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Delighting World  作者: ゼル
第九章 ヒューシュタット編~悲しみと憎しみの果てに~
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Delighting World ⅩⅩⅩⅩⅢ

Delighting World ⅩⅩⅩⅩⅢ






「お前はァッ!!!お前だけはァァァッ!!!絶対に…」



「なんだ、このチカラハ…!」


「――――――――――――許さないッッッッ!!!!!」




ボルドーが命を懸けてガジュールにダメージを与えた。

だが、ガジュールを倒すことは出来なかった。


その命を散らしたボルドーの身体をまるでぬいぐるみのように弄ぶガジュールにビライトは怒りと憎しみで叫ぶ。

その中でビライトの中から黒い何かが飛び出してきた。


クライドはそれを「イビルライズ」と呟く。


ビライトから出た黒いものは一体何なのか。

そして、ガジュールとの決戦の行方はどうなってしまうのか…



-------------------------------------------------------


「う"ああ"アアあア"ーーーーーーーっ!!!」

ビライトの悲痛な叫びが響き渡る。だが、それはビライトの声ではないように聞こえた。

そして黒い何かは怪物のような姿を形成し、咆哮する。


「ひっ、な、なんなの…!なんなのよこれ…」

レジェリーは激しく動揺する。今まで聞いたことのないような悲痛な叫びだった。


黒いものが抜けきったビライトはそのまま倒れてしまう。


「ビライト!!」

レジェリーとヴァゴウ、クライドはビライトの元へと身体を這ってでも行こうとする。

だが、ビライトはその後、すぐに起き上がる。

「グアアアアアアアッ!!」

ビライトは叫び、まるで獣のように飛び出す。

髪の毛が逆立ち、まるで獣人の耳のように左右の頭部が特に高く逆立ち、四つん這いになって飛び出していく。


「なんだあれ…まるで…魔物みてぇじゃねぇか…!」

ヴァゴウはビライトの明らかな異常行動に驚愕する。


「ウガアアアッ!!」

ビライトはその身体でガジュールに飛びつく。

「ムッ、邪魔なケダモノめが!!」

ビライトは叫びながらガジュールに連撃を加えていく。


「…」

レジェリーは体を震わせながらフラッと立ち上がり、ボルドーを見る。


「レジェリーちゃん…?」

「ボルドーが…どうかしたのか?」

それに気づいたヴァゴウとクライドが声をかける。


「クライド。頼みがあるの。」

レジェリーの目は決意をしたような目だった。

「…分かった。聞こう。」


キッカは黒い何かを見て怯えている。

「嫌、来ないで。来ないでよぉ…」

黒い何かはキッカの方に接近してきている。

「!キッカちゃん!」

ヴァゴウはそれに気づいてキッカの前に立ち塞がる。

「お前、一体なんなんだッ!キッカちゃんに手を出す気か…!?」


黒い何かは…その形を口のような形に変え、ヴァゴウを覆いつくした。

「ウグッ…な、なんだ…こいつは…!?」

ヴァゴウを包み込んだそれは、ヴァゴウの精神に干渉した。

「や、やめ、グッ…アッ…」

ヴァゴウは頭を抱え始めた。

「な、なんだ、これは…!ワシは…いや、そんな…まさか………!?」


ヴァゴウの脳内にはとある光景が浮かんでいた。

それは、自身の記憶なのだが、自分の覚えているものでは無かった。

自分の記憶が塗り替えられていく。


「ヴァゴウ…!あれは一体…!」

「クライド!急いで!」

「あ、あぁ…」

レジェリーはもはやキッカやヴァゴウに起こっていることが目に入らなくなっていた。

身体が小刻みに震え、息も荒く動揺していた。明らかにレジェリーの様子が変だ。目線がボルドーの方にしか向いていない。


「あ、ワシは…は?」

ヴァゴウは黒い何かから解放された。


だがヴァゴウは放心状態のような状態になってしまった。

自分の中の記憶が改ざんされたのか、身に覚えのない記憶がヴァゴウを襲った。


「…ビライト…キッカちゃん…?」

ヴァゴウは2人を見て驚きの目を見せる。


「は?…何故だ?いや、そんなはずは…?ウッ、痛い…頭が…いてぇ…ッ…だが…ッ…」

ヴァゴウは混乱するが、それでもキッカの前に立つ。


「今は…守るしかねぇんだ…!」

黒い何かの干渉を耐えきったヴァゴウは再び怯えるキッカを庇う。


-------------------------------------------------------


レジェリーとクライドはボルドーの元へとたどり着いた。



「何をするつもりだ。」

クライドはレジェリーに尋ねる。

レジェリーは手をボルドーの胸に置いた。


「…まだボルドー様の魂は隔離されていない。」

「…何?」

レジェリーの言っていることが分からないクライドは首をかしげる。


「生物の構成は“肉体”“精神”“魂”の3要素で構成されているのは知ってるでしょ?」

「あぁ。」

「私たち生物はこの3要素が全て揃って初めて生物なの。どれか1つでも壊れてしまうとそれはもう生物では無いわ。」

「あぁ…だがそれがどうしたというのだ?」


「今のボルドー様は肉体と精神が死んでしまっている。そして私たち生物の核である“魂”。これは肉体と精神の片方でも欠けると身体から離れていってしまうものなのよ…」

肉体と精神の両方があってこそ存在できるのが魂。

魂はすなわちその者の命の核。それを完全に肉体と精神から離れてしまったとき、それが生物の“死”なのだ。


「でも肉体と精神が死んでも魂が離れるまでには時間がいる。」

「…つまりボルドーの魂はまだこの中にあると…?」

「うん。」

レジェリーはクライドの質問に頷く。


「だが…だからどうするというのだ?もう肉体と精神は死んでいるのだ。再生は不可能ではないか…?」


「今なら…間に合うかもしれないの。」

「何…!?」

レジェリーは真剣な目でクライドに言う。

だが、その目はいつもとは異なり、完全に一点しか見ていないようだった。

周りのことを一切遮断しているように見えた。

意識を自分の中に集中させている。


「ただ、あたしは禁忌を犯すに等しいことをこれからすることになるわ。それに、これは禁断魔法だから長い詠唱を必要とするし…あたしの命すら危ないかもしれない。」

レジェリーは魔法陣をボルドーの真下に展開する。

それは赤く不気味な魔法陣。禁断魔法の証だ。


「…俺に出来ることはあるか?」

「あたしの詠唱が終わるまでここには誰も寄せ付けないで。途中で詠唱が途切れるとその時点で魔法は失敗…あたしもどうなるか分からないし、ボルドー様の魂は完全に消えて…死んでしまう。」

「…分かった。信じよう。」

クライドはレジェリーの前に立つ。

「ここは死んでも死守する。だからお前はその魔法を唱え切れ。それと……心をしっかり持て。」


「…分かってるわよ…あんたも死んだらダメだからね。」

レジェリーはここでようやくクライドに言われ、周りが見えるようになった。

今の状況も見逃せないのはレジェリーも承知だ。

だが、今すぐにやらねばならないことがある。

レジェリーは皆を信じ、禁断魔法の準備をする。

「俺はナグの前で誓ったのだ。必ずこの依頼を完遂してみせるとな。」


クライドは小さく微笑み、レジェリーはそれに応えて頷いた。


「あたしはあたしの出来ることをする…だから、あとは任せたわよ…クライド、ヴァゴウさん。キッカちゃんとビライトをお願い。」


そしてレジェリーは詠唱を始めた。






“万物の始まりの大地よ。我が願いを聞きたまえ”









-------------------------------------------------------


「ガァッ!ガアアッ!!!」

まるで獣のように暴れ狂い攻撃するビライトにガジュールはなんと防戦一方であった。



「おのレ!このようなケダモノニ!」


「ウアアアアアアアアアーーーーーーーッ!!」


「ガハァッ!」

一撃、一撃がガジュールの身体に傷を与えていく。


「ビライト…!あんな戦い方…明らかに異常だぜ…だが…効いている…」


(レジェリーちゃんもボルドーの所で何かしてるみてぇだ。)


ヴァゴウは今、全体が見える位置に居る。


クライドはレジェリーを守るために防御結界を張っている。

レジェリーはボルドーをなんとかするために動いている。


そしてヴァゴウは怯えるキッカを黒い何かから庇っている。

正直記憶がごちゃ混ぜになっているような感覚で、どうにかなってしまいそうになっているがそんな靄を払うようにヴァゴウは自分の意志を曲げずにそこに立つ。


「ビライト…お前のそれがなんなのかは分からねぇ…だが…今は…!」


「クソッ、クソッ。底なしかッ!!」

ビライトは疲れを知らないのか攻撃の手が緩むことは無い。

エンハンスサード以上のとんでもない闇の力を有し、ビライトは大剣も使わず自身の変化した身体を駆使、鋭くなった爪でガジュールの身体をズタズタに切り裂いていく。


「おのれッ!」

闇魔法をビライトに撃つがそれは簡単に腕で弾かれてしまう。

「な、なんだトッ!?」

弾かれた魔法の残滓がクライドの方に飛んでくるが、クライドはそれを防御結界で受け止めた。



“彼の者、この世界と共に在り。繋ぐは勇気の歌、導くは勇気の魂。其の物、死の淵より呼び戻さん”

レジェリーの詠唱が続く。



「…ビライト…お前一体…どうなっているのだ…?」

クライドでも分からない現象に戸惑いを見せながら、クライドはレジェリーを守り続ける。



「私が押されていル…馬鹿ナ!こんなこト、あってたまるカッ!!」

「ううっ、ぐぅぅっ、ぐああああああーーーーっ!!!」

ビライトの動きが早くなっていく。そしてついに致命的な攻撃が…


「グアッ…!?」


入った。


ビライトの拳はガジュールの腹を貫き、ガジュールは紫色の血を吐き出し、ついに倒れた。


ビライトはそれでも攻撃を続ける。

「グルァッ、グルッァッ!!!」

「グアッ、グァッ…!ウギアアアアーーーーーッ!!!!」

ビライトは笑っていた。気が狂ったよ言うな笑いながらガジュールの身体を刻んでいく。


「ヤ、ヤメロ…!ヤメ、ヤメッ!!」

「シネ、シネ、シネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネシネ―――」


「!!」

同じ言葉を続けてまるで機械のように呟き始めるビライトは攻撃の手を緩めない。

「死ねェェェェェェェェェェェェェェェッ!!!!!!!!」



「ビライトッ!!」

ヴァゴウは走っていた。


そしてビライトの身体をガシッと掴む。


「ウ"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ーーーーーーーッ!!」

暴れるビライトを制止させようとするヴァゴウ。

「ヴァゴウ!よせ!」

クライドはヴァゴウを呼ぶが、ヴァゴウも必死な為、その声は届いていない。


「もういいッ!もう終わったんだッ!!落ち着けッ!!!」

「ウ"アッ、ア"ッ、ウ"ウ"ウ"ーーーッ!!!!」

ビライトはヴァゴウの腕を噛み、暴れる。


「悔しいんだろ、憎しみでどうにかなりそうなんだろ。分かる。分かるさ…ワシだってこんなことになって許せねぇよ…けど…一線は超えちゃ…いけねぇんだ…こんなこと…ボルドーは望んでねぇッ!!!」

「ア…ボ…ド……」


「抱えてたんだよな。負の感情をよ、その結果がアレなんだろ?」

ヴァゴウは黒い何かを見る。黒い何かはさっきまでキッカを狙おうとしていたが、ビライトを制止したらその黒い何かは動きを止め、静止し始めたのだ。


「辛かったよな、苦しかったんだろ。もう良いんだ…お前は…よくやった。」

「………オ…レ………」

ヴァゴウはビライトを包み込むように抱く。

「ゆっくり休め。起きたら…また話をしようぜ。だから……な?」


「…ァァ…」

ビライトはガクッと身体の力を抜き、そのまま気を失った。


「…」

ヴァゴウはビライトを寝かせ、もはや戦闘不能のガジュールの目の前に立つ。


「ハ、ハハ、こんなケダモノ一匹に…こノ…私が…」

ガジュールの姿がヒト型に戻って行く。


「…ガジュール。お前をワシは…許さねぇ。絶対にだ。」

「フ、だったら殺すがいい…」

「…ワシはボルドーの意志を尊重する。お前を…殺さない。」

「愚かな。私が本気で…改心すると思っているのか…?」


「思ってねぇ。だが…ワシはボルドーの信じたものを信じる。」


「…フッ、後悔するが…いい…」

ガジュールの身体は動かなくなった。死んではいない。気を失っているだけのようだ。



「…ボルドー…終わったぜ。」

ヴァゴウはビライトを背負い、クライドとレジェリーの元に行く。

だが、その時だ。


黒い何かが動きを見せた。


「アリガトウ。」


「!?」

ゾクッと背筋の凍るような声がヴァゴウたちの背をつんざいた。

「なんだ、この声は…!」

レジェリー以外の2人は黒いなにかを見る。


「ボクはようやく完全体として開放されタ。ビライトのお陰ダ。感謝していルよ。」


黒い何かは魔物のような姿に姿を変える。竜人やドラゴンに近い容姿をしているが、それは明らかにこの世界の理から外れたような。黒い影のような存在になっている。

「そしテ…もうキミは用済みだヨ。」

黒い影はキッカに迫る。


「ひ、ぁ。」

キッカはすっかり怯えてしまい、身動きが取れずにいた。


「さぁ、お前ヲ完全ニ、ボクのものニ…」

「い…ぁ…たす、助けてェッ!お兄ちゃんッ!」



黒い影が両手を広げた。すると渦のようなものが現れ、キッカが吸い込まれていく。

「!キッカちゃん…!」

この中で唯一動けるヴァゴウが助けに行こうとするが、ヴァゴウは思い出した。


キッカは触れることが出来ない。

物理的に助けることは不可能だった。


「離れろ!てめぇ!」

ヴァゴウは武器を召喚し、黒い影にめがけて発射するが、すり抜けてしまった。

「ハッ!」

クライドも残された魔力で魔法を撃つが、これもすり抜けてしまった。


「くそっ!キッカちゃんッ!」


「さぁ、さぁ。」

黒い影はキッカを引きずりこむ。


「…あぁ…」

キッカはもうダメだと自分の中で自覚した。


だからこそ、キッカはヴァゴウとクライドを見た。



「みんな…私、信じて…待ってる……だから……………」




「私を…たす―――――――――」



最後まで言い切る前に、キッカの身体は消えてしまった。

渦の中に消え、黒い影は言う。

「ではさよなラ。次に会うときハ…世界がボクのものになってるとキかナ。」



そう言い、フッと消えてしまった。



「…キッカちゃん!!…嘘だろ…ビライトに…コイツに…何て言えばいいンだよ……」


状況が分からなすぎる。

ビライトから出てきた黒い影がキッカを連れ去ってしまった。

ビライトは意識を失い動けない。

今、この場でまともに動けるのはヴァゴウとクライドの2人だけだ。


レジェリーは詠唱を続けている。

魔法を作り、術式を構成したら次の詠唱を始める。これが終わるまで繰り返しだ。


“繋ぐは赤き命の輝き 媒体は紅玉”

ボルドーの身体が真っ赤に輝き、その身体が縮小していくのを確認した。


「…!これは…」

クライドとヴァゴウはレジェリーを見守る。


“我が力の全てを以ってその命を輝かせよ…!”


レジェリーは立ちあがる。レジェリーは赤いオーラを纏い、赤く輝くボルドーの身体に触れる。






「禁断魔法 “ライフスフィア”、顕現せよッ!!!」






その声と同時により強く激しい赤い光がボルドーの身体を包み込む。


「ウアッ…なんだこいつは!」

「前が…見えん…!」

赤い光は今何が起こっているか分からないほど輝きを照らし、部屋を包み込む。


やがてその光は収まっていくが…


「…収まった…?」

「…!ボルドーの身体が…無い!?」

ボルドーの身体がそこにあったはずだ。だが、それが見当たらない。


「レジェリーちゃん!どうなったんだ!?何が起こったんだ?」


レジェリーはガクッと膝を地面についた。そして、パキンと大きな音を立てて髪飾りが砕けた。

くくっていた髪の毛がバサッと分かれレジェリーは力無く項垂れた。


「レジェリーちゃん!」


「…あはは、上手く…いった…かな…?」

レジェリーはゆっくり顔を上げて、涙目でヴァゴウに微笑んだ。


「…!血が…!」

レジェリーの目、口、耳から血が流れ出ていた。


「…!魔力をオーバーしたのか…!」

クライドは魔力をレジェリーに分け与える。


「…これ……」

レジェリーは手を震わせながらヴァゴウにボルドーの角のアクセサリーと、“ある物”を渡す。


「これは…ボルドーの装備品と…赤い…宝玉?」


「…ごめん……詳しくは…起きてからで……良いかな…?」

レジェリーはフラッと身体を揺らし倒れた。


「レジェリーちゃん!おいっ!どうした!?」


「…息はある。だが急いで魔力を供給できる病院に行かねば命が危ない。」

クライドはレジェリーを背中に背負う。


「ヴァゴウはビライトを頼む。」

「分かったぜ…」

ヴァゴウはビライトを背負ったまま頷く。



(…最初は6人で来たのにな…今ここには…4人しかいねぇ…クソッ……)

ヴァゴウはクライドと共にガジュールの部屋から出る為、歩き出す。


「ガジュールは良いのか…?」

「ボルドーの意志だ。それにアイツにはもう何も出来やしねぇよ…一応ヴォロッドに伝えるだけ伝えておきたいが…」



「ヴァゴウ殿!クライド殿!」

声が窓から聞こえる。


「!ファルトか!」


「これは一体…爆発や赤い光が飛び交うものだから…心配して来たのだが…」

ファルトの背には応急処置を受けてはいるが、気を失っているホウが寝かせてあった。


「ファルト!!」

ヴァゴウは窓の向こうで飛ぶファルトにビライトを。クライドはレジェリーを手渡す。


「ビライト殿…レジェリー殿…!酷く衰弱しているではないか…一体…!」

「急いでドラゴニアに送り届けてくれないか?早急な治療が必要なんだ!」

ヴァゴウはファルトに言う。

「そ、それは構わないが…それにキッカ殿とボルドー様はどちらへ…」

ファルトは状況を飲み込めずに困惑する。


「…詳しいことは後でちゃんと話す。今はこの2人を頼む。」

クライドはファルトにお願いをする。


「…分かった。君たちも必ず迎えに行くから待っていてくれ。」

ヴァゴウとクライドは頷き、ファルトはビライト、レジェリー、ホウの3人を乗せてドラゴニアに向けて飛んで行った。


「…ひとまずあの3人はなんとかなるだろう。」

クライドはホッと肩をなでおろす。

「さて、この国の人々を解放するぞ。」

「解放って…」

「この辺りにヒューシュタットの国民達を操っている電波を発する機械があるはずだ。それを停止させればいい。」

クライドはボロボロになったガジュールの部屋には無いと見て、階段を降りる為出口に向かう。


「機械か…操作できんのか?」

「一応ここに来る前にある程度の知識は身につけた。」

「そうか…」

ヴァゴウはレジェリーから受け取った赤い宝玉を見て呟く。

「この宝玉…いったいなんなんだ…まるで、ボルドーがこの中に入ってしまったような…そんな感じがするぜ…」

「俺にもそれが何なのか、レジェリーが発した禁断魔法が何なのかも分からない。こればかり当の本人が起きるまで待たねばならん。ただその宝玉は必ず必要なものであるが故…無くさないようにしなければな。」


「お、おう。そうだな。大事にしまっておくぜ…」


階段を降り、103階まで降りてきたクライドとヴァゴウ。

壊してきたオートマタたちが散らばっている。

「…制御室…ここが怪しい。」

クライドは制御室と書かれた扉を開く。


「…色んな機械があってわけわかんねぇぞ…」

「…」

クライドは端末を触り、機械を操作していく。


「間違いない。この端末を止めればヒューシュタットの人々は解放される。ついでにオートマタも全て軒並み機能停止に出来る。」

「そ、そうか!止め方は分かるのか?」

「少し触ってみる。」

クライドは端末を触る。


と、その時だ。下の階層から物音が聞こえる。大人数の足音だ。

「…!」

ヴァゴウは扉に立ち、武器を構える。


「誰か!誰かおらんのかッ!」


「あの声…!」

ヴァゴウは扉から出る。

「おーいッ!!!」

ヴァゴウは声のした方へ叫ぶ。

「おお!お前はヴァゴウ・オーディル!」

「ヴォロッド…それにワービルトの兵士たちも一緒か!」


「そなたたち、このようなところで何をしておるのだ。ガジュールはどうなったのだ?」

ヴォロッドはヴァゴウたちに尋ねた。


「ガジュールは倒した。今頃最上階で気を失っているだろう。」

「…トドメを刺さなかったのか?」

「ボルドーの意志だ。」


「…なるほどな。奴らしい。で、そのボルドーは何処だ?それにお前たちは何故2人しか居ないのだ?」

ヴォロッドは当然の質問をする。


「…実は…」



ヴァゴウはクライドが端末を操作している間にヴォロッドに起こったことを全て説明した。


そしてガジュールを拘束して欲しいという旨も報告をした。


「…そうか…そのようなことが…では、その宝玉がボルドーに関わっておると。」


「あぁ、詳しいことはワシにも分からねぇ。だが、レジェリーちゃんが回復すれば何か分かるはずだ。」

「…それにしても色々と謎だな…ビライトに関しても、その黒い影とやらも…いったい何が起こっているというのか…」

そう、今回あまりにも謎が多すぎるのだ。ヴォロッドにも分からないことだらけだ。


「…あい分かった。ではひとまず我々でガジュールを拘束しよう。」

ヴォロッドは兵士たちに指示を出し、大人数を108階に向かわせた。


「で、その端末を止めればヒューシュタットの国民たちは正気を取り戻すのだな?」

「そのはずだが…思った以上にセキュリティ管理が厳しいな…」

クライドの付け焼刃の知識ではこれの解読は難しい。少し時間がかかりそうだ。


「…壊してしまえば良いではないか。」

ヴォロッドは呟く。

「壊すって…」

「壊すと停止は同意義ではないか?」


ヴォロッドは当たり前だろうと言わんばかりに言うが…

「…脳筋め。」

クライドはため息をつき、端末から離れ、やるならさっさとやれとヴォロッドに促す。

「では。」

ヴォロッドは「ヌゥンッ」と声を出し、拳を端末に叩きつけた。

すると端末は激しく放電し、ボンと大きな音を立てて壊れた。


「これでいいだろう。」

ヴォロッドはワッハッハと笑い、部屋を出る。


「…なんつーか…王族ってあんなのばっかなのかね…」

「俺に聞くな…」

-------------------------------------------------------

108階に戻ってきたヴァゴウたち。ヴォロッドが先に向かわせた兵士たちの様子を見るために赴いた。


「ヴォロッド様!」

「何事だ?」

ガジュールの部屋前で兵士が慌ててヴォロッドに報告に来た。

「ガジュールが…いません。」


「…逃げたか。」


ヴァゴウとクライドは目を合わせる。

「ガジュールは致命傷を負ってる。きっと今後まともに動ける身体には戻らんだろう。」

クライドは言う。


「しかし放置というのは気持ちが悪いな。念のためこの周りを調査させよう。この辺り付近を通行不能にし、ガジュールを捜索せよ。」

「かしこまりました。」


ヴォロッドの指示でこのビル付近を閉鎖、そしてガジュール捜索班を設定した。


「さて、お前たちも見たところボロボロのようだ。ファルトが来るまでこのヒューシュタットで待っていようではないか。」


ヴォロッドについてクライドたちはビルを降り、外に出る。


すると、ヒューシュタットの街に人間が戻ってきていた。


「俺たち…今までなにしてたんだっけ?」

「何か…悪いものに取りつかれていたような…」


人間たちは起こっていることに困惑している様子だが、ちゃんと無機質ではなく、人間として動いている光景を確認できた。


「…ひとまず、ヒューシュタットの国民たちは解放されたわけだな。」

「あぁ…ホウの回復が終わり次第、ヒューシュタットは再び立て直されるだろう。」


「脅威は去ったということだな。」


ヒューシュタットはひとまずガジュールの支配から解放された。今は王が不在だが、ホウが回復すれば再びヒューシュタットは国として機能するはずだ。

それまでは混乱が起こるかもしれないが、それも最初のうちだけだ。


「終わったんだな…」

ヴァゴウは晴れた空を見て呟いた。

「あぁ…だが…これからが本番だ。」

「…だな。新しい目標が出来ちまったからな…キッカちゃんは確かに待ってるって言ってた。助けてって言った。ビライトにもそれを伝えて皆で行くんだ。未踏の地へ。」

「そうだ。俺たちの旅は…ようやく折り返し地点なのだから。」



時刻は夕方。

オレンジ色に染まる空を見てヴァゴウたちは一呼吸を入れる。


ひとまず、戦いは終わりを迎えた。

多くの犠牲を払い、終わったのだ。



-------------------------------------------------------





ヒューシュタット中心部から少し外れた場所にある森林…

ガジュールは命からがらここまで逃げ切っていた。



「…ふ、ふふ…後悔するがいい愚か者め…私は…何度でも……立ち上がって見せる…そして…この世界を今度こそわが手に…」

ガジュールは諦めてなどいなかった。

いつかかならず這い上がり再び世界を自身の手に掴もうとしていた。


だが、その野望は終わる。


今、ガジュールの背には…“抑止力”が居るからだ。


「わが手に…世界を…わが手に…」

「ってわけにはいかないんだわ。」

「!!」

ガジュールは振り返る。


そこに居たのは黒い竜人のような姿をした存在。


「…ば、バカな…!」

「お?俺のこと覚えてる感じ?嬉しいねぇ。」

竜人(?)はゆっくりとガジュールに迫って歩き出す。


「何故、何故…!き、ききき…貴様が…ここにッ!!」

ガジュールのは酷く驚き、怯えていた。


「そうビビんなよ…ってまぁ、ビビッて当然かぁ。」

竜人(?)はニヤリと笑みを見せた。


「き、貴様も転生してきたというのかッ!私をまた止めるのかッ!!」


「あー。半分正解。俺は確かにお前を止めに来た。てか、殺しに来た。で、俺は転生者じゃねぇ。大体見た目が同じだからどう見ても転生者じゃねぇだろ。相変わらず馬鹿だなぁお前。」

竜人(?)はニヤニヤと笑ってガジュールの顔にぐっと近づく。ガジュールは腰を抜かして後ろずさる。


「久々に力を行使出来る許可が下りてんだ。ゆっくり料理してやるから楽しみにしてろよな…」

「ヒ、やめろッ!!来るなっ!」

ガジュールは魔法を放つ。それは竜人(?)にヒットするが全く効いておらず、むしろ蚊に刺されたようなしぐさも見せていない。


「何?今の。お前さ、前の方が強かったんじゃね?」


「だ、黙れッ!私を、私をこれ以上侮辱すると…!」

「どうなるって?」

竜人(?)はガジュールから顔を離し、少しだけ顔を歪ませる。

目をカッと開く…全身がおぞましいほどに強い闇の力が溢れだす。


その覇気に触れるだけで気絶してしまいそうなほどに禍々しいオーラがガジュールの背を震わせる。


「き、貴様…!その力は…ッ!」

「さっすが同じ魔族なだけあるなぁ。分かってるなら…話が早いってもんだ。」

竜人(?)はガジュールの右足に手を置く。

その時だ。


「ッギッ…アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!!!!!!!!」

ガジュールの右足が勢いよく吹っ飛び破裂する。

「あっ、やっべ。力入れ過ぎたわ。すまんすまん。ハハハ。」

竜人(?)はヘラヘラと笑いながらガジュールに目線を合わせて笑う。


「アッガァッ…グァッ…アッ、ハッ、ハッ…」

「みっともねぇなぁ。魔族なら足飛んだぐらいでそんなわめくなよ。」

「ア…グッ…」

ガジュールは悟った。殺されると。


「タスケ…」

「助けてってか?あーどうしよっかな~。」


竜人(?)は立ち上がり、笑った。


「良いぜ。助けてやるよ。」

回復魔法だろうか、それを当てると、なんとガジュールの吹き飛んだ右足が完全に元に戻り、傷も完全に癒えた。


「あ、あ…私は…助かるのか…?」

「おう、てわけで、ハイ回れ右。逃げて良いぞ。」

ガジュールは顔をしかめ、振り返らずに前に進んで歩き出した。


竜人(?)はその時、ニヤリと笑った。


「ま、嘘だけどな」


「ハ?」


次の瞬間だ。


竜人(?)はガジュールを魔法で木に叩きつけ、身体を縛り付けた。

「ガッ…!?な、何を…?」


宙に浮かび、闇の強い力を一気に解放する。


「俺はお前を殺しに来たって言ったろ?」


「あ、あぁ…?」



(喜べ、お前に本当の死の宴を開いてやろう。)


その竜人(?)ではない声が響き渡る。


その時だ。

竜人(?)の姿に変化が現れる。

「ハハハハ…!楽しませろよ?なァ…」

ゴキゴキと音を立てて身体が変化していく…

首から肩にかけて紫色の棘が無数に生え、翼も竜人の翼ではない別の何かへと変化。腰に新たに2枚の羽が生え、羽が4枚に。



顔ももはや同じ人物とは思えないほどに刺々しく、そして鋭い紫の左目と赤い右目を光らせた。


「は、はぁ…?なんなのだ…なんなのだその姿はァッ!!」


(…魔族として全く恥ずかしい。その程度の力しか持ち合わせていないとは…)

異なる姿になった竜人(?)は口を動かさずに言葉を話す。頭に直接喋りかけてくるような喋り方だ。


「は、は…ははは…貴様など…知らん…貴様は…何者だ…?」


(…これから死ぬ者に名乗る名など無い。)

「クッ…ふざけるな…ふざけるなァッ!私は死なない!生き延びて…絶対にこの世界をォッ!!」


(どのぐらい出して良いのだ?)

(あー…そうだな、とりあえず周りの魔物が気絶しない程度でいいんじゃね?)

(曖昧だな…)

中で会話を繰り広げる竜人(?)


「何を…別人格だとでも言いたいのか!?」


(我は世界の“抑止力”。世界のバランスを歪ませる存在を裁く者。負の力をばら撒く貴様を我は許さない。)

「…!ハ、ハハ、何を言っている!貴様とて…貴様とて世界に悪を…負を…闇をばら撒く様な存在ではないか!」


(我は確かにそうだ。だが、我が“器”がそれを相殺している。貴様は知っているはずだ。我が“器”の所有している“勇気の歌”を。)

「…!まさか…“あの力”を未だに所有しているのか…!」


(さて、会話はここまでだ。世界の均衡の為に…貴様のような私欲で“膨大な負をばら撒く者”には死こそが似合う。)

「ふ、ふざけ…」

(もう良い。囀るな。)

「んぐっ、ぐぐぐ…!」

顔を叩きつけ口をふさぐ。


「ぐ、ぐぐ…」

身体を動かそうとするが、相手の力が余りにも強く、ビクともしない。



(ああそうだ。せっかくだから死ぬ前に我の魔力を注いでやろう。ちょうど溜まりすぎていて困っていたところだ。嬉しいだろう)

「ぐ、グウウウウウッ!?」


魔力を注がれているだけだ。

だが、ガジュールの身体は異常反応を示していた。


身体が黒く染まり、内側がらボコボコと何かが飛び出してくるように身体がグニャグニャになっていく。


(この我の魔力を注いでやるのだ。光栄と思え。)

「グウウッ!グウウウウウッ!?」

(何を苦しんでいる。我は魔力を分けてやっているだけなのだが)


目を開けていられないほどの激痛が響き渡る。

「ングゥゥゥゥゥゥゥゥッ!!!!?」


(…おい、コイツは本当に魔族なのか。)

(の、はずなんだけどなぁ。)


(…もういい。これでは少しの消化にもならぬ。)


「グッ…!」

竜人(?)はガジュールの腹に手を当てる。


(死ね)


その声と同時に身体が吹き飛び、身体の中にあったオートマタの機械も、そして残ってた肉体の臓器もまとめて吹き飛び、赤い血が飛び散り、汚い音を立てて床にボトボトとごみのように転がっていく。


(…やはりこの感覚…いかんな。フッ、少しばかり気持ちが良くなってしまった。久しく忘れていたよ。これが…気持ち良いというものだな。)

(ハハッ、一応やってることは殺しなんだけどな。まぁ何はともあれお疲れさん。)

(…もう良いのか。)

(おう。)


竜人(?)の身体が元に戻っていく。

「…さぁて…おっと。こちらに来る人の気配がするな。とりあえず…」

竜人(?)は魔法を放つ、光属性の浄化魔法だろうか。


ガジュールの転がっている無数の遺体の破片をまとめて浄化し、跡形もなく消し、木々や植物についた血痕もまとめて消してしまった。


「さーて、撤収しますか。」


竜人(?)は翼を羽ばたかせ、空を飛ぶ。

ヒューシュタットの街が一望できる場所に座り、大きく背伸びする。


「おー良い夕日だ。はは。この街もにぎやかになって来たじゃないか。」

竜人(?)は返り血だらけの身体だが、まるで子供のように笑って見せる。


「よう。ご苦労さん。よくやってくれたな。」

「よう、アトメント。」

アトメントが後ろからやってきた。隣に座りヒューシュタットを一望する。


「やはりアイツらは優しすぎる。結局お前に汚れ役を任せる形になっちまったな。」

「構わないさ。世界の均衡の為にやったことなんだからな。」

「だな…まぁああいう世界の癌のようなモンが現れないのが…一番良いんだけどな。」

アトメントは呟く。


「ガジュール…いや、ゲージュは俺たち魔族が残しちまった“遺物”だ。この手で取り除くことが来て俺は良かったと思ってる。」

「そっか。そう言ってくれると助かるぜ。」


アトメントはヒューシュタットの城を見る。


「ただ、ビライト・シューゲン…ついに奴に巣食っていた“アイツ”が姿を現し、キッカ・シューゲンを完全に取り込んでしまった。」

「こうなる前に俺がゲージュをぶっ潰してやっても良かったんだぞ。」

「それだとこの世界の為にならねぇだろ。めんどくせぇけどよ。」

アトメントはため息をつく。

「この世界に住む奴らの手でなんとかするのが基本だ。俺たち“抑止力”が動くのは今回のような極端な例が倒されるべき時に倒されなかった時の保険だ。」


「それに今回の件で俺の仲間がまたいなくなっちまった。ったく…愛した国の為に命を散らすなんてよ。かっこよすぎんだよなぁ。」

竜人(?)は寂しそうな顔をする。

「フリード・バーンは“適用外”だからな。ああなることはいつか起こりえたこと…まぁだが…確かにな。良い命の使い方だ。羨ましいよ。」

アトメントも少し寂しそうな顔をする。


「だが、これからどうするよ。“アイツ”をそのままにしてしまえばいよいよこのシンセライズは終わりだぞ。」

「まだ終わりじゃないさ。アイツらは立ち直って…必ず来る。」

「信じているんだな。」

「あぁ、俺はこんな世界でも一応可能性は信じてるからな。」


アトメントは笑って見せる。

「…ビライト・シューゲンとヴァゴウ・オーディルは“偽りの記憶”の呪いから解放された。後者はまだ受け入れるのは速そうだが…前者はどうだろうな。」


「大丈夫さ。どうにかあの“馬鹿弟子”がボルドー・バーンの命を繋いだ。それだけでビライト・シューゲンは多少は救われるはずさ。」

竜人(?)は微笑む。


「ははっ、でもあの状態のボルドー・バーンを救うにはお前の力が必要不可欠。アイツらはまずお前の所に来るぜ?」


「だろうな。とりあえず禁断魔法の中でも特に禁忌となるライフスフィアを使ったことの御仕置きは外せねぇな。そして奴らが俺の力を借りるならまずはその実力を見る。盛大に歓迎してやるさ。」


「大事な客だ。殺すなよ?」


「殺さないさ。ただ、ちょっと痛い痛いするかもだけどな。」

カカカと笑う竜人(?)。


「…さーて、じゃ、俺はちょっくらアイツを“アーデン”までご案内のガイドでもしに行くとしますか。」

アトメントは立ち上がり、少しかったるそうに言う。


「ならまた近いうちに会えそうだな。」

「おう、次はアーデンで会おう。」

アトメントと竜人(?)は握手を交わす。


「じゃぁまたな。アトメント。」


「おう、今回はサンキューな











――――魔王・デーガ」







(さて、ビライト・シューゲン。これからが本番だぞ。)

アトメントはそう思い、ドラゴニアへ飛んだ。


そして竜人(?)こと魔王デーガは…



(アーデンで待ってるぜ。レジェリー。)

そう思い、フッと姿を消した。

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陽が沈み、夜になった。

ファルトはそろそろドラゴニアについている頃だろう。

ヴァゴウたちは守護獣の森入り口に設置されたワービルト兵たちの軍事キャンプに世話になっておりヴォロッドにガジュール捜査の結果を聞いていた。



「そうか、ガジュールは見つからなかったか。」

「あぁ、だがあの後すぐにとてつもなく強い魔力の気配がしてな…その場には何も無かったのだが…強い魔力の痕跡が多少残っていた。」


「…魔力の痕跡…ガジュールに何かあったのだろうか…」

「分からぬ。だがガジュールの気配、魔力は何処にも無かった。まるで痕跡も残っていないのだ。」

「不思議なこともあるもんだな…しかし死んだのか、生き延びたのかは分からないのは不気味だ。」


クライドとヴァゴウはやはりあの時縛るなどしておけばよかったかと後悔するが…


「まぁ過ぎたことを悔やんでも仕方あるまい!ハッハッハ!また来たら今度こそひっ捕らえてしまえばよいッ!」

「あー…そんな簡単に言うがな…」

ヴォロッドは笑い飛ばして見せるが…



夜になり、ワービルトに食事と寝床を提供してもらったヴァゴウとクライドは同じテントで寝ることになった。


2人はキャンプの外で火を囲う。



「…ビライトたち、無事だと良いが。」

「無事だろう。アイツはあの程度で死にはしない。それよりもだ。」

クライドはヴァゴウを見る。


「お前、黒い影に包まれた時少し様子が変だっただろう。何か妙なことをされたのではないか?」

クライドはヴァゴウの違和感に気づいていた。クライドはヴァゴウに問う。


「…ワシにもよく分からねぇんだがな…ただ一つ言えることがあるとしたら…」

「したら…?」



ヴァゴウは呟く。




「ワシの記憶が改ざんされた…いや、恐らく“今までの記憶が偽りだった”。」


「…どういうことだ?」

「コルバレーでの一部の記憶が偽りだったんだよ。でよ…本当の記憶が戻ってきた…って言った方がいいのかもな。」

「…確かにビライトとキッカの情報を集めていた時、少しの矛盾があった。それが関係しているかもしれんが…」


「そうだな…お前はよ、ビライトとキッカちゃんが両親を失った日のことは知っているか?」

ヴァゴウが尋ねる。


「あぁ、情報としてアトメントから聞いている。アイツらの両親はドラゴン便の事故で亡くなって…アイツらはコルバレーに残っていたから無事だった…だろう?」


「そう…いんや、“そう思っていた”…が正解かな。」







「…?…意味が分からんな。思っていたということは…まさか…記憶の偽りとは…!」







「そう。“その事実が間違いだったんだよ”」


ヴァゴウは続けて呟く。




「ビライト・シューゲンとキッカ・シューゲンはな――――」



























「あの事故で死んでるんだよ」



次回、第9章 ヒューシュタット編~悲しみと憎しみの果てに~ 完

第10章に続く…


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次回のDelighting World


大切なものをいくつも失った。


憧れだった人を失った。

これからの生き方を教えてくれた人を失った。


大好きな国の人々を失った。


――――妹を奪われた。



多くの悲しみと絶望を背負った一行。


ビライトは絶望した。

目覚めた時には、いつも傍で励まし、笑ってくれた妹の姿はない。


そんなビライトは暗闇のどん底で、更なる真実…“偽りの記憶”に触れる。

ある者は故郷へ戻り

ある者は身体を休め

ある者はこれからの準備をし

そしてある者は眠りの中で真実を知り、誰かの声を聴く。



これは、彼らが再び立ち上がり、大地を踏みしめるまでの記録。




青年たちは真実を知り、そして過去を振り返り、そして夢を見て。

そして、出会いをし、向き合い、励まされ、叱責され、立ち上がる。



次回、第10章。


真実編~踏み出す、一歩~

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