Delighting World Break ⅩⅩⅩⅩⅤ
イビルライズの最奥に向かうビライトたち。
レジェリー、カタストロフ、デーガ、クライドの4人が道中の妨害を食い止め、ビライトとヴァゴウは2人でついに最奥に辿り着くことができた。
そこに待ち受けていたのは気を失ってエネルギーを吸われ続けているキッカとエテルネル。
そして、シンセライズの死者の魂が集まり、エネルギーに還元されていく場所、魂の道で歴史上の巨悪の魂を吸収し、魔竜グリーディを始めとする巨悪たちの姿を模倣し現れたイビルライズ。
全ての巨悪を束ねたイビルライズ、そしてシンセライズの命運を背負うビライトたち。
ついに、世界の命運をかけた戦いが始まる。
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「オッサン!一緒に戦おう!」
「おうッ!」
ヴァゴウは再び潜血覚醒し、咆哮を轟かせる。
ビライトはドラゴンの姿で巨大化したヴァゴウの背に乗り大剣を構える。
「たった2人で力を合わせたところでボクには勝てないさ。」
「絶対に負けない!負けるわけにはいかないんだ!」
ブレイブハーツを発動し、一気に距離を詰めるビライトたち。
「グルアアッ!!!」
ヴァゴウはイマージで無数に砲台を量産し、一斉射撃を試みる。
「こんな攻撃。」
クロはそれを眼前に張る防御壁で無効化する。
しかし、もうヴァゴウの身体はすぐ手前。
ビライトは勢いよく飛び出し、ブレイブハーツとメギラエンハンスを乗せた一撃を防御壁に与えた。
「うおおおおお!!!」
「ふぅん、それがブレイブハーツ。凄い力だねぇ。」
「この…ッ…!!」
しかし、クロは余裕の笑みを浮かべている。
「グルアアアーーーーッ…!!!」
ヴァゴウもまた巨大な拳により強力な武器を装備し、勢いよく殴りつける。
「フフ、やるね。ちょっと押されちゃったよ。」
クロの防御壁にヒビが入る。
「じゃ、こういうのはどうだい?」
クロは腕を前に出し…今までに見ないほどの歪んだ顔を見せつけた。
その瞬間だ。
「…!」
(ア…アア…)
「ッ!?」
クロの腕大きく球体に肥大し、そしてそこから無数の顔が閉じ込められているかのように顔がボコボコと音を立て、飛び出していく。
そこに居たのは全員が普通の命、それは、ドラゴニアで生きていた者たちの姿だった。
「なんだこれは…!」
「グルル…!」
(アア…ヴァ…ゴ…ビ………ト……―――)
「な、なんで…!」
ひときわ大きなドラゴンの顔が浮かび上がる。その周囲で多くの竜人たちが苦しそうに蠢いている。
「フリード…さん…!」
そう、そこに居たのは間違いなくフリードであった。
先の魔竜グリーディ襲来の際にその身を犠牲にしてグリーディを無力化し、散っていった。ドラゴニアの象徴たるドラゴン。
そして、古代人である。
「あはは!!あはははは!!言ったよね!ボクは魂の道から無数の魂を吸収した!こうやって死者をボクの中だけで復元させることができるのさ!!ここに居るのは紛れもなく、お前らが愛した者たちの魂なんだよォ!!あははは!あははははは!!」
「巨悪の魂だけだってのは嘘だったのか…!」
「そうさ。ボクはなんだってやるのさ。目的のためならね…!」
「こんなこと…許されるものじゃない!今すぐ…解放しろッ!!」
怒りのあまりに声をあげるビライトにクロはただ、笑い続けた。
「グルアアアアアアアアアーーーーッ!!!!」
ヴァゴウもまた、吼える。
その目には涙が零れていた。ヴァゴウにとって、フリードは大切な家族のようなものだ。幼い頃から世話になってきた。
そして何よりも、友人であるボルドーにとっても大事な家族。恩人だ。誰よりもドラゴニアを愛し、ドラゴニアの為に命を使い、満足そうに散っていったその魂を弄び笑うクロにビライトとヴァゴウは涙を流しながら怒りを爆発させた。
しかし、その怒りはビライトとヴァゴウに牙を剥く…
「ッ!?」
「グルアッ!?」
ビライトとヴァゴウの発動しているブレイブハーツに乱れが生じたのだ。
正の力を糧としている状態でないとこのイビルライズでは生きていけない。
だが、ビライトとヴァゴウにあるのは間違いなく負の心だ。
それがブレイブハーツの効果を落としている。そして、それはビライトたちを守ってくれている力を弱めてしまっているのだ。
「あはは!君たちは本当に馬鹿だね!この程度のことですぐ動揺しちゃってさッ!!」
クロは鋭い爪でビライトを叩き落とし、ヴァゴウにも闇魔法を叩きつけ、2人を地上へ落下させた。
「ッ…クッ…!」
「グッ…クソッ…タレが…ッ…!!」
ヴァゴウの潜血覚醒は解かれてしまい、先程まで感じていなかったはずのイビルライズから押し寄せる負が身体に纏わりつき、ビライトたちに激痛を与える。
「…駄目だ…心を…強く持たないと…!」
ビライトは必死に浮いているクロを見上げる。
しかし、クロはビライトたちの眼前に、囚われ、苦しんでいる魂たちを見て拳を震わせた。
「俺は…俺たちは…罪のない人たちまで…倒さなきゃいけないのか…!!」
「そうさ!!ボクを倒したければこいつらもまるごと殺したらいい!殺してみろよ。あはは!!あははははは!!!」
「できるわけ…ねぇだろ…ッ…こんなのよぉ…!!」
「この…このおおおおおおーーーーっ!!!」
ただ、叫ぶことしか出来ない。無力すぎるビライトとヴァゴウ。
だが、それはすぐに払拭される。
「死者に遠慮は無用だッ!何落ち込んでんだてめぇらッ!!」
「!」
後ろから声が聞こえる。
振り返るとそこに居たのはデーガとクライドだった。
「追いついたぞ。」
「デーガ、クライド!」
デーガとクライドはすぐにビライトたちの横に立ち、ビライトたちに手を伸ばす。
「アイツに囚われてる魂は死者だ。躊躇うんじゃねぇ。」
「…でも…!」
「全く悪趣味な奴だ…俺も何かをされそうだな…」
クライドも少し動揺を見せているが、デーガは躊躇いを感じていないようだ。
死者は死者と割り切れているからであろう。
「仲間が増えたな?しかも魔王デーガ。君にはこの精神攻撃は通用しなさそうだね。」
「たりめぇだクソ野郎。俺の大事な旧友たちの顔でも見せつけようってか。」
デーガもまた、怒りを露わにしている。
デーガとしてもやはり死者を弄ぶクロは許せないのだろう。険しい顔がそれを物語っている。
「しっかりしやがれビライト、ヴァゴウ。クライドもだぞ。たとえ魂があそこにあったとしても死者は死者。そして…苦しんでるのが分かるだろ。」
クロが見せつける魂たちはうめき声をあげている。
そしてそこに囚われているフリードの魂も苦しんでいることが分かる。
「…フリードさん…ドラゴニアの皆…」
デーガはビライトの肩を叩く。
「アイツらのことを想うなら躊躇うな。」
デーガの目が紫色に染まる。
そしてブレイブハーツと魔族の力が溢れだし、臨戦態勢へと移行した。
「…うん…!」
ビライトは立ちあがる。
「オッサン。」
「…ワシらしか、救えねぇんだよな。」
「そうだ。それでいい。」
デーガは空を飛び、クロを指さす。
「てめぇは絶対に潰す。覚悟しやがれ。」
デーガはかつてないほどに怒りを浮かべている。そう、今、目の前にクロが見せつけている魂の中に…デーガの仲間たちの姿もあったからだ。
(デー……ガ……ク…ル………)
「…苦しいよな…分かるぜ。」
デーガのかつての仲間たちの苦しそうな顔を見て優しく語りかける。
「…すぐ楽にしてやるからな。」
(タメ…ラ……ウ…ナ…)
「分かってるよ、フリード。せっかく旧友に会えたのにこんなことになっちまって…俺が元の場所に戻してやるからな。」
デーガはフリードの魂にも言葉をかける。
「やっぱり君には効かないかぁ。仕方ないねぇ。」
煽るように言うクロ。
そして…
「てめぇはもう喋んな。」
デーガはクロの身体に拳を一撃入れていた。
「へぇ、やるね。流石魔王の名は伊達じゃない。」
しかし、その拳はクロにはあまり効き目がない。ブレイブハーツをまとった拳でもわずかなダメージしか与えられていないのだ。
「クソがッ!」
デーガは更に拳に力を込め連撃を叩きこむ。
そしてその間にヴァゴウが再び潜血覚醒し、ビライトとクライドを乗せて飛び上がる。
「囚われている魂を解放するぞ!」
「ああ!」
「グルアッ!!」
ビライトとクライドはヴァゴウの背から飛び上がり連撃を加える。
「たとえ群がっても無駄さ!」
「ッ…!」
クロは強い負の力を一気に解き放ち、ビライトたちは吹き飛ぶ。
ヴァゴウはなんとかクライドを回収するが、ビライトは地面に落下する。
「!」
ビライトを救いにいこうとするが、間に合わない。
「エンハンスでなんとか…!」
ビライトはなんとか頭を守るために不時着しても問題ない体勢を取る。
「吹き飛べよ。」
クロは追い打ちで口を大きく開け、赤黒い光線を放つ。
ビライトは咄嗟に大剣を前にし、受け止めようとするが、それは無用だった。
「ビライトッ!!」
「!」
咄嗟に現れた紫色の空間から手が伸び、ビライトの身体を掴んだ。
「カタストロフ!」
「今追いついたぞ、ビライト。」
「大丈夫!?ビライト!」
「レジェリーも…!良かった…無事だったんだな!」
「あったりまえ!あたしたちがやられるわけないもん!」
「その通りだ。」
レジェリーとカタストロフも無事、ビライトたちと合流に成功した。
空間移動で光線を回避して着地する。
「…あれは…無数の魂を取り込んだイビルライズの姿か…そして…卑劣だ。無関係の者たちの魂までも利用するのか…!」
カタストロフは唸るように怒りを向けている。
そしてデーガ、そしてヴァゴウに乗ったクライドは戦闘を続けている。
「!――キッカちゃん!そしてあれがエテルネル…!」
レジェリーはボロボロのキッカとエテルネルを見てぶるっと身震いし、そして…拳を震わせる。
「あたしの友達を…あんなボロボロにしてッ!ビライト!あたしたちも!戦うわよ!」
怒りの籠った言葉にビライトは頷く。
「あぁ!キッカとエテルネルを救わなきゃ…!」
「では直接向かうぞ。我の空間を使えばイビルライズの隙をつくことができるかもしれぬ。問題は彼女らを守る負の力を凝縮した防御壁だ。」
カタストロフはキッカとエテルネルの周囲を囲っている黒色の靄のようなものを指す。
きっとあれを破るのは至難の業だろう。
「あれは負の力で出来ているんだよな。だったら俺たちのブレイブハーツをぶつければ…!」
「ウム。なんとかなるかもしれぬ。」
「よーし!やってやるわよ!」
「よし、早速向かおう。」
デーガとヴァゴウたちがクロの気を引いている間にビライトたちはキッカたちを救うことを考えた。
カタストロフの空間を使いビライトたちは接近を試みる。
―――
「オラオラオラァァァッ!!」
デーガの連撃は緩むことは無い。
「小賢しい。そんなものがボクに通用するとでも思ってるの?」
「ごちゃごちゃうるせぇんだよボケがァッ!!」
クロは平静を見せたままデーガの攻撃を全て受け流し隙あらば負の力で攻撃をしかけてくる。
「ボクの取り込んだ魂の中には筋金入りの天才もいるようだ。君の行動は全てお見通しだよ。」
取り込んだ魂の力すら自分のものにしてしまうクロは、まるで戦闘センスがバツグンのアトメントと同じように、相手の僅かな動きでその行動を見切ってしまうようになっていた。
「クソが…!」
「そして、君たちに攻撃を当てることも容易さ。」
クロは手を横に広げ、無数の魔法陣を展開。それはフッと姿を消し、ヴァゴウたちの見えない下側の死角に。デーガの後方に出現させ、そこから強い負の力が放出された。
「グルッ…!」
「チッ…!攻撃はまともに効かない、そして俺たちは攻撃を受けてしまう。このままだとマズイぞ。」
クライドとヴァゴウもまた、防戦一方どころかどんどん傷が増えていくばかりだった。
クロはずっと捕らえた魂を見せながら戦っていたが、誰もそれに動揺しなくなったため、それをしまい「つまんないねぇ」と呆れるように言う。
「ボクはまだ力のほんの少ししか使っていない。それに…」
クロは左右を見て微笑む。
「こいつらからシンセライズの力ももうすぐ吸い取り終わる。そうなればボクは絶対無敵の存在となる。例え君たちが束になっても、例え世界最強の守護神だろうとボクを止めることなんて出来ないのさ。」
「させねぇ…!そうなる前にてめぇをぶっ飛ばす!」
デーガは後方でビライトたちが機会を窺っていることに気が付いている。
そしてクロは今そこにはあまり気を配っていないように見える。
ならば…
(クライド、分かるな。)
(俺たちがビライトたちの時間を作る…!)
テレパシーで訴えるデーガにクライドは反応を隠して対話する。
クライドはヴァゴウの背を経由して何度も攻撃を叩きこむ。デーガもまた、諦め悪くも禁断魔法を連射したり、拳で連撃を叩きこむなどしている。
だが、クロにはほとんどその攻撃は通っていない。
「諦めが悪いね。」
「生憎、俺たちはこの先の未来も生きる気満々なんだ。てめぇみたいにただ何もせずに絶望してるだけじゃぁねぇんだよ!」
「…うるさい奴め。」
クロはさっきの言葉で少し癇に障ったのか、表情を変え、デーガの身体に手を叩きつけ、地面に落とした。
「グガっ…!?」
「ボクに二度と触れられないようにしてやる。」
デーガを大きな手で掴み、再び浮遊し、そのままデーガの身体を握りつぶそうとする。
「デーガ!」
「グルアッ!!」
ヴァゴウとクライドはそれを助けようとするが…
「邪魔するなよ雑魚が。」
クロはヴァゴウとクライドの動線目掛けて貫通性の光線を打ち、それはヴァゴウの翼を貫通した。
「グアアアッ!?」
「うおっ!?」
ヴァゴウはバランスを崩し地面に不時着。そしてクライドは放り出され地面に激突した。
「…クッ、俺たちはブレイブハーツをわが物としているはずだ…だが何だ、この力の差は…」
「ワシらには…まだ奴に届くだけの力が足りねぇのか…それとも…奴が強くなり過ぎたのか分かんねぇが…」
再び潜血覚醒しが解かれてしまったヴァゴウ。
もはや再度潜血覚醒を出来るだけの体力は残っていない。
しかし、ヴァゴウは立ち上がる。
「けど…負けられねぇ。」
「…その通りだ。」
ヴァゴウとクライドが地上に落ちてしまい、現在クロと戦っているのはデーガ1人になってしまった。
「1人じゃ分が悪いよね、魔王デーガ。」
「ケッ…てめぇなんか俺一人で十分だっての…!」
「強がるなよ。」
「だが…てめぇは俺に気を取られすぎじゃねぇか?」
「――なるほど…ビライトたちか。」
「ケッ…」
カタストロフの空間移動でビライトとレジェリーは既にキッカの眼前まで移動していた。
「ビライト!!」
「うおおおおーーーーーっ!!!」
ビライトの一撃がキッカの接触を邪魔している防御壁に接触する。
バチバチと音を響かせ、その力が跳ね返るようにビライトたちに襲い掛かるが…
「カタストロフ!」
「我が受け止める…ビライト、レジェリー。頼むぞ。」
カタストロフはその力を一身に受け、その間にビライトとレジェリーがキッカの防御壁に干渉する。
「やらせないよッ!!」
クロはデーガを魔法で拘束し、ビライトたちの元へと飛んでくる。
「マズい!」
「我が相手をしよう。イビルライズよ。」
カタストロフは防御壁の跳ね返りを代わりに受けながらも、更にクロの前に立ち塞がる。
「魔王カタストロフ。大人しくトーキョー・ライブラリで死んでおけばよかったのに。お前が世界を壊滅させるのに失敗したからボクの仕事が増えちゃったじゃないか。」
「我は死に損なった。だが我は生きることに喜びを見つけたのだ。その世界を…お前に壊されるわけにはいかぬのだ…ヌウゥッ…!!!」
カタストロフはブレイブハーツと魔王の力を解放する。
「クロ・イビルライズ。我はお前を止める。そしてこの世界に災いを齎した罪を認め、償うがいい。」
「くだらないね!罪を償うのは…この世界だッ!!」
「やり直せるのだ。我がやり直すことを許されたように。」
クロとカタストロフは一斉に魔法を放ち、それは相殺。その後すぐに二人の拳が衝突し、大きな衝撃波を生んだ。
「お前は本当に全てが滅ぶことを望んでいるのか。それすなわち…何も無くなってしまうということなのだぞ。」
「構いやしないさ。ボクは生まれてはいけなかった。だから…全部壊して、壊して、そしてみんな巻き込んでボクも死ぬ!それがボクの生まれた理由なんだよ!」
「そのような悲しい理由があってたまるものか。」
カタストロフとクロは近距離と遠距離を交互に取り、技の撃ち合いを行う。
「ならお前がボクの生きる意味を提示してくれるのか?」
「我には出来ぬ。だが…我よりもずっとお前のことを友だと思っていた存在が居るはずだ。」
「もうボクは決別したのさ!誰もボクを理解などしなくてもいい!誰もボクを救ってくれなくていい!ボクはボクの好きなようにこの世界を滅ぼすんだ!」
「クロ…」
クロはもはや、誰の言葉にも耳を傾けない。ただ、そこに居るのは世界を滅ぼし、自分も死ぬことしか考えられないただ、悲しき悪魔なのだ。
ビライトはクロの気持ちを汲もうとした。だが、それでもクロを許すことはできない。
「俺は…俺はお前の罪が許されるなら許したい!だから―――「それがくだらないっていうんだ。」
「!」
クロは叫ぶビライトの言葉を一蹴する。それは心の無い低く冷え切った声。心が凍り付く様な感情の無い声でビライトの想いを遮断した。
「もうボクは後には引けないんだよ。そしてボクはさっさと死んでしまいたいんだよ。まとめて全部ぶち壊してさぁ!!!!!」
「ヌゥッ…!ビライト!レジェリー!急ぐのだ…!」
クロは狂った顔を浮かべ、カタストロフの攻撃をわざと受ける様に特攻を仕掛ける。
カタストロフはバランスを崩し、カタストロフは防戦一方となってしまった。
「ビライト!話は後よ!キッカちゃんを!」
「あ、あぁ!」
ビライトは何度もブレイブハーツを纏った大剣でキッカに覆われている防御壁を叩くが、ビクともしない。
「キッカ!!!キッカ!!」
「キッカちゃんっ!!」
ビライトとレジェリーはキッカの名前を何度も呼びながら防御壁を叩き続ける。
「キッカーーーーーッ!!!!」
ビライトの叫びはキッカの耳に――――
「…お、に―――ちゃ……」
「!!」
キッカはうっすらと目を開け、か細い声で呟いた。
「キッカ!!キッカ!!」
「お、に…!お兄ちゃんッ!!!」
キッカの目に涙が零れ、そしてキッカの声もまた、ビライトたちの耳に響く。懐かしい声、愛おしい声。
ビライトとレジェリーの心はより一層強くなった。
「迎えに来た!!キッカ!!」
「絶対助けるからね!キッカちゃん!」
「お兄ちゃん!レジェリー!」
2人は必死に防御壁を打ち破ろうと何度も何度も攻撃する。だが、やはり力が足りない。
「くそっ!こんなにすぐ傍に居るのにッ!!」
「無駄だ。その防御壁はボクの力の半分を使ってるんだ。打ち破れるもんか。」
「ヌゥッ…」
クロはそう言いながら、カタストロフをじわじわと追い詰めていく。
(これが…世界の負…!我々生物は…このような存在を生み出してしまうというのか…いいや、それだけでない。この世界には…これだけの絶望があるが…それを超える希望があると教わった。それを我は知りたい。これから…!)
段々と地面に追いやられてしまうカタストロフ。
「我は…知らねばならぬ!もっと…この世界の素晴らしさを…美しさを知らねばならぬのだッ!」
「世界を滅ぼす存在のくせに魔王のくせに綺麗ごとのような美談なんて語るなよ。お前もボクと同じ大罪人だ。」
「美談でも構わぬ…!我は許されたのだ。我は世界を愛することを許されたのだッ!」
「ああそうかい!ならその愛する世界がぶっ壊れる様を見届けるんだね!」
「させぬッ!!」
カタストロフは何とか拮抗状態まで持ち込み、クロを足止めしているが…
「ボクの力はこんなもんじゃないぞ。」
クロがそう呟いた瞬間だ。
「!」
「きゃっ!?」
「レジェリー!ビライト!」
レジェリーとビライトの傍にクロの腕と思われるものが急に姿を現したのだ。
「君の空間移動と同じようなものだよ。ボクはあらゆる者の魂を取り込んだ。君のような魔法を使える奴なんて探せば見つかるんだよ。」
「お兄ちゃん!」
「このっ…!邪魔だッ!」
腕はビライトとレジェリーを叩き落とそうと手を動かす。
「ちょっ!落ちるわよッ!」
「や、やばい…!」
キッカを助けるどころではなくなるビライトたち。このままだと叩き落とされ地面に真っ逆さまだ。
「クソッ…!」
そして地上では身動きが取れないデーガが身体をなんとか動かそうとしていた。
「デーガ。魔法を解除する。やり方は分かるか?」
「すまねぇ。この拘束、魔法まで封じやがるみてぇでな…助かるぜ。指示を出すぜ。」
そしてかけつけたクライドとヴァゴウ。クライドは魔法をなんとか解除するべくデーガに解除法を聴きながら慎重に魔法を解いていく。
「クッ…ワシにまだ力が残ってれば…」
ヴァゴウは力を使い切ってしまい、潜血覚醒が上手く出来ずにいた。
「俺が回復させてやる。拘束がはがれるまで待ってろ。」
「分かったぜ…」
クライドはなんとかデーガの拘束を解き、デーガはすぐにクライドとヴァゴウに回復魔法を与えた。
「力が…」
「ヨシ、行けるぜ…!」
ヴァゴウは再び戻った体力で潜血覚醒をする。だが、何度も潜血覚醒を繰り返しているが故に身体の負担は重くなるばかり。ヴァゴウは変身の度にかなりの激痛と戦っていたのだ。
「ガッ…グルル…」
「ヴァゴウ…無理をしているのか…」
「そのようだな。これ以上潜血覚醒が解かれちまったら危険だ。ビライトとレジェリーの元へ行き、キッカ・シューゲンを救う。そうすればイビルライズは完全にシンセライズの力を取り込むことができなくなる。そうなればなんとかなるかもしれねぇ。手遅れになる前に行くぞ。」
ヴァゴウは回復し、翼も復活した為再び空を飛ぶ。
(カタストロフ、時間を稼げ!俺たちでキッカ・シューゲンを助け出す。)
(了解した。)
そしてデーガはカタストロフにテレパシーを送りヴァゴウはデーガとクライドを乗せキッカの元へと飛ぶ。
(あれは、あれはヴァゴウさんなの…?それに、クライドさんと…あの時見た黒い竜人さん…みんな、みんな来てくれた…!)
キッカは仲間たちが来てくれたことに感動するが、しかし状況は変わらない。
「キッカ、力は?シンセライズの力はまだ残っているか。」
クライドはキッカの防御壁に飛び込み、ビライトたちと共に攻撃を加える。
「わ、分からない…でも、前のようにシンセライズを感じたりは…出来なくなってるかも…」
キッカでも自分の中のシンセライズの力が完全に奪われているのかどうかが分からないようだ。
しかし、クロがキッカを奪われないようにしているということはまだキッカから力を完全に吸い上げていないからだとビライトたちは考える。
故に、ビライトたちは総動員でキッカの防御壁を壊し、キッカを助け、クロの完全なる支配から逃れようと試みているのだ。
「カタストロフ!オッサンも!みんなのブレイブハーツをぶつけるんだッ!」
「ガルッ!」
「心得た。」
「させると思ってるのか?」
クロはそれを妨害しようと試みる。そしてカタストロフとヴァゴウは2人がかりでクロを食い止める。
潜血覚醒したヴァゴウとクロであればヴァゴウの方が身体は大きい。その体格差とブレイブハーツの力を込めた腕でクロを押し返し、カタストロフはその隙にクロへ目掛けて魔法の準備をする。
「世界の根源より深き底に眠る深淵の闇よ、我が声を聞け。蠢き、轟き、そして世界の嘆きよ…力と化せ。ヘル・ウィグライズ…」
カタストロフは両手を前に出し、赤黒い魔法陣を展開。
「カタストロフ!」
カタストロフの名を冠する、カタストロフ系列の魔法が発動した。カタストロフの魔法陣から放たれる赤黒いオーラのようなものが、クロの周囲へと蔓延し、そこに異空間のようなものが現れる。
「!」
クロの身体はその異空間の裂け目に挟まれるようにガッチリと固定されてしまい、身動きが取れなくなった。
「チッ!この…!」
「今だ!長くはもたぬぞ!」
カタストロフの掛け声と共にヴァゴウとカタストロフもまた、キッカの周りに集まり、一斉にブレイブハーツを叩きこむ。
カタストロフは更にサーチ・オブ・カタストロフを無数に展開し、イビルライズに追い打ちをかける。
クロには確かにヒットしてはいるが、多少のかすり傷程度しか受けておらず、発射される光線も貫通することなく屈折し大地へと降り注ぐ。
「こんな攻撃でボクがやられると思うのか!」
「倒せるなどと思っておらぬ!時間稼ぎだ…!」
「「「「行けェェェーーーーッ!!!」」」」
ビライトたちは一斉にブレイブハーツを解き放ち、キッカの防御壁へと干渉した。
「凄い…これがお兄ちゃんたちの力…私も、私も何か…!」
キッカも内側から防御壁に触れる。
「お願い…!なんとかなって…!私も…私も何かしたいのッ!」
キッカはそう願いながら手に力を込める。
すると、キッカの手から赤い光が煙のように噴き出していく。
「こ、これって…!」
「!キッカ!心を強く!もっと強く持つんだ!そして…願うんだ!俺たちと一緒に…帰ることを…!」
「う、うん!!」
(ブレイブハーツの伝播だと…!?皆の想いが…キッカ・シューゲンに届き…そしてその力を…こんなにもアッサリと…ケッ、流石シンセライズの器だぜ…!)
デーガはニヤリと微笑み、「もっとだ!もっと強く!もっと強く願え!」
デーガの呼び声に一行は更に力を込める。
そしてついに…
「キッカーーーーーッ!!!」
ビライトの想いはクロの防御壁を――――打ち破った。
「キッカッ!!」
ビライトの胸に飛び込むキッカ。
「触れる…触れるぞ!キッカ!!」
「うん、触れる!感じる!!感じるよっ!!」
「やってくれたねぇ!!」
クロはようやくヘル・ウィグライズ・カタストロフから抜け出し、キッカを再び奪おうと試みるが…
「「行かせん!!」」
クライドとカタストロフが飛び出し、クロを足止めする。
「邪魔だッ!!」
クロはゼロ距離で光線を放ち、間一髪で躱そうとするが、クライドは腕を。カタストロフは胴体を掠ってしまい負傷した。
サーチ・オブ・カタストロフも消えてしまい、バランスを崩す。
「ヌゥッ…!」
「おらあああっ!!!」
しかしその隙を埋めるようにデーガが2人の後方からクロへ追撃の拳を加える。
「小癪なッ!」
「グルアーーーーーーーーーーッ!!!」
「グッ!」
そして最後にヴァゴウが思いっきりクロほ腹部に体当たりし、クロは地面に吹き飛ばされた。
ビライトとレジェリーはキッカを抱えながら地面に落下していく。
それをカタストロフが空間で回収し、一行は全員地面に降り立った。
「キッカ!!」
「お兄ちゃん!!」
キッカは涙を流す。
精神体だった頃のキッカは涙すら流すことが出来なかった。
だが、今のキッカは身体も、精神も、魂も1つだ。だからこそビライトたちと変わらない人間の少女としてここに居る。
ビライトとキッカは抱き合う。
「キッカ、迎えが遅くなってごめん。お前をあの時…助けられなくてごめんな…!」
「ううん、良いの!それにね、私…信じてた!絶対、絶対お兄ちゃんも、みんなも来てくれるって…信じてたもん!」
「えへへ!無事でよかった!」
「フッ、ここまで長かったのだぞ。」
「ガウッ!ガルッ!!」
キッカを取り戻したことに喜ぶビライトたち。
「喜ぶのはそこまでにしときな。まだ戦いは終わってねぇぞ。」
「…奴め…まだ少しも力を出しておらぬ…妙だ。」
デーガとカタストロフは地面に落ち、煙で姿が見えなくなっているクロの方を見つめて呟いた。
「フフ、アハハ!!あははは!!」
クロの笑い声が聞こえる。
「クロ…!キッカは取り戻した!もうお前がシンセライズの力を完全に奪うことは出来ないし、俺たちがさせないぞ!」
「そうよそうよ!」
ビライトたちはキッカから力を吸い取れなくなったクロに言うが…クロは先ほどからずっと笑っている。
「何がおかしいのだ…?」
「グルル…」
クロはしばらくしてようやく笑うのを辞め、ビライトたちに歪んだ顔で呟いたのだ。
「君たちは助ける相手を間違えたようだねぇ。」
「なんだと…?」
クロはキッカを指さす。
「そいつにはもう“シンセライズの力は無い”。ボクが全て吸い取ってしまったからね。」
「「「!」」」
「…チッ、フェイクだと…!?」
「もう少しで力を全て吸い取れる…と言っていたこと自体が嘘だったってことか…!」
「そうさ!君たちもホント単純だよねぇ!そして……」
――――――ドックン
「!何だ!?」
「チェックメイトだよ。ビライト。」
その声と同時に、もう一方で囚われていたエテルネルの防御壁が砕け、力無く落下していく。
「エテルネル…!」
落下するエテルネルを受け止めようとするが、真っ先にヴァゴウが飛び出してエテルネルを受け止める。
「ガウッ…グルアッ。」
「気を、失っているようだ…しかし、チェックメイト…ということはまさか…!」
クライドが呟き、そしてクロは更に笑う。
「そうさ、今こそシンセライズの力は全てボクの中に。」
クロの手には白い光が握られていた。
「やらせるかあああああああああーーーーッ!!」
デーガとカタストロフがクロに突撃するが…
「お前たちはもうボクに触れることすら敵わない。」
クロの全身から白い光が溢れだし、そしてそれはデーガたちを勢いよく吹き飛ばした。
「うおおおっ!?」
「ムッ…!?」
眩しすぎる光に包まれ、クロの背にはエテルネルや他の神々にも生えている羽のようなものが姿を現し、そこに感じるのは間違いなく神力であった。
赤く染まっていた左右3つずつ存在する目の一部が白く染まり、身体も紫の鱗を持つドラゴンから少し白みがかかった色へと変化し、その全身からはとてつもなく輝かしくも淡い自然のような薄緑色の光が溢れだした。
「これが…シンセライズの力…!ああ!最高に不愉快だが最高に気持ちがいいよッ!」
高揚感に溢れたような声を出すシンセライズは身震いするような呻き声をあげた。
「ボクこそが…この世界の主神…世界は―――ボクのものだッ!!!」
ビシッ、と大きな音がイビルライズの世界に響き渡る。
「なんだ!何が起こっているんだ…!」
「マズいことになった…」
デーガは呟く。
「師匠…?」
「奴は主神の力を奪ったんだ。今やこのシンセライズの主神はエテルネルでもヴァジャスでもない…クロ・イビルライズなんだ…!」
「そ、そんな…!」
神々しい姿と恐ろしい邪悪な姿を兼ね備えたクロ。クロは手を高く上げ微笑んだ。
「終わりだよ。」
クロの声と同時にバリーンと大きな音を立てて、イビルライズの世界は割れるように崩壊していく。
そして、上空にはシンセライズの空が姿を現したのだ。
「ど、どうなっているんだ…!」
「空が…赤い…!」
シンセライズの空は真っ赤に染まり、そして恐ろしいほどの負の力が蔓延しているのをすぐに感じ取った。
「シンセライズが…!!」
「ボクはこれより世界をぶっ壊す。それもたっぷり時間をかけてなぶり壊してやるよ。まずはどこからぶっ壊そうかな!あはは!楽しくなってきたぞッ!!」
クロは高笑いを見せ…そして…
「!神力…!来るぞッ!!」
デーガは叫ぶ。
クロには本来ないはずの神力の力。それはエテルネルを、シンセライズの力を我が物としたが故、クロにもその力が備わった。その力はクロに集まり、そして――
「さようなら。」
そのあまりにも無慈悲で冷酷な呟きと同時に、神力は強い衝撃波となり、クロを中心として広がる。
それは世界全土を揺るがすほどの強い衝撃波だった。
そしてその中心地に居るビライトたち。このままではただでは済まない。
「チッ…!」
デーガとカタストロフが前に出て結界を張る。
「グッ…オオッ…」
「カタストロフ!師匠!」
「…!」
しかし張った結界は無慈悲にもすぐに破壊されてしまう。そして強い衝撃波が再びビライトたちに迫る。
「!!」
やられる。
これを受けたら―――死ぬ。
誰もがそれを確信した。
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―――しかし、その衝撃波はビライトたちの前で横に広がるように流れていく。
ビライトたちは無傷だ。
「…!」
「―――無事か。」
「ガ、ガディアル!」
ガディアルがビライトたちの前に立ち、クロの衝撃波を片手で受け止めていた。
ビライトたちを全て覆うように守られたその防御壁はビライトたちのみを無傷で守り通していたのだ。
ドーム状に覆われた結界の中でビライトたちはガディアルの表情を見る。
ガディアルは至極冷静だった。その顔を見ているだけでこの結界は絶対に破壊されないという確証が持てる程であった。
やがて、衝撃波は勢いを止め、完全にガディアルはそれを受けきった。
「…世界最強の守護神、グロスト・ガディアル。全く、君は厄介だね。」
「…」
ガディアルはクロを睨みつける。
「フッ、まぁいいさ。お前でもボクをもう止めることは出来ない。精々指をくわえてボクが世界をぶっ壊すところを見ているがいいさ。あはは!!」
クロは笑いながらフッと姿を消した。
世界の何処かに、再びクロは行方を眩ませてしまったのだ…
衝撃波が収まり崩壊したイビルライズ、そして現れたシンセライズに静寂が流れる。
「ガディアル、どうしてここに…?」
「イビルライズは崩壊した。故に、我々もこの領域に足を踏み入れることが出来るようになったのだ。」
「他の神々は?」
デーガが尋ねる。
「今の衝撃波を軽減すべく神力をシンセライズに流し込んでいる。が、お前たちの保護は最優先とヴァジャスは判断したが故、俺が来た。」
「なるほど…お前ならば我らを守ることなど1人で容易いであろう。礼を言うぞ。」
カタストロフは納得し、ガディアルに礼を言う。
「…だが、俺はこれだけしか出来んのだ。全てはお前たちにかかっているのだから。」
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「…世界が…終わるのか…?」
「皆は…レミヘゾルやオールドの皆は無事なのかな…」
赤く染めあがった空。そして先程の衝撃波で世界中がダメージを受けたこともあり、希望を失ったビライトたちに絶望が走る。
「調査中だ。まずは…ここを離れよう。」
ガディアルはそう言い、歩き出す。
「―お前ら、まだ世界は終わってねぇぞ。」
デーガが言う。
「デーガ、だが…」
「最後まで希望を捨てるんじゃねぇ。他の抑止力たちと合流しすぐに作戦を練るぞ。」
完全にシンセライズの力を吸収し、完全なる力を手にしたクロ。
クロは世界を滅ぼす為何処かへと消え去ってしまった。
赤く染まる空。
澱む負の力。
ビライトたちは崩壊したイビルライズを跡にし、神の領域へと急ぎ、帰還するのだった――――




