Delighting World ⅩⅥ
Delighting World ⅩⅥ
ビライト
ビライト
ビライト
ビライトビライトビライト
ビライトビライトビライトビライト
ビライトビライト
ビライトビライト
声が鳴りやまない。
頭の中に響く自分を呼ぶ声。
何が起こっているのか分からない。
ただ、目の前にキッカの身体がある。これだけは間違いない。
「このっ!」
キッカの身体を掴んで、茨をはぎ取ろうとする。
しかし、キッカの身体にまとわりつく茨は千切れない。
「私の身体…!」
キッカも触れようとするが、もちろん触れることは出来ない。
「くっ!目の前にあるのに!目の前にキッカの身体があるのに…!」
キッカの身体が目の前にある。ビライトは魔蔵庫の中にしまっている大剣を取り出そうとするが…
「魔蔵庫が反応しない!なんでだ!」
「分からない…!どうしたらいいの…!」
鳴り響くビライトを呼ぶ声に翻弄されながらもビライトは必死にキッカの身体を茨から引き離そうとする…
---------------------------------------------------------
「…師匠!」
レジェリーは走る。
突然飛ばされた幻想と思われる自分の故郷。
その奥にたたずむ大きな黒い城に向かってレジェリーは走り続けた。
「師匠ー!」
大きい扉を開き、エントランスを走り抜け、階段を上る。
玉座を目指すレジェリー。
黒く禍々しいその城の階段を必死に上る。
「ハァ、ハァ!」
階段を上り、廊下を走る。目指す玉座はすぐそこだ。
「!な、なによこれッ!」
目の前に広がる光景。
それは…
「グゥゥ…」
「し、師匠…どう…し…て……ッ…」
自分だ。
そこに居たのは、レジェリーの腹部を貫く、黒い竜人の姿だった。
背の2枚の羽だけでなく、腰にも2枚の羽。そして全身がトゲトゲしく、身体からは真っ黒なオーラと紫の小さな電流のようなものが溢れ出ている。
とてつもなく禍々しいその姿は竜人ではなく、もっと別の何かにも見えた。
赤い血が竜人の身体を大量に伝い落ちる。
「あ、あぁ…」
その光景には見覚えも、経験した覚えも無かった。
だけど、実際に起こったことのようにも思えた。
「あたし、知らない。こんなの知らない!でも…どうして…こんなにも嘘だと思えないんだろう…」
目の前で腹部を貫かれている自分。竜人がその爪を雑に振り、レジェリーの体は宙を舞い、壁に叩きつけられ…人形のようにピクリとも動かない。
「し、死んだの…?あたし、死んだ…?」
目の前で起こっていることが分からな過ぎて混乱するレジェリー。
「ウ、アアア…レ、ジェ、リ…グオアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!」
黒い竜人の雄たけびで城は激しく揺れ、地には紫の雷が伝い、瓦礫が宙に浮く。
衝撃は壁を吹き飛ばし、まるで世界中の大地が震えているかのような激しい大地震が周囲を襲う。
崩壊していく玉座の間。崩れていく黒い城。
その闇の波動はやがて一瞬の爆発と共に、城の上層部を跡形もなく吹き飛ばしたのだった。
「いゃああっ!!」
レジェリーはその光景に恐怖し、震えた。
いくらこれが幻想だとしても、そこに居た黒い竜人は、自分の知っている竜人では無かった。
まるで力に翻弄されて溜まっていた力を全て吐き出してしまったかのように暴れ狂うその姿を見て、レジェリーは恐怖した。
やがて竜人は動かなくなり、跪いた。
城は崩れていき、腹を貫かれた自分が瓦礫と共に城の外へと落ちていく。
「ま、待って!あたしは…!」
その姿を見て必死に追いかけるレジェリー。
しかし、その横から何かが飛び出す。
横から飛び出してきたのは…
「し、師匠!」
黒い竜人だった。しかしさっきと姿が違う。
腰の翼が消えており、全身はトゲトゲしく無く、明らかに違う姿をしていた。
「うおおおおおおおおおおおっ!レジェリーーーッ!!!!」
落ちていくレジェリーを抱え、瓦礫と共に落下していく黒い竜人。
「師匠っ!」
黒い竜人を追いかけたレジェリーは着地した。その時これは幻想なのだと分かった。
高所から落下したのに無傷で着地できるはずがないからだ。
しかし、腹を貫かれたレジェリーを抱えた黒い竜人は地面に強く身体を叩きつけた。
「グッ…ハッ、ハッ」
「師匠…」
とても苦しそうにする黒い竜人は腹部を貫かれてピクリとも動かないレジェリーを寝かせる…
レジェリーは既に息が無かった。死んでいる。
「すまない…許してくれとは言わない…だが…お前の命だけは失わせない…」
そう言い、レジェリーに魔法をかける。
それは見たことも無い魔法だった。赤い光がレジェリーの身体を包む。
するとレジェリーの腹部の傷がみるみるふさがっていき、顔色も良くなって、気持ちよく眠っているだけになっていた。
息を吹き返し、なんとレジェリーは死からよみがえったのだ。
「すまない…我のせいだ」
一瞬黒い竜人の姿が変わったように見えた。さっきの6枚羽の姿だ。
「いいや、俺がコイツを受け入れたからだ。俺はやはり…永遠に孤独であるべきだったんだ…」
「…すまない。」
「謝るなよ…俺たちは…いつまでもこうなる運命なんだ。これからも…な。」
「…我はまた眠る。」
「あぁ。たまには暴走してない時に顔出せよ。」
「あぁ…」
---------------------------------------------------------
「これ…本当だとしたらあたし…あたしは、一度死んでる…?」
(でも、その後のことはなんとなく覚えている…あたし、突然師匠からここにはもう来るなって言われたんだ。そして…あたしは師匠に見限られたんだと思って、師匠を超える立派で素敵な魔法使いになって見返してやるって気持ちで村を出たんだ…)
「あたしは…あたしは………」
お前は死んだ
師匠に殺されたのだ
「違う!師匠はそんなことしないもん!師匠は…師匠は最高の…あたしの大事な師匠なんだッ!」
だがこれは事実。
「事実だとしてもあたしは師匠を恨んだりなんかしない。なんであんなことになったのか分からないし…あたしは師匠のことなんにも知らないけど…それでも師匠は師匠なんだ!」
---------------------------------------------------------
「…!!あたし…!」
レジェリーが次に見た光景は、竜の鍾乳洞だった。
「ビライト、キッカちゃん、ヴァゴウさん…!」
見渡すと、ビライト、キッカ、ヴァゴウの3人が黒い塊に包まれ硬直していた。
「クライドが居ない…それにしてもあたし、なんだか悪い夢でもみてたのかしら。」
レジェリーはさっきまで見ていた幻想を思い出す。
「…師匠…あたしは信じてるから。師匠は優しくて、元気で、あたしの大好きな師匠なんだから…!」
レジェリーは魔蔵庫から杖を取り出し、構える。
「よくもあたしに怖いもの見せてくれたわね!でも感謝もしてあげる!それも含めて誰だか知らないけど覚悟してもらうんだからね!」
レジェリーはこの幻想を見せた何かを追いかける為に走り出す。
(ビライト、キッカちゃん、ヴァゴウさんも何か見せられているのかしら…きっとそれはとても辛いこと…でもあたしが乗り越えられたんだから…大丈夫よね…)
---------------------------------------------------------
クライドは魔法使いを追いかけて走っていた。
(何処だ…)
気配は感じる。
だが場所特定が出来ない。
(チッ、手強いな…!)
それでいて時折、攻撃魔法を撃ってくる。
それと一緒に黒い何かの魔法も撃ってくる。
先ほどのように、黒い何かに包まれるとまた幻想に包まれてしまうかもしれない。クライドはそれを躱しながら場所を特定する。
「クライド!!」
「!レジェリー…」
「やっぱり先に抜け出してたのね!」
「当然だ。それよりレジェリー、分かるか?」
「分かるわよ!かなり強い力を持った魔法使いみたいね!」
「よし、ならば俺の索敵能力とお前の魔力感知を組み合わせて奴の居場所を特定するぞ。出来るな?」
「ふんだ、偉そうに。舐めないでよね。」
レジェリーは杖を構え、クライドは短剣を構えて、背中を合わせて、周囲の状況を窺う。
「魔力は…そこからッ!」
レジェリーは水魔法を撃つ。
それは石壁に命中するがその水しぶきが不自然な動きを見せる。水しぶきは衣類にかかるように飛び散り、それは右へと動き出した。
「フッ!」
クライドはその先を読み、魔法使いの服に短剣が刺さると、壁に叩きつけた。
「ゲッッ!」
「よし、とっておきを食らいなさいっ!」
レジェリーは雷の魔法を打ち出した。
水は電気を通す。衣類にかかった水は電気を通し、魔法使いの全身をかけめぐる。
「!!!」
「トドメだ。」
クライドは高く飛び勢いよく身体を回転させその大きな竜人のような足で回し蹴りを放ち、魔法使いを押しつぶして息の根を止めた。
壁で身体を支え、地面に着地。
「よっし!手強かったけどなんとかなったわね。」
「上出来だ。」
「素直にありがとうっていいなさいよ。」
「フン。戻るぞ。」
「かわいくないの。ふんだ。」
いつものように文句を言い合いながらもレジェリーとクライドは力を合わせて魔法使いを倒した。
だが…
---------------------------------------------------------
「うそ、魔法が解けてない!」
「…術者が死してもなお残る魔法か…厄介な…」
魔法は解けていなかった。
依然、ビライトとキッカ、そしてヴァゴウは闇に包まれ硬直したままだ。
「外から解呪は出来ない。そのような魔法は持ち合わせていない。」
「源泉振りまいてみよっか」
レジェリーは源泉をビライトたちに撒いてみたが、ただ普通に服が濡れただけだった。
「う~ん…ダメね~えいっえいっ」
レジェリーはビライトとヴァゴウの身体をバンバン叩いたり、軽く魔法を当ててみたりとやりたい放題していた。
「…あとで知らんぞ…」
ぼそっとつぶやくクライド。
「そういえばお前、囚われている間、何を見ていた?」
「…別に。」
レジェリーはそれだけしか答えなかった。
「答えたくないのならばいい。ただし、心は強く持つことだな。」
「…分かってるわよ。」
(いつかまた…師匠に会えたら…その時はちゃんと聞かなきゃ。あたしは…生きているのかな……)
レジェリーは思いを胸にしまう。
「ともかくだ。外から何も出来ん以上は待つしかない。ビライトたちが戻るのをな。」
「そうね…その間あんたと二人っきりなんてサイアクだけどね~」
「こっちのセリフだ。」
「ふーんだ。」
幻想から抜け出したレジェリーは先に抜け出していたクライドと共に、魔法をかけた魔法使いの魔物を討伐した。
しかしその魔法はかけた主が死しても継続する強い魔法…
まだ魔法から抜け出せていないビライト、キッカ、ヴァゴウは幻想の中で何を見ているのか。
そしてビライトは目の前にあるキッカの身体を取り戻すことが出来るのか…
---------------------------------------------------------
「こいつぁ…なんなんだ…ワシは…何を見せられているんだァ…?」
ドクン
ドクン
速くなる鼓動に胸が押しつぶされそうだった。
目の前で自分が見ているのは紛れもなく………
“子造り”であった。