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Delighting World  作者: ゼル
第九章 ヒューシュタット編~悲しみと憎しみの果てに~
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Delighting World ⅩⅩⅩⅩⅠ

Delighting World ⅩⅩⅩⅩⅠ



「ガジュール…!」


「よくここまで来たものだ…」



ヒューシュタットの決戦は大詰めを迎える。

ビライト、キッカ、レジェリーの3人はガジュールの元へとたどり着いた。


ヴァゴウとボルドーもそこへ向かっている。

クライドはナグと交戦中。

それぞれがガジュールの場所を目指しているが、先に辿り着いた3人が今ガジュールと対峙する。



「ガジュール…!今すぐヒューシュタットの人たちを解放してドラゴニアに攻めるのをやめるんだ!」

ビライトは叫ぶ。


「そうよっ!ドラゴニアをあんなにして…自分の国の人たちを奴隷みたいに…!」

レジェリーもそれに同意して言う。


「…ここは私の国だ。どうしようが私の勝手ではないか。」

「なっ…!」

ガジュールは小さく微笑む。


「私は世界を支配する。」

「!ビライト!」

「!」


ガジュールはビライトたちに向かって歩き出す。

ビライトは大剣を構える。

「キッカ!」

「うん!ファイアソウル…アクセル!」

キッカは補助魔法をかける。

炎の属性を体内に宿し、氷に耐性をつける魔法だ。

ガジュールは絶対零度の魔法を使う。炎の防御を纏うことで、即死は回避出来る。


「私の魔法の対策はしているようだな。だが私が使える魔法はアレだけだと思うなよ。」


レジェリーは前に出て、魔法を放つ。


「あんたは機械人間オートマタの力を宿してる!つまりあんたの弱点は…これだっ!」

レジェリーは雷魔法を撃ちだす準備を整えて放つ。


「サンダーボルト!!」

雷の球体を無数にガジュールに放つ。


「私をただのオートマタの改良と思うな。」

「!」

雷魔法を受けるも、ガジュールはびくともせず、ビライトたちに向かって歩き続ける。

そして背から紫色の鋭利体を繰り出し、ガジュールは右手を前に出す。


「!エンハンス!」

ビライトはエンハンスを発動。

ガジュールは鋭利体から無数の光線を発射。

1発の威力はかなり高い。食らえば身体の貫通は免れないだろう。


「クイックアクセル!」

キッカの補助魔法でスピードを高めて光線を避けながらビライトはガジュールに大剣を一振り。

「無駄だ。」

ビライトの一撃は氷の壁によって防御された。

ビライトは氷の壁に大剣を押さえつける。


「なんでだ…!なんであんたはあんな酷いことが出来るんだッ!ドラゴニアは…優しくて暖かくて…美しい素晴らしい国だったのにッ!あんたはそれを奪ったんだッ!!」


「フッ、言っただろう。私は全てを支配すると。」

「答えに…なってないんだよぉっ!!!セカンドッ!!」


ビライトはエンハンスセカンドを発動。氷の壁にヒビを入れる。

「だああああっ!!」

「ハッ!」

ガジュールは壁の奥からビライトに蹴りを入れ、ビライトを吹き飛ばす。

すぐに体勢を立て直し再び攻める。


「だあああああっ!!」

ビライトとガジュールは交戦する。

「レジェリー!」

「ええ!」

キッカとレジェリーは魔法の準備を始める。


「お前は!なんで世界を支配しようとするんだ!!」

「それが私の生まれた理由だからだよ。」

「またわけのわからないことをッ!!」


「私は選ばれた存在なのだ。遥か昔…ずっと昔からこうなることは決まっているのだ。」

「昔ってことは…やっぱり転生者か!」


「ほう、私の正体を知っていたか?」


(…アリエラさんが俺たちに伝えたガジュールの正体…ホントに転生者だったのか…!)


ビライトの大剣を受け流し、距離を取るガジュール。

キッカはビライトに回復魔法で負担を抑え、レジェリーも魔法を撃っていくが、ガジュールにはほとんど効いていない。



そして、ビライトが体制を立て直す前に後方から武器が勢いよく飛んで行った。

それがガジュールの身体をかすり、その奥にある窓ガラスを割った。


「あんたの正体を教えてくれた人が居たんだよ。」

「オッサン!ボルドーさん!」

ヴァゴウとボルドーがたどり着いた。


「クライドとナグは?」

レジェリーがボルドーに尋ねる。


「先に行けって促された。アイツはアイツで自分の戦いをしてんだ。だったら俺様たちは俺様たちの戦いをするぞ。」

「はい!」



「フ、私の最終目的の一つである特定人物の殺害…実現できそうだ。ベルガ・バーン、ボルドー・バーン、ヴォロッド・ガロル。ドラゴニアとワービルト両国の王とその候補を殺し、私が支配者となる。」


「…お前は…やはり…そういう奴なんだな。自分の私欲の為にドラゴニアを襲わせたんだな…」

ボルドーは切れていたエクスリストレイを発動し直し、構える。


「王とは民の為にある。決して民を苦しめるようなことをしてはならねぇ。お前も王なら分かるはずだ。」

「くだらぬ。民も、いいやこの世界は全て私の駒にすぎぬよ。」


「…あぁ、なるほどな…良心のかけらもねぇってことが分かったよ…よく、な。」

ボルドーの顔は怒りの顔になった。


「まずは一回てめぇをぶっ飛ばす。」



「フフ、やれるものならやってみるがいい…まぁ良い。正体を知っているならば名乗ってやろう。私の真の名は“ガジュール・ゲージュ”!かつて世界統合前、世界を支配しようとした者の転生者だ。」

ガジュールの手が氷で纏われる。


「!ファイアソウル!アクセル!!」

キッカはガジュールが絶対零度を撃ってくると思い、全員に耐性を付けた。


一瞬でビライトたちに氷の力が注がれるが、ファイアソウルが働き、その攻撃を防いだ。

「切れたら何度でも!」

キッカは再び全員にファイアソウルをかける。



「さぁ来るがいい。私はお前たちを倒し、ボルドー・バーンを殺す。そしてドラゴニアに再び攻め…ベルガ・バーンも殺す。ヴォロッド・ガロルもちょうどここに来ているようだからついでに殺してしまうか。」

「そんなこと、させるもんか…!」

「お前を倒し、ドラゴニアを守る。そして…ワシらは未踏の地に行くんだ。」

ビライトとヴァゴウが言う。


「絶対に負けないんだから。あんたみたいな救いようのない奴は…あたしの魔法で倒してやる!」

レジェリーはガジュールに指を差して挑発する。


「人間、獣人、竜人、そして外で交戦しているドラゴン…フッ、下等生物共が言うではないか。そのような下等生物が私に対抗しようなど愚か。」

「まるで自分がどれでもないみたいな言い方だな…!」


「そうとも。私はそのどれでもない。私は人間として生まれた。だが私の転生前はそのどれでもない。そして私は完全にゲージュとしてその人格を確立させ、その力を完全に取り戻した。」


ガジュールは空を舞う。そして禍々しい紫の翼を背中から出現させた。

「な、なんだ!」


「凄い闇の魔法の力を感じるよ…!」

「…!」

キッカとレジェリーは驚きを隠せなかった。

特にレジェリーは「これは…」と小さくつぶやいた。

(この魔力…この感じ…あたしはこの魔力を知ってる…!!)


「皆ッ!気を付けて!アイツ…確かに人間じゃない!獣人でも、竜人でも…ドラゴンでもない!」


レジェリーは警告する。

「どういうこった?レジェリー!」

「あたしが何で知ってるかは聞かないで欲しいんだけど…アイツは……」


レジェリーは冷や汗を流し、呟いた。




「アイツは…“魔族”よ。」

-------------------------------------------------------



「・・・・・・」



身体が…変だ…



胸のあたりから小さく、ミシ、ミシと音が聞こえる。

その音は周りには

聞こえない程度の小さなものだが、その音は確実に大きくなっており、胸がドクドクと鼓動を打つ。


身体の力が入らなくなってきた。

あぁ、まずい。倒れる。

視界がボンヤリとして、視界がぐるぐる回る。


シルバーが放った魔法。



それは俺様の身体を蝕み、そして最後には……



(やはりそうか…ハハ、最後の最後にとんでもねぇもん仕込んできやがって…クソッ…タ…レ………)







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クライドとナグはお互いにゆずらない攻防を繰り広げていた。


クライドは短剣と足技を。ナグは爪を駆使した爪技を中心に戦う。

「お互いに実力はほぼ互角と言ったところか…フゥ…」

「そのようだなァ…へへ。」


クライドとナグは小さく微笑む。


「不思議だ。殺し合いだというのに…何故こうも高ぶるのか。」

「俺も同じだクライド。楽しいなァ!!」

ナグはダッシュでクライドに接近する。

「!」

クライドは風魔法で応戦するが…

「ヌルいなぁ!!」

爪で風を両断し、クライドの懐に入る。

「!!」

クライドはとっさに腕でガードするが、その鋭い爪でクライドの腕は切れ、出血する。


「クッ…これは…痺れる…」

クライドは短剣を持つことが難しくなった。腕が痺れるのだ。


「痺れ毒さ。お前の短剣技は封じた。」


「だが…!」

クライドは距離を取り、麻痺を治療する魔法を唱える。


「それが隙ありになるんだよなぁ!!」

ナグは一気に距離を詰め、爪でクライドの身体を引き裂こうとする。


「魔法発動中が動けないなどというルールは無い!」

クライドは高くジャンプし、ナグの攻撃を回避。

そして魔法の発動が終わり、クライドの麻痺は治療された。



クライドはすぐに短剣を拾いに行かず、まずは足技でナグに応戦。

ナグの爪を受けた足は軽い痺れに襲われるが、この程度であれば動かせる。

傷が浅ければある程度は問題ないようだ。


「面白れぇ。やっぱお前との戦いは最高だぜ。」

「フッ、俺も同じ気持ちだ。」

クライドとナグは戦いを繰り広げながら語り合う。


「俺たちがまだヴォールに居た時は毎日のように組手しては競い合ってた。勝ったり負けたり…勝率などはもう忘れたが…俺たちはいつだって互角だった。」

「そうだったな。だが!今は違うぜ!」

ナグは爪で連撃を繰り出す。


「俺はお前が情報屋とかいう腑抜けたことをしていたことをヒューシュタットから聞いて呆れたぜ。俺たちは暗殺者として育ってきた。俺たちに暗殺者以外の道など存在しねぇ!」

「俺は今の仕事に誇りを持っている。お前に否定される筋合いはない。」

ナグは爪技の速度を上げていく。


「てめぇは俺たちヴォールの道から外れた!ネムレスの名を冠しておきながらだ!」

ナグは続けて言う。

「ネムレス一家は俺たち以外全員死んだ!この名を轟かせるために俺たちは暗殺業を続けるべきだったんだ!だというのにてめぇは暗殺者を辞めちまった!」

(早い…!)


「お前が行方不明になって死んだと思ってた。だが生きていたと知って俺がどれだけ嬉しかったか!だというのにお前は暗殺者を辞めて情報屋だと!?」

「ナグ…お前は…!」

「ああそうさ、俺はお前とまたコンビを組んで暴れられると思ってたんだ!だが今はこのザマだ!」

ナグはクライドと組めることを喜んでいた。だが、結果待ち受けていたのは敵としての会敵。そしてこの殺し合いだ。


「…ナグ、お前が俺のことを想っているのは分かった。だが…!」

「あぁ、そうだ。俺たちはネムレス。俺たちはヴォール。俺たちのルールは絶対だ。依頼の敵対対象ならば相手が仲間だろうが手を抜かない。」


「…そうだな。俺は心の何処かで手加減していたのかもしれない。俺は今回の依頼で…お節介で世話焼きの大バカ者たちと旅をしてきた。お陰で俺にも“情”というものが出来上がってしまった。」


クライドは短剣を拾い、持ち直し構えた。


「今だけは俺もネムレスの掟に従おう。俺はクライド・ネムレス。」

「俺はナグ・ネムレス。」

ナグも爪を構える。



「俺たちはネムレスの名に基づき…」

「目の前の敵を殺す。」



「ハアアアアアアアアアアアアアッ!!」

「ウオオオオオオオオッ!!!」



爪と短剣がぶつかり合う。


「これが俺の…」

「俺の…」


「「全力だッ!!!」」


ガキンと音がし、ナグの爪は砕け、クライドの短剣も音を立てて砕けた。


最初に体制を整えたのはナグだ。

爪が無くてもこの拳は当たる。


(もらった!!)

確信をついたナグだが、クライドはその先を読んでいた。

「そう来ると思っていた。」

「何ッ!?」

クライドは大きく身体を下に動かしてしゃがんだ。

「!しまっ…!」

「ハッ!」

クライドはその状態で足を動かし、ナグの足をかけて足払いした。

ナグのバランスが崩れる。ナグは一瞬で体制を戻そうとするがクライドの方が一歩速い。


「ハァッ!!」

「ガッ!?」

クライドの足技がナグの身体にクリーンヒット。

足を高く上げ、ナグを宙に浮かせた。

クライドはすぐに高くジャンプし身体を回転させた。


「!!」


「今回は俺の勝ちだ。」

「…」(ちぇっ。負け…か…)



クライドの獣人のしなやかな身のこなしからの、強靭な竜人の足から繰り出される回し蹴りがナグの身体に直撃。

ナグは勢いよく吹き飛び、壁に叩きつけられる。

「グアッ…!」


「勝負あったな。」


クライドは壁に倒れ込んで動けないナグを見る。

ナグの頭部からは血が流れ、腹部をいかれて口からも血を吐く。


「は、はは。負け…か…ったく…俺としたことが…しくじっちまった……」

ナグはこれ以上抵抗することはしなかった。

「クライド。」


「…なんだ?」

ナグは笑った。

「楽しかった。」


「…あぁ。良い勝負だった。」

クライドはそう言うが、逆にあまりいい顔をしていなかった。


「ホレ…」

ナグはポケットから小さい機械が仕込まれた銃をクライドに渡す。

「…これは…銃か?」

「俺に勝った褒美だ。ガジュールにそいつを打ち込めば…面白いことが起こるぜ…?」

「…お前…依頼主を裏切る気か?」

「んなんじゃねぇよ…俺は負けた……もうガジュールにとって俺は…お払い箱だ。」


ナグは「お喋りは終わりだ」と言い、一呼吸入れた。



「…さぁ、やれよ。ネムレスの掟…最後まで貫き通せ。」

ナグは死を覚悟して目を瞑る。


「…」

クライドは腰に閉まっていた別の短剣を構える。

馬乗りになり、その短剣を刺す姿勢を取る。


「…」

しかし、クライドはその一刺しが出来ずに居た。


「…甘ちゃんになったなぁ…クライド…」

ナグは目を見開く。


「っざけんじゃねぇぞ…!!!!グッ、ガフッ!馬鹿野郎がァッ!!!」

ナグは瞳孔が激しく開くぐらいの形相でクライドに罵声を浴びせた。


血が口から飛び散り、クライドの顔にも付着する。


「お前はッ…最後のネムレスの…生き残りになる…!例え暗殺者じゃなくなったとしても…俺たちの…ヴォールの…ネムレス一家の掟だけは…守り通せッ!!」


「ナグ…」

「そんな中途半端な覚悟でお前にトドメを刺されるなんてまっぴらなんだよ……!俺は…ネムレスとして…掟に従って死ぬんだ…!お前は…俺に後悔を残させるつもりかッ…!!」


ナグは戦いに敗れた。その時点で死を覚悟しているのだ。

そして…


「お前に倒されるなら…構わねぇと思ってるんだ…ライバルだったお前になら…悔いはねぇんだ……だから…とっととやりやがれ!ウッグ…ガッ…ゴフッ…」

クライドは目を閉じ、少し待ち、目を開く。

「俺は暗殺者に戻るつもりはない。俺は情報屋だ…だが……俺は、クライド・ネムレスだ。」

「…それでいい。」


クライドは静かにナグの心臓に短剣を突き刺した。



「…最後に…お前と戦えて…幸せ…だ…っ…た…――――ぜ―――」



ナグの左胸から赤い血がドクドクと流れ、ナグの呼吸は静かに消え、そしてナグは絶命した。

クライドの手は震えていた。

ブルブルと震え、その短剣から手を離した。


「俺は…ネムレス…クライド・ネムレスだ。」


「だがっ!!!!」

クライドは叫んだ。


「だからなんだッ!何故こうなったッ!掟だと!?依頼だと!?ふざけるなッ!!!ふざけるなッ!!!!」

クライドは拳を鉄の床に何度も叩きつけた。


「俺はッ!!!この手でナグを殺したッ!!この手がッ!!!この手がッ!!!!俺はッ!!!!!!!!!」



クライドの記憶は頭を駆け巡る。


家族のように育ち、ギールから暗殺術を学び、ライバルとして毎日のように組手して、勝負して、勝ち負けに関わらず最後は手を取り合って同じ釜の飯を食って育ってきた。


笑い、泣き、苦しみ、乗り越えてきた。ギールが死んだあの日が最後だったが、それでもクライドとナグは相棒だったのだ。

いくら掟でも、殺し合い、そしてその手を血に染めて殺さなければならなかった。

クライドは誰にも見せたことのないぐらい、取り乱し、叫んだ。


「ウォォォォォォッ!!!!」

クライドの精神状態は大きく乱れた。


その乱れにより、クライドの身体には大きな乱れが起きていた。

右目を強く抑え、口からは血が流れ、顔の獣人としての毛皮が固くなり、明かな異常が起こっていた。


「ガッ、アアアッ…ハッ…ハッ…ハッ…」

しかし、クライドは自身の異常を無理矢理抑え込んだ。

やがて顔の異常は元に戻り、血の流れも安定した。


「ハァ…ハァ…ハァ…」

クライドの顔は酷いありさまだった。

額にはナグの返り血が。口からは先ほどの異常から起こった吐血の痕。

そして一部の毛が鱗のような状態になっており、それがボロボロと地面に落ちその剥がれた場所からは自分の獣人の毛が生え代わるように出てくる。

手はナグの血で染まり、身体のあちこちの毛が固くなり、まるで鱗のようになっていたが、それも顔と同様ボロボロと剥がれ落ち、毛となる。


そして…


「…フッ、ハハ…これは…俺の後悔から出た報いか…罰か…」

クライドはナグの身体に背中を預け、笑って見せた。


(…右目が…ぼやけて見える…)

鉄の床を見るクライド。すると自身の右目が黒く染まっていることに気が付いた。


「…混血病…潜血覚醒…ハハ…俺としたことが…」



(全く……イビルライズに行く…そんな夢物語のような依頼を受けたばかりに…アイツらと付き合って……俺も…焼きが回ったな……)


クライドは立ちあがる。

そしてフラフラと身体を揺らしながら呼吸を整える。


「身体負傷は軽傷…まだ呼吸が荒かったり細胞が暴れているような感覚がするが…動ける。問題ない。」


クライドは改めて決意をする。


「…俺は…依頼を…必ず全うする…必ずだ。だから…見ていろ…ナグ。俺は…クライド・ネムレスだ。」


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「ま、魔族だって…?」


「えぇ、アイツは魔族…かつて世界統合前に存在したと言われている魔物を統べ、そして魔法を生み出したと言われている種族…!」


「詳しいではないか。」

「生憎…魔族のことは嫌でも勉強済みなのよ…!」

レジェリーは冷や汗を掻く。


(相手は魔法の始祖たる種族…あたしなんかが太刀打ちできる相手じゃない…でも、やらなきゃ。やらなきゃいけないんだ!)


「レジェリーちゃん、ワシたちに勝ち筋は?」

ヴァゴウが尋ねる。

「…分からない。でも…やらなきゃいけないわよね…!」

「…だな。」


ヴァゴウは武具を召喚して宙に浮かせる。

レジェリーも魔法を準備する。


ビライトとキッカも改めて武器を構え、ガジュールを睨む。

「私の正体を知ってもなお立ち向かうか。」

「立ち向かわなきゃいけないんだ…!」

ビライトは前に出る。


ヴァゴウとレジェリーは一斉に遠距離攻撃を撃つ。


だが、ガジュールはそれを全て弾き飛ばして応戦する。




「ッチ…全然効いてね…おいボルドー!どうする…って…オイ…!!」


ヴァゴウはふと、後ろを向く。


そこには想定していない光景が写っていた。





「…オイ……おま…何…してんだ…………」



そう、さっきから会話に参加していない人物が一人居る。




「何で、“倒れてんだ”………ボルドー…!!」



そこに映っていた光景。

それはボルドーが荒い呼吸で倒れている姿だった。



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