Delighting World Brave 二章 五幕 ~ドラゴニア防衛戦 俺たちは二人で魔王だ~
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Delighting World Brave 二章 五幕(~ドラゴニア防衛戦 俺たちは二人で魔王だ~)
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―――ここはレミヘゾルの最北端に位置する最果ての地、神々の領域。
創生の主神エテルネル、その代理を務めるヴァジャス、そして八神のナチュラル、シヤン…そして、ビライトの妹であり、元シンセライズの器であるキッカはガディアルからの情報を得、更なる調査へと移っていた。
「世界の狭間…それは僕が隠れていた場所だ。」
エテルネルはヴァジャスたちに説明する。
「しかし…世界の狭間には何もないはずだ。あるのは虚無…ただひたすらに暗く、無音で…寂しい場所だ。そんなところにイビルライズが隠れているとは…」
エテルネルたち神々には世界を渡り歩く力がある。しかし、それはかつて世界が分かたれていた時に使用されていたものであり、今では特に意味を成さない能力だ。だが、エテルネルは世界の狭間に隠れることでイビルライズに最近まで見つかることなく身を潜められていたのだ。
「…でも、おかしいんだ。」
「おかしいって?」
キッカが訊ねる。
「世界の狭間っていうのはね、世界と世界の間を挟むいわば道のような役割も持っているんだよ。だけどもうここには僕たちの世界シンセライズしか残っていないはずなんだ。つまりもうこの世界には道なんて無い。世界の狭間は存在しないはず。だからもう一つの世界なんて存在しないはずなんだ。」
「イビルライズはどうなったの?」
「イビルライズはイビルライズの覚醒によって消滅したよ…でも、イビルライズは別の形で負を処理する場所として再構築される。でもそれはまだ先の話だ。」
今までは世界は3つ存在していた。
シンセライズ、イビルライズ、そして忘却の惑星だ。
イビルライズはイビルライズの覚醒によって一時消滅。そして忘却の惑星もカナタが神を辞めたことにより消滅。
「世界の狭間は世界と世界を繋ぐ道。繋いだ先に世界が無ければ狭間は生まれない。だからおかしいんだよ。イビルライズはどうして世界の狭間に居られるのか。存在していない場所にどうしていられるのか…もう一つの世界というものが本当にあるのなら狭間は確かに存在する。だけど…」
エテルネルは考える。
「狭間があるとして…そこに行ってみることはできないの?」
エテルネルは首を横に振る。
「何の反応も無いんだよ。僕らの認識の範囲内では世界の狭間はもう無いことになっている。仮に世界の狭間がまだ存在していたとしても、それは僕らの管轄じゃないんだと思う。」
どうやらエテルネルたちにも狭間へと向かう手段はないようだ。
「じゃぁ…どうしたらいいんだろう…」
ウーンと声を唸らせながら考える一同…
「…えっと、じゃぁ…」
シヤンが口を開く。
「ダメだよシヤン。」
エテルネルが言う。
「あっ、え~と…やっぱり?」
エテルネルの真剣な顔にシヤンはアハハと誤魔化す。キッカは首をかしげるが…
「えとね、僕の権能を使えば何とかなるかなぁ~って思ったんだけど…やっぱ駄目だよね。」
シヤンはそう言うが、キッカは何のことかが分からない。
「シヤンの権能はねぇ、“世界の書き換え”なんだよぉ。」
「世界の…書き換え?」
ナチュラルの言葉にキッカはますます困惑する。
「僕の権能、“理想郷”は世界を望んだ姿に書き換えてしまう力なんだけどね、それを使えばシンセライズの一部をエテルネルの管轄から外して狭間と繋がれるように出来るかもしれないんだけどね。」
「す、すごい…!そんなことが出来ちゃうなんて。」
シヤンの権能は世界を変えてしまう力。他の神たちとは少し異なる権能であり、どちらかというとエテルネルの創生の力に似ているものだ。だが、そんな掟破りな力を持っておきながら序列は9位に位置するシヤン。その理由は――
「でも、これ使うと僕、死んじゃうんだよね。」
「えっ…!」
そう、シヤンの権能は1度きり。使うと待っているのは死だった。神の死は世界の大きな影響を与える。
時間が経てば元の安定した状態には戻るが、それでも神の死によって起こることは今の危機的状況をより悪化させるだけだ。だからこそエテルネルも絶対にそこにOKは出さないのだ。
「別の手段を考える。シヤンもそのつもりでいてね。」
エテルネルはそう言うが…
「でも、世界が滅ぶぐらいだったら僕はこの権能を喜んで使うよ。シンセライズには少し負担をかけちゃうけど…それでも滅びちゃうよりはマシだもん。そうでしょ?エテルネル。」
シヤンには最初から覚悟は決まっているようだ。
「…そうならないようにする。でも…本当にどうにもならない時には…その時は僕の責任で君の権能を使用する許可を与えるかもしれない…ごめんね。シヤン。」
「うん、それでいいよっ。」
シヤンは笑顔で言う。
「…」
キッカはシヤンがアッサリといざという時の自分の死を受け入れてしまったところに複雑な気持ちを抱く。
「シヤンはそれでいいの?」
「えっ?」
「だって、シヤンだって生きたいでしょ?この世界が大好きだからずっとみんなと守ってきたんだよね。だったら、生きたいはずだよね。だから、えっと…」
キッカは上手く話をまとめられないまま少し感情的になっている。
「君は優しいね。でも、それでいいんだよ。」
「どうして?そんなの悲しいよ。」
キッカは笑うシヤンに悲しい顔で訴える。
「僕はね、この世界が大好きだよっ。僕の愛した人が愛した世界がね。だからだよ。だから、守りたいんだ。命を懸けて。」
シヤンには世界を守るために尽くすことに躊躇いはなかった。
「多分その気持ちは僕たち神々は全員同じだよ。ヴァジャスが無理をして負の力を受け入れているのも、エテルネルがいざというときの覚悟を持っているのも、みーんな僕たちがこのシンセライズが大好きだからなんだよ。」
「…それでも、私は…!」
「キッカ・シューゲン。」
黙って話を聞いていたヴァジャスが口を開く。
「私たちは神なのだ。この世界を守る義務がある。我々はそういう覚悟の元、この世界を生きているのだ。」
「…」
「お前の気持ちは嬉しい。だが、我々にも覚悟があるのだということは分かって欲しい。」
「ヴァジャスさん…」
「それに我々とて仲間を失うのは本意ではない。故に…誰も犠牲にならぬ道を探すつもりだ。」
ヴァジャスはキッカの気持ちを理解しつつも、譲れないものはあると伝える。それにこの話は最後の手段だ。まだ決まった話ではないのだから。
「…一つだけ、なんとかなるかもしれない方法があるかもぉ。」
「えっ!」
意見を挙げたのはナチュラルだった。
「えーっとねぇ、ちょっと無理矢理~って感じなんだけどねぇ。」
―――
―――――
「…フム…確かに力技だ。理論的な君からそのような意見が出るとは意外だが…」
「本当にそれでどうにかなるのかなぁ?」
「…やってみる価値はある。世界に傷が出来るけど失うよりはマシだ。早速準備をしよう。」
エテルネルたちはイビルライズの潜伏する世界の狭間のその先の世界を目指す為の準備を始めた。
「これを行う為には大きな力が必要だ。その力の一端になって欲しい、キッカ・シューゲン。君も今すぐドラゴニアへ向かうのだ。そこに皆が集まっている。」
「ドラゴニアに?でもどうやって…」
「僕に任せてよぉ~」
ナチュラルが手を身体に当てて自信満々に言う。
「何か方法があるの?」
「僕の趣味は機械いじりでねぇ、移動用の機械があるからぁ、それを使ってびゅ~んって行こうよぉ。」
ナチュラルはキッカを自室の機械置場へと案内しようとする。
「キッカ。」
「ん?どうしたの?」
エテルネルとヴァジャスはキッカに触れる。
「…やはり君は強い。」
「うん、そうだねヴァジャス。強いからこそ、僕は君を器にすることが出来たんだ。」
「えっ、どういうこと?」
キッカは言っている意味が分からず尋ねる。
「君は元々持っている潜在能力が高いみたいなんだ。ビライトも同じ。だから僕もイビルライズも君たちを器にすることに負荷は無かった。」
「えっ、そうなんだ…でも私もお兄ちゃんも自覚は無いかもだけど…」
「それは偶然。でもきっと君たちが選ばれたのは運命。だからこそ、僕たちは…」
「君に力の一部を預ける。」
「僕も少しだけなら…創生神の力ではないけど…それでも少しの神力を送ることぐらいなら…」
ヴァジャスとエテルネルの言葉と同時に、二人の中に在るシンセライズの力や神力の一部がキッカに注がれる。
「…なんだろう、懐かしい気持ちがする…私の中に今までいたエテルネルの力に似ているけど…少しだけ……えっと、元気が良いような?」
「あはは、ヴァジャスの熱い心まで分け与えちゃったかな。」
「ム…ムム…」
微笑むエテルネルと恥ずかしがるヴァジャス。しかし、その思いのカケラはキッカにしっかりと刻まれた。
「…でも、温かい。二人の気持ち、受け取ったよ!私、これを使って皆を助ける!」
「あぁ、頼んだぞ。」
「話は終わったみたいだねぇ、じゃこっちだよぉ。」
ナチュラルはキッカを自室へと案内する――
―――
「…す、すごぉい…」
「えへへ~」
そこにあったのは機械の山だ。見たこともないような機械や部品が転がっている。その中にある1つの乗り物のようなもの。
まるでドラゴンの翼のようなものが左右に真っすぐ伸びており、上には人が乗れる場所がある。
「超高速ジェット機!マッハ20の速度でびゅ~んだよぉ~」
「えっと、よく分からないかも…これでどうやって行くの…?」
「空を飛ぶんだよぉ~」
「えええっ!!?空を飛べるの!?」
「そうだよぉ~このジェット機の燃料は魔力でねぇ、これをエネルギーにして勢いよく発射してぇ、その勢いでびゅ~んってことぉ~」
ナチュラルの説明を聞いてもよく分からないキッカだが、これを使えばすぐにドラゴニアに向かえるのだろうか。
「だ、ダイジョブ…だよね…」
キッカはジェット機の席に座る。ナチュラルが操縦席に行き、ハンドルを握る。
「あ。えっとぉ、衝撃吸収と速度順応の魔法をかけておくねぇ~」
「えっ?」
ナチュラルはキッカに魔法をかけた。
「普通に乗ってたら多分死んじゃうかもしれないからぁ~」
「えええーーーっ!!?」
「出発ぅ~」
「ちょっ、ちょっと待ってぇ!?」
慌てるキッカだが、それを見ているエテルネル達は普通に見送ろうとしているものだから余計に不安なキッカだが…
「大丈夫だよ。ナチュラルを信じて。」
「気を付けて行くのだぞ。また会えるのを楽しみにしている。」
「いってらっしゃ~い!」
それぞれが声をかけ、そして…
「え、えっと!い、行ってきま――――」
キッカの声が最後までエテルネル達の耳に届くことは無かった。
一瞬の速度でジェット機が高く飛び出していったからだ。勢いよく飛び出すジェット機の風に吹かれ、エテルネル達はキッカの健闘を祈るのであった。
「力は多い方が良いということだな。」
「それだけじゃないよ。今起こっている脅威は“最悪の勇者だけじゃない”。」
「…そうだったな。ドラゴニアの方角から感じる強い気配はそれだけではない。」
「うん、きっとキッカの力も役に立つはずだ。むしろ、災厄の竜王すらも利用してしまった方が良さそうだ。」
「本当に力ずくだね。」
「君を失わせないためだよ?シヤン。」
「えへへ、そうでした。ありがとう!」
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キッカ、デーガがそれぞれドラゴニアへと向かっている中…
カタストロフたちはビライトたちとドラゴニアの皆のブレイブハーツを束ねて勇者ウルストと戦った。
そしてカタストロフは見事ウルストの攻撃を打ち破り、エンド・オブ・カタストロフを直撃させたのだった。
だがその後、ウルストの姿は何処にも見えなくなっていた。
カタストロフはまだ感じている。ウルストの気配を。果たしてウルストは何処へ逃げたのか。ドラゴニアにはまだ危機が収まることは無さそうだ。
「奴には大きなダメージが入っているはず…遠くには行かぬはずだ…」
カタストロフはそう言い、歩き出す。
「カタストロフ!無茶よ!」
カタストロフはボロボロだった。動けるのもやっとの身体で無理矢理動こうとするが…
「クッ…」
カタストロフは地面に倒れ込んでしまう。
「しっかりして!カタストロフ!」
カタストロフの呼吸は酷く荒く、苦しそうだ。意識も朦朧としており、大きな力を使ったことの反動と思われる。このまま無茶をすれば命にかかわることは間違いないだろう。
「カタストロフはあたしがついてるから、皆はウルストを探して!」
「…分かった。任せたぜ。ビライト、俺様たちはウルストを探すぞ。」
「分かったよ、ボルドーさん。レジェリー、カタストロフ。気をつけて。」
「うん、ビライトたちも。」
ビライトとボルドーたちは複数のグループになってウルストを探しに散らばった。
残された応援に来た人たちはカタストロフを心配して歩み寄る。
「だ、大丈夫なのか?」
「うん、多分…だけど…」
「…命に別状はない…大丈夫だ…」
だが、カタストロフは苦しそうにしている。レジェリーは心配で落ち着かない様子だ。
「私たちに出来ることは…」
「私、薬を持ってくるわ!」
「じゃぁ俺は包帯を!」
市民たちはそれぞれが自分たちに出来ることをしようと動き出す。
カタストロフのために何かしようと動き、何も出来ない者たちも静かに見守ったり、声をかけて励ました。
「我が…怖くはないのか…?」
「あんたはドラゴニアを守ってくれた。」
「そうよ!」
「おじさんが助けてくれたんだよ。」
「ありがとう。」
「ドラゴニアを守ってくれたあんたは英雄だ。そんな英雄を見捨てようなんて、出来はしないよ。」
「…レジェリー…」
「どうしたの?」
「…我は…幸せ者だ。」
「―――うん、そうだね。あなたは幸せ者よ。」
カタストロフは嬉しそうだった。皆が応援し、手助けをしてくれる。自分のような者を認め、受け入れてくれている。その心にカタストロフは幸せで胸がいっぱいだった。
世界を滅ぼす魔王として生まれた自分。全てを失って罪を償う日々を送っていた自分は許され、そして今はこうやって多くの人々に心配され、温かさを受けている。こんなに恵まれて良いのだろうか。そう思うほどに、カタストロフは満たされていく。
―――
ビライトとボルドーはウルストを探す。きっとまだ町の中に居るはずだ。
「ビライト、ウルストの野郎が行きそうな場所に心当たりはあるかッ?」
「そうだな…カタストロフによるとウルストは女に目が無く…人を傷つけることに躊躇いが無くて…それを悪いことだと自覚していない。」
「…女に目が……まさかとは思うが…!」
ボルドーは嫌な予感が過った。
「…城…?」
「ッ!メルシィが危ねぇ!!」
ボルドーは急ぎ、城へと戻る。
最短距離で城へと帰ったボルドーたち。そして入り口に佇んでいたのは――
「ウルスト…!」
「よう、遅かったじゃんよ。」
「てめぇ…!!」
「あなた…!」
ウルストは既にメルシィたちを手中に収めていた。
ウルストの剣がメルシィの首元へと触れる。
「城には防御壁が張られていたはずだ!何故…?」
「この女、姿を見せずに俺がボルドーの状況を知らせに来たからちょっと外に出るように誘導したら油断して出てきやがったんでな。」
「…ッ…」
ヘラヘラと笑うウルスト。だが、全身には怪我を負っておりウルストもかなり手負いであることが分かる。エンド・オブ・カタストロフはしっかりウルストにダメージを与えているようだ。
「あなた、ごめんなさい…私…」
「…ウルスト、メルシィを解放しろ。条件があるなら検討する。」
ボルドーは交渉に乗り出そうとする。
「解放してください…だろ?」
「…てめぇ…!」
「あ~そんな言い方しても良いのかなぁ?」
ウルストの剣がメルシィの首に深く触れる、メルシィの首から血がツーと流れるのを見たボルドーは動揺し、拳を震わせる。
「ボルドー…このままだと…!」
カナタも動揺しており、ここはボルドーが折れるしか選択が無い。
「…ッ…」
ボルドーは頭を下げた。
「…この…ッ…!」
ビライトは怒りをウルストに向ける。
「あはは!!あっはははは!!!ウケる!!!ほら言えよ!“解放してください”って情けなく言えよ!」
「…しっかりして!!あなたッ!!!」
メルシィはボルドーに向かって叫ぶ。
「メルシィ…」
「あなたは…そんなことで頭を下げてはいけません!あなたはドラゴニアの王なのよ!」
「あぁ…?」
メルシィはウルストを睨む。
「どうせあなたは私を解放する気などないのでしょう?なら…ひと思いに私を殺しなさい!」
メルシィは震える身体を抑えながら、ウルストに訴える。
「へぇ、強気じゃん。」
「メルシィ!何馬鹿なこと言ってんだ!ンなこと認められるかッ!」
ボルドーは頭を上げ、メルシィを怒鳴る。
「私はドラゴニアの王の隣に立つ者…もう怯えないと決めたのです。」
「ふ~ん…良いね。好きだぜ、そういうの。」
ウルストはメルシィの顔をグイッと上げ―――
「な、何を…!」
「お前、俺の女になれ。」
自身の唇をメルシィの口につけた。
「…!!」
「―――ッ―!」
「…ふふん。」
ウルストはいい気味だと細めた目でボルドーを煽るように見る。
「…もう…勘弁ならねぇ…こっちが下出に出てやったら…それかよ。」
ボルドーは今までに見たことのないほどに怒りの形相でウルストを睨みつけた。
「ふふん、やるのか?多分お前の攻撃が俺に当たる前にこの女の首が飛ぶぜ?」
「…」(あなた…)
メルシィの目に涙が流れた。
「潔い姿に惚れはしたが…お前が迫ってくるなら俺はこの女を殺さなきゃならないなぁ。」
「…てめぇは…ッ…」
「ボルドー、駄目!怒りに身を任せたら相手の思うツボだよ!」
カナタはボルドーを説得しようとするがボルドーの耳には届いていない。
「てめぇだけは…許さねぇぞウルストオオオオッ!!!」
ボルドーの怒りの声が轟いた。
エクスリストレイを発動させ、カナタの流す神力も、ブレイブハーツも激しく反応している。
「よくもッ…!」
ビライトも怒りを露わにする。今にも飛び出しそうなほどはらわたが煮えくり返りそうだった。
「ハッ、少しいやがらせしてやったらすぐこうかよ。王ってのは情けねぇもんだな。」
「黙りやがれェッ!!!」
ボルドーが今にも飛び出そうとしているが、その時だ――
「怒りに身を任せるなッ!」
空から聞こえた声と同時にウルストの足に光線のようなものが光の速さで撃ち抜かれた。
「はっ?」
ウルストはガクッと膝をつき、バランスを崩す。メルシィはその衝撃でウルストから離れて倒れる。
「!メルシィッ!!」
ボルドーは我に返り、メルシィをキングエンハンスで強化した身体で急ぎ抱きかかえてウルストから距離を取った。
「この野郎がぁッ!!」
ボルドーはメルシィを見るウルストの顔面にメテオバーンを打ち込み、視界を妨害した。
ボルドーはメルシィを無事ウルストから解放することが出来たが、ウルストに与えた魔法は全く効いていない。
「クソッ、ピンピンしやがって…!」
「…あなた…ッ…」
「メルシィ!すまねぇ…あんなやつにお前の…!」
「私こそ足手まといになってごめんなさい…」
「いいや、かっこよかったぜ…なのに俺様は…情けねぇ…もうお前を泣かせないと誓ったのに…!!」
ボルドーは悔しさで身体を震わせる。メルシィがもしいなくなったらと思うと恐ろしく、そして危険に晒してしまった自分、そしてウルストに強い怒りを覚え、判断を誤るところだった。それが自分の未熟さを物語っており、それが悔しかったのだ。
「…いいんです…失わなかったから。」
「あぁ…そうだな…そうだよな…すまん…ありがとよっ…!!」
二人は抱き合い、お互いの鼓動を感じ合った。
メルシィはなんとか命拾いをし、ボルドーも怒りを鎮めることが出来た。
「チッ、足をやられちまった。」
ウルストは身動きが取れなくなった。だが、徐々に傷が癒えているのが分かる。
ボルドーとメルシィは更に距離を取り、メルシィを防御壁のある城の中へと避難させた。
「あなた、気を付けて…」
「あぁ。中でブランクと待っててくれ。」
「今のは…あっ!」
ビライトが空を見上げると、その上には…
「ケッ、俺も人の事は言えねぇがな。短気はよくねぇな、ボルドー・バーン。」
「デーガ!」
「アイツが魔王デーガか。」
「あぁ、カタストロフと同じ魔族だよ。」
ボルドーはその後、再び戦いの場に戻り、カナタと合流した。
「ボルドー、大丈夫?」
「あぁ、すまなかったなカナタ。もう大丈夫だ。魔王デーガ、止めてくれてありがとよ…!」
「構わねぇよ。あんなことされたら誰だってキレる。当然だ。」
ボルドーはデーガに感謝する。そしてボルドーを責めることもしなかった。デーガにもかつて愛した者がいる。もし同じような立場に自分がなったとして、きっと冷静ではいられないということが分かっているからだ。
ボルドーはカナタにも謝罪と礼を言い、笑顔を見せた後、ウルストを睨む。
「てめぇだけは許さねぇ。」
「ハハ、面白い顔してるなぁ。」
「こっちはちっとも面白くねぇ。」
ウルストは身動きが取れなくなっても平気そうな顔を見せている。危機感がまるで無いようだ。
「っくくく…」
ウルストは笑う。
「気持ちが悪い奴だ。何がおかしい?」
デーガがウルストに聞くが、ウルストは笑い続けている。
「俺が何もせずにここまで来たと思ってんの?ウケる。」
ウルストは指をさす。指した方向は病院だった。
「何ッ…!?」
「病院の防御壁が破られている!?」
病院の防御壁が破られており、ガディアルでも修復は不能の状態となっていた。特別な封印のようなものが施されており、病院に向かって何か雷の槍のようなものが囲うように浮いており、いまにも病院を襲いそうな状態だった。
「俺が何もせずにここをウロウロしてたと思うなよ?カタストロフとの戦いが始まる前に色々細工をしておいたのさ。病院だけじゃないぞ。」
病院だけではない。あらゆる場所がウルストの細工により危機に瀕していた。このままだと多くの犠牲者が出てしまう。
(チッ…やはり神力が使えぬ今、ここまでが限界のようだ。)
ガディアルもそこまでの力を使えず、防御壁の再展開は不可能だった。
(クライド、場所は。)
(向かっている。病院までもう少しだ。)
クライドは別行動で街を走り回っているが、クライドが病院に行ったとしても守れるのはそこだけだ。他の場所ではまだ無防備であり、そもそもクライド単体で病院全部を守れるとは限らない。
「さぁて、役者も大勢揃ったところで…いっちょ殺戮ショーと参りますかぁ?」
「くっ…!!」
「…やめろッ!!」
「…あ?」
ウルストの身体が茨で拘束された。
「…」
「カタストロフ!レジェリー!」
カタストロフとレジェリーが現れ、カタストロフとレジェリーが二人で禁断魔法を使い、ウルストを捕獲した。
「この魔法は相手の魔法をしばらく封じる…貴様の隙にはさせぬぞ…ウルストよ…!」
「死にぞこないが。」
ウルストは茨を引きちぎろうとするが、カタストロフとレジェリーは魔力を共有し合い、茨を強化する。
「クソみてぇな真似を…!」
「カタストロフ!お前なんで…!怪我は…?」
ボルドーが問う。カタストロフはウルストを睨みながら呟いた。
「この程度の怪我で歩みを止めるわけにはいかぬ…!それに、多くのドラゴニアの民たちが我を回復させてくれた。ウルスト・ハーツは…我が……倒すッ…!」
カタストロフの腕には包帯が巻かれており、そして傷もある程度回復していた。
カタストロフのためにドラゴニアの民たちや、他種族の者たちも協力して少しでも回復を…と、動いてくれたのだ。
「ごめん、カタストロフがどうしてもって言うから…!」
「いや、良い。助かったぜ…」
「…そろそろ良いかな。」
ウルストは立ち上がり、強化した茨を引きちぎった。足の傷も治ってきたようだ。
「へへ、じゃぁ第二ラウンドと行くか?新しいゲームだ。お前らが負けたら病院のやつらもこの国のやつら全員俺の手の平の上だ。」
ウルストは指をさす。
「カタストロフ。今回はてめぇの参加しか認めねぇ。外野が乱入したらその時点で病院の奴らも俺が仕掛けた場所に居る奴ら全員オダブツだぜ?」
「…」
カタストロフはレジェリーの手を離れ、ウルストを睨みつけながら、戦いの構えを取る。
「カタストロフ!無理よッ!こんなに傷だらけなのに!」
「…我はそれでも、やらねばならぬ。我は魔王・カタストロフ。勇者との戦いに今、決着をつけようぞ。」
カタストロフとウルストは睨み合う。
だが…
「おっと、それなら俺も参加するぜ。」
「デーガ!」
デーガはカタストロフの隣に立つ。
「デーガ…これは我の戦いなのだ。」
「…馬鹿かお前は。」
「…!」
デーガはカタストロフの肩に手を置く。
「忘れたか?俺たちは―――2人で魔王だろ?」
「…!」
そうだ。何度誓い合っただろうか。器のデーガ、そして魂のカタストロフ。
魔王はそうやって今まで生きてきた。今こうやって分離したとしても、それは変わらない。
「2対1に持ち込むつもりか?それはズルいんじゃねぇの?」
ウルストはそう言うが、デーガは首を横に振る。
「1対1なら良いんだろ。なら簡単だ。俺たちは元々1人だったんだからな。」
「お前、まさか…!」
「そのまさかだ。この身体、お前に貸してやる。だから…今度こそウルストを討て。そして…この長い歴史に今度こそ終止符を討つんだ。」
「デーガ……分かった。そうだったな…我々は…」
「そう、俺たちは…」
「「二人で魔王だ。」」
二人は顔と手を合わせ、そしてカタストロフの翼がデーガを包む。すると淡い光が2人を包み込む。
「あ、あれは…まさか2人が再び同化しようとしているのか!?」
「師匠とカタストロフが…!」
翼を始め、カタストロフはデーガへと溶け込んでいき、黒い闇の光がデーガたちを包む。
「何しようとしてるのか分からねぇがさせねぇ!!」
ウルストがそれを阻止しようとする。デーガたちは無防備だ。
しかし、2人の光が更に濃くなり、ウルストの足を止める。
――そしてその光が払われる。
「「ウオオオッ!!!」」
「何ッ!」
いきなりそこから飛び出した者、それはデーガとカタストロフが同化した1つの身体だった。
ブレイブハーツを纏った拳がウルストの腹部に命中し、ウルストは吹き飛び、地面に転がる。
「グッ…アアッ!!」
ウルストは今までにない反応を見せ、ブレイブハーツがウルストの腹部ではじけ飛ぶ。
「こ、これは!」
「師匠とカタストロフが一緒だったときと同じ姿だ…!」
その姿はデーガとカタストロフが同化していた時の姿と同じだ。カタストロフ人格になったときにこの姿を見せていたが…
「…もはや託すしかねぇ!!お前らにドラゴニアの未来を!魔王デーガ!カタストロフッ!」
ボルドーは2人に託し、叫んだ。
「ウルストよ、我々は負けぬぞ。」
「ぶっ潰してやる。」
2つの人格が共にあるようで、前の時とは違うようだ。それにブレイブハーツの力がより高まっており、力も大幅に増している。
「クッ…そおお…何だ…これは…これが…痛み…!?」
ウルストは今までにないほどに苦しんでいる。拳一撃でウルストに大きなダメージを与えたようだ。
跪くウルストを上から睨みつける魔王デーガ。
「見下してんじゃ…ねぇぞ三下がッ!!」
「…世界の暖かさ、世界の優しさを知らぬ哀れな者よ。」
「てめぇの生きる世界はここにはねぇ。」
ウルストはその力の大きさに怯むが…
「くだらねぇ…くだらねぇなぁッ!」
ウルストは立ち上がり距離を取り、技の準備を始める。これは先ほどカタストロフと衝突した時と同じものだ。
「てめぇらの仲良しごっこごと全部ぶっ飛ばしてやらぁ!!」
「くっ…ぉ…なんつー力だ…!さっきよりも遥かにでけぇ…!!」
ボルドーたちには手出しも出来ない状態だ。
「…やるぞ、デーガ。」
「おうよ。このクズ野郎に目にもの見せてやる。」
魔王デーガは両手を出す。
「「“世界の終わりを導く 終焉の光よ”」」
エンド・オブ・カタストロフの詠唱だ。
2人の大技が再び衝突する。
「「“目の間に聳え立つ者を全て消し飛ばせ…!”」」
「全員まとめて死にやがれーーーッ!!」
「「“エンド・オブ・カタストロフ”!!」」
2つの力が一斉に放たれた。
その衝撃でビライトたちは吹き飛ばされそうになり、大地が大きく揺れた。
「きゃああっ!!」
「カナタッ!しっかり捕まってろよッ…!」
「くっ、身動きが取れないッ…!」
「師匠!カタストロフ!!」
ビライトたちにはもはや手を出すことはできない。
ボルドーはカナタを庇いながらも、城の中で守られているメルシィたちを気にするがもはや一歩も動けない状態だと無事であることを祈るしかなかった。
「クッ…オオオオッ!!」
「まだだ、もっとやれるッ!ブレイブハーツの力を最大限まで活かすんだッ!」
「押されているだと…!」
ウルストが押されている。力をより高めたウルストの攻撃を魔王デーガの力は超えているのだ。
「ふざけるなふざけるな!!こんなことが…許されてたまるかーーーッ!!」
「…ブレイブハーツは想いの力だ。そして、その力は伝播する。貴様には無いものだ。それが、貴様の敗因だ。」
「何ッ…!?」
「てめぇに足りねぇモンを教えてやる。それは―――」
「「“仲間”だ。」」
「ハッ!仲間!くだらねぇ!」
「…分からぬか。我々に宿るこの力は我々だけのものではないことが。」
カタストロフの後ろには仲間たちが居る。
「カタストロフ!!デーガ!!」
「師匠!カタストロフ!頑張れーーッ!!」
「俺様たちも力を送るぞッ!!ブレイブハーツを伝えるんだッ!!」
「「「おおッ!!」」」
「貴様がさっきも我の力に負けたのもこの想いの力だ。貴様は再び負けるのだ…我々の想いにな。」
「ざ、け…う、ぐああ…なんだこれはッ…!いてぇ…!!」
「そうだ、これが痛みだ。お前や…我が今まで多くの者たちに与えて来たものだ。苦しいだろう?」
「…ッ…!この…雑魚がァッ…!」
「…お前は言ったな。何故命を殺めてはならないか…と。」
「あぁ…?」
「それは今お前が抱えている心が知っているはずだ…これでも、分からぬか…?」
カタストロフはウルストの心に語り掛けるように、そして哀れみを感じたように、悲しそうに呟いた。
「ハァ…?何を…!」
「…痛いからだ。」
デーガが言う。
「痛い…だとォ…?」
「そして…大勢の者たちが悲しむからだ。」
カタストロフも言う。
「悲しむ…ゥ…?」
「苦しい、痛い、怖い。殺められる側が抱くごく当たり前の感情だ。それはどんなことよりも恐ろしいもの…そして残された人々も悲しみ、嘆き、絶望する。」
「あ…ぐ…ッ…」
押されている。魔王デーガの力はより高まり、ウルストの身体にも傷が入り始め、苦しそうだ。
「命は失えばすべてが無くなるッ!今までの記憶も、そして…これからあったかもしれねぇ楽しかったかもしれねぇ人生も…何もかもを失うんだッ!!家族にも、友達にも…愛する人にも会えないッ!二度とだッ!お前の身勝手な気まぐれでどれだけ多くの命が苦しんで、死んでいったと思うッ!」
デーガはウルストによって生まれてきた大勢の混血者たちの死を知っている。カタストロフはウルストの気まぐれで殺された者たちのことを知っている。
そして、デーガが愛した少女リュグナもまた、ウルストの被害者だ。デーガとカタストロフは全ての犠牲者のことを思いながら力を強く込める。
「俺はその絶望を、苦しみを知っている…!」
「我らもまた、加害者だ。だからこそ…その責任を果たす!」
「良いかッ!誰かのこれからあったかもしれないたった一度の人生を奪う権利なんてモンは誰にもありゃしねぇッ!!!」
「だから命を殺めてはならぬのだッ!!我も!貴様も!」
「く…だ、らねぇぇぇッ!!!」
ウルストは認めようとしなかった。
しかし、ウルストが抱く感情は、今カタストロフたちが言ったことと全く同じものだった。
(これが、恐怖なのか!これが、苦しいということなのか!そんなモン…!)
「俺に…あって、たまるかァーーーッ!!!」
「「ならば知れッ!これが…命の痛みだッ!!」」
「あ…ぐあ…ぐあああーーーーッ!!!」
2つの力の衝突に決着が―――ついた。
「我はこれからも今までの罪を背負い続け、そしてこの世界果てるまで全てを守る。我を受け入れてくれた友たちと共に。」
ウルストはエンド・オブ・カタストロフに巻き込まれ、吹き飛んだ。
そして地面に叩きつけられるのであった――
「…やった…のか…?」
「グッ…ガフッ…」
ウルストはまだ生きている。だがもう虫の息だ。何ももう出来ないだろう。
「…」
「…トドメと行こうぜ。」
デーガとカタストロフは再び淡い光を纏い、そして…2人は合体が解かれ、分かたれた。
「師匠とカタストロフが元に戻った…!」
レジェリーは内心少しホッとしていた。肉体を得たカタストロフが再びデーガの中に戻ってしまったのではないかと思っていたのだ。
「…さて。」
デーガはウルストの腹を踏む。
「グアッ…!」
デーガのブレイブハーツがイビルライズの因子を持つウルストに響いており、ウルストに激痛が走る。
「カタストロフ、決着の時だ。どうするかはお前が決めろ。お前がやらないなら俺がやる。」
デーガはカタストロフに告げる。
これは今のカタストロフならば躊躇うだろうと思っての言葉だった。
「…我は……こうなっても我はなお、躊躇いを感じている…我は、どうすれば良いのか迷っている。」
「だろうな。お前は優しい奴だ。きっとそうだと思っていたぜ。」
「師匠…カタストロフ…」
レジェリーはそこに割って入ろうとするが、ボルドーはそれを静止した。
「ボルドー様…」
「これはアイツらの選択だ。俺様たちが口を挟むことじゃねぇ。」
「…そう、ですよね…」
(カタストロフ―――あなたの選択をあたしも尊重したい…でも…)
「ハ、ハハ、甘過ぎだぜ…カタストロフよぉ…」
ウルストは笑って見せる。
「…とことんまでに甘いぜ…!そんなんじゃ足元救われちまうなぁ…こんな風によぉ!!!」
ウルストは手を前に出す。
「何を…!?」
その時、ウルストが病院に設置していた攻撃を起動させたのだ。
「マズい!」
その動きに咄嗟に反応したのはボルドーだが、もう手遅れだ。
そこにはクライドが居るはずだが、クライドだけで全てを守り切るのは難しい。
被害は避けられないと思ったが―――
「俺の管轄で勝手な真似はさせぬ。」
その声と共に、ウルストの技は不発した。
「…あ?」
「…助かったぜ…ガディアル。」
ガディアルだ。
防御結界を一時的に解除し、病院の前に立ってウルストの技を全て吹き飛ばしたのだ。
「…残念だったなウルスト。ワリィがこっちにはお前と違って大勢の仲間が居るんだよ。」
「くそがァ…ッ…!」
「…カタストロフ、どうするよ。」
「…我は…」
カタストロフは悩み続けるが、このままではいけない。
デーガだってウルストには恨みが多いはずだ。だが、こうやってトドメの機会をカタストロフに譲ってくれている。
それは魔王と勇者の長い長い歴史に今度こそ終止符が打たれようとしているからだ。
個人的な憎しみよりも、その因縁を重んじたデーガは、カタストロフにそれを譲ろうとしているのだ。
「誰もお前を咎めない。それは分かるな?」
「あぁ…分かっている…」
そう、もうカタストロフを咎める者はいない。むしろここでウルストを倒したカタストロフはこのドラゴニアでは今以上に英雄だと言われるだろう。
カタストロフはもちろんそのようなことに興味は無いのだが…ウルストを倒すことは自分の悲願であり、自分が前に進むための一歩である。
だからこそ…
「…デーガ、いつもすまぬ。そして…ありがとう。」
「いいってことよ。お前の想い、俺も一緒に背負うからよ。」
カタストロフは手をウルストに向かって出す。
「ヒッ…!」
ウルストはここで初めて恐怖を覚えたのだ。
痛みを知り、そして今度は死を知る。
かつて死んだときの自分はそんな恐怖すら抱くこともなかったはずだ。
だが、今は襲い来る恐怖と絶望にウルストは震えている。
「…今こそ、終止符を討とう。最悪の勇者ウルストよ。」
「く、くそっ!死にたくない!俺はぁッ!!」
「…終わりだ。」
そう呟くカタストロフ。
だが―――
「待ってッ!!」
「あっ、おいッ!!」
ガシッと、前に出した腕は掴まれた。
「…ケッ…やっぱ出て来たか。らしいっちゃらしいけどよ。」
「…やはり、お前は止めるのだな―――」
「…ッ…」
その小さな手、自分が好きになった愛する者の目に零れる涙に、その手は止まった。
「―――レジェリー。」
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