Delighting World Brave 一章 八幕 ~ワービルト防衛戦 そして、剣と爪は交わる~
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Delighting World Brave 一章 八幕(~ワービルト防衛戦 そして、剣と爪は交わる~)
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「元気にしていたかい?」
「…お前は元気そうじゃないな。」
クライドは警戒を解かずにサベージと会話を試みている。
ラプターはずっと威嚇しており、今にも飛び出しそうな勢いだが、クライドがラプターの身体を擦り、落ち着かせている。
「死んでるからね。」
「…サベージ、ギールは奥に居るんだろう。そこを通してくれ。」
クライドはサベージに願うが、サベージは小さく笑う。
「通すわけないだろ?だってギールはボクだけのものなんだから。お前なんかがギールの足元すら拝めると思うなよ。」
サベージはギールのことで頭がいっぱいだった。
「それにギールが言ったんだよ?クライドを足止めしろってさ。」
「何だと…?ギールが…?」
「あぁそうさ、ギールがボクにお願い事をしてくれたんだよ?あはは、最高だと思わない?しかもその内容がお前を止めろだなんてさ。傑作だ。ギールに嫌われちゃったかな~?」
サベージは笑いながらクライドを煽る。
「事実は俺の目で確かめる。サベージ。そこをどく気が無いなら俺はお前を倒さなければならない…それに…正直俺も憤りを感じているんだ。」
「はぁ?」
クライドは短剣を構える。
「俺はとあるお節介な奴から“あの日”のことを全て知った…」
「知ってるさ。イビルライズ様が言ってた。」
「…つまり、どういうことか分かるだろう。」
クライドはサベージを睨む。
「ボクを憎んでいるかい?」
「その通りだ。俺はあの日のお前を許すことはできない。できるはずがない…だが俺は結果的にあの日があったから今の俺がここに居る。」
クライドは語る。
「何もかもが虚しかった日々に彩りが生まれた。お節介な奴らのおかげでな。俺にはヴォールはもう必要ない。だが…」
クライドはブレイブハーツを発動させ、サベージの傍まで走り出す。
「おっと。」
サベージは目の前に機械のようなものを出現させクライドの短剣を受け、そのまま機械に乗り込み宙に浮く。
「お前とギールが俺たちの目的の妨げになっている今、俺は生き残った者の責任を果たすため…お前とギールを眠らせてやる。」
「ハハッ!やれるもんならやってみなッ!」
サベージは指を鳴らす。すると周囲から無数の小型円形の機械が動き出し、周囲をウロウロしている。
「お前の行動はどこにいてもお見通しさ。そしてそれだけじゃない。」
およそ40を超える小型機械だけでなく、オートマタのような人造兵器が奥から20人ほどやってくる。
「…!」
「ボクの持つ技術とヒューシュタットの技術を利用した機械軍団だ。お前とちんけな獣1匹だけでなんとかなるかな?」
「チッ…やはり正々堂々と戦うつもりはないようだな。」
「正々堂々なんてくだらない。勝てばいいんだよ勝てばね。」
人造兵器が手からレーザーを一斉に発射する。
咄嗟にジャンプして躱し、そのままラプターの傍で着地するクライドはラプターに乗る。
「俺が指示を出す。一気に走れッ!」
「ギャウッ!!」
ラプターはクライドの指さす方向に走りだす。
ラプターの足の速さは折り紙付き。クライド単独で走るのと同等か、それ以上ぐらいの速度を出そうと思えば出せるのがラプターだ。
そしてなにより広大なジイル大草原を走り続けることができるほどのスタミナの多さもラプターの武器だ。
「素早いけどこの機械たちから逃れられるかな?」
「走れッ!攪乱するんだ!」
クライドはラプターに的確に指示を出して、レーザーを躱していく。
少しずつ距離を詰めていき、1体1体確実に小型円形の機械を攻撃して倒していく。
「無駄だよ。」
サベージは小型円形の機械に指令を出す。
すると数体の機械の中から小さな指のように細い装置が現れ、機械を高速で修理していく。
「チッ、厄介な。」
「あはは、キミの実力は分かっているからね。壊された機械はすぐに直せるようにしてあるのさ。」
「一気に倒すしかないな。ラプター!フォローを頼むぞッ!」
クライドはラプターから降り、ブレイブハーツを纏いながら目にも留まらぬ速度で次々と機械を倒していき、そしてオートマタのような人造兵器に向かって突っ込み、足技で一撃で粉砕する。
「へぇ、やるねぇ。」
サベージは少しだけ顔を歪ませ小さい舌打ちをした。クライドの一撃はサベージから見たら少し想定外だったようだ。
「どうした、顔色が変わったぞ。」
「癇に障る。」
クライドとラプターは素早さで攪乱しながら次々と倒していく。
そしてラプターも学習したのか、修理をしようとする小型円形装置を狙い修理の妨害をしている。
クライドはそれを見て安心して背中を任せ人型人造兵器を倒していく。それに向かって小型円形も向かっているが、クライドは魔法を撃ちながらそれを妨害していく。それにより小型円形の数は徐々に数を減らす。
サベージはクライドやラプターが届きにくい空中で様子を見ているが段々顔が歪んできているのが分かる。
「一気に片付けるぞ。」
「ギャウッ!」
クライドとラプターの連携は完璧だった。
ラプターはクライドの気持ちを汲み取るようにクライドの行動を予測して衝突を避け、そしてクライドの後方を狙う機械を攻撃するなどして、まるで心が通じ合っているようだった。
(怖いぐらいに良い連携が出来ているな。ラプターは元々賢い魔物だがここまでとはな。)
クライドはラプターの賢さに感心しつつ、安心して後方を任せられていた。
そして距離を詰めてついにサベージの傍までクライドは接近した。
「サベージッ!!!!」
「チッ!ボクに触れるなッ!」
クライドは地面を強く蹴り、そいてブレイブハーツを集中させた右足で勢いよくサベージの身体目掛けて回し蹴りを狙う。
だがサベージの乗っている機械は魔法を利用した防御壁を展開した。
「魔法だと…!」
ブレイブハーツとサベージの防御壁が激突して火花を散らす。
「ハハッ!ボクの機械を舐めるなよ!魔法をエネルギーに変換して作った防御壁だッ!」
「ならば…それすらも打ち砕く!」
クライドは更に力を込めて防御壁を打ち破ろうとする。
「もっとだ!もっと応えろブレイブハーツ…そして、俺の中に眠る転生者の力よ…!俺に…力を分けてくれッ!!」
クライドの眠っている転生者としての力、それは前世であるジャイロの力を上乗せした更に強く、重い一撃だ。
「クッ…!マジかよコイツ…!」
サベージの防御壁が砕けようとしている。
そしてクライドは後方の気配も見過ごしてはいなかった。
「何ッ!」
そう、ラプターだ。
ラプターもクライドの後方まで接近しており、高く跳躍した。
「力を合わせるぞ!全力で叩き割れッ!!」
「ギャウウッ!」
ラプターの鋭い爪がトドメとなった。サベージの防御壁がガラスが割れるような音で砕け…
「…!」
「サベージ!死者は死者の居る場所に帰るがいいッ!!」
「舐めるなアアアッ!!!!」
サベージは勢いよく飛び降り、クライドの足技を回避しようとする。
機械から落下し、地面に着地してすぐに銃を取り出す。
「遅いッ!!」
クライドは短剣を腰から抜き、サベージの銃を弾き飛ばして足でサベージを強く蹴り飛ばした。
「ギッ!?」
サベージは勢いよく壁に叩きつけられ、そしてクライドに続いて地面に降り立ったラプターは一気にサベージに接近し爪を振りかざした。
「ギアッ!?」
サベージの身体は爪で傷付き、赤黒い血が舞った。
ラプターはそのままトドメを刺そうと牙でサベージの首元を狙っている。
「ウ、ウアアアッ!?ちくしょう!!」
サベージは焦り身体を動かそうとするが思うように動かせない。そしてラプターが本当にトドメを刺そうとした時だ。
「ラプター!もういい!」
クライドがそれを静止した。
ラプターは寸前で攻撃を辞め、キョトンとした目でクライドを見る。
「お前が汚れる必要はない…あとは俺がやる。」
クライドはラプターを引かせ、そしてバインド魔法をサベージの両手両足にかけ、動きを封じた。
「…く、クソッ…機械も全滅だと…!?ふざけるな、ボクがお前なんかに…!」
「サベージ…どうしてだ。何故ヴォールを…ヴォールを壊滅させた。お前にとって…お前にとっての仲間はギールだけだったのか…だったら…俺たちが一緒に受けてきた依頼で築き上げたものは偽りだったとでもいうのか…!」
クライドは何も抵抗できないサベージに尋問した。あの日の恐怖、絶望、震えて止まらなかった悲しみ。それを脳裏に浮かべながら…
「ハ、ハハ…偽りだとも。」
「…ッ…!」
クライドは短剣を喉元に突きつける。
「ボ、ボクはヴォールの最初のメンバーの1人だったんだぞ。ギールもボクのことを凄く頼りにしてくれた!!ギールは家族を事故で亡くして1人ぼっちになったボクを救ってくれた命の恩人なんだ!そしてそのかっこいい姿に憧れた!!大好きだった!だからボクだけを見て欲しかった!なのにギールはたくさん仲間を増やして…ッ…そして、トドメを刺されたよ!クライド!お前という存在がヴォールに入ってからギールは更にボクを見てくれなくなった!そうだよなぁ!お前は…お前はギールのお気に入りだった!許せなかった!絶対に許せなかった!ボクだってギールの為に一生懸命だったのに!なのにギールはお前のことばかり話をした!お前のことばかり褒めていた!許せない許せない許せないッ!!!」
サベージの目は瞳孔が見える程酷く怒りに満ちており、目も激しく充血しており呼吸も酷く荒い。
激しい動悸を見せながらサベージはクライドに強い憎しみの力をこれでもかとぶつけていた。
「…ギールは…ギールは仲間を差別するようなことはしないッ!ギールは…ギールは俺たちの柱だった!お前のこともたくさん褒めていた!なのに…それすらもお前にはノイズだったというのか!」
「うるさいッ!ギールは皆に優しいんだ!でもボクが求めるギールはそんなんじゃない!ギールはボクだけを見てればよかったんだ!」
「それはお前の価値観を押し付けているだけだろうがッ!!!」
クライドは今までにないほどに大きな声を出し、サベージを怒鳴りつけた。
「うるさい…!」
「サベージ、お前がギールのことを誰よりも好きだった気持ちは分かる。だがそれは皆同じだったんだ。ギールは…ギールが望んでいたのは…お前の望んでいるギールではない!」
「黙れよ…!」
「ギールは誰に対しても平等だったはずだ!誰に対しても時には厳しく、時には優しく…そして、ギールは…ギールはいつかヴォールを脱退した者が居たとしても…いつでも帰ってこられるような、家族のような場所にしたいと願っていたはずだ…!お前もそれは分かっていたはずだッ!それが俺たちが…俺たちが望んでいたギールの姿だったはずだろうがッ!!」
「黙れエエエーーーーーーッ!!!!」
サベージにはもはやクライドの言葉は届いていなかった。
「分かったような口を聞きやがってこのクソ野郎がッ!!お前にギールの何が分かるッ!」
「分かっていないのはお前だッ!!」
クライドは短剣をしまい、サベージの頬を思いっきり殴った。
「ッ!このッ…!」
サベージはバインドされており身体を動かせない。反撃も出来ないままクライドの拳を直接受けたのだ。
「嗚呼クソッ!ムカつくやつだ!!なぁイビルライズ様!!頼むよ!こいつをぶっ殺す力をボクに分けてくれよ!なぁっ!!!」
サベージは叫ぶ。聞こえているかどうかも分からないイビルライズに力を求めるサベージ。
「…サベージ…」
もはやこれ以上サベージを生かしてはおけない。
クライドは再び短剣を握り、サベージの喉元に突き立てる。
「た、助けてよギール!助けてよイビルライズ様ァ~!!」
錯乱しているサベージの姿は実に醜く、滑稽だった。クライドは結局、サベージに分かってもらえなかったことに悔しさを覚えた。
こんな形であるがせっかくの再会だった。
サベージはもしかしたら後悔していたかもしれない。自分があの日大量虐殺を起こしたことで魔王デーガとカタストロフに裁かれて無残な死を遂げた。
そしてギールにも理解を得られなかったサベージは後悔しているかもしれないとクライドはそう思っていた。
後悔していなかったとしてもクライドの言葉でもしかしたら分かってくれるかもしれない。そんな期待を抱いていたというのに、サベージには何も通じなかった。それどころかサベージは殺したいほどクライドを憎んでいた。
色々な複雑な想いが入り乱れるが、クライドは覚悟を決め、刃をその首へと入れようとした…次の瞬間だ。
「クライド。」
「…!」
クライドは剣と止め、そして振り返った。
後方に居たのはクライドと同じぐらいの大きさをした短剣でラプターの首に突き立てる1人の獣人。
その白い毛並みと赤い目、十字の傷。
長く堅い剛毛、忘れるはずもない。
その威圧感にラプターは抵抗することすらできなかった。
死者だからなのか、少し身体全体が少し黒みがかかったような姿であり、他の死者と大きく異なるイビルライズの気配を纏ったその姿はもはやギールと言えるのかも怪しいほどだった。
だが、間違いなくギールだ。その声、そしてその姿は間違いなくギールなのだ。
「…ギール…!」
「あぁ!ギール!ギール!た、助けてよッ!ボク、クライドに殺されちゃうよぉっ!!」
サベージはまるで甘える子供のように泣きじゃくりながらギールに助けを求める。
「…全く、使えないな。サベージ。」
「えっ―――……」
ギールは吐き捨てる様に呟いた。
そしてギールは短剣をサベージの心臓に向かって投げ、それはサベージの心臓を貫いた。
「ア―――ア”…?」
「…ギール!?何を…!」
「ああ”、痛いよギール…ど、し…て…?」
「…使えない部下に用はない。」
「そ―――な…」
ギールは手を前に出し、黒いオーラ様なものを呼び出した。それはサベージを包み込む。
「い、嫌だぁ”ぁ”ぁ”!!!た、助けて!お願い消さないでェェェツ!!」
「イビルライズ様は役立たずは必要ないと仰せだ。そして…それは俺の意志と同じだ。」
「ギ――――」
もはやこれ以上の言葉は許されなかった。
サベージは黒いオーラに包まれ、そのまま塵となって消えてしまった…
「…し、死んだのか―――ッ…」
クライドはギールを睨みつける。
「ギールッ!!!!」
クライドは強く激しい声でギールを威嚇した。
「…クライド、久しぶりだ…大きくなった。」
ギールはラプターから短剣を離し、ラプターを突き飛ばした。
ラプターはふらつき、地面にぺたりと倒れた。
「…ギール、何故だ。何故サベージを…!」
「お前はサベージのアレを見てどうにもならないと思っていただろう。それと同じだ。」
「ギール…」
「俺にも手に負えんことはある。サベージは道を踏み外した。誰かの言葉に耳も傾けることもせず、ただ自分の理想を他人に押し付けるだけの哀れで悲しい獣だ。」
ギールは爪を構え、クライドへと向けた。
「…ギール…あんたは…」
「さて、クライド。俺はイビルライズの命に従いお前と戦わなければならない。無論、お前が弱ければ俺はお前を容赦なく殺すぞ。だからお前も俺を本気で殺しに来い。」
「ギール!イビルライズに従うのか…!あんたほどの男が…誰かに使われるのか!!」
「俺に選択権は無い。イビルライズ様に逆らえば俺は死ぬ。俺はイビルライズ様に特別な死者として蘇らされた。俺はその辺の死者とは違い、このワービルト一帯の死者さえも操ることが出来る。俺を倒さぬ限り、この付近の死者は何度でも蘇り、そしてお前たち生者を襲い続けるだろう。」
「…ッ…やるしかないのか…」
「そうだ。お前は世界を救う為にここに居る。俺は世界を滅ぼす為にここに居る。決して握手など交わすことなどできない。いや、しかし良い機会だ。」
ギールは微笑んだ。
「何…?」
「見てみたい。お前があれから心も身体もどれだけ強くなったのかをな。それを戦いで証明してみせろ。」
「…ギール…」
「イビルライズ様に聞いた。お前はあの日の全てを知り、俺の言葉を聞き、そしてそれを胸に刻んでくれたのだろう?」
「…あぁ。」
「それでいい。フッ、全く…お前の心を動揺させろと命じられて教えられたことだったが…俺にとっては幸運だったさ。知れて良かったと思う。ここに居られて俺は幸せだ。」
「ギール…」
クライドは覚悟していたはずだった。
あの日の出来事を知り、そしてクライドはヴォールのしがらみから解放され、自由になった。
そして、これからはヴォールのことは胸にしまい、新しく自由な人生を送ろうとしているところだった。
きっとギールは現れることは予想出来ていた。死者を呼び出すイビルライズは必ず自分の前にギールやヴォールの仲間たちを会敵させようとするだろうと予想はしていた。だからこそ、ずっと覚悟していたというのに。
だが、目の前に現れるとクライドは溢れる気持ちを抑えきれず、身体を、腕を強く震わせた。
「さぁクライド。もう躊躇うな。今こそお前は俺を超え、本当の自由を手に入れるのだ。」
「…ッ…」
クライドは短剣を構えた。
ギールも爪を構え、お互いに睨み合う。
「行くぞッ!ギールッ!!」
「来い!クライドッ!!」
そして、剣と爪は交じり合った―――