Delighting World ⅩⅩⅩⅦ
“~ドラゴニアに眠りし聖なる竜の輝きよ、我が願いを届けよう~”
~其の願い、歴史と共に在り、真の願い、竜の国の誇りと優しさの源、心に在り~
~我が心の輝き、国と共に在り~
~ryu kine rudas midness serus aburon frile gridle orseld wick argus mire tonaya serius mersy―――――beruga――――bordo―――brunk―――――~
~命の輝きよ、全ての願いよ、竜と共に天へ舞え、空を翔けよ、我こそは竜と共に在り~
~顕現せよ究極魔法~
~聖なる竜の浄化【ドラゴニック・ピュリフィケーション】~
---------------------------------------------------------
その光はどんな光よりも白く、そして美しく人々を優しく包み込んだ。
この場に
いや、この国に、ドラゴニア全国土に居る人々は全員が優しい光に包まれた。
「――――フリードォォォォ!!!!」
しかしその包まれた優しい光とは裏腹に、ボルドーは叫んだ。
“聖なる竜の浄化【ドラゴニック・ピュリフィケーション】”
それはドラゴニアに昔から伝わる究極の浄化魔法。
全ての魔法を無効化し、ドラゴニア全土を包み込み…悪しきものをも浄化させる…我がドラゴニアに伝わる究極の“禁断魔法”
その光は全ドラゴニア国民や、冒険者たちに祝福を与えた。
そして、悪しき者は浄化される。
「バ、バカな…!この妾が…!こんな…!」
魔竜グリーディもまた、白き光に包まれた。
身体が浄化されていき、光線は消え失せ、グリーディの力は完全に無効化された。
身体が動かず、魔力も使えない。グリーディは何も出来ぬまま地面に転落して、大きな音を立てた。
じゅわぁと音を立てて腐った身体がドロドロと溶けている。
そして、ドラゴニアにて、怪我をしていた人々の傷は癒え、人々は心に確かな温かさを感じた。
「この気持ちは…」
クルトは胸に手を当てる。
「感じる…この暖かさは…フリード…お前なのだな。」
クライドは聖なる竜の浄化【ドラゴニック・ピュリフィケーション】を使ったフリードを見る。
「暖かい…とても、優しい気持ちが…込み上げてくるようだわ…」
レジェリーは涙がボロボロと流れていく。その暖かさに包み込まれ、皆が涙を流した。
「…フリードさん…凄い…」
「綺麗…」
ビライトとキッカはその力の壮大さに感動を覚えるしかなかった。
だが、2人はその力の代償を知っている…
ヴァゴウとボルドーはその暖かさとは異なる、険しい顔をした。
「…フリード…すまねぇ…ワシらの力が…足りなかったッ…!」
ヴァゴウは悔しくてたまらなかった。
ヴァゴウの怪我は癒え、ゆっくりと立ち上がった。
そして、グリーディが墜落していった方へと歩き出す。
「オ、オッサン!何処へ行くんだよ!」
ヴァゴウは何も答えることなく歩いていく。
一方ボルドーはフリードの姿をずっと、ずっと眺めていた。
「…馬鹿野郎…」
そう呟き、ボルドーは拳を震わせた。
やがてフリードには変化が起こる。
その浄化魔法がドラゴニア全土に伝播し、全てが終わる。
フリードの身体は白くなり、そして身体が灰となり、徐々に崩壊していく。
「フリード…フリードッ!」
ボルドーはグラッと落ちていきながら消えていくフリードを追いかけた。
「俺様は…まだ!!まだあんたに…何も出来てねぇんだッ!王になって…そして……あんたに…恩返ししてぇんだ!見て欲しいんだッ!王になった俺様を…死ぬまで見てて欲しかったんだッ!」
ボルドーは走る。そしてやがて、フリードの身体の真下に行き、叫ぶ。
「俺様を置いていくなッ!」
ボルドーは悲痛な叫びを空へと届ける。
フリードの身体はもうわずかしか残っていない。
(ボルドー、皆。悲しむことは無いぞ。)
フリードの声が聞こえる。
「…フリード…!」
(儂は魂となりその流れに乗り、大地に還る。それすなわち、儂はこの世界と一緒になるということ…このシンセライズという世界で、このドラゴニアの大地と共に…
“儂はここに居る”そう、いつまでもな。)
「フリード!」
(立派な王になれ、ボルドー。誰よりも優しく、誰よりも笑顔で、誰よりも強き王に…―――――――――)
「あぁ…あぁ…なってやる…世界中の誰よりも最高の王に…なってみせるからなッ!!だから…ずっと、俺様が死んでも!そのずっとずっと未来まで…見ててくれよな…!」
ボルドーは拳を天に突きあげた。
必死に涙をこらえ、笑顔で笑って見せた。
表情こそ分からないがフリードは笑ったように見えた。
そしてフリードのカタチをしていた身体は灰となり、完全に消えてしまった。
舞い散る灰の一握りを掴みその手を解く。
掌でその灰はくるりと周り、やがてドラゴニアの空へと舞い散っていった…
(ドラゴニアよ、永遠に…)
その光景を見て、クルトたち、そしてドラゴニア兵たち。
そして病院に居るメルシィたち。
城に居るベルガ、ファルト、アルーラ。そして一般市民の人たち。
ベルガに抱かれているブランクもその光をじっと見ていた。
「うあ!あうあ~」
「…美しいか?…我がドラゴニアの…命の輝きだ。」
「?」
「…フリード…すまない…すまない…」
ベルガは涙を流し謝った。ブランクはそれを不思議そうに見つめ、その手をベルガの顔に伸ばした。
「…ありがとうな。」
ベルガはブランクを撫で、涙を流しながら微笑んだ。
皆が、その光景が見える場所へと赴き、各地でフリードの意志を受け取り、そして祈った。
それはドラゴニア本国だけではない。
遥か南のサマスコールや、その他点在する小さな町や村からも、その祈りは伝えられた。
全てのドラゴニアに生きる人々の祈り、願い、涙。それは全てここに集約し、フリードは全ての人々から見送られ、天へと昇っていった。
-------------------------------------------------------
―――――――――――やっと…終わったのか。
長い人生だった。
魂が還る時だ。
この時をずっと待っていたと言ってもいい。
何故ならこの先にはきっと…ほうら。居た。
「フリードさん。」
「フリード。」
「「「「フリード様」」」」
儂は人間の姿に戻っていた。
この手を見るのも久しぶりだ。
そして目の前には今まで見届けてきた王たちと、そして儂が初めてドラゴニアに来た時、いいや、前の居た世界“アーチャル”で出会った友たちもそこに居た。
「悪い待たせた、セラス。」
「ホントですよ。1000万年、待ちました。」
「待っててくれてありがとな、アバロン。」
「フン、セラス様が待つと言って聞かぬから待ってやったんだ…だが、会えて嬉しいぞ。」
懐かしい。はるか遠く、ずっと昔。この足で歩き、この身体で冒険したあの日々を。
そしてドラゴンになってから出会った多くの歴代王たち。
「フリード様、参りましょう。」
「これまでのお話、たくさん聞かせてください。」
「…あぁ、そうだな。では…まず何から話そうか。」
ああ、そうだ。今お別れしてきた…現在、これから王になろうとしている”アイツ”の話をしよう。
やがて彼は王となる。
誰よりも強く、優しく、温かい…
その名は――――“ボルドー・バーン”
ワイワイと楽しく魂の道を歩いていく。
シンセライズに生きる者達よ。
強く、優しく、温かく、そして、楽しく生きろ。
辛いことも悲しいことも、全てが1つの人生であり、かけがえのない宝物だ。無駄なことなど何もない。
人生は
楽しいぞ。
-------------------------------------------------------
灰となって消えたフリード。空の雲は消え、空はオレンジ色に染まった。
時刻は夕方。
夕日が崩壊したドラゴニアを優しく照らす。
「…終わった…か。」
アルーラはガクッと跪く。
「アルーラ殿!」
「大丈夫だ…もう少し…」
アルーラは結界をまだ解除しない。
最後の役割が残っているからだ。
「“奴”もまた…魂の流れに…乗せてやらねばならぬ…それに手を下すのはお前だ。ヴァゴウ・オーディル。」
「多くの犠牲がありました。ですがこの防衛戦は…我々の勝利となります。皆さん、胸を…張りましょう…!」
クルトは兵士たちに伝える。
兵士たちは涙を流しながら「ウオオオオオオオーーーーーーーッ」と高らかに叫び、クライドはレジェリーに手を差し出す。
「立てるか?」
「…立てるわよ。」
レジェリーは立ち上がり、空を見上げる。
流れていた涙を拭い、呟く。
「あたし、もっと強くなる。」
「…その決意があれば、何処までも強くなれる。」
「…うん。」
-------------------------------------------------------
そしてヴァゴウは…
「…生きてるか?」
「…何を…しに来た?」
ヴァゴウはグリーディが落下した地点に来ていた。
「…あんたを眠らせに来た。」
ヴァゴウは武器を呼び出す。
それはビライトが使っているような大剣だ。
「そうかい…」
グリーディにはもう抵抗出来る力は残っていない。聖なる竜の浄化【ドラゴニック・ピュリフィケーション】によって、グリーディの力は完全に無効化された。
「オッサン…」
「お兄ちゃん。」
追いかけてきたビライトはヴァゴウに声をかけようとするが、キッカがそれを止めた。
「グリーディは何も出来ないよ…それに…最初で最後の会話だと思うから…見守ってあげようよ。」
敵対をした。そして自分を贄として食おうとした。
それでも、あの2人は…親子なのだ。
これが最後の会話だ。
「…そうだな…」
ビライトとキッカは2人を見守ることにした。
「…ククク…なんてことだ…まさかお前にトドメを刺されることになるなんてね…」
「…それがワシの役目であり、責任だ。あんたの業はワシが終わらせる。それが子として、生き延びた者の責任だ。」
「――――妾は…いいや、私は…強さを求め続けた。小さなドラゴンの集落で生まれた私は出来損ないとして生まれ…同族にもまともな扱いはされなかった。」
グリーディは静かに語りだす。
「いつか見返してやると努力を続けたがそれが実ることは無かった。だから食らった。ヒトを、魔物を。食らって、食らって。そして力を得ていった。」
「それで…多くの人々を殺し、そして…廃草地を支配したのか。」
「そうさ、いつしかそれは快感に変わった。もう私を止めることなど出来ぬ。そう思っていた。」
グリーディは目を閉じ、フッと息を吐き、全てを諦めたように笑った。
「だが現実はこの有様だ。無理矢理生き返らせてもらったと思えばこのザマだ。私は結局出来損ない。誰かを食らうことでしか強くなれぬ。何かを滅ぼさねば生きてはいけぬ。」
グリーディの目は明らかにこれまでとも、ヴァゴウが見てきた回想の中とも異なっていた。
聖なる竜の浄化【ドラゴニック・ピュリフィケーション】の影響か、心までも、グリーディを浄化したのかもしれない。
そこに居るのは魔竜などではない。ただのドラゴンだったのだ。
「…あんたも…辛かったんだな。だが…同情はしねぇ。あんたのやってきたことには…ワシが裁きを下す。」
ヴァゴウは剣をグリーディに向ける。
「構わぬさ…さぁ、もういいだろう。私の核は腹の裂け目の中だ。殺せ。」
グリーディは目を瞑り、死を覚悟した。
「……最後に、言わせろ。」
ヴァゴウは呟く。
「…」
グリーディは何も答えない。
「ワシはあんたの腹から生まれ、そしてここまで生きてきた。死ぬほど辛い目にあってきた。何度も死にたいと思った。けどよ…その中でこんなワシに手を差し伸べてくれた奴らがたくさんいた。」
ヴァゴウは続けて語る。
「ただ食われるだけの運命だったことも最近知った。だがワシは色んな仲間に支えられて生き延びた。辛いことばかりだったが……今こうやって生きていられることを本気で嬉しいと思っている。」
ヴァゴウはグリーディの腹に移動し、手を震わせ、グリーディの核に剣を突き立てる体制に入る。
「色んな出会いがあった。色んな優しさや愛を知った。生きていなければ…産まれてなければ知らなかったことばかりだ。だからよ…」
ヴァゴウはグリーディの顔を見て言った。
「――――産んでくれてありがとう。」
一滴の涙を流し、ヴァゴウはグリーディに言った。
「最悪だね。反吐が出るよ。」
それがグリーディの最後の言葉だった。
-------------------------------------------------------
戦いは終わった。
あの後、ドラゴニア兵たちは残ったオートマタたちを探したが、グリーディ消滅と同時刻に姿を消した。
グリーディが倒れたことで、全てのオートマタも撤収されるようになっていたのだろう。
ドラゴニアから離れた丘の上では、シルバーが気に入らなそうにドラゴニアを見ていた。
「フン、グリーディめ。くたばったか。」
ドラゴニア全土に伝わったフリードの意志など、全く気にもせずに、ドラゴニアを見下すシルバー。
「しかし、グリーディの力を以てしてもドラゴニアを落とせないとは…だが…」
シルバーは微笑んだ。
「もうドラゴニアには戦力はほとんどあるまい。再び攻めるに必要なオートマタを再生産し、再び襲えば良い。」
シルバーは通信機のようなものを出し、連絡を取る。
(――――シルバーか)
「ガジュール様、グリーディが倒れドラゴニアの侵略に失敗しました。大変申し訳ありません。」
シルバーは起こったことを正直に謝る。相手はヒューシュタットの王、ガジュールのようだ。
ビライトたちも一度遭遇しているが、まるで機械人間のような冷徹な機械の目をした心臓を一瞬で凍らせる氷魔法の使い手…であることしかわかっていない。
(私は全てを見ている。結果は既に知っている。)
「ハッ…それで…いかがいたしましょう。」
(ドラゴニアはしばらくは動けないであろう。オートマタの量産を急がせよ。再度ドラゴニアを襲い滅ぼせばよい。)
「かしこまりました。国民の使用率を70%から90%へと増加、スラムの者たちも強制労働させる方向でよろしいですか?」
(構わぬ。早急に体制を立て直し、ドラゴニアにトドメを刺す。)
「かしこまりました。」
会話を終え、通信を切るシルバー。
「奴らは…ボルドー・バーンたちは必ずヒューシュタットに攻めてくる。我々も迎え撃つ準備をせねばなりませんね。」
新しい戦いはすぐそこまで来ている。
次は、ヒューシュタットとドラゴニアの戦争だ。
-------------------------------------------------------
クルトの指示を中心にドラゴニア兵たちは早速復刻作業に取り掛かることになった。
城に避難していた一般市民たちも自身の倒壊した家に戻り、片付け・瓦礫の処理等を行っていた。
傷はあまりにも深い。遺体は全てドラゴニアにある墓地に搬送され、1人1人、丁寧に並べられた。
見つかっただけでも数百人は居た上に、今だ瓦礫の下に埋もれている遺体も多くある。
ヒューシュタットの襲撃で多くの人々が亡くなり、生き残った者にも深い身体の傷と、心の傷を刻み付けた。
ビライトたちは城に戻り、屋上に集まっていたベルガたちとの再会に一時の安心を得ていた。
「ベルガさん!」
「無事でなりよりだ…本当に…」
「ベルガさんも無事でよかったです!」
ベルガに迎え入れられ、ビライトたちは生き残ったことへの喜びを感じる。だが、その過程には多くの犠牲がある。
素直に全力で喜ぶことはもちろん出来るわけもない。
「アルーラ殿、本当にありがとう。そなたの力が無ければこの城も攻め落とされていたかもしれぬ。」
「構いません。これは私の意志でもあり、ヴォロッド王の意志でもあります。」
アルーラは大幅に魔力を消耗してしまい、動けずに居た。
「アルーラ…大丈夫?」
レジェリーが声をかける。
「私のことは良い。それよりお前の方だ。」
「…魔法使ったこと…怒ってる?」
「怒ってはいない。私はこれでもお前の心の傷を心配している。」
フリードの犠牲、町の犠牲、人々の犠牲。
多くの犠牲により皆は深く傷ついている。
「…あたしは…」
「…今はゆっくり休め。私も魔力が戻り次第、ワービルトへ戻る。」
「…うん。」
「うう~、うあ~」
「ブランク、怖かったな。すまねぇな。」
泣いているブランクをボルドーはなだめる。
だがボルドーは心ここにあらず…といった状態であった。
「あなた!!ブランク!!」
「メルシィ…!」
メルシィが病院から戻ってきた。
「ああ、良かった…無事で何よりです…!」
メルシィはボルドーとブランクを抱きしめ、涙を流した。
「怪我…してますね。その、色々とありましたから…ゆっくり…休みませんか?」
メルシィはどこか上の空なボルドーを見て、気を遣って言う。
「…だな。あぁ。そうだ、な。」
ボルドーは寂しげな表情で応える。
「…街、ボロボロだね。」
「…あぁ…」
キッカとビライト、そしてクライドは町を屋上から見る。
あちこちではまだ火災が起こっており、多くの兵士たちが作業を行っている様子が見える。
「…ヒューシュタットはまた襲ってくるかもしれん。」
クライドは呟く。
「…そうだな…これで引き下がるなんてそんなことは無いはずだ。」
ビライトはヒューシュタットの方角を睨む。
「酷かもしれんが、俺たちには心の傷が癒えるのを待つ時間はあまり残されていない。」
「…そう、だね…立ち止まってる間にもヒューシュタットは準備を進めているかもしれないもんね…」
ビライトもキッカも深い心の傷を負った。だが、戦いはそんな傷を癒すことを待ってはくれない。
「…ビライト、キッカ。俺はこれからヒューシュタットに行く。」
クライドは頭にフードを被る。
「えっ、どういうことだよ。」
「ヒューシュタットの動向を探る。今度は俺たちが奴らを攻める番ということだ。」
クライドは屋上から飛び降りようとする。
「クライド。」
話しかけたのはボルドーだ。
「聞いていたか?」
「ヒューシュタットに行くのか?」
「あぁ、ヒューシュタットの状況と、ついでに前王のホウの行方も調査してくる。」
「…そうか。世話をかけるな。」
「気にするな。戻るまでに4日はかかる。それまでに次の準備をしておけ。」
「すまねぇ…サンキューな。」
ボルドーは頭を下げる。
ここからヒューシュタットまで行くのに、クライドの足でも1日以上はかかる。行きと帰り合わせても2日はかかるのだ。
更にヒューシュタットの調査を2日で終わらせ、ここに戻る予定だという。
「…5日経っても戻らなければ俺に何かあったと思え。そしてその時はお前たちの判断で行動しろ。良いな?」
「分かった。」
クライドが屋上から飛び降りようとした時…
「クライド殿。私を使うと良い。」
ファルトが声をかけた。
「ファルト…」
「私ならば半日も経たぬうちにヒューシュタットの傍まで行ける。」
ファルトはクライドに提案した。
「良いのか?お前の役目は終わった。これ以上の助けは不要と判断するが。」
「これは私の意志だよ。私とて、ヒューシュタットをこのまま見逃すわけにはいかぬよ。ヴォロッド様もそれは望むまい。アルーラ殿もそう思うだろう?」
ファルトはアルーラに聞く。
「そうだな、王はそれを望まぬだろう。ファルトが不在となるならば私はワービルトには戻れぬ。故に私の帰国は延期しよう。ヴォロッド様に別の高速ドラゴン便で文を送らせる。」
ファルトとアルーラはクライドにファルトに乗るように推薦した。
「…分かった。ではお言葉に甘えよう。」
クライドはファルトの背に乗った。
「ビライト、キッカ、ボルドー。今日はヒューシュタット近くまで行き、明日から行動を始める。故に2日と半日程度で戻る。それまでに準備をしておけ。」
「分かった。クライド、無理はしないでくれよ。」
「分かっている。情報屋は引き際を知っている。」
ファルトは翼を羽ばたかせ、屋上からクライドを乗せて飛び出した。
ファルトはあっという間に空の向こうまで飛んで行ってしまった。
「クライドさん、大丈夫かな…」
「大丈夫だよ、クライドは優秀な情報屋だから。」
「うん、そうだね…」
「おう。信じよう。情報屋を。」
ビライトとキッカ、ボルドーはクライドとファルトを送り出した。
-------------------------------------------------------
「ヴァゴウ殿、皆、城に行かれましたが…」
「…あぁ、すまん。もう少し、ここに居てぇんだ。」
ヴァゴウはグリーディの傍で座り込んでいた。
「ですがこのままグリーディの遺体を放置するわけにはいきません。」
「分かってる。でも、もう少し…ここに居たい。構わねぇか…?」
「…分かりました。では、翌朝まで待ちます。その後は申し訳ありませんがグリーディの遺体は処分させていただきます。」
「あぁ、それでいい。」
兵士にグリーディの処分を言い渡されるヴァゴウだが、今はここに居ることを辞めたくは無かった。
グリーディの腹にはヴァゴウの突き刺した大剣が刺さっている。
核は破壊され、既にグリーディは息絶えている。
「反吐が出る…か……ガハハ、ワシもだよ。クソ親め。」
ヴァゴウは空を見上げた。
夕日がまぶしく、そして風が強く吹いている。まだフリードの灰が舞い散っており、それはヴァゴウの身体にもふわふわと飛んでくる。
「なぁフリード…ワシは…どうすれば良かったんだろうな。これで…良かったんだろうか…なぁ…教えてくれよ……」
ヴァゴウの顔には涙が絶えず流れていく。
「ワシは…ワシはな…本当は……
親の暖かさを…知りたかったんだ…」
風の音、煙の音、兵士たちの声。
そんな音に紛れてヴァゴウは泣いた。
泣きたくなんてないのに。
だが、涙が止まらない。
ヴァゴウはグリーディの身体に触れ、泣いた。
「ワシは…オオッ…ウオオオッ…」
虚しい声が辺りに鳴る。泣くなど無意味だ。だが、今だけは。今だけは。その涙をこらえずに泣きたい。
そんなことがあってもいいじゃないか。
そう自分に言い聞かせ、ヴァゴウは気が済むまで。その夕日が沈み夜になるまで涙を流し続けた。
そして、その涙が乾いたら…また前に進もう。
夜が来る。
それぞれが心の傷を背負い、それぞれが様々な思いを背負い、ビライトたちは情報集めに向かったクライドの帰りを待つことになる。
第8章 ドラゴニア防衛戦編~其の命懸け、竜は舞う~ 完
第9章に続く…
-------------------------------------------------------