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Delighting World  作者: ゼル
第八章 ドラゴニア防衛戦編~其の命懸け、竜は舞う~
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Delighting World ⅩⅩⅩⅥ

Delighting World ⅩⅩⅩⅥ






ドラゴニアにヒューシュタットが襲い掛かった。


ドラゴニアの街は炎に包まれ、オートマタにより多くの人々が怪我をし命を落とした。


ドラゴニアに戻ってきたビライトたち一行は、逃げ遅れた人々を救助しながらオートマタたちを撃退していく。

同行したアルーラの発動した禁断魔法による結界によりドラゴニア城はひとまず安全となった。


ボルドーとヴァゴウはこの戦いの大元を突き止め、倒すために広場へと向かった。

その先に降り立つのは、かつて倒されたはずのヴァゴウの母親である魔竜グリーディであった。


贄として生まれ、食べられるだけの運命であったヴァゴウにとってグリーディの存在はトラウマの塊のようなもの。

なんとかビライトとクライドの参戦を経て、戦うが、ヴァゴウは身体が震えて動けなくなる。


グリーディの圧倒的な強さを前にボルドー、ビライト、クライドは苦戦する。


ヴァゴウは自分を奮い立たせようとするが身体が言うことを聞かない。

ビライトはそんなヴァゴウを叱責し、ヴァゴウを立ち上がらせた。


もう逃げたくない。いつだって誰かが支えてくれた。ボルドーやビライト、キッカや皆。ドラゴニアの人々が支えてくれた。


その気持ちに応えたい。そんなヴァゴウの強い力に応えるようにヴァゴウの身体は潜血覚醒を発現した。


暴走していた前回とは異なる姿へと変化したヴァゴウは咆哮し、グリーディと交戦。


ヴァゴウは暴れているように見えるが、意志はハッキリしているようだ。

ビライトたちは潜血覚醒したヴァゴウに続き、グリーディとの戦いを再び始める。


明らかに不利な状況から一変。ここから、反撃となるか…?


-------------------------------------------------------



「グルアアアアアアアアアアア!!」


ドラゴンの姿となったヴァゴウの激しい咆哮が周囲に響き渡る。

そしてその身体はグリーディ目掛けて突進する。


「フッ、ただのケダモノになっただけ。隙がありすぎる!」

グリーディはそれをかわしてヴァゴウの背後を取る。


「させないッ!」

ビライトが飛び出した。

エンハンスセカンドと更に、キッカがかけたスピードアクセルにより、更に速度を増している。

「邪魔なハエめが!」

「はああああっ!!」

グリーディの振る尻尾をかわし、身体に飛び移りそのまま顔面目掛けて大剣を振るう。

「ござかしい!」

それを振り払おうとするが…

「グルアアアアアア!!」

「おのれっ!邪魔だッ!」

ヴァゴウが突っ込んでくる。

その勢いはそばにいるビライトまで吹き飛ばしそうな勢いだが、ヴァゴウは器用にその身体をグリーディのみに命中させた。


「ムッ!?」

グラついたグリーディ。ビライトは「今だあっ!」と叫ぶ。


後方からクライドが屋根から高くジャンプし、ビライトの上から現れる。

横からはボルドーが飛行し、上級魔法を連射する準備を整えた。


「この程度で俺たちが折れると思うな。」

クライドの短剣がグリーディの身体を切り裂く。

そしてボルドーは右腕を前に出し、魔法陣を無数に発生させる。


「我がドラゴニアの英雄の名を携えし魔法だッ!無数の炎岩よ、降り注げッ!バーンメテオッ!」

ボルドーがそう叫ぶと右手の周囲に浮かぶ魔法陣から無数の隕石が乱射される。


「その程度…!」

グリーディに無数の隕石が直撃する。

確かにダメージは通っている。この調子でいけばいけるかもしれない。



「舐めるなッ!この程度で妾を倒せるとでも思ったかッ!」

グリーディの全身から闇の波動が迸る。


周囲に黒い衝撃波が響き渡る。

「ッ!」

「チッ…!」


「うおっ!!」


ビライトたちはその波動で強く吹き飛ばされる。

だがヴァゴウだけは違った。

「グアアアアッ!!」

ヴァゴウはその波動を身に浴びながらもグリーディに突っ込み、グリーディの身体を掴み、建物の壁に強く叩きつけた。


「この…ケダモノがあッ!!」

グリーディの口から黒い光線が放たれる。

「ガアアッ!!」

それをモロに食らったヴァゴウはついにグリーディから離れ、壁に叩きつけられる。


しかし、ヴァゴウの身体に纏われている岩石のような装甲はグリーディの光線を受けきった。

とてつもない力を持ったグリーディの光線を受けきれてしまうほど、ヴァゴウの防御力は底上げされている。



「吹き飛べ!」

グリーディの顔には余裕がなくなっていた。

殺意に満ちた顔でヴァゴウから離れ、再び光線を溜め始めた。


高く飛びその光線が放たれようとしている場所はドラゴニア中心地。

撃たれれば間違いなくドラゴニア全土は崩壊するだろう。


「もう良い!余興は終わりよ!まとめて滅ぶがいいッ!!」

光線をチャージし、大地が激しく揺れる。

「マズいよ!あんなものが撃たれたら…!」

「クッ!高すぎる!届かないッ!」

キッカとビライトが焦りを見せる。


「俺様が…止めるッ!」

ボルドーのエクスリストレイはまだ継続している。

ボルドーは飛行し、グリーディに目掛けて上級魔法を撃ち続ける。

「止まり…やがれぇぇぇっ!!」

だが、ボルドーの魔法はグリーディに直撃しているものの、グリーディ自身はそのような攻撃を見向きもせずにただひたすら力を溜めている。

「この野郎ォッ!!やらせねぇ…!絶対にッ!」


ボルドーの必死の攻撃が続く中、ビライトたちはそれを見ていることしか出来なかった。


「…くそっ!俺たちは何も出来ないのか!」

「あの高さでは俺でも届かん。ボルドーと…奴に任せるしかない。」

クライドはヴァゴウがこちらに向かって走ってくるのが見えた。

「オッサン…!」

ヴァゴウは高くジャンプし、ビライトたちの傍に勢いよく着地した。


そして「グルル」と喉を唸らせながらヴァゴウはビライトの前で身体を縮めた。


「……乗れ…って言ってるのか?」

ヴァゴウは頷いた。


言葉を話せないのか、ヴァゴウはじっとビライトを見つめる。


どうやらこの姿でいるときは言語能力を失うようだ。


自我も、意志もはっきりしてはいるが、まるで肉食獣の本能のごとく攻撃的ではあるが、敵味方はハッキリしている。

呼吸も荒く、目は完全に暴走しかねないほどに小さく鋭いが、それは確かにヴァゴウの目だ。


「…ビライト、キッカ。行け。俺は補助に回る。」

クライドは屋根の上に上り、補助魔法を唱える準備をした。

「キッカ、お前もビライトとヴァゴウ、そしてボルドーを援護しろ。俺が支える。」

「うん!」


ビライトはヴァゴウの目を見て、頷いた。

「行こう、オッサン。」

ビライトはヴァゴウの頭部に上り、頭の角を持つ。


「グオオオオッ!!」

ヴァゴウの咆哮と共に勢いよく空へと舞い上がる。


「キッカ!クライド!」


「攻撃強化だ!合わせるぞ!」

「はいっ!!」


クライドとキッカは同時に魔法をかける。


「「アタックアクセル!」」


二人の放った補助魔法により、攻撃力が大幅に強化。

ビライトは更にエンハンスを乗せている為、今のビライトにはとても強力な力が加えられている。

ヴァゴウ自身にも更に力が上乗せされており、2人の力がグリーディに当たれば強いダメージを期待できるだろう。


「クソッ!」

ボルドーの攻撃も虚しくグリーディには届かない。

「ボルドーさん!!」

後方からヴァゴウに乗ったビライトとキッカが突っ込んでくる。


「ヴァゴウ!?」


「グオオオオオオオオ!!!!」

止まらぬ勢いで突っ込んでくるヴァゴウにボルドーは咄嗟にかわし、ヴァゴウはグリーディに勢いよく突っ込んだ。

しかしグリーディには届かない。

そこでビライトは決意をした。

「キッカ、全力で支えてくれるか?」

「うん!」


「これが…俺の全力だああああ!!エンハンス!!」

ビライトはヴァゴウの頭部からグリーディに向かってジャンプした。

「サーーーードォ!!!」

ビライトは捨て身ともいえるエンハンスサードを発動した。

全身が薄い緑色のオーラに包まれ、グリーディの頭上まで高くジャンプした。


「うああああああああああああっ!!!!」

「!」


ビライトの重い一撃がグリーディの頭部に命中した。


「…!!」

しかし、その一撃は届かなかった。

グリーディの光線は止まらない。ビライトの全力は届かなかったのだ。

「うそ、だろ…!!」

ビライトの身体は宙に舞う。

「お兄ちゃん!」

キッカはすかさず回復魔法をビライトにかけて、エンハンスの負担を減らした。

だが、それでもビライトの攻撃は諸刃の剣。もはや身体を動かしてヴァゴウの身体に戻る余地はない。


落ちる。


「ビライトッ!」

ボルドーが落下するビライトを抱えた。

「ボルドーさん…!ごめん、俺の力じゃ…!」

「お前のせいじゃねぇ。だが…!やべぇぞ!もう、後がない…!」


何を尽くしてもグリーディの光線を止めるすべがない。

このままだと本当に発射され、城もろともドラゴニアは完全に崩壊する。恐らくアルーラの結界も破壊されてしまうだろう。




-------------------------------------------------------

ドラゴニア城の屋上…

その様子を見ていたアルーラ、ファルト、そしてフリード…


そして更に屋上にはベルガを始めとする多くの人たちがその様子を見ていた。



「アルーラ殿、グリーディの様子が…!」

ファルトはアルーラにグリーディの様子がただ事でないことを伝える。

「…あれが撃たれたら…私の結界もただではすまぬだろう。」


フリードは目を細めてグリーティを見ている。

(…ボルドーたちでも…奴を止められぬのか…それほどにもグリーディの力は…)


「…ボルドーは…ビライト殿らもだ…諦めてはおらぬ。故に我々も…彼らを信じねばならぬ。」

ベルガは呟く。


「ベルガ様!」

屋上に上ってきたのはクルトだ。


「クルトか。避難はどうだ…?」


「はっ、魔法学園に避難していた民は全員避難を終えました。」

「そうか。他の状況はどうなっている?」


「病院にメルシィ様と、患者たち、そして病院の従業員たちが残っています。街中の生存者たちの確認は不十分ではありますが、確認出来る生存者は全員城への避難が完了しております。」

「分かった…ではクルトよ。我々もただ指をくわえているわけにはいかぬ。分かるな?」

「はい、全兵力を注ぎ、ボルドー様の元へ。そして一部の部隊で病院の援護に当たります。」

クルトの声に応えるように多くの兵士たちが屋上に集まっていく。


「ウム…諸君。」

ベルガは兵士たちに語る。


「時間が無い。多くは語らぬ。だがこれだけは言わせてもらう。」


ベルガは座っていた椅子から立ち上がった。


「絶対に死ぬな。我々は家族だ。誰かの痛みは皆の痛み。誰かの死は皆の死と思え。そして…これまでに死んでいった民の…家族の無念を無駄にしてはならぬ。」

「「「はっ!!!」」」


兵士たちは敬礼した。

「第一部隊、第三部隊は急ぎグリーディの元へ。第二部隊は病院の警備とオートマタの掃討。アレが撃たれたとしても…皆で阻止します。それでは行動開始してください。」

クルトの指示により兵士たちは急ぎ、動き出した。




(…兵が動いたか…だが、束になってもあれを止めることは…叶わぬかもしれん…そうなったら…儂は……)

フリードは手を胸に当てる。


「フリード、“あれ”を使うことの意味…分かっているはずだが…」

ベルガがフリードに語り掛ける。


「分かっている。だが…儂はこの命に代えてでも…この国を守りたい。我が大切な家族たちが暮らすこの国を…ボルドーとその未来を担う子…ブランクが生きるこの国を…そして儂が愛した者が愛した国を…」

「…フリード……」



-------------------------------------------------------


グリーディの光線の準備は止まらない。

もう時間がない。エネルギーが集中している。どんどん溜まっていくのが分かる。


「…打つ手がない…これまでか…」

クライドは地上から様子を見ているが…ビライトのサードの一撃が通らなかった。

今出せる最大の打点だったはずだ。

それが通らないとなれば、もはや打つ手がない。


「諦めちゃ駄目よ!」

「レジェリーか…避難は終わったようだな。」

レジェリーが合流した。

「ええ、クルト様に先に向かうように言われたわ。クルト様たちももうすぐ来るはずよ。」


レジェリーは上を見る。


「…とんでもない力が集まってるのが分かる…でも諦めたら本当に終わりよ。」

レジェリーは赤い魔法陣を出す。


「…禁断魔法…」

「止められないなら…受けきって直撃を避けるしかないじゃない。使うなって言われてるけど…そんなこと言ってる場合じゃない!」


「大きい魔法だから時間がかかるけど…間に合わせてみせる!」


レジェリーは詠唱を始めた。


(禁断魔法は上位魔法になればなるほど長い詠唱を必要とする…そして身体にも重い負担が乗る。お前の実力で…いや、今は信じてやる。)

クライドはレジェリーに補助魔法をかけた。

「魔力を上昇させた。」

「ありがと。」


-------------------------------------------------------



上空ではキッカはヴァゴウの上に、ボルドーは動けないビライトを抱えてグリーディの光線の準備が整うのを見ているしかなかった。


「…ビライト。キッカ。もう発射は避けられねぇ。」

「そんな…!」


グリーディは周りにもう目がいっていない。

完全に力に飲み込まれ、もはや光線を撃つことの身に集中している。

その力の波動は徐々に強くなり、誰の攻撃も通らないところまで来ている。

ましてや、ビライトのエンハンスサードとアタックアクセルを乗せた攻撃でも届かないのだ。


もはや止めることは不可能だ。


「となればやることは1つ。“奴の光線を受けきって直撃を回避する”」


「そ、そんなことが…可能なのか?無謀すぎる…」

ビライトはどう考えても無謀に近いと思った。


だがボルドーは本気だ。


「可能かどうかじゃねぇ。可能にする。“最後の切り札”は…使わせねぇ。」

ボルドーはここまでの状況になってしまったことで、“ある事態”を危惧していた。


「最後の…切り札?」

キッカが言う。

「最後の切り札ってなんだよ、ボルドーさん…」


事態を知らないビライトとキッカ。

ボルドーは少し黙ってから呟いた。



「究極の国土級浄化魔法…“聖なる竜の浄化【ドラゴニック・ピュリフィケーション】”全ての魔法を無効化し、ドラゴニア全土を包み込み…悪しきものをも浄化させる…我がドラゴニアに伝わる究極の“禁断魔法”。」


「聖なる竜の浄化【ドラゴニック・ピュリフィケーション】それさえあれば…何とかなるんじゃ…」

ビライトが言う。


「そうだな。かつてドラゴニアの姫だったご先祖様…セラス・バーン様が使えた聖なる浄化魔法を更に拡張させ、国土級にしたものだ。だがそれが発動出来んのは…フリードだけだ。“聖なる竜の浄化【ドラゴニック・ピュリフィケーション】”の力の強さは“術者の命の重さに比例する”。アイツは1000万年生きた古代人。その力は…もう分かるな?」

「命の…重さ…!」

「命の重さに比例って…とんでもない重さだよ…!」


「そしてだ。考えてみろ。国土全体を包み込めるほどの超魔法だ。そんなものを使えば…術者がどうなるか。」


その先は言わずとも分かっていた。

だからボルドーは聖なる竜の浄化【ドラゴニック・ピュリフィケーション】発動だけは避けたいのだ。


「…そう、だな…それだけは発動させちゃ…いけないな…」

「そういうこった。だから俺様たちだけで受けきる。」

ボルドーは射程範囲に移動する。


ヴァゴウはそれについていくようにボルドーの隣に並ぶ。

「ヴァゴウ、ビライト頼むわ。」

ボルドーはビライトをヴァゴウの頭上に置き、ヴァゴウは頷いた。


「下もにぎやかになって来たぜ。」

ビライトとキッカは下を見た。



「ボルドー様!ビライトさん!キッカさん!お待たせしました!」


「クルトさん…それにあんなにドラゴニアの兵士たちが!」


ドラゴニア兵と、魔法学園の生徒たちの有志も集い、実に数百人以上が集まった。


「お前ら!全員で力を合わせてアイツの光線を防ぎきるッ!ドラゴニアの直撃だけは絶対に避けるぞッ!!」

「「「「おおーっ!!!」」」


「さぁ…来な。グリーティ。俺様たちの底力を…見せるぞッ!」

ボルドーの挑発と同時に黒い光が更に強い輝きを増した。


「…来る!レジェリー!」


「―――――よ――――舞い上がれ、勇気の旋律と共に。全てを包み、愛し、閉じ込め―――――」

レジェリーの地にある赤い魔法陣も強く発光。


そしてドラゴニア兵たち、クルト、そして魔法学園の生徒たちも一斉に防御魔法を発動する準備を整えた。




「滅びよッ!!!!」

グリーディの声と共に黒く、野太く、巨大な光線が放たれた。

光線の動きこそ非常に遅いが、そこに込められたエネルギーはドラゴニアどころか、その周辺も焦土と化してしまうほどであろう。

着弾までは時間がある。だが、それまでに受けきれなければ終わりだ。



アルーラの結界も恐らく破壊され、城も崩壊する。

そうなればドラゴニアは本当に終わりだ。



「ありったけの魔力…もっていけッ!!バーンメテオ!!」

ボルドーのバーンメテオが無数に光線に向かって放たれる。

「もっとだ!もっと大きく!もっと強くッ!俺様の限界を…超えろッ!!!」


ボルドーのバーンメテオがどんどん大きくなっていく。

やがてそれは光線にも手ごたえがあるようになった。


「グルアアアアアッ!」

ヴァゴウはバーンメテオに合わせて、無数の砲弾を召喚し、発射させる。

だが、光線はまだまだ勢いを止めない。


「クソ…がああああっ!!」

ボルドーの魔力は底をつきかけていた。

エクスリストレイをもってしても、魔力は僅かに削られていく。それは無限ではないのだ。


ボルドーの飛行も限界だ。

「グルァッ!!」

「うわああっ!」

「ヴァゴウさん!?」


ヴァゴウは乗せていたビライトを掴みキッカと共にボルドーに向けて放り投げ、光線に向かって飛び出した。


「ヴァゴウ!よせッ!」


光線の大きさは4mほど、ヴァゴウの大きさならば腕を広げて受け止めることが出来る。

「アッ…ガアアアッ!!!」

膨大なエネルギーを持った光線をヴァゴウは全力で受ける。


「ヴァゴウーーーーッ!!」

ボルドーは最後に持てる魔力でヴァゴウにサードプロテクトをかける。


ボルドーは魔力を失い、エクスリストレイが解除された。

抱えていたビライトたちと一緒に落下していく。


「ボルドー様!」

クルトは落下していくボルドーを宙に浮かせる魔法をかけ、ボルドーを静かに着地させた。


「大丈夫ですか?」

「あぁ…だが…ヴァゴウが…!」

「オッサン…!」


ヴァゴウの岩の装甲はヒビが出来、このまま受けきれば深刻なダメージを受け、光線に飲み込まれてしまう。


「オッサン!離れろ!!離れてくれっ!!」

ビライトは訴えかけるがヴァゴウには届いていない。


ヴァゴウは命をかけて光線を受けきろうとしている。


-------------------------------------------------------




ワシは、ドラゴニアに全てを救われた


ワシは、ドラゴニアに拾われて、生きる力を貰った


ドラゴニアがあるから、今のワシがいる


ボルドーが、ゲキが。フリードが。ベルガが。クルトが


そしてビライト、キッカちゃん、レジェリーちゃん、クライド



皆が支えてくれたから


皆がワシを受け止めてくれたから



ワシを愛してくれたから



だから…!





ワシには…奴を…グリーディを…母を止めるッ!



ヴァゴウの意志は強く、それは潜血覚醒したその身体にしかと刻まれていた。


サードプロテクトは既に破壊された。

もう残っているのはこの肉体のみ。


例えここで命尽きても…





「グルァアアアアアァァァアアア!!!!!!!」

その咆哮と共に、ヴァゴウの身体の鎧は砕け散り、光線に吹き飛ばされた。


「オッサーーーーン!!!」

宙に投げられたヴァゴウの身体は徐々に縮んでいき、潜血覚醒が解除された。


「ウオオオオオオーーーッ!!」

落下するヴァゴウの身体をボルドーは全力で走り、受け止めた。


「ハァ…ハァ…ヴァゴウ!ヴァゴウッ!!」

ボルドーはヴァゴウを必死で呼びかける。


「…聞こえてる……」

「ヴァゴウ…!生きてるなッ!生きてるんだなッ!」

ボルドーはヴァゴウが生きていることに喜び、涙した。


「…わりぃ…止められ…なかっ…た。」

ヴァゴウは弱った声で言う。

「お前は…よくやってくれたさ…あとは…任せよう。」

キッカが駆け寄って、キッカは回復魔法で応急処置を行った。


「オッサン…よかった…」

「…へっ…お前が…喝入れてくれたお陰だよ…ビライト。」


-------------------------------------------------------


光線は大分力を弱めたようだが、それでもまだドラゴニアを破壊しつくすだけの力は残っている。


それだけではない。グリーディが力を注いでいるのだ。

光線の力はまたしても徐々に力を増している。



「みなさん。行きますよ。」

元に位置に戻ってきたクルトの呼びかけに兵士たちは頷いた。


「レジェリー、いけるか。」


「ええ!」

レジェリーは杖を上空に向ける。


「発動。」

クルトの声に兵士たちは一斉に防御魔法を展開した。


「「「「「ファーストプロテクト!」」」」」

サードプロテクトの下位互換技であるが、こちらは数百の数を超えた魔法。


攻撃を防ぐ防壁が100を超え、光線に向かっていく。


1つの防御壁では何も出来ないが、100を超えていればそれなりの受けにはなるはずだ。


「レジェリーさん!」


「包み込め!!“クレイ・ベルォープ”!」

レジェリーが発した魔法は禁断魔法クレイ・ベルォープ。

杖から赤い粘膜のようなものが現れる。

レンズ状からそれは風船のように膨らんでいき、光線をまるごと包み込んだ。


「そのまま…弾けて消えてッ!!!」


レジェリーの声に応えるように光線は包み込まれた粘膜の中で拡散していく。


「おおっ!」

「よしっ!」


防いだ。



確信をついたレジェリーだが…


「…!駄目だ…!」

クライドが言う。






「気づかないか?この光線は妾が力を注いでおるのだぞ。」

不敵に微笑んだグリーディ。


「そんなっ!」

次の瞬間、パァンと大きな音を立てて粘膜ははじけ飛んだ。


光線はかなり小さくなったようだが、グリーディはここで一気に畳みかけてきた。


「ハアアアアッ!!!」

グリーディは力を一気に注ぎ込む。

光線は最初と変わらないほどの力を取り戻し、更にその巨大さを増した。


着弾まであと数分。


「そ、そんな…防ぎきれなかった…!」

一行に、兵士たちに、クルトたちに絶望が走る。


「終わりだッ!妾を殺したこのドラゴニアを今こそこの手で葬り去ってくれる!!!」




-------------------------------------------------------





「時は来た。」


後方から大きな影。

光線の前に降り立ったのは30mを超える大きな巨体をしたドラゴンの姿。




「!!」


「フリー…ド…!」

フリードだ。

屋上から飛び出し、今まさに光線の前に立つ。



「…ドラゴニアの民よ、勇敢なる兵士たちよ。そして我が愛する家族たちよ。」

フリードはその場の全員に語り掛ける。


「強く、気高く、そして優しくあれ。ドラゴニアよ永遠に。」

その言葉と同時にフリードの周囲にはドラゴニア全土を包み込むほどの赤い魔法陣が出現した。


「な、なによこれ…!禁断魔法なの!?」

驚くレジェリー、そしてクライドは呟く。






「フリードめ…“死ぬ気だ”。」

「…え?」






離れた場所に居たビライトたちもフリードを見る。


「フリードさん…もしかして…」


「…やろう…」

ボルドーはフリードを見て呟く。


「…馬鹿野郎…!」

ボルドーは走る。


「ボルドーさん!」

ビライトは追いかけようとするが、動けない。


ヴァゴウも動くことが出来ない。


「ビライト…ワシらはもう…動けん…悔しいが…任せよう。」

「…くそっ…!」



-------------------------------------------------------


―――――――魔法がまともに使えないぐらい魔限値が低かった俺様は、ヴァゴウの生きる力に感動し、ヴァゴウとゲキと友人になったことで、王の道へと歩みだす決意を固めた。



そのために肉体を鍛え、強くなる努力をした。必死に、必死に。


だが、どうしても魔法を諦めることができなかった。

そんな時、フリードを頼ることにした。




「フリード、俺様でも魔法をたくさん使える方法は無いか?」

俺様はフリードに尋ねた。


「どうしたのだ?急に…」

「俺様は、強くなりたいんだ。魔法だって使えるようになりてぇんだ。ずっとずっと生きてきたフリードなら、何か知っているんじゃないかと思ってよ…!」


「…儂は分からぬ。だが…そうよな。時々誰も居ない時に儂の様子を見に来てくれる古くからの知り合いがおってな。そやつは魔法のことに長けている。聞いておこう。」

「ほ、ホントか!ハハッ、ありがとう!フリード!」


フリードは俺様の知らないことを知っている。

生きることの大変さ、そして辛さ。

そして、嬉しさ、楽しさ。


フリードはなんでも教えてくれた。




「エクス…リストレイ?」


極限圧縮術エクスリストレイ。これは遥か昔、“レクシア”という世界で使われていた古代魔法だ。」

「そいつが使えれば…俺様も魔法がたくさん使えるようになるのか?」


「あぁ、だがそれを会得するのはとても大変だ。やり方は聞いているが…やってみるかね?」



「もちろんだ!どんな苦労だって乗り越えてやる!」



それから俺様はエクスリストレイを獲得するために必死で勉強し、必死で努力し、必死で身体を鍛えた。

身体に重い負担ののしかかるエクスリストレイを制御させるにはまず限界を超えた肉体を得て、そして魔法の流れ、仕組み、構造。

それらを全て理解し、完全なる支配下におくことが必要不可欠であった。


魔法に詳しいクルトにも協力を仰ぎ、俺様は何年にも渡ってエクスリストレイ獲得のための猛特訓をした。



「ハッ…ハッ…クソッ、もう一息なのに…ッ!」

「ボルドー、お前をそこまで駆り立てるものはなんだ?」

フリードは問う。


「ハッ、簡単さ。俺様は…この国が大好きなんだ。」

「…大好き…か…」


「この国を俺様は守ってくんだ。死ぬまでずっと、ずっとな。そして…この命果てた時、死の向こう側にいるご先祖様に恥ずかしくねぇ姿になりてぇ。」

「そうか…その純粋な目、決意は本物だな。」

フリードは微笑んだ。


「…それによ。俺様はこの世界が好きだ。旅に出た時にいつも感じてる。みんながみんな明るく暮らしているわけじゃねぇ。けど、この世界は楽しい。皆が楽しいと思える世界を作りてぇ。」


俺様は今、生きている。楽しい。そう感じている。

エクスリストレイを習得し、そして誰にも恥ずかしくない王になる。


「ああそうだ、この世界は楽しい。だからこそ、強く、たくましく、優しく…そして楽しく生きること。それがこの世界を作った神々の願いでもあるのだよ。」

「まるで神様に会ったことあるような口ぶりだな。」

「あるとも、儂は古代人だからな。」

「…そうだったな。神様がそう望んでるなら…その期待に…応えてやらねぇとな。」


「そうだな、お前のような者がこのドラゴニアを支えてくれれば…この国も、この世界もきっともっと良くなる。楽しくなるだろうな。」



「――フリード。ありがとな。あんたは俺様の恩人だ。」


「いいのだよ。儂はな、最高に満足しているよ。今までの王たちとは違う。お前は誰にも負けない優しく強い心を持っている。だから…お前がこれからの未来を創っていくのだよ。」


「いよし!あともう一息だ!絶対にエクスリストレイを習得してやるッ!うおおおおお!!!」




「儂は最期の時まで、それを見届ける。お前が死ぬまでな。」

「おうっ!これからもよろしくなッ!」



-------------------------------------------------------





「俺様が死ぬまで…見届けてくれるんじゃなかったのかッ!!!フリードォッ!!!」

ボルドーは叫ぶ。


その声に気づいたフリードはボルドーを見て微笑んだ。

「…なに、笑ってんだよ…!」


フリードは再び光線を見つめ、詠唱を始めた。



「フリード…!!くそっ!魔力が無くて飛べねぇ…くそっ!くそおっ!!」

ボルドーはフリードを見る。


「こんな形でお前の願い使っちまうのかよ…ホント…馬鹿野郎だよ…お前はよ…!」

ボルドーはフリードから目を離さなかった。


「だったら、見届けてやる。お前の覚悟。お前の意志…俺様に見せてくれ…」








“~ドラゴニアに眠りし聖なる竜の輝きよ、我が願いを届けよう~”








その言葉から始まる詠唱。




「なんだ…不思議な力を感じる…!」

グリーディはフリードの魔法陣、そしてその詠唱に嫌な予感を感じていた。


「これは…待ってなどいられぬなァ!」

グリーディは更に力を注ぐ。



レジェリーたちもその様子を見、そしてクライドから伝えられた“聖なる竜の浄化【ドラゴニック・ピュリフィケーション】”の真実。



「嘘よ、そんなの絶対ダメに決まっているじゃない!」

「だが…もうこれしかドラゴニアを守る手段は…無い。」

「そんな、そんなのって!そんなのおかしいよッ!!」

レジェリーは叫ぶ。


兵士たち、そしてクルトたちはフリードの姿を見て、敬礼した。





「クルト…様…」


「レジェリーさん。これは…我が国の象徴たる方の、願いなのです。」

「だって!このまま”聖なる竜の浄化【ドラゴニック・ピュリフィケーション】を使ったら…フリードさん…“死んでしまうんですよ!?”」


「…これは…あの方の覚悟。あの方の命の使い方。我々は…見届けるしかない。」

「どうして…どうしてそんなことが言えるの!?まだ他に方法があるはず!絶対止めるべきよ!!クライドも何とか言いなさいよッ!!」


「…これが奴の覚悟であり、使命なのであらば…俺たちが止める権利は無い。」


「使命とか、覚悟とか!そんなもの!どうだっていいじゃない!!あたしはね!そんな言葉が嫌いで!嫌いで!そんな縛るような言葉が!だいっきらいよ!!」

レジェリーは取り乱す。これから命を捨てようとしている者が居る。そんなこと、レジェリーには認められなかった。


「…認められなくてもいい。この運命を恨んでもいい。だが、こいつらの、フリードの気持ちは…汲んでやれ。」

クライドはレジェリーに言う。


「馬鹿…ホントに馬鹿なんだから…うわああああああ…!!」

レジェリーはその場で泣き崩れた。







~其の願い、歴史と共に在り、真の願い、竜の国の誇りと優しさの源、心に在り~




~我が心の輝き、国と共に在り~







~ryu kine rudas midness serus aburon frile gridle orseld wick argus mire tonaya serius mersy―――――beruga――――bordo―――brunk―――――~


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城の屋上ではフリードの詠唱を見守るベルガたちと国民たちの姿があった。

動ける国民たちは全員がフリードの詠唱を見守り、願い、見届けている。


「フリード…これが…そなたの1000万年の旅の終わりなのだな…」

ベルガはそう呟き手を合わせ、祈りを捧げた。

「お前に全てを背負わせてしまうな…本当に…すまない…ありがとう……」


「フリード殿…」

「フリード様…我が国で生きて頂き…ありがとうございました…」


「フリード様」


「フリード様、ありがとう」


人々は涙を流し、願いを届け、祈り続けた。




フリードは最後、皆に言葉を残した。


それはしかとここに居た人々に記憶されている。



そして一言だけベルガに「後を頼む。皆、本当にありがとう。」


そう言い、ファルトとアルーラにも

「ありがとう」

そう言って飛び立っていった。





アルーラとファルトはそれを見届けた。


「フリード殿は…これで良かったのだろうか。」

ファルトは言う。


「それは我々が決めることではない。フリード殿が決めることだ。そしてフリード殿は…この国の為に…自身の愛すべき者の為に命を使うのだ。ならば…もう答えは分かるだろう。」

「そう…だな…」





絶対の勝利。

“聖なる竜の浄化【ドラゴニック・ピュリフィケーション】”は絶対の力でグリーティの力を捻じ伏せるであろう。


それは1000万年生きた元人間のドラゴンの強き思い、そしてこの国を愛する人々全員の祈りと願いが乗っているのだから。



病院に居たメルシィも、病院に居る人たち、兵士たちも、フリードに願いを届けた。


「フリード様…私たちの願いも乗せて…この国に…大いなる輝きを…!」










~命の輝きよ、全ての願いよ、竜と共に天へ舞え、空を翔けよ、我こそは竜と共に在り~








「おのれッ!」

グリーディの光線がフリードを包み込もうとする。


「フリードさんッ!!」



詠唱が終わる。

フリードは光線で身体を焼かれながらも、笑顔で呟いた。


「皆、ありがとう。」


フリードの身体が白く包まれた。


それは周りを全て白で塗り替えてしまうような強く、そして美しい光だった。




~顕現せよ究極魔法~


















~“聖なる竜の浄化【ドラゴニック・ピュリフィケーション】”~














(悪いな、先に逝くよ…――ガ。そしてセラス、アバロン。儂もそっちに行くから…また、一緒に…冒険―――――――――――――――――)


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