Delighting World ⅩⅤ
第四章 竜の鍾乳洞編~イビルライズと聖なる源泉~
ドラゴニアを多くの人に見送られ旅立ったビライトたち。
世界の北部を占める未踏の地…その先にあるとされるイビルライズ。
コルバレーの町に住んでいるビライト。突然身体を奪われて精神体になってしまった妹のキッカ。
キッカの身体を取り戻すため旅を続けている。
未踏の地に入るにはこのシンセライズの3つの大国、人間の都市、機械文明が発達したヒューシュタット。
魔法が発達した竜人の都市、優しい人たちばかりの幸せな国でもあったドラゴニア。
そしてこれから向かうのは鋼業が盛んな城塞獣人都市、ワービルト。
これら3つの都市の王から許可証を貰わなくてはならない。
ドラゴニアから1つ目の許可証を貰うことが出来たビライト。
イビルライズに身体を奪われた精神体の妹キッカ。
世界一素敵な魔法使いを目指す人間の魔法使いレジェリー。
ビライトとキッカの保護者のような存在で豪快で、元気な武器職人竜人のヴァゴウ。
イビルライズまで導くことを契約とし、アトメントいう謎の獣人に雇われた、情報屋であり謎の多い獣人のクライド。
5人となったビライトたちは2つ目の許可証を手に入れるために、ワービルトを目指すのだった。
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「北西に向かおう。竜の鍾乳洞という場所を抜けて、西の大平原に出てその先にあるのがワービルトだぜ。」
地図片手にヴァゴウが北西の方角を指さす。
「ここから竜の鍾乳洞はどれぐらいなんだ?」
ビライトはコルバレーから外に出たことがなかったので、地理はあまり詳しくはない。
しかしヴァゴウとクライドはそのあたりにかなり詳しく、博識であるためガイドとしては十分なほどに知識を持っている。
「そうだなァ…鍾乳洞に入ってからが結構長いみたいでなァ。」
地図を見る限り大きな山の中に鍾乳洞が広がっている模様。
「ここから竜の鍾乳洞は半日もかからん。だが、鍾乳洞に入れば1日と半分ぐらいは陽の光を拝めないと思え。」
「ええーーー!そんなに!?」
「これは大変かも…」
クライドが言うには1日以上は確実に鍾乳洞の中だそうだ。
それを聞いてレジェリーとキッカは心配そうにする。
「光が無いわけではないがな…鍾乳洞には光の力と闇の力、どちらも強く働いている。明るい場所もあれば暗い場所もある。」
「光と闇の力…そう聞くとなんだか怖い場所に聞こえるな…」
ビライトも少し心配そうな顔をしてキッカを見る。
「私なら大丈夫だよお兄ちゃん。」
「あ、あぁ。」
「闇は暗い場所ならどこにでも発生するものだ。しかし鍾乳洞にはドラゴニアの源泉がある。その源泉には強い光の力が作用しているようだ。故に源泉に近づけば明るくなるだろう。」
「なるほどな…ちなみに、鍾乳洞って…どんな感じなんだ?」
「私も知らないから気になる!」
クライドの話に納得し、そしてビライトとキッカは鍾乳洞について尋ねる。
歩きながらヴァゴウが説明する。
「そうだな。“石灰”と呼ばれる素材が地下水と反応して出来る結晶みてェなのが積み重なってタケノコ形になったりつららみてェな形になったりしてな。普通じゃ見られないような変わった岩や結晶を見ることができんだ。」
「おおお~!」
「見たい!」
ビライトとキッカは目を輝かせて言う。
2人の好奇心モードに花が咲く。
「やれやれ、2人とも好奇心旺盛ね~。ま、あたしも見たことないから楽しみだけどね。魔法のインスピレーションが高まりそうだわ。」
レジェリーも冷静に見えて楽しそうだ。
ドラゴニアに訪れる前もそうだったがレジェリーは直前まで気持ちを露わにはしないようだ。
「…行くぞ。」
小さくため息をついてクライドはサクサクと先に進んでいく。
ビライトたちはそれを追いかけていく。
長い川が鍾乳洞に直接つながっている。
故に川に沿って歩いていけば鍾乳洞まで迷うことは無い。
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「それにしてもサマスコールは本当に暑かったけど…この辺りはとても穏やかね。」
「同じドラゴニア地方とは思えないよな。」
「ドラゴニアは姿を変えるんだぜ。」
「四季もはっきりしているようで、暑い時期もあれば寒い時期もある。今の時期は温暖な時期ではあるが、これから暑い時期に変わるようだ。」
ヴァゴウとクライドは語る。
「2人共本当に詳しいよね!凄い!」
キッカが目を輝かせて言う。
「ワシはドラゴニア以外のことは人並みぐらいだがな。他のことはクライドの方が詳しいんじゃねぇか?もっと色々教えてやれよ。」
「フゥ…前にも言ったが情報は武器だ。俺が言う情報は言っても大丈夫な情報だけだ。」
クライドはそう言い、なんでも好奇心旺盛に喜ぶキッカとビライトに疲れてため息を吐く。
「ガハハ、振り回されてんな!」
「やかましい。」
ヴァゴウにからかわれるクライド。
笑いながら歩くビライトたち。
旅は順調に進み、数時間後ビライトたちは竜の鍾乳洞の入り口までたどり着いた。
「川の色が段々澄んできている。源泉が近い証拠かな。」
「綺麗だねぇ…」
川の水は美しい透明な色をしている。
「鍾乳洞の源泉の水は聖なる力があると言われているからなァ。もし源泉を見つけたら汲んでいこうぜ。何かの役に立つかもしれないからな~」
ヴァゴウはまるで回収する気満々なように空の瓶を魔蔵庫からポンポンと取り出し、全員に5本ずつ配布し始めた。
「用意周到だなぁ…」
「ホレ、自分たちの魔蔵庫にしまっときな。」
ビライトとレジェリーはドラゴニアで貰った魔蔵庫を展開し、クライドは自身が持つ魔蔵庫を展開して瓶をしまった。
「さて、暗い場所には魔物が出やすい。用心しろ。」
クライドは魔蔵庫から松明を取り出す。
全員に配布し、レジェリーの炎魔法で火をつけた。
「行こう。」
ビライトたちは竜の鍾乳洞に入って行った。
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ここから3日はずっと洞窟の中だ。
最初のうちは普通の洞窟と変わらないぐらいの地形だ。
「まずは川に沿って進む。分かれ道は風を読んで選ぶ。」
「風の通り道が私の目指す出口への道ってことだよね。」
「その通りだ。」
松明を持ち、先に進んでいくビライトたち。
先頭をクライドが歩き、その後ろにビライトとキッカ、レジェリー、ヴァゴウの順で1列に並んで川に沿って歩く。
「狭いぞ。」
「オッサンでかいもんなぁ。」
洞窟の幅はあまり広くはなく、歩ける場所は人間2人分ぐらいの横幅しかない。天井も約2mぐらい。体の大きいヴァゴウはかがまないといけなく、大変そうだ。
「…魔物の気配がするが…殺気は無い。襲ってくるタイプのものではないようだ。」
クライドは魔物の気配を探りながら進む。
そして歩くこと数時間。ようやく開けた場所に出てきた。ほんのり水が光っている。
周囲も白い結晶のようなものが混ざった岩が増え始め、それがほんのりと白い光を放っている。
「ここで休憩にするぞ。」
先はまだまだ長い。一行は休憩を取ることにした。
「この石がオッサンが言ってた石灰っていうやつか?」
「そうだぜ!奥に行けばもっと増えてくるし、それが蓄積した面白い形の岩も増えてくるだろうよ!」
「楽しみだな。」
「うん!」
ワクワクに胸が躍るビライトとキッカ。
「あーあ、あと3日ぐらいは陽の光を見れないなんてやんなっちゃうわね~あたしは早く出たいわ。」
レジェリーはやれやれとため息をつく。
「なんだよレジェリー。鍾乳洞だって明るいじゃないか。」
「あんたみたいにお気楽じゃないのよ。」
ビライトの言葉を一蹴し、ため息を吐く。
「暗いの苦手なの?」
「そうじゃないわよ!」
キッカの言葉に図星を突かれたように慌てるレジェリー。
「ちょっとだけよ、ちょっとだけ!」
「ガハハ、怖いなら怖いって言え!」
「あはは!」
「もーっ、ヴァゴウさんまで!キッカちゃんてば!」
「ハハハ!」
盛り上がる4人を見て、再びため息をつくクライド。
(全く…のんきなものだ。休憩なのだから大人しく休憩していればいいものを…)
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30分ほど休憩をし、再び先に進むビライトたち。
その先、分かれ道があった。
「どっちだろう?」
片方は川が続いている。もう片方は普通の洞窟だ。
クライドは川の水を指につけ、各分かれ道を指さした。
「…こっちが正規だろう。風を感じる。」
クライドが指さした方角は、川が続いている道では無かった。
「てことは…川が続くのはここまでってことか。」
「それって…源泉に行けねぇじゃねぇか!!!」
ヴァゴウがショックで頭を抱えた。
「残念だったな。」
クライドはそれだけ言い、先に進もうとするが…
「クライドッ!寄り道させ「断る。」
ヴァゴウが言いきる前にズバッと断ってしまうクライド。「あ~」と頭を抱えて身体をぐるぐると回して唸る。よっぽど源泉の水が欲しいようだ。
「クライド、少しだけ川の方角に進ませてもらえないか?」
「…お前まで何を言う…先を急ぐのだろう。」
ビライトはヴァゴウが見るに堪えなくてクライドに声をかける。
「じゃぁクライドと誰か一人ここで待って、オッサンと誰かで少しだけ川の奥を見てくる…ってのはどうだ?まだまだ長そうだったら大人しくここまで引き返すからさ。」
ビライトはクライドにお願いするが…
「…ハァ。分かった。いいだろう。全員で行くぞ。」
「良いのか?」
「言っても聞かんだろう。だったら全員で行く方が汲める水も多い。その方が効率が良い。」
「ありがとう!」
「行くぞ。」
クライドはビライトの提案を呑んで川の流れる方へと歩き出す。
「あ~源泉がぁ~」
「ヴァゴウさん、ホラ源泉取りに行くわよ。」
「…へ?」
「聞いてなかったのかしら…ビライトが頼んでくれたわよ。」
レジェリーがまだ項垂れていたヴァゴウにさっきの話を伝える。
「お、おおお~ビライト~!」
ヴァゴウは嬉しそうにビライトの身体をガシッと掴んで持ち上げる。
「う、うわーーー!!」
「ハッハー!サンキュービライトォ~!」
「や、やめろぉ!降ろせー!!」
はしゃぐヴァゴウ、掴まれて振り回されるビライト。
のちに同じことをクライドにやろうとしたがあっさりとかわされて一発蹴りを入れられた。
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「クライドのことだから俺の言うことなんて聞かないと思ってた。」
ビライトがクライドに言う。
「フン、源泉の水は回復水としても使用できる。今後役立つかもしれないと思っただけだ。」
「ありがとな。」
「礼などいらん。」
そんな会話を後ろでレジェリーはニヤついて見ている。
「あら~なぁにクライド。照れてるのぉ?」
「殺すぞ。」
「はーいはい。冗談だって。ごめんなさいねっと。」
「フン。」
冗談を言い合い会話を弾ませ先に進むビライトたち。
そこからは少し長く、1時間程度歩くと…
「おっ、光が強い!」
ヴァゴウは走り出す。
「あっ、俺も!」
ビライトもそれを追いかける。
やれやれとクライドもそれを追いかけ、レジェリーもその後ろをついていく。
「わぁ~!!」
大きな空洞。
そこに広がっているのはまさに源泉。
青く輝く水が大きな滝つぼからあふれ出ている。
そしてその周囲は鍾乳洞らしく、変わった形の岩やタケノコ状の岩。ツララのようなものが無数に天井に様々な長さ、形で張り付いている。
「すごーい!!!」
キッカは目を輝かせ、周囲を見ておおはしゃぎだ。
「あぁ!凄いな…!源泉もきれいだし、何よりこの無数の岩も面白い形してるな!」
ビライトも周囲を見て目を輝かせる。
静かで、滴る水滴が落ちる音、声は響き渡り、青く輝く源泉からの光はとても癒しを感じるものだ。見ているだけで力を貰えるような。そんな感じがする。
「よぉーし!早速源泉を分けてもらおうぜ!ついでに石灰や鉱石も回収させてもらおうかなッ」
ヴァゴウは魔蔵庫からツルハシを取り出し、ウキウキで鉱石や石灰を回収し始めた。
「なるほど…これは非常に多くの魔力を含んだ水のようだ。」
「そうね、源泉からあふれ出てくる強い魔力を感じるわ。ちょっと濃すぎるような気もするからあまり近づかない方が良いかもだけど。注意して。」
レジェリーが全員に注意を促し、ビライトたちは少し源泉から離れた場所で水を汲んだ。
持っていた瓶全てに源泉を蓄え、魔蔵庫に各自分散してしまっておいた。
「魔力が枯渇することがあったらこれを飲めば多少は回復するだろう。」
「良いもの手に入れたかもな。」
「そうね、あたしも魔法使いだから魔力は枯渇しやすいから助かるかも!一応市販のエーテルやドラゴニアのエーテルは持ってるけど、こういうのはいくらあってもいいもんね!」
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ヴァゴウだけまだ鉱石を回収しているが、他の人たちは全員ヴァゴウを待っている。
実に1時間がまた経過しているが…
「ねぇヴァゴウさんまだ~?」
「もう少し!あと5分!」
「オッサンの5分って何分だよ…それもう何回も聞いたぞ。」
「ったく…やはり来るべきではなかったか?」
クライドも文句を言い始めた。
「よぉーし、こんなもんだなッ。」
ヴァゴウは大量の石灰と鉱石を魔蔵庫にポンポン閉まっていく。
「ホント魔蔵庫って便利だよな。」
「ホントにね~…あたしたちももっと有効活用しなきゃね~」
「んじゃお前たちもこれ入れといてくれ!」
ヴァゴウはその会話を聞き、まだまだ残っている鉱石をドカッと手渡す。
「「え、え~…」」
仕方なくビライトとレジェリーは素材を魔蔵庫に入れる。
「この素材使ってワービルトで武器作ってやんよ。楽しみにしてな!」
「って!そのために集めてたなら先に言ってくれよ!」
「そうよ!!」
「んあ?言ってなかった?」
「「言ってない!!!」」
「お、おお~。わり!」
ビライトとレジェリーはヴァゴウにぐっと顔を近づけて言う。
「あはは!」
「はぁ…」
キッカは笑い、クライドはため息を吐く。
「よし、じゃぁ来た道を戻ろう。」
そうビライトが言った。
次の瞬間だ。
「…!何だこの気配は。」
クライドだけがぞわっと何かを感じた。
「気をつけろ!」
その声が全て聞こえることは無く、一行はその気配に飲み込まれるように包まれた。
フッと急にあたりが暗くなり、視界が遮断された。
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「え?」
ビライトの視界は突然閉ざされた。
源泉の音もしない。
「キッカ?」
「お兄ちゃん、これは一体…!」
周囲を見渡しても何もない。
キッカはビライトと一緒に居る。
だが他の3人の気配が無い。
「オッサン!レジェリー!クライド!」
聞こえない。誰の声も聞こえない。
「こ、これは一体どうなってるんだ。なんで急に!?」
「分からないよ!でもどうしようお兄ちゃん。」
「少しここで動かずに待ってみよう。何か変化があるかもしれない。」
「う、うん。」
ビライトとキッカは動かず立ち尽くす。
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「…ん…?えっ!嘘、ここって!!」
レジェリーが目覚めるとそこは森の中だった。
レジェリーにとってはよく知っている光景であった。
「ここ…あたしの故郷…どうして?」
古い文字で描かれた看板、木でつくられた自然豊かな建造物が並ぶ小さな村。
穏やかで木々が生い茂り、小鳥の鳴き声が絶えないとても穏やかな村だ。
中央には大きなドラゴンとその横に小さな少女の銅像が建っている。
間違いなくここはレジェリーの故郷…
「…どうしてあたし…ここに居るの?ねぇ!」
村の人がいる。話しかけようとするが誰もレジェリーの存在に気が付いていない。
「あたしはここに居るようで居ない?これ、幻かなにかなの?…!」
レジェリーは思い出したように村の奥を見る。
「嘘、壊れてない。これってもしかして!」
レジェリーが見た先にあったのは真っ黒な城。
とても大きくて禍々しい黒い不気味な城だ。
「…師匠!」
レジェリーはそう言い、走り出す。
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「…んあ?ここは…何処だ?」
ヴァゴウは見知らぬ村に居た。
地域も分からない、知らない村に一人ヴァゴウはたたずんでいた。
「おーい!みんなァ。」
声もしない。反応も無い。
「どうなってんだァ?」
困って頭を掻くヴァゴウだが、次の瞬間、空が赤く染まり、村が燃えていく。
「!おいおい!どうなってんだ!?」
「や、やめて!その人を奪わないで!」
「アッハハハハ!この竜人の男は貰っていくよっ!」
竜人の女性とドラゴンのメスが居た。
ドラゴンが腕に抱えていたのは竜人の男性。
「こいつァただごとじゃねぇなッ」
ヴァゴウは武器の槍を魔蔵庫から取り出し、そこに向かう。
「やいやい!その竜人を離しやがれッ」
ヴァゴウは槍をドラゴンを狙ってぶん投げる。
だがその槍はドラゴンをすり抜けてしまう。
「なッ!こいつぁ…幻覚なのかァ?」
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「…なるほど、こいつは…」
クライドが居たのは立派な城塞がそびえたつ町。
そう、ワービルトだ。
「…くだらんな。俺にこんなもの通用せん。」
クライドは羽織っているコートからバッと腕を出し腰に装備したヴァゴウ製の短剣を構える。
「ふん!」
クライドの一斬が空間を切り裂いた。
そしてその空間に割れ目が出来、クライドは元の源泉の場所へと戻ってきた。
「…さて、なるほど…闇より生まれし魔物か。」
周囲を見渡すクライド。そこには黒い闇に包まれたビライトたちが時間を止めたかのように硬直している。
そして目の前には魔法使いのような魔物が唸り声をあげながらそこに居た。
魔法使いのような姿をしているが、顔はどう見ても魔物。まるでゾンビのようなただれた顔をしていた。
「かなり強力な魔法…かなりの強魔物と見た…だが残念だったな。俺には過去の記憶で惑わせようなどと愚かな手段は通用せん。覚悟しろ。」
クライドは魔法使いに向かって走り出す。そして一瞬で目の前に現れ、短剣でその魔法使いの服を切り裂いた。
「…」
魔法使いは何も言わず。姿を消した。
だが、魔法は依然継続しているようで、ビライトたちの状態は変わっていない。
「逃がさん!」
クライドは隠密魔法をかけ、気配を消した。
そして魔力を感知し、魔法使いの魔物を追いかけた。
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「…ダメだ。何も変わらない。」
ビライトたちは10分ほどその場に滞在したが何も変わりはない。
「お兄ちゃん、何かの魔法かもしれないよ。」
「そうかもな…だとしたら他のみんなは大丈夫だろうか。」
「…ビライト。」
「!誰だ!」
声がする。
「ビライト、ビライト。」
「誰なんだ!」
ビライトの名を呼び続ける声。
「お兄ちゃん気を付けて。」
「あぁ。」
「ビライト、ビライト。ビライトビライトビライトビライトビライトビライトビライトビライトビライトビライトビライトビライトビライトビライトビライトビライトビライトビライトビライトビライトビライトビライトビライトビライトビライトビライトビライトビライトビライトビライトビライトビライト」
「なっ、なんなんだ!?」
「お兄ちゃん…怖いよ…!」
360度からビライトを呼ぶ声がする。
「うっ…あああああ!」
頭が割れそうだった。
その周囲から聞こえる声にビライトは頭を抱え蹲った。
「やめてっ!お兄ちゃんの頭から出て行ってよ!」
キッカは防御魔法を張った。だがそれはすぐに打ち砕かれた。
「きゃあっ!」
それはキッカにも重いダメージを与えた。
頭を流れるビライトを呼ぶ声。
「い、いったいなんなんだ!くそぉっ!」
ビライトはたまらず走り続ける。
やがてその先に一つの影が見えた。
「!こ、これは!」
「これ…私!?」
そう、キッカだ。
キッカがなにやら気味の悪い黒いツルで腕を縛られて吊るされている。
しかしキッカはビライトの後ろに居る。
と、なればこれは…
「キッカの肉体!?」
「どうしてここに!?」
鳴りやまぬ声。
それぞれが幻想に囚われ、彷徨う。
唯一幻想から抜け出したクライドはビライトたちにかかった魔法を打ち払うため一人、魔法使いを追う。
愉快な旅は突然と闇へ。
ビライトたちはいったい何を見ているのか。
そしてレジェリーとヴァゴウが見ている光景は何なのか。
竜の鍾乳洞で起こる新たな戦いはどうなっていくのだろうか…