Delighting World Brave 二章 三幕~ ドラゴニア防衛戦 独りじゃない~
魔王カタストロフは最悪の勇者ウルスト・ハーツと再会した。
かつて魔王カタストロフが絶対悪であった太古の昔、まだ世界が分かたれていなかった時代。
ウルストは歴代の勇者の中でも最強の力を有し、更にその根からの悪人として現れた。
徹底的に心を打ちのめされた魔王カタストロフが今までのことが全てどうでもよくなってしまうほどに酷く疲弊し、心を壊されたあの出来事を忘れるわけがない。カタストロフはウルストにされたことを思い返すだけで膝が震えるほどだ。
だが、カタストロフは負けられない。
今、カタストロフの後ろには守るべきものが居るからだ。
それはこのシンセライズという世界。魔王カタストロフは抑止力として、そしてこの世界で出会えた友たちのため、友たちが愛するこのドラゴニアという国のため、大きなものを背負い、カタストロフは勇気を振り絞ってウルストの前に立つ。
カタストロフと最悪の勇者ウルストの戦いが時を超えて再び始まった―――
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Delighting World Brave 二章 三幕(~ドラゴニア防衛戦 独りじゃない~)
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カタストロフとウルストが会敵し、カタストロフの一撃がドラゴニアに爆音を響かせた。
ビライトはレジェリーにボルドーたちへの報告を任せて1人ドラゴニアの避難所へと急ぐ。
「カタストロフ…!」
ビライトに不安が過る。
カタストロフにとってウルストは恐怖の対象。そして宿敵…トラウマだ。
今の音がカタストロフがやられてしまった音だとしたらと思うとビライトは不安な気持ちになるが…
「いいや、カタストロフが簡単に負けるわけない…!」
ビライトはドラゴニアの坂道を下り、避難所への道を走る。
避難所側から悲鳴が聞こえ、多くの国民やワービルトやヒューシュタットから応援に来ていた人間たちや獣人たちがビライトが向かう方向とは反対側に走っていく。
「逃げ遅れた人たちがいるかもしれない…!」
ビライトはエンハンスを発動させ速度を上げる。
避難所付近は大きな煙があがっており、その中から戦いの音が聞こえる。
「くっ、中が見えない…!」
ビライトは煙の向こうの状況が分からず立ち止まってしまう。
「あっ!お前、ビライトか!?」
「!」
煙から飛び出してきた竜人が2人。
その1人はゲキだった。
「ゲキさん!」
「お前どうして…帰って来たのか!?」
「はい!だけど今は説明している暇はなさそうだ…!」
「そうだな…悪い、俺はこの人を連れていく。煙の中で何やら見たことも無い種族の奴と人間が戦っている!どっちがあんたの味方かは分かんねぇけど…!」
「げほっ…げほっ…すみません…」
ゲキが抱えていたのはヴァゴウの妹であるサーシャだった。
しかしビライトとサーシャは初対面。ヴァゴウの妹であることは知らない。ビライトから見れば普通の竜人だ。
サーシャは煙を吸い込んでしまい、苦しそうだった。
「分かった、ありがとうゲキさん!その人と一緒に避難して!」
「おう、死ぬんじゃねぇぞ!」
「はい!」
ビライトは煙の中へと口を押えて入っていく。
「あの人は…」
「大丈夫だ。アイツは俺たちの味方だ。」
ゲキは詳しいことは話さず、サーシャを連れて煙とは反対側へと走る。
(ビライト…死ぬんじゃねぇぞ!)
―――
ゲキと分かれビライトは音のする方へと向かう。
「ウオオオオッ!!!!」
「!カタストロフの声…!それにブレイブハーツの光だ!」
ビライトはカタストロフの咆哮、そしてブレイブハーツの光が煙の奥から激しく輝いていた。
――――――
「もう怯えぬ。我は守るのだ。愛する者たちが笑顔で過ごせる未来を。」
「やってみろよ、三下が。」
カタストロフとウルストはお互い睨み合う。
そしてビライトが現地に到着した。
「カタストロフ!」
「ビライト…!」
「あ?手下のご登場ってか?」
ウルストはビライトを見て笑う。
「…!」
ビライトはゾクッと寒気を感じた。
(なんだコイツ…!ただそこに居るだけなのにとんでもない力を感じる…!イビルライズの力よりも…ずっと強大じゃないか…!こいつが…最悪の勇者…!?)
ビライトはイビルライズの力を感じることができる。だが、ウルストが持っている力はイビルライズとは別のもっと強力な力だ。ビライトは一歩、後ろへと足を下げてしまう。
「手下ではない。我が友だ。」
「ふーん、友ねぇ~…」
「ビライト、この子供を連れて逃げるのだ。」
カタストロフの傍には子供が震えていた。
「…あんたはどうするんだ。」
「我はウルストと戦う。周りに守るべきものは少ない方が戦いやすいのだ…頼む。」
カタストロフは子供の頭に手を優しく乗せる。
「…おじ、さん…」
「ありがとう、我を信じてくれて。」
カタストロフはそう言いながらウルストを睨み続ける。
「…はん、その目…気に入らねぇな。」
ウルストは剣を構え、一気に攻め寄る。
「!」
カタストロフは防御壁で受け止めつつ、ウルストの身体を押さえつける。
「チッ、ブレイブハーツの力で身体を極限まで強化してやがる。」
ウルストの攻撃を受け止めるカタストロフだが、やはり押されているのが分かる。
「ビライトッ!急げッ!」
「わ、分かった!送り届けたら加勢するからな!」
ビライトは子供をおんぶして走り出す。
「おじさん…!」
「行けッ!」
煙の中に消えていくカタストロフとウルストの姿に竜人の子は涙を流す。
「大丈夫。カタストロフは強いんだ。」
ビライトはそう励まし、急ぎ子供を病院へと送り届けようと走る。
子供の近くに居た大人たちも既に逃げ出しており、避難所にはもう人の気配は感じない。皆逃げ切ったようだ。
だが、ウルストの力をもってすればあっという間にこの国は蹂躙されてしまうだろう。それをあえてせずにいるのは、ウルストがまだ余裕があって楽しんでいる証拠だ。
「逃がしたかぁ。」
「…貴様は相変わらず命を殺めることに躊躇いなど無いようだな…」
「命を殺めてはならないなんてモンは周りの奴らが勝手に決めたことだ。俺には関係ない。」
「外道が…!」
「お前もかつてはそうだったはずなんだがな。」
「…そうだ。そうであった。だが今は違う。我は全ての命を愛おしく思う。」
「ホントヘタレちまったなぁお前。こんなに楽しいことをやめちまうなんて。」
ウルストはため息をついた。
「命を殺めることに躊躇いを持たぬ貴様を見過ごすことは出来ぬ。」
「…なぁ、カタストロフ。なんで命を殺めちゃいけないんだろうな?」
「…貴様は…何処までも分からず屋だ…!!」
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避難所から離れるビライトたち。
(急いで加勢に行かないと…!)
ビライトは焦りを見せる。子供はそんなビライトを見て…
「お兄ちゃん、大丈夫…!おろして!」
「えっ?」
ビライトの足が止まる。
「ボク、一人で逃げる…だから、あのおじさんを助けて…!」
子供の身体は震えている。しかし、そこには小さな勇気を感じた。震えているが、その目は真っすぐだったのだ。
「…分かった。病院の場所は分かるか?」
「うん。」
ビライトは子供を下ろし目線を合わせる。
「気を付けて、ゆっくりで良いからな。アイツは俺たちが食い止めるからな。」
「うん。お願い…!」
子供は一生懸命走り出す。ビライトはそれを見送り、カタストロフの元へと戻る為走り出すのだった。
「…カタストロフ、今行くから!」
ビライトは走り出す。
カタストロフは1人で戦おうとするだろう。その気持ちもビライトは分かっている。だが、カタストロフは大切な仲間だ。いざとなったらカタストロフを支えられるように…ビライトはそう思い、カタストロフとウルストの元へと戻るのだった。
そして、レジェリーは…
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ビライトがカタストロフの元に向かっている時、レジェリーはボルドーの元へと急いでいた。
「ボルドー様、先程の音は…!」
「分からねぇ。すぐに調査を…」
「ちょっと待ってッ!!」
広間に居たボルドーたちの元へとレジェリーがたどり着く。
「レ、レジェリー!レジェリーじゃねぇかッ!」
「ボルドー様ッ!良かった…ちゃんと元に戻って…って!ごめんなさい!今は感動してる場合じゃなくって…!」
レジェリーは嬉しくて感極まりそうになるが、今はそれどころではない。レジェリーは自分の気持ちを抑え込む。
「あぁ、そうみてぇだ。せっかくの再会に俺様も嬉しい限りだが…さっきの音は何だ?」
ボルドーは冷静にレジェリーに尋ねる。
「えっと…!」
レジェリーは簡単にウルストとカタストロフのことを話す。そしてビライトが今向かっていることを説明した。
本当ならばもっと詳しいことを説明しなければならないのだが今は全てを説明している場合ではない。レジェリーは簡単に説明する。
「…!聞いたな?」
「はい。直ちに避難の誘導と救助を!」
兵士たちが一斉に外に飛び出し、国民たちを誘導し、被害を受けた者たちが居るならば救助を行うべく走り出す。
「レジェリー、カタストロフとそのウルストとやらが戦ってるんだな?」
「多分…!」
「そうか。」
ボルドーは立ちあがる。
「あなた…身体は…」
メルシィが不安そうに声をかける。
「民が怯えている今、こんなところでくすぶってるわけにはいかねぇ。」
ボルドーは歩き出すが、グラッと立ち眩みを起こし身体がよろめく。
「ボルドー様!」
レジェリーはボルドーの倒れそうになった大きな身体を受け止める。
「…ッ…すまねぇ、レジェリー。」
ボルドーはまだ身体が万全ではない。今のまま飛び出しても足手まといなのは明白だった。
元気はある。体調も悪いわけではない。
だが、身体だけが思うように動かない。魂と肉体の結びつきがまだ万全ではないボルドーはナチュラルの言う通りしばらくはずっとこのような状態だ。
このような状態だと戦うことなど到底無理だろう。
「ボルドー様、ここはあたしたちに任せて!ボルドー様は王になるお方なんだから!みんなの為にここに居てあげて!」
「ッ…しかしだな…」
ボルドーはここでじっとしていることが許せない。
「王は何が何でも国民のこと守らなきゃいけねぇんだ。国民なくして国は存在できねぇ。グリーディのときだってドラゴニアに居なかったばかりに何もできなかった…だが今は違う。俺様はここにいる。戦えなくても出来ることはあるはずだ…!」
ボルドーの意思は固い。戦うことができなくても何か出来ることがあるはず。そう考えているようだ。
「…ボルドー様…」
「大丈夫だ、せっかく繋いだ命だ。メルシィとブランクにも悲しい想いはもうさせねぇ。それに…もう1人、大事な家族が出来たんだ。」
「えっ?家族って…?」
「あとで紹介してやるよ。とにかくだ。俺様は行くぜ。避難誘導でも人命救助でもなんでもやってやる。こんな俺様でも1人動くだけで何かが変わるなら。」
ボルドーは身体を必死に自分にしっかりしろと言い聞かせるように歩く。
そんな懸命な姿を見てレジェリーにはもう止めることは出来なかった。
「あなた!」
メルシィはブランクを抱きしめながらボルドーを呼ぶ。
「あなた、約束です。」
「あぁ、分かってる。絶対お前たちの元に帰る。」
ボルドーは微笑み、城の外へと出て行った。
「…ボルドー様…」
「レジェリーさん、主人をお願いします。」
「…はい!必ず連れて帰りますッ!」
レジェリーはそう約束し、ボルドーを追いかけた。
―――
「…」
外へと出るボルドーとレジェリーを屋上から見ていたカナタ。
(ボルドー…全然身体が言うことを聞かないんだ…そんな状態じゃ…私に出来ることは…)
カナタは考える。
そして、カナタは忘却の惑星でのことを思い出す。
カナタの持つわずかな神力をボルドーに与え、それは2人の絆により大きく輝きボルドーは少しの間だけ神力の力を使い戦うことができた。
「私の中に眠る小さな神力が…彼の力になれるかもしれない…」
カナタは決意を固め、屋上から下へと降りる。
そして城の出口に向かって進むが…
「カナタ。」
振り返るとそこにはメルシィとブランクが居た。
「…メルシィ。私、ボルドーを助けたい。」
「危険ですわ。」
「分かってる。でも、私なら…ボルドーに力を与えることが出来るかもしれない。あの時のように…」
「神力…ですわね。」
カナタは頷く。
「私は人間になった。もう神様じゃない。だけどこの身体にはわずかな神力がまだ残っているってナチュラルが言ってた。だから私、その力を信じたい。そしてそれがボルドーの力になるなら…私は命をかけてボルドーを助けたい。」
カナタはそう言い、ボルドーを追いかけた。
「…私は、やっぱり何も…ううん、私に出来ること…それはここを守ること。」
メルシィは今自分に出来ることをやるため、ボルドーの代わりにここで帰りを待ちながら城に逃げてきた避難民たちを保護したり、兵士たちにも出来る限りの指示をし、ボルドーたちの帰りを信じて待つことにした。
「皆が命をかけて頑張っている…私も覚悟を持って自分の出来ることをやりますわ。」
「あう~」
「ブランク、私頑張るからね。」
メルシィは皆を信じて、皆が帰る場所、皆が生きる大切な場所を守る為に行動するのだった。
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―――
「なぁ、お前やっぱ弱くなったんじゃないの?」
「…」
ビライトがこの場を離れて間もなく、カタストロフはウルストの攻撃を受け止めきれず、地面に伏していた。
(この状況…あの時と…同じだ…)
かつて、自分がウルストに徹底的に打ちのめされた時も何も出来ずただ伏しているだけだった。そして自分の頭上からウルストが笑っているのだ。あの時と、同じだった。
ブレイブハーツを以てしても自分はウルストに勝てない。カタストロフにあの時の絶望が押し寄せる。
まだ絶対悪として心を持たずしたあの時ですら覚えた恐怖や痛みへの記憶が鮮明にカタストロフに押し寄せてくる。
カタストロフは今、恐怖に打ちのめされそうになっているのだ。
「器が無いとその程度ってことか。お前の器…デーガって言ったか?」
「…」
「ハッ、イビルライズから教えてもらったぜ。魔族と竜人の混血。そんな奴が魔王名乗ってんのな。」
ウルストは笑いながらカタストロフの背を踏みつける。
「グッ…」
「そんな半端者を器に選んだお前も半端者ってことだな。お前にはとことん失望したぜ。」
「グッ…アアッ…」
ウルストは剣をカタストロフの右腕に突き刺した。
「なぁ、お前はどうしてそんなになっちまったんだ?お前だけは俺を満足させてくれると思ったのによ。」
ウルストは笑いながらカタストロフの右腕に刺さった剣を左右に揺らしながら深く、深く刺していく。
「くだらねぇ善の心なんて生みやがって。お前も、半端者の器も、とことんまでにどうしようもねぇ奴だ。」
「…くだらなくなど…ない…」
「は?」
「…デーガは…半端者などでは…ない…」
カタストロフは必死に声を出す。
「我は弱い…今もこうやってお前を前にして何も出来ずに打ちのめされている…だが…我が友、デーガは違う…!デーガを馬鹿にすることは…決して許さぬぞ…!!」
「許さなかったらどうするってんだよ。」
ウルストの剣は更に深く、カタストロフの右腕を貫いていく。
「ガッ……デーガは…強い…例えどんな絶望に打ちのめされたとしても…立ち上がり、前を向き、そして命をかけて…愛する者たちの為に己の命を犠牲に何千万年も戦い続けた…強き戦士だッ…!」
「…ハッ、三下が。」
ウルストは冷めた目で剣を引き抜く。カタストロフの右腕から血が噴き出し、更にウルストはカタストロフの目の前に剣を差し向ける。
「だせぇんだよ。」
そう冷たく言い放ち、剣をカタストロフの頭上へと突き刺そうとする。
「おおおおおおおっ!!」
しかし、その剣は不意の攻撃で弾かれた。
「…てめぇ。」
剣を弾いたのはビライトだった。
メギラエンハンスとブレイブハーツを重ね掛けし、ウルストの剣を力づくで弾き飛ばした。剣は地面に突き刺さり、ウルストは冷ややかな目でビライトを睨みつけた。
「カタストロフから離れろッ!」
「ビライト…」
ビライトはそのままウルストに大剣を振るい、ウルストは後方へと下がる。カタストロフはなんとかウルストの縛りから解放されたのだ。
「ビライト・シューゲン。イビルライズの器か。」
「俺はもうアイツの器じゃない!」
「ハッ、感じるぜお前の力。カタストロフより全然弱いじゃねぇか。」
ウルストは笑う。
カタストロフの力とビライトの力を比べ、ビライトの方が弱いと判断した。
「弱い奴がでしゃばるなよ。」
「…少なくとも、俺はあんたより弱いかもしれない。カタストロフだって抑止力で魔王だ。俺よりよっぽど強いよ。だけど…俺も、カタストロフも…この胸に秘めた想いだけはあんたには負けない。ただ自分の為だけに悪行を重ねて、誰かを傷めつけて、殺して笑っているような奴に…俺たちは負けないぞ!」
ビライトはウルストに剣を向ける。
「ハッ、威勢だけは良いじゃん。」
ウルストが手を伸ばす。するとウルストの剣が浮きウルストの手に帰っていく。
「ただ残念。俺は自分のやっていることを悪いとは思っていないんだな。」
「…」
「良いか?これはゲームなんだ。俺が主人公の勇者で、お前たちはただの一般人。そしてカタストロフを倒してこの世界を俺のものにする。イビルライズも俺のものにしてやる。それでゲームクリアだ。」
「勇者だからって何をしてもいいわけじゃない!」
「してもいいんだよ。俺は勇者だから。」
まるで通じていない。
ウルストにとっては自分が世界の中心でそれ以外はただのゴミのようにしか見れていない。
それは純粋なものであり、誰かに感化されたものでもない。彼は生まれつきそういう人間なのだ。だからこそ、ビライトの言葉も、カタストロフの言葉も届かない。
「勇者は…誰かのために勇気を持って戦う者のことを言うんだ。お前なんか勇者じゃない。」
「お前が決めることじゃない。俺が決めることだ。」
「違う!」
ビライトはカタストロフの肩に手を置き叫ぶ。
「誰かのために、皆のために命をかけて震える身体を抑え込んでも戦い続けるカタストロフの方が立派な勇者だ。あんたは勇者なんかじゃない。」
「そいつは魔王だ。世界の敵だろ?」
「違う。カタストロフは世界の敵なんかじゃない。世界の敵は…お前だ!ウルスト!」
ビライトの目はまっすぐにウルストを睨む。
「へっ、忘れたわけじゃないよな。そいつが過去に何をしてきたか。」
ウルストは過去の話をする。カタストロフがまだ絶対悪だった時代には多くの者が苦しみ、死に絶えていた。
カタストロフには昔犯した大きな悪行がある。
「…忘れてなどおらぬ…あれも我の罪だ…そんなことは百も承知…その罪が消えることは無い。」
カタストロフはビライトの手を持ちながらゆっくりと立ち上がる。
「だからこそ…我は戦うのだ。全ての罪を背負い…これからも生きていくために…」
「カタストロフ…」
「それに…我は、このような素晴らしき仲間が居る。我に寄り添ってくれる仲間が大勢できたのだ…お前は……どうだ…?いつだってお前は1人ではないか…」
「くだらねぇ。仲間なんて必要ねぇ。全員俺より三下なんだからな。」
「…お前は本当に何も分からぬのだな……哀れだな…」
カタストロフの言葉にウルストは顔をしかめる。
「哀れ?俺が?」
「そうだとも、世界の温かさ、優しさ、人の温もりを知らぬお前は…実に哀れだ。」
「三下がよく吠える。」
「三下で結構だ…それで愛を受けられぬのならば…我は一生三下で構わぬ。」
「じゃぁ一生三下でいろよ。」
ウルストは初めて怒りの顔を見せた。
剣に強い雷の力が集まってく。それだけではない。
「へっ、そこまで言えるなら力で証明してみやがれッ!!」
ウルストの剣には赤いオーラと雷が集まり、世界が揺れる程の強力な力が宿ろうとしていたのだ。
「あの赤い光は…まさか!」
「…奴は腐っても勇者だ。奴に宿る赤い光は…ブレイブハーツ。」
「ブレイブハーツは…想いの力なんじゃ…!」
カタストロフは頷く。
「奴の想いは本物だ。その考えは歪んでいても、その歪んだ想いも強ければブレイブハーツは応えてくれる…」
「…どうすれば…!」
ウルストの力は強大だ。世界を震えあがらせるほどの大きな力が放たれてしまえばこのドラゴニアどころかこの一帯全てが灰になってしまうかもしれない。
「奴を全力で止めるしかあるまい。」
「…俺たちだけでどうになかるものなのか…?」
「…いいや……感じぬか?我らの背には…仲間が居る。」
「!」
ビライトが後ろを振り向く。
そこに居たのは…
「ビライト!カタストロフ!!」
レジェリーだ。
そして、その後ろに大きな竜人の姿と、小さな人間の少女の姿。
それだけではない、鎧を装備した竜人たちが大勢いた。
「よう、待たせたな。」
「ボルドーさん…!それに、ドラゴニアの皆が…!」
「あたしたちも加勢する!アイツを止めましょう!!」
レジェリーたちと、兵士たちは一斉に魔法の準備を始める。
そして、ボルドーと傍にいる少女カナタはビライトとカタストロフの傍に立つ。
「ボルドーさん…無事で…それに、その子は…?」
「詳しくはコイツをぶっ飛ばしてからだ。積もる話はあるがな。」
ビライトはボルドーとの再会に感極まっている。その目にはうっすらと涙が見える。報告したいことも沢山ある。謝りたいこともある。
だが、今は感動の再会をしている余裕はない。ビライトは自分の気持ちを今は押し込むことにした。
ボルドーは今はカナタのことは語らずにいた。
「よう、また会えたじゃねぇか。カタストロフ。」
「そうだな…ボルドー・バーン。本当に分からぬものだな…人の生というものは。」
「戦えるか?」
「お前こそ…まだ魂と身体の照合が不安定のようだが…」
「そんな時の為にこの子だ。」
カナタはボルドーにずっとくっついている。
何か力を送り込んでいるようだ。
「ボルドー、一時的に動けると思うけど…でも長くは動けない。」
「十分だ。」
ボルドーは戦闘体勢を取る。
「全員でやるぞ!!」
「「「オオッ!!!!」」」
その掛け声と同時に、ボルドーにはカナタが流し込んでいる神力とブレイブハーツが同時に。
そして、兵士たち全員にもブレイブハーツが発動していたのだ。
「こんなに多くの人がブレイブハーツを…!」
「皆が…これだけの熱き想いを秘め…そして戦おうとしている。それは…まさに勇気ある者たちだ。」
カタストロフの心は満たされていく。
「あぁ、温かいな…」
カタストロフの張りつめた表情が緩む。
「我は独りでウルストと決着をつけるつもりでいた。しかし我はまた、間違えていたようだ…我は独りでないのだから…もっと頼っても良いのだな。」
カタストロフは刺された腕を治癒魔法で回復させ、そしてブレイブハーツをより強く高めていく。
「カタストロフ、あんたの気持ち、優しさが伝わってるんだ。」
「その通りだッ!お前の優しさに俺様は救われた!そして、お前のその優しさの結果が今ここにあるッ!お前は独りじゃねぇッ!」
「そうだよカタストロフ!あたしたちが居る!!見せつけやりましょ!アイツにあたしたちの力をね!」
「…ウム。もう意地を張るのはやめだ。皆で力を合わせよう。」
「ダハハ!それでいいッ!」
「でもボルドーさん、こんなところで力をぶつけ合ったらドラゴニアが壊されてしまうんじゃ…!」
ビライトはドラゴニアの被害を心配するが…
「あぁ、心配には及ばねぇ。さっき出会った心強い味方が安全を保証してくれてる。」
ボルドーは上空を見る。
そこに居たのは…
「あっ…なるほど。確かに大丈夫かもしれないな。」
「この街の全ての建物、そして周囲、全てにアイツの防御壁が張られているらしい。目には分かりにくいがな。つまり周りを気にしなくてもよくなったってことだ。俺様にも分かるぜ。ありゃ言い方は悪いが良い意味でバケモンだ。」
「そうだな。頼むよ――ガディアル。」
上空に居たのはガディアルだった。そしてそこから城に向かってクライドが着地したのが見えた。
「ワービルトの方は片付いたらしい。」
カタストロフも安堵の表情を浮かべていた。
「仲間が何人集まろうが一緒だぜ。」
「一緒じゃない!」
「なら決めようじゃねぇか!俺の力とお前らの力、どっちが強いかをな!!」
勇者ウルストの力、そしてカタストロフたちが束ねた力。
二つの力がまもなくぶつかり合う―――