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Delighting World  作者: ゼル
第八章 ドラゴニア防衛戦編~其の命懸け、竜は舞う~
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Delighting World ⅩⅩⅩⅣ

Delighting World ⅩⅩⅩⅣ






ヴォロッドの計らいによって高速ドラゴン便のファルトと共にドラゴニアに戻ることになったビライトたちとアルーラ。


ドラゴニアがヒューシュタットの侵攻を受けるかもしれないという情報を得たビライトたちだったが、悪い予感は的中した。

ドラゴニアにわずか1日でたどり着くことが出来たものの、ドラゴニアはすでに戦場と化していた。


崩壊している建物、燃え盛る炎。

そして人々の悲鳴、魔法の音。


まさにドラゴニアは戦火の真っ只中だった。


慎重に着陸を試みるファルトだったが、ボルドーとヴァゴウは先陣を切って飛び降りる。

ビライトたちは、アルーラにメルシィとブランクを託し、続けて飛び降りた。



ビライト、キッカ、ヴァゴウは街を。

ボルドー、レジェリー、クライドは城を。

2手に分かれてビライトたちはドラゴニアを守る戦いを始める。


ドラゴニア防衛戦の始まりだ。



-------------------------------------------------------





「ゲキッ!」

ヴァゴウは真っ先にゲキの店に向かった。


ゲキの店はドラゴニアの入り口から近い場所にある。ドラゴニアの入り口付近に着地したヴァゴウにとってはありがたい話だった。



ゲキの店の前に辿り着いたヴァゴウ。

だが、店の扉は壊れていて、中には火の手が上がっていた。


「クソッ!」

ヴァゴウはゲキの家に入る。


「!」


カウンターの奥に人影が見えた。


「ゲキッ!」


瓦礫に横たわっていたのはゲキだった。

頭から血を流して、足には何かが貫通したような痕があり、そこからドクドクと血が流れている。

気を失っていているようだ。


流れている血は固まっていない。

怪我をしてからまだそこまで時間は経っていないようだ。


「ゲキ!大丈夫…じゃねぇな!クソッ!火が近くまで来てやがる!」

ヴァゴウはゲキを背負って外に飛び出す。


「!」


しかし、外で待っていたのはオートマタだった。


2機のオートマタが手についた銃を構える。


「ッ…!ゲキ、待ってろ。ワシが安全な場所に必ず連れてってやる!」

ヴァゴウはゲキを下ろし、銃を魔蔵庫から出す。

「そこをどきやがれッ!!!」

ヴァゴウは魔蔵庫から武器を複数出し、宙に浮かせ、無数にオートマタに向かって飛ばした。


「どけェェェッ!!」

ヴァゴウ自身も銃を乱射する。

命中したオートマタは、放電しながら倒れる。

「…ッ、ゲキ!」

ヴァゴウは再びゲキを背負い、走り出す。

「安全な場所…城か…いや、遠すぎる…!」

ヴァゴウは考えを巡らせる。


(近くて安全な場所…安全な場所…!)

走りながら考えるヴァゴウ。そして一つ思いついた場所があった。


「…病院!」

城よりも近くここからもそう遠くない。

ヴァゴウはゲキを背負いながら病院を目指す。


(病院なら応急処置が出来るかもしれねぇ…!ゲキ、死ぬんじゃねぇぞ!)


-------------------------------------------------------



ビライトとキッカは町を走る。

あちこちで炎があがり、建物が壊れ、そして…遺体があちこちに転がっていた。


「酷い…こんなことって…!」

「…ッ…ヒューシュタット…なんでこんなひどいことが出来るんだ…!!」



道中でケガをしたドラゴニア国民たちと出会い、キッカの回復魔法で治療をした。



その時にビライトたちは情報を聞いたのだ。



「今から2時間ほど前だったか…街中で大きな音がしたんだ……何か光線のようなものが飛んできて、建物を吹き飛ばしたんだ…!」


それが始まりの合図だったようだ。


「それからしばらくしてあの機械人間みたいなのがたくさんやってきて、俺たちを襲い始めたんだ…!あんたも見たろ。多くの人がやられた…」


わずか2時間で多くの人々が命を落としていた。

魔法部隊があちこちで応戦しているようだが、相手の数の方が多い上に強敵のようで苦戦を強いられている模様。


「キッカ!魔法部隊の人たちを探して手伝おう!」

「うん!」

ビライトたちは音がする方へと走っていく。




そして、走っていく先には城もあった。

援護をしながら城に向かうのが賢明と判断し、ビライトは大剣を持ちドラゴニアを走る。


「いた!オートマタッ!」

ビライトはエンハンスをかけ、一気に畳みかける。

「よくもドラゴニアを!!」

ビライトは大剣を大きく振り、オートマタが気が付いてこちらに攻撃してくる前に吹き飛ばし、停止させた。


「音が聞こえる!まだいるぞ!」

ビライトは音のする方向へ走っていく。

その先には魔法部隊の竜人がオートマタと戦っていた。


「加勢します!」

「あ、あなたは!?」

「話は後です!まずはこいつを!」

「あ、あぁ!」


相手はオートマタが2機。

ビライトが加勢に入り、キッカも援助に入っている。

3対2になったので、こちらが有利だ。


「行くぞ!」

ビライトは一気に倒すためにエンハンスセカンドを発動。

以前ほど体の負担を感じずに2段階まで発動できるようになっている。


「お兄ちゃん!」

キッカは力を高める魔法をビライトにかける。

「ダアアアアッ!!」

ビライトの強い一撃がオートマタ1機にヒット。

切った部分が音を立てて砕けた。


衝撃でもう1体のオートマタがよろめく。

「今だッ!スパークヴォルト!」

竜人兵士が魔法を発動。

電気を纏った球体がオートマタにヒットした。


「はああっ!!」

ビライトはそのオートマタにとどめを刺し、エンハンスを解除した。


「フゥ…」

「あ、ありがとう!助かった!」

「いえ、それより…町の人たちは何処に?避難場所は何処ですか?」

ビライトは兵士に尋ねた。


「城だ。城にみんな逃げているはずだ。だけど逃げ遅れた人たちは違う場所に逃げているかもしれない。魔法学園や病院…大型の施設に逃げ込んでいるはずだ。」

「そうか…ひとまず城はまだ大丈夫ってことですね。」

「あぁ、そのはずだ…」

ビライトはひとまずホッとした。城が無事ということは少なくともベルガとフリードは安全であることが確証されているようなものだ。


クルトやゲキがどうなっているかは分からないが、無事であることを祈るしかなかった。


「ありがとございます!キッカ!道中の人たちを助けながら城に行こう!」

「うん!」


「兵士でもない君に助けられてしまった。気を付けてな。」

「はい!」


ビライトは道中でケガをして倒れている人々を見つけて、キッカの回復魔法で治療をしたり、ビライトの所有している応急手当の道具を使ったりしつつ、城に行くように誘導しながら城を目指す。


-------------------------------------------------------




ボルドー、レジェリーは城を目指して走る。


その道中でケガをしている人々を発見しては、声をかけたりしているが、町の人々は早く城に行くようにボルドーに頼んでいた。


「思った以上にひでぇ…クソッ!」

自分の中での大好きな場所、思い出の場所。そのなにもかもが壊されてしまい町は酷いありさまだった。

死んでしまっている人も居て、ボルドーは自分が戦いになる前にこの場に居れば助けられた命もあったかもしれないのにと、悔しい気持ちとヒューシュタットに対する怒りを抱えながら走る。


「ボルドー様…」

レジェリーはボルドーの顔を見て気づいていた。とても悔しい気持ちなのだろう、怒りでどうにかなりそうなのだろう。

レジェリーも同じ気持ちだった。大切な場所を壊される怒りも悔しさも理解できる。


「ヒューシュタット…絶対許さないんだから…!」



人々に誘導されながら城の前までたどり着いたボルドーたち。


城の前には防御結界が張られていて、多くのオートマタが密集して城の防御結界を壊そうと攻撃を続けていた。

中からは子供の泣き声、兵士の励ます声、そして防御結界を張り続けながら辛そうな顔をする兵士たち。


上空を見ると、ファルトが少しずつ下降している姿が見えたが、それと同時にやはりファルトに向かっての砲撃も起こっていた。


「あんなにたくさんのオートマタが…!このままだと結界が!」

レジェリーは杖を構える。

ボルドーは前に出た。エクスリストレイを既に発動させているボルドーは魔法を展開する。


「まとめてぶっ飛ばす。」

これまでにないほどに低く怒りのこもった声を発し、両手を前に出す。


「グランド・ボルテックス。」

ボルドーは上級雷魔法、グランド・ボルテックスを放つ。

大地に強力な電気を走らせ、密集しているオートマタに浴びせる。


「あたしも援護します!ウォーターショット!」

レジェリーは中級魔法、ウォーターショットを撃つ。

水の砲弾がオートマタに当たり、ボルドーのグランド・ボルテックスと合体し、感電させて城の前に居たオートマタを一気に制圧した。


「こ、これは…」

一瞬で制圧されたオートマタを見て驚く結界を張っていた兵士たち。


壊れて煙があがる。その煙の奥からボルドーとレジェリーが現れ、兵士たちは笑みを浮かべた。


「ボ、ボルドー様ッ!!!」


「何ッ!」

「ボルドー様が帰ってきた!?」


兵士たちが声を聞きつけて次々とボルドーにかけよる。

「無事か?お前ら。」

「はいっ!なんとかこの城は死守しております!」


「よし、オヤジは?」

「中におられます。」


「案内してくれ。行くぞレジェリー。」

「あっ、はいッ!」




ボルドーはレジェリーを連れて結界の中へ入り、城の入り口を通る。



-------------------------------------------------------



「ボ、ボルドー様!」

「ボルドー様!よくぞ…よくぞ帰ってきてくださいました!」

「ボルドー様が帰って来たぞー!」

「ボルドー様ぁ!」


ボルドーの顔を見るや、城の中に避難していた一般市民たちや、兵士たちは喜んだ。


「みんな、遅くなっちまってすまなかった!もう安心だからな!」

ボルドーの声に人々は歓喜する。


「ホントに凄いわボルドー様…その顔を見せるだけで人々にこんなに希望を与えるなんて…」

レジェリーはボルドーの背中を見て、心の底から凄い人なんだと実感した。



「国のトップになる男だ。こうでなければな。」

「クライド!」

レジェリーの後ろからクライドが話しかけてきた。追いついたようだ。


「ヴァゴウさんは!」

「アイツはまだ町だ…気配察知によると今は病院に居るようだが…」

「病院…?」

「怪我人を運んでいるのかもしれん。ビライトとキッカは少しずつこちらに向かっているようだ。」

気配察知の魔法でビライトたちの位置を把握しているクライドが、今ここに居ない3人の所在を説明する。


「それよりも、ボルドーを追うぞ。」

「そうね。あたしたちも力にならないとだもん。」

ボルドーは奥の謁見の間に行っていたので、レジェリーたちもそれを追いかけることにした。




「オヤジ!」

ボルドーは玉座に座るベルガを発見し、声をあげた。


「ボルドー…ようやく帰ってきおったか。」

「すまねぇ、遅くなっちまった…!」


「良い、帰ってきてくれただけでも…よかった。」


ベルガは力ない声でボルドーに言う。


「それに、頼りになる仲間を連れてきてくれたようだな。」

ボルドーの後ろにはレジェリーとクライドが居た。


「ベルガ様…無事みたいで良かったです…!」

レジェリーはホッとしている。

クライドは小さく頷いた。


「あぁ、最高に頼りになる大事な仲間を連れてきた。」

「ありがたいことだ…感謝する。だが…今の状況は芳しくはない…」


今の現状がよくないことにベルガは胸が締め付けられる気持ちでいっぱいだった。


「オヤジ、クルトは?」

「クルトは魔法学園だろう…大勢の民を保護しているはずだ。」


「魔法学園も避難場所になっているんだな。ゲキは?」

「ゲキ殿は…見ておらん。情報も無い…すまん。」


「…そうか…ッ…」


ゲキはヴァゴウに抱えられて現在病院に運ばれている途中だが、ボルドーはそのことをもちろん知らない。


大切な仲間が無事かどうかが分からないのはとても辛いものであったが、ボルドーは今、王になる者としてこの国を防衛しなければならない。


「今ファルトっていうドラゴンがメルシィとブランク、アルーラを乗せて降りてきている。アルーラは今の防御結界よりも格段に強力な結界を出せるはずだ。」


「そうか…我が孫も乗っておるか…こんな形で初対面になろうとは…全く…残酷な……」


「オヤジ、城で大人しく待ってろ。俺様はメルシィとブランクの無事を確認して、情報を得たら町に出てオートマタを片っ端からぶっ潰してくる。そしてこの大群をけしかけたクソ野郎を見つけ出してぶっ飛ばしてやる。」

ボルドーは背を向け歩き出す。


「お前は相変わらず口が悪いな…だが、私も同じような気持ちよ。だが、私のような老骨では何も出来ぬ…」

ベルガは続けて話す。


「ボルドー、その命、散らすことだけは許さぬからな。」

「ったりめぇよ。俺様は王になる男だ。死んでたまるか。」

ボルドーはベルガの方を向いて小さく微笑んだ。


「クライド、今人々が集まってる避難場所が知りたい。町の情報を集めてきて欲しい。」

「いいだろう。情報無くしては戦いも不利だからな。」

クライドは気配遮断の魔法を使い、気づかれにくい状態になり城の外へと走り出した。


「レジェリー、城の中の奴らを介抱してやってくれ。俺様は兵たちとこれからのことを話す。」

「分かりました!」


それぞれが役割を担い、行動開始となった。


(これ以上被害が広がる前に…なんとかしねぇと…クライド、頼んだぜ。)


ボルドーはクライドからの情報を待つ…



-------------------------------------------------------




一方、空に居るファルトたちはアルーラの防御結界に守られながら、無事にフリードの居るドラゴン便の降り場までたどり着くことが出来た。


「助かったよアルーラ。」

「ウム。だが…ここの結界は随分と弱っているようだ。」

アルーラは城に張られている防御結界を見て呟く。


「!フリード様!」

奥には大きなドラゴンの姿が見えた。

フリードが空を悲しそうな目で見ていたのだ。そしてメルシィの声に気が付き振り向くフリード。


「メルシィ…!」

「フリード様、無事でしたのね…よかったですわ。」

「あぁ…だが、ドラゴニアはこの有様だ…多くの民が…犠牲になっている。」

フリードは悲しい目をしてメルシィを見つめる。



「城に結界を張る。メルシィ殿、魔力をお貸しください。」

アルーラはメルシィに言う。

「わ、分かりました。」


「そなた…」

「私はアルーラ・ポッド。ワービルト王ヴォロッド様に仕えし者。ヴォロッド様の命により援護に参った。」

「そうか…そなたが“彼の”…ウム。感謝する。」


「フリード殿、あなたはもう1人の我が主の“旧友”。礼には及びませぬ。」


アルーラの言う主は恐らくレジェリーの師匠の方であろう。

レジェリーの師匠はフリードとも関係のある人物ということだ。





アルーラは手を空に上げる。

赤い魔法陣が周囲に出現する。

「赤い魔法陣…これは…!」


「我が主であり、絶対の王よ、私の守るべきものを守るため…禁ずる魔法を解き放ちます。」

呟くアルーラの周囲に更に1重の魔法陣が出現。


「絶対の攻撃打ち破りし、触れしものを滅ぼす破壊の壁よ、我が力の名の下にてその悪しきものを滅ぼすがいい。“禁断魔法”ブレイク・パウル。」


アルーラの周囲から赤く禍々しい結界が城の周囲を覆いつくした。


「こ、これは…!」

見たことも無い赤い結界にメルシィは冷や汗を流す。


「“禁断魔法”…今や古代魔法と並ぶ、失われた魔法技術…普通の魔法や古代魔法とは異なり、主に詠唱を唱えることによって発動出来るものであり…その力は強大で…発動主にも負担をかけるものが多い。」


フリードが呟く。


「だ、大丈夫なのですか?アルーラさん。」

「大丈夫だ。問題ない。そのためにメルシィ殿の魔力を頂いた。」


「これでこの城は安心だ。あとは逃げ遅れた者たちがここに辿り着くことが出来れば…犠牲をこれ以上出さずに済む。」

フリードはまだこの城に辿り着けていない人々たちのことを想った。


「ブレイク・パウルは敵意を持って結界に触れたものに強い衝撃を与える反撃結界魔法だ。」

禍々しい赤い結界だが、城下を見ると、オートマタが結界に触れて爆発している様子が見えた。


「凄い魔法…これが…」

「さぁ、メルシィ。ブランクを連れてベルガに顔を見せてやると良い。ボルドーも来ているようだ。」

フリードはメルシィに言い、ブランクを見て微笑んだ。


「はい!アルーラさんはどうされますか?」

メルシィは尋ねる。


「私はここから動くことは出来ません。結界を維持し続けねばならなので。それにこの結界を張っていられるのも無限ではないのでなるべく早くケリをつけるようにボルドー殿に伝えていただけますかな?」

「分かりました。フリード様、また来ます。」

メルシィは走ってボルドーたちの元に向かった。



「アルーラ、“彼”は元気にしているか?」

「…元気…とは言えないかもしれません。きっと今もこの現状を嘆いておられるでしょう。主は優しいお方だ。」


「“特例が無い限り、世界に干渉してはならない”…絶対不変のルール…だな。」


「主にはその規律が適用されます。故に…今のこの事態には干渉できません。故に…我々適用外の者が世界を守らねばならぬのです。私と貴方は同族だ。そうでしょう?古代人、フリード。」

アルーラはフリードを見る。フリードは目を細める。


「儂には何も出来んよ…所詮無駄にでかいだけの、“元人間”。魔力はあっても魔法の才能は無い。ろくに魔法も使えんよ。ただ……」

フリードは空を見上げた。



「儂には“最終手段”がある。最悪、それを行使するよ。」

「フリード殿…そうならぬよう、祈っております。」



--------------------------------------


城の階段を降り、ベルガの元に行くメルシィ。


「メルシィ!ブランク!」

「あなた!」

「ぱっぱ。」


その道中でボルドーと出会った。



「無事か?何処も怪我してねぇか?」

ボルドーはメルシィとブランクを見て怪我の有無を確認する。


「えぇ大丈夫ですわ。ブランクもこの通り。」

「あう~」


「そうか、良かったぜ。良いかメルシィ。ここでブランクと待ってろよな。」

「…えぇ、でも私の力が役に立ちそうなら私も頼ってください。この結界があればブランクは大丈夫。兵士たちも、クルトさんも、アルーラさんも居ますから…ね?」

「…メルシィ…」

メルシィを戦いには巻き込みたくない。

だが、メルシィの癒しの力はきっと怪我人の手当てに役立つ。


「…分かった。だが無理だけはすんなよ。」

「えぇ。城の方にも私が居ない時のブランクの世話をお願いしておきますわ。」

「おう。」


ボルドーとメルシィはブランクを連れてベルガの元へと急ぐ…



-------------------------------------------------------



ブレイク・パウルが発動したと同時に周囲はざわついた。

なんだなんだと慌てる兵士たちや怖がっている市民たち。


「この結界は…!」(アルーラってば…あたしには使うなって言っといて…でも、アルーラなら…あの人ならあたしと違ってあまり負荷もかからないんでしょうね…)

レジェリーにはあれだけ禁断魔法を使うなと言っていたのに、アルーラは禁断魔法で結界を張っている。

しかし、それはアルーラだから出来ている芸当だ。


大きな城をすっぽり覆えるほどの結界を1人で張っているだけでも、相当に凄いのだから。


「みなさん!この結界は安全です!」

メルシィが上から降りてきて市民や兵士たちに伝える。


「メルシィ様だ。」

「メルシィ様も戻られていたのだな!」

「メルシィ様!」


ボルドー同様、メルシィの姿で人々は再び安心を取り戻した。

ボルドーがメルシィと結婚し、子供が生まれていることはドラゴニアの人々は全員知っている。

メルシィはボルドーと合流した。


「結界は有限…時間はあまり残されていないかもしれません。」

「時間との戦いってことだな。」


「メルシィ、無事で何よりだ。」

「ベルガ様、ご無事で何よりですわ。」


「この子が…ブランクか。」

「ええ。」

「そうか…我が孫…か。フフ、笑っている状況ではないが…やはり我が孫の顔を見られたのは嬉しい。妻にも見せてやりたかったよ。」

ベルガはブランクを撫でて微笑んだ。



「戻ったぞ。」


クライドだ。

「状況はどうだ?」


「多くの市民はこの城、大型病院、魔法学園の3か所に逃げている。魔法学園はクルトが指揮を取っているが故、しばらくは問題あるまい。」

クライドは続けて報告を入れる。


「そして…おおよそではあるが、ドラゴニア国民の約6割程度はこの城に避難できていると見える。残りの4割は魔法学園、病院、そしてまだ街中に居る…もしくは既に力尽きていると推測する。」


「…まだ4割も安全が確保できてねぇのか…!」

この短期間でこれほどの情報を集められるクライドも大したものだが、そのおおよそはあまりよくないものであった。


「病院には誰かを連れて来たのかヴァゴウがいるようだが…病院にはクルトのように守り手となるような者が存在せん。市民を逃がすのであればまずは病院からが良いかもしれん。最も、動けぬ患者も居るだろうがな…」

「…よし分かった。この城は当分大丈夫だ。俺様と情報屋で病院に行こう。移動出来そうな者を城へ避難させる。レジェリーは魔法学園でクルトを援護してくれ。そして出来ればクルトたちや魔法学園に残ってる学生たちや逃げ込んだ市民たちを城に誘導して欲しい。」


「わ、分かったわ!」

ボルドーの采配に頷く一同。


「あなた。どうか無理はなさらぬよう…」

「わーってるって!アルーラの傍に居ろよ!」

ボルドーはメルシィに微笑む。


「っと、オヤジ。もしビライトとキッカが来たら魔法学園に向かうように伝えてくれ。病院の場所わかんねぇだろうからよ。」

「分かった。」


「よし、行くぜ!まずは市民の安全の確保!それが済んだら大元を探し叩き潰す!」

「はい!」

「任された。」


ボルドーとクライドは病院へ。

レジェリーは魔法学園にそれぞれ向かい、市民の安全の確保と、城への誘導を行うことにした。


-------------------------------------------------------



屋上ではフリード、アルーラ、ファルトが待機している。

煙の上がるドラゴニアをフリードは辛そうに見つめていた。


「フリード殿…」

ファルトが声をかける。

「あぁ…すまんな。やはりここで見ているだけしか出来ぬのは本当に心が締め付けられるようでな…」


フリードは体長30m程度ある超大型ドラゴンだ。

同じドラゴンのファルトの4倍近くの大きさがある。


「私も高速ドラゴン便として力量しか無いが故、戦いに出ても足手まといだ。悔しいが…」

ファルトも今の現状を黙って見ていることしか出来ずにいた。

自分の役目はビライトたちをドラゴニアに届けること。だが、ファルトはここから動こうとはしない。

このまま自分だけワービルトに帰るのは嫌だったからだ。


「ファルト殿。では頼みを聞いてもらえるか?」

アルーラが赤い魔法陣の中から声をかける。


「アルーラ…」

「私のこの魔法は有限だ。故に少しでも延命させようものならば魔力が必要だ。ファルト殿、無理のない範囲で構わない。魔力を提供して欲しい。」

「あ、あぁ。分かった。私に出来ることならば。」

ファルトは魔力をアルーラに少しずつ提供していく。

これでアルーラの結界は少しだけでも延命できるだろう。


「…人間が頂点の種族になるべき…か。ヒューシュタットの思想は…私にも心当たりがあるよ。」

ファルトは目を閉じ、語る。


「私がまだ“ファルト”という名のドラゴンでなかった時、私はそのような世界に居た。」

ファルトは転生者と呼ばれている。アルーラとファルトがここに来る道中に語っていたことだ。



「ファルト殿は転生者なのか?」

フリードが尋ねる。


「あぁ。私は“シンセライズが誕生する前の時代に生きていたとあるドラゴンの魂が刻まれている”。」


「転生者とは“昔死亡して流れ、還っていった魂が巡り新しい命に宿った新しい命を持つ者”。本来ならば、転生者は自身が転生者であることには死ぬまで気が付かないことが当たり前とされている。」

フリードは自覚のある転生者は初めて見るものだった。


「あぁ、だが私は思い出した。かつて私の前世と呼ぶべき者の記憶をね。」



「私の前世の名は“クライム”。昔、世界がまだ7つだった頃…グァバンという世界のある時代に暮らしていたドラゴンだ。」

ファルトは前世を語る。


「クライムが生きていた時代は、人間とドラゴンのみが存在していた時代でね。人間はかつて文明を滅ぼし、ドラゴンはそれに恐れを感じ人間との関係を絶ったんだ。」

「グァバンか。その世界は儂も知っている。」


フリードは古代人。世界統合を経験した存在が故、知識はある。


「私は文明の崩壊を見た。その時も今のヒューシュタットのように、人間こそが頂点に立つべきだと、その時居た種族たちを蹂躙していった。結果的に人間は自身の生み出した力で自滅し、崩壊した。生き残った人間たちにはもう文明を発達させる力はなく、唯一人間以外で生き残っていたドラゴンの反撃を恐れ、細々と暮らすようになった。」

ファルトは語る。


「独裁支配はいつか崩壊を招く。今のヒューシュタットはまさにそれだ。だからこそ、私は現状を見過ごすことは出来ない。」

ファルトは魔力をアルーラに注ぎ続けながら語る。


「そうだな。それに、このシンセライズには多くの“負”と戦った者たち、各世界の多くの人々、そして神々の願いが詰まった大切な世界。世界は決して、誰の物でもない。皆の物であって欲しいと儂は願っている。」

フリードはそんな世界を夢見ている。

だが、今はとてもそんな状態ではない。ヒューシュタットは今まさに、歴史の悲劇を繰り返してしまっている。


「そしてクライムの時代では、人間とドラゴンは絶対に関わってはいけないというルールが固い氷のように当たり前になっていた。でも…その時代はお互いの手を取り合うことでその氷が解け始めた。」


「かつて種族を超えた愛を結んだ人間の少女とドラゴンが居た。彼女たちは他種族の蟠りを取り除き、硬い氷を溶かしたんだ。」

ファルトは笑顔で言う。


「彼女たちを見守った私は…種族が違うからと片方を見下したり、距離を取ったりしてはならない。手を取り合い、分かり合えるということを知ったんだ。だからヒューシュタットとも…分かり合えたらいいのにと思うよ。」


「…そうだな…全ての種族は平等に。ヒューシュタットのやり方が間違いであるならば…それを正してやれるのは…今この世界に住む人々だけだ。」

アルーラは城の外を見ながらつぶやく。


「ビライトたちがその希望をヒューシュタットにぶつけてくれるかもしれんな。」

「そうだな…きっとヒューシュタットの前国王のホウも望んでいるだろう。」

フリードはビライトたちがもしかしたらヒューシュタットを救ってくれるかもしれない。ガジュールの手を止めてくれるかもしれないと信じていた。

希望を信じる。ここに居る皆が、このドラゴニアを。いいや…シンセライズを好きになれるような。そんな世界を願って。


-------------------------------------------------------



レジェリーは魔法学園に向かって走る。

道中に居る人々に城に行くように誘導しながら。


「魔法学園にも結界が…!」

防御結界が張ってあり、学園前には多くのオートマタが居た。しかし結界のお陰で入れないようにはなっているが、結界を壊そうと大勢で攻撃しているのが見えた。


「この…っ!いい加減にしなさいよね…あたしの…あたしの夢を壊すなッ!」

レジェリーは走りながら雷魔法をオートマタに連射した。

それで複数機倒れたが、それを見た他のオートマタがレジェリーの方を向く。


「あんたたちは絶対許さないッ!」

レジェリーは更に雷魔法を撃ち込む。


「サンダーボール!!」

レジェリーは初級魔法を連射した。

中級魔法や上級魔法は連射が難しいが、初級魔法は連射が出来るので、大勢を相手にする場合は有効なのだ。


「レジェリーさん!」

「クルト様!」

オートマタを撃退しながら結界の奥に居たクルトを発見し、レジェリーはオートマタたちをかいくぐり結界の中へ。


「レジェリーさん…!来てくださったのですね…!」

「はいっ!みんなドラゴニアに来てます!」

「そうですか…旅の途中だというのによく来てくれましたね…!」

クルトはレジェリーに感謝して頭を下げる。

「クルト様、ここの現状は!?」

「ここには実に500人以上の人々が避難しております。うち、200人程度はこの魔法学園の生徒たちです。我々魔法隊の一部と魔法学園の生徒たちでなんとか防御結界を張っていますが、怪我をした生徒も多く…長くは保たないでしょう。それに…オートマタに対抗できる生徒も多くない。状況は良くありません。」

クルトは悔しそうにレジェリーに語る。


「今、アルーラっていうヴォロッド様の侍従が城に強力な結界を張っています。だから全員を城まで誘導できれば…って思うんですけど…」


「フム…しかしこれだけ大勢の人々を誘導するのは非常に危険です。」

クルトは魔法学園の中にレジェリーと共に入る。

そこには多くの負傷者もおり、まともに動くことも出来ない市民たちも大勢いた。

命からがら逃げだしてきたのだろう。


「…酷い…」


「レジェリーさん、王とフリード様は?」


「無事です。ゲキさんは行方が分からなくて…」

「そう、ですか…心配ですね…怪我などされていなければいいのですが…」

ゲキはヴァゴウと一緒に居るが、レジェリーはまだその現状を知らない。


「とにかく、一度に500人を誘導するのは不可能です。少しずつであればなんとかなるかもしれませんが…」

「少しずつでも良いです。あたしたちに出来ることをしないと!立ちふさがるオートマタなんてあたしが全部壊します!だから…城への誘導を始めませんか?」


レジェリーは無理を承知で言っているのは分かっていた。


だが、このままここに居るといつかオートマタに結界を壊され、多くの人々がまた犠牲になるかもしれない。


「…分かりました。ではレジェリーさん。まずこの周辺にいるオートマタを倒しましょう。そして周囲からオートマタが居なくなったら少しずつ誘導を始めましょう。手伝っていただけますか?」


「はいっ!」


「私は討伐の為に割く兵たちの分の結界維持を行いますので、兵たちとレジェリーさんで魔法学園周辺のオートマタを討伐してください。」

クルトは兵を複数人レジェリーと行動させ、レジェリーたちは外に出た。


「行きます!」

「おう!頼むぜ!」

「頑張ろうぜ!」

「はいっ!」


レジェリーたちはオートマタたちに向かって魔法を一斉に唱える。


「絶対、ここに居る人たちを守って…城に誘導する!!」


レジェリーの戦いが始まった。



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ボルドーとクライドはオートマタを倒しながら病院に辿り着いていた。

「チッ、倒しても倒してうじゃうじゃ湧いてきやがる…!」

「病院に着いたぞ。ヴァゴウもここに居る。急いで中を確認するぞ。」

「おうよ!」

ボルドーとクライドは病院の扉を開けた。


「バリア。」

クライドは初級補助魔法のバリアを扉に向かって放つ。

「ひとまず正面だけでも耐久力を上げておいた。気休めでしかないだろうが…無いよりはいいだろう。」

「サンキュー!」


エントランスにはオートマタが2体居た。

「!オートマタ…!」

ボルドーはエクスリストレイを発動させる。


「サンダーボルト!」

中級雷魔法を放ち、オートマタを破壊する。


「フッ!」

クライドは高速でオートマタの目の前に移動し、足で思いっきり壁にオートマタを叩きつけて粉砕した。


「フゥ…って…おい…冗談だろ…ッ…」


オートマタが居た場所のすぐそばには死体が転がっていた。


まだ幼い子供竜人のようだオートマタに殺害されたのだろう。

「…ダメだ、もう死んでいる。」


「…クソッ…!!」

ボルドーは壁に拳を叩きつけ、身体を震わせた。


「こいつにも…他の死んだ奴らにも…みんなそれぞれの未来があったんだッ!!それぞれが愛する者が居たんだよッ!それをッ…!」

ボルドーは今までずっと感情的にならずに耐えてきた。


だが、ついに限界を超えた。目の前に子供が殺されている。子供は国の宝だ。これからのドラゴニアを支える宝物なのだ。

それすらもヒューシュタットは殺し、未来を奪っている。


「落ち着けボルドー。」

クライドは震えるボルドーを落ち着かせようとする。


「…すまねぇ…俺様は王だ。取り乱しちゃならねぇ…んなこたぁ分かってる。だが…このやりきれねぇ気持ちをもう俺様は抑えきれねぇんだ…ッ!」

「お前が取り乱したところで何も変わらん。気持ちは分かるがまずはこの病院の人々を守り、安全な場所に誘導させることが大事だ。そうだろう?」


「…あぁ、そうだな…ありがとよ…」

「行くぞ。」


ボルドーはクライドに説得され、自分の気持ちをグッと抑え込み、病院の階段を上がる。



「誰か!病院の奴らはいねぇか!」

「ボルドー様!ああ、まさかボルドー様に来ていただけるなんて!」

医師の竜人だ。


「状況を教えてくれ。」

「避難者は患者たちは3階と4階に!2階にはオートマタが複数居たので避難させています!」

「そのオートマタはどうした?」

ボルドーが尋ねる。


「ヴァゴウ様が退治してくださいました。」

「ヴァゴウがか!」

「怪我をしていたご友人を抱えてここに来られたのですが…3階に上がる前にオートマタを倒してくださったみたいでして…」

「怪我をした友人…ゲキかもしれん。」

クライドが言う。


「ゲキ…!」

「ボルドー様、ここには多くの怪我人が…把握している範囲でも60人以上はおられます…この病院を離れるのは厳しいかもしれません。」


60人以上の市民と医師が病院の3階と4階に密集している。

医師の数も足りないようで、治療が遅れているようだ。


「…そうか…」

「誰か、結界を張れる方がいらっしゃればいいのですが…」


「…俺様の知る限りだと、アルーラ…キッカ、クルト…ダメだ。皆手が…」


「メルシィはどうなんだ?」

「メルシィは…確かに治癒魔法は得意だし、結界も張れる…だが!」


ボルドーはメルシィを城から出したくない。

自分の妻をわざわざ危ない場所に連れていきたくはない当然の考えだ。


「だが、今は四の五の言っている場合ではないのではないか?それにメルシィは自身の身は自分で守れるだろう。」

「…ッ…それしか手は…ねぇか…!クソッ、ブランクの傍からメルシィを引き離しちまうのか…」


ボルドーは苦渋の決断をした。


「メルシィを連れてくる。クライド。その間病院を頼む。」


「分かった。一応簡単な応急処置の治癒術は使える。治療を手伝おう。」

「あ、ありがとうございます!」


ボルドーはメルシィを呼びに再び城へ。

クライドはメルシィが来るまでの間、病院で待機することになった。


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「クソッ、ふがいねぇ…!」

ボルドーは思った以上に自分が出来ることが限られていることに腹が立っていた。


(俺様一人だとこんな程度のことしか出来ねぇのか…!)

ボルドーは悔しい思いをしながら城に向かう。


「ボルドーさん!」

「ビライト…!」

ビライトとキッカだ。


「逃げ遅れた町の人々を治療したりオートマタを倒して回っているんだ。」

ビライトとキッカは町を回り、逃げ遅れた人たちを探して対応していた。


「…!ボルドーさん…!」

「…何だ?」

「ボルドーさん…」

ビライトとキッカはボルドーの顔を見て驚いていた。


「…ボルドーさん、涙…」


「…あ?」


ボルドーの目には涙が流れていた。

「…お、おお?あぁその、煙だよッ、煙が目に入ったんだ!クソッ、ほんと鬱陶しいよなッダハハ、ハハ。」

ボルドーは流れていた涙を手で拭いた。


「ボルドーさん…」

「なんでもねぇよ!気にすんな!それよりビライト!キッカを連れて魔法学園に向かってくれねぇか?」

「魔法学園?」


「そっちにクルトと多くの人が居る。レジェリーも向かってんだ。安全な城に誘導が出来るならしてぇと思っている。協力してやってくれねぇか?」

「分かった!」

「はいっ!」

ビライトとキッカはボルドーの頼みを了承した。

「頼んだぜ。」

再び城に向かおうとするボルドー。

「うん、あっ、ボルドーさん!」

ビライトはボルドーに声をかける。

「…」


「ボルドーさん、一人で無理せずに俺たちをどんどん頼ってくれよ。みんなの善意に甘えてもいいって言ったのは、仲間をもっと頼れって言ったのはボルドーさんだ。だからボルドーさんも俺たちを頼ってくれ!抱えこまないで…さ!」

ボルドーの流れていた涙は煙なんかのものじゃない。

あれは悔しさから流れる涙だとビライトはなんとなくだが理解していたのだ。


「…ありがとよ。」

ボルドーは振り返らず、そう言って頷き、城へ再び走り出す。


「ボルドーさん、俺たちも精いっぱいやるから…キッカ、行こう。」

「うん!」


ビライトたちは魔法学園に向かって走り出す。


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魔法学園周辺ではレジェリーが兵士たちと一緒にオートマタを倒しまわっていた。


「あと何体なのよっ!」

「あと10体程度といったところでしょうか…!」

「ホントたくさん湧いてきて…絶対残らずぶっ壊してやるッ!」

レジェリーは魔法を連射しながら叫ぶ。

「やああああああっ!!」


「「レジェリー!」」


「ビライト!キッカちゃん!」


「うおおおおおっ!」

ビライトはエンハンスを発動し、オートマタと交戦。

キッカは補助魔法をかける。


「えいっ!アタックブレス!」

キッカはビライトに攻撃力を高める魔法をかけ、ビライトはエンハンス重ねて強い一撃でオートマタを倒す。


「ビライト!キッカちゃん!魔法学園周辺のオートマタを全部倒して、ここの人たちを少しでも城に誘導したいの!」

レジェリーは今の討伐している目標をビライトたちに伝える。


「分かった!ならさっさと倒してしまおう!」

「うん!」


「助太刀感謝する!」

ドラゴニアの兵士たちも応援に感謝し、ビライトたちはオートマタたちをなぎ倒していった。




やがて周辺のオートマタの討伐に成功し、魔法学園に戻ったレジェリーとビライトたち。


「おお、ビライトさん!キッカさん!」

「クルトさん!無事でよかった!」

「よかったです!無事で!」

ビライトとキッカはホッとして笑みがこぼれる。

クルトと再会出来たことをビライトとキッカは喜んだ。



「クルト様、周辺のオートマタは討伐しました。」

「ありがとう。ではみなさん、まずご老人や子供たちを城に送りたい。護衛をお願いできますか?」

「「はい!」」



ビライト、キッカ、レジェリー、そして兵士数十人で3・40人ほどを城まで護衛しながら連れていくことになった。


魔法学園に逃げ込んだ人たちの城への避難が始まった。


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「無理を言ってすまねぇメルシィ。アルーラから離れるなって言った矢先にお前の力を借りることになっちまった。」


「構いませんわ。私だって国の為に力になりたいです。ブランクはベビーシッターさんにお世話をお願いしました。私も皆と共に戦います。」

メルシィはアルーラほど大きな結界は張れないので、2階から3階にあがる道に結界を張ることで、これ以上のオートマタ侵攻を防ぐ方針を取った。


「すまねぇなブランク…必ず帰るからな。」

「ごめんね、ブランク――あとはお願いします。」

「はい、任されました。」

ボルドーとメルシィはブランクをベビーシッターに預け、2人で病院へ向かった。



―――




病院の3階と4階には60人を超える人々が居て、そのうちの過半数が怪我をしており、入院患者ももちろん居る。


「クライド!ヴァゴウとゲキは!?」

奥から歩いてきたクライドに声をかけるボルドー。

「奥の病室だ。」


クライドに案内され、ボルドーとメルシィは病室に行く。



「ヴァゴウ!」


「ボルドー…ゲキ、怪我してんだ。」

病室のベッドではゲキが寝ていた。

さっきまで出血していて、かなり危ない状態に近かったようだが、病院の治療によりなんとか一命を取り留めていた。

「無事…なのか?」

「危なかったけどな…このまま安静にしてれば大丈夫だそうだ。」

「そうか…ひとまずはよかったぜ…」


ホッとしたボルドーだが、まだ問題は山積みだ。

多くの人が怪我人である以上、城に誘導するのは困難だ。


「…ボルドー、ヴァゴウ。お前らはこの戦いを終わらせるために動け。ここには俺とメルシィが残る。」

クライドが提案する。


「情報屋…」

「守ってばかりではいつまでもこのままだ。城の結界も有限だ。もうそろそろ根本的解決に動く者がいなければジリ貧だぞ。」

クライドの言うことはもっともだ。

これ以上防衛を続けていてもいつかは壊れてしまう。


「…メルシィを…頼めるか?」

「任せておけ。」

「クライド、ゲキのことも頼んだ。」

「あぁ。」

ボルドー、ヴァゴウから病院を任されたクライド。


「行け。」

「おう!」

ボルドーとヴァゴウは医師に状況とこれからの方針を説明した。


移動が困難な以上、早くオートマタの脅威から抜け出さないといけない。

故に早く大元を叩き、この防衛戦自体を終わらせなければならない。


「気をつけろよ。」

「あなた、必ず帰ってきてくださいね…!」


「おう、お前も無理すんなよ。」


「はい。分かっておりますわ。ヴァゴウさん、主人をお願い。」

「あぁ、分かったぜ。」


ボルドーとヴァゴウは病院の外に出た。


「ヴァゴウ、大元を探すぞ。きっとヒューシュタットの奴が居るに違いない。」

「おう、分かったぜボルドー。」

「まずは入り口だ。」


ボルドーたちはドラゴニアの入り口に向かった。


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入り口に向かって走るボルドーたち。

燃え盛る街の惨状に胸を傷めながらも走り抜ける。


「どこにいやがるんだ…!」

「どこかに隠れてるのかもしれんが…ドラゴニアは広い。なかなか困難かもしれねぇが…!」


入り口付近の大広場に辿り着いたボルドーとヴァゴウ。


中央にそびえる英雄バーン像は欠けてしまい、全壊はしていないものの、損傷が激しかった。

「ご先祖様の像が…!クソッタレ…!」

ドラゴニアの英雄を称え、今までの長い長い歴史の中でずっとシンボルとして建っていたドラゴニアにとってとても大切なものだ。


「こんな…くだらねぇことで…我が国のシンボルが壊されちまうなんて…」


「ボルドー、このままだと本当にマズイぜ。一刻も早く見つけよう。」

「…そう、だな。」

「ボルドー、悔しい気持ちは分かる。ワシだって悔しい…はらわた煮えくりかえりそうだ。」

ヴァゴウは拳を震わせて言う。

「だが怒ってるだけじゃ変わらねぇ。」

ヴァゴウも感情を剝き出しにして怒りたい気持ちがある。だが、それでは何も変わらないのだ。


「…分かってる。クライドにも同じこと言われちまったよ。でもありがとな。」

「一緒に…いや、皆で終わらせようぜ。こんなくだらねぇ戦いをよ。」

「…おう!」


ボルドーは反省し、ヴァゴウに言われることで冷静を取り戻す。

共に戦おう。共に終わらせよう。

ボルドーとヴァゴウは微笑みあう。



だが、その微笑みはすぐに消える。

「!!」


ボルドーの背筋がゾクッとした。

その次の瞬間だ。


黒いエネルギーを纏った紫色の光線のようなものが、城に向かって飛んでいく。


その光線はアルーラの張った結界に命中し、拡散する。

その拡散された光線が城の周囲に飛び散り、周囲の建物を倒壊させた。


「な、なんだあれはッ!」

驚くヴァゴウ。


ボルドーはドラゴニアの入り口を見る。


そこに居たのは…



「おや、結界かい。なんと忌々しい。しかし…この国を全て燃やし尽くしてしまえると聞いておったが既にボロボロではないか!」


「「!!」」


女性的な声が聞こえる。高圧的な高い声だ。

その声を聴いてヴァゴウがゾクッと背筋が凍る。


「そ、その声…嘘だろ、ありえねぇ…!」

聞いたことのある声だ。自身の耳で聞いた声ではない。

自分がかつて見た昔の記憶から聞いた声。忘れるはずもない。忘れられるわけがない声。


ヴァゴウは振り返るのが怖かった。


身体を小刻みに震わせ、あの時の記憶が、絶望がよみがえろうとしていた。

「…ッ…」


ボルドーだけが振り返り、空を見た。そこにはここに居るはずのない存在が確かに居た。


「…信じたくはねぇが…ヒューシュタットは死者を蘇らせることが出来る技術まで持ってやがるみてぇだな…!」


空から舞い降りたのはメスのドラゴンだった。


すらりとした体型で紫色の肌をしているが、あちこちただれた様な痕跡があり、腹には大きな傷が開いており、中には何かの目のようなものや、臓器のようなものまで見えている。

その状態はまるでゾンビのようだった。


「おや、貴様…ほほう、いきなり最高の馳走ではないか…のう?ボルドー・バーンよ。」


「…なんでてめぇがここにいやがる…!」




忘れもしない。

そこに居るドラゴンは…


40年前、とある父子を追ってドラゴニアにやってきて、そしてドラゴニアとの戦いで死んだはずの存在。

多くのドラゴニア兵が命を落とした襲来事件。

ボルドー、当時11歳。40年前でもあの日のことを忘れたことはない。


自身の力の増幅という欲の為にあらゆる生物を屠り、食らい、そして世界に混沌をもたらそうとしていた災厄の竜…


そして、ヴァゴウの母親に当たる存在…




魔竜グリーディ





その者であった。

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