Delighting World Brave 一章 七幕 ~ワービルト防衛戦 守護神の雷撃~
ワービルトにやってきたクライドとガディアル。
そこで待っていたのは上層まで侵攻されてしまっているワービルト。
そして、クライドはかつて苦楽を共にした仲間たち、ヴォールのメンバーが死者として暴れている現状を目の当たりにする。
動揺しながらもガディアルと共に戦いながら救助活動を行っていた。
そんな中クライドはついにヴォールのメンバーで特に仲の良かった紅一点のミアと再会する。
だがミアは死者として心を持たずクライドに襲い掛かってきたのだ。
クライドはミアと本気で戦うことが出来ずにいた。
襲い来るミアから距離を取るクライドだが…
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Delighting World Brave 一章 七幕(~ワービルト防衛戦 守護神の雷撃~)
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「ガアアッ!!」
「くっ、ミア!俺が…俺がやはり分からないか…!」
ミアと距離を取りながら呼びかけるがミアははやりクライドが分からないらしい。
死者は皆こうやってただイビルライズの思うがままに暴れ狂う存在となってしまうのか。そこに心は存在しないのか。
クライドはそんなことを考えながらも、ミアの攻撃を受け流すことしか出来なかった。
「ウアッ、グアッ、ガアッ!!」
「…!」(なんという激しい猛攻…!ミア…その素早い動きは変わらぬというのに…何故心だけが…!)
ミアの実力はクライドもよく知っている。
が、故にミアの行動パターンは覚えていて、クライドはなんとかそれに適応していくがそれでもやはり反撃には出ることが出来ず、結果的に防戦一方になっている。
「…あん?」
クライドはいつの間にかガディアルが居た場所から反対側の方まで来ていた。
そこにはバルーサ隊の一部がおり、バルーサもその様子をたまたま目撃した。
「ミア!俺の声を聴けッ!」
呼びかけを続けるクライド、そして聞く耳など持たない暴れ狂うミア。
「!…クソッ…!」
そしてついにミアがその素早さを上回った。
「しまった…!」
クライドの持っていた短剣が弾かれ地面に音を立てて落下する。
そしてその隙を見てミアの爪がクライドの顔面に目掛けて振り下ろされた。
「うおおおっ!!」
「ギッ…!?」
しかし、その爪がクライドに当たることは無かった。
遠くから大きめの石がミアの後頭部に命中し、ミアはバランスを崩したのだ。
「!ハッ!」
クライドは右足でミアの身体を蹴り飛ばし、距離を取った。
「…!」
「何してんだお前はッ!敵に情けかけてんじゃねぇ!!」
後ろに居たのはバルーサだった。先ほどの投石もバルーサが咄嗟に行ったものだ。
クライドとバルーサはもちろん初対面だ。会ったことも話したことも名前も聞いたことは無い。だがバルーサはクライドは味方側だと分かった為、襲われる直前でなんとかミアの注意を逸らすことが出来た。
声を荒げて怒るバルーサ、そして息が上がり、呼吸を整えるクライド。
ミアは頭を強く打ったのかなかなか立ち上がれずにいるようだ。
「…すまない、助かった。」
「…コイツはお前のダチが何かか?」
バルーサはクライドに近づき、尋ねた。
「あ、あぁ…そうだ。コイツは俺の大切な友だ…世界を滅ぼそうとしてる悪い奴が死者の魂を利用して襲わせているのだ。」
クライドはミアを見るが、ミアは相変わらず狂ったような歪んだ顔でクライドたちを睨み続けながら、体勢を立て直そうとしている。
「…こいつらは死人なのか…フン、だったら躊躇うんじゃねぇ。送ってやれ。」
「…簡単に言うな。これがアンタの大切な存在だったらお前は躊躇えずにやれるのか。」
「やれる。」
クライドはバルーサに反論するが、バルーサは即返事をした。
「俺にも失った家族がいる。大事な家族だ。誰よりも愛していた。だからこそやれる。そのナントカっていう悪い奴が死人を想うがままに操っているんなら、もう一度眠らせてやるのが救いのはずだ。」
「…ッ…」
クライドには言い返す言葉が無かった。相手は死者。もうこの世にはいないのだ。そしていないはずの死者はイビルライズによって思うがままに利用され、そして戦わせようとしている。
クライドはイビルライズの世界で戦った時を思い出す。
フリードや、デーガの友たちを盾にして笑うイビルライズの姿を。
「良いか?死んだ者は戻ってこない。そこに居るのは本物だとしても偽物だ。」
「…」
「グッ、ルッ。」
ミアはふらりと立ち上がり再びクライド目掛けて襲い掛かろうとする。
「お前は大事な奴がああやって苦しんでいる様を見ていたいのかよ。よく見てみろ。」
「…ミア…」
ミアの顔は相変わらず歪んでいる。だが、その目には涙が溜まっていた。
「…そうだ、ミア。お前を…俺が救ってやる。」
クライドは目を覚ました。決意を固めそしてブレイブハーツを解放した。
「!なんだその赤い光は…!」
バルーサはブレイブハーツのことは知らない。クライドの溢れ出る力に驚くバルーサだが、クライドは一気にミアに近づく。
「ガッ!!?」
「すまない。」
ミアはすぐに爪を振りかざそうとするが、クライドの方が早かった。
クライドの右手に持つ短剣はミアの身体を切り裂き、潜血が舞った。
「ギャッ!!?」
そして、左から短剣を更にミアの左胸に刺した。
「ギャアアアアッ!!!」
「…」
短剣からあふれ出すブレイブハーツの力がミアを包み込む。そして黒い身体をまとったミアが黒い灰となって消えようとしている。
「…ミア、さよならだ…」
クライドはそう呟く。その顔はとても辛い顔をするが…消えゆくミアの手がクライドの身体に触れた。
「…ミア…?」
「…クライド……」
「!」
ミアはクライドの名を呼んだ。
「ミア…ミアなのか…!」
「…アリガトウ…クライド…」
クライドはミアの顔を見る。ミアの顔は穏やかな顔を見せており、1粒の涙が零れ落ちた。
「…すまないミア、こうするしか…無かったんだ…」
クライドは謝罪する。だが、ミアは首を横に振った。
「コレデ…イインダ…アタシ…ハ――シンデイルンダカラ…」
「…ッ…」
「クライド」
「…何だ…?」
ミアはその後、名を呟いた。
「…サベージヲ…トメ…ギールヲ…タスケテアゲ…テ。」
「…サベージとギールが…居るのか。なぁミア!」
「…」(嗚呼…こんなこと、アタシが言う資格なんてないんだけど…)
ミアは心の中で思った。
「クライド」
「…」
ミアは微笑んだ。
「アタシ、アンタノコト…―――ス―――――」
ミアの言葉は最後まで届くことは無かった。
突然消滅が早まり、一気にミアの身体は黒い灰となり消えてしまったのだ。
「…ッ…ミア…」
クライドにはミアが言おうとしていたことがなんとなく理解出来ていた。だからこそ、ミアの消滅に心を絞め付けられる。
そして、それと同時にミアに託された言葉、それは…このワービルトの何処かに潜伏していると思われるサベージとギールを倒し、救ってやることを深く決意するのだった。
「…逝っちまったな。だがこれが救いなんだ。死者には帰るべき場所がある。違うか?」
バルーサが呟く。
「あぁ…その通りだ。もう悲しみを生ませてなどやるものか。」
クライドは覚悟を決めた。ミアの消滅とバルーサの言葉でクライドは迷いを捨てた。きっとギールに出会えばまた揺らぐかもしれない。それでも、クライドは前に進まなければならない。
「…シケた面してんじゃねぇぞ。お前が誰なのか、お前の事情がなんなのか俺は知らねぇ。だがお前は死者に対して強く出られる力を持っているみてぇだからな。さっさとなんとかしてきやがれ。こっちはなんとかしてやるから。」
バルーサはそれだけ言い、再び戦場へと戻って行った。
「…あぁ。ありがとう。」
クライドはただ、そこで会っただけの名も知らないバルーサという獣人に感謝をし、奥の修練場の方へと走って行った。
ブレイブハーツを発動させながら、クライドは気配察知で強い気配を感知する。
そして、特に強い力が1つ、そしてその近くに中ぐらいの力が1つあるのを感じたからだ。きっとそのどちらかがギールに違いないとクライドは踏み、足を進めるのだった。
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修練場に向かう道は橋1本。
その道中にも死者であるヴォールの仲間たちが牙を剥く。
「どけッ!!」
クライドはブレイブハーツを短剣と足に纏わせ、迫りくるヴォールの仲間たちの侵攻を突破する。
ブレイブハーツはやはり死者に特効があるようで、一撃でヴォールの仲間たちは黒い灰となって消滅していく。
かつての仲間を手にかけなければならない苦しみを抱えながらもクライドは迷うことなく進んでいく。
そして修練所の入り口付近には多くのワービルト兵士たちとラプターたちが死者の魔物や様々な生物たちと乱闘していた。
クライドは気配感知でこの修練所の中に大きめの力が2つ確認できていることが分かっている為、ここは兵士とラプターに任せて先に進もうとする。
「…くっ、乱戦すぎて…」
あまりにも多くの人数がごった返しを起こしていたため入り口付近を通るにはなかなか大変で、更には入り口には巨大な魔物が行く手を阻んでいた。
オークのような巨体であり、大きなこん棒を持っている。魔物の中でもかなり強い部類に入るようだった。
(どうする…このままだと先に…)
クライドはなんとか対策を考えようとする。
ワービルトのことはそれなりに詳しいがこの修練所の入り口はここしかないはずだ。
「…!」
クライドは見渡す中に、1匹のラプターを見た。
(ラプターの素早さと跳躍力ならばなんとかなるかもしれん。)
クライドは持ち前の観察眼で乱戦になっている戦場を冷静に見る。
そして…
「見つけた!」
クライドは乱戦をかいくぐりながら1匹のラプターの腕を掴んだ。
「!?」
「お、落ち着け…俺が分かるか…?」
突然腕を掴まれて驚くラプターだが、クライドの顔を見て顔色を変える。まるでしばらく会えずに待っていたペットが久しぶりに飼い主に出会い喜んでいるかのような嬉しい顔をするラプターにクライドも頷いた。
「分かるようだな。こっちへ来い!」
クライドはラプターを引き寄せ、乱戦の外へと誘導する。
このラプターはワービルトで飼育されているラプターであり、ビライトたちと共に大草原を旅し、そしてクライドがワービルトの外でビライトたちの帰りを待っている間、ずっと一緒にいたラプターのうちの1匹だった。
クライドはワービルトから出る際に出会ったラプターたちの首にアクセサリーをお守りとして渡していた。
ラプターは喜んでいるようで、クライドに寄り添った。クライドは頭を撫で、微笑んだ。
「他のラプターは…」
「キュウ…」
ラプターは悲しそうな顔をしている。
クライドもそれで察したようで、気が付かなかったがよく周りを見渡すと既に亡くなっているラプターがあちらこちらに倒れている。
そのなかには確かにクライドが与えたアクセサリーを身に着けているラプターも見受けられた。
「…そうか…悲しかったな。だがすまない。お前に危険なことをお願いしたい。俺はどうしてもあの中に行かなければならないのだ。」
クライドは修練所を指さす。
ラプターはじっと修練所を見つめる。
「そうだ、あそこだ。お前の足があればなんとか入れるかもしれない…いいや、出来ることならばあの魔物も倒したい。これ以上の被害を出さない為にも…お前の足が必要なんだ。」
「…」
ラプターは数秒修練所と、巨大な魔物を見たあと、クライドを見て頷いた。
「ありがとう。だが、あの先…命の保証はない。改めて聞くが本当に良いんだな?」
クライドは伝わっているのかは分からないが今のところは理解出来ているようなので、ラプターとはいえ相手は会話が出来るかのように会話をする。
そしてラプターは近くで亡くなってるラプターを見て鳴く。それを指さすように叫び、そしてクライドを見る。
「…そうか、お前は仲間の死に報いたいのだな。」
ラプターは頷いた。
「分かった。お前の命、俺に預けろ。」
クライドはラプターの背中に乗る。
「頼んだぞ!」
クライドの声掛けにラプターは一気に走り出す。
乱戦の上を大きくジャンプし、そして大型魔物の近くまで来た。
魔物は他の兵士たちと戦っているため、隙はある。だが、体格が大きすぎる為入り口に隙間が無い。
「アイツを移動させる必要があるな…」
クライドは短剣を構える。
「ラプター、注意を引くぞ。アイツを出来るだけかき乱してくれ。」
ラプターは声掛けに頷き、大型魔物に接近し爪を足にひっかく。
「ブモオオオ!!」
魔物の大きさはゆうに3mを超える大型だ。
クライドの倍ぐらいはある巨体がクライドとラプターを睨みつける。
「あ、危ないぞ君!」
先程まで戦っていた兵士がクライドとラプターに注意を促すがクライドはそんな言葉には耳を傾けず、ラプターに指示を出す。
ラプターは適格にその指示通りに動き、魔物を攪乱する。
そして…
「ハッ!」
魔物が振るうこん棒を躱し、身体が前かがみになった時を狙う。
クライドはラプターから降りて、足払いをかけた。
「!?」
魔物はバランスを崩し、前かがみのままうつ伏せに転倒したのだ。
「今だ!やれッ!!」
クライドが近くの兵士やラプターに声を出し、躊躇うよりも先に身体が動き出し一斉に魔物に攻撃を仕掛けた。
クライドも短剣を魔物の背中に勢いよく刺し、ブレイブハーツを放出した。
「オオオオ…」
魔物は黒い灰となり消えていく。
「よし、中へ行くぞ!」
クライドは兵士たちの喜びの声を後ろに、ラプターに乗り修練所の中へと入って行ったのだった。
―――
(…クライドの気配が大きな気配に近づいていく。)
城周辺で死者を一掃していたガディアルは修練所の方を見る。
修練所から入って少しした場所に1人。そして更にそのずっと奥にもう1人。
それ以外の気配は無かった。修練所の中に居るのはその2人、そしてクライドとラプターだけだ。
(…それが奴の望む形ということか。)
ガディアルは修練所へと足を進める。
「ガディアル殿!」
「アルーラか。」
ガディアルの元に走ってくるのはアルーラだった。
「ガディアル殿、クライドは…どちらへ。」
「クライドは修練所だ。これから奴はこの死者を束ねる者と出会うこととなる。」
ガディアルは冷静に答えるがアルーラは少し慌てているように感じる。
「ガディアル殿…分かっていてクライドを行かせたのですか…」
「そうだ。」
アルーラもこの死者たちを束ねる者のことを知っている。ヴォロッドもそれを分かっているからこそアルーラはクライドに伝えに来たのだ。
「案ずるな。クライドももう気づいている。そして…覚悟も決まっているはずだ。」
「…そうですか…」
アルーラはそれを聞き、呼吸を落ち着かせ少し安堵した顔を見せた。
「…良い機会だアルーラ。死者を束ねし者はクライドに任せることにする。しかしこの辺一体の死者は邪魔だ。早々に片付けたい。」
ガディアルの目線はただアルーラを見ている。周囲から襲って来る者たちのことなど今回もこれまでも1度も目にはつかない。ガディアルとアルーラに触れること誰1人敵わず雷に焼かれて黒い灰となっていく。
まるで周りを飛び交う羽虫…いや、それにも値しないほどにガディアルにとっては些細な相手なのだろう。
「…確かに貴方の力ならば可能でしょう。しかしこれ以上の国の被害を見過ごすことはたとえガディアル殿の望みでも承諾出来ません。」
アルーラはガディアルの目を見てハッキリと伝える。
ガディアルは力を行使して一度にこの国に蔓延る死者を一掃しようとしているのだろう。だが、それは紛れもなく破壊の力だ。
巻き添えによる被害はガディアルが配慮したとしても確実に発生してしまうのだ。
「…そうか。仕方ない。ならば虱潰しにやっていくしかあるまい。」
ガディアルは呟く。アルーラは少しホッとするが…
「良いではないか。見せてもらおう。」
「!王…!」
「アルーラの後方から現れたのはヴォロッドだった。」
「王、なりませんこのような場所に…それに…」
アルーラはヴォロッドに言うが「まぁ良いではないか」と軽く流してしまい、ガディアルを見る。
「フフ、伝わるぞ。そなたはただの竜人ではない。きっとビライトたちの言う抑止力だの神だの、そういったものの括りに属する者であるな?それもとびきり上位の者だ。」
ヴォロッドは相手が世界最強の守護神の名を冠する存在であることなど知らない。だが、その感じるプレッシャーだけでそれらを感じ取る。
ヴォロッドも2mを超える巨体だがガディアルをそれを更に超える。だが、そんなガディアルにも臆さないヴォロッド
「王がそのような判断をしても良いのか?」
「命さえ奪わなければ構わぬ。可能だろう?」
ヴォロッドは見透かしたように語る。
「あぁ、可能だ。そもそも俺の力には制限がかかっていて力を振るったところで生物は殺せん。俺が殺せるのは悪の心ある者だけだ。しかし建物などの物質に対しての制限はない。そこの保証は出来ぬぞ。」
「であれば構わぬ。」
ヴォロッドはガディアルの力の行使を許可する。
「王、しかし…これ以上の都市の崩壊は復興にも時間を要してしまいます。」
「案ずるなアルーラよ。このワービルトの歴史上でも自然災害や内戦等で建物の多くが崩壊したことがある。その時はどの国の支援も無く長い時間をかけて苦労したようだが、その時と今とは違う。今や我々はヒューシュタットやドラゴニアとの三国同盟の元に在るのだ。すぐに復興などしてみせるぞ。」
ワービルトに限らずこれまでの三大国家は友好な関係ではあったものの、基本的には国の不始末は国だけでつけるのが基本であった。
故に何かが起こった際にも基本的には他国は不干渉であった。だが、三大国家は今同盟を結んでおり、それぞれが協力しあうことを約束している。
だからこそヴォロッドは復興も難しいことではないと思っている。
ガディアルの力を振るうことで、国民の命が危ないのであれば反対しなければならないがガディアルの言葉を信じるならば命が失なわれることはない。
それよりは今死者によって逃げ遅れている国民たちが次々と命を落としたり兵士を失うことの方が大きな問題なのだ。
「作れるものはいくらでも作り直せば良い。だが、命は作り直せぬのだ。命を優先するのであればそなたの力を存分に振るい死者を一斉に叩きのめした方が良いであろう。」
「…全く、貴方という御方は…しかし、その通りです。」
アルーラはため息をつき…
「分かりました。王の御心のままに。」
「手をかけるな、アルーラよ。」
「いえ、構いません。ではガディアル殿…」
「あぁ、なるべく建物の被害を抑える様に善処はしよう。気配察知で大体の生物の場所は把握出来る。建物の倒壊に巻き込まれぬようにも配慮しよう。」
「ありがとうございます。」
アルーラはヴォロッドの傍に寄り、魔法陣を展開させる。
「ウェーブスフィア。」
アルーラとヴォロッドの周囲に防御壁が張られる。
2人の周りがスフィアで囲われてスフィアの周りは波のような水しぶきが更なる防御壁のようなものを生み出している。
「万が一です。動かずに待機していましょう。」
「分かった。」
「フフ、手合わせ以外で久々に大きめの力を振るえそうだ。」
ガディアルは拳を合わせニヤリと笑う。
(…変わりませんね…ガディアル殿…)
(こやつ…本当は許される範囲で暴れたいだけか…?)
―――
ガディアルはワービルトの上空へと飛ぶ。
そして国全体を見渡し、気配察知を使い国中の生物たちと、死者たち、そして魔物たちの居場所を把握する。
(…建物の中に逃げ遅れた者は居ないようだ。生物の反応はあるが、もう息絶えている。)
主に人が集まっているのは上層の城の中だ。
逃げ延びた市民たちの大半は城の中に居る。ただ、一部の住民は中層の大型施設の中に逃げ込んでおりなんとか耐えきっている。
そして下層には生物反応はなく、残っているのは大量の死者たちとその襲撃で犠牲になった遺体だけだ。
そして上層奥にそびえる修練所。ここにはクライドとラプター、あと2人の死者の気配だ。ここはクライドに任せておけばいいため、ガディアルはひとまず上層から下層にかけての死者を殲滅することを考える。
「上手く避難が出来ているようだ。では、始めるとしよう。」
ガディアルの全身から雷がバチバチとあふれ出す。それはやがて肥大していき、国全体に横に広がっていく。
「おお…」
「…凄まじい力を感じます。」
「…」
意識を集中させるガディアル。1つ1つの死者にしっかりと狙いを定め…
「死者は死者の帰るべき場所へと帰るがいい。」
小さく細い雷が空から落ちる雷の如く、死者へと命中する。
小さく細いものであろうとも威力はすさまじく、死者は悲鳴をあげて黒焦げとなり灰となり消えていく。
「…なんと…!」
ガディアルは手を広げながら雷を自由自在にコントロールし、そして…
「消えろ。」
その一言と同時にワービルトの空は雷の音と光に覆われた。
一瞬であった。
周囲に居た死者たち全員に雷がピンポイントで命中する。
そして建物の中に居る死者は地面に落ちた雷が地を伝って下から上へと電撃が溢れだす。
建物にも衝撃が加わり、一部の建物は半壊から全壊したりなどの被害が多少発生しているようだが、まるで手足のように国全体を包み込む雷を操作し、死者だけをピンポイントで消滅させていく。
(神力解放を行っていないにも関わらず、これほどの力を行使できるとは…流石底が知れない…抑止力序列第三位、世界最強の守護神グロスト・ガディアル…)
「これは恐れ入ったな。我が軍に欲しいぐらいだ。」
アルーラとヴォロッドはゴクリと息を呑む。
しかし、死者は湧いてくる。地面が黒く染まりそこから新しい死者が湧こうとしているのだ。
「死者が増えるぞ…!」
「問題ありません。」
アルーラはガディアルを見て呟いた。
「ここは我が包囲の中に在る。これ以上の侵攻は認めぬ。」
ガディアルは更に力を高める。すると各地の地面から雷の柱のようなものが現れ、それが周囲の新しく湧いた死者を潰し始めたのだ。
「湧き潰しとはな…」
ワービルトの国内で湧き上がる死者たちはその存在をこの国に表すことさえ難しくなった。
「ボ、ボス……!」
「は、はは…なんだこりゃ、バケモンかよ…」
近くで戦っていたバルーサ隊もこれには唖然とせざるを得なかった。
あれだけ苦労した相手を国中から一瞬で消し飛ばしたのだ。多少の建物の被害が出ているとはいえ、それでも最小限だ。
「もう全部アイツだけでいいだろ…だというのに…感じるんだよな。修練所の方から強い力ってやつをよ…」
「どうしてあそこには手を出さないんでしょうね、ボス。」
「さぁな。とにかく俺たちは救助に回るぞッ。」
「「おっす!!」」
バルーサ隊は負傷した兵士たちを城に連れて行ったり、市民を城へと避難させる救助活動へとシフトした。
―――
ガディアルは雷の柱を維持したまま地に降りる。
「素晴らしいな。それほどの力を以てしてもビライトたちの目指す者に抗えぬとは。」
ヴォロッドはガディアルを称賛した。
「この力は奴には効かん。そればかりはビライトたちに委ねるしかない。」
ガディアルの力が働いているワービルトは現状、死者が新しく生まれることが出来ずにいる。だが、ガディアルもずっとこういしているわけにはいかないので、まずは死者を束ねる者をなんとかしなければならない。
その束ねる者こそが、今クライドが目指している修練所の奥にいる存在だ。
ガディアル単独で行っても恐らく他愛もないだろう。だが、ガディアルはあえてそこだけは手を出さずにいた。それはクライドがやらなければならないことだと思っているからだ。
「さぁ、あとはお前がやるのだ、クライド。」
ガディアルは修練所に向かって小さく呟くのだった。
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修練所を慎重に進むクライドとラプター。
曲がり道も多く、複雑な道が続いているが、この奥は長い階段になっている。そしてそれは下層まで続いており、その先には国から出るための道がありジイル大草原に出る。
もう少しすれば階段が見えてくるはずだ。そして、その手前には少しだけ広い空洞があり…そこに、1つに気配がある。
「…」
クライドは空洞の様子を確認する。
そして…そこには見たことのある獣人の後ろ姿が居た。
(…やはりか…)
クライドは静かに空洞へと顔を出す。
「やぁ。来たね、クライド。」
「…どうやらお前は特別なようだな。死者は皆言葉を発することは出来なかった。」
「そうだねぇ。ボクはちょっと特別かな。ボクは偉大なるイビルライズ様にご指名でこの世界に蘇らせてもらったんだから。」
「結構な呼び方だな。お前が忠誠を誓っていたのはイビルライズではないはずだが?」
クライドは慎重に会話をしていく。ラプターはその存在の嫌な雰囲気を汲み取っているようで、グルルと唸り威嚇する。
「そうだね、ボクにとっての全ては今でもギールただ一人。そしてギールが必要としているのもボク。お前なんかじゃない。」
獣人は後ろを振りむき、クライドを見た。
「久しぶりだねぇ、クライド。」
「…あぁ、そうだな……サベージ。」
かつて、ヴォールの一員であり、仲間であり…そしてギールを愛するあまり、ヴォールを壊滅させた張本人…サベージが歪んだ笑顔でクライドを見ているのだった―――――