Delighting World ⅩⅩⅩⅤ
Delighting World ⅩⅩⅩⅤ
「魔竜…グリーディ…!!」
「まさかいきなり最高の馳走に出会えるとは思わなかった。妾の餌にふさわしき存在よ。」
ドラゴニアを守るため、オートマタを倒しながら人々を避難させたりと救助活動を続けている一行。
ヴァゴウとボルドーはこの防衛戦の相手の大元を叩くため、町を見て回っていた。
そして、入り口の広場にてボルドーたちは紫の光線が飛び、アルーラが張った結界に直撃した様子を見た。
更に、そこに降り立ったのは約40年前にこのドラゴニアで確かに命を落としたはずの災厄の竜、魔竜グリーディであった。
「…!」
この場に居合わせたヴァゴウはその姿を見ることに躊躇いを持っていて、なかなか振り返ることが出来なかった。
ヴァゴウはこの魔竜グリーディの腹から生まれた存在なのだから。
無理矢理強姦し、生まれた子食べ、力の糧にする。ただそれだけの為に生まれてきたヴァゴウは、父親であるドルグラの手によってドラゴニアまで逃げ切ることに成功した。
ドラゴニア兵たちとグリーディは激しい戦いの末、グリーディを倒し、ドルグラは死亡。ヴァゴウは生き延びることになった。
ヴァゴウは重血という重い運命を背負いながらそれを克服し、そしてこの旅でそのことに対する精神的な歪も克服することが出来た。
だが、ここに来て死んだはずのグリーディの登場にヴァゴウは動揺を隠せなかった。
「感じるぞ、その後ろに居るのは妾の子だな?」
「…だったらどうする?」
ボルドーは振り向けないヴァゴウの前に立ち、手を広げる。
「もちろん、食す。フフフ。赤ん坊を食うよりも成熟した子を食した方がもっと妾は強くなれそうだ。それに重血の成熟した子など、まさに奇跡の子…それを食すことができればさぞ、妾の力は高みへといけようものよ。」
「へっ、んなことさせるわけがねぇだろ。コイツは…ヴァゴウは俺様の家族だ。てめぇのモンじゃねぇ。」
ボルドーはグリーディを睨みつける。
だがボルドー自身も少々後ろずさっていた。
いかに強い力を持つボルドーでも、グリーディほどの存在ともなると力の差を感じるからだ。
恐らくボルドーでもグリーディには勝てる保証はないだろう。
「構わぬとも。そもそも食う予定の子よ、家族だなど無論思うわけもあるまい。」
「…そうかい、なら俺様からしても都合がいいぜ。」
ボルドーはエクスリストレイを発動させ、拳を構える。
「てめぇを倒す。我が国をもうこれ以上はやらせねぇ。」
「オートマタも倒しきれぬほど脆い国の者が妾とやりあおうと?例えこの身が朽ちていたとしても妾の力は変わらぬぞ。」
グリーディの力は確かに強く恐ろしいものだった。
素人が下手に魔力感知しようものならその大きさに驚き腰を抜かすだろう。グリーディとはそれほどに恐ろしい存在なのだ。
「俺様は王になる男だ。命を懸けてこの国を守る。そして勝つ。」
ボルドーは魔法を発動。全身に赤色のオーラを纏う。重ね掛けは出来ないが強力な肉体強化であるキングエンハンスだ。
「ボルドー…」
「ヴァゴウ、下がってろ。コイツは俺様に任せろ。」
「だが…!」
「分かるよ。」
ボルドーはヴァゴウの背中を見て言う。
「怖いんだろ。身体が震えてる…だがそれでいい。けどよ。お前まで守りながら戦うほど余裕はねぇ。だからお前は町で市民たちを助けてやってくれ。」
「…ワシは…」
「行け。ここは俺様に任せとけ。」
ボルドーはヴァゴウにこの戦線から離脱するように促す。
「…できねぇ。」
「ヴァゴウ…!」
「これ以上…逃げられねぇよ……」
ヴァゴウは勇気を振り絞り、グリーディの方を向いた。
「…これは…奴と血のつながりがある…ワシのケジメだ。」
ヴァゴウはグリーディを睨みつける。
身体が小刻みを震え、汗が流れる。恐怖がヴァゴウを襲うが…なんとかその場に踏み止まった。
「ほう、流石にあの男そっくりな顔よな。フフフ、そして高い力を感じる。」
グリーディはニヤリと笑みを浮かべる。
「重血を克服した者は種族を超えた強い力を持つと言われているが…どうやら本当のようだな。」
翼を広げ、グリーディはヴァゴウを指さす。
「案ずるがよい。妾がお前の力を奪い、そしてこの世界の支配に利用してやろう。」
ヴァゴウはグリーディの計り知れない力の強さに身体が震える。
だが、ヴァゴウにとってこれはケジメだ。
自分と血のつながっている存在が自分の育った国を滅ぼさんと襲来してきている。
それを見逃すことなど絶対に出来るはずがなかった。
「ボルドー、正直怖い。だが…ワシはこの先も…生きたい…!」
「もちろんだ。一緒に生きるぞ。共に戦うぞ!」
「…あぁ。」
ヴァゴウは魔蔵庫からゲキ製の槍を出し、更に周囲には魔法で銃器を召喚した。
「何匹こようが同じこと。さぁ、妾の贄となるがいい!ボルドー・バーン!そして我が餌よ!」
「餌じゃねぇ…ワシは…ヴァゴウ・オーディルだッ!!」
ドラゴニアの入り口にある広場。
そこでボルドー、ヴァゴウは魔竜グリーディとの戦闘を開始した。
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一方グリーディの光線を見たビライト、キッカ、レジェリー、クルト率いる魔法学園組は市民たちを城に誘導中であった。
「あ、あの光線は一体…!」
結界によって守られていた城は無事だが、その周囲に光線は拡散し、周りの建物は再び火の手を上げ、城の周囲は火の海状態だ。
「…早く城に民を避難させなければ…!またあの光線が来たら…今度こそどうなるか分かりません。」
クルトは冷や汗を掻きながらビライトたちに言う。
だが、まだ魔法学園には多くの人々が残っている。
500人程度の人々を避難させるにはかなりの時間がかかってしまう。
うち、200人程度は魔法学園の生徒なので、身を守ることは出来るかもしれない。
だが、残りの300人程度の人々は非戦闘員のようなものだ。
オートマタ1匹でさえも襲われたら勝ち目はないだろう。
「あの光線が気になります。入り口方から放たれたようですが…嫌な予感がします。」
クルトは入り口の方を見る。
なにやらとてつもなく強い気配を感じていた。
「お兄ちゃん…」
不安なキッカはビライトを見る。
「大丈夫だ。きっと…」
ビライトはそう言ってキッカを安心させようとするが正直ビライトも不安と嫌な予感でいっぱいだった。
「…ビライト、キッカちゃん。入り口に向かって。」
「レジェリー?」
レジェリーはビライトとキッカに入り口に向かうように言う。
「魔力感知したんだけど、入り口に強い魔力を2つ、弱めの魔力を1つ感じるの。光線を使った何かと何かが対峙している、弱い魔力の方はもしかしたら…ボルドー様かも。」
「ボルドーさんが?」
「うん、ボルドー様の魔力は弱く反応してしまうのは分かるわよね。」
ビライトは頷く。
「でも、ボルドー様の魔力は弱いけど明確に分かる特殊なもの…エクスリストレイの影響だとは思うんだけどね…とにかく!ボルドー様と誰かが対峙してる。もう1つの強い魔力が誰かは分からないけど、ヴァゴウさんとか、クライドかもしれない。」
レジェリーは続けて話す。
「1人でも多くこの戦いを終わらせるために動くべきよ。恐らく今ボルドー様たちが対峙している奴がこのヒューシュタット襲来の核。そいつを倒せばオートマタも撤退するかもしれない。避難はあたしとクルト様たちに任せてあんたたちは入り口でボルドー様の手助けをしてあげて!」
レジェリーはビライトとキッカにお願いする。
「ボルドー様は…この国に絶対に必要なお方。絶対に守らなきゃだから…!」
レジェリーは自分も行きたい気持ちも強くある。だが、レジェリーはビライトたちを行かせることを決めた。
「あたしとあんたたち、どちらかが残るってなったらさ…戦う側の数が多い方がいいもん。キッカちゃんはみんなの戦いを手助けできるし回復も出来る。だからあんたたちが適任よ。」
「…クルトさん。」
ビライトとキッカは顔を合わせて頷き、クルトに言う。
「ボルドー様をお願いします。ここはお任せください。」
クルトはそう言い、ビライトたちに頭を下げた。
「…分かりました。必ずみんなで生き延びたうえでこの国を救います!」
「私たち、頑張ります!」
ビライトとキッカの返事にクルトは頭を上げて頷いた。
「レジェリー!避難が終わったらまた合流だ!」
「ええ!やられんじゃないわよ!」
「分かってるって!行こう!キッカ!」
「うん!レジェリー!待ってるからね!」
「ええ、気を付けてね!」
ビライトとキッカは入り口に向かって走り出す。
「…がんばんなさいよ…」
「レジェリーさん…あなたも行きたいのですよね…?」
クルトは拳を震わせるレジェリーに言う。
「…もちろんです。でも…あたしはこの国の人たちも見捨てられないから。クルト様、あたしも別動隊で避難を手伝います。それが終わったらビライトたちのところに行きます。」
「…分かりました。ではレジェリーさん。ここは任せて魔法学園へ。」
「はいっ!」
レジェリーは今連れている市民たちをクルトに任せ、魔法学園に走り出す。
「レジェリーさん…ありがとう…さぁ!参りましょう!城までもうすぐです。」
クルトはレジェリーを見送り、市民たちの避難を再開した。
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クライドも病院であの光線を目撃していた。
「あの光線は…!」
クライドは病院の4階の窓から光線が発生した方角を見る。
クライドの居る病院はドラゴニアの上の方にあり、4階からだとほとんどの場所を見ることが出来る。
「…あのドラゴン…!」
クライドは確かに入り口に存在していたグリーディを見た。
(…まさか…ヒューシュタットめ…死者を叩き起こすなど…そんなことが可能だというのか…!)
クライドはあれが魔竜グリーディであることを確信した。
そして入り口にはボルドーとヴァゴウが対峙していて、ビライトとキッカがそこに向かって走っているのを認知魔法で確認をした。
(…しかし、この病院を見捨てるわけには…)
「クライドさん。行ってください。」
後ろから声をかけたのはメルシィだった。
「メルシィ…しかし。」
「この病院は私が命を懸けてお守りします。だからあなたは主人たちの手助けを。守ることも大切ですが攻めることも大事です。」
メルシィは病院を任せてクライドを送り出すつもりだ。
「…お前ひとりでここを任せてみろ。たださえアルーラのそばを離れているというのに、ボルドーに後でどう言い訳する。お前に何かあったらブランクはどうするというのだ。」
「この状況が長引いてしまう方がよくありません。だから行ってください。私は絶対死にません。我が子の成長を見ないまま死んでたまるものですか。」
メルシィの目は真剣だった。
「…分かった。少しでも早く終わらせるように尽力しよう。」
「はい。待っていますから。」
クライドは4階の窓から勢いよく飛び、地面に着地、そのままドラゴニアの入り口に向けて走り出した。
「…あなた、皆さん…どうか無事で…私も、ここを守り抜きますから…ブランク、待ってて…」
メルシィは皆の無事を祈りながら、病院での怪我人の治療に当たった。
これでレジェリー以外の5人が戦いの地に駆け付けることになる。
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「行くぞッ!」
ボルドーはエクスリストレイのお陰で飛行は容易である。
相手はドラゴンだ。空中戦は必然だろう。
ボルドーは空を飛び、グリーディと対峙する。
「ほう、竜人であるのに空を飛べるとは。面白い。」
グリーディはその光景に興味を持つ。
「余裕かましてんのも今のうちだッ!」
ボルドーは魔法陣を展開。
「最初から全開で行く。」
「フフッ、飛ばすではないか。妾を楽しませてみるがよい!」
余裕の表情を見せるグリーディだが、ボルドーは魔法陣から魔法を発動。
「ギガフレイムランス!」
ボルドーの上級魔法、ギガフレイムランス。巨大な炎の矢が高速で飛んでいく。
「ほう。」
グリーディは両手を前に出す。そして魔法陣を展開。
「この程度、退屈しのぎにもならぬぞ。」
グリーディはアッサリと上級魔法を防御魔法で防いでしまった。
「やるじゃねぇの…だが狙いは他にあるッ!」
ボルドーの下ではヴァゴウが無数の銃や弓を召喚しており、狙いを定めていた。
その数は50を超える。
修行をしていた時はこれほど出せてはいなかったが、ヴァゴウの決意の強さが今の実力に反映しているのだろう。
「一斉照準。放てッ!」
ヴァゴウの声に応えるように召喚した銃から銃弾が一斉に放たれた。
「ほう。」
グリーディは飛行し避けようとするがボルドーはそれを狙って次の魔法を打ち出す。
「逃がすかッ!チェーンバインド!」
ボルドーは中級魔法、チェーンバインドを発動。
光の鎖が出現し、グリーディの足を拘束し、逃げられなくした。
「この程度の鎖で妾の身体を縛ることなど…片腹痛い。」
グリーディはその鎖を尻尾で砕き、ヴァゴウの銃弾を全て回避。そのまま一気に地上へと急降下し、ヴァゴウに迫る。
「ッ!」
ヴァゴウは即座に盾を召喚し、グリーディの振りかざす爪を盾で受けた。
「グッ…ウオッ!!」
盾にはひびが入る。
その細腕の何処にそんな力があるのかと疑ったが、今現にその爪で盾が壊されようとしている。
「その程度の盾では受けきれぬよッ!」
「クッ!ガアアッ!」
グリーディはその爪を離したと思ったらその長くしなやかな尻尾で盾を攻撃、その一撃でヴァゴウの盾は砕け、ヴァゴウもろとも吹き飛ばした。
「ヴァゴウ!」
ヴァゴウは背中から地面にバウンドするが、かろうじてふんばり、壁に激突することは避けられた。
(なんて力だ…!盾すらも簡単に打ち破るなんて…!)
「こっ…!」
ボルドーはすかさずグリーディの背後にキングエンハンスで強化した拳で攻撃しようとするが、それも読まれていたのか尻尾で思いっきりボルドーの身体を叩きつけ、地面に叩きつけた。
「グッ…!」
身体の大きさも相まって、巨漢のボルドーでさえもあっさりと叩きつけられてしまう。
二人がかりだというのにグリーディは余裕の笑みを浮かべていた。
「どうした?その程度で妾を倒せるとでも思っているのか?舐められたものよ。」
ビライトたちの前で圧倒的な力を見せつけていたボルドーが赤子のようになめられている。
それほどにグリーディの力の大きさはとてつもないのだ。
このままだと負けは避けられない。
「負けられねぇ。」
ボルドーは立ちあがる。
キングエンハンスのお陰でボルドーはあまりダメージは負っていない模様。
「まぁこの程度ではやられぬわな。そうでなければ面白くない。」
(…強い…!これが魔竜グリーディの実力…ってか…)
ヴァゴウはグリーディに対する恐怖がまだ抜けずにいるが、必死に戦えと自分に言い聞かせている。
「ワシが…やらなきゃ…いけねぇんだ。」
ヴァゴウの心臓はバクバクと音を鳴らす。自分にとってのケジメ。そして国を守りたい、ボルドーを助けたい。死にたくない。もっとビライトたちと旅をしたい。
色々な思いがヴァゴウの心を強く高らかに突き上げる。
「加勢するぞ。」
その声は建物の屋根の上からだ。
クライドが屋根から飛び、グリーディの後ろ首に足技を当てる。
「新手か。」
足技は確かにクリーンヒットしたはずだが、グリーディは少しだけ身体を動かした程度であった。
「堅いな…」
「クライド…!」
クライドはヴァゴウの横に着地する。
「もうすぐビライトとキッカも来る。一斉に畳みかければやれる相手かもしれん。」
「…アイツは強い。ワシらが束になっても勝てるかどうかわからねぇぞ。」
ヴァゴウはクライドに言うがクライドは首を横に振る。
「分からなくてもやらねばならん。俺は必ずイビルライズにお前らを連れていく。それが俺の使命だ。」
クライドは短剣を2つ取り出し両手に装備し、構える。
「国のためではないのか。」
「ビライトたちがこの国を守りたいと願うならばそれは俺の願いでもある。無謀なら止めるがな。無謀とは感じん。」
クライドの目には希望が宿っている。
「かつてこの国は力を合わせグリーディを討伐している。無理ではない。希望を持て。」
クライドは走り出す。
「ハッ!」
クライドは獣人らしい高いジャンプで建物の屋根に乗り、グリーディに向かって飛び、短剣を振りかざす。
「飛べぬならば相手にならぬ。」
グリーディは尻尾でクライドの身体を叩きつけようとする。
「舐めるな。」
クライドは尻尾攻撃を受け流し、尻尾に乗り更に跳躍する。
「ハアアッ!」
クライドは身体を回転させ、回し蹴りをグリーディの首元に当てた。
「ムッ。」
更にクライドはその回転を利用して短剣でグリーディの首に2回斬撃を与え、地面に着地した。
「ほう…やるではないか。」
グリーディは首についた傷を見てニヤリと笑った。
(コイツ…遊んでいる…)
クライドは手ごたえをあまり感じていなかった。
「感心してる場合じゃねぇぞ。」
ボルドーだ。グリーディの背中を取っていた。
「食らいやがれ!シャインナックル!」
ボルドーの上級魔法、シャインナックルは拳に光属性の魔力を込めて殴る技。
闇の力が強いグリーディにとって光の属性は苦手だ。
「舐めるでないぞ。」
グリーディは即座にボルドーの方を振り向き、口からあの光線を放った。
「ッァッぶねぇ!!」
ボルドーのシャインナックルで光線を受け、かろうじて光線を弾き飛ばした。
ドラゴニアから外れた平原に光線が命中し、大きな爆発をあげた。
「…!」
あの光線が町に当たっていたらと思うと背筋が凍る。
咄嗟に出した光線でその威力だ。
やはりグリーディが本気を出せば恐らく城の結界も意味を成さぬほどであることは間違いないと見た。
(マズイな…このままだと町が危ねぇ…!)
こちらは町を守りながらの戦いだ。
それに今、魔法学園に逃げた市民たちが城に向かって避難している。
病院では多くの患者や怪我人が苦しんでいる。
数ではこちらの方が多いが、状況は明らかに不利であった。
街にはまだオートマタが残っている。
「守るべきものが多くて大変であろう、妾が減らしてやっても良いぞ?」
「ざけんなッ!町が、国民が、仲間が、家族が俺様の守るべきものだッ!潰させるものかよッ!」
「そうだッ!」
ボルドーの声のすぐ後にビライトとキッカが飛び出した。
「ビライトッ!」
「これ以上、やらせるかッ!!」
「また新手。ハエのように湧いてきおる。」
ビライトは既にエンハンスセカンドを発動させている状態だ。
キッカは周囲に居るボルドーたちを支援するために支援魔法を発動。
「ディフェンスアクセル!」
キッカのアクセル系魔法によりボルドー、クライド、ヴァゴウ、そしてビライトの防御の力が高まる。
「うるさいハエめ。」
グリーディは闇魔法を発動。
「グラビティゲート。」
グリーディの周囲に闇の結界が出現。突撃していたビライト、そしてその近くに居たボルドーにその結界が命中。
「!」
「!?」
ビライトとボルドーの動きがまるで止まったように停止してしまう。
「煩わしいハエどもめ。」
グリーディの手から黒い魔法球が放たれる。それはビライトとボルドーの腹部に命中するが、2人の動きは非常にゆっくりとしたスピードになっていて、絶対に避けられない。
魔法球がヒットした瞬間、ビライトたちは結界から弾かれ、気が付いた時に2人は魔法球を食らっていた。
「グアッ!!」
「ッ…うああっ!」
「お兄ちゃん!きゃああっ!」
ビライトのダメージがキッカにも痛みとして反映される。キッカはシンセライズと繋がっているからなのか、闇の力は特に過敏なようで、いつも以上に辛そうな表情を浮かべた。
「クソォッ!」
ヴァゴウは武具召喚で銃を連射。
クライドも屋根を伝い再びグリーディの首元を狙う。
「貴様らも果てよ!」
グリーディの全身から闇の魔力が溢れだし、それは衝撃波となって周囲を襲う。
「ッ!?」
「グッ!?」
闇の魔力が詰まった衝撃波がクライド、ヴァゴウ。そして地上に叩きつけられたビライトとボルドーにも襲い掛かる。
「「うああっ!!」」
「「グアアアア!」」
「グッッ!?」
全員が衝撃波で全身の強い力の波動を受けた。
正面から力の波動を受け、全身を打ち付けられるビライトたち。
キッカのディフェンスアクセルが無ければもっと大怪我を負っていたかもしれないが、ビライトたちはまだ戦える余力は残っている。
だが、エンハンスをかけていたビライトとボルドー以外。すなわちクライドとヴァゴウはビライトたちよりもダメージが大きいようだ。
クライドもヴァゴウも立ち上がられずにいる。
(…強すぎる…!)
ビライトはフラリと立ち上がり、グリーディを見る。
グリーディは不気味な笑みを浮かべている。
(…負けられねぇ…絶対に…負けられねぇ…!)
ボルドーも立ち上がりグリーディを睨みつける。
(だが…このままではマズイ…!クソッ!俺様は…こんな時の為に強くなって…力をつけてきたってのに…!)
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グリーディとの激しい戦いが繰り広げられている中、クルトとレジェリーは兵士たちと共に市民の避難を手伝っている。
2分隊に分かれたこと、そてそれだけでなく、兵士や魔法学園の生徒たちも隊を作り、市民たちは順調に城まで避難していた。完了までもう少しだ。
300人近くいた市民たちの実に7割は城に既に避難し終わっていた。
多くの生徒たちが立候補し、襲い来るオートマタを撃退し、そして住民たちを多く素早く避難させていた。
その様子と、入り口のグリーディとの戦いは城の屋上からも見えていた。
「アルーラ殿、大丈夫か。」
「なんとか。ただ、あのドラゴンの同じような光線が再び飛んでくれば…危ういかもしれません。」
アルーラの結界は先ほどのグリーディの光線で大分弱ってしまったようだ。
オートマタを撃退する力は残っている為、侵入されることは無いが、もう一度グリーディからの一撃を貰えばどうなるかは分からない。
「あのドラゴンと戦っているのは…ボルドー殿たちのようだ…だが…私でも分かる…あのドラゴンは…強い。」
「あれは魔竜グリーディ…災厄クラスのバケモノだ…」
「魔竜…グリーディ…死んだはずでは…!」
ファルトはグリーディの存在は知っていたが、姿は知らなかった。そして死んだと聞かされていた。
「あぁ、確かにグリーディは死んだ。だが…なぜか奴はここに居る。ヒューシュタット…恐ろしい連中だ。」
フリードは辛そうに戦場の方を見つめる。
「…ボルドー…ビライト、皆…」
フリードは無事を祈るしかなかった。
だが、フリードには何か隠している何かがある。
(いざとなれば…儂が皆を守らねば…)
フリードは内心、自分の中で気持ちを整理していた。
フリードには何か隠された力があるのかもしれない。それはグリーディを倒せる可能性のあるものなのかもしれない。
だが、それを躊躇うのにも理由があるのだろうが…アルーラはそれを使わないことを願っていると言っていた。
それはもしかしたら本当の最終手段なのかもしれない。
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「フフ、やってますね、グリーディ。」
ドラゴニアから少し離れた場所の高台に立っていたのはシルバーとブロンズ。
ヒューシュタットの2人の人間は燃えるドラゴニアを見ている。
シルバーはケタケタと笑っており、ブロンズは静かに眺めていた。
「オートマタの数は大分減ってしまったようですが、ヒューシュタットで無限に増産されているので何も問題は無い。あとはグリーディがあの国を滅ぼすのを眺めているだけで良い。」
ブロンズは小さく笑みを浮かべる。
「我々ヒューシュタットが全てを支配する日は遠くなさそうだ。グリーディは40年前よりもはるかに強くなっている。ドラゴニア兵が束になっても敵わない。無様ですね。ドラゴニア!ボルドー・バーン!」
シルバーはジィル大草原での一件があるため、ボルドーに対しては強い執着心を抱いてしまっているようだ。
「世界を我々の手に…もうすぐそれが叶う。ドラゴニアを支配したら次はワービルトだ。」
ブロンズは手を胸に当て、呟く。
「もう、間違えない。」
(私は、私の望む世界で、理想の世界を…作る。ヒューシュタットが世界を支配したら次は貴様だ…ガジュール。)
ブロンズは内心全てを自分の物にしようと企んでいるようだ。
しかし、それはブロンズだけではないようだが…
(素晴らしい、破壊と混乱、そして支配。世界中が私に服従する日が来るッ!)
シルバーもまた、企みを内側に秘めているようだ。
「ドラゴニアが滅びるのも時間の問題だ。私はヒューシュタットに戻り、ガジュール様に報告を入れる。」
「ええ、頼みましたよブロンズ。」
ブロンズは機械を取り出し、スイッチを押す。
するとその姿は一瞬にして消えた。テレポートの一種であろうか。
「滅びよ、全て。全てな。フッハハッ!!」
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「その程度なのか、つまらんな。」
グリーディはほぼ無傷で君臨している。
しかしビライトたちは負傷している。
力の差は歴然であり、ボルドーでさえも苦戦を強いられている。
そしてヴァゴウの心臓は激しく鼓動していた。
目の前に居る恐ろしく強く、強大な力を持つ存在。それが自分を食べるつもりで産んだ母親であるという事実。
魔竜グリーディという名で恐れられた存在。
ヴァゴウはアレの腹から生まれて来たのかと思うだけでゾッとしていた。
子が腹から生まれてくるのは当然だ。だが、そういう当たり前のことではない。
あの存在から生まれ、あの存在の血を引いている自分の存在も恐ろしいのだ。
自分にもあんな残虐な血が流れているのかと思うだけで胸が苦しくなる。
「…ッハッ…ハッ、ハッ…」
息が苦しくなる。
この感情は恐怖だ。
身体が震える。
怖い。怖い。ヴァゴウの心臓の鼓動はどんどん高くなる。
戦うと決めたはずなのに。体が震える。
グリーディの圧倒的な力の前に心が折れかかっているのだ。
「まだだァ!」
ボルドーは空を飛び、グリーディと再び交戦を始める。
「ウオオオオオオオ!!!」
「ハッ、ハハハ!そうでなくてはつまらぬ!もっと妾を楽しませて見せよッ!」
ボルドーはキングエンハンス状態で肉弾戦を仕掛ける。
ボルドーの拳とグリーディの拳がぶつかり合う。
体格差も圧倒的に相手の方が上。
ボルドーの巨漢が小さく見える程にグリーディは大きい。
その身体の体格差と、力の差にボルドーは押され気味だが、ボルドーは必死で食らいついている。
「このおおおおおお!!!」
ビライトもエンハンスセカンドの状態であるため、勢いよく壁を登り、宙を舞う。そして大剣を振りかざす。
「邪魔よ。」
「ぐあっ!」
グリーティは尻尾を震わせ、ビライトに命中させた。とても精度の高い狙い打ちにビライトは対応できず、壁に身体を強く打ち付ける。
壁から地面に身体を強く叩きつるビライト。エンハンスをかけているとはいえ、今の攻撃でビライトは身体を起き上がらせることが出来なかった。
(…ヤバイ…骨…いったかも…)
エンハンスをかけて強化をしているというのに、尻尾一撃でこの結果だ。ビライトは身体を震わせて立ち上がろうとするが立ち上がれない。
「お兄ちゃん!」
キッカが駆け寄り、回復魔法をかける。
「…すまんキッカ…」
「お兄ちゃん…このままだとマズイよ…!」
「くそっ…ボルドーさんがあそこまで苦戦してているような相手だと…俺たちは話にならないじゃないか…!」
ビライトは悔しい気持ちを吐き出した。
そして残されているのはエンハンスサードのみ。しかし、これは身体に大きな負担をかけるいわば最後の切り札のようなもの。
これで倒せなければもうビライトは何も出来なくなるだろう。
「諦めるな…」
クライドがフラフラと身体を揺らしながらビライトの身体に手を当てる。
「エクスヒール…」
クライドの回復魔法、そしてキッカの回復魔法が合わさり、ビライトの傷は癒えていく。
「クライド…」
「この戦いを越えなければ…お前はずっとキッカの身体を取り戻せんぞ…立って、戦え。」
「……そうだ、キッカを助けるために俺は……アイツを…」
クライドの激励を受けて立ち上がるビライト。
「必ず…倒す…“殺さなきゃ”…」
その時のビライトの目には黒い光が照ったように見えた。
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ビライトとクライド、キッカが再び立ち上がる時、ヴァゴウは胸に秘めた恐怖が増幅していき、ついには頭を抱えて蹲っていた。
(動かねぇ…身体が…動かねぇ…!クソッ、みんな戦ってんだぞ!)
ヴァゴウは内心分かっているつもりでも身体が言うことを聞かずに震えるばかりだ。
「クソッ、クソオッ!動けッ!動けッ!なんで…動けねぇんだよ…!」
分かっている。動かなければならない。グリーディを退けなければならない。
それは分かっている。
だが、ヴァゴウの脳裏によぎる昔の辛い思い出。
そして記憶の中で見た自分が吐き捨てられるように生まれた姿。
これは全て、元をたどればグリーディがドルグラを誘拐、強姦したことが全ての始まり。
拒絶反応で毎日死ぬほど痛い思いをして、死ぬほど辛い目にあって。
それは全てこの魔竜グリーディという存在が居たからなのだ。
グリーディさえ、いなければ。
自分が生まれてさえ、いなければ。
自分の存在を否定したくなるほど、怖く、恐ろしく、身体が震え、涙が出そうになる。
ボルドーと、皆と戦うと決意したはずなのに。いつまで怯えているのか。
心では分かっていても、身体が言うことを聞いてくれなかった。
「グハッ…!」
誰かが苦しんでいる。
ヴァゴウは上を見た。
そこにはグリーディにより壁に叩きつけられたボルドーの姿。
「ボル…ドー…!」
「フフフ、その無駄な強化魔法も大したことないではないか。」
「黙り…やがれッ!」
ボルドーは自傷覚悟でグリーディに攻撃魔法をぶつける。
「上級魔法を連射できる力…古代魔法エクスリストレイか。フフ、シルバーが言った通りだね。」
「そのムカつく名前を出すんじゃねぇ…!」
「だが上級魔法ごときでは妾を傷つけることなどできぬわ。」
グリーディは目を光らせ、紫色の雷がボルドーを包み込む。
「グッ、アアアアアッ…!」
「やめろおおお!」
ビライトは再びグリーディに大剣をぶつけようとする。
「お前もやられたいようだ。」
「ウアアアアアアアッ!」
グリーディは空いていた片手で紫の雷を繰り出し、ビライトに直撃。
空中で電撃を浴びたままビライトは動けなくなる。
「っ…ぁァッ…!」
地上に居たキッカにも痛みが襲う。
「ハッ!!」
クライドがグリーディよりも高い場所から短剣で斬撃を加える。
「ハエ共がッ!」
「クッ!」
斬撃を食らわせたクライドだが、あまり効果は無いようだ。
そしてクライドは尻尾で弾き飛ばされる。
壁に叩きつけられる前に受け身を取り、壁を伝い、再び攻撃を与えようと
する。
獣人ならではの素早い動きでかく乱し…
「ハァッ!」
「ヌゥッ!」
グリーディの両腕に斬撃を続けて与える。
ボルドーの身体から手が離れ、ビライトにかかっていた魔法も解かれ、2人は地面に不時着した。
「グッ、ハァ、ハァ…」
「ボルドーさん…」
ビライトは受けていた時間が短かったためまだ立ち上がれているが、ボルドーは立ち上がれず、地面に手を置き、荒く呼吸をしている。
「…ッ、情けねぇ…歯が…立たねぇなんてよ…だが…」
ボルドーは腕をググッと上げ、フラフラしながらも立ち上がる。
立ち眩みをしながらもグリーディを睨みつける。
「ここで折れるわけにゃ…いかねぇんだ…!!俺様は…国を…メルシィを…ブランクを守るためにここに居るんだッ…!」
「そうだ…負けるわけには…いかない…!」
「絶対…!」
キッカがヒールアクセルでビライトとボルドーの傷を癒す。
だが、損傷の方が激しく、あまり効き目が表れていないようだった。
「フフ、全く煩わしいハエどもめッ!我が子のように震えておればいいものを!」
グリーディはヴァゴウを見て不敵な笑みを浮かべた。
「…」
ヴァゴウは腕、足を震わせている。
「ヴァゴウッ!!」
ヴァゴウはやはり怯えている。ボルドーはヴァゴウに叫ぶ。
「ボルドー…」
「ビビるなッ…!勇気を振り絞れ…!」
「ワシは…」
「怖いのも分かるッ!震えるんだろッ!逃げたくなるんだろッ!けど、お前は…お前はきっと超えられるッ…!」
「…!」
「俺様は…信じてる…ッ…!」
グリーティの尻尾がボルドーを弾き飛ばす。
「囀るな。ソイツはただの臆病者。自分の現実から逃げる臆病者よな。」
グリーディは地に降り、ヴァゴウに向かって歩き出す。
「怖いか。震えるか。」
ヴァゴウの心臓の鼓動が高鳴る。
怖さを我慢して戦っていたのに、いざとなると何も出来ない。
そして今も震えている。
「…ッ…」
「光栄に思え。妾がその恐怖を終わらせてやろう。」
グリーディは大きく口を開ける。
「我が贄となりて、我が血肉となるがいい。」
動けないヴァゴウ。
食われる。そう思った瞬間。
「アアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!」
ビライトがヴァゴウを突き飛ばし、その牙から逃れた。
「ビライト…」
「オッサン!大丈夫か!」
「あ、あぁ…」
「オッサン!しっかりしてくれ!コルバレーに居た時みたいに…旅に出る前のオッサンみたいに…堂々としててくれよ…!いつまでも……ビビッてるんじゃないぞッ!!!」
ビライトはヴァゴウに馬乗りになった状態で大きな声で言う。
「…!」
「逃げてちゃ…何も変わらない!!自分の気持ちから逃げずに…戦えッ!!!」
ビライトは必死にヴァゴウに訴えた。
ビライトからの言葉はヴァゴウに深く突き刺さった。
(そうだ…ワシは…逃げてばかりだ。昔も、今も。)
目の前に自分を苦しめてきた元凶が居る。
その姿を見るだけでトラウマのように辛い思い出が流れ、溢れ出てくる。
そんな状態が怖くて、怖くて、だから動けない。逃げたくなる。立ち向かわないといけないと分かっていても身体が動かない。
「うるさいハエめ。ここで共々果てよ。そしてじっくり食してやるから安心しろ。」
グリーディは闇魔法を放とうとしている。巨大な黒い重力を纏った球体がビライトとヴァゴウを吸収しようとしている。
入ってしまったら重力でおしつぶされてしまうだろう。
「オッサン…言ってたじゃないか!ドラゴニアが恋しくなったって!この旅が終わったら…ドラゴニアで店を出したいって…!その夢…叶わなくなるんだぞ!それでいいのかよッ!」
「……ない…」
「…!」
「よく…ないに…決まってる…!」
ヴァゴウは涙目でビライトに語る。
「店、出してぇよ…もっと生きてぇよ…!もっと皆と旅してぇよ…!もっと…楽しみてぇよ…!過去なんか…全部洗い流してぇよ!」
「だったら戦おう!俺たちが守るんだ!ドラゴニアも!俺たちの未来も!オッサンの未来も!グリーディを倒して…全ての過去や運命を全部吹き飛ばしてしまおう!」
ビライトは吸い込まれそうになりながらもヴァゴウの手を掴む。
「怖がらなくていいんだ。俺が居る。キッカが居る。ボルドーさんが居る。レジェリーもクライドも居る。ドラゴニアのみんなが居る。怯えなくてもいいんだ!あんたを支えてくれる人がこんなにも居るんだ!だから…戦おう!」
ビライトはヴァゴウの手を掴んで言い続ける。
「…ハ、ガハハ…ほんと、カッコワリィ。」
ヴァゴウは目に涙をためた。
「馬鹿だよな、ワシ…あの事件から…いンや、それよりずっと前からだ…ずっとウジウジ悩んでたんだ。ボルドーは何度もワシを励ましてくれたけど…ワシは何にも変わらずただ悩んでた。震えてた。怖がってた。」
ヴァゴウはビライトの手を握り返した。
「お前にこんなこと言われるなんて、思わなかったよ。ありがとよ…」
ヴァゴウの震えは止まらない。
だが、その止まらない震えに抗いヴァゴウは重力に吸い込まれそうになるビライトを支え、足に強く体重をかけてふんばる。
「何…耐えるのか。」
それにはグリーディも少し動揺したようだ。
ヴァゴウはグリーディを見る。
「…正直今でも怖いさ。けど…いつだってそうだった。それでもワシにはこんなにも支えてくれる仲間が…ダチが居る。家族が居る。だから…ワシは…戦う。」
ヴァゴウの心臓が激しく、強く、鼓動する。
それはやがてエネルギーとなり、身体が強く大きな音という鼓動を響かせる。
「ダチの、仲間の、そしてドラゴニアの未来を守るため…ワシは…逃げねぇッ!」
ヴァゴウの身体に変化が現れた。
心臓がはじけ飛びそうなほどに加速し、大きな音を鳴らす。
「もう、逃げるのは…終わりだッ!!!」
ドックン、ドックンと、周りにも響く様な激しい音を鳴らした。
ヴァゴウの身体は徐々に巨大化していき、バキバキと大きな音を立てながらヴァゴウの姿が変わっていく。
翼を大きくはためかせた。
「グルアアアアアアアアアアア!!!」
高く激しい咆哮を空へと放ち、ヴァゴウの姿はドラゴンの姿に近いものへと変貌した。
「オッサン…これってまさか!」
「潜血…覚醒…!」
「ヴァゴウ…お前…!」
ビライトはヴァゴウの腕の中。
クライドは呟く。
「ほう…これは…!」
グリーディも突然の変化に驚いている。
これは、潜血覚醒。混血種のみが発現するという、血の逆転現象。
薄い方の血が濃くなり、姿が変わる。そしてとてつもなく強き力を発揮するが、その力の大きさに身体が耐えられずに死んでしまうリスクが高まる現象だ。
そしてボルドーとクライド、そして回復術をかけていたキッカが驚き、ヴァゴウを見上げる。
「馬鹿な…潜血覚醒は精神の強い乱れがあって起こる現象だ…ビライトの声で心をむしろ落ち着かせたヴァゴウが何故…」
クライドは知っている潜血覚醒の知識と異なる現象に驚きを隠せずにいた。
「オッサン…!」
ヴァゴウの身体はボルドーよりもはるかに大きく、約7m程の大きさになり、基本的に頭部はあまり変化がないようだが、それより下は全身が岩の鎧のようなものが鱗として飛び出すように変形している。
背にはグリーディのような棘が生え、脚部にも岩のような鱗が変形したような装甲が現れている。
シルバーに無理やり潜血覚醒されたときの姿はヴァゴウをそのまま大きくしたような姿であったが、今回は少し形態が異なるようだ。よりドラゴンらしく、ガッチリとした姿になっている。
グリーディの大きさも約7m程度であるため、ヴァゴウの身体はグリーディと対等の大きさにまで巨大化した。
荒い呼吸をし、目が完全に焦点のあっていない状態となっており、今にも暴れだしそうな様子だが、ヴァゴウはすぐにその様子を見せなかった。
「ヴァゴウ!意識は…意識はハッキリしてんのか!してるなら答えてくれッ!」
ボルドーはヴァゴウを呼ぶ。潜血覚醒は危ない…下手をすれば命を落とす上に、ヴァゴウまで前回のように暴れまわってしまうといよいよ取り返しがつかないのだ。
だが、今回は前回とは違う。ヴァゴウの精神は落ち着いている状態だったはずだ。そしてすぐに暴れださないことを見ると何かが違う
そう判断したボルドーはヴァゴウに声をかけた。
「…ウオオオオオオオオオッ!!!」
それが返事だったかは分からないがヴァゴウは咆哮した。
「!」
ヴァゴウはグリーディに向かって一気に距離を詰め全身で体当たりした。
「何!?」
ついに驚いた表情を見せるグリーディ。
「ガアアアアアアアアアアッ!!!」
ヴァゴウはそのまま拳をグリーディの胸に叩きつけ、勢いよく吹き飛ばした。
「グルァァァァッ!!」
吹き飛ばし、体制を整える前にヴァゴウは腕を広げ、無数の武具を召喚した。
その数は有に200を超えていた。
「オオオオオオオッ!!」
200を超える武具が一斉にグリーディ目掛けて打ち出される。
剣や槍は直接、そして弓や銃からは無数の矢と弾丸が打ち出された。
「グアアアッ!」
グリーディの叫びが聞こえた。
効いている。ダメージを受けている。ヴァゴウが打ち出した武具も矢も銃弾も強い魔力を纏っている。
ヴァゴウからは異常に高い魔力が溢れ出ており、それはオーラとなって全身を巡っている。
突撃の衝撃でビライトはヴァゴウの腕から離れ、身体を伝って地上に降りた。
「これは…間違いない…!」
クライドは確信を持ち、ビライトとキッカ、ボルドーに駆け寄った。
「ビライト、キッカ、ボルドー。よく聞け。」
クライドから発せられた言葉は希望となった。
「“ヴァゴウは潜血覚醒を制御している。”」
「「!!」」
「何だと!?」
驚きを隠せないビライトたち。
自我を失っているようにも感じるが、クライドは確信を得ていた。
「多少気が立っているようだが…確実に敵味方の区別がついている。間違いあるまい。俺たちもヴァゴウに続くぞ。行けるな?」
クライドの声にビライトたちは頷いた。
「オッサン!!俺たちも…やれることをやるから!だから…背中は任せてくれ!!」
ビライトはヴァゴウに向かって叫ぶように言う。
すると、ヴァゴウは振り返らずになんと、首を縦に振ったのだ。
間違いなく意志があるという表れだった。
「行こう!」
「おう!」
「うん!」
「あぁ。」
ヴァゴウの潜血覚醒により、戦いの行方は分からなくなった。
グリーディとの戦いは激化し、そしてレジェリーやクルトたちの避難活動は大詰めを迎える。
城ではアルーラたちが守り、そしてベルガは城に避難した人々励ましながら行方を見守り…病院ではメルシィが救援活動を行っている。
それぞれがドラゴニアを守りながらこの防衛戦は進む。
潜血覚醒を経たヴァゴウを始めとし、果たしてビライトたちはグリーディを退けドラゴニアを防衛することが出来るのだろうか…