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Delighting World  作者: ゼル
第七章 ワービルト編 ~獣王の試練と修行の日々~
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Delighting World ⅩⅩⅧ

Delighting World ⅩⅩⅧ


第七章 ワービルト編 ~獣王の試練と修行の日々~









ヴァゴウが一命を取り留めてから4日が経過した。

ビライトたちはヴァゴウと肩の治療を受けているクライドが動けるようになるまで、廃草地前にあるアメジスト野営地でつかの間の休息をしていた。


慌ただしい旅の停滞。しかし、それは一行にとっては必要なことなのかもしれない。

ビライトたちはこの4日間で休息、そして心の整理をしたことだろう。

そして5日目の朝…


「オッサン!」

「おう、おはよう。」


ヴァゴウの治療は完了した。

「もう良いのか?」

ボルドーが尋ねる。


「おう、ありがとな。心配かけたわ。」

ヴァゴウは微笑んでみせた。いつものヴァゴウの顔だ。

ビライトたちはその笑顔を見てホッと一息ついた。


その身体には大きな傷跡が残り、顔と胸には大きな爪痕が残っている。

潜血覚醒の時の暴走で自傷した傷だ。


1日前にクライドが治療を完了させ、今日ヴァゴウも無事に動けるようになった。


「クルト、ここまでホントありがとな。前代にも、お前にも助けられちまったな。」

「いえ、前代も喜んでいるでしょう。」

クルトは一礼して微笑んだ。


「さて、我々はドラゴニアに戻りましょう。ゲキさんもよろしいですか?」


「あぁ、店閉めたまんまには出来ないからな。」

ゲキは了承し、ボルドーとヴァゴウを見る。


「お前らは続けるんだろ?旅。」

「「もちろん。」」

ボルドーとヴァゴウは頷いた。


「そっか。でもまぁホント無理すんじゃねぇぞ。お前ら揃いも揃ってお人よし団なんだからよ。」


「ガハハ、分かってるって。」

「へへっ。」


ゲキは拳を突き出す。ヴァゴウとボルドーも拳を突き出し、3人はその拳を合わせて微笑んだ。


「俺たちは離れててもずっとダチだからな。」

「あたりめぇだ。」

「あぁ、ワシはもう逃げたりしねぇよ。ずっと、ずっとワシらはダチだ。ボルドー風に言えば家族だぜ。」


3人は友情を誓い、抱きあい笑いあった。



「よし、では参ろうか。」

フリードの声でゲキとクルトはフリードに乗る。


「またドラゴニアに寄ったら顔を出してくれよ。いつだって待っておるからな。」

フリードが微笑んでビライトたちに言う。


「うん、フリードさん。ホントにありがとう。」

「クルト様!ゲキさんもありがとうございましたっ!」


「また行くからね!」

ビライト、レジェリー、キッカがそれぞれお礼と挨拶をし、ヴァゴウとボルドー、そしてクライドは頷いた。



フリードは翼を動かし、空へと飛ぶ。ビライトたちは姿が見えなくなるまで手を振り続けた。


--------------------------------------------------------




「さぁ、出発だ!目指すはワービルトだ!」

ビライトは元気よく拳を突き上げた。

「「「「オー!」」」」

クライド以外の全員が同時に手を上げる。


最初から同行していたラプターたちを連れ、ラプター便を結成したビライトたちは、ボルドーとメルシィの乗るラプター便を先頭にワービルトへ向かう。


平原に出てからはボルドーたちのラプター便が多少前に出て、クライドが操作するビライトたちの乗るラプター便がやや後ろに位置し、ほぼ並走している。


「大変だったけどようやくワービルトに行けるんだな。」


「うん、楽しみだね。」

ビライトとキッカはまだ見たことない場所を目指すワクワクを感じた。


「ワクワクしてるところ悪いけどね、ワービルトはドラゴニアとは全然違うからね~…」

レジェリーはビライトたちに言う。


「そんなに違うのか?」

「違うわよ。ワービルトはドラゴニアほど穏やかじゃないってこと。」


「まァ、そうだろうな。とはいえ、今のヒューシュタットほどじゃねぇけど。」

ワービルトはドラゴニアやヒューシュタットとはまた異なる場所のようだ。


「それでも、やっぱり楽しみだよ。俺もキッカも世界中を回るのが夢だったから。キッカの身体が戻ってからまた旅に出るのが楽しみなんだ。」

「私も楽しみにしてるよ。」

ビライトとキッカは笑いあう。


「夢、かぁ~…あたしも早く世界一素敵な魔法使いになりたいわ。」

世界一素敵な魔法使いとは何を指しているのかは分からないが、レジェリーにも夢はある。


「若いうちに夢を追いかけられるのはいいことだからなァ。ワシみたいなオッサンにはもう手遅れでもな。」

「オッサンだってこれからじゃないか。」

「ん?そうか?」


ヴァゴウは今回の事件で様々なことを思い出し、そして過ちにも気が付き、自分というものを再認識した。


「オッサン、色々あったって俺知らなかったけどさ。でもオッサンにはボルドーさんやゲキさんみたいに支えてくれる人がいっぱい居てさ。だからオッサンもやりたいこと、発信していけたら絶対みんな手伝ってくれるんじゃないかな。」

ビライトはヴァゴウにも今もまだやりたいことがあるならば、追いかけて欲しいと思っている。

「もちろん俺もキッカも手伝えることがあったらなんでもやりたいし。」

「うん、ヴァゴウさんは私たちにとっては家族なんだから。」


「…そうか、ありがとな。ガハハ、いっちょ前に言うようになりやがってッ。嬉しいなッ!」

ヴァゴウはビライトの肩を寄せ、ガシガシと頭を撫でた。

「あはは、痛いって。」

「私もナデナデされたい~!」

「身体が戻ったらたーっぷりしてやるッ!」

「はぁ~い」


「いつも通りって感じ。良かったわ。」

レジェリーは3人の光景を見て微笑んだ。





--------------------------------------------------------

「向こう側は楽しそうだなッ。」


「ええ、本当に。」

ボルドー側ではボルドーとメルシィが会話している。


「あなた、ワービルト王に会った後はどうするの?」

「そうだなァ。オヤジのことも心配だしそろそろドラゴニアに戻るのも一つかもしれねぇな。」

「長い間戻ってませんものね。」

ボルドーたちが旅に出て4年。

4年間丸々戻らなかったわけではないが、生まれたブランクの顔もまだベルガには見せていない。

ヴァゴウとクライドの治療中に、ゲキやクルト、フリードにはしっかり見せて、ベルガにも元気にしていることを伝えるように言った。


「あとはヒューシュタット…だな。」

ボルドーは顔をしかめて言う。


「ええ、旅の中でヒューシュタットの情報は集めてきましたが…王が変わってからおかしくなった…ということぐらいしか有力な情報はありませんものね。」

メルシィも不安そうに語る。


「今回のように本格的に襲われちまったのは初めてだ。それに奴らは俺様を抹殺しようとしていた。」

「行動に移っているということは…ですよね。」


「あぁ、ヒューシュタットが動き出しちまったらどんなことになるか分からねぇ。ワービルト王にもその旨は伝えておかねぇとな。」

「今こそ、協力関係を結ばねばなりませんね。」

「だな。まぁ俺様とワービルト王の仲だ!なんとかなるッ!」


自信満々のボルドーに思わず微笑むメルシィ。


「んでよ、メルシィ。」

「はい?」

「お前には色々と迷惑かけちまってるな。」


「なんです?改まって。」


「いや、そのよ。今回の件も俺様が狙われたことによるもんだしよ。やっぱし…もしお前に何かあったらって思うとよ。」

なんだか言いにくそうな感じでボルドーはつたない言葉を並べる。


「フフッ、らしくありませんよ。」

「う…そ、そうか?」


「そうですよ。私だってあなたと結婚すると決めた時から覚悟しておりましたわ。今更、ですわよ?」

「で、でもよ!お前は俺様がぜってぇ一生守ってやるからよ!ブランクだって俺様が守ってやる!」

ボルドーは少し顔を赤くしてメルシィとブランクに向かって言う。


「フフ、ありがとう。あなた。」

「あー…なんか恥ずかしいな。ったく、もう結婚してからそれなりに経ってるっつーのに。」


「ホントです。いきなりどうしちゃったのかと思っちゃいました。照れちゃって!フフフッ。」

「う、うっせっ!つまりそのっ」


「はいはい、言わなくても分かりますから。前向いて走ってくださいね。」

メルシィはニヤニヤしながらもボルドーに前を向かせる。



(いつもは馬鹿みたいに正直なのに、こういう時はいつも照れちゃって。可愛い人。)

メルシィはブランクの頭を撫でながら微笑んだ。



(なんだかなぁ、好きだって言うだけなのによ。なーんでこうも緊張しちまうのかねぇ……)






なお、ボルドーとメルシィの会話は全て並走しているラプター便を操縦しているクライドには丸聞こえである。


「…コルァ!聞いてんじゃねぇぞ情報屋ッ!!」

横目でチラッとクライドが見たことでボルドーは聞かれたことに気が付いて顔を真っ赤にした。



「…誰にも言わんから安心しろ。」

「そういう問題じゃねぇっつーの!」

「やかましい。」


--------------------------------------------------------

アメジスト野営地からワービルトまでは約1日。


道中の野営地で一泊したのち、ビライトたちの前にはついに大きな城が見えた。




「見えたぞ。ワービルトだ。」

クライドがラプター便内に居るビライトたちに声をかけた。


「おお~!!」

まず声を出したのはキッカだ。


大きな鋼鉄製の城。

そして周囲には煙がモクモクとあがっていて、煙突から火柱があちこちあがっている。

鋼業が盛んなワービルトでのいつもの光景だ。


「凄い!本当に鋼鉄業が盛んなんだな!」

ビライトとキッカは大盛り上がりだ。


「ワービルトのすぐ傍にラプター便を置いておける場所がある。そこにラプター便を置いたら徒歩でワービルトの検問に向かう。」

クライドは淡々と説明する。

「武器好きとしてはここもなかなかにたまらん場所だからなッ、ゲキも連れて来たかったぜ。」


「ここからでも鉄の臭いや音がするわね。本当に発展してるんだって伝わってくるけど…あんまり身体に良くなさそうね…」

レジェリーは鉄の臭いが気になるようだ。


「ワービルトは下層、中層、上層の3段階でその性質が異なる。」

クライドは町のことを説明しだす。


「下層は古くからの自然や古代遺跡をそのまま残している。道も舗装されていない地域で治安もあまり良くない。注意しろ。」

「ヒューシュタットのスラム街…みたいな感じか?」


「いや、そこまで酷くはない。だがドラゴニアのように皆が優しいことは無いということだ。」

ドラゴニアは本当に豊かな場所だったんだなと感じるビライトとキッカ。


「鋼業は主に下層と中層で行われている。中層は鋼鉄の町になっていて多くの武器屋道具屋が並んでいるいわば商業街のようなものだ。」

「なるほど…」


「そして上層。ここには巨大遺跡を改造して作った巨大要塞ワービルト城がある。俺たちが目指す場所だ。」


「ワービルトは縦に広い町ってことだな。」

ヴァゴウが言う。


「そうだ。そしてドラゴニアほど甘い場所ではないということだけ覚えておけ。」

「わ、分かった。」


クライドはワービルトにも詳しいようだが、ここまで甘い場所ではないということを念押しするのには何か理由があるかもしれない。



--------------------------------------------------------



ビライトたちはラプター便を置く場所につき、ラプター便を降りた。


「ここまで色々大変だったけどありがとな。あともう少しだけ頼むと思うからしばらく待っててくれよな。」


ビライトがラプターに声をかけると、ラプターは喉を唸らせて顔をくっつけて挨拶した。


「よし、出発だ…ってどうした?クライド。」

クライドはその場を動かずに止まっていた。

一行はクライドの方を振り向いた。



「…悪いが俺はワービルトには入れん。故に周辺で待つ。」

「えっ、何でよ!理由は!?」

レジェリーが真っ先に問い詰める。


「…それは言えん。だが、俺はワービルトには入らない。」

「はぁ?あんたマジで言ってるの!?」


「大真面目だ。安心しろ。緊急時に対応できるよう、ビライトを探知魔法で時折見ておいてやる。」

クライドには何か事情があるのだろう。

ビライトたちはどうする?と顔を合わせるが、レジェリーは納得いかない様子。


「あんたねぇ…!」

「なんだ?俺と一緒でないと不安か?」

クライドは嫌味ったらしくレジェリーに言う。


「ちっ、違うわよばーか!いこっ!」

レジェリーはそっぽを向いて、ワービルトに向かって歩き出した。


「クライド、何か理由があるんだよな。」

今度はビライトが聞く。

「…まぁ、そんなところだ。」

「分かった。」

「…聞かんのか?」

クライドは何の理由かを聞かれなかったので、少し驚いている。


「言いたくないことは言わなくてもいいと思うからさ。それに探知魔法で俺たちのこと見ててくれるなら安心だから。」

「クライドさん、また後でね!」

ビライトとキッカはそう言い、レジェリーを追いかける。


「…まったく、不用心な奴だ。」

「純粋ってんだよ。そういうのはよ。アイツららしいさ。」

ヴァゴウはそう言い、同じくレジェリーを追いかける。


「まぁそれがビライトの良いところなのかもな。」

「そうですわね。」


「…まずさっさとワービルト下層は抜けちまいたいな。あそこは治安が悪いと評判だ。お前やブランクには危険だしよ。」

「あら、私だって戦えるんですのよ。」

「ブランクを人質にでもされてみろよ。シャレにならねぇ。」


ボルドーはブランクの安全を気にする。

ブランクはまだ生まれたばかりの赤子だ。悪党の人質としては絶好の獲物であり、ボルドーたちの弱点でもある。


「とにかくだ、俺様の傍を離れんなよ。」

「えぇ。分かりましたわ。」


ボルドーはメルシィ、ブランクを連れてビライトたちを追う。





「…ワービルト王はあっさりと許可証は渡さんだろうな…奴のことだ。きっと戯れに何かさせるに違いない。」


クライドはワービルトに向かうビライトたちを見て呟いた。

--------------------------------------------------------



検問の前に到着したビライトたち。

入り口には見張りの犬獣人たちが2人。


「止まれ。検問だ。」

「って、あんたボルドーさんじゃないか!」


犬獣人たちはビライトたちの一番後ろにいるボルドーに気が付いた。


「おう、ワービルト王にお目通りを願いたい。いけるか?」

ボルドーが言う。


「…1日待ってもらおう。王に話をしておく。後に宿まで通達に行く。宿泊先が決まったらまた言いに来てくれ。」

「オッケー。んじゃ、通って大丈夫か?」


「一応検問はしてもらう。特にお前ら人間は厳重にだ。」


「?」


ビライトたちは荷物をチェックされた。

魔蔵庫の中もチェックされ、怪しいものが無いか徹底的に確認された。


「凄い厳戒態勢だなぁ。」

ビライトが呟く。

「旅をしているならば聞いたことがあろう。ヒューシュタットが何やらよからぬ動きをしている。故にヒューシュタットの主種族である人間は特に注意せよと言われているのだ。」


ここにもヒューシュタットの影響が出ているようだ。


「む、お前変わった姿をしているな?」

「あっ、えっと、はい。」


「珍しいな…精霊的なもの…か?」

「あっ、えっと、私駄目ですか?」

「いや、駄目じゃないさ。かなり珍しいモンを見たから驚いただけだ。」


キッカは物には触ることが出来るようになったが生物には触ることは出来ない。


故に犬獣人たちも困惑したが、後でビライトが上手く誤魔化した。


それなら仕方ないとビライト、レジェリーの2人は特に念入りに調べられることになった。



「よーし、異常なし!通っていいぞ!ボルドーさんは後で宿の場所を知らせに来てくれ。」


「おう。サンキューな。」




ビライトたちは厳しい検問を抜け、ワービルトに入国した。


「うー…身体のあちこち触られた~…」

「あぁ…国に入るのも大変なんだな…ドラゴニアがいかに優しいかっていうのがよく分かったよ。」


「お兄ちゃん!レジェリー!見て見て!すっごいよ!」

キッカは大はしゃぎでいろんな場所を指さしている。

「ははは、元気だなぁ…」

「キッカちゃんは検問されてないもんねぇ…」

ビライトとレジェリーはあらゆるところを触られて物まで徹底的に調べられて少し疲れ気味だ。


「ガハハ、ご苦労さん。とりあえず宿決めちまおうぜ。」

ヴァゴウは二人の頭をポンと叩き、中層の方へ向かって歩き出した。


「や、宿は中層で取るのか?」

体勢を立て直しながら歩き出すビライトはヴァゴウに尋ねた。


「おう、下層の宿の方は安価だがあんまオススメ出来ねぇからな。治安も悪いしな。」

「だな。下手したら盗難にあっちまうぜ。」

ヴァゴウとボルドーはそう言い、そそくさと中層に向けて一直線だ。


「と、盗難?」

「おう、警戒しとけよ?」

ボルドーは周囲を警戒しながら歩いている。


「特にボルドーは目立つからなッ」

「おめぇもだよ。」

「ガハハ、それもそうだ。」

ヴァゴウとボルドーは竜人の中でもかなり大柄。特にボルドーは3m近くあるものだから相当目立つ上に、ドラゴニアの王になる男だ。

知名度もそれなりに高い。

故に下層をあまりウロウロするのは良くないということだ。

「メルシィ、手つないどけ。」

「ええ、ありがとうあなた。」

ボルドーはメルシィの手を掴んで歩く。


--------------------------------------------------------


下層は道も舗装されておらず、建物は土製のものもあったり、木製のものもあったりと、あまり美化されていない様子であったが、中層が近づくにつれて鉄の建物が増えていき、やがて階段を上り中層に着いたら景色は一変した。


「おお、同じ国とは思えない変貌ぶり…!」


中層はヒューシュタットと少し似た雰囲気を出している鋼鉄の町だった。

多くの人々が娯楽、買い物、そして商売で大盛り上がりを見せ、あちらこちらの建物からは煙や火柱があがっている。

外から見た煙や火柱の光景は大体ここの中層から出ているもののようだ。


「宿は…あそこなんてどうだ?」

ボルドーは宿屋を指差す。


「お、いいんじゃねぇか?」

宿も鉄製である。

「うーん、なんか鉄臭そうだけど…まぁ…良いかぁ。」

レジェリーは仕方ないと妥協。

ビライトとキッカは興味深々で辺りを見渡している。


「おーい、行くぞォ。」

うずうずしているビライトとキッカを呼び、ヴァゴウとボルドーが先頭で宿に向かう。






「6人と精霊が1人だ。」

「はい、承りました。」


宿の受付を済ませ、一行は外に出た。


「よし、とりあえず俺様は無事に辿り着いたことをクライドに報告を入れて来るわ。んで、宿の場所も門番に伝えとく。お前らは観光でもしてな。」

ボルドーはそう言い、下層に降りて行った。


「だ、そうだけど…どうしよう。」

レジェリーはビライトたちを見るが、ビライトとキッカは早く観光したそうな顔をしていた。

「あんたたちねぇ…」


「あっ、いやだってさ!ワービルト王に会えるのは明日だし!今日は…さ?」

「レジェリー!私!この中層を見て回りたい!ワクワク!」

ビライトとキッカはうずうずを止められない。


「はいはい、分かったわよ。好きにしなさい。でも下層には行ったらだめだからね。」


「よし、行こう!キッカ!」

「うん!お兄ちゃん!」

ビライトはキッカと一緒に行ってしまった。


「やれやれね~…でもあたしもドラゴニアに着いたときそんな感じだったしなぁ。まぁいっか。で、あたしたちはどうしよう?」

レジェリーは残ったヴァゴウとメルシィに尋ねる。


「そうだなァ…ワシは防具屋を見て回りてぇなぁ。」

「防具屋?」

「あぁ、ちょっと傷が目立っちまうし、使ってた肩装備も壊れちまったからな。新しいモン買おうかなってな。」

ヴァゴウの胸の傷はかなり大きく目立っている。

そしてつけていた装備も潜血覚醒した際に壊れてしまった。

故にヴァゴウはここで装備品をまた整えようと考えていたのだ。


「まぁ、重装備は動きにくいからな。シャツ程度でも良いんだけどな。とにかく胸の傷を隠すモン探してくる。」

ヴァゴウの胸と顔の傷。顔の傷は隠しようがないので仕方ないが、胸は服を着れば隠せる。



「そっかぁ~あたしはどうしようかなぁ~…」

「でしたらレジェリーさん。私とこの中層を観光しませんか?」

「えっ!いいんですか!?あたしなんかで!」

レジェリーは慌ててメルシィに言う。

メルシィはドラゴニアの姫になる竜人だ。レジェリーにとってはボルドーと同等の存在なのだ。


「ええ、構いませんわ。遠慮なさらずにね?ブランクにもワービルトを見せてあげたいので。」

「じゃ、じゃぁ…えへへ。」

レジェリーは嬉しそうに返事をする。


「よし、とりあえず夕方になったら宿屋に集合しようぜ。まぁビライトたちは…まぁ見かけたら伝えとく!」

ヴァゴウはそう言い、防具屋に向かって歩き出した。



「では行きましょうか、レジェリーさん。」

「あっ、はいっ!」

レジェリーはメルシィとブランクと共に中層を見て回ることになった。


--------------------------------------------------------



「…てわけだ。」



「そうか。承知した。」

ボルドーは門番に宿の報告をしたのち、クライドに報告をしにワービルトの外に出ていた。


「本当に1人で大丈夫かよ。」


「問題ない。こういうことは慣れている。」


「そうか、まぁさっさと用事を済ませて来るからな。」

ボルドーはそう言い、またワービルトに戻っていった。


「…さっと済めばいいがな…」


クライドはワービルト王のことを良く知っているのだろうか、ただでは済まないであろうことを予感していた。




--------------------------------------------------------



ワービルトの中層にある防具屋。

ヴァゴウは自身の装備品を買うために防具屋に来ている。

このワービルト中層だけでも武器屋、防具屋、装飾品屋、加工屋…各それぞれ数軒以上はあり、中には全ての種類の装備品が売られているような大型の店も点在している。


「ウーン…こうも多いと迷っちまうが…おっ。」

ヴァゴウはとある小さめの防具屋に来ていた。


「それが気になるかい?」

店主の牛獣人が声をかける。


「ん、あぁ。肩装備が壊れちまってな。無いと落ち着かなくてよ。」

「なるほどな。だがそいつは片肩用だぞ。」

「だな…」


前に装備していた装備によく似ているので、これにしようと思っていたが、これは片方の肩にのみ装備する防具のようだ。


「だが無いよりは良いかもな。試着してみるかい?」

店主は提案する。

「…だな。うっし、試してみるぜ。」

「他には何かあるかい?」

「そうだな。軽装ってかシャツで良いんだが、胸を隠してぇんだ。」

「あーなるほどな。随分派手に怪我をしたもんだ。魔物かなんかとドンパチしたのかい?」


「あー…ま、そんなとこかな。」

ヴァゴウは自傷で出来た傷だとはさすがに言えず、誤魔化した。


「そうかい、その感じだと服は着てなかったんだな。」

「おう。俺たち竜人や獣人は服を着ない奴らも珍しくないだろ?」


「そうだな。まぁかく言う俺もそうだしな。」


獣人や竜人は服を着る文化はある場合と無い場合がある。


人間は服を着る文化が浸透しているが、そこは種族としての文化の違いなので、ヴァゴウのように上半身が裸の獣人竜人は珍しくない。

ボルドーのように服を着ている者も居るが、割合的には5:5といったところだろう。



「そうだな、シャツみたいなのでいいならこんなのはどうだい?」

店主が見せたのは黒みがかかった茶色の服で、薄めで半袖なので超軽装といったところだろう。

「あぁ、良いじゃねぇか。軽そうだし動くのに邪魔にならなそうだ。」

「よし、なら試着してみるか。」

「おう、頼むわ。」


ヴァゴウの装備品の買い物は順調そうだ。



--------------------------------------------------------



「うわ~、おいしい!」

「フフ、本当に。」


レジェリーとメルシィは商業街の店でスイーツを食べていた。

色々と買い物をして回り、小腹がすいたので休憩がてらに小さなカフェでスイーツを食べている様子。


「あう~」

「美味しい?ブランク。」

「うあ~い」

メルシィは所持しているミルクをブランクの飲ませながら、レジェリーとの会話を楽しんでいた。


「なんだか不思議です。あたし旅で会いたかった人に皆会えてる。」

「旅というのは何が起こるか分かりませんからね。」

「ですねぇ~…」

「そういえばレジェリーさんはどうしてビライトさんたちの旅についていこうと思ったのですか?」

メルシィはレジェリーに尋ねる。

レジェリーは本来ビライトたちの旅とは無関係だ。

「そう、ですね…あたし、最初はヴァゴウさんの武器を買うためにコルバレーに足を運んで…」


レジェリーはビライトたちに出会うまでのことを話した。

ヴァゴウの武器屋の噂を聞いて、新しい武器を作ってもらうために、製造の注文をし、それを取りに行った。


「でも財布を落としちゃって…それで取りに行くのが遅れちゃったんです。あはは。」

「まぁ…それで?」

「財布は見つかったんだけど、受け取るのが1日遅くなっちゃって…尋ねたらヴァゴウさん居なくって。」


それからレジェリーはヒューシュタットに向かったというヴァゴウを追いかけてヒューシュタット山脈を登った。

そして道中で魔物と戦いながらだったため、魔力切れを起こし、倒れてしまった。


その後はアトメントに助けられ、ビライトたちに預けられた。


「ビライトたちとの出会いはそこだった。その時にキッカちゃんの事情を聴いて…なんだかほっとけなかったんです。」

レジェリーはキッカの事情を聴いた時、普通じゃない状況に驚いた。


「あたし、世界のこと故郷で色々勉強したんです。でもキッカちゃんのことは本当に分からなくて、それにキッカちゃん、眠れないし触れないし、食べられないし…なんとか力になれないかなって。」

「見ず知らずの方にそう思えるなんて、レジェリーさんは優しいですね。」


「あはは、ありがとうございます。でも、そこには自分の私情もあったかも。」

レジェリーは話し出す。

メルシィはブランクを肩でかかえて、首元をトントンと叩き、ゲップさせる。

そしてブランクを再び膝の上に戻して頭を撫でながら、レジェリーの話に耳を傾ける。


「あたし、魔法の師匠が居るんです。破門されちゃったけど。」

「破門ですか…?」

「ええ、師匠はあたしに言ったんです“困っている人が居たら力になってやれ”って。」

「素敵な師匠ですね。」

「ええ、師匠は昔冒険者として世界中を冒険していたらしいんです。その時に困っている人を助けられなくて後悔したって言ってました。だからお前は後悔するなって。」

レジェリーは師匠のことを嬉しそうに楽しそうに話す。


「レジェリーさんは師匠さんのことが大好きなんですね。」

「…そう、ですね。あたし、師匠のこと尊敬してるし、大好き。見た目はちょっと怖いけど…優しい人なんです。」

レジェリーは脳内にあの記憶がよぎる。

竜の鍾乳洞で見たあの記憶だ。レジェリーは師匠に殺されていた。あの記憶が引っかかるが、それでもレジェリーは師匠が好きなのだ。


「だから師匠の言うようにあたしは困っている人が居たから助けた。それがあたしの夢である世界一素敵な魔法使いになることにもつながるから。だから私情もあるんです。」

レジェリーは苦笑いしてあははと笑う。

「それでも素晴らしいことです。キッカさん、早く元に戻ると良いですね。」

「そうですね…あたしももっと頑張らないとなぁ。」


「フフッ、でもレジェリーさんは主人に少し似ているかも。ヴァゴウさんもそうだけど…主人もそういった節があるからちょっと似てます。」

「ボルドー様もとてもお優しいですよね。ヴァゴウさんもそうだけど、あたしの周りはお人よしばっかりです。」


「あの人もね、見ず知らずの私にこれでもかっていうぐらい力になってくれたんですよ。」

「へぇ~!聞きたい!メルシィ様とボルドー様のなれそめ!」

「ええ、構いませんよ。」


メルシィとレジェリーはボルドーを話題にしながら談笑する。


--------------------------------------------------------



時刻は夕方。

先に戻ってきていたのはボルドーとヴァゴウだ。


「似合ってるじゃねぇの。」

「そうか?」

「おう。」


「あっ、ヴァゴウさん!新しい装備!」

レジェリーとメルシィ、ブランクが戻ってきた。

「ようメルシィ。楽しかったか?」

「えぇ。ブランクも笑っていましたわ。」

「そうか、気持ちよさそうに寝てるな。」


ブランクはメルシィの腕の中で静かに眠っていた。満足そうな顔をしている。


ヴァゴウは先ほどの防具屋で購入した片肩のみに装備する肩防具と、半袖のシャツを着ている。

胸の大きな傷はすっかり隠れてしまった。


「おう、どうだ?」

「うん、似合ってる!」

「そうかっ。なら良かった。」

ヴァゴウは心なしか穏やかそうだ。傷がやはり気になっていたのだろう。


「オッサン!」

「みんなおまたせ!」

ビライトとキッカも戻ってきた。


「これで全員だな。」


「俺たちが最後か!ごめんごめん。この町、コルバレーと似た雰囲気があってさ。なんだか故郷に戻ったみたいな気持ちになっちゃって。」

「加工屋さんとか見学させてもらったりして楽しかった~!」

ビライトとキッカもご満悦だったようだ。


「じゃ、宿入るか。」

「そうね。明日は王様と会うんだもんね。早めに休んで失礼の無いようにしなきゃ!」


ビライトたちは宿屋へ入った。

それぞれが夜を過ごし、寝床へつく。


明日はワービルト王との謁見。

ボルドーの斡旋があるとはいえ、ビライトたちは無事に許可証を貰えるのだろうか…



―――






一方、クライドは…



同じく待機しているラプターに懐かれてしまったようで、クライドはラプターの喉を撫で、地面に座り、星空を眺める。


「…空だけは変わらんな…ワービルト。」


クライドはしかめた顔でワービルトを見る。

「……見ているだけで思い出すな…あの頃を…」

クライドは再び星空を見る。



独り過ごす夜。

隣にはラプターのみ。クライドにとっては久しぶりの会話相手の居ない夜。


「…孤独は落ち着くな。」

クライドは目を閉じ、深呼吸。

「…おっと、悪かったよ。お前も居るんだ。」

ラプターがクライドの顔に頭を当てる。


なんだかんだでラプター相手にはいつもとは違う穏やかな表情を見せるクライド。

これが本来の彼の姿なのかもしれない。

心を閉ざした彼は、人に慣れた魔物や純粋な子供には優しさを見せているのだ。



夜が流れる。

それぞれが、一夜を過ごす。


ワービルトでの新しい旅が始まる…





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