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Delighting World  作者: ゼル
第四章 竜の鍾乳洞編~イビルライズと聖なる源泉~
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Delighting World ⅩⅧ

Delighting World ⅩⅧ




竜の鍾乳洞を通り、西の大国、獣人国家ワービルトに向かうビライトたち。


竜の鍾乳洞にて、強魔物に襲われ、それぞれは過去のトラウマや、身内の誰かの記憶を見せられることに。

精神を攻撃する悪しき魔法であったが、クライドはそれを一瞬で断ち切り、のちに戻ってきたレジェリーと共に強魔物を討伐した。


レジェリーは身に覚えのない記憶を見せられ動揺するが、その記憶を受け入れ、真実を確かめたいと思い、また新たな決意を抱いた。

そして、身内の悪い記憶を見せられてしまったヴァゴウ。本人の知らないとても恐ろしい記憶に一度上の空となってしまったが、考えても仕方がないことを自分の中で整理し、立ち直る。


そして残るはビライトとキッカ…


2人は誰の記憶でもない。

他の3人とは違い、まるでリアルタイムの出来事を経験しているような。

受けた魔法の本来の効果とは全く異なる状況に居た。


ビライトとキッカが見たもの。

それは茨に縛られたキッカの肉体だった。

なんとか茨を解いてキッカを救い出そうとするビライトだが、ビクともしない茨と、更に頭に角の生えた人間の姿をした真っ黒な存在…得体のしれない何かが姿を現した。

その存在はビライトを愛していると言い、キッカは憎きシンセライズに守られている。邪魔な存在だという。


キッカを守るため敵対するビライトだが…


「そう、なら…仕方ないネ。」

その言葉と同時にあふれ出るとてつもなく強い闇の力。

その力はとても立ち向かえるものでは無かった。

その力を前にビライトとキッカはどうなってしまうのか。

無事に戻ることが出来るのか。そしてキッカの身体を取り戻せるのか…



------


「お、お兄ちゃん…」


「あぁ…分かってるさ…けど、このままだとお前が危ないんだ…多分…俺も。」

ビライトの手足は震えている。

魔力を感知できる力が無いビライトでさえも分かる。

“こいつはやばい”と。


「さぁ、ビライト。」

手を伸ばす黒い影。


「ッ…!」

一歩後ろに下がるビライト。

一歩、また一歩と後ろに下がる。それと同じ歩数で黒い影は近づいてくる。


(このままだとマズイ…なんとかしないと…!)

ビライトは辺りを横目で見渡すが…辺りは真っ暗だ。

本当に何もない。地面すらも見えない真っ暗な空間にビライトたちは心を押しつぶされそうだった。

そして目の前には黒い影。


(何か…何か無いのか…!?)

ビライトは手をそっと動かしズボンのポケットを探る…


(…!)


何かが触れた。

固い。ガラスだろうか。

(まさか…間違いない…源泉の水だ…!)



竜の鍾乳洞で採取した源泉の水だ。

間違いない。ビライトは確信した。今この状況を打開できる可能性がある唯一のアイテムだと。



(竜の鍾乳洞の源泉は…本によると不浄なものを浄化する力があるって…だったら…コイツに有効かもしれないが…)

ビライトはキッカの肉体を見た。

(コイツに一泡吹かせるよりも…キッカを助け出す…あの茨をこの源泉の水でなんとか出来ないか…!?)


「…ッ!」

ビライトは前に向かって走り出す。


「何…?」


「お兄ちゃん!?」


(いちかばちかだ!)

「うおおおおお!」


ビライトは覚悟を決めて黒い影に突っ込んだ。

「馬鹿だね。効かないと…?「狙いはッ!」

ビライトは黒い影をすり抜けて前に走り出す。


「まさか…!」


「キッカーーーーッ!」

ビライトはポケットにしまっていた源泉の水を入れたビンを取り出し、蓋を開ける。

そしてそれをキッカの肉体に振りまいた。

「その源泉の水は…なるほど…強い聖なる力を持っていル…」

キッカの肉体に絡まる茨の一部が消えていく。

しかし全てではない。故にキッカの身体はまだ解放されていないが…精神体の方のキッカに淡い光が発生した。




「お、お兄ちゃん!これ…!なんだか変な感じ…でも…悪い感じじゃない!」

「キッカ…!足!」

「えっ?」


ビライトと精神体のキッカが見た光景。

それは、見えていなかったキッカの身体の下半身が見えている。

「身体が…!」

ビライトは精神体のキッカに触れようとした。

だが、やはりすり抜ける。

「完全には戻れてない…けどこれは大きな一歩だ!」

「うん!」


「…やってくれたネ…その女の力が少しだけ戻ってしまったようダ…」

黒い影の闇の力が更に増大していく。

「くっ…だが…この状況をまだなんとか出来ていない……」

源泉の瓶を見る。

わずかだが残っている。

これを黒い影に振りまけば…しかし、それで状況が打開できなければ今度こそ打つ手が無くなる。


(こうなったらもう逃がすわけにはいかなイ。)

黒い影が近づく。

「お兄ちゃん!」

キッカが前に出る。

「キッカ…!」

「分からないけど…出来る気がする!」

「えっ!?」

「やああああっ!!」

キッカは手を前に出す。

するとキッカの手が光りだし、光魔法が発動。

光の波動が黒い影に命中した。

「何?ボクの領域で魔法ヲ…!」


「魔法…!使えるのか!?」

ビライトは自身にエンハンスをかけようとする。だが魔法は発動しない。


キッカだけが魔法を使えているのだ。

「キッカ、どういう…」


「私にも分からない。けど…少しだけ力が湧いてくるの!」

「…分かった!考えても仕方ない!とにかく…俺だけじゃ何も出来ない!力を貸してくれ!」

「うん!絶対に皆のもとに帰ろうね!」

「あぁ!」

希望が生まれた。

キッカが魔法を使える。これだけで大きく戦況は変わるはずだ。



「…シンセライズめ…いつまでもボクの邪魔をする。」

黒い影は姿が見えないが分かる。怒っていると。


「…お兄ちゃん、感じる。」

「?」


「あの奥の方…光の力を感じる。出口かも。」

キッカは小声でビライトに言う。


「…分かった。キッカ、お前の身体はまだ俺を離れられないか?」


「…多分。でも、動ける範囲はかなり広くなってる気がする…」

「マジかよ…完全ではないにしても凄い進歩だ…」


キッカはビライトから一定の距離離れることが出来ない。それは3mにもならないぐらいの狭い範囲だ。

それを超えるとキッカはビライトに強く引き寄せられてしまうのだ。

更にお互いの身体に重い重力がのしかかるように倒れてしまう。


しかし、下半身が戻ったキッカはビライトと離れて行動が出来る範囲が大きく広がっているようだ。

予想以上に状況が良くなっている。

「キッカ、お前の力はきっとアイツに強く出られる。力を貸して欲しい。」

「どちみちこれしか…ないもんね。」

「その通りッ!」


ビライトは走り出す。

目指すは光を感じる先。


「今度は何ヲ…」

「やあっ!」

キッカはビライトに足の速さを上げる魔法をかけた。


足が淡い光に包まれビライトは足を素早く動かして駆け抜ける。

「うああああああああああああ!!」

ビライトはその勢いに負けそうながらも身体を後ろに傾かせて全力で走る。


そしてキッカはビライトから離れ、黒い影の前に立つ。


「何のつもりだ…シンセライズ…!」

「私はキッカ!シンセライズなんて名前じゃない!」

キッカは光魔法を乱れ打つ。光の球体を無数に放ち、黒い影があるところに連射する。


「ク…シンセライズの力…!やはりあなどれなイ…!」

「だから私はシンセライズじゃない!」


一方ビライトは光に向かって走り続ける。

近づいていてきている。あと数秒だ。

そして感じる。キッカとの距離が離れすぎていることを。


ビライトに重圧がかかる。

今にも地面にひれ伏してしまいそうだ。


それはキッカも同じだ。

だが、それを無視して走り続けると…


3,2、1


「キッカーーーー!!」

「!ビライト…お前!」

「私は囮っ!」

キッカの身体がうねり、ビライトに吸い寄せられていく。

特定の距離を超えたのだ。キッカの身体がビライトに引き寄せられ、ものすごい勢いでビライトの後ろにまで戻ってきた。

「おかえり!」

「ただいまっ!光は!?」

「すぐそこだ。残った源泉の水を!」

ビライトは光の気配のする場所へ残った源泉の水を撒く。

するとそこから亀裂が入り、その向こうには確かに源泉の地が見えた。

レジェリー、クライド、ヴァゴウ。みんなが居る。


「飛び込めッ!」

「うん!」

ビライトとキッカはわき目も振らず、その亀裂に飛び込んだ。

するとビライトたちは光に包まれて消えた…



「…逃がしタ。せっかく闇魔法に閉じ込められて闇に近づいた時を狙ってここに引きずりこんだのニ…まぁいイ…また会える。そう、会えるサ。こいつがまだここにある限り…ネ。」

黒い影は茨に捕らえられたキッカの肉体を見てにやりと笑ったように見えた。



---------------------------------------------------------


「!」


「ビライト!キッカちゃん!」

「ビライト!?キッカちゃん!?」



目の前に見えたのは仲間の姿。

レジェリーとヴァゴウが心配して見ている。

突然二人の意識が戻ったようで驚いているようにも見える。


「…そっか、戻ってきたのか…そうだ!キッカは!」

ビライトは後ろを向く。


「お兄ちゃん!」

キッカが後ろにいた。

そして下半身は…ある。


「えっ!?キッカちゃん!足が…!」

「なにがあったんだ!?」

驚くレジェリーとヴァゴウ。


「…みんな、聞いて欲しい。」

ビライトはそういい、クライドも含め全員が集まった。

ビライトとキッカは起こったことを3人に報告した。




「…そっか、その黒い影みてぇなやつがキッカちゃんの身体を奪ったんだな。」

「でもあたしはキッカちゃんをシンセライズと呼ぶ…ってのも気になるわよ。どうしてこの世界の名前を…?」

「私にも分からない。でも私は…このシンセライズと何かが結びついているのかも…それが私が狙われている原因なのかもしれない…」

キッカも分からないことだらけだが、言われたことには真実かどうか分からなくても、理解をするしかなかった。


「そしてビライト。お前はその黒い影に愛していると言われたと言うが…お前はその黒い影に覚えは無いのか?」

クライドが尋ねる。

「…分からない。」


「そうか、ならばいい。」


「…」(ビライト、そいつァ…クロのことじゃねぇのか…?)


クライドとヴァゴウは違う目で見ていた。


ビライトは恐らくその黒い影と面識がある。


だがそれはビライトの空想にすぎない”クロ”と呼ばれたビライトの架空の友人だ。

両親を失ったときのショックで精神をやられていたときに突如友達が出来たと良い、そこに居ない何かを紹介された。

だがキッカの存在を大切に思うようになった時、その存在はビライトの中から完全に消えてしまっていた。


クライドは恐らくクロのことも知っているだろう。

だがその話はしなかった。言ったところでビライトは分からないと言うだろうと判断したのだ。

なのでヴァゴウもこの時はクロの話をしなかった。


しかし、ヴァゴウとクライドは確信した。

それは恐らく“クロ”で間違いないと。


「ま、とにかくだ。キッカちゃんの身体がいつもよりも便利になったってことだな。」

「それは間違いないかな。以前よりも俺と長い距離を離れられるようになってるし…もしかしたら他にもまだ何かがあるかもしれないな。」

「うん、そうみたい。ホラ!」

キッカの手には瓶。

源泉の水が入った瓶をキッカが持っている。


「物が持てるのか!?」

「うん!生物には触れないみたいだけど…でもこれでお兄ちゃんに読んでもらわなくても本が読める!」

なんとキッカは物まで持てるようになっていた。

しかし生物に触れることは出来ない。あくまで触れるのは物だけのようだ。


故にキッカの変わっていない場所は、生物に触れられない、そして誰かが触れることは出来ないこと。

あとは食事や睡眠などは相変わらず出来ないようだ。そのあたりの感覚が以前と同じだからという判断ではあるが、間違いないだろう。


「とにかくこれはとんでもない進歩だぜ!よかったな!キッカちゃん!ビライト!」

「うん!」

「あぁ!この調子で絶対にキッカの身体を完全な状態に戻してやる!」

改めて決意をし、気合十分のビライトたち。


「しかし、この源泉に聖なる力があるってのはホントのことみてぇだな。もっと汲んどくかッ!」

ヴァゴウは余っている瓶に源泉の水を汲み、魔蔵庫にポンポンと入れだす。

「そうだな、俺たちも汲もう。」

「うん。」


ビライトたちは改めて源泉の水を汲み、元来た道を戻り反対側の道へと進んでいった。

風が吹いている。

確実にビライトたちは出口へ進んでいた。


「時間が分からないが恐らく夜だ。広い空洞に来たらそこで一泊する。」

クライドはそう言い、先へ進む。



そう言った数分後、源泉の地ほどではないが、やや大きな空洞に出た。

「こいつァ…中間点って感じがするなァ。」

野営の跡があちこちに見られる。

恐らくここで一泊する冒険者が多いのだろう。


「よし、ここで夜を過ごす。」

ビライトたちは野営の準備をし、そしていつものヴァゴウ製の料理を堪能し、いつもの夜を過ごした。

------

寝静まった夜。

眠れないキッカはビライトの顔を見る。

「お兄ちゃん…私は一体…どうなっちゃってるんだろ…ホントはね…」


(ちょっとだけ怖いんだ。私はまるで…私じゃないみたいで…シンセライズってなんなの?私は…キッカじゃないの…?)



不安を抱えるキッカ。

だが、それを誰にも言うことは無い。

いつも元気でみんなの支えになっていたいから。


---------------------------------------------------------

交代で夜の番をしながら一夜を過ごしたビライトたち。

それから先は弱い魔物とたまに出くわすぐらいであり、順調にビライトたちは竜の鍾乳洞を歩き続ける。


「暗い!早く太陽が見たいわ!」

時々レジェリーが文句を言いながらもビライトたちは鍾乳洞を歩き続ける。


そして…



「あっ!見ろよ!明かりが!」

曲り道の向こう側から光が見える。

間違いなく太陽の光だった。


「わぁぁぁ!やっと陽の光を拝めるのね!!」

2日ぶりの太陽に嬉しくて走り出すレジェリー。


「ガハハ、元気だねぇ。」

「フン、うるさい女だ。」


「行こう!お兄ちゃん!」

「あぁ!」


レジェリーに続き、ビライトたち。ヴァゴウ、クライドと続いて洞窟の外に出る。



「…おお…」


洞窟の先、それは見渡す限りの大草原だった。

とても気持ちの良い風が吹き抜けて、一行の髪を靡かせる。


「気持ちー!最高ねっ!」

レジェリーは太陽に向かって大きく背伸び。

「良い風が吹いているなッ」

ヴァゴウは手を大きく広げて深呼吸する。髪や翼や防具の布が風で動き、バサバサと音がする。

「…変わらないな。」

クライドは小さくつぶやき、歩きだす。


「ここはジィル大草原。全てを回るならば4か月はかかると言われるほどの大平原だ。」

「ジィル大草原…そんなに広い草原なのか…!」


「ワービルトはジィル大草原の中にある。そしてここからはワービルトまでずっと大草原だ。魔物の数も少ないが大人しい超大型の魔物も存在する。踏みつぶされないように注意するんだな。」

クライドはそう言い、すたすたと歩き出す。


「もう少し感動とか無いのアンタ。」


「フン」(何度も来ているのに感動もクソも無いだろう。)


---------------------------------------------------------


草原を歩きながら会話する一行たち。


「この草原はホントに果てしないな…」

「あァ。この一帯は山も無い。ずーーっと平坦な草原が続いてるんだぜ。」

綺麗な小川は流れている。あちこちに大きな湖も点在しており、そう言った場所で大型の魔物が水浴びをしているようだ。

とても大きく、50mを超えるような大きい魔物も居る。


「あちこちにワービルト管轄の野営地もあってな。そういう場所にはある程度の施設もある場合があるから、有効に活用しないとなッ」

「そういう施設がいくつもあるってことは本当に広い大草原なんだな…」


「ここからワービルトまでは徒歩だと1週間ほどかかるだろう。」

クライドが言う。

「げっ!!そんなに!?そろそろあったかいベッドで寝たいんだけど!」

レジェリーはため息をつく。

「ハァ…草原を移動する乗り物がある。徒歩で行く必要はない。ともかくここから最寄りの野営地は数時間で着く。着いた時間を見て先に進むか、野営するかを決める。」

レジェリーのわがままにため息をつきながらクライドはビライトたちに伝える。

一行はひたすら大草原を進み、ワービルトを目指す。



キッカの身体の一部が戻ってきた。

とても大きな収穫があった。

だが、それに伴って謎も生まれた。

ビライトたちが見た黒い影の正体はクロなのか。

そしてクロだとしたら、クロは何者なのか。


キッカは一体何故、あのような場所に居るのか。

シンセライズと呼ばれる理由はなんなのか。

謎は深まる一方だ。


そしてレジェリーとヴァゴウにもまた、記憶にない記憶を見せられ、新たな謎が生まれた。

色々な思いを胸にビライトたちの旅は続く。


2つ目の許可証を求めて、吹き抜ける風と共に…






第4章 竜の鍾乳洞編~イビルライズと聖なる源泉~ 完

第5章に続く。

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