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Delighting World  作者: ゼル
第九章 ヒューシュタット編~悲しみと憎しみの果てに~
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Delighting World ⅩⅩⅩⅨ

Delighting World ⅩⅩⅩⅨ





「俺のできる限りの情報を提供する。まずは相手がどんな力を行使するかを全員頭に叩き込め。そのうえで対策を出す。」


決戦前夜。

クライドは全員を集め、明日の戦いについての情報を伝える。


まずホウの生存が確定したこと、そしてそれぞれの敵についての説明だ。


「まずはブロンズ。

奴は死者を蘇らせる力を持つネクロマンサーと呼ばれる力を持っている。


恐らく奴と対峙する際には、死者が襲ってくるだろう。」


「死者か…」

「死者には光属性の魔法が弱点かもしれないね。」

キッカは光魔法が得意だ。

相手が死者であるなら、聖なる魔法に弱いはずだ。


「その通りだ。この中で光魔法が使える者は。」

キッカ、レジェリー、ボルドーの3人が手を上げる。


「それと俺も少しだが使える。だが、特化している者が良いだろう。故に対ブロンズ相手にはキッカ、お前の力が適格だ。」

「うん。私、頑張る…!」


「奴らがどう待ち構えているかは分からんが、もし単独で居るならばビライトとキッカの2人がブロンズと会敵して戦うのが一番賢明だろう。」

ビライトとキッカは離れることが出来ない。故に、ビライトはキッカがセットになるのだ。


「ブロンズはそれに加え、“超能力”を使うことが出来るらしい。」

「“超能力”…?」

「超能力とは、魔力を介せずに魔法のような力を使える能力者のことだ。ヒューシュタットの科学力によって成せる技らしいが…物や人を浮かせたり、動きを止めたりすることが出来るらしい。」


「魔力を使わずにそんなことが出来るのか…厄介かもな…!」

ビライトはゴクリと冷や汗を掻く。

「俺も詳しくは分からない正体不明のものだが…何か対策があるはずだ。それは戦いの中で見つけるしかない。」


超能力が隠し玉のようなものなのか、ネクロマンサーとしての力が隠し玉なのか。その辺りは分からない。だが、相手の情報を100%知ることは不可能だ。ある程度はその場で対応していかねばならない。





-------------------------------------------------------


「次はシルバー。

コイツは1度会敵しているな。奴は雷属性と土属性を合わせた様な技を繰り出していたが、あれは力の一端に過ぎないだろう。」



「ある意味一番謎かもしれないってことか…けど。アイツには借りがある。」


ヴァゴウはそもそも彼に心を壊されてしまい、このようなことになってしまった。

対峙する理由付けとしては最もだ。


「俺様もだ。アイツは許せねぇ。煽るような言い方で人を平気で踏みにじりやがる。」

シルバーはこれまでもその巧みな言葉で他種族を見下した発言を多くしている。


「ではシルバーとの対峙はヴァゴウ、ボルドーが中心で行う。奴の力は未知の部分が多い。油断はするな。もちろんこれはあくまでも相手が単独でいた場合のことだ。集団で来るならば恐らく全員で立ち向かうことになるだろうからな。」


「おう、一泡吹かせてやる。」


ヴァゴウとボルドーの気合は十分だ。

シルバーはまだ何か隠している部分が多そうだが、ヴァゴウとボルドーは適応力も高く、あらゆる手段が使える。

シルバー相手でもきっと対応できるであろう。



-------------------------------------------------------


「そして四従士の4人のうちの1人、魔竜グリーディは倒れた。故にあとは残り1人の四従士とガジュールだ。」



クライドは少しだけ黙るが、レジェリーを見て口を開く。


「最後の四従士は“ナグ・ネムレス”。俺の古い友人だ。」


「えっ…!?」

レジェリーは驚いた顔を見せる。

レジェリーはナグと面識がある為、その事実にショックを隠せなかった。信じられなかった。


「ちょ、ちょっと待ってよ!ナグって…嘘でしょ!?」

「事実だ。お前はワービルトで会っていたようだから驚くのも無理はない。」


「知り合いなのか?」

ボルドーが尋ねる。


「は、はい…ワービルトで修行してた時に…新しい依頼が決まったからそこに行くって言ってましたけど…まさか…ヒューシュタットだったなんて…」

「そうか…知り合いとやりあうことになるのか…」


ボルドーは動揺しているレジェリーの肩を支える。レジェリーはショックで肩を震わせる。


「クライド。そのナグ・ネムレスという奴は強いのか?」

ボルドーはレジェリーの肩を持ったままクライドに尋ねる。


「…強い。奴は優秀な暗殺者だ。一筋縄ではいかないだろう。」

「で、でも!でも…あんた、ナグと友人なんでしょ!?だったらこっちに引き入れて仲間に「それは無理だ。」

レジェリーの提案を喋り終わる前に却下するクライド。


「ど、どうしてよ!」

レジェリーはボルドーの手から離れ、クライドに向かって行く。


「俺も奴も、自分の背負う依頼には必ず従う主義がある。それを個人的な私情で曲げることは許されない。俺たちネムレスの名を背負う者はそういう育ち方をしてきたのだ。」

「なによそれ…意味わかんない。」

レジェリーは下を向いて落ち込んでしまう。少しだけの出会いであったが、そこには確かに優しかったナグの姿があったからだ。


だが、ヒューシュタットに居る以上、四従士である以上。衝突は避けられない。

そしてナグ自身も、来るならば迎え撃つ姿勢を見せている。


「クライド、昔の友人なんだろ?」

ビライトがクライドに言う。


「なんとか…戦わないってことは出来ないの?」

キッカもクライドのことが心配で言うが、クライドはすぐに首を横に振る。


「俺のことを心配しているならば気遣いは無用だ。俺は自分の依頼の為ならば例え友が対峙しようが俺は俺の依頼を全うする。」

クライドの意志は固い。決して折れることは無さそうだ。


「そして奴のことは俺がある程度は理解している。故に俺が奴と対峙するときには動こう。レジェリーにも手伝ってもらうつもりだったが…その様子では無理そうだ。」

「…」

レジェリーは黙ったままだ。


「奴は手加減無用でかかってこいと言っていたが…まぁ良い。お前は適当なところで誰かの加勢をすればいい。」


クライドは小さくため息をついて、話を進める。



-------------------------------------------------------



「最後、ガジュールだ。こいつさえ叩けば全て止まるだろう。」

ヒューシュタットの王であるガジュール。


ガジュールを叩けば恐らくオートマタも止まる可能性が高い上に、ヒューシュタットはその呪縛から解放されるであろう。


「奴の魔法は絶対零度。一瞬で相手の心臓を止めてしまう氷魔法を主に使うが…奴は恐らくそれだけでは無いだろう。」

ガジュールの力は計り知れない。

あの魔竜グリーディを配下にするぐらいの存在だ。確実にグリーディより強いであろう。


「こればかりは全員の力を合わせる必要がある。そして絶対零度の対策は必須と言えるだろう。」

「…魔法だったら属性軽減の防御魔法…かな?」

キッカが言う。

「そうだ。だが、それだけでは足りないかもしれんが…攻めるしかあるまい。」


「それは…補助魔法が使えるキッカ、クライド辺りがその役を担うのが適任だろうな…」



「問題はガジュールのところに辿り着くときに俺たちが分散されている可能性が高いということだ。」

誰かの補助が無ければガジュールには勝てない。

故に全員でガジュールの元へ行く必要がある。


四従士に勝つことは大前提で、なおかつなるべく万全の状態でガジュールに挑む必要がある。


「厳しい戦いになりそうだな…」

ビライトが呟く。


「だが、やらなきゃならねぇ。これ以上ヒューシュタットを野放しにしたら…またドラゴニアが、いいや。世界が危ない。」

ヴァゴウの目から強い意志を感じる。必ず打倒するという表れが出ている。


「他にも何か隠し玉がある可能性は高いが、まずは絶対零度の対策をすることだ。俺とキッカは特に重要であるがゆえに、なるべく無傷を意識する。」


クライドは実質無傷でナグに勝つという意味でも言ったのだろうが、それほどにクライドの意志は固いようだ。

そしてキッカが無傷でいられる条件は、ビライトの無傷にもつながる。

「キッカをガジュールの元に連れていくためにも、俺もなるべく力を抑えなきゃいけないってことか…そのうえで四従士も相手にするのか…」


「厳しい戦いになることは避けられない。だが、これぐらい無理を通さなければ国に立ち向かうことなど出来はしない。ゆっくり身体を休めておけ。戦いにおいては以上だ。当日の移動は俺が先導する。」

そう言い、クライドは部屋を出た。


「…」

「レジェリー、大丈夫…?」

「うん、ちょっと、考えたいかな。ごめん!あたしちょっと外の空気吸ってくる!」

レジェリーは笑顔を取り繕って外に走り出す。


「レジェリー…」


-------------------------------------------------------


ドラゴニア城の屋上でレジェリーは外の空気を吸いながらハァ~とため息をついた。

(ナグ…あたしはナグと戦わなきゃいけない…でも、あたしは…ナグを止めなくちゃ。ヒューシュタットに仕えるなんて馬鹿なことやめさせなきゃ。)


「レジェリー、大丈夫か?」

「…ビライト。」


追いかけてきたのはビライトとキッカだった。

「おう、ここに居たか。」

そしてその後ろからヴァゴウだ。


「ごめん、取り乱しちゃった。」

「そんなことはいいんだ。それより…」


「うん、あたしさ…ナグとは少しだけの関わりだったけど、それでも楽しかったの。だから…戦いたくない。」

レジェリーは下を向いて「…でも」とつぶやく。


「あたし、やる。」

レジェリーは前を向き、ビライトたちに言う。


「…いけんのか?」

ヴァゴウが尋ねる。


「うん、暗殺者とか、使命とか、ネムレスの宿命とか、そんなのあたしには関係ない。あたしはナグと分かり合うためにナグと向き合うわ。」

レジェリーにとっては短い付き合いでも、それでもナグとは分かり合いたい。そう思っていたからだ。だから、きっと分かり合えるとレジェリーは信じることにした。


「…そうか。お前がそう思うならその意志をそいつにぶつけてやんな!」

「うん!」

ヴァゴウの言葉にレジェリーは元気よく返事をした。

「でもクライドが1人でナグとやりあうなら…あたしはそれを尊重する。」

「…古い友人って言ってたけど…本当に戦うのかな。」

ビライトは言うが、レジェリーは

「あいつはやるわよ。そういうやつだもん。そうなったらもうアイツらの問題だからね…あたしは見てることしか出来ないと思う。」

レジェリーはあくまでクライドが自分1人でナグとの対峙を望むならそれは仕方ないと思っていた。

やはり、クライドにとってはきっとナグとの対峙は特別な意味を成すと思うからだ。


「明日は…長い1日になりそうだね。」

キッカは空を見上げて言う。

「そうだな…」

ビライトはレジェリーとヴァゴウを見る。

「みんなで生きて帰ろう。そして…一緒に行こう。未踏の地へ。」

「うん!」

「あぁ、どこまででもついていくぜ。」


ビライト、キッカ、レジェリー、ヴァゴウの4人は手を出し合い、拳を重ねた。


明日は大事な1日だ。そして、とても長く、危険な1日になるだろう。


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「あなた。」

「おう。」


ボルドーは城の庭に散歩に出ていた。

明日は決戦だ。少し外の空気を吸ってから眠りにつく予定だったが、庭にはメルシィとブランクが居た。


「ぱっぱ。ぱっぱ。」

「おう、ブランク。」

ボルドーはメルシィに抱かれているブランクを撫でて微笑んだ。

「いよいよ明日、ですね。」

「おう…」

「…」


少し沈黙が続く。


「この庭、とても素敵です。私、こんな美しい場所であなたとこれからも過ごしたいです。」


庭にはバラ園を始めとする多くの花が美しく咲いており、中央には大きな噴水がある。

まさに城にある大きな庭と噴水といったイメージだ。

襲撃の被害を受けておらず、この庭は襲撃前とほとんど変わっていない。


「…メルシィ、こんなことになっちまって…すまねぇな。帰ったらすぐに結婚式を挙げたかったんだがよ。」

「いいんです。今は緊急事態ですから。」

メルシィは笑って見せるが、やはりメルシィは寂しそうだ。そして悲しそうで、辛そうな。


「最高だろうな。この庭でよ。花に囲まれて俺様とお前の結婚式をするんだ。きっとクルトたちが魔法で派手に演出とかしてくれてよ。ビライトやキッカ、レジェリーにヴァゴウ、クライド。オヤジにクルト。フリードだって空から見てくれるさ。そうやってみーんなに囲まれて祝福されるんだ。」

「ふふっ、素敵ですわね。私もそんな結婚式がしたいです。」


メルシィとボルドーは歩きながら会話をするが、やがて2人はベンチに座り、夜空を眺める。


「綺麗な夜空…あなたにプロポーズされたあの日みたい。」

「あぁ、そうだな。綺麗だ。」

「空はいつ見ても美しいです。」

「変わらねぇよな。」

「ええ、まるであなたのようです。」

メルシィは手をボルドーの身体に添える。


「あなたは本当に変わらないです。出会ったときからまっすぐで一生懸命で誰よりも優しくて。でもちょっと不器用で。」

メルシィはブランクを隣に寝かせ、ボルドーの身体に自身の身体をくっつける。

「あなたの身体はいつも…あったかい。心地が良いです。」


(震えてる…)

メルシィの身体を震えていた。そして目から光が見えた。

涙だ。


「…必ず帰る。そして、ドラゴニアの復刻が終わったら…式を挙げよう。」

「葬儀の時にも約束しましたけれど‥もう一度…もう一度約束、してください。絶対に私とブランクを置いていかないって…」


「約束だ。」

「…あなた。」

「メルシィ。」


ボルドーはそっとメルシィを抱き、お互いの口が合わさり、キスをする。




必ず帰る。絶対に置いていかない。

2人の約束は交わされた。メルシィは涙を流し、ボルドーは何度も、何度も抱きしめ、何度もキスをした。


帰った時には始めよう。この城での、この国での新しい暮らしを。



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クライドは既に自室に戻っており、武器の手入れをしていた。


「…ナグ…」

クライドは短剣を見ながら呟く。


(俺たちは共にギールの元で育ってきて…同じ苗字を与えられ、まるで兄弟のように育ってきた。)


時には馬鹿なことをして怒られたり、時には一緒に手を組んで戦ったり。喧嘩もよくした。

ナグはクライドにとっては昔からの大切な友人だった。


だが、今は違う。生き別れ、お互いが違う道を歩んだ。


クライドは情報屋へ。ナグは暗殺者を継続。

そして、これから2人はお互いの依頼の為に衝突することになる。


生か死か。暗殺者にはそれしかないのだ。クライドだって分かっている。

そしてクライドも自身の使命を、依頼を私情の為に曲げることなど出来ない。


どんな依頼でも必ず貫き通す。それがクライド・ネムレスの。ナグ・ネムレスの生きてきた道だからだ。



(ナグ、手加減は無用と言ったな。だがそれは俺も同じだ…お前が立ち塞がるならば。)







――――俺は、お前を殺してでも先に進む。




クライドの意志は固い。どっちが生でも、どっちが死でも、2人は己の意志でぶつかりあうだろう。


ネムレスの名を持つ者は、そうでなくてはならないのだ。それが教えなのだから。


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そして一方、ワービルトでも変化が起きていた。


「どうだ、出撃の準備は出来ているか。」

「はっ、ヴォロッド様。明日には出発可能と思われます。」


「そうか、フフ…楽しみであるな。」

「楽しみ…ですか?」

「そうとも。」

ワービルト王、ヴォロッドは微笑んだ。


「相手はオートマタ。すなわち機械だ。つまり…大いに大暴れし、大いに破壊出来るではないか。今から楽しみで仕方ない!フハハハハハッ!!」

ワービルトはヒューシュタットに向けて進撃の準備を整えていた。


「しかし、王よ。あなたまでこの国を離れてしまえばワービルトは無防備ですぞ。」

「我が国はオートマタごときに屈しはしない。民の者たちは自分の身は自分で守れよう。」

わりと無責任なことを言っているようだが、実際、ワービルトの国民たちは基本的に自己防衛の精神を持っている人ばかりであり、大体目先のトラブルは自己解決してしまうような国だ。

ヴォロッドはそれを知っているからこそ、自身が、アルーラが不在でもワービルトは落ちることは無いという絶対の自信があった。


「ここからヒューシュタットまではドラゴン便で約半日ほど。ドラゴニアと比べて我が国はヒューシュタットから意外と近い。」

ヴォロッドは目を細めて言う。

「ラプター便は使わないのですか?」

「ラプター便だと1日以上かかるではないか。それでは間に合わぬ。

「それもそうですね…恐らく明日には戦いが始まるでしょうから…」

「そういうことだ。」


ヴォロッドはドラゴニアのことを想い、呟いた。

「ドラゴニアはヒューシュタットに破壊されてしまったと聞いた。」


「はっ。被害は甚大。多くの被害が出てしまい…象徴である古代人フリード様もお亡くなりになられたようです。」

「フム…あのグリーディを復活させドラゴニアに差し向けた…そしてドラゴニアは崩壊寸前のところで持ちこたえた…ということだな。」

「アルーラ様の便りによれば。」


アルーラは戦いの後、すぐにヴォロッドに便りを送っていた。

そしてアルーラはその時に、数日もしないうちにビライトたちはヒューシュタットに決着を付けに行くだろうということまで記載されてあった。


「ドラゴニアは我が国の友好国。これ以上の侵攻は我々にとっても不利益だ。そしてヒューシュタットは多くのオートマタを製造出来る。」

ヴォロッドは続けて語る。


「我が友、ホウの為にも、ヒューシュタットを一度潰しておかねばなるまい。ホウが生きているならば、再びホウを王にさせる。」

「ガジュールはボルドー様方が倒しに向かわれると思いますが。」

「それは奴らに任せよう。我々はオートマタを殲滅し、ボルドーたちの補助をすることにしよう。」



ヴォロッドは笑みを浮かべた。

(フフ、ガジュールよ。今こそ開戦の狼煙!我が国を敵に回すことを後悔するがよいわ!)


-------------------------------------------------------


翌日早朝、ビライトたちは屋上に集合していた。


「おはよう、よく眠れたか?」

ビライトはレジェリーに声をかける。

「ん、まぁ結構疲れてからね。」

「皆、準備は出来ているみてぇだな。」


一行はファルトと共にこれからヒューシュタットに向かう。


「みなさん、どうかお気をつけて…」

「無理はなさらぬよう…」

この場にはメルシィとブランク、クルト。そしてベルガ。アルーラ。ドラゴニアの兵士たちが見送りに来ていた。


ゲキはまだ病院に居る為、ここでの見送りは出来ない。


「ありがとう。でも大丈夫!みんながついてるから!必ず帰ります。」


ビライトはそう言い、ファルトに乗る。


「皆さん、旦那を…ボルドーを頼みます。」

メルシィは皆の顔を見て言う。

「あぁ。」

皆は一斉に頷く。ボルドーも「必ず帰るって約束したからな。」と言い、笑顔で微笑む。

「ブランク、パパ行くって。」

「ぱっぱ。」

「おうブランク!行ってくるからな!大人しく待ってるんだぞッ。」

「キャッキャ!」

ボルドーはブランクを抱っこし、優しく抱きしめ微笑んだ。




―――


そして…皆がファルトに乗り、ファルトは翼を広げる。




「ヒューシュタットは手強い。私もワービルトに応援を要請している。間に合えばお前たちのアシストが可能かもしれん。」

アルーラが言う。

「心強いな!分かったよ!ありがとう!」

ビライトはアルーラにお礼を言う。


「さぁ、行こう。目的地はヒューシュタットの南端。守護者の森の入り口だ。」

ファルトは空を飛び、ヒューシュタットの方角へ身体を向ける。


そしてゆっくりと外に出る。

朝日が照らす。長い一日の始まりだ。



「皆さん!気を付けて!」

「皆、世界を…頼むぞ。」

クルトとベルガが声をかけ、兵士たち一同も健闘を祈り、敬礼する。


皆は手を軽く振り、そして屋上から飛び立った。



ドラゴニアを出たらファルトの高速飛行が始まる。

ボロボロのドラゴニアを空から見るビライトたち。ヴァゴウは病院の方を見ている。


「…ゲキ、行ってくるからな。」

ヴァゴウは呟く。

すると、病院の屋上に誰かが複数人立っている姿を目撃した。


「…ゲキ!」

「おおっ!」

ヴァゴウとボルドーは手を振る。




「ヴァゴウーーーーッ!!!ボルドーーーーッ!!!みんなーーッ!!!頑張れよおおおおおおっ!!!!」

ゲキは目一杯声を張り上げてヴァゴウたちにエールを送った。周りに居るのはゲキを支える看護婦たち。



それだけではない、病院前の展望公園には多くの市民たちが居た。


「ボルドー様ァ!!!皆様!!頑張れーーーッ!!」


「頑張れーーーッ!!」


「この国はお任せくださいッ!!!」


「どうか、ドラゴニアに明るい未来をーーー!!」


皆が手を振って皆の出発を見送った。




「…嬉しいな。」

「あぁ。必ず帰ろう。俺様たちの国へ。」

「おう!」


皆は最後まで、病院に、城の屋上に、展望公園に手を振り続けた。

そしてドラゴニアの街を出て、ファルトは翼をパァンと横に突き出した。

「飛ばすよ。舌を嚙まぬよう気を付けたまえよッ!」


その言葉を聞いた瞬間、一気に速度が跳ね上がる。

喋る間もないぐらいの高速でファルトはヒューシュタットに向かって一気に飛んでいく。




朝日が昇り切る。長い1日の始まりだ。



-------------------------------------------------------




ファルトに乗って数時間、守護神の森を抜け、圧倒間にヒューシュタットの手前まで来た。


「…フゥ…着いたぞ。」

ファルトは少し疲れ気味ではあるが、着陸してビライトたちに声をかける。


が…


「うぅ…気持ち悪い…」

ビライトたちはあまりのスピードで頭を回していた。


「は、はは。すまないね。少し急ぎ過ぎたようだ。」

「だ、だが…もうヒューシュタットに着いたぞ…!」

「…そう、だな。」

流石にボルドーやヴァゴウ、クライドもフラフラ気味だ。


キッカだけは平気なようだが、ビライトたちは少しだけ落ち着くまでここで待機した。



「でもありがとう、ファルトさん。高速飛行は魔力を強く使うって聞いたけど…大丈夫なのか?」

ビライトはファルトに尋ねる。

「大丈夫。少し休めば良くなる。」

ファルトは少し顔に疲労が見えている。

「少し落ち着いたらもうその先はヒューシュタットだ。敵の総本山でもあるわけだ。警戒を怠るな。」


クライドは少しフラつきながらも周囲を警戒している。


気配察知の魔法をし、ヒューシュタットの方角を見る。

「…人の気配はほとんどしない。今日も変わらずオートマタの量産を行っているようだ。しかし熱反応を感じる。オートマタは町を徘徊しているようだ。」


「ここの人間たちはオートマタの量産で働かされているんだよね…」

キッカが言う。

「あぁ、ここの国民たちは何らかの理由で洗脳されているのだろう。皆が等しく死んだ目をしている。」


「初めてここに来たときは…確かにみんな死んだ目してたけど…皆が無理矢理労働させられてるとか…そんなことなかったのにね…」

レジェリーは呟く。

ビライトたちが初めてここに来たときは人々は確かに死んだ目をしていたが、人々は会話をしていたし、それぞれが自分の意志で行動をしていた。

だが、今は全員がオートマタの量産に携わり、誰も会話もせずにただ黙々と倒れるまで働かされている。


「そして、昨夜説明したが、ホウはヒューシュタットの東部の大戦争地に囚われている。まずは彼を救出し、安全な場所に避難させることから始める。」

クライドは東の方角を指さし、説明する。


「人質にされたらあたしたちは手出しできない…そういうことでしょ?」

「そうだ。」

レジェリーは納得し、頷いた。


「だが、ビライトとキッカ。お前は転送装置が使えない。」

「そっか、キッカがまた変になってしまうかもしれない。」

「そうだったね…ごめんね。私が足引っ張っちゃってる…」

「気にするなよキッカ。」


ビライトとキッカは転送装置を使えない。

キッカは最初ヒューシュタットに来た時に転送装置に魔限値を吸われ、魔限値欠乏症を患ってしまったのだ。


「故にここは二手に分かれる。まずビライト、キッカ。そして誰か1人はオートマタ量産工場を叩く。残りの3人でホウを救出する。」

一行は頷いた。


「うし、なら俺様がビライトとキッカと行く。まとめてぶっ潰してやる。」

ボルドーが名乗りを上げた。


「異論は?」

クライドが全員に聞くが、誰も反対者は居なかった。


「よし、では俺とレジェリー、ヴァゴウの3人でホウを救出に行く。ホウの避難先はこの守護神の森入り口。ビライト、キッカ、ボルドーは量産工場を叩く。だがあまり力を行使するな。この先に四従士やガジュールの戦いがあるのだからな。」


「フム…ではホウ殿がここに避難できたならば私は彼をドラゴニアまで逃がそう。クライド殿、それで構わないか?」

ファルトはクライドに言う。

「…お前の魔力とはしっかり相談することだ。」

ファルトの魔力は大きく消耗しているすぐの飛行は危険だ。

「…では、まずは匿おう。身の危険を感じたらホウ殿だけでもドラゴニアに逃がす。それで構わないか?」

「…分かった。任せよう。」



「これからのことが大体決まったみてぇだな。」

「おう。」

ボルドーは皆に言う。

「皆、ついてきてくれたこと。もう一度感謝するぜ。もちろん、お前たちにも未踏の地に行くためにヒューシュタットに行かなければならない理由があった。だが、それでも一緒に戦ってくれること、ホントに感謝してる。」


ボルドーは頭を下げた。


「誰も殺さねぇ。誰も死なせねぇ。だがヒューシュタット…いんや、ガジュールと四従士をとっ捕まえてこの国も、そしてドラゴニアも…世界も救う…改めて…協力してくれ。」


「…うん、でも相手は俺たちを殺しに来る。」

ビライトは呟く。


「だな…けど俺様は…殺すことは逃がすことと同じだと思ってる。きっちり罪を償わせてぇんだ。」

「全く、無茶なことを言うものだ。」

クライドはため息をつく。


「だが、殺めてしまう可能性はある。それはお前だって分かっているだろう。」

「分かってる。だが、そうならねぇようにしてぇ。」

ボルドーはクライドに現実を見ろと言われているような気がしている。だがハッキリとボルドーは自分の意志を伝えた。


「…頭には入れておいてやる。だが、保証はしない。それでいいな。」

「おう、それで構わねぇ。」


「ビライトたちもだ。ボルドーの意志は善処するつもりでいれば良いが、万が一のことは考えておけ。」

ビライトたちもクライドの言葉を聞いて頷いた。


「うし、必ず生きて帰るぞ。」

「うん。ボルドーさんも、皆も絶対死なせない。」

「皆で未踏の地に行こう!」

「おう、何処までも行くぜ。」

皆がそれぞれの決意をした。


「私は何も出来ないが…ここで君たちの帰りと、ホウ殿の奪還の成功を願っている。」


ファルトに見送られて、ビライトたちはヒューシュタットに入る。気配遮断の魔法をクライドが発動し、全員の気配が消えた。




「よし、ではここで2手に分かれるとしよう。ビライトたちには地図を渡しておく。印をつけている場所に生産工場がある。そして先に終わった方は図書館前に。そしてまだ終わっていない方へ合流する行動を取る。良いな?」

クライドの指示で一行は頷いた。


「よし、では作戦開始だ。健闘を祈る。」


クライドの声と共に、ビライト、キッカ、ボルドーはオートマタ生産工場へ。

クライド、レジェリー、ヴァゴウはホウ救出の為に転送装置で大戦争地へと向かった。


-------------------------------------------------------


ビライトたちは印に向かって走る。

「お、お兄ちゃんそっちじゃないよ!」

「え?あ、あぁすまん!」

ビライトは地図の場所とは違う道に入ろうとしていた。


キッカが呼び止め、ビライトは元の道に戻った。


「お前もしかしなくても方向音痴か?」


「う、ごめんボルドーさん…」


「気にすんなよ。地図は俺様が見よう。ビライトは俺様についてくる形にしようぜ。」


「わ、分かった。」

ボルドーはビライトから地図を受け取り、生産工場へ。


「なぁビライトよ。」

「ん?」

ボルドーは走りながらビライトに話しかける。


「お前はよ、ガジュールに対してどう思っている?」

「…許せない。だってヒューシュタットはドラゴニアを壊滅させた。多くの人が死んだ。フリードさんだって…それに…無理矢理蘇生させられたグリーディだって…被害者かもしれない。」


「だな。だが俺様は考える。どうしてヒューシュタットはこんなことをする?その理由はなんだ?シルバーだってそうだ。奴も何故ガジュールの配下に居るのか。俺様達は奴らを知らなさすぎる。」

ボルドーは考えていた。


自身も、ヴォロッドにもそれぞれが王であるが故の理念のようなものがある。

どのような王になりたいか。そう思った理由は何か。ガジュールは何を以ってこのようなことをしているのか。それが分かれば、戦いを回避できるのではないかと。

ボルドーはそう説明した。


「俺様はまだ王じゃねぇ。けど、王としての心構えはあるつもりだ。ガジュールは国民を無機質にし、スラムを作り、人間至上主義を作ろうとしてる。その理由はなんだ?何処に奴をそこまでさせるものがある?」


「それは…分からないけど。でも、どんな理由があったとしても俺は許すことなんて出来ない。」

ビライトの気持ちには少しの負の感情が渦巻いていた。


「ボルドーさんは悔しくないのか?憎いって思わないのか?」

「悔しいさ。憎いさ。そうに決まってる。」

ボルドーは言う。


「俺様も同じだよ。ヒューシュタットは俺様の大事な家族をたくさん殺した。復讐したいとも思うさ。許すことは絶対に出来ねぇ。だが、どんなに悪い奴でもやり直せる機会を与えてやりてぇ。許さないから殺す。許さないから永遠に牢獄に閉じ込める。それはそいつの可能性を潰しちまう。」


ボルドーは少し黙ってから呟く。

「あれだけ酷いことをした相手なのによ。そう思っちまうんだ。…つくづく甘ちゃんだなって思う。情報屋が呆れるのも分かる。」


「…ボルドーさん…」


「俺様には理解出来ねぇんだ。今のヒューシュタットがよ。何故こうなったのか。ガジュールは何故こんなことをしているのか。俺様はそれを知りてぇ。それが間違っているならぶん殴って改心させてぇ。」

ボルドーはビライトの少しだけ複雑な顔を見て言う。




「ま、俺様の少しの甘ちゃんにも付き合ってくれると嬉しい。誰も死なせない。誰も殺さない。だが…やむを得ない場合はやむなし。それは分かってる。けど俺様はしっかり償わせるチャンスを与えたい。」

「…そんなことが可能なんだろうか…」

ビライトはやはり複雑そうだ。


「ビライト、お前は優しい奴だからよ。俺様やヴァゴウ、フリード、ドラゴニアの為に怒ってくれている。許せないと言ってくれる。そいつは嬉しいよ。けどな。」

ボルドーはビライトの肩を叩く。


「その気持ち、それが強い憎しみに膨れ上がっちまうとお前が壊れちまう。」

「俺が…壊れる…でもこれは俺の中にあるものだ。誰かに伝播させるものじゃないよ。」


「だが、それじゃ駄目だ。上手く言えねぇけど…お前の抱えてるモン。皆に分けてやれ。きっと皆受け止めてくれる。お前の周りには大勢の味方がいる。」

「ボルドーさん…」


「なんてよ!ま、お前にも言われちまった言葉だけどな!そのままお返ししてやったぜ。ダハハ。」


「…でも、ガジュールがもし救いようのない悪だったら?」

「そんときはとりあえずぶっ飛ばす。腐った脳天叩き直してやる。」

「ははは…」


ビライトは内心怒り、悲しみ、憎しみ。そんな感情が渦巻いていた。

だが、それは自身のものであり、誰にもそれをまき散らすことはしてはならないと思っていた。

しかし、それを溜め込むことで自身が壊れてしまう。ボルドーはそれを心配してくれた。


「だが…殺していい命なんてねぇ。誰だってやり直せる。」


「…ボルドーさんは強い人だよ。俺は…ガジュールやシルバー、ブロンズに対して俺はそう思えない。ボルドーさんが出来ないなら俺が…」


「お兄ちゃん…」

ビライトはやはりボルドーの考えに完全に同意することは出来なかった。

言わんとしていることは理解できる。だが、それにガジュールたちが含まれるのかと言われればビライトはNOと答える。


「俺様はただの甘ちゃんだ。強くなんてねぇ。けどお前が理解出来ねぇのも無理はねぇ。俺様がちょっと変なんだと思う。」

「でも、ボルドーさんがその道を信じるなら…俺もそれを見届けたい。だから…ガジュールを止めよう。もうドラゴニアの時のような悲劇を繰り返しちゃダメだ。」


「おう、その通りだ。しかしすまねぇな。俺様のわがままを聞いてくれてよ。」

「信じてみるよ。」

「私も信じるよ!」

「キッカも信じてくれるって。」

「そっか。ありがとよ。」

ボルドーは小さく微笑んだ。


「さぁて、相手が機械なら慈悲もクソもねぇ!!まずは一発景気づけだッ!このオートマタ共をまとめてぶっ壊してやろうじゃねぇかッ!!」

「あぁ!」

ビライトたちは生産工場に到着。

門を警備しているオートマタに発見され、警報が鳴る。

そして多くのオートマタが中から現れる。


「多いな。いけるか?」

「もちろん!」

「うっし、行くぜッ!!」


ボルドーはエクスリストレイを発動。

ビライトもエンハンスを発動させ、正面から突っ込んだ。

「サポートします!」

「「うおおおおおおおおおおっ!!」」


ビライト、ボルドー、キッカのオートマタとの交戦が始まった。


-------------------------------------------------------


一方、クライド、ヴァゴウ、レジェリーは大戦争地にワープし、ホウが囚われている建物へと到着した。


「隠密魔法をかける。」

クライドは全員に隠密魔法をかける。

「ホウが居るのは奥だ。建物の天井が割れて上から侵入できるポイントがあることを確認している。そこから一気にホウに近づく。オートマタが立ち塞がるならば叩き潰す。」


レジェリーとヴァゴウは頷いた。

「行くぞ。」

クライドはジャンプして屋上まで登る。

「ちょ、あたし飛べないんだけど!あんたみたいにジャンプが出来るわけじゃ。ってうわっ!」

レジェリーをヴァゴウが抱きかかえた。

「あ、あれ?これサマスコールの時と同じ?」

「おう、行くぜっ!」


「ひゃっ!?」

ヴァゴウは高くジャンプした。

一瞬だけ翼が光、ふわりと宙を舞い、屋上に着地した。

ヴァゴウの魔力はドラゴンの次に魔力の高い人間を超えるほどの高いものだ。ドラゴンにみたいに自由に空が飛べるわけではないが、一時の浮遊程度ならば出来てしまう。


「奥だ。」

クライドは狭い足場を軽々と歩いていく。

「ついでだレジェリーちゃん。そのまま行くぜッ。」

「えっ!?」

ヴァゴウはその大きな身体のわりに素早い身のこなしでクライドの後をついていく。


「ら、楽だけどなんか…複雑~…」

レジェリーはヴァゴウに抱かれたままでちょっとだけ落ち着かない気持ちだ。




そしてクライドが指示していた屋上の割れ場に辿り着いた。

ちょうど真下にホウが居る。

謎の機械のホースに繋がれていているが、まだ生きている。


「周囲のオートマタは…熱反応が4つ。周囲に4機居る。センサーもあるようだが、まずはアレを遠距離から叩く。」

「うし、ならそれはワシとレジェリーちゃんで対応すっか。」

「え、ええ。分かったわ。クライドはホウ様を救助するのね。」

「良いだろう。力は温存しておけよ。」


レジェリーとヴァゴウは頷き、レジェリーは上から魔法を発動させる。

「グレイブサンダー!」

レジェリーは中級魔法、グレイブサンダーを発動した。

雷が地面に落ち、その雷は地面をえぐり取りながら周囲に拡散する。

センサーに命中して破壊。

更に次の発動した魔法で今度はオートマタに命中した。


「行くぜッ!」

ヴァゴウは飛び降り、痺れて動きが止まっているオートマタを狙う。武器の鉄製の鈍器を取り出し、オートマタに向かってぶん回し、オートマタを粉砕した。

「まだだッ!」

後方から銃撃しようとしているオートマタは気配を感じ取り、武具召喚で銃を出し、周囲に乱射した。



「サンダーボール!」

オートマタの弱点は雷属性魔法だ。

レジェリーは力をセーブする為、初級魔法を屋上からオートマタに向かって撃つ。


そしてクライドはホウに取りついているホースを抜く。

(…出血は無いが…身体にこんな大穴をあけるなど…)


ホウのホースを抜いた後は綺麗に大穴が開いていた。本来ならば出血多量モノだが、出血は無い。出血ギリギリのラインで止まっているのだろう。

そしてホースの先端には注射針のようなものがついており、その針からは緑色の液体が少しずつじわじわと出て来ていた。

(妙なものを注入しているな…栄養剤か何かか?)

クライドはホウの身体についているホースを全て抜き、ホウをおぶって屋上に向かってジャンプした。


「ヴァゴウ!ホウは確保した!」

「おう!」


ヴァゴウはオートマタを片っ端から引き付けて破壊していた。


「これからどうするッ?」

「妙なことをされては厄介だ。殲滅する。」

「そうでなくっちゃなァ!!」

クライドはホウをひとまず瓦礫の上に寝かせ、レジェリーと一緒に再び建物の中へ降りた。


「数は15。かなり奥に潜んでいたようだ。」

「たったの15?そんなのあたしたちにかかれば楽勝!」

「だが気は抜くなよ。」

「片っ端からぶっ潰すぞ!」


クライド、レジェリー、ヴァゴウもまた、多くのオートマタと会敵。



それぞれの戦いが巻き起こる。



-------------------------------------------------------



「おるああああああ!!」

ボルドーとビライト、キッカは100を超えるオートマタと会敵していた。

主にボルドーが周囲を範囲魔法でまとめて破壊しているため、100いても大した問題にはなっていなかった。

ビライトもキッカの補助魔法と自身のエンハンスを併せて発動し、オートマタたちを片っ端から倒していた。


「やるじゃねぇかビライト!強くなってるのを感じるぜ!」


「ボルドーさんが鍛えてくれたからだよ。ボルドーさんにも負けないぐらい強くなりたいからな!」

「へへっ、良いねぇ!頼りにしてるぜ!」


「しかし…あとどれぐらい居るんだ…!生産工場からどんどん湧いてくる!」


「中に居た人間たち…ピクリとも動かない…工場が止まったら身体も動かさないってこと…?洗脳にしても強すぎる…!」

工場内の人間たちはピクリとも動かなくなった。

工場が壊れて、脳にエラーでもかかったような雰囲気で、気味の悪い…


「しかし、キリがねぇな…出来ればここは片っ端からぶっ潰しておきてぇが…」


「ならばその役目は我々が担おうではないかッ!」


「!」

「この声…!」


奥から声が聞こえる。上だ。


「!!あれは…ドラゴン!?しかもたくさん!その上に…」

キッカは驚いて目を見開く。

「へっ、アルーラめ、仕事が早いな!」

「えっ!?」


「かかれっ!!」


ドラゴンたちは空中からブレスを吐き、そしてドラゴンの上からは鎧を着た獣人たちが一斉に飛び降り、オートマタたちと交戦を始める。




「ハッ!」

大きなドラゴンから大きな巨体が飛び、地面に着地する。


「ヴォ…ヴォロッドさん!?」

そこに居たのはヴォロッドだった。ワービルトの王であるヴォロッドがここに居る。


「ビライト、キッカ、ボルドーよ。ここは我がワービルトが引き受けよう。」

ヴォロッドは襲ってくるオートマタを破壊しながら言う。


「アルーラが手配をしていたと言っていたが…まさかお前まで来てくれるとはな!」


「フッ、ヒューシュタットは我々にとっても脅威だ。そしてお前たちの反撃に乗じて我々も参戦をしてやった。お前たちはさっさと大元を叩き潰してこい。」


「良いのかよ。ヴォロッド王ともあろう者が雑魚の掃除なんてよ。」


「構わぬとも。こいつらが全員片付いたら私たちもヒューシュタットの城へと向かう。間に合えば私もお前たちと共に参戦しよう。」

ヴォロッドは会話しながらでも余裕でオートマタをバッタバッタと倒してしまう。


「分かった。やられんじゃねぇぞ。」


「それはこっちのセリフだ。お前たちがこれから挑まんとする者は全く得体のしれぬ奴よ。お前たちとはまた戦いたい。だから死ぬことは許さぬ。必ず生きて戻るのだ。」

ヴォロッドは最後に大きな声で「行けッ!!」と声をあげる。


「行くぜ。情報屋たちと合流だ。」

「あ、あぁ!ヴォロッドさん!ありがとう!」

「ありがとうございます!!」


ビライトたちのお礼にヴォロッドは小さく頷き、再び交戦を始めた。


ビライトたちは合流地点である図書館前に向かって走り出す。


-------------------------------------------------------



図書館前には既にクライドたちが待っていた。


「クライド!」

「来たか。奥から多くの獣人の気配がする。ワービルトか?」

「あぁ、ヴォロッドさんが率いてオートマタたちと交戦している。」

「ヴォロッド様が来ているの!?凄い!百人力じゃないの!」

レジェリーは嬉しそうに喜ぶ。


「ホウさんは?」

「無事だ。」

ヴァゴウに背負われている人間が居た。

「この人が…ホウさん…」

ホウは気を失っている。健康状態もあまりよくなく、ホースのようなものが繋がれていた部分はひどくただれていて、激しい炎症を起こしている。

「このままだと炎症部分に細菌が入り、余計に酷くなるかもしれん。そうなれば身体も危険かもしれん。急いで治療する必要がある。」

クライドは守護神の森の方角を見る。


「一刻も早く城に向かうべきだが、まずはファルトの所にホウを運ぼう。」

クライドの声に一行は頷くが…



「その必要はないわよ。」

女性の声、図書館から出てきたのは竜人。アリエラだった。


「アリエラさん!」

「久しぶりね。」

「知り合いか?」

ボルドーが尋ねる。

「最初にヒューシュタットに来た時に世話になったんだ。」

「そうか。なら味方ってことだな!」

ボルドーは安心し、ホッと息を吐く。


アリエラは小さく微笑んだ。


「その必要が無いとはどういうことだ?」

「私が彼を届けてあげる。だからあなたたちは早くガジュールの元へと向かいなさい。」

アリエラは魔法だろうか。ヴァゴウの背からホウを引き離し、宙に浮かせた状態にする。


「いいんですか?」

キッカが尋ねる。


「ええ、あなたたちには是が非でもガジュールを打ち倒して欲しいから。誰かに任せられる労力は誰かに委ねなさい。」


「…言葉に甘えよう。」

クライドが言う。


「…世話になった身だがよ。信用できんのか?」

ヴァゴウが言う。

「大丈夫だ。根拠は無いが…信用できる。大丈夫だろう。」

「ありがとう、信用してくれて。」

クライドは少しこのアリエラという竜人に似た気配を感じる者を知っている。少なくともその人物は信用出来ると思っているからだ。



「うし、話がまとまったなら早速出発だ。ガジュールをとっ捕まえてドラゴニアを…世界を守るぞ。」

ボルドーの声に一行は強く頷いた。


「あっ、ちなみにだけど…ガジュールの能力、少しだけ提示してあげる。後は自分たちでやってごらんなさい。」

「えっ?」


アリエラはそう言い、ビライトたちに何かをした。それは電波のようなものだろうか。

全員の脳内に電気信号のようなものが走った。


「こ、これは…ガジュールの情報?」

「…確かな情報か?」

「ええ。」


全員に伝わった情報はビライトたちにとっては有利な情報であることは間違いないだろう。


「さ、もう行きなさい。無事と勝利を祈っているわ。」


一行は頷き、城に向かって走り出す。



「…さてボルドー・バーンはガジュールを殺さずに法で裁いて改心させるつもりみたいだけど…出来れば殺して欲しいのよねぇ…アレは救いようのない奴だし。まぁ…やれなくても“抑止力”が動くから問題ないけど…」

アリエラは独り言を言いながらホウを浮かせたまま守護神の森に向かって歩き出す。


「まぁでも、そんな甘ったるい考えも、私は嫌いじゃないけど。」



-------------------------------------------------------

「本当だと思うか?」


「可能性はあるだろう。」

アリエラから提示された情報。


それは二つ。


「一つ。ガジュールの絶対零度魔法は炎の力を宿していれば無効化出来るということ。これはキッカ、ボルドーが対応可能だ。」

クライドが走りながら説明する。


「二つ。ガジュールは…転生者だ。」

「…転生者…しかも、かつて世界を支配しようと企んだ悪い奴の魂が宿っているって…」


「あぁ、転生者は自身が転生者と自覚出来れば高い能力を発揮できるようになると聞いている。ガジュールも例外ではないだろう。」


この二つの情報がどこまで生きるかは分からないが、ビライトたちはそれを頭に刻んで先に進む。






「ここから入る。」

クライドが指示した場所はマンホールの下。


ここから地下道に繋がっていて、そこから城に侵入できる。

最も城というよりはビルと呼ばれる建物なのだが、ビライトたちからすればそれは城だ。



「うげっ、地下道~…?」

レジェリーは嫌そうな顔をする。

「…ならお前は正面から入るか?」

「えっ、え~っと…」


「行くぞ。」

クライドを先頭にビライトたちは地下道に入る。


「も、も~っ!!」

レジェリーは追いかける形でクライドたちの最後尾をついていく。



「地下道は誰も居ないんだね。」

キッカは周囲を見て呟く。

「そうだな…でも、誰も居ないのは好都合だ。」

ビライトはクライドについて歩く。


「ここから少し行った先に上へと繋がる梯子がある。上を出れば相手の総本山だ。」



「…戦いは近いってことだな。さっき、アリエラから得た情報が本当なら…対策は可能だ。」

ボルドーが言う。

「ただしこれは1人では難しい。なるべく多くの人数でガジュールと対峙する必要がある…最低3人は欲しいところだな。」

「…道中には四従士の3人が居る。最悪ガジュールの元に全員が居る可能性もある。」


最低3人とは言うが、全員がたどり着く。それが大前提の戦いだ。相手の動きによってはこちらが不利にも有利にもなる。

「相手はどういう立ち回りで来るかはまだ分からない。侵入した際に気配察知は行うが…対策されている可能性はある。気を抜くな。」

一行は頷いて、梯子に到達。一人ずつ昇っていく。


「…誰も居ない。」

クライドは誰も居ないことを確認し、手で合図をする。

一行は倉庫に出た。

その扉の向こうから熱を感知した。


「…この先は1階の玄関…エントランスだ。オートマタは5体。奥にエレベーターと呼ばれる昇降装置がある。これを使えば一気に上層まで上がることが出来る。」

クライドは小声で一行に建物の情報を伝える。


「この城は108階建て。図によればエレベーターで100階まで上がることが出来る。その先は階段でしか昇ることは出来ないようだ。」

「…つまり、このエントランスを突破すれば100階までは上がれるんだな。」

「あぁ、そして四従士の3人が待っているとすればこの先だ。この城の100階までは主にこの国の業者等が入っているようだからな。」

「つまり、100階までの人たちは無関係…ってことでいいんだな?」

ボルドーが尋ねる。

「そうだ、まぁ最も…ここで働いている連中は皆、オートマタの生産工場に出払っているだろうがな。」


「クライドは気配遮断の魔法を使う。」

「重力魔法で奴らを一か所に集める。レジェリーとボルドーの雷魔法で一網打尽にする。」

「うん、分かった。」

「おう、任された。」


クライドは扉を開け、中心へと一気に走り抜け、柱を蹴り宙を舞う。

「グラビティアドー。」


グラビティアドー。

重力系の闇魔法だ。


エントランスの中心に重力場を発生させ、オートマタたちはその重力場に引き寄せられる。

5体のオートマタが中心に集まる。


「レジェリー。」

「はい。」


「「スパークボルト!」」


レジェリーとボルドー、2人の雷魔法が5体のオートマタを故障させた。煙をあげて倒れるオートマタたち。



「…警報は…鳴らないか。それもまた妙だが…」


クライドとボルドー、レジェリーは中央に集まり、ビライト、キッカ、ヴァゴウがそれに続いて出てきた。


「エレベーターに行くぞ。」

クライドは気配遮断を全員にかけ、エレベーターに乗り込む。


100階に繋がるボタンを押し、エレベーターは100階に向かって昇り始めた。


「…」

クライドは少し考える。

「どうした?」

「いや、どうも上手くいきすぎていると感じる。100階に着いたら一層警戒せねばならん。」


100階までもう少し。チンと音がし、扉が開いた。

(100階でございます)

音声が流れ、ビライトたちは100階へと足を踏み出した。

周りは電気もついておらず暗くなっている。


斜め向かい先に立ち入り禁止となっている昇り階段があった。


「…結界のようなものが張られている。そして…この上から気配も感じる。少し待て。」

クライドは気配察知の範囲を出来る限り広くし、上の階層の気配も感じられるようにした。

しかし、判断できるのは105階までであった。

この建物は108階建て。

106階以上の情報は得られなかった。


「105階までの情報はある程度得られた。そこまでに多くのオートマタの気配を感じた。だが1つだけ生物の気配を感じることが出来た。これは人間の気配だ。」


「シルバーかブロンズ…」

「そうみて間違いはあるまい。そしてまず1人は単独であることも分かった。ドラゴニアで計画した通りの予定で行く。」


シルバーなら、ヴァゴウとボルドーが。ブロンズならビライトとキッカ。それぞれが中心になって戦う。


「これから先はある程度は臨機応変が求められる。俺の計画も絶対安全の保障は無い。」

クライドは続けて言う。

「だが大前提はガジュールの元にはなるべく人数が多い状態で挑みたい。途中で遭遇する奴らは短時間で片付けろ。」

「また無茶を言うわねぇ…」

「そういう相手だ。」


「みんな。それぞれ最終目的は異なるかもしれないけど、何よりドラゴニアの為、そして未踏の地に行くため。この気持ちは同じだと思う。だから…みんなで必ず勝って…そしてみんなで帰ろう!」

ビライトの声に皆が頷く。


「おう!必ずだ!」

「あたしだってやるんだから!」

「…あぁ。」

「世界の為、お前らの為。全力を尽くすぜ。」


一行は全員の手を合わせた。


「必ず生きて帰ろう。」

「「「おう!」」」


戦いが始まる。


ヒューシュタット城。世界を救い、そして未踏の地へと行くためのビライトたちの戦いが今、始まる。






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