Delighting World Brave 一章 五幕 ~トーキョー・ライブラリ決戦 抑止力たちの反撃〜
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Delighting World Brave 一章 五幕 ~トーキョー・ライブラリ決戦 抑止力たちの反撃〜
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ここはトーキョー・ライブラリ。
衝撃波の被害を思いっきり受けてしまったこの街はカタストロフと戦っていたあの時から余計に都市が破壊されてしまった。
「あ~…もうホントに最悪だよ~…」
「お前ホントついてないよなぁ~」
ヘラヘラと笑う獣人をよそに、頭を抱える獣人。
抑止力、アトメント・ディスタバンスとトーキョー・ライブラリに唯一住んでいるいわば管理人であるルフはトーキョー・ライブラリの核とも呼べる場所、スカイ・ライブラタワーの地下に居た。
ここはあらゆる情報を分析することができるスーパーコンピュータが存在している。
だが、今の状況はあまりにも例外すぎるのか、今の状況を打破する手段は叩き出せないようだ。
そして、クローン体である自分がいつか訪れる復活出来なくなる時までにトーキョー・ライブラリの完全自動化を目指している―――が、カタストロフの一件や、今回のイビルライズの衝撃波による影響で完全自動化は大きく遠のいてしまったようだ。
「どう計算しても間に合わないんだよ~…トーキョー・ライブラリの自動化の前に俺の寿命が終わっちゃうよ~…」
ルフは「あ~~…」と深く落ち込んでいる。
「ウーン…どこまでやれば間に合うか計算してみっか?」
「それもやったけどさぁ…結構人手が必要になっちゃうんだよねぇ…カタストロフが全部終わった後で手伝ってくれるって言ってくれてるけど…それだけじゃ足りないんだよね…」
「そうだな…オールドの奴らをこっちに手伝わせてみるか。」
「そんなこと出来んの…?大体こっからオールドまでどんだけ距離あると…」
「わーってるよ。そこで俺たち抑止力だ。」
アトメントは自信ありげに応えるが…
「えー…でも、好きな場所へ瞬間移動なんて芸当が出来るのってガディアルぐらいじゃない?それも回数制限付き。一応カタストロフやアーチャルも簡易的なテレポートが出来るけどそれでも移動できる距離は知れてるし。」
「まぁそれはそうだけどよ。ヒューシュタットで出されていた仕事のキュージンとやらを見たことがある。働き場所にしばらく滞在するっていう“スミコミ”ってのがあるらしい。」
「あー住み込み労働ね…でも人件費なんて無いよ。」
「そんなモン、オールドの国々に出させりゃ良いだろ!」
「無茶言わないでよ…そんな易々と。」
アトメントは簡単だろ?と言わんばかりに言うが、現状はルフの思う通り難しいだろう。
こちら側が人件費を払うならまだしも、そこをオールドの国々が出すのはもはや国にメリットがあまりにも無さすぎる。
お人よしのドラゴニアやヒューシュタットは考えてくれるかもしれないが、ワービルトは100%断られる案件だ。
「とにかく…大勢に頼むならこっちも何か利益になるものを提供しなきゃ駄目なの。そんな取引って甘くないんだよ~?」
「はー、そんなもんか?生物ってのはめんどくせぇんだな。」
「そうなんだよ、アトメント。」
ルフがそう言うと同時にゴゴゴと天井から地響きが聞こえる。
「で、俺たちいつまでここに籠ってればいいのさ。」
ルフはアトメントに尋ねる。
「もうちょいしたらデーガとレクシアが合流する。そしたら一気に奪還するぜ。」
「あ~あ…死者だかなんだか知らないけどこれ以上トーキョー・ライブラリを壊さないで欲しいよ……」
―――今、トーキョー・ライブラリにも死者が現れており、意図的に建物を壊すような行動は見せてはいないが、生者を見ると襲い掛かってくる性質がある。
都市中を歩き回っておりルフも危うく襲われる手前だったところをアトメントに助けられ、なんとかこのスーパーコンピューターの部屋まで逃げ切っていたのだ。
そして今もルフたちを探してこのスカイ・ライブラタワーの周囲には多くの死者がうろついているのだ。
アトメント1人でも死者には対抗出来なくはないが、相手はイビルライズから生まれた存在だ。特効はやはりブレイブハーツなのだ。
だからこそ、今向かっているデーガのブレイブハーツが必要不可欠だ。
そして、同時に向かっているレクシアもまた魔法の扱いは抑止力の中でもトップクラス。3人が力を合わせればトーキョー・ライブラリの死者たちを倒すことが出来るだろう。
「胸糞悪いがな。デーガに頼らなきゃいけねぇのは。」
「ブレイブハーツが特効なんだから仕方ないじゃん。」
「カーッ、俺にも使えりゃデーガには負けねぇのに!」
アトメントは頭に手を当ててため息をつく。
「でも、デーガはカタストロフと離れてるから今は弱体化してるんでしょ?力比べしたら君が勝つんじゃないの?」
「あったりまえだろ。だからこそ今回はブレイブハーツ1つで立場が大逆転だ。嫉妬の1つでもしちまうぜ。」
アトメントはデーガとライバル意識がある。せっかく自分の方に軍配が上がったのに今回はデーガに利があることが少し気に入らないらしい。
「でも争ってる場合じゃないからね。」
「わーってるさ。この事態が収まったらコイツで序列の再演算をしてやる。」
アトメントはスーパーコンピューターを見て呟く。
抑止力序列の計算はこのスーパーコンピューターが叩き出した結果だ。
今はトーキョー・ライブラリのために全エネルギーを使用している為他の計算は出来ない状態だ。事態が収まればアトメントは自分の方が上であることを証明しようと思っているのだ。
「そんなに大事かなぁ、序列なんて。」
「うっせ~っての。俺にとっては大事なの!」
正直、序列を気にしているのはアトメントだけだ。他の抑止力はそのようなことには興味がなく、デーガもアトメントとケンカする時と誰かに抑止力の説明をするときしか序列の話はしない。
他の神々もカタストロフも説明の為にそれを持ち出すことはあるが基本的には自分の立ち位置については全く関心がない。
「ま、良いけどね…」
「ったくよー……お、デーガの気配が来てる。ルフはここで待ってろよ。さっさと片付けて来るからよ。」
「オッケー。待ってるよ~」
アトメントは部屋から出、スカイ・ライブラタワーの1階へと移動した。
1階から地下へ繋がる扉を開けた瞬間、黒い生物たちが一斉にぐるっとアトメントを見る。
「おっ、やる気だなぁ。だが今は相手してやらねぇ。デーガとレクシアと合流するのが先決だからな。」
飛び掛かる黒い生物たちをジャンプで躱しそのまま宙に浮き、スカイ・ライブラタワーに沿って飛ぶ。
「おーい、こっちだぜ。」
「よう。」
神の領域の方角からデーガが飛んできた。
「レクシアは?」
「気配は近づいてきている。もうすぐ来るはずだ。」
アトメントの言葉に頷き都市を見渡すデーガ。
「うげっ…黒い生物たちで溢れかえってやがる。」
「あれがイビルライズが生み出した死者ってやつだ。全く持って趣味が悪いぜ。」
「ルフは?」
「地下にいる。あそこはそうそう破られないから大丈夫だ。」
「そうか。レクシアが来るまで待つか?」
「いや、さっさとやっちまおうぜ。こうしてる間にもトーキョー・ライブラリの復刻がどんどん遠のいてルフが参っちまう。」
アトメントはやる気満々だ。
「なんだよお前、優しいじゃんかよ。」
「うるせぇっての。アイツは世界統合からずっと頑張ってんだよ。俺らが現を抜かしてる間もだ。少しは俺らも手貸してやらねぇとみっともねぇだろ。」
アトメントはそう言うが、デーガは少し驚いていた。
「フーン、お前がそんなこと言うなんてな。ビライトたちに感化されちまったか?」
「そーかもな。アイツらの底抜けのお人よしや、頑張ってる姿に感化されたかもしれねぇ。怠いけどよ。」
アトメントは元々は情熱家であるが、世界が分かたれた際に性格が変わったように、怠惰になった。
世界統合後も基本的には怠惰であることが多かった。
だが、ビライトたちと出会い交流することで少しは昔の情熱的なものを取り戻しつつあるのかもしれない。最もデーガは最初のアトメントを知らないが故、怠惰のままで終わろうとしないアトメントに驚いたのだ。
「ヘッ、ならさっさと片付けるか。足引っ張んなよ。」
デーガはアトメントに言うが…
「お前こそ何が来ても躊躇うなよ。」
「あ?」
「イビルライズは今や死者を自由に操ることが出来るんだ。お前のかつての仲間たちがお前の前に現れるかもしれねぇんだ。」
「…痛いところつきやがって。もうそれはイビルライズでやられた。けどンなもんは関係ねぇ。俺が眠らせてやらないとだからな。」
デーガは今度こそ実体を持って目の前に現れるかもしれない。そう思ってはいるが、それでもデーガの想いは変わらない。
「杞憂だったか?」
「どーだかな。」
デーガはため息をつく。
「俺がイビルライズで見せつけられたとき、アイツらは囚われていた。だが今回は実体を持って現れるかもしれねぇ。その時俺がどうするか…ンなことは俺にも分からねぇよ。けど、覚悟はしてるつもりだ。」
「そっか。なら、お前の手で…殺めることになっても泣くんじゃねぇぞ。」
「泣くかよ。舐めてんのかてめぇ。」
デーガは笑いながら言う。
「なら良いさ。さぁ、やるぜ?」
アトメントは神力解放した。
背中に炎の翼が生え、長い赤い髪が大きく逆立つ。
ゆらゆらと揺れる尻尾の毛が赤く燃え盛り、額には紋様が浮かぶ。
「おう。」
デーガもブレイブハーツを発動する。全身から赤いオーラが溢れ、周囲の黒い生物たちが一瞬怯んだように見える。だが、黒い生物たちはデーガたちを睨む。
「この戦いのカギはブレイブハーツだ。しっかり働けよな。」
「ケッ。」
デーガとアトメントは黒い生物たちに突っ込んでいく。
「オラアアアッ!!!」
「大人しく魂の道に帰りやがれッ!!」
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スカイ・ライブラタワーの地下ではルフが大きな音に気付いて天井を向く。
「始まったみたいだね…お願いだからこれ以上壊さないで欲しいよ~…」
ルフはため息をつく。
「…ごめんね皆。俺、この都市守れそうにないかも。大見栄張ってせっかく1000万年も生きてきたのになぁ。」
ルフは再びため息。度重なるトーキョー・ライブラリの破壊にすっかり気が滅入ってしまってるルフ。
「……もし駄目だったら俺もそっちに行くからさ。また…みんなでゲームやろーよ。」
ルフはそう呟き、目を閉じる。かつての友人たちと過ごした楽しい日常を想い出し、思わず涙腺が緩みそうになる。
「…駄目だよね。」
ルフは再びスーパーコンピューターを触る。
「そう、俺は何のためにここまで生きてきたんだよ。この大切な場所を永遠に残す為じゃないか…最後まで、抗ってみなきゃ。合わせる顔が無いし。」
ルフは地上で戦うデーガたちを信じ、そして自分はこの都市のために出来ることを模索するのだった。
自分がいつか役目を終えた時に、魂の道の向こう側で友人たちに笑顔で会えるように。
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デーガとアトメントはトーキョー・ライブラリを守るために戦う。
アトメントは神力解放。そしてデーガをブレイブハーツを解放する。
「さっさと片付けるぜデーガ!」
「あたぼうよ!」
死者への特効はブレイブハーツ。ブレイブハーツが効くイビルライズが生み出した死者もまた、ブレイブハーツが弱点となるのだ。
つまり、ブレイブハーツを使えるデーガがこの戦いのカギとなるのだが相手は特に突出する強さを持っているわけでもない生物や魔物の死者だ。
ブレイブハーツを使えないアトメントでも十分死者を倒すことは容易く、2人は襲い来る死者たちを片っ端から倒していく。
死者を倒すと死者たちは黒い霧となり散っていく。
その際に魂は再び魂の道へと戻って行くようだ。
「しかしアトメント。こいつら倒してもまたイビルライズに悪用されちまうんじゃねぇのかよ。」
「いんや、一度傷ついた魂は修復するまでに時間がかかるはずだ。そうすぐには再利用されねぇよ。」
「なるほど…なっ!」
戦いながら会話するアトメントとデーガ。
一斉に襲い来る無数の敵をアトメントは炎魔法で敵の行動範囲を狭くして、デーガは様々な属性魔法をブレイブハーツに纏わせて一掃する。
「1人1人は大したことはねぇが…数が多いぜ。」
「それに…こいつらイビルライズの力をわずかだが持ってやがる…触れるだけで面倒だぞ。」
「なるほどな。コイツらに触れるとちょっと痛みがある。そういうことかよ。」
デーガとアトメントは既に何度か触れられているが、少し痛みが走っている。
ビライトたちがイビルライズで出会った住民も触れただけで服や皮膚を溶かしかねない強い酸のようなものを持っていた。
恐らくここに居る黒い死者たちも同じようなものを持っているのだろう。
「奥からどんどん来てるぜ…さっさと一掃して他の場所も見て回らなきゃならねぇのによ。」
「全く、無駄に広いからなこの世界はッ…!俺の権能で届く範囲の魔物たちに防衛を任せてはいるが…全部の手は回らねぇ。」
「レミヘゾルはオールドに比べて人口は限りなく少ない。アーデンを始めとする集落に焦点を当てろよ。」
「わーってるっつーの!」
会話をしているだけまだ余裕があるというものだが、あまりにも数が多い。奥から数百の死者がどんどんあふれ出しているのだ。
「だーっ!キリがねぇ!!まとめてぶっ飛ばしちまうか!?」
デーガはそう言うが…
「ばっかお前!ンなことしたらもっとトーキョー・ライブラリが壊れちまうだろ!」
「チッ…!」
気が短いデーガはイライラしていた。
街ごと吹き飛ばせれば楽というものだが、今度こそルフが泡拭いて倒れてしまうかもしれない。
それに防衛のために戦っているのにこれ以上壊してしまっては元も子もない。
「奴ら、俺たちに反応して向かってきてんだ。なるべく被害が出ない所に誘導してまとめてぶっ飛ばすの良いかもしれねぇ。」
「こっから郊外まで出るってか?ここは中心地だから結構な距離があるぞ。」
ここはトーキョー・ライブラリの中心地だ。ここから死者を全員郊外に追い出すにはかなり無理がある。
それに死者はここだけではない。トーキョー・ライブラリ全域に居るのだから、今この場に居る死者を倒したところで大したことにはならないのだ。
「根本的な解決はやはりイビルライズを倒すことだ。だがここの死者をある程度倒すことが出来ればイビルライズにも少しは打撃を与えられるかもしれねぇ。全部を倒すことは考えねぇ方が良いかもな。」
「ケッ、ホントにめんどくせぇな。そしてやり方が嫌らしいぜ。直接手を下せばいいモンをよ。」
デーガは顔を顰めて舌打ちをする。
「奴はただ世界が滅ぶだけじゃ飽き足りねぇんだろうよ。それだけこの世界が憎いんだ。」
「同情は出来ないわけじゃぁねぇよ。俺も決して良い生まれじゃねぇからな。」
デーガはカタストロフの器として命を授かっている。
両親に受けた愛は本物だが、その人生の果てには絶対に避けることの出来ない運命が待ち構えていた。
自分もその運命を受け入れ、器でいいと思っていたが…器であること、カタストロフと同化することがどれほどに重みがあるものかを甘く見ていた軽い考えが破滅を招いた。
それからお互いが罪の重さと責任を理解し、カタストロフと打ち解けることはできたものの、以後何千万年苦しんだ。
そしてつい最近まではただ死ぬことだけを望んでいた。
だが、今のデーガは違う。カタストロフと分かれ、ブレイブハーツを再び蘇らせ、ただの魔族となった彼にはこれからの未来を生きようとする想いが生まれているのだ。
「アイツの生まれた境遇は偶然とはいえどうにもならない世界の癌だ。けどそれで世界を全てぶっ壊す理由にはつながらねぇんだよ。」
デーガにとって、もうシンセライズはただ自分の死を待つだけの場所ではない。これからは大事な世界として生きていかねばならないのだ。
そして、自分の境遇を呪いながらも世界すらも憎むイビルライズを否定する。
それだけではない。
「それにアイツは俺の大切なモンを利用し、嘲笑った。絶対に潰す。」
そう、デーガにとっての大切な思い出であり、大切な存在たち。かつて自分が共に過ごした大切な仲間たちを利用されたデーガはこれまでに無いほどの怒りを浮かべていたのだ。
「あんま怒りに身を任せんなよ。ブレイブハーツが廃るぞ。」
「舐めんな。俺は至って冷静だ。」
デーガはそう言うが、実際ブレイブハーツの効果は全く衰えることは無く本家らしくビライトたちとは比較にならないほどにその力は膨大にあふれ出している。
(ま、本家だしな。感情の乱れとかにはあんま影響しなさそうだけどな。)
アトメントはそう思い、上を見上げる。
「お、それより来たぜ。おーいレクシア。こっちだこっち。」
アトメントの頭上にはレクシアがオールドからこちらにやってきた。
「フム、なかなかの数じゃな…」
「おいレクシア、こいつら全員郊外に追い出したいんだ。手伝えよ。お前の魔法ならちょいちょいだろ。」
アトメントはレクシアに自分たちがやりたいことを伝える。
レクシアは手を口に当てて考える。
「…フム、可能ではあるが多少乱暴になる。街を多少巻き込むかもしれぬのじゃが…ルフはどう思うじゃろうな。」
「出来んのかよ…」
レクシアにとっては容易いことのようだ。
レクシアは魔法の始祖と呼ばれている神だ。
デーガがかつて住んでいた世界や、このシンセライズでは魔法の始祖は魔族からだと言われているが、実際のところは源流はレクシアなのだ。
レクシアが魔法を使う時に必要な魔力を生み出し、それを生物にも扱えるように与えた。
そして可能な限り魔力を各世界へと回していたのだ。
かつてのアーチャル世界のように魔力が届かなかった世界もあったが、レクシアの管理していた世界はよりその力が濃く、魔族のような高い魔力を持つ存在が生まれたとされている。
これは古文書にも載っていない、誰も知らない真実だ。
そしてレクシアの扱う魔法は他の抑止力とは格が違うほど強力なものから、小さなものを動かす程度の小さいものまで幅広い。
禁断魔法だろうが、完全回復魔法だろうが、古代魔法だろうがなんでも扱える。それが魔法の始祖、抑止力序列第6位、タイトース・レクシアなのだ。
「一応ルフに確認取っとくか…まぁアイツのことだから嫌でも良いよって言うだろうけどよ。」
「お優しいこって。」
アトメントは一旦ルフに許可を取るためにスカイ・ライブラタワーへと戻る。
「デーガ、魔法の力はより高まっておるようじゃな。」
「アンタには色々教わったからよ。結果的に世界にとってはプラスになってる。」
「ウム、儂が伝えた魔法を更にオールドの者に伝授した時は多少憤りを感じておったが…結果的には役には立ったようじゃからな。」
「古代魔法、ドラゴニック・ピュリフィケーション、そしてエクスリストレイか。フリードはかっこよく命を散らし、ボルドー・バーンにとっては正義の力となった。」
「結果的には…な。レジェリー・ウィックの扱う禁断魔法も多少は無理はあったかもしれぬがそれも良き方向に傾いた。全てが上手くいっているが…」
「――これ以上の拡散はやめるのじゃぞ。」
レクシアはデーガを見つめ、真剣な目をして呟いた。
「禁断魔法や古代魔法はリスクの大きい魔法が多い。ドラゴニック・ピュリフィケーションは命を散らし、エクスリストレイは身体に大きな負担をかける。ボルドー・バーンは身体を鍛え、魔力のコントロールも努力でこなし、負担を無いも同然にしておるがあれは極めて稀な例じゃ。」
「へいへい。わーってるよ。」
デーガは軽く聞き流すように言う。
「俺も教える相手は選んでるつもりだ。レジェリーは…まぁアイツは例外だけどよ。」
「ウム…気を付けるのじゃぞ。力を持つということは正義にも悪にもなりうることが出来るのじゃからな。」
「わーってる。…ていうか、そんな話をわざわざするってことは何か危惧してることでもあんのかよ。」
デーガはレクシアに尋ねる。
「…ウム、正義の力を持ちながらもそれを振りかざし…悪となった者を知っている。そやつがイビルライズの力で蘇るとしたら?」
「…なるほど…最悪だな。だが、あり得る話だ。」
「…そやつが狙うとしたら誰を狙うと思う?」
「…杞憂だ。」
「だと良いがな。」
レクシアが危惧している相手が誰なのかは分からないが、デーガにとってもレクシアにとってはそれはあまりいい話ではないどころか、最悪のケースとなるかもしれないという、杞憂で済めばいい話だった。
そして…それが狙う相手は―――
(気を付けろよ。奴が現れるとしたら必ずお前の元へと現れるぞ…“カタストロフ”。)
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ドラゴンの集落から別行動を始めたビライトたちオールド組。
ビライトはレジェリーとカタストロフと共にドラゴニアを目指していた。
カタストロフはガディアルのように瞬時に長距離を移動することはできない為、短距離を空間を利用して移動していた。
「カタストロフ、疲れない?」
「問題ない。歩くよりは空間を使う方が良い。」
紫色の空間が現れその中に入り、数キロ先へと移動する。出た先でまた空間を生み出してまた数キロ先へ移動する。
「この空間を移動するには多少の魔力が必要なのだ。我は問題ないがビライトとレジェリーには使い過ぎは良くないが故、時々魔力を回復させるための休憩が必要だ。」
「そっか。でも歩くより全然早く移動出来るからカタストロフが居て助かったよ。」
「ム…褒めてくれるのは嬉しいが…我はガディアルのようにすぐの移動は出来ぬ。ドラゴニアに1秒でも早く行かねばならぬが…すまない。」
「謝らなくていいのよカタストロフ!あたしたちホントに感謝してるんだから!」
「そ、そうか…」
「そうだよカタストロフ。ありがとう。」
本来ならばドラゴンの集落からドラゴニアまでは約3日程度はかかる。
この空間を使えば1日程度で行けるだろう。
「少し休もう。」
カタストロフは空間を閉じ、ビライトたちは休憩を取ることにした。
今の現在地はメギラが祀られていた森の中だ。
ヒューシュタットからドラゴニアまで向かう時にビライトたちが過去に通った場所だ。そしてビライトがメギラと出会った場所でもある。
「でもガディアルがレミヘゾルから一気にオールドまで移動しちゃったの凄いよね。ガディアルがあたしたちもドラゴニアまで送ってくれればよかったのに。」
切り株に座り、レジェリーは呟いた。
「ガディアルには色々と能力の制限がかけられているのだ。移動にも回数が限られていて回数が回復するのにも時間がかかる。」
カタストロフはビライトたちに教える。
「ガディアルは力を抑えているみたいだけど…そんなに凄い力を持っているのか。」
ビライトも地面に座りカタストロフも同じように座る。
「あぁ、奴は別格だ。ありのままの力を振舞うだけで世界に影響を及ぼすほどにだ。」
「ホントに凄いんだ…」
「奴にはエテルネルの神力の大半が宿っている。シンセライズの力とは異なるエテルネルが所有している創生神としての力だ。その力は今のイビルライズと同格…いや、それ以上かもしれぬ。」
カタストロフはガディアルの強さを語り始める。
「でも、ガディアルでは倒せないんだよな。」
「ウム、イビルライズに神力は通用しない。故にガディアルにはイビルライズを倒すことは出来ぬ。奴は元々はただの生物であるが故にブレイブハーツを扱えるのではないかと思うかもしれぬが、奴は完全に生物としての魂ではなく、神としての魂に切り替わっている。故に、ブレイブハーツを扱うことは出来ぬのだ。」
ガディアルの実力はイビルライズを超えるともされている。だが、ブレイブハーツを使えないガディアルにはイビルライズを倒すことは出来ないのだ。
「どうして神様はブレイブハーツが使えないのかしら。心の強さが力になるものなら皆もあたしたちと同じぐらい強い想いがあるはずだけど。」
レジェリーは疑問を言う。
「神々は生きている時間が長すぎる。価値観もお前たち生物たちと異なる。心をすり減らしている者も居る。ブレイブハーツとの相性は良くないだろう。」
「なるほど…」
「神力も誰かに分け与えたりすることが出来るのかしら。」
「ウム…ブレイブハーツも発動には強い意志が必要だ。神力にもブレイブハーツ同様そのような力はあるだろう。」
「へぇ~、あたしにも使えたりするのかなぁ~」
「可能性はあるかもしれぬな。」
「と、いうことはブレイブハーツが神様たちにも使える可能性もあるんじゃないのか?」
「ウム…魂の構造が生物と異なるが故、相性が良くないのだと聞いたことがある。神力とブレイブハーツは似て非なるものであるからな。」
生物には神力を神様から分けてもらう形の発動は可能かもしれないが、神様側がブレイブハーツを受け取って発動するのは不可能だろうというのがカタストロフの見解のようだ。
「そっか…でも、ガディアルが凄く強いっていうのは分かった。」
「ウム、しかしガディアルの強さは力だけではないぞ。奴の心は決して折れることは無い…鋼のように固く、強い力がある。覚悟も相当なものだ。」
「それだけ過去に色々あったんだよな。」
カタストロフは頷く。
「その覚悟を買われ奴は抑止力となり、神となった。そして…最強の力をエテルネルから預かった。しかし今のガディアルが強いのはエテルネルの力があるからだけではない。」
「そうなのか?」
「あぁ、奴は元々邪神ディスタバンスの統治する世界に生まれ、全てを失った。神を恨み、多くの別れや悲しみ、怒り、憎しみを経験してきた。かつて生きていた元生物で神すら打ち破るほどの力を持った謂わばイレギュラーのような存在。それが故に世界統合戦争でも最前線に立った。ヴァジャスを救い出せたのも奴の存在がとても大きい。」
カタストロフから語られるガディアルの力というものは想像を超える程大きなことのようだ。
そこにはガディアルの今までの苦労もあり、そんな積み重ねの果てが現在のガディアルなのだという。
「奴には今は亡き大切な友たちが居る。友たちは世界を愛していた。そんな世界を守り続けること。それがガディアル・グロストという元生物であった神が選んだ道だ。」
「そうなんだ…あたしたちが思って居る以上にガディアルの想いは強いんだね。神様たちの気持ちにあたしたちも応えなきゃ!」
「そうだな。頑張ろう…って、そういえば…邪神ディスタバンスってアトメントのことか?」
ビライトの質問にカタストロフは頷く。
「ウム、ガディアルは生物である時にアトメントに全て大切な存在を奪われている。今ではしっかり下剋上しているようだがな。」
「あはは…2人はお互いをどう思ってるんだろうな。」
「少なくともガディアルは嫌っているようだ。アトメントは…よく分からぬな。奴は何を考えているのかよく分からぬ時があるが故…」
「まぁ…それもそうか。」
「アトメントって何考えてるか分かんない時あるもんねぇ~」
ガディアルがよく思っていないというのは納得だった。アトメントは今は邪神ではなく、時々だらしなく胡散臭くはあるが、神としての役割はきちんと行っている。それがアトメントにとって罪滅ぼしなのかは分からないが、アトメントは気まずいのは苦手そうだ。
いつか分かり合える時が来るかは分からないが、仲良くすればいいのにと思うレジェリーだった。
―――
そして、その後も休憩を挟みながら移動するカタストロフたち。
その中でカタストロフは1つのことを頭に過らせていた。
(死者の復活…か。イビルライズは全ての死者を蘇らせることが出来るのだろうか…そして、奴は我々のことをどの程度理解しているのか…それ次第では…)
「カタストロフ?」
「…」
カタストロフは少し考え込んでいるようだ。
「カタストロフってば。」
「…あ、あぁ。すまない。どうしたレジェリー。」
「えっと、何か考え事?」
「あぁ…懸念していることがあるのだが…恐らく杞憂だ。気にするな。」
カタストロフはレジェリーにはそう言い、心配をかけさせないように配慮した。
「ホントに?」
「あぁ。」
「そっか…でもあたしはいつでも相談に乗るからね。」
「ありがとう。頼りにしている。」
カタストロフは微笑んだ。
(レジェリー、もし…もしもお前に何か我の思う最悪の結果が起ころうとも…お前だけは必ず守って見せるぞ。)
カタストロフは自分が懸念していることが当たらないことを願い、そして仮にそれが起こったとしても絶対にレジェリーを守ると、強く決意するのだった。
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「よう、待たせたな。」
「どうだった…ってなんでルフも一緒なんだよ。」
トーキョー・ライブラリではアトメントがルフと話をつけて合流してきたのだが、アトメントはルフを担いでやってきたのだ。
「だって俺だけじっとなんて出来ないよ。一応銃と…たくさん弾薬持ってきたからさ。」
ルフの手にはアサルトライフルと呼ばれる種類の銃が握られていた。連射を得意とする銃のようだが…
「ルフ、これ以上の都市での戦闘を避けるため死者を都市の郊外へと吹き飛ばしたいのじゃがの。多少都市にも影響が出るかもしれぬのだ――という話をアトメントから聞いたはずじゃが…どうじゃ?」
レクシアはルフに尋ねる。
「…本音を言うと少しだけ思うところはあるよ。でもここでドンパチするより郊外でやった方が結果的にはマシだと思う。それにレクシアだったらなるべく最小限に調整できるでしょ?」
「ウム、善処はしよう。」
ルフはレクシアに許可を出す。
ルフもレクシアの魔法は誰よりも凄いことを知っている。故になるべく被害が大きくならないようなやり方で行ってくれると信じての言葉だった。
レクシアもそれに配慮してくれるようなので、ルフは信じるしかなった。
「ではデーガ、アトメント。ルフを連れて上空へと避難を。」
「おう。」
ルフを担いでいるアトメントとデーガは更に上空へ。スカイ・ライブラタワーの600mを超える巨大な電波塔よりも高く飛んだ。
「ひゃー…こんな高くまで飛んだの久しぶりかも。アーチャルで生きてた時に乗った飛行機以来かも。」
ルフは少しだけ怖いようで顔が引きつっている。
「じっとしてろよ~?うっかり落としちまうかもしれねぇからな。」
「怖いこと言わないでよ~…これ以上死んだら目も当てられないよ~」
アトメントはルフをからかい笑っており、デーガはそれを見てやれやれとため息をついた。
「ったく…ホレ、始まるぞ。」
デーガはレクシアが居る場所を指さす。
「神力解放。」
レクシアの全身から淡い水色の光が溢れだす。
見た目に大きな変化は無いが、黒ずんだ目が青く光り、背に生える小さな羽が伸びている。
「―――世界中の風よ。今ここに集い、荒れ狂う暴風となりて舞い上がらん―――“ディアブル・テンペスト”。」
レクシアの真下に数十メートルを超える超巨大な魔法陣が出現し、それが周囲から渦を巻くように風となり、それがどんどん巨大化し、竜巻となった。
「うわわ…竜巻が広がっていく!」
竜巻がどんどん肥大化していく。レクシアは目を閉じ腕を回しながら竜巻の形を維持するように調整をしている。
「ディアブル・テンペスト。俺が知る限りでは最強の風属性魔法であり、禁断魔法の1つだ。本来ならトーキョー・ライブラリだろうがなんだろうがぶっ壊せるほどの暴風を巻き起こす魔法だが…流石レクシアだぜ。トーキョー・ライブラリの建物はピンピンしてやがる。」
デーガも息を呑むように見ている。
本来の使い方とは異なる使い方をするというのは難しいものだ。特にとてつもない破壊力を秘めたものを最小限に抑え込むことは並みの魔法使いでは出来ない所業だ。
やがて竜巻はトーキョー・ライブラリをまるまる全て覆ってしまった。
「…ハッ…!」
レクシアは目を開き、その暴風の威力が一瞬だけ跳ね上がった。
ゾクッとするほどの大きな魔力の高鳴りにデーガとアトメントは身体をピクッと動かすほどだ。
「へへ…流石の魔力だぜ。」
「お前より強いんじゃねぇの?」
「馬鹿言えよ。近接戦に持ち込めば俺の勝ちだ。」
アトメントは自信ありげに言う。
暴風が一気に黒い死者たちを一斉に巻き上げた。
数千を超える死者たちは逃すことなく全員暴風の中だ。
「ムンッ。」
レクシアは竜巻を器用に動かし、宙に浮かせ、生物たちを竜巻に閉じ込めたままトーキョー・ライブラリから引き離す。
「おっと、俺たちも郊外に行くぞ。」
竜巻に巻き込まれるかもしれないためデーガたちはトーキョー・ライブラリの郊外へと移動する。
―――
トーキョー・ライブラリの最北部はカタストロフとの戦いのときに全て綺麗に消し飛んでしまったため、今は荒れた荒野となってしまっている。
ここであれば都市からも距離があり、デーガたちも戦いやすい。
「あとは任せるぞ。デーガたち。」
レクシアは竜巻を解除し、一気に死者たちが上空から地面に向かって落下していく。飛行できる者は空を飛んでいるが、それ以外の生物たちは地面に激突していた。
その衝撃でそのまま息絶えた死者も大勢いるが、硬い魔物や打ち所が良かった者たちは生存している。
レクシアは神力解放を解除する。それと同時に地面に降り立ち深く呼吸をする。
「フゥ…やはり神力解放は堪えるわい…」
そしてデーガとアトメント、そしてルフは地面に降り立つ。
「さぁて、暴れ散らかしてやるかッ。」
「ケッ、さっさとぶっ潰すぞ。」
「こ、これ以上トーキョー・ライブラリをやらせるもんか…!」
死者たちはデーガたちを睨み、そして一斉に襲い掛かってくる。その数は500を超える数だが、デーガやアトメントにとっては大した数ではない。
「行くぜオラアアアッ!!」
「どっちが多く潰せるか勝負だッ!」
血気盛んなデーガとアトメントはやる気満々で突っ込んでいく。
拳や魔法を振るい、時には広範囲を魔力で吹き飛ばしながら次々と一掃していく。
「お、俺だって!」
ルフはアサルトライフルを構え、銃弾を連射して死者たちを倒していく。
「ああもう、ホント最悪だよ~…死者とはいえ生物を殺すことになるなんてさぁぁぁ!」
ルフは気が進まないがそれでも自分の都市を守るために必要なことだと割り切るしかなかった。
慣れないライフルで倒していくが、当たり所が悪いと死者たちはまるでゾンビのように起き上がりルフに襲い掛かる。
「わ、わわわ!」
「しっかり狙えよルフッ!!」
血気盛んになっているとはいえ、デーガとアトメントはルフのこともきちんと見ているようで、ルフが危ない時は瞬時に向かい襲い来る死者を倒している。
「あ、ありがと2人共。」
「もう一息だぜ。油断すんなよ!」
再び戦火に突撃する2人。相手は死人だ。故に2人は容赦が無い。端から見るととても世界の為にやっているとは思えないぐらい悪魔的な笑みを浮かべながら容赦なく死者の身体を引き裂き、燃やし尽くす様はルフも流石に少し引いていた。
「なんというか…ホント2人共戦闘狂だよね…」
ルフは自分が出る幕はあまりなさそうだと思ったが、それでも何もせずにいるのは嫌だった。
だからこそ今ルフはライフルを持って、少しでも戦いの力になろうとしているのだ。
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全部を掃討するのにそんなに時間はかからなかった。
アトメントとデーガ、ルフの助力により500を超える死者はあっという間に全滅してしまったのだ。
「あーやっぱ周りを気にせず戦えるのは最高だな。」
「へへっ、良い運動になったぜ。俺の方が多く倒したぞ。」
「あ?俺だろ。」
「いやいや俺だろ。」
「はー…はー…あー…怖かった…」
デーガとアトメントは気持ちよさそうにしているが、ルフは疲労困憊で滝汗を搔いていた。
「よくやったの。新しい死者が湧いてくる気配は今のところは無いが、トーキョー・ライブラリ周辺の防御を固めよう。デーガ。魔物をこちらにも回すことは可能か?」
レクシアが降りてきてデーガに尋ねる。
「おう、いけるぜ。少し移動に時間をかけるがな。」
デーガは目を閉じ、魔王の権能を使い、レミヘゾルの近くに居る魔物たちを指示を送っていく。
「こういう時にはホント役に立つ権能だよな。」
「だろ?」
デーガは素直に喜んでいるのか、笑みを浮かべる。
「こんな権能あったところで何にもなりゃしねぇと思ってたが、役立ってんだからよ。―――うし、指示を出した。魔物の配置を調整したぜ。」
デーガがそう言った瞬間、近くに居た魔物が大勢このトーキョー・ライブラリに向かっているのが見えた。
「あ~…ホント助かる~…ありがとね3人とも。」
ルフは汗を搔きながら3人に礼を言い頭を下げた。
「いいってことよ。それよりトーキョー・ライブラリの復興のことだがよ。ちょっくらやれることを探してみてやるよ。」
「ホント?でも神様の仕事に負担かかりそうなら無理しなくていいけど…」
ルフは提案してくれたアトメントには嬉しい気持ちだが、一つの都市と世界のことなら世界のことを優先すべきと思い、そう言うが、アトメントは首を横に振る。
「お前も古代人、つまり俺たちと同類、同族。分かるな?いわば戦友よ。遠慮すんなって!」
アトメントは笑顔で応えた。
「あはは、ありがと。こんなクローンでもそう言ってもらえて、オリジナルも喜ぶと思うよ。」
「ばーか、お前もオリジナルだ。魂は同じなんだからよ。」
「そう、だね。ありがと。」
ルフは微笑む。その目には少し涙が零れているような気がしたが、それは汗かもしれない。だが、ルフはとても嬉しそうに笑うのだった。
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「さて、レミヘゾルは当分は大丈夫だろう。俺の権能で指示を受けた魔物たちは身体能力、魔力など全ての力が底上げされている。カタストロフほどの底上げは見込めねぇがその辺の死者相手なら余裕でぶっ倒せるだろうよ。」
デーガと、カタストロフの権能には魔物を操ったり指示を出すだけでなく、力の底上げも可能のようだ。
そして今世界中の魔物たちがこの世界に生きる者たちを守るための剣と盾になってくれている。
魔王のお墨付きだ。これほど頼りになるものはないだろう。
「ウム、じゃが油断は出きぬな。ワシはここに残ろう。」
レクシアはレミヘゾルに待機することに決めた。
「まぁそれもそうだな。俺もレミヘゾルを中心に動くとするぜ。デーガはどうするよ。」
「そうだな、カタストロフが気がかりだ。アイツと合流してさっさと終わらせてくるとするか。」
「…デーガ、やはり心配か。」
レクシアはそう言い、アトメントは首をかしげる。
「お前なんか心配してることあんの?」
「…俺…いんや、世界…特にカタストロフにとって“最悪の相手”がこの世界に現れるかもしれねぇっていう杞憂だよ。」
「…なるほどな。可能性はある。」
アトメントもその存在たちを思い出し頷く。
「下手したら国1つなんて簡単に消し飛ぶかもしれねぇ。杞憂で終われば良いがイビルライズがどう出て来るかは分からねぇ。最悪の事態も想定するべきだと思ってな。」
デーガはそう呟き空を飛ぶ。
「デーガ、オールドに行くの?」
「おう、お前は安全な場所に居ろよルフ。」
「ありがとうデーガ、みんなによろしく!」
「おう。じゃぁな。アトメント、レクシア。こっちは任せたぜ。」
「あぁ。」
「おう、さっさと片付けてこい。」
デーガは3人に見送られ、オールドへと飛び立っていった。
――
「来ると思うか?レクシア。」
「ウム…可能性はあるが…イビルライズの知能がシンセライズの力を得てより成長したとすれば、そのようなことを考えていても不思議ではあるまい。」
「正直、来て欲しくはないけどな。デーガが危惧してる奴、それともう1つ厄介なのが居る。」
「…ウム。」
襲い来る何かが来ないことを願うしかない2人。
そして―――
(…もし奴が復活したらカタストロフ1人では敵わないかもしれねぇ…そうなれば必要なのはやはりビライトたち…いいや、ビライトたちですら…ブレイブハーツを扱えてやっとかもしれねぇだろうな。)
アトメントは空を見て呟く。
「お前が同伴してるなら最悪の事態は避けられんだろ。しっかり守れよ、ガディアル。」
アトメントはそう言い、レクシアとルフと共にいったんトーキョー・ライブラリに戻るのだった―――
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場所は変わり、ワービルト。
ここにはクライドとガディアルが向かっていた。
ガディアルの移動能力はほぼ瞬間移動のようなものだ。
ビライトたちよりも遥かに速くワービルトの傍までやってきたクライド。
広大なジイル大草原の生い茂る緑は赤い空のお陰で真っ赤に染まっている。
そしてあちこちに魔物と戦う死者の姿が見える。
「魔物たちが争っている…」
「あれはカタストロフの権能が働いている。カタストロフが指示を出してワービルトに迫る死者たちを撃退しているようだ。」
クライドの呟きにガディアルが答える。
「なるほど…ワービルト国内はどうなっている。」
「…大きな力を持つ死者の気配を複数感じる。」
「侵入を許されているのか…!ワービルトが…」
「あぁ、向かうぞ。そこにはお前の運命を左右する者たちも居るだろう。覚悟は良いか?」
「…あぁ。もうお前が何を言いたいのかは分かっている。だが…実際に会わないと分からない。」
「それでいい。分かっているならば…覚悟を決めるのも素早いだろうからな。」
クライドはガディアルと共にワービルトの城門へと向かった。
ワービルト国内に居る死者とは…
それは、クライドに関わると大きな何かなのだろう。クライドの予想は的中することとなるだろう。
だからこそクライドは超えなけばならないだろう、この運命から。