Delighting World ⅩⅩⅩⅩⅣ
Delighting World ⅩⅩⅩⅩⅣ
第10章
真実編~踏み出す、一歩~
襲撃されたドラゴニア。襲撃したヒューシュタットを止めるためにビライトたちは戦い、それは勝利で終わった。
だが、その勝利の代償はあまりにも大きかった。
ボルドー・バーンが死んだ。
ドラゴニアは大黒柱を失った。
ビライトたちは大きな存在を失った。誰もが尊敬し、そして頼りになる存在だったボルドーが居なくなった。
ボルドーの犠牲をあざ笑うガジュールへの怒りによりビライトは内に秘めていた黒い影を目覚めさせてしまう。
それは自身を完全体となったと語り、キッカ・シューゲンを渦に吸い込んでしまう。
尊敬していたボルドーを失い。更には妹を失った事実を知る前に気を失ってしまったビライト。
戦いは終わり、意識を失わなかったクライドとヴァゴウの二人は、気を失ったビライト、レジェリー、ヒューシュタット前王のホウの3人をドラゴニアに搬送しているファルトの帰りを待つため、ワービルト軍のキャンプで宿泊することになる。
ヒューシュタットで黒い影に包まれたヴァゴウは自身の今まで持っていたコルバレーでの記憶の一部が偽りであることを知る。
その記憶はビライトとキッカに関わる記憶であり…
その記憶の真実は…
「ビライト・シューゲンとキッカ・シューゲンはな――――」
「あの事故で死んでるんだよ」
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ワービルト軍のキャンプで火を囲う2人…
パチパチと燃える火の音が静寂を打ち消す。
「死んでいる…だと…?」
「あぁ。ワシの書き換えられた記憶はそう言ってる。」
意味が分からなかった。
ビライトとキッカが死んでいるなら、では今まで一緒に居た2人は誰なのだ。という話になるからだ。
「…信じられねぇ顔してるよな。ワシもだよ。けどよ、多分事実なんだ。」
ヴァゴウは全てを思い出した。
「…あの事故自体が間違いだったということか?」
「いや、事故は確かに起きた。そこでシューゲン夫妻…アイツらの両親が亡くなったのは事実だ。」
ヴァゴウはビライトとキッカだけが違うということを言う。
「ビライトとキッカはあの事故の日、ワシと一緒に居たことになってたんだ。」
「…実際は違うのか?」
「あぁ。違う。」
ヴァゴウはこれまで、あの事故の日はビライトとキッカと一緒にいたという記憶を持っていた。
だが…
「あの日、ビライトがわがままを言ったんだ。留守番ばかり寂しいから一緒に行きたいと駄々をこねたんだよ。」
「…ついていった…ということか。」
「そうだ。あの日、ビライトとキッカはワシと一緒には居なかったんだ。あの日2人はシューゲン夫妻と一緒にヒューシュタットに向かったんだよ。」
ヴァゴウが持っていた記憶は偽りだった。
本当はビライトとキッカはシューゲン夫妻についていっていたのだ。
そして、あの事故が起きた。
「あの事故の生存者は0だ。皆死んだ。」
ヴァゴウは今でも忘れられない。多くの知り合いが命を落とした。そしてシューゲン夫妻とも永遠の別れになってしまったのだ。
「…だが、ビライトとキッカは生きているではないか。」
「あぁ…生きているんだ。だからワシは不思議で仕方ねぇ。アイツらは何故生きているのか。何故死んでないのか。」
「あの事故の時、何かが起きた。そしてビライトとキッカ死んだはずが…何らかの理由で生還した。だが、その記憶を誰も所有していないどころか改変までされている。ビライトとキッカは初めから事故には巻き込まれていないことにされている…妙な話だ。」
クライドは不思議に思うが…
「あの黒い影…イビルライズが何か関わっている…?」
「…アレは…実在したんだな。」
「…ビライトが幼い頃に作っていたというイマジナリーフレンドのことか?」
「あぁ、恐らくそいつがあの黒い影なんだろうよ。そして幼いビライトはアイツのことを“クロ”と呼んでいた。」
ビライトにしか見えていないイマジナリーフレンドのクロ。
ヴァゴウの記憶では、ある時突然ビライトの前から姿を消し、ビライトもそのことを全て忘れてしまい、ビライトにとっては始めから居ないことになっていた。
「ビライトは両親を失って酷くショックを受けていた。だから寂しかった自分を埋め合わせるために作った仮想のダチだと思ってた。だが…クロは本当に居たんだ。」
「そのクロ…もとい、イビルライズが何かをした…ビライトとキッカの関係者全員の記憶を上書きしたとでも言うのか…」
「あぁ。そしてビライトを事故から救ったのもイビルライズじゃねぇかと思ってる。」
「…イビルライズは世界の果てにあるシンセライズとは異なる世界だと聞いている…それを形造った存在がビライトに憑依した…辻褄は合うかもしれんが…しかし話が飛躍しすぎている…」
「これはあくまでもビライトの話だ。じゃ、キッカちゃんはどうだ?」
ヴァゴウはキッカの話をする。
「キッカちゃんはたまにシンセライズを感じるとかなんとか言ってることあったろ?」
「あぁ…お前の潜血覚醒の拒絶反応から命を救ったのもキッカだ。」
キッカは一度強い光の力でヴァゴウの命を救っている。
「キッカちゃんの中にはクロ…イビルライズと一緒で、シンセライズを形造った存在が宿っているんじゃねぇか…って思う。」
「ビライトの中にイビルライズが居たのが事実だとしたら、整合性はある。ビライトにはイビルライズが。キッカにはシンセライズが宿り、事故から2人を救った…か。」
「実際のところは…恐らく本人しか分からねぇがな。」
ビライトとキッカはここには居ない。
ここまでの話は全て仮説だ。
「ビライトはヴァゴウと同じく記憶がどうなっているかだな…」
「仮説が合ってりゃアイツはイビルライズの器だ。イビルライズは“用済み”と言っていた。こればかりは目覚めてからじゃねぇと分からねぇがな…」
突拍子もない話だが、最も有力な話であることは間違いないだろう。
「…しかし、それで何故お前の記憶は改ざんされたのだ?」
「分からねぇ。ただそれを仕掛けたのはイビルライズかシンセライズのどちらかか、はたまた両方か。こればっかりは分からねぇ。全員が死んだ事故なのに2人が生存していることを不思議に思われたら都合が悪いと思ったのかもな。それにだ。記憶の改ざんはワシとビライトたちだけか?そんなことはねぇはずだ。何故ならワシ以外のコルバレーの奴らも、ビライトとキッカが生存していることに何の違和感も持っていなかったからな。」
ヴァゴウは冷静に分析していく。
「町の人全員の記憶を改ざん…となると相当な力を要するであろう…しかし、それがイビルライズとシンセライズのどちらか、はたまた両方が行ったのだとしたら、それは可能だろう。世界の名を冠する者たちであるならばそれはもはや“神”以外の何者でもないからだ。」
「神…か…ビライトもキッカちゃんも神様に憑かれてた…なんて、言ったらビビるだろうな。」
ヴァゴウは小さく笑った。
「フ、そうだな…」
クライドもスケールのでかさについ笑ってしまう。
「だが、俺たちが目指している場所は…そういう場所だということだ。それにイビルライズは闇…それが完全体になったと、世界を支配だの言っていたのだ。ガジュールなどとは桁違いの規模になりうる。」
「…ワシらが目指す場所は…」
「あぁ、神の御前…ということだろうな。そしてこれは明確に世界の危機を物語っている…」
話が飛躍しすぎているが、シンセライズとイビルライズが対極にあることは明確である以上、イビルライズとシンセイライズはどちらも世界だ。
つまりその存在が憑依していたということはそれは“神”が憑いていたと考えるのが自然であろうと考えた。
「そして…キッカがもしシンセライズを宿していたとしたら…イビルライズはその力を奪ったということだ。」
「…それってよ、ヤバくねぇか?」
ヴァゴウは聞く。クライドは「あくまでこれまでの話が真実であればな」と、首を縦に振る。
「この世界が闇であるイビルライズに奪われると…この世界はどうなっちまうんだ…」
「…分からん。見当がつかん。だが…恐らくイビルライズはまだ完全にシンセライズを奪ってはいない。」
「なんでそんなこと分かるんだよ。」
ヴァゴウは首をかしげて尋ねる。
「完全に奪われたのなら、俺たちのいるこのシンセイライズにとっくに何かしらの影響が出ているはずだ。だが今のところは何もないだろう。」
「そっか…そりゃそうか…」
「恐らくイビルライズは次の準備を進めている…とい言ったところだろう。」
「…そんなこと…ワシらみたいなのでどうにか出来るモンなのかよ……」
話が飛躍しすぎていて、神も絡んできてとてもただのシンセライズの生物がどうにかできる問題ではないのではないかとヴァゴウは言う。
「なんともならなければアトメントは俺たちをイビルライズに向かわせることはしない。きっと何か俺たちに出来ることがあるのだろう。」
「どうだかな…」
アトメントも十分胡散臭いとヴァゴウは考えた。
そもそもアトメントは何者なのか。
実際アトメントと出会っておらず、会話をしていないヴァゴウは疑いを持つ。
いや、正確には会ってはいるがそれがアトメントだということをヴァゴウは知らない。
「アイツは俺のこの旅の依頼人だ。きっと全てを知っているのだろう。ある程度聞かされた俺でも知らないことも。そして、俺たちに何かを期待しているのだろうな…」
「…ダチ1人の命も救えなかったワシらに…何が出来るってんだ…」
ヴァゴウはボルドーのことを思う。その後の言葉が何も出てこなくなった。
頭によぎるボルドーの笑った顔がよぎる。
それを思い浮かべてしまうだけで、心が揺らぐ。
「……ハハッ、ボルドーのこと思い出したらなんかよ…ハハ…すまねぇ。今日はここまでにしてくれねぇか。」
ヴァゴウは言葉が詰まって出てこなくなった。ちょっと涙声になっているのを気にしてクライドは「分かった」と頷いた。
「そうだな…酷く疲れた…俺たちは一応怪我人だ。今は休もう。」
「…先に寝てていいぜ。ちょっと風に当たってくる。」
「あぁ。」
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ヴァゴウは外に出て森の入り口にあった高台の上に座り、夜空を見る。
(レジェリーちゃんが使った魔法でボルドーはどうなっちまったんだ…?)
ヴァゴウはレジェリーから預かっている赤い宝玉と、ボルドーが装備していた角のアクセサリーを見る。
「…ボルドー…ワシは………お前の居ない世界なんて…つまんねぇよ…せっかく分かり合えたんだ…本音でぶつかって…ワシの抱えてたモン受け入れてくれて…これからだったじゃねぇか。旅終わったらドラゴニアに引っ越してよ。お前やゲキと一緒にあの国で過ごしてぇんだ…暇なときに集まってよ…一緒に酒を飲み交わしたりしてよ…馬鹿みたいにはしゃいで笑いあいたいんだ……だからよ…帰ってきてくれよ…ッ……ボルドー…」
ボルドーが自分を庇ってカウントデスを受け、そして皆の為に言葉を残して、自爆して…死んだ…
「すまねぇ…すまねぇ…ワシの…ワシのせいだ…!」
実際にこの目で見た現実に絶望し、辛くて悲しくて…泣きだし、叫びたかった。
だが、戦いが終わり、今の今までずっと目まぐるしく物事が動いたため、ヴァゴウ自身も自分が取り乱すわけにはいかないと我慢をしていた。
だが、今、一人になり、こうやって夜空を眺めていると、今まで溜まっていた感情が溢れだしそうになって身体がワナワナと震えだす。
ヴァゴウは涙を流しながら夜空を見上げ続ける。
そして…
「ウオオッ、オオオオッ…!」
ボロボロと止まらなくなる涙。震える身体。もうダメだ。我慢を超えた。この悲しみを抑えることが出来ない。
「――――――――――――!!」
言葉にならない叫びが静寂の夜に響く。
気が済むまで、泣き、謝り、そして叫んだ。
その涙が枯れるまで…
枯れるまで泣き終わった後にヴァゴウは宝玉を見つめる。
「ボルドー………お前がこの宝玉と関係あるんなら…まだお前が死んでないなら……ワシがお前を絶対に救ってやる…!絶対にだ…!」
ヴァゴウはボルドーの角のアクセサリーを自身の角に着けた。
そして涙を拭い、決意する。
「次に泣くのは…お前とまた会えた時だ。だから…見ててくれ。ボルドー。」
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翌朝、ヴァゴウとクライドが目を覚ますと、既に時刻は昼を回っていた。
「おお、起きたか。随分と深く眠っていたから起こさずにおいたが。」
宿泊テントから出るとヴォロッドとファルトが待っていた。
辺りに他の兵とドラゴン便はおらず、残っているはヴォロッドとファルトだけだった。
「…他の兵たちはどうした?」
「あぁ、兵たちは国に戻した。もうこのヒューシュタットで行うことは何もないからな。都市部の様子を見てきたが、皆、王が不在でもそれなりにやっているらしい。」
「この国はあまり王の忠誠心とかは重要視していないのだろうね。ただ、各地域の長たちが動いてまとめているらしいが…まぁ、ホウ殿が戻ってこられたら後は任せられるだろう。」
ヴォロッドとファルトは2人でヒューシュタットの様子を見に行ったらしいが、特に目立った混乱もないようだ。
ただ、人々は今までのように無機質ではなく、それぞれがそれぞれのことをやり始めたようだ。
まだ頭が完全に戻っていないのか、ぼーっとしている人も多いようだが、洗脳はもう解かれているのだから徐々に戻って行くことだろう。
「…さて、では我々はこれからドラゴニアに向かう。」
ファルトは少し疲労感を感じているようだが、そこは気にしなくていいと言う。
「…ベルガやクルトは…何か言っていたか?」
ヴァゴウは尋ねる。
「フム…私も詳しい事情は聞いていないのでね。帰ってから詳しく説明をすると伝えてある。ビライト殿、レジェリー殿、ホウ殿はそれぞれ病院で集中治療を受けている。」
ビライトたちは無事に病院に送られたようだ。
「容態は?」
クライドが尋ねる。
「……この3人の中で言うならば、一番病状が軽いのはホウ殿だそうだ。数日もすれば目を覚ますようだ。」
長い間留置されていたとはいえ、その中ではホウが一番軽い。
「レジェリー殿は急遽魔力を回復させているようだが…未だ油断は出来ない状態のようだ。ビライト殿は……」
ファルトは言葉を詰まらせた。
「ビライトはどうしたんだ…?」
少し嫌な予感がしてヴァゴウが尋ねる。
「…ビライト殿は…原因が分からないそうだ。」
「原因が分からない…?」
「あぁ、外傷は多少あるが、魔力が減っているわけでもない、どこか大きな欠損があるわけでもない。だが、意識だけがスッポリと抜けているとクルト殿が言っていた。」
「…どういうことだ…?」
「…私には分からない。」
ファルトはそう答えるしかなかった。
「まぁ行けば分かるであろう。ファルト、行けるか。」
「はい。ヴォロッド様。」
支度をするヴァゴウとクライド。
「…もう隠すことも出来んな…」
クライドはいつも着ていたフードを着ようとするが、戦いでボロボロになってしまった為、それを着ず、ズボンのみを履いた。
「容姿、大分変っちまったな。」
ヴァゴウはクライドの身体を見て言う。
クライドは顎から首回りの毛が抜け落ち、竜人の骨格のようになってしまい、右目は黒ずみ、額と左右の額に計5本の小さい角が生えている。
ナグを殺した時に大きく精神を不安定にさせてしまったことで起こった潜血覚醒の影響だ。
最も、途中で押し殺した為半覚醒のようなものだが、その中途半端に止めてしまった影響で身体の変化も途中で停止してしまったのだろう。
「…この変化は俺の弱さだ。大きく精神を乱してしまい…そして友を殺した俺への罰だ。」
「…罰…か…」
支度を終え、ファルトに乗り込むクライド、ヴァゴウ、ヴォロッドを乗せ、空を飛ぶ。
「すまないが速度は少し落とさせてもらうよ。」
「あぁ、無理はしなくていい。」
ファルトは頷き、ドラゴニアに向けて飛び出した。
「…十分速いんだがな…」
「おう、そうだな…」
「我が国自慢のドラゴン便よ。当然であるな。」
速度を落とすと言った割にファルトはやはり早い。
この調子なら半日いらないぐらいでドラゴニアに着くだろう。
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「…」
ヴァゴウは浮かない顔をしている。
「ボルドーのことを伝えるのが怖いのか?」
ヴォロッドが尋ねる。
「…そうかもしれねぇ。ワシを庇ってボルドーはカウントデスを受けたんだからよ…」
「案ずるな。」
ヴォロッドが言う。
「ベルガやメルシィ殿、ドラゴニアの者たちはお前を責めることは絶対にあるまい。」
「…いっそのこと、責めてくれた方がまだマシかもしれねぇよ…」
「ドラゴニアの人々はそこまで肝の小さい者共ではあるまい。お前も良く分かっているはずだ。」
ヴォロッドはヴァゴウに言う。
「そうだな、ドラゴニアの者たちは筋金入りの優しい奴らばかりだ。誰もお前のせいだとは言わんだろうな。」
クライドは呟く。
「…」
「覚悟は出来ていたはずだ。」
ヴォロッドは沈黙を破る。
「初めから命懸けになる戦いであったことは分かっていたはずだ。それでも国民たちはボルドーをヒューシュタットに送り出した。それはドラゴニアの者共が覚悟を決めていたからだ。そうでなければ皆、反対するだろう。」
「だが…」
「そう卑屈になるな。」
ヴォロッドはヴァゴウの肩を叩く。
「ボルドーはボルドーの決断で命を懸けたのだ。それに…その赤い宝玉がボルドーの命をまだ枯らしていないのだろう?」
ヴァゴウが持つ赤い宝玉を指し、ヴォロッドは言う。
「…そう、だな…絶望するには…早いのかもな。しかし、ワシにはそれでも…ボルドーのことをちゃんと説明する義務がある。ちゃんと…いわなきゃな。」
「俺もフォローを入れる。大丈夫だ。」
「私からも言えることは伝えよう。」
「…ありがとな。」
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時折休憩をはさみながら、約半日ファルトに乗りヴァゴウたちはドラゴニアの空を飛ぶ。
屋上から降り立ったファルトを待っていたのはクルトとゲキ、そしてメルシィ、ブランク、ベルガ。
そしてアルーラだ。
主要人物たちは皆勢ぞろいしていた。
「我が主よ。お久しぶりでございます。」
「ウム、アルーラよ。お前の活躍は色々聞かせてもらった。ワービルトに戻ったら褒美を取らせよう。」
「ありがたきお言葉。」
アルーラはヴォロッドに膝をつき、頭を下げる。
「ヴァゴウ!!」
「ゲキ…!」
ヴァゴウは車いすに乗っているゲキの顔を見て少しだけ目が泳いだ。
「無事でよかったぜ…ホントによ……」
「あぁ…出迎えてくれて嬉しいよ、ゲキ。」
ヴァゴウは微笑んだ。
「ファルト殿、何度も往復をしていただき感謝します。」
クルトはファルトにお礼を言う。
「いいのだよ。飛ぶのは好きだからね。それに、色々と役に立てたようだからね。」
「さて…話しづらいこともあるだろうが…ヴァゴウ殿、クライド殿。聞かせて…貰えるか?」
「お願いしますわ…」
ベルガとメルシィがヴァゴウとクライドに言う。
「…分かった。」
ヴァゴウとクライドはこれまで起こったことを全て話した。
ヒューシュタット城で四従士を倒し、ガジュールを倒したこと。
そして、その戦いの中で、ビライト、キッカ、レジェリー、ボルドーのことを。
ヴァゴウは時々言葉を詰まらせるが、クライドとヴォロッドがそれをフォローしながら、事の運びと顛末を語った。
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「…そう、でしたか…」
メルシィはとても辛そうな顔を見せていた。
ベルガも、クルトも悲しみに包まれた。
「……馬鹿息子め…早まりおって…」
「ボルドーは…ワシらを…庇ってくれたんだ。アイツがいなかったら…ワシら全員ガジュールに成す術も無かったんだ。結果はどうあれ、アイツが戦況を変えてくれたんだ…」
「だが…命を捨てるものではない…早急に処置をすれば助かっていた命だ。だと言うのに…本当に馬鹿な息子だ…ッ…馬鹿者め…」
ベルガは手を顔に当て、涙を流す。
「しかし…その宝玉がボルドー様の何かとかかわりがあると…」
「あぁ、これに関してはレジェリーしか知らないことだ。アイツが目覚めるまではボルドーの件はことが動かぬだろう。」
「…希望は、残されている…ということですね?」
メルシィは涙を流すが、その目は諦めていない。
「あぁ、レジェリーが目覚めたら話を聞こう。希望を捨ててはいけない。」
クライドがメルシィに言う。
「…分かりましたわ…えっと、その……あはは、すみません。ちょっと…席を外しますね。」
メルシィはブランクを連れて、屋上から降りていった。
「メルシィ…」
「…一人にさせてやろう。」
気丈に振舞うのに限界があったのだろう。メルシィは席を外したが、ヴァゴウたちは話を続けた。
「国民たちにはヒューシュタットを撃退し、ドラゴニアが救われたことは伝えよう。だがボルドーのことはまだ公には晒さずに様子を見よう。それで良いか?クルトよ。」
「ええ…あまり不安を煽るのはよくありません。ベルガ様の御心のままに。」
クルトは辺りで悲しんでいる兵士たちに声をかけ、お触れを出すように指示をする。
ボルドーは怪我をして治療中で面会謝絶であるという状態にしておくようにクルトは伝える。
「悲しむ気持ちは痛いほど分かります。ですが…私たちは私たちの出来ることせねばなりません。それに…希望が完全に断たれたわけではありません。信じましょう。」
クルトの声に兵士たちは立ち、涙を拭いながら行動を始める。
「…話は分かった。ヴァゴウ殿、クライド殿、ファルト殿、そしてヴォロッド殿及びワービルト国に感謝をしたい。本当にありがとう。」
ベルガは頭を深く下げ、クルトも深く頭を下げた。
「ウム、だが礼を言うのはもう少し後でも良かったかもしれんな。」
ヴォロッドは町を見る。
「…我がワービルトからも部隊を派遣しよう。ドラゴニア復刻に力を貸そうではないか。」
「本当か…?」
「もちろんだとも。我々は友好国同士だ。困った時は協力し合うのが道理だ。それに…ボルドーが守った国だ。私も負けていられぬからな。」
ヴォロッドは微笑んだ。
ベルガとクルトは頭をもう一度下げた。
「感謝する。」
「ありがとうございます、ヴォロッド様。」
「ウム、アルーラよ!」
「はっ、我が主よ。」
「帰るぞッ!ワービルトに戻ったら兵の選定を行い、復興部隊を編成し、ドラゴニアに派遣する!忙しくなるぞッ!」
「かしこまりました。」
ヴォロッドはファルトを見る。
「ファルトよ、お前はどうする?まだここでやるべきことをするか?」
ヴォロッドはファルトに尋ねる。
「…ええ。ヴォロッド様。私はまだこの国の…いいえ、このヴァゴウ殿たちの力になりたいと思っております。」
「よし、ならばお前は残るがいい。我々は普通のドラゴン便でアルーラと共に帰る。しっかり励め。」
「はっ、ありがとうございます。ヴォロッド様。」
ひとまずアルーラとヴォロッドはワービルトに帰ることになった。
ドラゴン便がほどなくしてやってきて、2人はドラゴン便に乗った。
「では、我々は失礼させてもらう。」
「アルーラ殿、ヴォロッド様、ありがとうございました。」
「ウム。」
クルトとベルガは改めて頭を下げた。
「…ヴァゴウ・オーディル。クライド・ネムレス。」
アルーラは2人の名を呼ぶ。
「今動けるのはお前たちだけだ。お前たちの旅はこれから…時間はかかるかもしれんが…乗り越えろ。未来はその先にある。決してあきらめるな。」
「あぁ。」
「ありがとな、アルーラ。」
アルーラは頷く。
「そして、レジェリーが目覚めたら、今度会ったらお仕置きだ。覚悟しておけと伝えておいてくれ。」
「?」
「フッ、こちらの話だ。ではな。」
アルーラはそう言い、ドラゴン便で飛び立つ。
「未踏の地での旅、上手くいくことを願っているぞ。皆で支えあい、歩み、前に進め。その先にある明るい未来を目指してな。」
ヴォロッドはそう言い、ドラゴン便を飛ばす。
アルーラとヴォロッドは屋上から飛び出し、ワービルトに帰っていった。
「色々世話になったよな。」
「そうだな…」
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メルシィは自室に来ていた。
「あうー」
「ブランク。よしよし。」
ブランクをベッドで寝かせ、メルシィはベランダに出る。
「…あなた……」
ヴァゴウたちから知らされたボルドーのこと。
レジェリーが目覚めるまで、今後のボルドーがどうなるのかが分からないが、少なくともボルドーは死んだという事実だけでメルシィは心が揺れていた。
「……あなた、信じて…良いのですよね…?だって…だって…約束、したんですよ?約束破るなんて…絶対にあなたはしませんものね…」
メルシィは胸に手を当てて、ぎゅっと服を掴んだ。
「…あなた…私、信…じて……ッ…ウッ、ウッ…グスッ……」
「まっま?」
「ごめんね、ブランク、ごめんね…」
メルシィは必死に声を押し殺して泣いていた。
本当は声をあげて泣きたかったが、ブランクも居る。誰かに泣いているところを見られたくなったメルシィは静かに泣き崩れた。
(あなた…あなたっ…)
愛する人を失い、涙するメルシィ。
もし、レジェリーが使った禁断魔法が失敗していたら。
その詳細を聞いて、絶望的なのか。希望的なのか。それもまだ分からない。
だが、もう絶望的だったら。
考えたくもないのにそんなことを考えてしまう。
メルシィは崩れ落ち、泣いた。
大好きだった。
必ず帰ってくると約束した。
帰ってきたら式を挙げようと約束した。
なのに、待っていたのは“ボルドーが死んだ”という現実。
誰かを守り、命を懸けてビライトたちを守った。実にボルドーらしいのだ。だが、それに伴って命を散らしてしまった。
その後、イビルライズが完全復活したことやキッカが消えてしまったこと、様々なことを聞かされたが、メルシィにはボルドーが死んだという現実だけで頭が支配されてしまっていた。
(…落ち込んでいては…いられないのに…でも…今だけは…私の心に従って枯れるまで泣くことを許して…)
メルシィは今は溢れ出る感情に従い、涙を流す。
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話が終わり、落ち着いた頃ヴァゴウとクライドはクルトからビライトたちの容態を改めて聞いていた。
3人が眠っている病室に案内されたヴァゴウとクライド。
「ホウ様とレジェリーさんは数日もすれば目が覚めるはず。容態も安定しています。」
「そうか…レジェリーが起きたら…ボルドーのことを聞きたいんだが…」
「それに関してはしばらくお待ち願えますか?」
クルトは言う。
「あくまで意識を取り戻すだけであり、それから3・4日はあまり会話もままならないと思います。レジェリーさんは重度の魔力欠乏を引き起こしていました。」
レジェリーの症状について解説するクルト。
「レジェリーさんがボルドー様に使ったと言われる禁断魔法…恐らくそれが原因と思いますが…レジェリーさんが身に着けていた髪飾りが砕け散ったそうですね。」
クルトはレジェリーの髪の毛が解けているのを見て言う。
「あぁ、そうだな…あれは何か関係があるのか?」
「あの髪飾りは膨大な魔力を消費した際、身体の負担を抑える力があったようなのです。」
「なるほど…だけど、今回の禁断魔法であれは砕けた。あれが肩代わりしたとしても何でレジェリーちゃんは魔力欠乏を?」
ヴァゴウが尋ねる。
「恐らくですが…その禁断魔法はその髪飾りで肩代わり出来る容量を超えた。そして超えてしまった魔力もレジェリーさんの魔力をほぼ全て使い切るほどだった…ということになります。」
「…レジェリーの魔力は並みの人間以上に多いはずだ。それを髪飾りの肩代わり分の含めて全部まるごと消費するとは…とてつもない魔法を使ったようだな…コイツは。」
クライドは無茶をするとため息をつく。
「えぇ、私はそのような魔法は見たことがありませんし、禁断魔法も私のデータベースにもありません。レジェリーさんは最初に会った時から少し変わった魔力を持っているとは思っていましたが…彼女は…何処か我々の知らない場所から来たとか…生まれが特殊とか…そういった事情がおありなのかもしれません。」
「そうだな…そうだと聞いている。」
「あぁ、そうか。お前は知ってるんだっけか。」
「一応な。」
クライドはレジェリーの正体を知っているが、本人の口から出ない限りクライドは喋らない。
「まぁ今回のような大きなことが起きたのだ。流石にそろそろコイツの口から色々語られるだろう。今は回復を待とう。」
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「そして…ビライトさんですが…」
クルトは難色を示した。
「…彼に関しては色々と精密検査を行いましたが…原因が分かりませんでした。」
「ファルトも言っていたが…ビライトはどうしてしまったってんだ…?」
「申し訳ございません。私にも分からないのです。呼吸は安定していますし、傷も軽症、精神にも異常はありません。ただ…意識だけがスッポリと抜けてしまっているような…」
「死んではいない、それにあれだけの重傷を負っておきながら傷はある程度治っているというのも不思議だ…そのおかげで致命傷も負ってない…病気でもない…なのに目覚めない…やはりあの黒い影が抜けたことが関係しているのか。」
クライドは黒い影のこと、そしてヴァゴウの記憶が改ざんされたことなども全てクルトたちには伝えてある。
「そうですね…そもそも意識…というのは我々生物の中では“魂”の部分当たるものだと言われております。」
「魂…」
「はい、つまりビライトさんは肉体と精神は正常ですが、魂に何かしらの異常を抱えている…こう考えるのが自然でしょう。そして、魂の治療については我々の現在の医学では解明されておらず…手の施しようが無い…ということも現実です…」
ビライトは治療不可能であるという現実を知らされる。
「…魂か…確かに俺にも分からん…専門外だ。」
「ワシもだ…どうすりゃいいんだ…」
「今は…様子を見るしかないでしょう…申し訳ございません。私の力が足りなくて…」
クルトは2人に謝罪する。
「クルトが悪いんじゃねぇよ。ビライトを信じよう。」
「あぁ。俺たちには見守ることしか出来ないようだからな…」
病院を出て、ドラゴニアを歩く2人。未だ町はボロボロだが、多くの国民達が一生懸命復興作業をしている。
「…なんつーかよ、お前変わったよな。クライド。」
ヴァゴウは呟く。
「…それはお前もだろう。」
「ハハ、ちげぇねぇ。」
ビライトとキッカと一緒に旅を始めて結構な時間が経った。
最初は皆、急がなきゃという根幹は忘れずに、それなりに楽しんで、笑って旅をしていた。
「最初はよ、人助けという名目でビライトたちについていったけどよ。いつの間にか色々あって…」
「そうだな。本当に色々ありすぎた。」
「でもよ、今は…笑いたくても笑えねぇわ。」
「未来で笑うために俺たちは行くんだ。」
クライドからは言わないような言葉が出てきてヴァゴウは驚く。
「そういうことが言えるってだけでお前やっぱ変わったな。」
「だれかさんたちのお陰でな。」
クライドは最初は自分の変化に違和感を覚え、どうしてしまったのだと混乱していたが、今は今のクライドが自然体だ。
依頼を必ず全うする。この意志は絶対に変わらない。だが、その中でビライトたちと関わることで自身の心にも変化が現れ、そしてナグの戦いを経て更にクライドは成長した。
「…クライドッ!!」
「…?」
「飲むぞッ!!」
「…は?」
「もう色々ありすぎてよ!今日は考えるの辞めたッ!飲むぞ!」
「一人で飲んでろ…おい。掴むな。」
クライドは振り払おうとするが、ヴァゴウはぎゅっとクライドを包み込む。
「捕まえた。」
ヴァゴウは寂しそうに笑っていた。1人で居るのが辛いのだろう。
だからこそヴァゴウは誰でも良い。なんでもいいから話をしたいし、一緒に居たいのだろう。
「…少しだけだぞ……」
「へへっ。ありがとよ。」
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この日の夜、ヴァゴウとクライドはドラゴニア城の屋上で酒を飲み交わした。
ファルトは2人の様子を見守っていた。
「そういえばよ、ファルト。」
「ん?」
ヴァゴウがファルトに尋ねる。
「ホウを送り届けてくれた人、あのあとどうしたんだ?」
ホウを送り届けたアリエラのことを尋ねるヴァゴウ。
「あぁ…彼女のことか。何も言わずに受け取りなさいと言いすぐに去って行ったよ。彼女は何者だったんだい?」
ファルトは尋ねるが…
「ワシらにもよく分からねぇんだ。でもちゃんと送り届けてはくれたんだよな。今度会ったらちゃんと礼を言わないとな。」
ヴァゴウがそう言い、クライドは「そうだな」と頷いた。
「ウム…ところで。」
ファルトは2人に言う。
「…そんなに飲んで大丈夫か…?」
ここを寝床にしているファルトに突っ込まれるが…
「良いんだよッ!」
「…たまには良いだろう。」
クライドのなんだかんだ乗り気になってしまい、ファルトはやれやれと「病み上がりなのだからほどほどにしたまえよ。」と言うが。
「ファルトも飲もうぜ。」
ヴァゴウはファルトを巻き込もうとしている。
「イヤ、私は…その。」
「気分が滅入っている時はこういうのもアリだ。行け。」
何故か命令口調のクライド。
「…ムゥ……」
ファルトは少しだけクイッと酒を飲む。
「…美味い。」
「だろ?ドラゴニア名産のドラゴンフルーツを使用した上等なカクテルだ!」
「ウム…何故だろうな。心に染みるが…だが、身体が…アツ……」
ファルトはズドンと大きな音を立てて後ろに倒れた。
「「…」」
「グガー…」
ファルトは眠ってしまった。
「…酒ダメだったみたいだ。」
「…だな。」
「ガハハハハハ!」
「…フッ。」
今だけは、何も考えずに飲み交わそう。
そして、明日からまた立ち上がろう。
そんな話をしながら2人の夜は流れていく。
そして…
翌朝。
「…おやおや…」
「まぁ…」
朝の陽ざしを浴びるために来たメルシィと、ファルトに挨拶をしに来たクルトが見たのは、すっかり眠りこけたヴァゴウとクライド、そしてファルトだった。
「…何か色々吹っ切れたような…そんな顔をしておられます。」
「そうですわね…私もいつまでも…落ち込んでいられませんわね。」
メルシィはボルドーのことを聞いてから笑顔が消えていたが、ここで初めて小さく微笑んだ。
「メルシィ様、希望を捨ててはなりません。レジェリーさんを信じましょう。」
「えぇ…それに私、主人と約束しました。必ず帰ってくるって。」
「はい。私たちの王はまだ…死んでいません。」
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「コルバレーに帰る?」
「おう。」
昼過ぎに起きたヴァゴウはベルガの元に来ていた。
そこにはちょうど世話していたクルトも居合わせていた。
「フム、歩いて帰るつもりか?」
「ファルトがヒューシュタットまで送ってくれるって言ってくれてな。ヒューシュタット山脈は高い山だから負担もかかるし、とりあえずヒューシュタットまでってことになったんだ。帰りは徒歩で帰るつもりだ。」
「と、なると一週間程度は戻ってこないといったところか。」
「そうだな。」
ヒューシュタットからコルバレーは約1日半。往復だと3日。
ヒューシュタットからドラゴニアは約4日。
移動だけで一週間は消費する。
ファルトに行き道だけ任せても、コルバレー滞在日など色々含めておおよそ1週間だろう。
「ワシの記憶が改ざんされた影響がコルバレーにも及んでいるかどうかを調べてぇんだ。ワシの家とビライトたちの家も大分空けちまってるから様子を見に行きてぇってのもあるからよ。」
「そうか…クライド殿は?」
「クライドはここに滞在する。レジェリーやホウが目覚めた後に話を聞く相手が必要だろう。」
「分かった。」
クライドはドラゴニアに残ることになっているようだ。
「よし、善は急げだから早速支度してくる!」
「ウム、ドラゴニアでは一部の店がもう開業を始めていると聞く。旅の支度を整えてから出発すると良いだろう。」
「ヴァゴウさん、気を付けて。」
クルトとベルガに見送られ、ヴァゴウは頷く。
街は少しずつ活気を取り戻しており、一部の店が開業されていたため、ヴァゴウは買い物をする。
街で支度を済ませ、城の屋上に向かう。
「待たせたファルト。」
「あぁ。待っていたよ。出発前にお客さんだよ。」
「ん?」
ファルトの後ろから現れたのはゲキだった。
「よっ、コルバレーに戻るんだってな。」
「ゲキじゃねぇか。」
「見送りに来てやったぜ。」
「そっか、ありがとよ。けど大げさだな!ただ帰るだけだぜ?」
「暇なんだよ。店も壊れちまって商売あがったりなんだ。」
笑いあう2人。
「行ってこい。真実を確かめにな。」
「おう。行ってくる。」
2人は握手を交わし、笑う。
ヴァゴウはファルトに乗り、空を飛ぶ。
「お、クライド!」
屋根の上でクライドは空を眺めていた。
「行くのか?」
「おう、ワシのいない間のこと頼むわ。」
「あぁ。ついでに羽を伸ばしてくるといい。」
クライドは手を上げて反応する。
「おう!行ってくるぜ。」
「あぁ。」
クライドはヴァゴウを見送った。
「…ジィル大草原の時以来か。何も考えずこうやって暇を持て余すのは…だが。」
クライドは立ちあがる。
「俺はもっと強くならねば。依頼の為…アイツらを守れるようにならねば…」
クライドは屋根から飛び降り、森に向かって歩く。
「もっと強く…」
レジェリー、ホウ、そしてビライトが目覚めるまであとどれぐらいか。
それは分からないが、ヴァゴウとクライドはそれぞれが出来ることをする。
辛い出来事を2人は乗り越え、歩き続ける。
そして、皆で…キッカを助け出し。救えるならばボルドーを救い。
イビルライズを目指す。
つかの間の足止めの時間。
ヴァゴウはコルバレーへ。クライドは修行へ。
躓き、止まっていた2人の時計は動き出した。




