Delighting World ⅩⅨ
Delighting World ⅩⅨ
第五章 ジィル大草原編 ~望まれなかった命と王となる男~
ドラゴニアを出て、竜の鍾乳洞へたどり着いたビライトたち。
その中で魔物に襲われ、一行は闇に囚われた。
レジェリーとヴァゴウは身に覚えのない記憶を見て心を乱されてしまう。
クライドはそれをすぐに断ち切り、後からもとに戻ったレジェリーと共に魔物を討伐。
そしてビライトとキッカは闇の空間でキッカの肉体を発見。
その時、名も分からない闇の存在に襲われる。
ビライトはキッカの肉体に、持っていた鍾乳洞の聖なる源泉の水を振りまいた。
するとキッカの精神体に変化があったのだ。精神体であるキッカに下半身が戻ってきたのだ。
命からがら闇の空間から脱出したビライトたち。
心の中に動揺を隠すレジェリーとヴァゴウ。
そして、キッカの一部が戻ってきたことに喜ぶビライトとキッカ。
それを見守るクライド。
一行は竜の鍾乳洞を抜け、ジィル大草原に出たのだった。
ここはワービルト地方。
ここからワービルトまでは1週間以上かかるほどの広大な大草原だ。
クライドが言うにはあちこちに休むことが出来る野営地がある。
そこはワービルトが経営している正式な野営地であり、この大草原を旅する冒険者たちの助けになっているらしい。
ビライトたちはまず最寄りの野営地を目指すために歩き出すのだった。
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心地の良い風を浴びながら広大なジィル大草原を歩くビライトたち。
「見えて来たぞ。あれが野営地だ。」
「おお。」
クライドが指す方向に見えたのはなかなか立派な野営地だった。
鉄の建物が一軒建っており、その周辺はキャンプ場のようで広々とした草原にいくつものテントが建てられてある。
それぞれのテントには客と思われる様々な種族の人々が居た。
「凄い、こんなのがいくつもあるのか?」
「そうだ、ジィル大草原は一部を除いて全てワービルトの管轄。まずはあの鉄の建物に行き、ここで野営するか、移動用の乗り物を借りるかを決めるとしよう。」
「あんた、他も詳しいけどここは特に詳しいのね。」
レジェリーがクライドに聞く。
「俺はワービルト育ちだ。」
「えっ!そうなの?」
キッカは驚いて尋ねる。
「珍しくも無いだろう。ワービルトは獣人国だ。」
「そ、そうだよね。」
獣人であるクライドだからこそ、当たり前だと言い切れるが、何も獣人だけが住んでいるわけではない。あくまで比率が多いだけだ。
そして王の種族が獣人であることも関係はしているが・・・
クライドは相変わらずそっけない態度だ。
誰に対してもだが、心を開いているのかそうでないのかがイマイチ分からない。
野営地にたどり着いた一行はまず、鉄の建物へ。
少し重い鉄の扉を開けると、中は少し鉄のにおいがして、建物自体もとても固い造りになっていた。
「なんだかコルバレーを思い出すな。」
ビライトはその匂いに懐かしさを覚えた。
コルバレーは鉱業が盛んであるので、よく似ている雰囲気を感じたのだろう。
「雰囲気もそうだよね。コルバレーっぽい。」
精神体のキッカは匂いをとらえることが出来ない。だが、その雰囲気で感じでいた。
「そうだなァ。懐かしい感じがするなッ。」
ヴァゴウもビライトたちに同意。和気藹々と話している間にクライドは受付とすでに会話を始めていた。
「地図をくれ。」
「あいよ、500ゴールドだ。」
クライドは受付の獣人の男から地図を受け取る。それを開き、次の野営地の場所を調べていた。
「…ここの野営地は?」
「あぁ、ここは竜の鍾乳洞から一番近い野営地で、ここだな。」
受付の獣人は現在地を指さす。
ここの野営地の名前は“アイオライト野営地”という。
「…ここがアイオライトならば…なるほど、ここから次の野営地までは徒歩で1日ほどか…」
「地図を見ただけでおおよその距離を把握するとは、あんたやるなぁ!その通りだ。ここは比較的おとなしい魔物が多いが、金に余裕があるやつは大体ラプター便を使うぜ。」
「そうだろうな。」
「ラプター便って?」
建物を興味深々で見ているビライトとキッカ、そしてそれを引率しているヴァゴウそっちのけで、レジェリーだけはクライドに同行していた。
「ラプター便はこのジィル大草原でしか使われていない乗り物だ。ラプターと呼ばれるトカゲ型の魔物に荷台を引いてもらって移動するものだ。」
「ふーん、ドラゴン便に似てるわね。」
「こっちは安価でレンタル出来る。ドラゴン便のような金持ち用ではないところが魅力的だ。」
「あんた詳しいねぇ、ワービルトの獣人かい?」
「そんなところだ。」
クライドはそれだけ言い、ラプター便の項目に指をあてる。
「ワービルトまで頼めるか?」
「あいよ!ワービルトまでだな。なら10000ゴールドだ。」
「では、合わせて10500ゴールドだ。これで。」
クライドは魔蔵庫から地図代とラプター便の費用を支払った。
「ちょっと高いけど…まだ現実的な金額なのね。」
「ドラゴン便だと隣町に行くだけでも30000はする。それに比べてラプター便はここからワービルトまでで10000で済む。」
「ワービルトは税金が高いがそれをこういった国の利便性の向上に大きく割り振っているんだぜ。だからこれでも結構安上がりなんだ。国が保証してくれているからな。」
獣人の受付が説明を入れてくれる。
ワービルトはどの国よりも便利性に優れている代わりに、多少物の価値が高いようだ。だが、集めた税金が明確に何処に使われているのかを開示し、理解をしてもらうようにしている為、国の幸福度は高いようだ。
「ここからワービルトまでは徒歩で1週間以上はかかる、けどラプター便だったら4日もあればいけるだろうよ。その間に野営地に泊まりながら先に進むと良いぜ。で、道中の野営地だが・・・」
受付の獣人は道中の情報も細かくクライドとレジェリーに提供してくれた。
「なるほど!ありがとう色々教えてくれて!」
「なぁに、仕事だからな。良い旅を。」
お礼を言うレジェリー、そしてクライドはラプター便を借りに、ラプター便の担当の獣人と厩舎へと向かった。
「ビライトたちいつまで見学してるの!受付もう終わったわよ!!」
「え?あ、あぁ!すまん!つい…!」
「えへへ…」
「んじゃ、詳しく聞こうか?」
ヴァゴウも楽しそうにしていたので3人そろって見学に勤しんでしまったということらしい。
「もう、のんきなんだから…えっとね。」
レジェリーは詳しくビライトたちに説明した。
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まずここがアイオライト野営地だ。
ここからラプター便で4日かけてワービルトを目指す。
その道中、10個程度の野営地があるそうだ。
今回は先を急ぐということで寄る野営地は3つ。それぞれ1日目~3日目の夜を過ごす野営地だ。
そして4日目の昼前にワービルトに到着する予定。
まずは1日目の野営地である“クローライト野営地”を目指すこと。
夕方には到着する予定らしい。
「ラプター便かぁ。どんなのだろうな!」
「楽しみだねー!」
見たことも無いものを見るということに好奇心スイッチが入るシューゲン兄妹。
「ヴァゴウさんは乗ったことあるの?ラプター便。」
「いンや、ワシはドラゴン便使ってたから初めてだ。」
「流石凄腕武器職人…」
「ガハハ、金に困ったことはねぇよ。ドラゴニアからの支援が手厚かったからなァ」
ヴァゴウはドラゴニアでは名のしれている存在。武器の仕入れや入荷でワービルトにも行くことはあったが大体ドラゴニアからの支援でドラゴン便を使っていたらしい。
「おい、準備が出来たぞ。乗り込め。」
クライドが入り口から声をかける。
ビライトたちは外に出た。
「おお~!」
目の前に見えたのがラプター便。
ラプターと呼ばれる魔物が2匹。
後ろには荷台があり、それを引っ張って移動が出来る乗り物。
「ラプターは魔物だが頭が良くてな。俺たちワービルトはラプターを家畜化してこうやって一緒に仕事してるんだ。」
ラプターの担当の獣人が言う。
「でもな、家畜化と言っても俺たちはしっかりとした交友関係を築いてきているんだ。」
獣人はラプターの喉を撫でる。ラプターは気持ちよさそうに唸り声をあげる。
「そっか、よろしくな!ラプターたち!」
ビライトはラプターに手を差し伸べる。
するとラプターたちは喜んで顔を手に当てた。
「はは、凄いな。魔物とは思えないよ。」
「いいなぁ、私も触りたい。」
「元に戻ったらな。」
「うん、楽しみにしとこうっと。」
「よし、じゃぁワービルトまで頼んだぜ。操縦士はどうする?」
「俺が出来る。大丈夫だ。」
クライドが言う。
「そうかい、ならオプションは無し・・・と。オッケー。」
クライドは荷台の前に座り、手綱を持つ。
「荷台に乗れ。出発するぞ。」
ビライトたちは荷台に乗り、それぞれ用意されていたソファーに座る。
「よーし、出発だ!良い旅を!」
獣人がそう言ったと同時にクライドは「頼むぞ。」と言い、手綱を使ってラプターたちに指示を出す。
するとラプターたちは大きく声をあげ、勢いよく走り出した。
「おおお!!」
「おとと…!」
一瞬ガッと大きく揺れる荷台。
だがそれはしばらくするとゆっくりとした揺れに戻っていく。
カタカタと揺れる荷台。走るラプターたちをコントロールしていくクライド。
「ガハハ、この揺れ具合がまたワイルドで良いなッ」
「酔わないようにしないとね~・・・」
「そういえばクライド、お金大丈夫だったのか?」
「問題ない、アトメントからの契約の前金で払った。」
「そ、そっか…でもありがとな!色々と助かるよ。」
「依頼だからな。」
ビライトのお礼に淡々に返すクライド。
「ホント愛想無いわよね。」
レジェリーはジト目でクライドの後ろ姿を見る。
「照れてたりして!」
「よせって、クライドはそんなんじゃないよ。」
言われ放題なクライドだが、全く表情も変えず、ただ前を見つめている。
しかし、その表情はどこかホッとしているような。そんな目をしていた。
(アイツ…表情には出ないタイプなんだろうな。)
ヴァゴウはそう思い、少しだけにやりと微笑んだ。
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「今日は夕方までにクローライト野営地を目指すんだよな。」
「あァ、そうだぜ。野営地にはそれぞれ名前がついててな、全ての野営地は鉱石の名前がついているんだぜ。」
「そうなんだ!じゃぁクローライトっていうのも鉱石の名前なの?」
「そうだぜ、クローライトは緑泥石とも呼ばれている緑色、暗緑色、濃緑色といった緑系の色をしていてな。色こそ地味だがその中には透き通ったものを感じる鉱石なんだ。」
ヴァゴウは職人だ、故に鉱石には詳しい。趣味で色々な素材を集めにあちこちと回っていたのだから、その知識は人一倍だ。
「それぞれに鉱石の名前がついているのには意味があるのか?」
ビライトが尋ねる。
「この辺りは天然の鉱石がよく取れる場所なんだ。一見大草原で何も無いように見えるがあちこちに鉱脈が飛び出しているんだぜ、あのあたりとかそうだな。」
ヴァゴウは遠くに見える岩肌を指す。
よく見ると草原の中にあちこち飛び出した岩場のようなものが点在している。
「へぇ~!凄い!」
「ああいう鉱石が豊富に取れるこのワービルトはそれを鉱業や鉄鋼業へと発展させた。そんな文化の発達を願ってここの野営地には鉱石の名前がつけられるようになったんだ。」
「流石ヴァゴウさん、伊達に職人やってないわね!」
「ガハハ、仕事だからな。勝手に覚えていくンだよ!」
「凄いなぁ。とても広い、そして私たちはそんな場所を今こうやってラプターさんたちに乗って移動している。なんだかすごいね。」
キッカは目を輝かせて周囲を眺めている。
「そうね、歩かなくていいのは本当に楽で良いわね!このまま楽してワービルトまで行けるなんて最高っ!」
レジェリーは大きく背伸びして椅子の背もたれに寄りかかる。
「ま、野営地までまだ時間があるからな。のんびりしようぜ。」
「「「はーい」」」
それからビライト、キッカは流れていく風景を二人で眺めながら語り合い、レジェリーは疲れていたのか、すやすやと眠りだし、ヴァゴウは時折クライドに声をかけながら、皆の話し相手になっていた。
無論クライドからすれば「黙っていろ」案件ではあるが。
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陽が傾きだし、空が夕焼け色に染まりつつある中。
「見えてきた。クローライト野営地だ。」
クライドがそう言い、眠ってしまったレジェリーを起こしビライトたちは降りる準備をした。
「ついたぞ。」
ラプターたちを上手く誘導し、厩舎へと入れるクライド。
「ありがとう、ラプターたち!」
ビライトたちはラプターたちにお礼を言い、受付へと向かう。
「一泊だ。」
「あいよ。Cブロックが空いてる。そこを使ってくれ。」
「分かった。」
受付にも獣人が複数人。
クライドが受付を済ませ、ビライトたちは指定された場所へと向かった。
「うわぁー!」
「良いじゃない!」
そこは鉄製のプレハブがあり、その裏にはクローライトが混ざった鉱石の岩肌があった。
「これがクローライトなのね。」
「オッサンの言う通り、色こそ地味だけど綺麗だな!」
「だろぉ?一応ここでの個人での採取は禁止だからな。見るだけだけだが…いやぁ、良い純度だ。」
ヴァゴウはじっと眺めてはニヤニヤしている。
「他のブロックにも旅客がいる、あまりはしゃぐな。」
クライドはそう言い、プレハブの中へ入っていく。
「あっ、そうか。とにかく、野営の準備をしよう。」
「おうッ。」
「手伝うわ!」
ビライトたちは食事の支度を始めた。
ドラゴニアで買いためた食材や調味料を駆使して相も変わらず旅をしているとは思えない立派な食事たちが設置されていた大机に並ぶ。
「相変わらず豪華よね~。ホント魔蔵庫ってば優秀だわ~」
美味しそうに肉を食べるレジェリーは嬉しそうに言う。
「そうだな、キッカにも早く食わせてやりたい。」
「私も食べたいけど、元に戻れたらいっぱい食べたいなぁ。」
「おう、ワシがたーくさん食わせてやるからなッ!期待しとけッ!」
「うんっ!」
ワイワイと食事を取って過ごすビライトたち。
そんな食事もまもなく終わりを迎えようとした時だ。
「おーう、うまそうだなぁ。」
奥から声が聞こえる。
「ん…?あなたたちは…?」
奥から現れたのは狼獣人が2人。
「なぁ、にいちゃんたちよかったら俺たちも混ぜてくんねぇ~?」
「いいだろ~?」
ずいずいと入りこんでは椅子に座る2人組の獣人。
「なによあんたたち。ちょっと突然すぎるんじゃない!?」
レジェリーが強気に言う。
「いいじゃねぇか。同じ旅の仲間なんだからよぉ。」
「うほっ、うんまそー」
獣人たちは勝手にビライトたちの食事に手を付け、モシャモシャと食う。
「あっ!」
「ちょっと!何勝手に食ってんのよ!」
「いいじゃねぇの、減るもんじゃないし。」
そう言い、うまそうに食う獣人たち。
「ガハハ、酔ってやがんな?」
よく見ると獣人たちは顔が真っ赤だ。そうとう酔っぱらっているようだ。
「み、見てる場合かよ。止めないと!」
「だーじょうぶだって。行き過ぎたら止めてやる。」
慌てるビライト、大きく構えて笑うヴァゴウ、そして怒り散らすレジェリー。えっとえっととあたふたしているキッカ。
そして、興味なさそうに遠くから横目で見るクライド。
「おーん?嬢ちゃんかわいいね~」
「えっ?私?」
キッカを見て更に顔を真っ赤にする獣人の一人。
この獣人にはキッカが見えているようだ。
「良かったら俺たちとイイコトしな~い?」
「えっ、えっと。」
「キ、キッカ!」
ビライトがキッカの前に立つ。
「あー?なにお前。邪魔すんの~?」
「キッカは俺の妹だ!」
「お兄ちゃんかぁ~へぇ~へっへっへ。」
ぐいっと顔を近づける獣人。
ビライトよりも一回り大きい獣人はビライトの背中をクイッと掴んだ。
その瞬間ビライトの身体は宙に舞う。
「!?」
「お兄ちゃん!?」
「じゃ~ますんなよぉ~。おに~ちゃん?」
相当酒癖が悪いようだ。
ビライトは放り投げられた。
「!ディフェンスエンハンス!」
ビライトはエンハンスをかけ、防御力を高めた。
壁に激突したが、その衝撃はエンハンスのおかげで服を汚した程度で済んだ。
遠くからそれを見ていたクライドはフードの中からナイフを取り出して様子を見る。
殺す気は無いが、いつでも迎撃出来るように準備をしている。
「っ、何をするんだ!」
ビライトはすぐに駆け寄りキッカの前に再び腕を広げて立ちふさがった。
「へっへ、やろーっての?」
「このっ…!」
このままだと乱闘だ。レジェリーは怒って今にも魔法を撃ちそうだし、キッカは驚いて固まっている。そしてビライトも少しだが冷静さを失いかけている。
「ホレ、そのぐらいにしときなッ。」
その後ろにはヴァゴウ。
大きい獣人よりも更に大きいヴァゴウは獣人たちの背中を掴んでヴァゴウの方を向かせた。
「でかっ」
「うおっ」
「わりぃなぁ。こいつらワシの大事な仲間なンだよ。これ以上はいけねぇなァ?」
ヴァゴウは笑って2人の獣人に言うが、酔っていても感じていた。
ヴァゴウの眼が笑っていないことに。
「ちっ!まぁいいさ!」
獣人たちはヴァゴウにビビッてその場を離れようとした。
「へへ、これなーんだ。」
獣人たちはビライトたちに何かを見せた。
「あっ!それは!」
それは魔蔵庫を発動するための球体だ。
手に持っているのは3つ。
ビライトのもの、キッカに渡す予定の空のもの、そしてレジェリーのものだ。
「あたしの魔蔵庫いつの間に!!」
「へへ、魔蔵庫持ってるなんてお前らめちゃくちゃ金持ちじゃん!いただいてくぜ!」
「うひょ~金持ちだぜ!」
「ま、待て!」
「待てと言って待つやつはいねぇ~!」
軽快なステップでその場から逃げようとする獣人たち。
と、その時だ。
「いてっ」
獣人たちは何かにぶつかった。
「ああ~なんだこりゃ。壁?」
「のわりにはちょっと柔らかぁぁぁぁぁぁ!!!!?」
その瞬間獣人たちは何かに掴まれて宙に浮いた。
呆然とするビライトたちに見えていたのは、ヴァゴウよりもでかい竜人の姿。
「やかましいから来てみたら…人様のモン盗んで逃げようたぁいい度胸じゃねぇか。」
ドスの効いた低く、渋い声がその巨体から放たれた。
「ヒ、ヒイイイ!?」
「アワワ…!」
「手に持ってるモン放しな。」
「は、はいっ!!!」
獣人たちは手に持っていた魔蔵庫を放し、それらは地面に落ちる。
「よぉ~し、とりあえずだ。頭冷やしてこいやァァァァァ!!!」
そう言い、大きな竜人は掴んだ獣人たちを肩に担いで…勢いよくぶん投げた。
「あああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!」
「ええええええええええええええええええええええええええええ!!!?」
2人の獣人は軽々と空に向かってぶん投げられ、やがて奥の方でバシャーンという大きな音が聞こえた。どうやら川に投げ入れられたようだ。
「あ、えっと…」
魔蔵庫を取り返し、獣人たちを追っ払った巨大な竜人は魔蔵庫を拾い、ビライトたちの元へ。
明かりに照らされたその竜人は悠々と3m近くはあろう巨体で、鋭い目つきに、赤色強めの赤紫色の皮膚と、とてもがっちりしたたくましい身体をしていた。
首周りはフサフサの毛皮が王族の着るような襟となっており、赤い模様のついた深緑の服を着ている。
「ホレ。」
「あ、えと、ありがとう、ございます。」
「おう、気にすんな。それより何を守っていたかは知らんが自分より大きな奴に立ち向かっていくたぁ、見上げた根性だ。気に入った。」
その言い方からしてキッカは見えていない。
ビライトはワシワシと頭を撫でられる。
「わわ、オッサンより派手…!」
「ま、野営地を狙う盗人や酒に酔ったタチのわりぃやつも居るからな。気を付けんだぞ?」
「は、はぁ…あ、ありがとうございます…」
「お、お兄ちゃん、大丈夫?」
「あ、あぁ…って、オッサン?レジェリー?」
と、さっきからレジェリーとヴァゴウは固まっている。
ビライトは不思議に思っているが…
「あーーーーーーーーーーーー!!!」
「うおっ!」
「なんだ!?」
レジェリーが大きな声をあげた。
それと同時に奥にいたクライドはナイフをしまい、小さくため息をついてかったるそうに立ち上がり、ビライトたちの方へ歩き出す。
「あ、あな、あなたは!!!」
レジェリーはなんだか緊張している様子。
「あちゃ、俺様のこと知ってる系?」
「知らないわけないじゃないですかーーー!!」
慌てふためくレジェリー。
そしてヴァゴウも我に返り。
「おー…おお!ガハハー!なんだこんなところに居たのかよ!」
「ん~?おお~!お前はッ!」
「ヴァゴウ・オーディル。忘れたとは言わせねぇぞ。」
「忘れるもんかよヴァゴウ!久しいなァ!」
ヴァゴウと知り合いらしい。手を重ねあい、ブンブンと振り回し握手を交わしている。
ヴァゴウと知り合いということは、ドラゴニアの関係者だろうか。
「レ、レジェリー、オッサン。この人は…?」
「あぁ、コイツはな!」
「この人は!」
ヴァゴウとレジェリーが言おうとした瞬間
「ボルドー・バーン。」
クライドがそれを遮り、その名を口にした。
「ドラゴニアの王、ベルガ・バーンの息子であり、次期ドラゴニアの王となる男だ。」
「えっ。」
「ええ。」
「「ええーーーーーーーー!!!!」」
ビライトとキッカの驚く大きな声が響く。
「「あたし(ワシ)のセリフ言われた!!!」」
「あー…てわけで、俺様はボルドー・バーンだ。次期ドラゴニアの王となる男よ!ヨロシクなッ!お前たちッ!」
クローライト野営地で盗人獣人たちからビライトたちを助けてくれた大男の竜人はボルドー・バーン。
次期、ドラゴニアの王になる男だった。
まさかまさかの出会いにビライトたちのジィル大草原を駆ける旅はまた、大きな意味を成すことになるのだろう。
この出会いがビライトたちに何をもたらすのだろうか・・・