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Delighting World  作者: ゼル
第三章 サマスコール編~情報屋と狙われた一行たち~
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Delighting World ⅩⅣ

Delighting World ⅩⅣ











ドラゴニア王の依頼により、古代の竜フリードに乗りサマスコールへたどり着いたビライトたち一行は異常なサマスコールの現状を目の当たりにする。


ヒューシュタットがサマスコールにやってきて何かを企んでいた。町長の家に何日も居座り、何かをしているようだった。

道中で仲間になったクライドの作戦を元に町長の家に侵入したビライトたちは、ヒューシュタットの企む、世界中をヒューシュタットのようにするという野望を聞いてしまった。

それを聞いたビライト、キッカ、レジェリーの3人は怒り、ビライトはその怒りでヒューシュタットの前に飛び出してしまう。

なんとか怪我人を出さずに町長を救出し脱出したが、作戦もなしに飛び出し、計画を台無しにしたビライトにクライドは怒り、自分の勝手な判断で怒りに身を任せて無謀な行動を取ったことを怒る。

「お前の行動はお前の大切な人を失う可能性だってあった」

「何も考えず感情だけで動くと必ず良い結果にはならない。そして…大事な仲間や家族が居るのなら二度とこのようなことをするな。するならばまずは誰かに相談しろ」


クライドの言葉がひどく突き刺さるビライトとキッカ。

自分の行動で仲間を危険に曝してしまい、ヒューシュタットにも素性を更に曝してしまった。

落ち込むビライトとキッカ。

しかし、自分がその場に居たら真っ先に自分が飛び出しただろうと言うヴァゴウや、事情を理解し、励ますフリード。そして自分もビライトたちと同じ考えだったレジェリーに励まされ、ビライトとキッカはまた再び立ち直ることが出来た。

そして夜を超え、朝を迎えた。


疲れ果てて眠ってしまったサマスコールの町長も目覚める頃だろう。

朝を迎え、森は日差しを浴びて輝く…


(ビ…ラ………)


「…まただ…声が聞こえる。」


幼い声が響く。

暗い闇の中…ビライトは宙に漂う感覚を覚えた。

(俺…を………かい…)




「待ってくれ!お前は…!」


(…………………)


「…!」



朝が来る。


しかし、起きたころには全てを忘れている。

そういう風になっているから。

そういう風に出来ているから。


そう、全ては夢の中で始まり、夢で終わる……



---------------------------------------------------------


「ごめん!」


朝、そこにはクライドに謝るビライトとそれを見守るキッカの姿があった。

その後ろにはレジェリーとヴァゴウ。

そしてさらにその後ろにフリード。


「…」


「俺、クライドの言葉が凄く心に刺さったんだ。俺にはキッカも、オッサンも、レジェリーも、フリードさんも。そしてクライドも。大切な仲間だ。でも…昨日俺はそんなことも考えずにただ怒りに任せて危険な行動をしてしまった。」

「…」

クライドは何も言わない。そしてこちらを向かない。

「俺、どうしてもドラゴニアがヒューシュタットのようになるのが嫌だった。俺はまた同じことを繰り返すかもしれない。」

ビライトは拳をグッと握る。

「だからその時はクライドに、みんなに止めて欲しいんだ。もちろん、俺もそのような状況になったとしても一度踏みとどまれるように努力する。」

ビライトは自身を一人で抑えられるかどうかわからなかった。

だからそんな時、みんなに止めて欲しい。そして、自分も努力することを伝えた。


「あ、あたしも!あたしもビライトが飛び出さなかったらあたしが飛び出していたかもしれないもん!だからあたしもビライトと同じ!」

「ワシもそうだ。だからお前はワシを2階に残したんだろ?」


レジェリーとヴァゴウもビライトに便乗して語る。

「俺たちはクライドよりもずっと未熟なんだ。だから、これからもクライドに頼ってしまう。迷惑をかけてしまうかもしれない。それでも…俺たちは。」


「…もういい。」

クライドはようやく口を開いた。

「口だけじゃないことを証明して見せろ。」

クライドはそれだけ言い、立ち上がって森の奥へ歩き出す。

「ちょ、何処行くのよ!」

「散歩だ。町長から話は聞いておけ。後で聞く。」

それだけ言い、クライドは森の奥へと歩いて行った。


「…よ、よかったかな…」

不安そうにヴァゴウやフリードを見る。

「良いんじゃねぇか?お前の気持ちはちゃーんと伝わったと思うぜッ!!」

ヴァゴウは笑い、ビライトの背中をドンと叩く。

わわっとよたつくビライト。

「ウム、大丈夫だろう。クライドにも届いていることだろう。」

フリードも同意する。

「フン、もっとこう愛想よく出来ないのかしら。なんかあたしまで謝っちゃって損したみたい!」

はぁとため息をつくレジェリー。


「ん?おぉ、目が覚めたか?」

フリードは奥で眠っていた町長が目を開けるのに気が付いた。


「…んん?お、おわっ!!!?古代竜フリード…様!?」

フリードを見て慌てて姿勢をピシッと正してからふらついて木に当たる。

「あたた…こ、ここは何処だ?私は一体…どうして…あぁ…ダメだ、思い出せない……」

町長は困惑している。


「落ち着いてください。あたしたちはあなたを助けたんです。ヒューシュタットから…!」

「ん…あ、あぁ…そうだ、私は確かヒューシュタットのオートマタに痛めつけられて…」

「一回深呼吸だ。ホレ。」

フリードが言う。

「あ、あぁ…」


町長はいったん深呼吸していったん落ち着いた。


---------------------------------------------------------


「…そうか、私は…君たちに助けられたんだな…ありがとう、礼を言わせてくれ。」

町長は落ち着いて、ビライトたちから事情を聴いてお礼を言い深く頭を下げた。その際、キッカの方は向いていなかったので、おそらくキッカは見えていない。



「いえ、半ば強引に連れ出してしまったから…」


「町はまだ混乱しているかもしれません。」


レジェリーは町の方角を見る。


「ならば今すぐ町の人々の安全を確保しなければ…!」

町長は慌てて歩こうとするがまだふらつくようで、足取りが悪い。

それを制止させて落ち着かせるビライトたち。


「…情けないな…私はサマスコールの町長として町の人々を守らねばならないというのに…」

「俺たちが様子を見に行きます。」

ビライトが言う。

「だが…君たちもヒューシュタットに顔が知られているのだろう?危険ではないか…?」

町長は心配そうに言うが、ビライトは「任せてください」と言う。

「でも顔が割れているのは事実だぜ。」

ヴァゴウが腕を組んで首をかしげる。


「クライドに隠密魔法をかけてもらおう。」

「お兄ちゃんナイス!それ!」


「あんたたちねぇ…昨日あんなことがあったのにクライドがそんな簡単に魔法出してくれると思ってる?」

レジェリーが釘をさす。

「うっ…それは…」

「うう…そうだよね…」


昨日起こったこと。それが釘となってビライトとキッカにグッサァと突き刺さる。


「ったく…それよりクライドに直接お願いして直接行ってもらった方が確実じゃないの?」

「そ、そっか~…そうだよなぁ…」

どよーんと凹んでしまうビライトとキッカだったが…


「良いだろう。ビライト、キッカ。一緒に来い。」

後ろから声がする。クライドだ。

「クライド…」


「ただし、昨日と同じことをしてみろ。その時はただではすまさん。」

強烈に厳しい目つきでビライトとキッカを見る。

「あ、あぁ!わ、分かった!」

一瞬でやばい殺気のようなものを感じたビライトは名誉挽回のチャンスと思うと同時に、絶対に熱くならないようにしようと固く誓った。


「よし、では早速向かおう。サマスコールの町の様子を探り、ヒューシュタットの者が滞在しているかどうか、そして町の周囲の探索も同時に行おう。」





クライドの提案により、3つに分かれることになった。


まず1つ目のグループはクライド・ビライト・キッカ。

サマスコールの町に直接行き、隠密魔法を使いながら町の状況と、ヒューシュタットの者が滞在していないかどうかの確認。


2つ目のグループはレジェリーとフリード。

ここで待機し、町長の護衛をするグループだ。


そして最後はヴァゴウ。

ヴァゴウは隠密魔法で姿を隠しながら、サマスコールの町周囲にヒューシュタットの者が潜んでいないかの確認だ。



「よし、作戦開始だ。」


「みなさん、お気をつけて…」

「任せたわよ。町長はあたしとフリードさんとで守るから!」

「ウム。」


レジェリーとフリードを残し、一行は行動を開始した。


---------------------------------------------------------


「相変わらず人通りは無いみたいだ」

ビライト、キッカ、クライドは隠密魔法で姿を消してサマスコールの大通りを歩く。


「町長が姿を消した…などとは誰も知るわけがないからな。」

先日の夜、ビライトたちは町長を救出し、そのままだ。

町の人々はなるべく家を出ないようにとの町長からのお触れを守り続けており、まだこの町はゴーストタウンのようだった。

「この現状は町長さんに報告した方が良いね。このままだと町の人たちがかわいそうだよ…」

キッカは町を見渡して、ビライトに言う。

「そうだな、あとは…ヒューシュタットか。」

「町長の家に行ってみよう。隠密魔法をかけているとはいえ、油断はするな。」

クライドはそう言い、早足で町長の家に向かい、ビライトとキッカはそれを追いかける。


町長の家に気配は無かった。

クライドが感知しても、オートマタも、人の気配も感じることは無かった。

「…誰も居ないようだ。」

「あの人間…もうこの町には居ないのかな。」

「…この家の屋根に上る。この町を全て一望し、気配を探す。」

クライドは高くジャンプし、あっという間に町長の家の屋上へと向かう。

「お前も登ってこい。」

「あ、あぁ!」

ビライトはエンハンスをかけた。

その力とキッカの衝撃を抑える魔法の力を駆使して、屋上へと足を運んだ。


「…人がほとんどいない。」

「…気配も感じない。もうこの町にヒューシュタットは居ない可能性が高いようだ。」

「それじゃ、お触れを解いても大丈夫ってことか!」

「そのようだ。」

ビライトとキッカは微笑んで、顔を合わせた。

「よし、帰るまで隠密魔法はそのままだ。フリードたちの所へ戻る。」


クライドの後ろをビライトたちがついていく。

軽やかに飛び、素早く動くのはさすが獣人といったところか。

しかしクライドの足は獣人のものではない。


どちらかというと竜人に近い足の構造をしているが、クライドはおそらくこのような行動をよくとっているのだろう。

竜人の足は素早い動きをするにはあまり適してはいない。

だがクライドはそんなことはなく軽々と素早い動きを見せている。


慣れというものだ。どんなに不利な行動でも慣れてしまえばコツもつかめてどうとでもなってしまうのだろう。



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ヴァゴウは隠密魔法を駆使してサマスコールの町の周囲を見て回っていた。


サマスコール周辺は密林に囲まれており、隠れるのにはうってつけだ。

密林は深く、陽の光も当たりにくい。

隠密行動をするにはうってつけの環境ということだ。

サマスコールの町は入り口以外は石垣に囲まれており、入り口以外から入ることは出来ない。

だが、石垣自体はそこまで高いものではないので、忍び込もうと思えばどこからでも忍び込める。




(とくに怪しい感じは…しなさそうだなァ)



ヴァゴウは念のために弓を持ちながらいつでも何か起こったときに適応できるようにしている。

「…んぁ?」

周囲をほぼ回り終わった時だ。

地面になにやらキラリと光る何かを発見した。ヴァゴウはそれを拾う。


(こいつァ…機械の破片か?ガラスに包まれて…中には…なんだこれ…?)

中にはなにやら不思議なパーツのようなものが入っていた。

機械のことは分かってはいるが、拾った機械の仕組み、そしてそれに搭載されているパーツについてはヴァゴウでも分からない。

しかし、これは間違いなくオートマタのもの、もしくはヒューシュタット側の何かであるに違いない。

(一応持って帰ってみるか。)

ヴァゴウはひとまずそれをポケットに入れて、フリードたちの元へ戻ることにした。


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レジェリーとフリードはビライトたちを待つため、その場で待機している。


「ヒューシュタットはやっぱり…ドラゴニアを支配しようとしていた…」

「ええ、間違いないでしょう…私も随分と長いこと監禁されてしまい…町が心配です…」

レジェリーは町長に話を聞いていた


ヒューシュタットは突然町長を訪ねてきて、しつこく町の支配権を譲るように言ってきたようだ。

世界をヒューシュタットようにし、人間が頂点に君臨し、世界を支配する。

それがヒューシュタットの王、ガジュールの目標だという。

そんな話は認められるはずがない。あの時のことを思い出しただけで腹が立つ。

「でも町長さん、よく折れなかったなぁって思うわ。凄いと思う!」

「…これでも町を一つ守っている立場ですから。でも私にはただ耐えるしかなかった。」

町長は酷く落ち込んだ。

町を守るためにいるはずの自分にはただ耐えることしかできなかった。

複数体のオートマタに、ヒューシュタット王に使える人間。自分一人では到底歯が立たないだろう。それが分かっていたからただ耐えるしかなかったのだ。


「あなたたちが来てくれなかったらどうなっていたか…本当に感謝しています。」

「あたしたちは…あっ!そうだ!目的を忘れていたわ!」


朝、状況を説明した時には話さなかった本来の目的。

レジェリーは、ドラゴニア王から預かった親書をサマスコール町長に渡すよう頼まれていたことを話した。


「そうですか…王からそんなことを…フリード様、王はご壮健ですか?」

「少し身体が弱っているみたいだ。儂もしばらく会っていない。」


「そうですか…昔は自らこちらへ足を運び、ご歓談をされることもあったのですが…」


「そうだな、ベルガはそのことをいつも楽しそうに語っていた。」


町長とベルガ王は長い付き合いのようだ。

「親書は確か…ビライトが持ってたわね。」


レジェリーたちはビライトたちの帰りを待った。


ビライトたちが出てから1時間弱が経ち、先に戻ってきのは…


「レジェリー、フリードさん、町長さん!」

キッカの声だ。ビライトとクライドが先に戻ってきたようだ。

「おお、ビライトさん、クライドさん。いかがでしたか。」

「町は昨日と変わってないみたいです。人通りはほとんどなく…」

ビライトが説明をする。

「だがヒューシュタットの奴らの気配は無かった。町の中には居ないだろう。一時撤収した…と考えて良さそうだ。」

クライドの言葉にまずはホッとする町長。

「ありがとうございます、皆さん。町が安全ならば私は町に戻らねば…親書に関してはまた今晩にでもいかがですか?」

「分かりました。」

レジェリーがそれに答え、頷いた。

「親書…あっ、そうか!王様の!」

「やっぱり忘れてたのね…ま、あたしもだけど…色々ありすぎてそれどころじゃなかったし~…」


「話は決まったな。だがその前にヴァゴウの帰りを待とうではないか。」

フリードがそう言い、皆が頷く。


そして、ヴァゴウが帰ってきたのはその30分後だった。


「おーう!待たせたなァ」


「こんなもんが落ちてた。」


ヴァゴウは拾った機械のようなものを皆に見せる。

「それは…機械か?」

「多分な。」


クライドは「借りるぞ」と言い、手に取って見る。

「…見たことが無いものだ。だがオートマタの装甲と同じ素材で作られているようだが…」


「うーーん…機械のことは誰も詳しくないだろうからなァ。フリードのじいさんは何か知ってるか?」

ヴァゴウはフリードに聞く。フリードは古代から生きている。何かの知識があるかもしれない。

「機械は儂がかつて居た世界にもあった。だがここまでテクノロジーは発展していないからな。」

「「てく、のろじー?」」

聞いたことのない言葉にビライトとレジェリーはきょとんとした。

「あぁ、すまん、技術力と言った方が分かりやすいか。」

「あぁそれなら。」


「しかし…この機械の中にはデータが入っているかもしれん。」

「データ?」

「そう、この小さな機械の中に情報が入っているかもしれんのだよ。」

「へぇ~…こんな小さな機械に…でもフリードさん、それはどうやって見るんだ?」

ビライトはフリードに聞く。

「それにも機械が必要だ。」

フリードの答えに一行は一瞬硬直。

「「ダメじゃん。」」

ビライトとレジェリーは声が一致。

「そういうことだ。機械はヒューシュタットにしか存在しない。他の国には機械などというものは存在せん。」

「だよなぁ…」

ビライトも、レジェリーもヒューシュタットで初めて機械を見ている。

ヴァゴウは機械について知ってはいるが、仕組みなどは分からない。

「クライドは何か知らないのか?」

「フリードの方が詳しいだろう。俺も機械のことは分からない。俺はヒューシュタットにはあまり近づかない。あそこは皆が無気力で活気がない。危険度も高い。故に情報屋としての仕事が皆無だ。」

クライドはヒューシュタットにはあまり近づかないようだ。


「とりあえずそれは誰かが持っておくと良い。お前たちの目的の一つはヒューシュタットにあるのだからな。もしかしたらそれを調べる機会があるかもしれんからな。」

フリードの提案に一行は頷き、情報力に長けているクライドがそれを所持することになった。


「さて、じゃぁ町長さんを町まで送って行こうか。」

「すみません、戻ったら色々やることがあります故、夜にまたお越しいただければと思います。」

「儂はここで待つから皆で行ってくると良い。」

「フリード様、ありがとうございました。王によろしくお伝えください。」

「あぁ。たまにはこちらにも顔を出してやってくれ。」

「かしこまりました。」

町長とフリードは別れを済ませ、ビライトたちは念のためクライドの隠密魔法を使い、サマスコールへ向かった。


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町長を家まで送り、すぐに伝令が回ったのか、数時間後には人々が外に出始めて、少しずつ活気を取り戻していた。


「これが本来のサマスコールの町なんだね。」

キッカはあたりを見渡して嬉しそうに微笑む。

「うんうん、頑張った甲斐があったわね。」

レジェリーは満足そうに喜んだ。

「せっかくだ。町を見て回ろうぜッ!」

ヴァゴウが提案。

「俺はもう少し町を調べる。観光ならお前たちだけで行け。」

クライドはそう言い、屋根の上に飛び移り、そのまま姿を消した。

「ほんと愛想無いし、付き合い悪いわね!」

「はは…」


クライドと別行動でビライト、キッカ、レジェリー、ヴァゴウの4人はサマスコールの町を観光した。

「このサマスコールはこの世界で最も南端に位置している町でな。シンセライズの南部は湿度が高くかなり暑い地域だ。雨もよく降る。」

ヴァゴウはドラゴニア地域については博識だ。

サマスコールの町にも何度も出向いたことがあるらしい。


「へぇ~流石ヴァゴウさん!詳しい!」

「ガハハ、もっと褒めていいぞォ。」


「あーこれ美味しそう~」


ワイワイと観光をするビライトたち。そして夕刻になる頃にはすっかりサマスコールは元の明るさを取り戻し、ヴァゴウも知っている町に戻っていた。


「夕方になってもまだ活気あふれている。とても明るい町だな。みんな幸せそうだ。」

ビライトたちは町を一望出来る高台に来て町を見渡した。


「ドラゴニア地方の人たちは皆が優しくて、皆が支えあって、皆が幸せに暮らしている。その幸せに裏も無い。まさに理想の国だと、ワシは思っているよ。」

ヴァゴウはドラゴニアという国は心から誇りに思っている。自分が育った優しい国。そんな暖かさに包まれてヴァゴウは育ってきたのだろう。


「だからかな、ヒューシュタットが許せないと思うんだろうなァ。」

「…そうね。あたしもあの国は嫌い。どうして人間が一番で他はクズみたいな扱いが出来て…そして世界を自分たちの国と同じにしてしまおうなんて考えるのかしら。」

レジェリーもヴァゴウも、ヒューシュタットのやり方に納得出来ず、許せないという怒りさえも湧いてくる。


「…私たちに…何か出来ないかなぁ…」

キッカは考える。


「何の権利も地位も無いたかが数人で国1つ変えられるなどと思うな。」

「あ、あんたいつの間に!」

クライドが後ろから現れる。


「さっき戻って来たばかりだ。」

「変えられない…かな?」

「自惚れるな。」

クライドはキッカに吐き捨てた。


「この世界はそうやって出来ている。このドラゴニアも、ヒューシュタットも、ワービルトも。世界がそう作ったからそこにある。それを受け入れて過ごす人々が居る。何億人が手を組むならまだしも、たかが数人でどうにかなるようなものではないし、現状に馴染んで過ごしている人々の生活を奪う権利も無い。自分たちならば何か出来るというのは自惚れでしかないし、人によっては“余計なお世話”だ。」

「…それでも…私…」

「話は終わりだ。」

「うぅ~」

「キッカ…」

キッカの発言はさえぎられた。


「あんたもうちょっと優しく言えないの?ホント最低。」

「フン。」

もじもじとするキッカをなだめるビライトと、鋭い目つきで睨みつけるレジェリー。場の空気にやれやれと頭を掻くヴァゴウ。


「さて、一通り町を見てきたが…ヒューシュタットは完全に撤退したとみて間違いなかろう。さっさと町長との用を済ませてドラゴニアに戻るぞ。」

「新入りのくせに完全に主導権握っちゃって。」

「なんとでも言え。」

レジェリーの嫌味も軽くスルーしてビライトたちは町長の家に向かう。陽も沈み町は夜に。

だが、活気はまだまだ収まらない。この町は夜でもその活気を失わない明るい町だ。ドラゴニアとはまた異なる活気だ。

穏やかに時が流れるドラゴニアと、明るく活発に時が流れるサマスコール。

人々の明るさと幸せはどちらも同じだ。



「みなさん、よく来てくださいました。」

町長が出迎えてくれた。ここはサマスコールの町長の家。

部屋の片付けも終わっており、いつもの状態を取り戻したようだ。


「では、要件を済ませましょう。親書を。」

「あ、はい。」

ビライトは親書を町長に渡した。


「拝見します。……」


町長は一通り、ドラゴニア王の親書を見た。

「フム…事態は深刻のようだ。やはり我々の危惧しているヒューシュタットの存在が大きく関わっている。ドラゴニアとサマスコールは力を合わせなければなりますまい。」


ドラゴニアはヒューシュタットに狙われている。

ドラゴニアでのオートマタとの戦闘の一件。そしてこのサマスコールでの一件。

双方はより一層、力を合わせ、対策を立てて行かねばならぬと、町長は考える。そしてベルガ王の親書にも同じことが記載されている。


「…分かりました。では私からも王への手紙と親書への同意のサインを書きます。明日の朝、またここにお越しください。」


一行は頷き、町長の家を出る。

「みなさん、改めて…この町を救っていただきありがとうございました。」

町長は深く頭を下げて、ビライトたちにお礼を言った。


「…いえ、俺たちも親書の件がありますので。俺たちからもお礼を言わせてください。」

クライド以外が頭を下げる。


ビライトたちはそのまま各自自由行動ののち、宿でもう一泊して朝を迎えることになった。


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「こちら手紙と親書になります。」

翌朝、ビライトたちは親書と手紙を受け取った。

「ありがとうございます。」


「私もまたドラゴニアに足を運んで、王にご挨拶に伺います。フリード様にもよろしくお伝えください。」

「はい!」


町長と、サマスコールに別れを告げ、ビライトたちはフリードが待つ森の中へと足を運ぶ。

「ドラゴニアに負けないぐらい良い町だったわね。」

「うん!」

「またこれたらいいな。」

「そうだね!」

ビライト、レジェリー、キッカは仲良く話をしながら足を進める。


「…」

「煮え切らねぇ顔してんな。」

3人から少し離れた場所を歩くヴァゴウが傍で歩くクライドに言う。

「…いつもこういう顔だ。」

「ふーん、ま。良いけどよ。せっかく一緒に旅してんだ。楽しく行こうぜ。なッ?」

「余計なお世話だ。」

「ガハハ、素直になれって!」


バンバンと背中をたたくヴァゴウ。そしてイラッとした顔で睨むクライド。

「そんなずっと辛気臭い顔してたらつまんねぇぞ。楽しく生きて、楽しくいかねぇとなァ。」


「…フン、俺はお前みたいに形だけのお気楽を振舞える性格ではない。お前は色々なことに敏感だ。それを表情や態度で上手いこと隠してる。偽りを演じている。違うか?」

「違わねぇよ。ま、ずっと偽っているわけじゃねぇけどな。」

「素直だな。」

「おう。ワシはいつでも正直だぞ~」

「…まぁ…良い。お前が背負っているものなど興味も無い。」

クライドはさっさと先に行ってしまった。


「…気丈に振舞ってねぇとやってらんねぇ時のほうが多いんだよ、人生ってのはな。」


少し顔をしかめるヴァゴウはそうボソッとつぶやいてから、いつもの表情へと戻っていった…


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「王の頼みは終わったか?」

フリードの元へ戻ってきた一行。

「あぁ、なんとか。でもフリードさんには何日も森で過ごさせてしまって申し訳ないことをしてしまったなぁ…」

「気にするな。たまのこういったトラブルもまた刺激になったさ。」

フリードは申し訳なさそうにするビライトに気にするなと言い、笑って見せた。


「では、ドラゴニアに戻るか。本来の予定よりも大きく長引いてしまったからなぁ。今頃ドラゴニアでは慌てふためくクルトや城の人々の姿が目に浮かぶ。」

ハハハと笑いながらフリードは身体をかがめ、ビライトたちを背に乗せた。


「では、行くぞ。」

フリードは翼を動かし、ゆっくりと浮かび、森の上に出た。

「おお~!」

2度目とはいえ、やはり貫禄あるその巨体の上から見る森と、そしてサマスコール。


サマスコールの町の人々はそれに気づき手を振っている。皆がフリードのことを知っていて、それに対して驚き、手を振り、笑っている。


そこには町長の姿もあり、手を振っていた。

サマスコールの町の人々に、町長が声をかけたのだろう。

多くの人々…色んな種族の人々がフリードたちを見送ってくれていた。


「ウム、元気な町だ。」

フリードは手を軽く振り、空を舞う。そしてドラゴニアの方角に向けてゆっくりと羽ばたいた。



ここから1日、空の旅を経てビライトたちはドラゴニアに戻る。

王に親書と手紙を届けると、ついにドラゴニアの許可書を頂くことが出来る。

未踏の地…そしてイビルライズを目指すために必要な3つの許可書のうち、1つを手に入れることが出来るのだ。


「やっと手に入るね、お兄ちゃん。」

「あぁ、お前の身体を取り戻すために1歩前進だ!」

微笑みあうビライトとキッカ。

「ドラゴニアかぁ~もうずっと見てないかのような感覚になっちゃってる~」

「サマスコールに行くまでも、サマスコールに着いてからも色々あったからなァ。」

色々とトラブルにつぐトラブルで大きく時間をロスしてしまったが、こうして無事に目標を達成し、ドラゴニアに戻ることが出来る。

苦労した分、喜びも大きいようだ。


「お前たちと一緒にこうやって旅をするのも、もう終わりか。寂しくなるが…昔を思い出せて楽しかったぞ。」

フリードはビライトたちに感謝を伝える。

「そんな、フリードさんが居たから俺たち頑張れたんだ。」

「フリードさんが私やお兄ちゃんを励ましてくれたから。嬉しかった。」

「ありがと!フリードさん!」


「ハハ、ジジィの戯言でも役に立つもんだなぁ。」


「じいさん、ビライトたちの力になってくれてありがとなァ」

「よせやい。」

ビライトたちからも、ヴァゴウからも感謝を伝えられ、照れくさくなるフリード。

微笑ましいこの時間はフリードにとってはとても大切な時間になったのだろう。

もちろん、ビライトたちにとってもだ。


---------------------------------------------------------


風景を楽しみ、そして風を浴びて…


長いようで短い空の旅も、終わりを迎えようとしていた。



夜を越え、朝になり、太陽が昇ったその先に輝く都。


「ドラゴニアが見えてきた!」


ドラゴニアの美しい街並みが見えてきた。

起きていた町の人々はフリードを見つけて指さす。そして大きく手を振る。


サマスコールと同じく優しさと暖かさに包まれてビライトたちはついにドラゴニアに戻ってくることが出来たのだ。


---------------------------------------------------------



「ありがとう、ビライト殿、キッカ殿、ヴァゴウ殿、レジェリー殿、そして…」

「クライドだ。」


「クライド殿。そなたたちのおかげで無事サマスコールと協力し、今後の対策を練ることが出来ようぞ。」


ベルガ王のもとへやってきたビライトたちは、さっそく親書とサマスコール町長からの手紙を手渡した。


「皆さん、フリード様から話を伺っております。とても大変な旅になってしまい申し訳ありませんでした。」

クルトが謝罪する。

「いえ、良いんです。俺たちも色々知ることが出来たので。」

ビライトは続けて語る。


「ある人が言ったんです。旅で色んな経験をして、そしてそれを自分の身に宿して前に進めって。だから、全部俺の力になってる。そう信じたい。」

「なるほど…とても良い考え方ですね。」

クルトは笑い、頭を下げ、ベルガに話を戻した。

「では、約束の許可証だ。受け取ってくれ。」

ベルガはビライトに目的の許可証を与えた。


未踏の地に入るための3つの許可証の一つ。今の旅の目的のアイテムだ。ついに1つ目を入手したビライトたち。


「お兄ちゃん!」

「あぁ!やっと1つ手に入れたぞ!」

やったやったと喜び合う2人。

「やったなッ!」

手を合わせてヴァゴウも一緒に喜び合う。


「そなたたちは本当によくやってくれた。その礼として、私からも出来ることをさせて欲しい。」

ベルガはもう一つ書を手渡した。

「これは?」


「それはワービルト王への手紙だ。」

「ワービルトの!?」

手紙には確かにワービルト宛であった。


「獣人国家ワービルト。ドラゴニアから北西にある大草原の中に位置する城塞国だ。古くからの自然や古代遺跡をそのまま残している城下町と、巨大遺跡を改造して作った巨大要塞を持つ大型都市である。世界3大国家の1つであるな。」


「ヒューシュタットが機械、ドラゴニアが魔法、ワービルトは鉱業や鉄鋼業が盛んでなァ。元々ワシらの住んでいたコルバレーはワービルトの派生としてつくられた歴史があるんだぞォ。」

ヴァゴウが説明する。


「そうだったのか…!」

「あァ。ちなみにだ。鉄鋼業と機械は似ているが別物だ。ワービルトは鉱物や金属を使って家具や道具、武器などを作るのに長けていてな。機械も金属や鉱物を使用しているみてぇだが、自動操作とか電力で動くとかとかそういうモンは付いてないからな。ワシらの武器も鉄鋼業や鉱業に当たる。」

「なるほどな…似ているようで違うんだ。」

ヴァゴウの説明に頷くビライト。


「流石だ。詳しいなヴァゴウ殿。」

「ガハハ、伊達に武器職人やってないって!」

ベルガの言葉に素直に喜ぶヴァゴウ。


「ワービルトはドラゴニアの北西に位置する…竜の鍾乳洞を抜けた先だ。そこを抜けると大草原に出る。そこからでもワービルトが見えるはずだ。それに向かって歩いていけばよい。」

「竜の鍾乳洞か…」

「竜に鍾乳洞には強魔物も居ますが…ええ、あなたたちの実力であれば大丈夫でしょう。それにあそこは我がドラゴニアを流れる川の源流があります。身体にも良いと思いますので是非立ち寄ってみると良いでしょう。」


クルトはビライトたちの力を見ているからこそ、自信をもってそう言った。


「今日はわが国で泊まって、明日の朝ここを発たれるがよいであろう。」

「ありがとうございます!みんな、良いよな?」

皆は頷く。

「では、また明日の旅立ちの時に会おう。」


ビライトたちはクルトに部屋を案内され、そこからは各自自由に行動することになったが…

クライドはすぐに外に出てしまったが、他の一行は向かう場所は同じであった。


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「フリードさん!」

キッカの声に反応し、顔を見る。

「おお。無事に許可証は貰えたか?」

クライド以外の4人はフリードの元へ足を運んだ。

「はい!フリードさん!ここまで本当にありがとう!」

「フリードさんと旅した時間は本当に楽しかった。」

「ええ!空の旅最高だった~!」

「ハハハ、それは何よりだ。」


各々が感謝を伝えた。フリードとの数日間の冒険はビライトたちには忘れられないものとなっただろう。

それはきっとフリードも同じだ。1千万年以上を生き続け、何もない日々をきっとここで過ごしてきただろうフリードにとっても今回の冒険は実りのあるものだったと。

フリードの顔を見ればそれは一目瞭然だった。


「お前たちはこれからワービルトを目指すのだろう?」

「あぁ、2つ目の許可証を貰うために。」


「そうか、ワービルトはドラゴニアとも友好的な関係だ。ベルガの後押しがあるならば問題なかろう。だが最後の許可証…それだけが非常に大変かもしれんが…もし我々にも力になれることがあったら、なんなりと言ってくれ。力になろう。」

「…はい!ありがとう、フリードさん!」



最後の許可証。それはヒューシュタットだ。

完全に敵対関係になっているヒューシュタット。そこから許可証を貰うにはどうしたらいいのか。それは分からないが、今は出来ることをやる。それがビライトたちに出来ることだ。


また翌朝、最後の挨拶をすることを約束し、ビライトたちはフリードの居る場所を後にした。



静かに時間は流れていく。

皆がそれぞれ思いを抱きながらドラゴニアの1日は流れ…そして夜が明けた。


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城の入り口にはベルガ王、そしてクルト。城の兵士たち。そして旅立つことを聞かされてやってきたゲキ。

さらにはフリードもそこへ降り立った。


まずはクルト。

「皆さん、どうぞお気をつけて。」

「クルトさんもお元気で!」

ビライトとクルトは握手を交わす。

「クルトさん!あたし!絶対に魔法学園に入学するから!だからその時はよろしくお願いしますっ!!」

「はい、楽しみにしていますよ。レジェリーさん。」

レジェリーは改めて魔法学園の入学の時を信じて言葉を交わす。


そしてベルガ。

「何か困ったことがあったらいつでも来るがいい。必ず力になろう。そして我々はいつでもそなたたちを歓迎するぞ。」

「ありがとうございます!王様!」

キッカは笑顔で挨拶。


「元気でいろよ!死ぬんじゃねーぞ!」

「ハハ、まだまだ死なんぞ。…立派になったな。ヴァゴウ殿。」

「よせやい!もう昔のワシじゃないっての!」

「それもそうか。ハハハッ。」

ヴァゴウはベルガにいつものように明るく冗談を言い合う。


城の兵士たちも全員敬礼して…

「旅のご無事をお祈りしております!」

無事を祈り、盛大な見送りをした。


そしてゲキ。

「ヴァゴウ、またしばらく会えなくなると思うと寂しいぞ。」

「ガハハ、ワシもだ!だがまた会えるさ!」

「おう!そうだな!ビライトたちも、ヴァゴウのこと頼んだぜ。」

「はい!ゲキさんもお元気で!」

「おいおい~ワシがこいつらの面倒見る側なんだけどなァ!」

笑いを交えてのお別れ。ヴァゴウらしい別れだ。


最後にフリード。

「ビライト、キッカ、レジェリー、ヴァゴウ、クライド。」

5人の名前をそれぞれ大切に呼ぶ。

「これからもきっと大変なこともあるだろう。時には傷つき、倒れ、悲しむこともあるかもしれん。」

フリードは皆を見る。

「だが、お前たちならばきっと、旅の目的を果たすことが出来る。儂はそう信じている。」

フリードはどこか寂しそうな表情をしているが、それでも言葉を続ける。

「世界は広い、どんどん世界を知るがいい。思う存分楽しんで来い。そして…旅が終わったらまたここに来い。その時はたくさん、旅の話を聞かせてくれ。」

フリードは優しく微笑んだ。その目には一滴の涙がこぼれた。

「ハハ、歳を取ると涙もろくなっていかん。何故だろうな。短い期間だった。儂にとっては一瞬のような時間だったのだがな…」

1000万年という長い時間を生きたフリード。その目に浮かぶ涙は、その一瞬である時間を忘れられない時間にしたのだ。

フリードにとっては何よりも最高の時間だった。



ビライトとレジェリーがフリードに近づき、その大きな身体に触れた。

「ありがとう、フリードさん。」

「あたしたち、必ずまた会いに来るからね!」

キッカも触れられないが、フリードに抱き着くようにその身体を動かした。

「ありがとう、小さき子たちよ。」


それを優しく見守るヴァゴウと、むず痒いのかそっぽを向いているクライド。


「では最後にそなたたちにこれを。」

ベルガがそう言うと、クルトはビライトたちに小さい球体を渡す。

「これは…もしかして。」

「はい、魔蔵庫です。」


「えっ!良いんですか!?」


クルトが手渡したのは魔蔵庫。

ヴァゴウは所持しているので、それ以外の4人分の魔蔵庫が手渡された。

「ええ、構いませんとも。キッカさんは元に戻ることが出来たら是非使ってください。」

「あ、ありがとうございます!」

キッカは深く頭を下げてお礼を言う。


ビライト、キッカ、レジェリー、クライドの4人にも魔蔵庫が与えられるが、クライドはそれをクルトに戻した。


「俺は持っている。故に不要だ。」

クライドは自分の魔蔵庫を見せる。

「そうでしたか。では…」

クルトはクライドから魔蔵庫を返してもらった。

「でもクルトさん、王様、どうして…」

「餞別だ。受け取ってほしい。そなたたちには世話になったからな。このぐらいのお礼はさせてくれ。」

ベルガの好意。断るわけにはいかず、ビライトたちは素直に受け取ることにした。

レジェリーは特に嬉しそうにしている。

「まさか魔蔵庫を持てる日が来るなんて!いつでも武器を出し入れ出来るし物の運搬もとても楽になるわ!ありがとう!」

「王様、クルトさん、ありがとうございます!大事にします!」

皆の言葉にうんうんと頷くベルガと、微笑むクルト。


ビライトたち全員が魔蔵庫を使えるようになった。これで今後の旅が楽になるだろう。



「では、そろそろ別れの時だ。若き旅の者たちよ。そなたたちの旅に幸あらんことを。」

ベルガの最後の一言により、ビライトたちは多くの人たちに見送られ、旅立った。

「さようならー!」

「またなぁ!!」

「元気でやるんだぞ!」

見失うまでずっと手を振り続けた。

笑顔で、また会う時まで…


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「良い国だったな。」

「うん、本当に優しく、温かく…」

「みんなが手を取り合って生きていて、外からの人たちも迎えてくれる。」


ビライト、キッカ、レジェリーの3人はドラゴニアの素晴らしさを感じながら町を出る。


ヴァゴウは一度振り返り…

「ドラゴニア…またな。」

そう言い、背を向ける。


「…さて、お別れは済んだか?ワービルトに向けて出発だ。」

クライドは特に思い入れが無いのでサッパリしているが、感傷に浸るビライトたちを黙って見ていた。

クライドはクライドなりにビライトたちを気遣ったのかもしれない。


「そうだな!出発しよう!」

「おー!」

「ワービルト!行ったことないから楽しみね!」

「ドラゴニアほど優しくはないが、ワービルトも良い国だぞォ。」

「ホント!?よーし!期待しちゃうんだからね!」

ヴァゴウはやはり行ったことがある模様。

期待してていいぞと言われ、ワクワクするレジェリー。


「やれやれ…遠足じゃないんだがな。」




ドラゴニアを発ち、ビライトたちは2つ目の許可証を手にするため、ワービルトへと向かう。

まずはドラゴニアとワービルト結ぶ北西の洞窟…竜の鍾乳洞を目指し、ビライトたちは足を進めるのであった。


優しい風はビライトたちの背を押し、そしてドラゴニアもまた、背を押してくれているような。そんな気がしたのだった。



第三章 サマスコール編~情報屋と狙われた一行たち~

第四章に続く・・・

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「無事許可証を手に入れたみたいだな。」

ドラゴニアの上空に浮かぶ獣人が1人。

アトメントだ。


「だが、まだまだこれからが大変だぞ。全て乗り越えたどり着いたとき、お前たちは今よりもずっと成長しているだろう。」


「強くなれ。そして…乗り越えてこい。ハハ、待ってるぜ。」



アトメントはそう言い、姿をフッと消した。


ビライトたちの旅はまだ折り返し地点にも来ていないのだ。

旅はまだこれからだ。そして立ちはだかる壁もまだまだあるだろう。

アトメントは期待している。それを全て壊し、乗り越えてくるビライトたちの姿を…






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