Delighting World ⅩⅩ
Delighting World ⅩⅩ
「…と、いうわけで。」
(話には聞いてたけど…でかいわね…)
(オッサンよりでかい…)
「改めてボルドーだ。よろしくな。」
ジィル大草原、ワービルトを目指してクローライト野営地で夜を過ごしていたビライトたち。
突如2人組の酔っ払い獣人たちに絡まれて魔蔵庫を盗まれてしまう。
逃走しようとした2人の獣人だが、今度はヴァゴウよりも大きな竜人が現れる。
その3mを超えそうな巨体の竜人に獣人たちは投げ飛ばされ、魔蔵庫はビライトたちのもとに返された。
その竜人はなんと、ドラゴニアの次期王となる男、ボルドー・バーンだったのだ。
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「いやはや、まさかお前がここに居るとは思わなかったぜヴァゴウよ。」
「ワシだって驚いたぞ!お前、旅の途中なんだろ?」
「おう、そうだ。」
ドラゴニアからサマスコールに行く途中で話に出ていたボルドー。
彼は王になる為、世界中を見る旅に出ていると言われていた。
「世界を巡る旅はどうだ?」
ヴァゴウが尋ねる。
「あ、それだがなァ。今回の旅は途中からは俺様の旅じゃねぇのよ。」
「そうなのか?おお?てことは…」
「おう、息子のだ。」
ボルドーは息子が居るようだ。
つまりボルドーの次に王になる存在ということだ。
既に3代がそろっているのだ。
「なんだお前結婚してたのかよ!子供まで作ってたのかよ!」
「おう。嫁も息子もかわいいぜ?」
「随分な高齢結婚だな!」
ヴァゴウはツッコミを入れる。
ボルドーは50歳を超えている。
ベルガが高齢すぎるのでなかなか王にならないまま中年を迎えている。
「嫁候補の竜人と旅してるって聞いたけど…」
「旅の道中で結婚した!で、すぐ子供作った!」
「うわ~凄い!でも旅の途中で結婚だなんてなんだかロマンチックね!」
レジェリーは目を輝かせる。
「オッサン、知らなかったのか?」
ビライトが聞く。
「おう、ボルドーと会ったのは10年ぶりぐらいだからな。」
「お前ホントにドラゴニアに顔見せねぇからよぉ。武器が送られてきているってのが生存確認だったんだぞォ?」
「ガハハ、悪かったよ!こいつらの面倒も見てたからよ。」
ヴァゴウはビライトと隣にいるキッカを指す。
「あん?そこにぁ…誰もいねぇぞ?」
ボルドーにはキッカが見えていない。
「あっ…やっぱり見えてないんだ。」
キッカはすこしがっかりしていた。
ボルドーは確か魔限値が非常に低く生まれてきてしまったと聞いていた。
そしてそれ故に蓄積できる魔力も少ない。
魔力が少ない人にはキッカを見ることが出来ないのも、ドラゴニアでクルトに教えてもらったことだ。
「えっと、実はここにもう一人居るんだ。妹なんだけど…」
ビライトがボルドーに言うと、ボルドーは目を細めてそこをじーーーっと見つめる。
「…なーんにも見えん。どういうことだ?」
「話すと少し長くなるんだけど…」
「何ッ、そうなのか!なら少し待ってろ!嫁と息子を隣のBブロックで待たせてるんだ!呼んでくるわ!」
ボルドーは立ち上がり、Bブロックの方へと歩いて行った。
「…ホント、でかいな。」
「ね~…でもかっこいいなぁ…」
レジェリーはすっかりボルドーに惚れている。
「レジェリーちゃん他種族好きだったん?」
ヴァゴウが聞く。がレジェリーは即刻「違うわよ」と否定。
「尊敬の意味だから!」
「確かにボルドーの魔法の実力は本物だ。」
クライドが口を開く。
「奴は生まれながら低い水準の魔限値しか持ち合わせていない。歴代王の中では最弱だと言われていたが、古代人であるフリードの協力と絶え間ない努力で強靭な肉体と古代魔法を会得した。」
「そう、ボルドーの会得した古代魔法を使えばどんな魔法も最小限の魔力で撃つことが出来るんだ。だから奴は最強の魔法使いよりも多くの魔法を、何度も使うことだってできるのさ。」
クライドとヴァゴウは改めてボルドーの偉大さを語る。
レジェリーも、クライドもヴァゴウもボルドーの実力を認めている。
ビライトとキッカにはそれを聞くだけでも凄い竜人なんだと伝わるのだ。
「人徳だってそうさ。アイツはドラゴニアすべての国民から愛されているんだ。民と寄り添い、共に歩む。王であるならば全てを守らなければと。そう固く決意しているんだ。」
「そっか、ボルドーさんは本当にドラゴニアが大好きなんだ。」
キッカは笑顔で言う。
「おう、アイツはすげーやつなんだ。そしてワシもアイツに助けられたんだ。」
「そうなのか?」
「おう、まぁその話はまた今度な。」
ヴァゴウの話はそこで終わった。
ボルドーが嫁と息子を連れてやってきた。
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「はじめまして、妻のメルシィです。こちらは息子のブランク。」
ボルドーの妻のメルシィ。綺麗な白い肌を持ち、長い髪と綺麗な水色の瞳をした竜人の女性。
やや小柄でボルドーの半分程度の身長で、二人には体格差がある。
ボルドーとかなり年齢差もありそうだ。まだ若々しい。
息子のブランクはまだ生まれて間もない為、小さな揺りかごで眠っている。
やや薄い橙色の肌をしていて、とても愛くるしい顔だ。
「うわっ、可愛い~!!彼がこれから未来のドラゴニアを担っていくのね!」
レジェリーは小さな竜人の赤ちゃんを見て目を輝かせる。
「って、あたしったら!さっきから失礼よね!ごめんなさい!」
相手は王になる男とその妻、そして息子だ。
立場を弁えることを忘れそうになる。レジェリーは慌てて椅子に座る。
「元気がいいのね。でも構いませんよ。夫が紹介してくださっているのですもの。悪い人ではないと分かりますわ。」
「んじゃ、改めて自己紹介といこう。俺様はボルドー・バーン。ドラゴニア国王ベルガ・バーンの息子であり、次期王となる。そして妻のメルシィと息子のブランク。」
「ワシはヴァゴウ。ドラゴニアには赤子の頃から世話になってる。んで、今はコルバレーに住む武器職人だ。よろしくな。メルシィ、そしてブランク。」
「はい、夫から話は聞いております。よろしくお願いします。」
「あとはお前らだぞ。」
ヴァゴウは面識があるが、ビライトたちは全てが初めましてだ。
「あっ、俺はビライト。こっちは妹のキッカ。コルバレー出身で、ヴァゴウのオッサンとは小さい頃からの付き合いなんだ。」
「よ、よろしくお願いします!」
「ええ、よろしくね、ビライトさん、キッカさん。」
メルシィはキッカの方向も向いている。メルシィにはキッカが見えているようだ。
「キッカさんは…精霊かしら?でも妹って…?」
「えっ、お前見えんの?」
「ええ…あなたは見えませんの?」
「そうなんだよ…何処に居るんだぁ…?」
「あ、それは後で説明します!」
キッカが緊張しながらもメルシィに説明する。
「あたしはレジェリーです!世界一素敵な魔法使いを目指して修行中!いつかドラゴニアの魔法学園で魔法の勉強をしたいと思ってますっ!」
レジェリーは元気よく自己紹介。目の前に憧れの存在がいるのだ。アピールしたい気持ちがあふれているのだろう。
「あら、素敵な夢ね。」
「ほう!我が国の魔法学園に入りたいのかッ!良いなッ、頑張れよ!」
「はっ、はいっ!
(いや~もうクルトさんと言い、ボルドー様にもメルシィ様にもお会いできるなんてホント幸せだわぁ~…)
レジェリーは顔を真っ赤にしてニヤニヤとしている。
そして…
「クライド。情報屋だ。」
クライドはそれだけ言い黙る。
「冷静なお方なのね。」
「お前のことは知ってるさ、情報屋クライドって言ったらそれなりに有名人だからな。」
ボルドーはクライドのことを知っているようだ。
「…聞かんのか?」
「どうせこれから知るだろ?」
「…そうだな。お前たちになら話しても問題あるまい。」
「ほーう、俺様たちはお前に信用されてるんだな?」
「…そういうことだ。」
一通り自己紹介を終えたビライトたちとボルドー家族。
そしてビライトたちはこれまでの旅のことを全てボルドーたちに話した。
キッカの肉体のこと、ヒューシュタットでの出来事、ドラゴニアで触れた優しさ。そしてサマスコールに忍び寄るヒューシュタットの影。
そして竜の鍾乳洞を抜けてワービルトを目指していること。
そして、イビルライズのことを。
クライドはここまで話しても何も言わなかったので、ボルドーたちのことは信用しているのだろう。
もし信用していなければボルドーたちにこれまでのことを話すことを反対するだろう。
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「はぁ、なんともまぁ奇妙なことに巻き込まれたモンだ。」
ビライトたちの話を真剣に聞いてくれるボルドーとメルシィ。
「変だと思わないんですか?」
「思うもんかよ。この世界には俺様たちの知らないことに満ち溢れてんだ。何があってもそれは変じゃねぇ。それに面白そうじゃねぇか。」
「そうですわね、きっとそれは未踏の地にあるのでしょう。私も興味がありますわ。」
ボルドーも、メルシィも好奇心が強いようで、ビライトたちの話を興味津々で真剣に聞いてくれる。
意外で驚くビライトとキッカ。
流石ボルドー様と目を輝かせるレジェリー。
「許可証を得るためにワービルトを目指してんだな。うっし、ならば俺様達も同行してやろうじゃねぇの。」
「「えっ!?」」
「ほ、ホントに!?」
突然の宣言に驚くビライトたち。
「おっと、気にすんなよ。俺様たちもこれからワービルトに行くところだったんだぜ。だから道は一緒ってことだ。ダハハ!」
笑顔で高笑いするボルドー。
「なるほど、あのボルドー・バーンと共にワービルトに行けるのは俺たちにとっても都合がいい。」
クライドが言う。
「えっ、そうなの?」
レジェリーが聞く。
「あぁ。ドラゴニアの次期王と俺たちが持つベルガの手紙を合わせれば許可証を簡単に手に入れられる可能性が大きく上がる。これは好都合だ。」
「話が分かるなァ、情報屋。てなわけだからワービルトまでヨロシクなッ!」
「おお~!ボルドーが居たら百人力だぜ!」
ヴァゴウも大賛成のようだ。
「い、いいのかな。」
ビライトは心配しているようだが…
「ビライトさん、こうなったら夫は考えを変えませんわ。それに旅は大勢の方が楽しいですわ。」
「お兄ちゃん、みんなで行こうよ!楽しいよ!」
メルシィもキッカも賛成している。
「いや、俺もそれは嬉しいんだけど…なんだか悪いなって。」
「ンなことねぇよ。素直に受け取っとけビライト!ボルドーはこういう奴なんだ。どこまでもお人好しで世話焼きで、全部包み込んでくれるやつなんだよ。」
「おめぇも人のこと言えねぇだろヴァゴウ。」
「ガハハ、ボルドーには負けるわ!」
「じゃ、じゃぁよろしくお願いしますってことでいいのかな。」
「おう!俺様にじゃんじゃん頼っていいぞ?」
全員の同意が集まり、ワービルトに着くまでの間、ボルドー家族が同行することになった。
ドラゴニアの次期王とのワービルトまでの残り3日の短い旅が始まる。
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「それではみなさん。また明日。」
話がついて、メルシィはブランクを連れて先にBブロックに戻ることになった。
そしてボルドーは火を囲み、ヴァゴウと酒を交わしていた。
レジェリーは興奮しすぎたのか、もう眠りについていて、クライドも寝床で武器の手入れをしている。
そしてビライトとキッカは、少し離れた場所で空を見ていた。
「なんだかすごいことになっちゃったな。」
「そうだね!でも楽しくなりそうだね!」
「そうだな。でもなんか緊張するな。王になる人と一緒に旅だなんてさ。コルバレーを出るときはこんなことになるなんて思いもよらなかったよ。」
ビライトたちの旅は多くの人に支えられて続いている。ここまで多くの人たちと交流してきた。
これからもこんな旅が続くのかと、ビライトはワクワクしていたが、ヒューシュタットのことは引っかかっていた。
自分たちの旅はより危険度が増しているはずだ。多くの人がかかわることでその人たちが何か被害に巻き込まれないかを心配している。
「やっぱり心配?」
「そうだな、元々は俺とキッカだけの旅だった。でもオッサンがついてきてきてくれて、レジェリーやクライドが一緒で。」
ビライトは倒れていた木に座り、空の月を見る。
「ヒューシュタットではアリエラさんや病気の家族、ドラゴニアでもベルガ王、クルトさん、ゲキさんやフリードさん。サマスコールでも町長さん、そして今もボルドーさんやメルシィさん、ブランクが居る。」
「うん、たくさんの人に会ったね。」
「俺たちの旅は多くの人たちが関わってる。だからこそ心配なんだよ。ヒューシュタットのこともある。皆が傷つくのは嫌だから。」
「そう…だね。」
少し沈黙が続く。
キッカは少し離れた場所で地面を踏みしめている。
足が見えるようになって、キッカにも歩いているという感覚を感じるようだ。
「よう。」
「ボルドーさん?」
「おう、ボルドーおじさんだぜ?隣良いか?」
「あ、はい。」
「堅っ苦しい喋り方は無しだ。普通に接してくれ。」
「あ、じゃぁ。」
「おうっ。」
ボルドーはビライトの横にドカッと座り、空を見る。
「良い空じゃねぇか。」
「うん、旅に出てもうそれなりに経つけど、何処で見ても空は変わらないんだなって。」
「だな。何処で見ても空は変わらねぇ。ドラゴニアを思い出す。」
ボルドーは座っている場所の前を見る。
「あの辺に居るのか?」
「あ、キッカのことか?うん、足が見えるようになってから、歩くのが楽しいみたいだ。」
「おう、なんか俺様だけ見えねぇの寂しい。」
「あ、あはは…」
ボルドーは本当に寂しそうな顔をするものだから、ビライトも反応に少し困っていた。
「さっきよ。ヴァゴウから細かい部分とか全部聞いた。大変だったみてぇだな。」
「…うん、今でもどうしてキッカがこんな目に遭ったのか分からない。分からないまま俺たちはまだ旅を続けている。」
「分からないまま旅を続けている…か。…不安か?」
「…不安…だよ。俺たちは分からないことが多い。でもそれだけじゃないんだ。」
ビライトは先ほどキッカと話をしたことを話した。
この旅で思った以上に多くの人と関わった。
そしてヒューシュタットに目をつけられていることも間違いない。自分たちの旅で多くの人々に何か危害が及ぶのではないかという心配もある。
でも、自分は今この旅を楽しいと思っている。
フリードにも楽しめと言われている。しかし、心の何処かではやはり不安なのだ。
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「…というわけなんだ。」
「なぁるほどな。」
「って、なんで俺こんな話してんだろ。ごめんボルドーさん。」
「良いさ。吐き出せ吐き出せ。」
バンバンと背中を叩き笑うボルドー。
「ヴァゴウが言ってたんだよ。ビライトは心配性だから色々抱えてると思うってな。」
「オッサン…やれやれ…」
ヴァゴウはさっきの酒を交わしている時にもビライトのことを話していたようだ。
「この旅はお前とキッカの旅なんだろう?だったらお前とキッカが迷ってちゃいけねぇな。」
「…そう、だよな。」
旅を辞めようとは思わない。キッカの身体を取り戻す。その気持ちは絶対に変わることはない。
だが、旅に伴って、自分とキッカ以外の人々の心配をしている。
「いいじゃねぇか。気にすることはねぇよ。」
「えっ?」
ボルドーは言う。
「お前らは幸せもんだぜ?なんでか分かるか?」
「…俺たちが幸せ?」
「だってそうだろ。お前とキッカ以外はお前たちの旅には何の関係も無いんだ。けどな、今お前の周りには大勢の人が居て、多くの人がお前たちを助けてくれた。」
ボルドーはヴァゴウやレジェリーたちを見て言う。
「みんなついていきたいからついていってるんだ。助けたいから助けてるんだ。もちろん俺様もだ。誰もが義務で動いてはいねぇんだよ。」
「…そう、なのかな?」
「そーなんだよッ!そこはもっと甘えてりゃいいんだ!」
ボルドーはビライトの背を再びバンバンと叩く。
「心配するのは大事さ、それだけお前が優しいってのが分かる。けどな、誰かの優しさは素直に受け取りな。」
「うん、そう、だな。ありがとう。」
「おうっ。俺様も力を貸すぜ。ドラゴニアが世話になったみたいだしな。それに、俺様も見てぇから。」
「何を?」
「キッカ。見えないの寂しいからな。」
「あはは…」
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ずっと考えていた。
ビライトはこれまでも誰かの力を借りる時、いつも気にしていたのだ。
“いいのかな?なんだか悪い。”
自分たちの旅で多くの人が助けてくれる。
レジェリーやヴァゴウ、そしてクライドはずっと一緒に同行してくれるし、惜しみなく助けてくれる。
そんな誰かのたくさんの優しさが申し訳なくなってきていたのだ。
ボルドーはそう思うことは大切なこと。しかし、その優しさは素直に受け取らなければならないと言った。
助けたいと思っているから助ける。手伝いたいと思うから手伝っている。
皆が義務で動いているわけではない。皆、ビライトたちに自分たちの意志で力を貸しているのだと。
「ありがたく受け取りな。それもお前のすべきことだぞ。」
「…そうだな。そうだよな。でも俺、それをちゃんと返したい。皆に恩を返したい。」
「だったらお前の目的、必ず成し遂げろ。絶対キッカを救い出せ。それがお前に出来る恩返しだ。それに、夢もあるんだろ?」
「あぁ!そうだ…そうだよな!」
「おう!いつでも力になってやるからな!頑張れよッ!」
「ありがとう、ボルドーさん。」
「また俺様でよければ話聞いてやるさ。俺様が居なかったら誰でも良いから溜め込まずにちゃんと発信するんだぞ。」
「うん。ありがとう。」
「ハッハッハ!いやぁ、若いモンと話すのは楽しいわ!どんどん悩んでどんどん成長していけッ!」
「アハハ…そうだな。俺、もっとしっかりしないとな。」
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「お兄ちゃん、ボルドーさんと何の話してたの?」
ボルドーはそれからヴァゴウのところにまた戻り酒を交わしだした。
キッカはそれからしばらくしてビライトの元へ戻ってきた。
「ん、あぁ。これからの俺について…かな?」
「どういうこと?」
「キッカ、俺絶対お前の身体を取り戻すからな。」
「う、うん。ありがと。」
とても真剣に、でも何処か心のつかえがとれたような穏やかな表情のビライトにキッカは違和感を感じながらも微笑んだ。
「ボルドーさんに何か教えてもらったの?」
「ま、そんなところかな。あの人はオッサンに似てるよ。凄くお人よしだ。でも、俺はその優しさもちゃんと感謝して、遠慮なく受け入れなきゃいけないんだな。」
(全ての出会いは偶然だ。だが旅ってのは出会いの数だけ楽しくなり、出会いの数だけ成長する。だからお前はこれからもたくさん成長する。そしてお前を助けてくれる奴ら皆が背中を押してくれる。それに応えるためにも、自信をもって前に進むんだぜ。)
ボルドーが戻るときに最後に言った言葉だ。
「俺、もっと頑張らないと。な、キッカ。」
「私も頑張るよ。お兄ちゃん。」
「あぁ、これからもよろしくな。」
「あはは、変なお兄ちゃん。当然じゃん!」
「その当然を大事にするんだよ!」
迷いが晴れたビライト。
ボルドーの言葉はビライトをまた一歩成長させることだろう。
二人の旅は多くの人に支えられ、これからも続くのだ。
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「おう、どうだった?ボルドー。」
「ん~?迷える若モンにちーとアドバイスしてやったよ。へへ。」
「そうかい。サンキューな、ボルドー。」
酒の入ったジョッキで乾杯するヴァゴウとボルドー。
「やっぱお前は人の心に寄り添える立派な王だな。ワシだってそれに救われたんだからよ。お前やゲキや…ドラゴニアがワシを救ってくれたんだ。」
「はっ、俺様たちは背中を押しただけさ。それによ…俺様達だって、おめぇに勇気貰ったんだからよ。おめぇの生きようとする力に心を震わせた者が大勢居たんだ。おめぇは立派だよ。」
「よせや、ワシはただ必死だっただけよ。何でこんな身体で産まれたのかも分からずに居たワシを助けてくれたのはドラゴニアだ。何度も死にたいと思った。だが、お前やドラゴニアがワシに生きる気力をくれたんだよ。」
「…おめぇがそう言ってくれて嬉しいぜ。そして今、こうやって酒を交わせることがよぉ。嬉しくてたまらねぇぜ。」
酒をグイッと飲み、ボルドーはビライトを見る。
「しっかし…ビライトとキッカがまさか、シューゲン夫妻の子たちとは。んでもってあの赤ん坊がビライトとは。シューゲン夫妻には我がドラゴニアでもすんげぇ世話になってた。」
「おう、ワシもだ…突然のことだったさ。」
ボルドーはビライトたちの両親のことを知っていた。
無論、事故で亡くなったこともだ。
だが、その子たちがヴァゴウの元で育ったことなどは知らなかったし、ボルドーが最後にシューゲン夫妻に会った時にはまだキッカは生まれておらず、ビライトもまだ赤子だった頃だ。
「ワシにとっちゃあいつらは家族のようなモンだ。だからワシはあの2人を見届けてやりてェんだ…」
「…そうかい。しっかり見守ってやんな。」
「おう。」
酒を飲み交わす2人。
「で、ヴァゴウ。」
「ん?」
「身体は平気なのか?」
「ピンピンしてらい。」
「そっか!なら良かったぜ!」
「ガハハ、もう"後遺症"もねぇよ。普通の竜人と変わりゃしねぇよ。」
「そうかい。お前は俺様の大事な友だ、そして同じドラゴニアで育った家族みてぇなもんだ。俺様より先に死ぬんじゃねぇぞ。」
「それはワシのセリフだ!王になるならベルガより長生きしろよな!」
「へへ、当然だ。それによ、たまには文の一つでもよこせや。ドラゴニアによ。」
「お前、国を空けることが多いから全然ドラゴニアにいねぇだろうが。」
「そうは言うがおめぇ俺様がドラゴニアに居る時もずーっと連絡よこさなかったじゃねぇかよ。」
「ガハハ、武器は送ってたんだからいいだろ!」
「ばーか、おめぇの字を見ておめぇの声が聴きてぇんだよッ。言わせんな。」
「ハハッ、ありがとなッ」
「へっ。」
遅くまで酒を飲みあうヴァゴウとボルドー。
明るい月に照らされた野営地で、男は友と酒を交わし、そして青年と少女は新たな気持ちで前に進む。
この日の夜は特別な夜となった。
ワービルト到着まであと3日。
ビライトたちの旅は、ボルドー家族を加え、騒がしい旅になろうとしていたのだった。