Delighting World Brave 二章 六幕 ~ドラゴニア防衛戦 災厄の竜王~
「…やはり、お前は止めるのだな―――」
「…ッ…」
「―――レジェリー。」
最悪の勇者ウルストとの決着は間もなくつく。
勝ったのはデーガとカタストロフが再び同化した、魔王デーガ・カタストロフ。
そして戦いを終え、再び分離した2人は話し合い、カタストロフがこれまでの因縁に終止符を討つために今まさにトドメを刺そうとしているところだ。
だが、そんな結末を望まない少女が…カタストロフの腕をつかんだのだった。
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Delighting World Brave 二章 六幕(~ドラゴニア防衛戦 災厄の竜王~)
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「…レジェリー。お前はやはり我を止めるか。」
カタストロフはレジェリーに聞く。
「…分かんないよ、どうしたいか…でも、身体が勝手に動いちゃったの。」
レジェリーの目には涙が溜まり、身体も震えている。
「レジェリー、ウルストとカタストロフはだな…」
「分かってる。それも分かってるんだよ師匠…でも―――あたしは、やっぱりカタストロフにこれ以上背負って欲しくないんだよ…」
カタストロフはこれまでも多くのものを背負ってきた。
絶対悪だった遥か昔から、善の心が産まれた時からずっと。
1000万年の長い時間の果てにカタストロフが背負っている責任や覚悟は一生かかっても償いきれないものばかりだ。
そんなカタストロフにまた新しい責任や覚悟を背負わせてしまう。そう思うとレジェリーは耐えられなかった。
「じゃぁお前はこの長い因縁を断ち切らずにカタストロフを前に進ませるつもりか?それこそ酷だと思わねぇのか。」
デーガはそう言うが、レジェリーはそれも分かっていた。
ウルストを倒すことは悲願だ。そして、自分が発端で生まれた勇者の因縁にも決着がつく。
「ウルストを殺すことは、カタストロフの背負うものが1つ失うのと同義だ。」
デーガは言うが…
「違うよ師匠…だってカタストロフがウルストを殺すってことは…命を奪うってことだよ。それも新しい責任と覚悟だと思うの。だから何も変わらないんだよ!」
「…じゃぁ何か?お前が殺すか?ウルストを。お前が背負うのか?」
「…ッ…あたしが背負ってカタストロフが背負わなくていいなら…あたしが背負っても良い。」
デーガはレジェリーに問う。レジェリーはその問いに答えるが…その答えは誰も望んではいない答えだ。
「自分で振っておいてなんだが……馬鹿野郎。己の人生を棒に振るんじゃねぇ。こんなクズ野郎の為に手を汚すな。」
デーガはレジェリーを叱る。
「ッ…ごめんなさい…師匠…」
ウルストは反抗的な目でレジェリーを見て笑う。
「ッハハッ…責任とか覚悟とかくだらないなァ…!」
ウルストは動けない身体で煽る。
「…レジェリー。」
カタストロフはレジェリーの目線に合わせ、そして肩に手を置く。
「…ありがとう、我の気持ちを大切にしてくれて。」
微笑むカタストロフ。
「だが、誰かが背負わねばならぬことなのだ。で、あるならば…我が背負うべきことなのだ。」
「でも……ッ…」
「レジェリー、これから我は更に大きなものを背負うこととなるだろう。だが…」
カタストロフはレジェリーを優しく抱く。
「お前が傍に居て、我が思い出となってくれれば、我はどんなものを背負おうとも怖くはない。恐れもしない。そして、向き合うことができる。」
「…カタストロフ…ッ…」
「…お前の優しさ、受け取った。我は嬉しい…これからも、我を支えてくれるか?」
カタストロフの言葉にレジェリーの目に大粒の涙が零れだす。
「うん…ッ…あなたの心が少しでも救われるなら…あたしがずっと傍に…!!」
「…ありがとう。」
カタストロフはレジェリーの涙を指で優しく拭い、そして立ち上がり動けないウルストの身体に手を当てる。
「…チッ、ここまでか…ゲームオーバーだな。」
ウルストは諦めをつけたのか、どうでもいいように空を見つめる。
「…ウルスト。ここに我々の戦いに終止符を討とう。」
カタストロフは手にブレイブハーツを込めた。
「なぁカタストロフよぉ…死ぬってのは怖いモンだなぁ。」
「…お前は遅すぎた。後悔はあの世でするがいい。我も役目を終えたその時、貴様の懺悔ぐらいは聞いてやる。」
ウルストの腹をブレイブハーツを込めた爪で貫いた―――
「…あー…いってぇ……ま、反省なんてしねぇけど。いいわ。楽しかったし…せいぜいこれからも足搔きな――。」
そう言い、ウルストはブレイブハーツによって身体が灰となり、消えていったのだった―――
「ケッ、最後まで癇に障る野郎だ。」
デーガがそう吐き捨て…
「「「「ワアアーーーーッ!!!」」」」
その戦いを見ていたドラゴニアの民たちから大歓声が上がった。
「た、助かったんだ!!」
「この国は守られた!!」
「ありがとう!!ありがとう!!」
多くの民が、兵士たちが喜びに包まれたのだ。
「…」
「カタストロフ…終わったんだね。」
「…あぁ。だが…まだ終わってはいない。世界の危機は依然として残っている。」
「そうだね…その通りだわ。」
ドラゴニアの危機は去った。だが、まだイビルライズの侵攻は止まらない。まだまだこれは通過点に過ぎないのだ。
「…ひとまずは、終わったな。」
「あぁ、そうだな。ビライト、サンキューな。」
「俺は何も…頑張ったのはカタストロフたちだよ。」
「そうだな。」
ビライトはホッと肩をなで下ろし、そしてボルドーはカタストロフたちの元へ行く。
「カタストロフ、そしてデーガ、レジェリー。ドラゴニアを代表して礼を言う。本当にありがとな。」
礼を言い、深く頭を下げるボルドー。
「私からも。本当にありがとう。」
「そなたたちはこの国を守ってくれた英雄だ。」
城から出てきたブランクを抱いているメルシィとベルガもカタストロフたちにお礼を言う。
「…嬉しいものだな。」
「うんっ。」
「ケッ、まぁ素直に受け取っておいてやらぁ。」
勇者ウルストを取り巻く戦いは勝利に終わった。
カタストロフはウルストを殺し、長い歴史の因縁に終止符を討ってのだ。それと同時にカタストロフはまた新たな覚悟と責任を背負ったのだが、カタストロフには仲間がいる。レジェリーが居る。デーガが居る。きっと皆の支えを受けて前向きに進むことが出来るだろう。
「うし、疲れてるところすまんが街の被害調査だ。新しい復興のための準備を始めるぜ。勿論、再びの脅威にも備えなきゃいけねぇからな。」
「「「ハッ!」」」
兵士たちは早くも復興準備、そして今後の準備を整えるために動き出す。
「無事に終わったようだな。」
「ガディアル!」
病院からガディアルとクライドが現れた。
「クライド!」
「あんたも片付いたみたいで良かったわ。」
「あぁ、お前たちも無事で何よりだ。」
ビライトとレジェリーはクライドとの再会を喜んだ。
「ガディアル殿…であったな、そなたのお陰で大きな被害を出さずに済んだ。感謝する。」
ベルガがガディアルに礼を言い、そしてボルドーとメルシィも同じようにガディアルを感謝を伝える。
「構わん。それが我々抑止力の務めだ。外に居た死者たちも全て殲滅してあるが故、当面は大丈夫―――と、言いたいのだが…」
「まだ何かあるというのか…?新たな敵か?」
「…」
ガディアルは遠い空を見つめる。方角的には東の方角だ。
「…嫌な気配がする。これは…ウルストを更に超える災厄の気配だ。」
「な、なんだとォ…?」
「…」
ざわつく一行。その中でも特にそれを強く感じている者が居た。
「…来る…“災厄の竜王”が…」
「カナタ?」
カナタは弱弱しい小さな声で、そう呟くのだった―――
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ウルストとの戦いでの傷を癒しながらビライトたちはボルドーたちに城の会議室へと通された。
そこでガディアルは説明する。
「“災厄の竜王”とはかつて邪神であったアトメントが管轄していた世界に現れたドラゴン…死竜の王だ。」
「死竜…!」
ボルドーはカナタを見る。
「…うん…私が死竜エグリマティアスだった時に倒した死竜の王…これについても説明しなきゃね…」
カナタはビライトたちにも分かるように自分のことを説明する。
カナタは忘却の惑星に辿り着くより遥か昔は死竜エグリマティアスという存在だった。
人間と死竜の遺伝子を組み合わせて作られた生命体であった彼女は世界を滅ぼす為に活動していた死竜を裏切り人間側についた。
そして長い戦いの末、竜王を倒すことが出来た。だがそれは同士討ちであり、死んだカナタは竜の姿は失い、人間の姿で忘却の惑星へと記憶を失い迷い込んだ歴史がある。
そこからはガデンやボルドーとの出会いを経て、長い時間の果てにここに居る。
ボルドーもカナタと共に、自身の死から忘却の惑星での出来事、そしてカナタがここに居る理由などを簡単にではあるがビライトたちに説明するのだった。
「カタストロフにボルドーさんがこことは違う場所に居るって話をしていたけど、まさかそんなことになっていたなんて…」
「じゃぁカナタちゃんは今はボルドー様やメルシィ様の…家族、って感じなんだ。」
「おう、そうだな。んでだ。カナタはただの人間になったんだけどよ。どうやら忘却の惑星の管理者であった時に持っていた僅かな神力も引き継いでてよ。それから…どうやら悪いモンに敏感らしい。」
カナタは頷いた。
「…災厄の竜王は最悪の勇者よりも強い力を持っている。そして奴はとにかく巨大だ。この国の全てを覆うほどのな。」
ガディアルの言葉に一行は息を呑む。
「そ、そんなの…なんとかなるの…!?」
「…デーガとカタストロフ、そして大勢のブレイブハーツが合わさりやっと倒すことが出来た。それよりも強大となると…これ以上の力で対抗せねばならんということか…難儀だな…」
クライドは策を練ろうとするが、方法はやはり今よりも大きな力で迎え撃つことしか出来なさそうだ。
「次から次へと…だが、やるしかねぇ。出来る限りの力でやるしかねぇんだな。」
ボルドーはそう言うが、今の力を更に超え、そして災厄の竜王を倒せるだけの力が集まるのか。
一行に不安が過る。
重苦しい雰囲気。これよりも更に強大な力に対抗する術を―――と、そんな時だ。
ヒューーーー
と、音が響く。
「あ…?」
そしてドンと大きな音が城の外から聞こえた。
「な、何だ!?」
その音に驚き一行は城の外へと飛び出した。
「あ…たた…乱暴すぎるよ…」
「でも着いちゃったよぉ。ドラゴニア!」
そこに居たのは見事なまでに壊れた機械と、そこに乗っていたキッカとナチュラルだった。
「ナチュラル!」
「キ、キッカ!?どうして!」
ビライトはすぐにキッカに駈け寄った。
「えと、えへへ…来ちゃった。えと、伝えたいことがあって。」
キッカは照れながらも、ビライトたちに伝えることがあって来たようだ。
「おおっ!!お前がキッカなんだな…!」
ボルドーがキッカの姿を見て笑みを浮かべ、傍に寄る。
「ボルドー…さん!!わぁ…私が見えるんですね!私の声が聞こえるんですね!!」
「おう!見えるぜ!!聞こえるぜ!!ハハッ!嬉しいぞッ!」
ボルドーはキッカが精神体だった頃、一行の中で唯一キッカが見えなかった。
一緒に居た時間は長いが姿を確認できたのは初めてだった。
再会ではあるが、初めましてでもあるのだ。
ボルドーは嬉しくなって、キッカの頭をワシワシと撫でる。
「わっ!力強いね…!でも、とっても嬉しい!」
「良かったな、キッカ。」
「うん!ボルドーさんに会えて嬉しい!」
ギュッとボルドーの大きな身体を抱き喜び合う2人。
「キッカ。エテルネルやヴァジャスの返答か?」
ガディアルはキッカに尋ねる。
「あっ、はい。イビルライズの場所へ行くための方法を!」
「えっ、イビルライズの場所が分かったのか!?」
ビライトたちは状況を理解できない部分がある。
「…一旦全員の情報を統合した方が良さそうだ。」
カタストロフがそう言い、一行は確かに…と思い、まずは全員の情報を統合し、共有し合うことから始めることにした。
まだこの場にヴァゴウだけ合流できてはいないのだが、災厄の竜王が蘇る前に早急に行動に移す必要がある。
一行は今居るメンバーでだけでひとまずは情報をまとめることにした。
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全員の持つ情報を共有し、キッカとナチュラルはエテルネルとヴァジャスの回答を伝える。
「世界の先、世界の狭間の向こう側に別の世界があって、そこにイビルライズが居る…ってか。なんともぶっ飛んだ話だが…カナタが居た忘却の惑星も同じようなモンか。」
「シンセライズと忘却の惑星以外に世界があるなんて…」
「災厄の竜王を倒すだけじゃない。私たちはその先を目指す。それがエテルネルさんとヴァジャスさんの答えだったんだけど…そのためには…“世界に傷をつけてでもやらなきゃいけないこと”があるんだよ。」
「…なるほどな。」
納得がいったのはガディアルだけだった。
「何がだ?」
クライドは尋ねる。
「死者はイビルライズが居る世界から送られるはずだ。災厄の竜王が現れた場所は世界と世界の間を結ぶ狭間が生まれるはず。我々はそこを狙う…ということか。」
「うん、そして災厄の竜王を倒す際の力、戦いの衝撃を利用して狭間に大きな風穴を開ける。そこから世界の狭間へ行くことが出来る。」
「そこへ侵入さえできればあとはイビルライズの居る世界を目指し進むだけだ。」
「ちょ、ちょっと待って!肝心の災厄の竜王を倒す方法は?」
レジェリーが質問する。
「はーん…なるほどなぁ。思い切った決断をしたなぁエテルネルめ。」
「ウム…これは賭けだな…」
デーガとカタストロフも理解したようだ。
「えっと、カタストロフ、デーガ、何か分かったのか?」
「ビライト、この中で最も強い力を持つ奴は誰だ?」
「え?えっと…」
ビライトはデーガに言われ、周りを見る。
そして目についたのは…
「…ガディアル?」
「正解。」
ガディアルと目が合う。
「神力解放で災厄の竜王を倒すついでに世界に風穴を空ける…ということだな。」
ガディアルは小さくため息をつく。
「フン、あれだけ神力解放を使うなと言われ力まで制限しておいて今度は使う気満々とはな。」
(あれ、ガディアル…少し嬉しそう…?気のせいか…?)
そう言うガディアルだが、心なしかビライトから見ると少しだけ乗り気のように見えた。
「でもそれだけじゃ不十分。ガディアルの神力解放に更に力を上乗せしようってエテルネルは考えているよぉ。」
ナチュラルはそう言い、見たのはキッカとカナタの2人だった。
「君たちの力が必要だねぇ、キッカ。カナタ。」
「わ、私?」
キッカはエテルネルとヴァジャスから聞いているが、カナタは突然の名ざしに驚いた。
「カナタ自身の保有するの神力は本当に僅かなものだ。だが、カナタの神力は八神のものと違い、増幅させることが出来ることは忘却の惑星、そしてボルドー・バーンとの連携によってで証明されている。八神には出来ないことがコイツには出来る。」
デーガが説明をする。
カナタとボルドーは顔を合わせるが、それが世界に風穴をあけるほどの大きな力になるのかと半信半疑だった。
「私はエテルネルさんとヴァジャスさんの力を預かってきたの。今の私の中には2人の神様の力があるの。」
キッカが選ばれた理由も説明する。
「エテルネルとヴァジャスの!?大丈夫なのかキッカ!抑止力の頂点に立つ2人の力を保有しているなんて…!」
「そ、そうよ!そんなの危険じゃないの!?身体が耐えられないとか…あるんじゃないの!?」
ビライトとレジェリーはキッカの身体を心配した。
エテルネルは力を全てイビルライズに奪われてはいるが神であることに変わりはない。シンセライズの力を抜きにしても秘めている力は神のもの。
ヴァジャスもシンセライズの主神の代理をしているだけあって、秘めている力はかつての邪神でもあり、現在は序列2位にふさわしい巨大な力を持っているはずだ。そんなものが今キッカの中に入っているという話になると、心配もするだろう。
「平気だよ。私、結構潜在能力が高いんだって!」
キッカは笑顔で応える。
エテルネルとヴァジャスもキッカの潜在能力を理解した上で託しているのだ。
「そっか…でも心配だわ。」
「エテルネルとヴァジャスを信じるしかないか…」
「…話を戻すぞ。キッカとカナタ。それぞれが保有するエテルネルとヴァジャスの力、そして神力、更にはブレイブハーツ。俺たちが持てる全ての力を集めるということだな。」
「そうだよぉ。そしてそれをぜーーんぶガディアルに預けちゃう。」
ガディアルをビシッと指さすナチュラル。
「カナタの神力を引き出すためにボルドー、お前にも媒体になってもらうことにはなる。だがお前は先ほどの戦いと同様のことをするだけで良い。」
「…そいつは構わねぇが…しっかし総動員だなァ。けどよ、キッカとカナタは大丈夫なのか?2人の身に大きな負担があるっていうなら簡単には頷ける話じゃねぇぞ。」
「…そうですわ…だってキッカさんはやっと元の身体に戻れたのに…カナタは私たちの家族なのですから…」
ボルドーとメルシィは2人の身体を気遣って、それをナチュラルたち抑止力に問う。
「勿論、何もないわけじゃないよぉ。」
「…命の危機は?」
「…無いとは言えん。」
ガディアルは正直に話す。
「…なっ…!」
ビライトは反対の言葉を言おうとしたが…
「お兄ちゃん、大丈夫。私頑張るよ。」
「でも…!」
「私!ずっとイビルライズに捕まってて…力も取られちゃって、ずっと皆の力になるどころか足手まといになっていたから!!だからね!だから今度は力になりたいの!!」
「…キッカ…」
キッカの真剣な眼差しと必死に喋る姿にビライトは何も言えなくなった。
「カナタ。」
ボルドーとメルシィはカナタの顔を見る。
「…私、やる。」
「カナタ…!」
カナタは東の赤い空を見る。
「私は死竜だった。そして今、死竜の王が私たちの居場所を奪おうとしている。私は死竜としての役目を果たさなきゃ。」
カナタはそう言うが…
「あなたはもう死竜でも、神様でもないのよ。ただの人間ですのよ。」
メルシィはカナタが無理をしているように見えて仕方がなかった。だからこそメルシィはカナタを止めようとするが…
「…カナタ。」
ボルドーはカナタの目線に合わせてしゃがむ。
「それはお前の本心か?」
「…うん。嘘じゃない。」
カナタは真っすぐボルドーを見つめた。
忘却の惑星の時もボルドーはこうやってカナタの本音を探っていた。
だからこそ分かる。迷っていた、諦めていたカナタの目ではない。これは本心だ。
「勿論怖いよ。やっと踏み出した私の人生が台無しになるかもしれないんだから。でも…」
カナタはボルドーの手を握る。
「あなたも一緒だし、あなただけじゃない。メルシィやブランクやベルガも、ビライトたちも居る。私たちだけじゃないもん。」
「カナタ…」
「みんなが背負っているもの、私も背負うよ。そして私は私の役目を果たして、これからの人生に夢を見たい。頑張りたい。それが生きるってことだと思うから。」
「…分かった。お前がそこまで言うなら俺様も応えるぜ。だけどよ、絶対に無理はするな。危ないと感じたら止めるんだぞ。約束できるな?」
「うん。ありがとう、ボルドー。」
カナタはボルドーと約束し、メルシィとベルガを見る。
「ごめんなさい、心配かけちゃうカモ…」
「…いいえ、あなたの覚悟、私たちも理解しなきゃ。でも、必ず生きて。あなたはもう私たちの家族なのですからね。」
「ウム、その通りだ。カナタよ、必ず生きるのだぞ。」
「うん…!」
―――キッカとカナタはそれぞれ決意を固める。
災厄の竜王を迎え撃つため、大きな作戦が始まる。
「話は決まったねぇ。これは世界のみんなが力を合わせないと成功しない大掛かりな作戦になるからねぇ。頑張ろうねぇ~」
ナチュラルの声かけに皆が頷いた。
ドラゴニア全体が作戦のために動き出し、ビライトたちは一旦エントランスへ集合した。
「よし、ではキッカとカナタ、ボルドーは城の屋上へ。他の者たちはその周囲で待機だ。」
ガディアルはそう言い、キッカ達を連れていこうとするが…
「待って!私も一緒に行かせてください!」
「あう…」
メルシィは城に預けていたブランクを抱き、ガディアルにお願いする。
ブランクもなんとなく分かるのか寂しそうな顔を見せる。
「神力に耐えられぬ者は近くには寄らぬ方が良いだろう。お前は家族と共に作戦の成功を願い、遠くから力を貸してやれ。」
ガディアルはそう言い、メルシィのお願いを断った。
「…そう、ですか…」
「メルシィ!大丈夫だッ。俺様もカナタも絶対命が危なくなるほど無理はしねぇ。約束だからな。」
「うん、信じて欲しい。」
ボルドーとカナタは不安にさせまいと微笑む。
「ブランクもだ。信じて待っててくれよなッ!」
ボルドーは笑顔でブランクの頭を優しく撫でる。
「あう~あは~!」
ブランクは安心したのか笑顔になり、ボルドーにぎゅっと抱き着こうとしたため、メルシィからブランクを受け取り優しく抱いた。
「ホレ、カナタも。」
ブランクをカナタに渡すボルドーにカナタは少しぎこちないながらも、ゆっくりとブランクを抱いた。
「あうあ~」
「…ふふっ、こんなときだからこそ…だね。」
カナタも優しくブランクを撫でて、微笑んだ。
「頑張るからね。」
カナタはそう言い、メルシィにブランクを返し、メルシィは2人を改めて見て…不安そうな顔をやめる。
「行ってらっしゃい。待っていますから。」
メルシィはそう言い、ボルドーとカナタを送り出した。
――
そしてビライトたちもキッカを送り出すところだった。
「キッカ、絶対無理だけはするなよ。危ないと思ったらすぐやめるんだぞ。」
「もう~お兄ちゃんったら!大丈夫だから!!ね?」
キッカは心配なビライトに顔を近づける。
「でも、でも俺お前にもし何かあったらって思うと…」
「キッカちゃん…」
「…」
ビライトだけではない。レジェリーも心配そうに見つめている。
クライドは口を出さずに静かに3人の様子を見守っている。
「大丈夫だよ。だって私たちには抑止力たちがついてるんだもん!えへへ!」
キッカは抑止力たちを信用している。だからこそ、今回も上手くいくと思っている。
「お兄ちゃん、レジェリー、クライドさん!私頑張るから!だから見守ってて!」
キッカは迷いのない真っすぐな笑顔を見せる。
「無理なんてしてないからね!だってこんな私だって世界の為に頑張れるんだから!これからの未来の為に頑張れるなら私はとっても嬉しいから!」
「…そうだよな、お前はそれだけこの世界のこと、大好きだもんな。」
ビライトはキッカの頭を撫でた。
「…絶対帰って来いよ。」
「うん!」
「キッカちゃん!!」
レジェリーもキッカに抱き着いた。
「レジェリー…」
「ごめんね、あたしたちすぐ傍で一緒に支えてあげられないけど、でもね、ここからキッカちゃんのこといっぱい応援するし、いっぱいブレイブハーツを送り込むからね!だから…負けないでね!!」
「ありがとう、レジェリー!」
そしてクライドも傍に寄り口を開く。
「お前は強い。それを俺は知っている。旅の中でどんな時でも境遇に耐えながらも必死で前向きで…諦めなかったお前ならば、きっとやれる。」
「クライドさん…!」
「行ってこい。そして俺たちの希望となれ。そして、必ずここへ帰ってこい。」
「はいっ!」
クライドはキッカに前を向かせ、そして送り出す。
キッカはレジェリーから離れ、そしてガディアルたちと一緒に歩き出す。
「行ってきます!」
「ビライトッ、俺様たちも一緒に居るからよ!安心しろッ!」
キッカたちはそう言い、屋上へと進んでいった。
―――「…キッカ、絶対だからな。」
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「…勇者ウルストめ。くたばったか。だが―――あれよりも大きな力を持つ存在が間もなく蘇る。その時この世界は大きな被害を受けるさ。」
ウルストの死を知ったイビルライズは災厄の竜王を間もなく蘇らせようというところまで来ていた。
「本当ならウルストと一緒に暴れてもらいたかったが…ホントあれだけイキってたくせに誰も殺せないなんてホント使えないな。」
イビルライズは悪態を吐きながら、召喚を続行する。
「所詮そんなものですよ。あなたもそんなに期待していなかったのではありませんか~?」
イビルライズが居る世界の狭間の向こう側のもう一つの小さな空間。そこで暮らしていた“旅行者”は言う。
「フン、期待などしていないさ。」
イビルライズはそう呟く。
「あなたが直々に出てさっさと終わらせてしまえばいいのに。」
旅行者はそう言うが…
「それだとつまらないだろう?」
「その遊び心とか余裕とかがあなたの破滅に繋がるかもしれませんよ~?」
「フン、偉そうに。ボクが負けるわけがないのさ。」
「ま、精々頑張ってくださいよ。」
旅行者は自分から振っておいて興味がなくなったのか、適当な返事で会話を済ませてしまった。
(こういうタイプっていつも油断して負けるものなんですけどねぇ。ずっと昔マンガで読んだ展開です。)
旅行者は目を細め、遠くのシンセライズを見つめる。
(元気にしていますかねぇ…“彼”)
その誰かは分からないが、旅行者にもシンセライズに知り合いがいるのだろう。
で、あるならば、何故彼はシンセライズを滅ぼそうと思っているイビルライズ側に居るのか。それは本人の気まぐれなのか。別の理由なのか。それは分からない――――
「さぁ、目覚めの時だ!行けッ、災厄の竜王!かつて世界を滅びに導いた死竜の王よッ!」
―――
イビルライズの声に反応するように、シンセライズでは大きなゆがみが発生しようとしていた。
ドラゴニアからもそれは確認できた。
シンセライズの東方、コルバレーより南、ドラゴニアよりも遥か東。赤い空から黒いヒビのようなものが浮かび、それが徐々に割れていく。
「…来る…!」
ドラゴニアの屋上からそれを見るキッカ、カナタ、ボルドー、ガディアルの4人。
カナタの声と同時にそれは大きく世界中に音を響かせた。
バリーンと割れるような音と同時にそこからは超巨大なドラゴンが割れ目を突き破るように出てきたのだ。
その大きさはまるで―――一つの巨大山脈――それすらも凌駕する巨大さだ。
100kmは超えそうなほどに巨大なドラゴンだ。とても自分たちが図れるものではないほどに、それは特異な存在だった。
「オオオオーーーーーーーーーーーーーーーーッ!!!!」
大きな咆哮。空間からドラゴニアまでの距離はずっと遠い。普通に向かおうとしたら何週間もかかるような遠い場所だ。だというのにその咆哮はドラゴニアにも響き渡り、国全体を揺さぶった。
この姿はあまりにも巨大が故に、ここから最も遠いワービルトやレミヘゾルからも見ることが出来るほどだった。
「あ、あれが…」
「災厄の竜王…!でかすぎる…!!」
ドラゴニア城周辺で空を見上げるビライトたち。
「…なんてすごい圧力…ッ…」
レジェリーは身体をぶるっと震わせる。
「大丈夫か、レジェリー。」
「うん、大丈夫…でも、ちょっと怖いかも…」
カタストロフはレジェリーに触れる。
「案ずるな。我々には…世界最強の守護神がついている。」
カタストロフは屋上で災厄の竜王を腕を組みただ一点を見つめるガディアルを見た。
「大丈夫だ。アイツは負けねぇ。あんなの一撃だ。」
デーガもそう言うものだから、ガディアルが災厄の竜王を倒すことはもはや決まったことのように言う。
あれほど…100kmは超えよう巨大なドラゴンを仕留められるのか、不安でしかないが、抑止力たちは不安などは抱えていないようだった。
それだけガディアルの世界最強の守護神という肩書は絶対に覆ることは無いのだろう。
――――
「おいおい…でかすぎるだろ…あんなの大山脈なんてレベルじゃねぇぞ…?規格外すぎるぜ…」
屋上から災厄の竜王を見るボルドーも冷や汗をかく。
「カナタ、お前あんなのと戦って勝ったってマジかよ…?」
「私だけの力じゃないよ。私たちが戦った時は色々な作戦を駆使して弱らせて倒したの…でも、あの災厄の竜王は間違いなくフルパワーなはず…」
これから戦おうとしている存在に不安が過る。
「始めてくれ、キッカ。カナタ。」
「うん。」
ガディアルがそう言い、2人はゴクリと息を呑み、緊張が走る…
「はい。カナタさん、頑張ろうね。」
「うん…頑張る…」
カナタは少し不安そうだ。
「…えいっ!」
キッカはカナタの手をぎゅっと握る。
「…キッカ…さん?」
「えへへ、私も不安。」
キッカの手は少しだけ震えていた。
「…あ…」
「だから、手繋いでていいかな。一緒に私たちが頑張れるように。」
キッカは笑顔でカナタに言う。その笑顔にカナタの心も温かくなった。
「カナタ。キッカ。正直俺様もビビってる。あんなに馬鹿でかいなんて思わなかったしな。けど、俺様たちは1人じゃねぇからよ。乗り越えようぜ。」
ボルドーもキッカたちのすぐ後ろで励ましている。今ここに居るのはカナタだけではない。
「ありがとう、キッカさん、ボルドー。それと…えっと…カナタで良いよ。」
「うん、カナタ!私もキッカで良いよっ!」
笑いあう2人にボルドーも笑い、緊張は解かれていく。
そして…キッカとカナタは目を閉じ、ゆっくりと呼吸する。そして力を解放した。
キッカからはヴァジャスとエテルネルの力とブレイブハーツ。そしてカナタは神力。その神力はボルドーとの強い絆により増幅し、4つの力が混ざり合った。
「…今こそ、全ての力を集める時だ。ヴァジャス。」
ガディアルはそう呟く。
(あぁ。そうだ。)
すると、ビライトたちの脳内にヴァジャスの声が響き渡る。
これはビライトたちだけではない。世界中の人々に響き渡っていた。
(シンセライズに生きる者たちよ。我が名はヴァジャス。この世界を守護せし抑止力が一柱。これから言うことをよく聞いて欲しい。)
ヴァジャスは世界中の生きる者たちに声をかけている。
今の状況を理解できない者たちが多い中、この声かけがどこまで理解されるかは未知数だ。
(今、君たちの目にも見えているだろう恐ろしく巨大な竜…奴を倒す為に君たちの力を借りたい。)
「ヴァジャスの声だ…!」
「これ、みんなに響いてるんだ。流石主神代理ね!」
「お前ら、ブレイブハーツを屋上目掛けて送り込め!」
「「オウッ!」」
城に居るブレイブハーツが扱えるビライトたちは、ウルストとの戦いで伝播した兵士たちも一斉にブレイブハーツを注ぐ。
大きく手を掲げる者も居れば、一生懸命願う者もいる。その形は様々であれど、願う想いは同じなのだ。
ブレイブハーツが1つに集まり、ナチュラルたち神様たちも神力解放を行い、これもまた一斉に注がれる。
「ブレイブハーツの拡散を実行する。カタストロフ、デーガ。協力を要請する。」
神力解放したナチュラルはカタストロフとデーガに応援を要請。
「ケッ、何処まで届くか分からねぇがやってやるか。」
「了解した。我々のブレイブハーツを少しでも多く拡散させるために尽力しよう。」
2人は空へと向かい、手をつなぐ。
「俺たちで一気にブレイブハーツの因子を拡散させるぞ。本家のブレイブハーツの力を見せてやらァ。」
「ウム。我も力を貸そう。」
「「勇気の歌よ!!響き渡れッ!!!」」
ギターを召喚し、デーガは力強く大きな音を響かせる。
デーガのブレイブハーツがより大きく膨れ上がり、激しく、赤く光り出す。
「凄い…!」
カタストロフがデーガを支え、デーガのブレイブハーツの力は遠くの空まで拡散されていった。
「…どうだ?」
「レミヘゾルまでは届かなかったがオールドの三大国家には拡散出来たはずだぜ。」
(この世界を守るために戦う戦士たちに力を。君たちが今胸に感じ始めている高ぶる熱い気持ちは勇気の心だ。この世界を守りたい気持ち、愛する気持ち、それを強く願えば大いなる力となるだろう。君たちの想いであの青き空を再び取り戻すのだ!ドラゴニアに向かって想いを、願いを込めるのだ!)
ヴァジャスの声に応えられる者がどれほどいるかは未知数だ。
だが、オールドの三大国家にはそれぞれ、国民が信頼を置く王が居る――
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「諸君ッ!先程の声を聴いたなッ!あの遥か彼方先に佇む竜を倒す為には私たちの力も必要不可欠である!故に恐れることは無いッ!!そなたたちが願うこの国や世界への想いを捧げよッ!!これは命令であるッ!!」
「…よく分からねぇが…ヴォロッドが言うなら…試してみるか。お前らも手を貸せ。」
「「はいっ!ボスの言うことならば!」」
バルーサ隊の皆も自分の気持ちを込めて、力を送る。
ワービルトではヴォロッドの号令により、多くの国民たちが祈りを捧げていた。
事情を全て把握しているアルーラはクライドが連れていたラプターと共に空を見上げる。
「…デーガ様、届いております。我々もここで願います…勝利を。」
「ギャウッ!」
「フッ、やはりドラゴニアにはいつも美味しいところを持っていかれてしまうな。」
「不服ですか?」
「いいや。それでこそ我が国の友好国であり、我がライバル。追い抜き甲斐があるというものよ。フハハハッ!!」
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「この声…ヴァジャスか?どうなってんだ!」
ヒューシュタットでは治療中のヴァゴウが声を上げる。
ヒューシュタットでは災厄の竜王の出現により警報が鳴り響き、混乱状態になっている。
市民たちはまだ感情を取り戻せていない者たちが大勢いるが、そんな人たちでさえも恐怖を感じるほどに、ヒューシュタットは混乱している。
「フム…この声、我々にも聞こえるが…それに身体から何か込み上げるものを感じる。」
「私もです。何なのでしょう…とても元気が湧いてくるような…!」
ヴァゴウと共に居合わせていたホウやカリアにもブレイブハーツの因子が届いているようだ。
「さっきの話を聞いたところだとブレイブハーツの因子が世界中に広がってんのか…?だとしたら…必要なのは間違いなく…!」
座っていたヴァゴウは立ちあがる。
「ヴァゴウ殿?」
「ホウ、カリア。ヒューシュタットの国民に伝えてくれ!今の声は悪いモンじゃねぇこと、そして皆のブレイブハーツが必要だってことを!」
「なっ、どういうことなんだ…?ブレイブハーツ…?」
「フム…ブレイブハーツとは先程から感じるこの込み上げてくるものか。これを力に変えるにはどうしたらいい?」
ホウはヴァゴウに尋ねる。
「ブレイブハーツは想いの力ッ!この世界を守りてぇ、好きだって気持ちをこう…なんつーかよっ!バーッと発散すんだよッ!!」
ヴァゴウは手を大きく掲げる。するとヴァゴウの身体からブレイブハーツが発動する。
「…フム、実に曖昧だが…」
「やってみますか。」
ホウとカリアは意識を集中し、ヒューシュタットを想う気持ちを強く願う。すると、2人の身体からも淡い光が纏い始めた。
「おお…これが…」
「…すぐに全ての国民に、いいえ!世界全てに通達をッ!!急げッ!!」
カリアは周囲の人たちに指示を送り、ラジオやテレビ、そして放送など、ヒューシュタットだからこそ出来る手段で一斉にヒューシュタットやその周囲にまで声掛けが始まった。
「…ワシも行かなきゃな…!」
ヴァゴウは外へと足を運ぶ。
「ヴァゴウ殿、まだ身体が。」
ヴァゴウは首を横に振る。
「ワシだけこんなところでくすぶってる場合じゃねぇからな。ビライトたちもドラゴニアに集まっているはずだしな。」
「しかし、君は私たちにとっては恩人だ。無理はして欲しくない―――が、君のそんな目を見てしまうと私にはとても止めることなど出来ないな。」
ヴァゴウの意志は固い。
「悪かったな。世話をかけちまって…いや、ありがとうって言うべきだったな。ありがとよ。」
「いや、構わない。君たちの活躍と健闘を祈っているよ。」
ホウはヴァゴウを送り出した。そして外へと出たヴァゴウは空を見る。
そこには待っていたかのように、ファルトとザイロンが待機していた。
「行くのだろう?」
「おう!」
「ではファルトに連れていってもらうと良い。世界一の速度で君を送ってくれるだろう。」
「その言い方はすこし恥ずかしいのだが…兄様…」
「謙遜するな。お前は間違いなく世界最速の竜だ。」
「ムゥ…で、では乗ってくれ。ドラゴニアに送って行こう。」
ファルトは恥ずかしそうにしながら、ヴァゴウが乗れるように手を差し出す。
ファルトに乗り、翼を広げ空を飛ぶファルトにザイロンは手を振る。
「ヴァゴウ殿、皆によろしく伝えてくれ。」
「おう!色々サンキューな!!」
ファルトは結界を張り続けるアーチャルの元へと向かう。
「行くのね?」
「おう!」
「さっさと終わらせてきなさい。これ結構疲れるんだから。」
「すまねぇな、アーチャル、でも本当に助かった!ありがとなッ!」
「いーわよ。さっさと行きなさい。ブレイブハーツは絶やさずにね。」
アーチャルはあしらうようにヴァゴウたちに早くドラゴニアに向かうように促す。
「…全く、皆暑苦しくてホント疲れるわね。」
アーチャルはかったるそうに言うが、まんざらでもないのか少しだけ笑っているように見えた。
こうして、ヴァゴウとファルトはブレイブハーツを纏いながら、ドラゴニアに向けて飛び立つのだった。
―――力が集まる。それはキッカ、カナタ、そしてボルドーたちへと注がれ、そしてそれはガディアルへと繋がっていく。
これからどんどん力は増していくだろう。
そして、その時こそ世界最強の守護神が動き出す――