。笑顔を知ったはずだよ。」
「…でも、それだけじゃない。この世界は…それと同じだけの悪や、悲しみがあった。」
ビライトは旅をし、多くの出会い。多くの優しさ、笑顔、強さを知った。
だが、悲しみ、憎しみ、絶望もそれだけ知った。
そしてヒューシュタットとの戦いでビライトの気持ちは絶望に大きく傾いた。
「その結果…俺はイビルライズを覚醒させてしまった…」
「そうだね…それは事実だ……」
「そもそもだよ、イビルライズってなんなんだ…クライドから負が集まる場所で…イビルライズはシンセライズを飲み込もうとしている…って聞いたけど…なんでそんなことを…」
ビライトは改めて、イビルライズとはなんなのだろうか。
それを一番知っているであろうシンセライズに尋ねた。
「改めて、だね。イビルライズ…それは世界中の“負”を蓄積する場所。」
「負を…」
「君たち生物が当たり前のように持っている感情の“マイナス”を表すものだよ。悲しみ、恨み、妬み、そして怒り、絶望…それらマイナスの感情はこの世界に悪影響を及ぼす。だからそれを処理したり、溜めたりするような場所が必要なんだ。」
「それがイビルライズ…」
「そして、イビルライズに生物は存在しない。神すらも存在しない黒く果てしない無の空間…」
シンセライズは言うが、ではイビルライズ…クロは一体なんなのか。
「クロはどうなんだ?」
「イビルライズ…クロはね…“かつての世界統合戦争の残滓”…」
「世界統合の際に邪神ヴァジャスと戦ったあの戦いのことか?」
シンセライズは頷く。
「あれはヴァジャスの残滓では無い。かつての世界統合戦争では邪神ヴァジャスの力さえも利用とした悪魔のような存在が居た。クロはそこから生まれた残留思念のようなものだ。」
「悪魔…?そんなの歴史には…」
「語られていないだろうね。当然さ。その悪魔というのは神では無い…君たちと同じ生物だったのだから。」
「…!」
ヴァジャスを利用し、更に世界をどん底に叩き落とそうとした存在が居たという事実を知るビライト。そしてそれは…神では無かった。
「彼は獣人の男の子だった。そんな存在が邪神を利用して世界を滅ぼそうとしたなんて歴史に記そうものなら、獣人は差別を受けてしまうかもしれないだろう?だから歴史からこの事柄は抹消された。そして…僕ら神々と英雄たちの戦いで彼は倒れた。だが、彼の憎しみはとにかく深いものだった。だからこそ、彼の憎しみごとイビルライズに封印する他、無かったんだよ。」
「そして…世界は統合されてシンセライズが生まれ…」
ビライトは呟く。
「うん、今まではヴァジャスにばかり負の力を処理させる形になってしまっていたけど、シンセライズになってからは僕ら抑止力全員で負を抑え込み、そしてそのエネルギーを正へと変換し、シンセライズを豊かにしていったんだ。」
シンセライズはそう言い、悲しい顔をした。
「でも…負の力は正の力を超える勢いで増幅していく。君たち生物は嬉しい思い出よりも辛い思い出を記憶に残してしまいがちな生物だ。どうしても負の力が勝ってしまうのは仕方がなかったんだ。」
「でも、それを抑止力全員で抑え込んでいたんだろ?」
ビライトはシンセライズに尋ねる。シンセライズは頷き呟いた。
「そう。でも…そこでクロが生まれた。」
「!」
「生まれるはずのないものが生まれてしまった。イビルライズの負を一身に受けたクロはまさに昔のヴァジャスそのもの。世界を憎み、滅ぼし、破壊を望む…イビルライズ…クロは昔のヴァジャスと同じ…世界の負を受け止めきれなくなり心を壊し、世界を滅ぼそうと考えてしまった。」
「それで…あんたから逃げ、そして俺の中に逃げ…覚醒を待った。」
「その通り。さて、続きを見よう。」
シンセライズは一通りの説明を終えて、記憶を覗く。
そしてビライトはこの先、自身が暴れまわって気を失った後の出来事を見ることになる。
「うっ…これは…」
「ビライト、これから君が招いた結果を見ることになる。でも絶望するのはまだ早い。それだけは頭に入れておくんだよ。」
「ま、待て!それってどういう…!!」
「あ、うああ!!」
――――
(アリガトウ。)
(ボクはようやく完全体として開放されタ。ビライトのお陰ダ。感謝していルよ。)
黒い何かは魔物のような姿に姿を変える。竜人やドラゴンに近い容姿をしているが、それは明らかにこの世界の理から外れたような。黒い影のような存在になっている。
(そしテ…もうキミは用済みだヨ。)
黒い影はキッカに迫る。
(ひ、ぁ。)
キッカはすっかり怯えてしまい、身動きが取れずにいた。
(さぁ、お前ヲ完全ニ、ボクのものニ…)
(い…ぁ…たす、助けてェッ!お兄ちゃんッ!)
(さぁ、さぁ。)
黒い影はキッカを引きずりこむ。
(…あぁ…)
「キ、キッカ!!!!!!」
ビライトはその光景に…身体を震わせた。
(みんな…私、信じて…待ってる……だから……………)
(私を…たす―――――――――)
-----------------------------------------------------
「うああああーーーーーーーっ!!!」
ビライトは叫ぶ。
「あ、ああ…キッカ…?キッカ!!」
自分が生み出したクロ、イビルライズの完全体はキッカを完全に取り込み、イビルライズへと連れ去ってしまった。
その事実を知ってしまったビライトは絶望する。
「う、うう…俺は…キッカを助けるために旅して来たのに…結果的に…俺はキッカを奪ったようなものじゃないか…」
「君は大事な人を奪われ、自身の負の力を増幅させ…イビルライズは復活してしまった。」
「…俺は…こんなことの為に…イビルライズを目指していたんじゃない。」
「分かっているさ。確かに君はイビルライズを覚醒させてしまった。でも、思い出して。絶望するのは早い。」
「…!」
キッカの中に居るのはシンセライズの力。
だが、世界の核はそこには無い。
「シンセライズは…完全じゃない。」
「そう、僕が奪われない限り…シンセライズが侵食され、終わることは無い。」
「じゃぁ…」
「そう、僕が奪われる前にイビルライズをなんとかすればいい。」
「でも…どうすれば…」
ビライトは苦悩する。
「君はイビルライズを目指せばいい。君の、君たちの力を証明出来れば…僕らシンセライズの“抑止力”は力を貸してくれるはずだ。」
「抑止力…それは一体誰なんだ…?」
「君の仲間の1人に抑止力の1人と深いつながりのある人物が居るんだ。その人と一緒に未踏の地を目指せばいい。」
「…俺に…俺の力を…抑止力は認めてくれるのか?俺は…負の力に頼らないとガジュールを倒せないほど弱い。ボルドーさんやヴォロッドさんよりも弱い。そんな俺を抑止力が認めるのか?」
ビライトは自分の力に自信を無くしていた。
ビライトはこれまでだって。
グリーディの時も、ガジュールの時も…いつだって誰かの力でなんとか乗り越えた。だが、自分一人では何も出来ないのだ。そんな自分が…
「大事なのは強さだけじゃない。君は強さだけじゃない。誰にも負けない強い意志がある。」
「意志って…」
「いいかい?強い意志、強い心。それは君の力を高めてくれるんだ。もちろん君にはもっと強い力が必要だ。でも、それだけじゃ駄目なんだ。そこに強い気持ち、意志、決意、覚悟。そういったものが乗っかって…初めて君は本当の強さを証明出来るんだ。抑止力は強さだけを見ているんじゃない。君の胸に秘めた熱い思い。勇気の心も見ているんだよ。」
「…俺に、出来るだろうか?」
「出来るさ。君なら出来る。僕は信じてる。」
ビライトは少し沈黙するが、頷いた。
「…分かったよ。俺、もう一度頑張ってみる。」
「うん。さて…では頑張ってくれる君に、僕から2つのプレゼントを授けよう。」
「プ、プレゼント…?」
「そう、まず1つ。君は面白いものを自身の中に秘めていた。それを解放してあげようと思ってね。」
シンセライズがそう言うと、ビライトの胸が輝きだした。
「この色の輝き…見たことある。」
「君はとても良いことをしたんだよ。君には守護神様のカケラが憑いているみたいだ。」
「えっ。そんなまさか…あっ!そうだ、あの時だ。あの時…守護者の森で…!」
ビライトたちが旅に出てまだ間もなかった時、ヒューシュタットからドラゴニアに向かう途中で通った守護者の森。そこでビライトとキッカは古ぼけた教会を発見している。
そこで祈ったビライトは眠っていた守護神様に…
(ありがときてくれて。とっても、おで、うれしい。)
「あの声は…幻聴じゃなかったのか!?」
「ビライトに力を貸してくれるかい?森の守護神“メギラ”。」
(いいぞ!おで、やっとお前と話できる!おで、力貸す!お前いい奴!おで、ずーっとお前見てた!)
「あ、ああ…!」
ビライトの胸から飛び出してきた緑色の球体はその姿を変えた。
「…守護神…メギラ…」
その姿はどの種族の特徴も無い恐竜型の魔物のような姿をした巨大な生物だった。
その辺りのドラゴンよりも大きい。9m以上はあるだろう。
(おで、むかし、ずーっとむかしゲージュに操られた。んで、みんなにひどいことした。ずっとおで、はんせーした。)
「ゲージュ…ガジュールのことか。」
(おで、信者たちみーんなころしちゃった。で、へんなそしき入って、やられてしんじゃった。しんでから、生き残ってた信者がおでのこと、また祀ってくれた!だからおで、うれしかった!でもはんせー、とめられない。)
「君の反省を、彼の力になることで僕が許すよ。まぁ、元々僕は君のことは許してはいたんだけどね。」
(えへ、シンセライズのカミサマにそう言ってもらってうれしいぞ!)
守護神メギラは嬉しそうに笑う。
「そ、それで、メギラは俺に力を貸してくれるって…?」
(うん、おで、お前のえんはんすに新しく力をあたえてあげる。お前の一番つよいえんはんすよりもーっとつよいぞ!)
「…!」
(でね、でね、お前、つかってるとき、なんかつらそうだからそれ、おでがかわりにうけてあげる!)
「えっ…!つまり…」
それはつまり、ノーリスクでエンハンスが発動できるということだ。
「で、でも!それだと…あんたが痛い思いをすることになるんじゃ…!」
ビライトはメギラを心配する。
(しんぱいしてくるの?お前やっぱりやさしい!でも平気だぞ。おで、とってもつよいんだ!)
「…ホントに大丈夫なのかな…」
ビライトは心配になりながら再確認する。
「大丈夫。彼はもし生存していたら抑止力ほどじゃないにしても、それに抵抗出来るぐらい強い力を持っていたんだよ。」
シンセライズのお墨付きだ。
「…分かった。メギラを信じるよ。」
(うん!おで、お前に力貸す!でも、おでとお話できるのはこんかいでさいご。)
「…どういうことだ?」
(おで、お前の力と完全に同化しちゃう。だからおでの魂はお前とがったいしちゃう。そのとき、おではもう居ない。森にもいない。おで、お前と1つになるんだ)
「…それで…いいのか?それって…死ぬってことだろ!?」
(おで、もう死んでるからいっしょだよーえへへ。)
メギラは笑うが、ビライトは「そういう問題じゃない」と言う。
「お前の意志というか…魂というか…そういうの無くなって…話も出来なくなるんだろ?それでいいのかって聞いてるんだよ!」
ビライトはメギラに言う。
(いいの!おで、もうきーめた!)
「メギラ…どうしてそこまで…」
メギラは両手を大きくあげて微笑んだ。
(おで、知ってる。お前、優しい。いい奴。だっておで全部見てた。お前はだれかのためにわらって、ないて、おこれる。それでイビルライズめざめちゃったけど、でもそれ、お前の優しさだから!おで、お前のこと悪くないとおもう!おで、お前すごいから気に入った!だからいいの!)
「…俺は…メギラが言うような凄い奴じゃないよ…でも、お前に…神様にそう言ってもらえると…少しは自信持っても…良いのかなって気になるよ。」
ビライトはようやく笑顔を見せた。
(お前に、つかってほしいんだ!)
「…うん、ありがとう。守護神メギラ…」
「話は決まったね。」
シンセライズがビライトとメギラの間に入る。
「では同化を始めよう。メギラ。準備はいいね?」
(うん!シンセライズさま!ありがと!おで、がんばる!)
シンセライズは微笑み、ビライトの身体が光り出す。
「…!」
「ビライト、君に新たなる力を!守護神メギラの力を授ける!」
「わ、あああ!!」
ビライトの身体が緑色に輝く。
「な、なんだこれ…!凄い…!とんでもない力を感じる…!」
(ビライト、がんばれ!おで、おうえんしてる!)
「ありがとう…メギラ…!」
(えへへ。)
メギラの身体が薄くなりやがてそれは消え、ビライトを包み込むように消えていく。
「これで君は未踏の地でもやっていけるだけの強さを身につけた。これは君の努力で得たものじゃないかもしれないけど、でも君の優しさがあったから得られたものなんだよ。それは忘れないで。」
ビライトは頷いた。
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「さて、もう一つのプレゼントだけど…」
シンセライズは、黒い空間に耳をかたむける。
「この辺りかな。」
シンセライズがそこを指でつつくと、そこから何故か小動物の鳴き声や鳥のさえずり、川の流れる音、そして木々が揺れる葉の音が聞こえる。
「これは…」
「耳を傾けてごらん。」
ビライトは耳を傾けた。すると…
「声が聞こえる…誰かは分からないけど…」
姿は見えない。でも、確かに聞こえる。
(あー…あー…聞こえてんのか?これ)
(ええ、聞こえてるはず。早く喋らないと消えてしまうわよ?)
男性の声だ。渋く低い声。
そして少女のような声も聞こえる。
(よ、よし、ウォッホン!ビライトッ!!!お前は一人じゃねぇ。良いか?目を覚ましたらまず周りを見ろ。お前の目には何が見えているか…よーく考えろよ?)
「この声…まさか…」
シンセライズは声の正体を知っているのだろうがそれを口に出すことはしなかった。
(お前の目の前に広がる世界はまだまだこれからも続いてく。そして…お前には夢がある。キッカと行くんだろ?世界の果てまで!)
「…キッカ…」
(お前の夢、叶えろよ。そのためにお前はこれから今よりも険しい冒険をしなきゃならねぇだろう。だけどな、恐れることはねぇ!お前には…仲間が居るッ。)
「仲間…レジェリー…オッサン…クライド…!」
(ここからずっと見てるからな。だからよ、くじけんな!言ったよな。振り返らず、前を向いて、進むんだッ!頑張れよッ!!)
「ま、待って!待ってくれよ!」
(はい、録音終わり)
少女の声で音は途切れた。
そして声は消え、再び静寂が戻った。
「―――今の。」
シンセライズは頷いた。
「さて、君はどうしたい?」
「…行くよ。俺。イビルライズに。」
「うん。キッカが待ってるもんね。」
「あぁ。キッカが待ってる。夢、叶えなきゃ。」
(どういう原理かは分からないけど…伝わったよ。ありがとう―――――ボルドーさん。)
そしてビライトの身体が淡く光り出し、真っ暗の空間の上部に光が射しこんだ。
「これは…」
「君の心は目覚めるだけの力を取り戻した。夢から覚める時間だよ。」
シンセライズは言う。
「あんたは…大丈夫なのか?」
「うん、僕がイビルライズに発見されるとき、それはイビルライズがシンセライズに侵食してしまった時だ。それまでに君たちと抑止力が阻止してくれれば…僕は見つからない。僕はここでシンセライズの核として、イビルライズの侵攻を防ぐ力として居続けるよ。」
「シンセライズ…!」
「ありがとう、君と話が出来て良かった。君は確かにイビルライズに選ばれた存在だ。でもね。君は確かに心に光を持っている。君は器なんかじゃない。君はビライト・シューゲンという一人の人間なんだ。」
ビライトの身体が浮かび上がる。
「ビライト・シューゲン。これは夢だ。」
「夢…!」
「そう。でもここで起こったことは現実。でも夢だから…起きた時に君はここでの記憶がおぼろげになっていることだろう。」
「そんな…!」
「でも大丈夫。君はきっと忘れても思い出してくれるよね。君は忘れないよね。」
ビライトは頷く。
「忘れるもんか!こんなこと…忘れてたまるかッ!」
「良かった。ありがとう。良いかい?彼は何て言ったか覚えてる?君が苦しい時は…」
「俺の目に見えているもの…そして…俺の仲間…」
「うん。君は一人じゃない。君には君を助けてくれる仲間がいる。孤独にならないで。」
シンセライズは微笑み、ビライトに手を振る。
ビライトは最後に叫んだ。
「シンセライズ!それは世界の名前…だったらホントの名前があるんだろ!教えてくれよ!」
「―――僕は…シンセライズの主神…エテルネル・シンセライズ。また会おうね。ビライト・シューゲン。」
「エテ―――――――」
その声を遮るように意識が現実に戻って行く。
ありがとう、エテルネル
ありがとう、守護神メギラ
ありがとう、ボルドーさん
俺は…前に進む。
たとえ目が覚めて…この夢を忘れてしまったとしても…
絶対に思い出して見せる。
そして行くんだ。未踏の地、イビルライズへ。
キッカを救うため…シンセライズを救うために。
青年の強い意志はやがて現実へと帰還する・・・・・・
だが、ビライトに待ち受けていた現実は…
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「…ん…うぅ……」
目が覚める。
白い天井、身体中に繋がれた生命維持装置。
病院らしい。
「……俺は……一体…………」
頭がぼーっとする
どれだけ眠っていたのだろう。
「ビライトさん…!」
目を移した先にいたのはクルトだった。
「クル…ト…さん…」
「あぁ良かった…あなただけ目覚めないので…心配してました…!」
「…俺、どれぐらい…?」
「2週間ほどでしょうか…」
「そんなに…」
ビライトはぼんやりと天井を見る。
「!」
ビライトは起こった現実、そして夢で見た、得たことが一気に記憶に押し寄せてくる。
「ビライトさん?」
「ッ…すいません、何か…記憶がぐちゃぐちゃになってしまってるみたいで…」
「そうですか…無理もありません…色々ありましたから。」
クルトは寂しそうな顔をする。
「では、しばらく安静に。ヴァゴウさんたちにも報告してまいりますね。」
「はい…」
クルトは扉を閉め、ビライトは一人に…
「…俺は…夢で…ッ…確か大事な…ッ…くそっ……!」
確かに多くのことを得たはず。
だが、それはとてもアバウトで曖昧なものだった。
ビライトの目は絶望の目をしていた。
―――ハッキリと……思い……出せない………
Next of Delighting World
FINAL...
to be continued...