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Delighting World  作者: ゼル
第三章 サマスコール編~情報屋と狙われた一行たち~
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Delighting World ⅩⅠ

Delighting World ⅩⅠ












古代人、ドラゴンのフリードに乗ってサマスコールを目指すビライトたち。


なかなか見られない景色、体験に胸を躍らせるが、突如ヒューシュタットのオートマタが密林からフリードとビライトたちを狙って襲ってくる。


密林に不時着し、怪我をしたフリード。

怪我は癒えたが、オートマタを倒さないと再び空へ出ても危険と判断したビライトたち。しかし、相手は何処にどれだけいるのか分からない。


途方に暮れるビライトたちの前に現れたのはビライトとキッカにイビルライズの名を初めて発した獣人、クライドだった。

クライドはアトメントからビライトたちの手助けをするように依頼されたと言い、オートマタの場所と個体数を熱感知して把握していた。


怪我をしたフリードをヴァゴウに任せ、ビライト、キッカ、レジェリーはクライドと共にオートマタを掃討すべく立ち上がる…



------------------------------------------------------------



「…ちょっと!速いわよあんた!あたしたちは悪路に慣れてないんだからね!」


先にどんどん進んでいくクライドにイライラして声を荒げるレジェリー。

「…チッ。」

舌打ちをして動きを止めるクライド。


「ふぅ…しかし、足場が本当に悪いな…木があちこち倒れていて飛び越えていかないといけないし大変だ。」


「急いでいるのならば急ぐ努力をしろ。こうしている間にも奴らは移動している。」

「移動しているのか?」

「そうだ、こちらに向かってな。奴らも熱を感知して動いているようだからな。」

「てことは…あんたもオートマタ「そんなわけがないだろうアホかお前は」

「ア、アホですってーーーー!!」


クライドはレジェリーを哀れんだ目で見てため息交じりに言う。

そしてその挑発にカチンときて顔を真っ赤にして怒るレジェリー。


「ま、まぁまぁ。落ち着こう。な?」

「いちいちムカつくのよこの犬っころ!!」

「俺は狼獣人だ。」

「一緒よ犬!!!」

「うるさいやつだ。」


「お、落ち着けって!とにかくはぐれないように進もう!な?」

「そ、そうだよレジェリー、クライドさん。喧嘩はやめよ?」


「こいつがやかましいだけだろう。」

「ふんだ!さっさとオートマタぶっこわしてやるんだから!」


ビライトとキッカはクライドとレジェリーを落ち着かせて慎重に先に進む。


一方そのころ、ヴァゴウとフリード。

「ビライトたち、大丈夫だろうか。」

フリードは森の奥に向かったビライトたちを心配し、森の奥を見つめる。


「ビライトとキッカちゃんなら大丈夫さ。レジェリーちゃんも居るしな。」

「信頼しているのだな。」

「ビライトとキッカちゃんとはあいつらがちっちゃいころからの付き合いだからなァ。家族みてぇなもんだ。」

「コルバレーに来てからすぐか?」

「少し経ってからだな。」

「そうか、良い機会だ。ヴァゴウとビライトたちの話を聞かせてくれないか?」

「良いぜ。」


ヴァゴウは何処から話そうかなぁと考える。




「まずはあいつらの両親…シューゲン夫妻についてだけどな、あいつらは流通の取引先だったんだ。」





時は12年前。


ビライトが5歳になる頃。


ヴァゴウはコルバレーで工房を立ち上げ、武具屋を開店。

直ぐに凄腕技術でコルバレーに名を轟かせるヴァゴウであった。


流通の得意先として出会ったのがシューゲン夫妻だった。

この時、キッカはまだ母親のおなかの中に居た。



「では、こちらをドラゴニアまでですね?」

「あァ、よろしく頼むぜ。いつもありがとな。」


取引の書類を受け取るヴァゴウ。


「もうそろそろ生まれる頃か?」

「ええ、もうすぐです。」

「そっか。元気な子が生まれると良いな。なぁビライト。お兄ちゃんになるんだもんなァ。」

「うん!」

幼いビライトともすぐに打ち解けたヴァゴウ。


愛想のよいヴァゴウはビライトの遊び相手になることも多かった。

夫妻が遠くへ行くときはヴァゴウがビライトを預かって世話をすることもあった。





シューゲン夫妻とヴァゴウは良い取引相手であると同時に、良き友人でもあった。


この会話から数日後、キッカは無事に生を受けた。

「ビライト、妹だったんだってな。」

「うん!キッカっていうんだ!」


「そうかァ。良いお兄ちゃんになれよッ」

「うん!」


幼いビライトはわしわしと頭を撫でられるのが好きだった。

豪快なヴァゴウのわしわしに温かさを感じ、よく家を空ける親に対する寂しさを埋めてくれていた。

ビライトにとって、そしてこれから成長していくキッカにとって最早家族のような存在だったのだ。



------------------------------------------------------------


無事にキッカが生まれ、母親も仕事へと復帰して間もない頃、一つの依頼が入った。

「ヴァゴウさん、これからヒューシュタットへ行商に行かなければならなくて…その間ビライトとキッカを頼めませんか?」

「あァ、構わんが…ヒューシュタットからとは珍しいなァ。」


「ヒューシュタットは最新の技術が普及している。我々のようなアナログな人間には依頼など無いと思っていたのですが…しかし仕事は仕事。ドラゴン便を使うから夜には帰りますので。」

「ヴァゴウさん、いつもごめんなさいね。本当はこの子たちも一緒に連れて行きたいのだけど…」

母親はヴァゴウにいつも頼みっぱなしで申し訳なさを感じている。


「ガハハ、気にすんなよ!よーしビライト!今日はキッカちゃん連れて裏の小さい鉱山で宝探し行くか!鉱石集めだ!」

「おー!行くー!」

幼いビライトは大喜びだ。

「ビライトってば。」

「ヴァゴウさんに迷惑をかけるんじゃないぞ。」

「わかってるって~」


ヴァゴウの背にはキャッキャと笑うまだ0歳のキッカが揺りかごの中に。よっぽど大きく揺れない限り落ちないしっかりとした素材のゆりかごだ。

「それじゃヴァゴウさん。お願いします。」


「おう。任された!」


ハイタッチで送り出すこの日、これが両親との会話の最後になろうなどと、誰も想像しなかっただろう…



「見てよヴァゴウさん!これ!」

「おお~こいつぁなかなか純度の高い鉱石だなッ」

「これ、お父さんとお母さんにプレゼントしたい!」

「そっか、じゃワシが加工してやろう!アクセサリーにするか?」

「うん!」

「よぉし、2・3日待ってくれよな。」

「楽しみ!」


純粋な瞳にヴァゴウはつい笑顔があふれる。


ここにキッカが加わって、家族ぐるみで付き合いがあれば、きっと楽しいだろうなとヴァゴウはこれからに胸を躍らせた。





が…


夕刻、コルバレーの町にざわめきがあった。


「おい聞いたか?ドラゴン便で事故があったって。」


「あぁ…シューゲン夫妻が乗っていたって…あっ、ヴァゴウ!お前がビライトたちを預かっていたのか…」


「…今の話、ホントなのか?」

ヴァゴウの表情は一気に張り詰めた。

何があったのか分かっていないビライトの瞳を見てヴァゴウは立ち尽くした。

「あ、あぁ…ヒューシュタット山脈の方らしいけど…っておいヴァゴウ!」

ヴァゴウはキッカを預け、走り出した。

「ビライトとキッカちゃん頼む!」

「お、おい!まいったな…」


「ねぇ、ヴァゴウさんどうしたの?何かあったの?」


「…すぐ戻ってくるから。ヴァゴウさんの家で待っててくれな。」

「う、うん…」



------------------------------------------------------------



「…!こんな…馬鹿な!」


ヒューシュタット山脈の麓に大規模な火災。

ヴァゴウが見た光景は一面に広がる炎の海。

詰んでいた荷物か何かに着火してしまったのか、爆発で砕け散ったような跡があり、ドラゴンは既に息絶えていた。


乗っていた人々はあちこちに放り出され、もはや行方を捜すことも困難だ。

そして、確実に助かってはいないだろう。


(ドラゴン便の事故率は1%未満って言われてんだぞ…そんな不幸が…あってたまるかッ!)

ヴァゴウは火の中に飛び込もうとしたが、あまりの灼熱に身体がグラつく。


「ダメだ…近づけねぇ…クソッ!」




数時間後、コルバレーの有志たちが集まり、その手によって火は何日もかけて鎮火した。


水魔法の使える人間や獣人、ドラゴンたちが力を合わせて消火作業にあたった。




「…ねぇヴァゴウさん。お父さんとお母さんは?」

「……ちょっとトラブルなんだ。大丈夫だ。なッ?」

「……」


ビライトたちを預かり、ただ無事を祈るヴァゴウ。

だが、心のどこかでは分かっていた。

もうシューゲン夫妻は…



そして、シューゲン夫妻が事故死したことが告げられたのは火が鎮火してしばらくしてのことだった…

2人は一緒に倒れているのが見つかり、お互いを守るように倒れていた。

全身に大きな傷を負い、大やけどをしていた。

落下し、大怪我をしたところに火の海に吞まれてしまったのだろう。


この事故は最後まで原因は分からなかった未解決の事故として扱われ、ビライトとキッカは幼いながらに両親を失ってしまった。


「…そうか、辛い目にあったな。」

フリードはヴァゴウに語りかける。


「シューゲン夫妻は俺たち職人にとっては大事な存在だったんだよ。だから残されたビライトたちをワシらコルバレーの人たちは支えたんだ。」


幼いビライトたちに2人で生活するのは無理だ。

せめてビライトが一人で頑張れるようになるまでは誰かが保護をする必要があった。


それに名乗り出たのがヴァゴウだった。

だがヴァゴウとて、なんでもできるわけではない。だから基本的な世話がヴァゴウが行い、細かい支援を他のコルバレーの職人たちで手助けする形となった。


亡くなった夫妻の代わりに町の人々はビライトとキッカの保護者となったのだ。



「…そして、立派に育ってきたんだな。」

「大変だったんだぞ?ビライトなんて最初はずっと落ち込んでてな…ちょっとした病気っていうのかな…心の病気みたいなのになっちまった。」


「心の…病?」


「あぁ、あいつには“友達”が居たんだ。





…誰にも見えない友達がさ。」


ビライトは6歳になった頃。

事故から1年程度の時だ。


「ヴァゴウさん!」


ずっと口を利かず落ち込んでいたビライトが突然笑顔で話しかけてきたのだ。

その目は酷く汚れているように見えた。


光はなく、そんな瞳で笑顔を見せるものだから、何かがおかしいとはすぐに分かった。


「うおっ!?ビ、ビライト?」

「俺、友達が出来たんだ!」

「と、友達?」

「うん!紹介するよ!」

ビライトは自分の真横に手を出す。


「…?何処にいるんだ?」

「えっ、やだなぁここに居るよ!“クロ”っていうんだ!」


「…そ、そっか。よろしくな。」

「えへへ、うれしいな。友達!」


(ビライト…)



ビライトには“クロ”という名前の友達が出来た。

だがそれはビライトの中にしかいない架空の友人だった。


居るのかどうかも分からないそんな存在にヴァゴウは困惑したが、それがビライトの心を支えているならば…

今は様子を見よう。

ヴァゴウはそう思い、ビライトを見守ることにした。


それからも食事の時には“クロ”と呼ばれる存在について話す。


今日はこんなことをした、一緒に遊んだ。

自分が泣いていると励ましてくれた。とても優しいんだ。


そんな話を聞いて、ヴァゴウは「そうかそうか、よかったな!」

そんなことしか言えなかった。



ビライトの見えない友達、クロ。

今でもそれがなんだったのかは分からない。

何故なら現在のビライトはそれを覚えていないからだ。



キッカが成長し、キッカが自分の意志で動き始めるようになってから、ビライトはキッカの方に意識を向けるようになっていった。


ビライトが9歳になった頃、ビライトは料理や家事をするようになっていた。

ずっとヴァゴウと一緒に暮らしていたビライトはキッカを連れて家に戻ると言い出し、自分たちの家に戻って行った。


「どうしたんだビライト。お前らはまだ幼い。一人前になるまでここに居てもいいんだぞ?」


「ううん、俺たちいつまでもみんなに守ってもらってるだけじゃだめだから。俺がキッカを守んなきゃ。」

ビライトは9歳ながら大人のように責任を感じていた。


「そっか…成長したんだなビライト!ワシも応援するぞ!」


ヴァゴウはビライトの意志を尊重してあげることにした。

定期的に様子を見に行けばいい。同居が終わってもシューゲン夫妻に頼んだと言われた自分は保護者なのだから。


「立派だな!ビライト!クロも喜んでるだろ!」

「クロ…?それ…誰?」

「あぁ?クロだよ、お前の友達の。」


「…ん?知らない。それ、誰?」


(ビライト…!)「…あぁ、すまん違う人のことだった!忘れてくれ!」



ビライトの中から架空の友達は消えていた。

それも記憶からもサッパリ消えていたのだ。


それはやはり心を閉ざしたビライトが生み出した架空の友達…イマジナリーフレンドだった。


きっかけはビライトにしか分からないが、ビライトは何処かで成長し、キッカを大切にするようになった。


孤独が生み出した架空の友人が消えたというならば、ビライトは孤独ではなくなったということ。

きっとキッカと何かそうなるきっかけを作れたのだろう。



「俺さ、キッカを守る!だから俺働く!ヴァゴウのオッサン!俺を雇ってくれよ!」

「雇うっておま。」

ビライトの目は光を取り戻し、輝いていた。


「…分かったよ。けど無理はすんなよ。ワシら町のみんなもお前たちの味方だからな。」

「うん!」



「それからビライトはずっとワシのところで働きながらキッカちゃんを養っていたんだ。」


「ほう、何があってビライトは変わったのか。」

「それはワシにも分かんねぇ。けど、ビライトもキッカちゃんも立派になったもんだ。夫妻に見せてやりたかった。」


「…そうだな。」




------------------------------------------------------------


場所は変わり、森の中をビライトたちはクライドの後ろを追いかけて先へ進む。


「…止まれ。」


クライドが手を出し、ビライトたちを止める。

「ど、どうしたんだ?」


「…近くに2機。こっちに向かっている。」

クライドは大きくジャンプした。

木の太い枝の上に乗り、木を伝い移動する。


「なんて身軽な身体…流石獣人ってところかしらね。」

レジェリーが言う。

「あっ、別にほめてるわけじゃないんだからあんな奴!」

自分で言って自分で否定するレジェリー。


「ハハ…とにかく俺たちは待とう。一応周囲の警戒は怠るなよ。」

「分かってるってば!」

「防御魔法かけとくね!」

キッカは魔法でバリアを張る。

これでどこから襲われても1発は耐えることが出来る。

1発耐えることが出来れば何処から攻撃されたかも分かりやすい。


それから間もなくクライドが奥から戻ってきた。

「クライド。」

「まずは2体。」

クライドはマントの中からオートマタの残骸を2機放り投げる。


音を立ててバチバチと漏電し、機能を停止しているオートマタ。

力技で粉砕した跡がある。


「機械をここまで壊せるなんて…」

「感心するのは早い。残りの8機が壊れた2機を感知してこちらに向かっている。」

クライドは周囲を見渡す。


「クライドさん、それならバリアに入った方が!」

キッカが言う。

「不要だ。」

クライドは断り、再び木の上に乗る。


「警戒しろ。8方向から飛んでくるぞ。」

その瞬間だ。


本当に8方向からレーザーが飛んできた。

「わっ!」

「っ!」


バリアはあっという間に砕け、ビライトが前に出て大剣でレーザーを受けきる。


「方向はある程度読めたんだから!えーい!!」

レジェリーは水魔法を唱える。攻撃範囲の広い、機械の弱点である水魔法をレーザーが撃たれた方角に撃つ。


その水流が何かに命中したのを確認した。

オートマタか、それとも木か。

「1機停止を確認した。油断するな。」

クライドがレジェリーに言う。

「油断するもんですか!」


「ビライト、こっちの方角に2機。やれるな?」

「分かった!エンハンスだ!」

ビライトはエンハンス魔法をかける。

一時的に身体能力上昇。


いつもの数倍のスピードで駆け抜けて、レーザーを回避しつつ、オートマタに接近。

「おおおっ!」

大剣がオートマタに命中。大きな音を立てて砕ける。

「まだまだっ!」

「援護するよ!」

キッカは剣の耐久を上げる魔法をかけた。

剣が光り、耐久力が上がった。


もう1機がレーザーを撃とうとしていたことに気づき、瞬時に大剣で受け止める。

剣の強度が上がったのでレーザーを簡単に弾いた。

「っだああっ!」


ビライトは大きく声をあげ、その剣をオートマタの首に当てる。

オートマタの首が勢いよく吹き飛び、崩れ落ちた。


「っふぅ…」

「大丈夫?お兄ちゃん。」

「あぁ。フォローありがとな。」


これでさらに2機。


残り5機。

その同じころレジェリーもその場で水魔法を連射した。当たっているかどうかは分からないが。レーザーが来た方向に向けて撃っているので、命中していることを願って撃ち続ける。


「お前の魔法で1機停止を確認した。ビライトも2機倒したようだ。俺も1機倒した。」


「あと1機ってことね。」

「あぁ、だが倒す必要はない…いや、あるな。甘さは無用だ。」

「えっ」

クライドは小さくつぶやくと、再び森の奥へ。

「ちょ、ちょっと!」


「おーいレジェリー!」

「あっ、ビライト!」

「どうだった?」


「あと1機なんだけどクライドが追いかけていっちゃったの。倒す必要はないけどやはり甘さは無用だって…」

「どういうことだ?」

「あたしには分かんないけど…追いかけてみる?」

「…いや、むやみに動いてはぐれたらマズい。ここで待とう。」

「そうね。」


ビライトたちはその場に待機することにした。


木の上から移動するクライド。

「…見つけた。」


ビライトたちとは反対方向に移動している最後のオートマタ。

狙いは不明だが、何かやっかいなことをされては都合が悪い。

クライドはそう考え最後のオートマタを掃討すべく地に降り立った。

「フン、狙いは知らんが…悪く思うな。最も機械に心などありはしないがな。」


クライドは瞬時に後方に回り込み、回し蹴り。その足は獣人とは思えない強靭な筋肉隆々とした足は機械を簡単に吹き飛ばすほどの能力を見せた。

「…戻るか。」


クライドはビライトたちの元へ戻った。


(最後のオートマタ、目的はなんだったのか…もしかしたら増援の可能性…それか俺たちのデータか…)



「あ、帰ってきた。」

戻ってきたクライドとビライトたちは合流した。


「オートマタは?」

「倒した。もう周囲から気配は感じない。」

一同はホッと息をついた。


「戻るぞ。サマスコールを目指しているのだろう。」

「そこまで知ってるのか。」


「全てアトメントから聞いている。お前たちの目的も、目指している場所もな。」

「「「…!」」」


アトメント。

彼は一体何者なのか。

クライドはビライトたちのこれまでを全て知っていた。


そしてこれから目指す場所、どういう目的で行くのかも全てだ。


「アトメントさん、やっぱり只者じゃないよね…」

「あぁ、アトメントはやっぱり何か知っているんだ。」

「でも考えてたってしょうがないわ。とにかくまずはフリードさんのところに戻りましょ!」


ビライトたちはフリードとヴァゴウの元へと戻るため、足を動かした。


「オッ、帰って来たな!」

「ヴァゴウさん、フリードさん!戻ったよー!」

手を振るキッカ。


「どうだ?オートマタは。」

「全員倒してきた。みんなで力を合わせてな。」

ビライトは全員の顔を見て言う。

「そうかッ、すげぇじゃねぇか!」

ヴァゴウはビライトの頭をわしわしと撫でる。

「よせって。もう子供じゃないんだから。」

「ガハハ、気にすんなッ!」


「よくやってくれたな。明日にはまた空が飛べるぐらいには癒えているだろう。今日はここで野宿しよう。」

フリードがビライトたちを見て笑顔を見せる。


ひとまず、オートマタを掃討し危険が無くなった。

ビライトたちは野宿の準備をし、食事を囲う。


ヴァゴウがドラゴニアで買っておいた食材を出し、調理した。

「うーん、おいし~」

レジェリーは幸せな顔でスープを口に運ぶ。


「おう!もっと食え!」

ドカドカとスープや焼き肉を並べ、とても野宿とは思えないラインナップ。

相変わらず便利な魔蔵庫である。


「クライドも食べろよ。美味いぞ。」

クライドは離れて空を見上げている。


「必要ない。俺は俺の食料がある。」

クライドは自分の所持している魔蔵庫を展開した。

「魔蔵庫持ってるんだね。」

「でもせっかくだからみんなで食べた方が美味しいと思うけど。」


「くだらないな。そんな精神論は不要だ。俺のことは放っておけ。」

クライドはそれだけ言い、離れた場所に座り、加工肉を食べる。


「なーーによあれ。カンジわるっ!」

レジェリーは舌を出し、ベーっとする。

「まぁ…まだ一緒に行動するようになって間もないし。」

「いつかは俺たちとも馴染んでくれるさ!」

ビライトとヴァゴウは前向きに考える。キッカもそれに頷く形で答えた。


「あんたたち…なんというか、ポジティブね…」



結局クライドが食の団欒に絡んでくることは無く、ビライトたちは食事を終えてから野宿の準備を始めた。


空からわずかな月の光が射す。しかし周囲の明かりは焚火のみ。

パチパチと音が鳴る中、それを囲って、レジェリーとヴァゴウは既に眠りについていた。

フリードは静かに夜空を眺めている。


「クライド。」

ビライトは少し離れた場所に居たクライドに声をかけた。

「…色々聞きたい。そんな感じだろう。」

「はは、分かってるよなぁ。」

「クライドさん、知っていることを…出来れば教えて欲しいんです。」

キッカはクライドに頭を下げる。


「俺はアトメントほど知っているわけではない。それに情報は俺にとっては武器だ。無暗に人に教えることは無い。」

「けど、クライドは俺たちを手伝ってくれるんだろ?イビルライズの名前を初めて教えてくれたのはクライドだ。だから少しでもいい。教えてくれないか?」

ビライトもキッカと一緒に頭を下げた。

クライドはハァとため息をついた。


「…アトメントから聞いた情報だ。」

クライドはその言葉から、イビルライズを語る。



「イビルライズとは、世界の“負”を司る空間。」

「負を司る…?」


「そうだ。統合前の世界では世界の“正”の力と“負”の力をエネルギーに変えて存在していた。しかし、“負”のエネルギーは世界を脅かし、“正”と“負”は対立した。」


「世界統合の歴史で言う、主神とヴァジャスとの戦いことだね。」

世界統合の歴史を思い出した。

主神と邪神ヴァジャスが対立し、最終的に和解し、世界を統合させた。


「そうだ。イビルライズはこの世界の歴史で言う“邪神ヴァジャス”と同じだ。このシンセライズに住む人々の“負”のエネルギーは全てイビルライズに集約される。」

「負のエネルギーが…!」

「イビルライズはシンセライズのエネルギーも欲しがっている。そこで目を付けたのが…お前だ。」

クライドはキッカを指す。


「私が…」


「そうだ。シンセライズに住む生物からシンセライズのエネルギーが取れると考えたのだろう。理由は不明だが選ばれたお前の身体を依り代にしてイビルライズは成長している。俺はアトメントからそう聞いている。」


「キッカの身体を…なんでだ?どうしてキッカが…?」

「知らん。何故お前が選ばれたのか。そして何故お前の身体は完全に奪われず、今精神体としてここに居るのか。詳しいことは俺も知らない。」

全てが分かったわけではない。

だが、重要な情報を手にしたビライトとキッカ。


「…お兄ちゃん…」

ビライトは下を向いてしまった。そして数秒して上を向き…

「…ありがとうクライド。」

「?」


ビライトはまずお礼を言う。


「ずっと旅をしていてもここまでのことは分からなかったかもしれない。それに…キッカの身体が本当にイビルライズにあるかどうかの確証も無かった。でもこれではっきりしたよ。」

「…お前は…疑うということを知らんのか?」

クライドはビライトを睨む。


「俺が嘘を言っているかもしれないということを考えないのか?言った筈だ。情報は武器だと。嘘の情報を誰かに流すという行為も情報を使った武器だ。」

「それでも、俺はクライドを信じる。」

ビライトは言う。

「…」

「クライドがアトメントから依頼されて来てたとしてもさ、それでもクライドのおかげでオートマタを何とかすることが出来た。クライドが俺たちを助けてくれたのは事実だからさ。」

「…甘いな。考えが余りにも甘すぎる。そしてとんだお人よしだ。俺がさっき言ったことが嘘だったらどうする?」


「うーん…その時にならないと分からないさ。でも今は藁にも縋りたい状況だから。」

ビライトはクライドを受け入れた。

「…お前はとんだ馬鹿なようだ。」

クライドは再びため息。

「…俺を信じるか信じないかは好きにしろ。だが1つだけ本当のことであると確約させてやる。」

クライドはビライトをまっすぐに見て言う。


「俺はアトメントからお前たちを援助するように依頼を受けた。そしてその依頼を必ず全うする。そして協力も惜しむことは無い。依頼は必ず達成する。必ずだ。」


クライドはそう言い、森の奥へ歩き出す。

「クライド…」

「…散歩だ。」

クライドはそう言い、森の奥へと歩き出す。


「…お兄ちゃん。大丈夫?」

キッカが言う。


「俺、やっぱ甘いかな?」

ビライトはハハッと笑いキッカに言う。


「お兄ちゃん…」


「そうかもな。」

上から声がする。

「フリードさん。」

フリードだ。

「会話が聞こえたものでな。全て聞いてしまった。」

「それは全然良いんだけど…」

フリードは大きな顔をビライトたちに近づけた。


「確かに甘いかもしれんな。」

「だよなぁ…自分でもそう思う。」

ビライトは自分の甘さを自覚した。

「けどな。我々は信じあうことで生きることが出来る。手を取り合い、力を合わせ…我々はこのシンセライズで皆で生きていくのだ。」

「フリードさん…」


「甘くてもいいじゃないか。その優しさもまた生きる上で必要なことなのだよ。」

「…そう、なのかな。」

「あぁ、自分の信じるものを信じればいい。後悔することもあるかもしれんが、その時もまた…誰かと力を合わせて乗り越えれば良い。」

「…そう、だな。うん、そうかもな。ありがとう、フリードさん。」


「お兄ちゃん、私もお兄ちゃんが信じるなら信じるよ。一緒に頑張ろう!」

「あぁ、もし嘘だったとしても、俺たちが歩み寄れば真実を話してくれる。分かり合えるって信じたい。」


ビライトとキッカはフリードの言葉と、自分たちの信じるものを信じることにした。



新しい仲間として加わったクライドは他の誰とも違う。

そして、クライドは任務の為に同行し、支援をする。

ビライトたちとは馴染むには時間がかかりそうだ。だがクライドはビライトたちの支援を約束した。

ビライトたちはイビルライズを目指し進む。



明日、一行は新しい仲間を加えてサマスコールを目指す…



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