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Delighting World  作者: ゼル
Break 第十章 イビルライズ編 ~Break the World~
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Delighting World Break ⅩⅩⅩⅩⅣ

イビルライズに侵入し先に進むビライトたち。



エテルネルを手中に収め、更にイビルライズは魂の道に浸食し、死者の力までもを取り込んだかもしれないとカタストロフから聞かされているビライトたち。

にわかには信じ難いが、それが真実であればこのままだと本当に取り返しのつかないことになるかもしれない。


ビライトたちは急ぎ奥を目指す。



襲い来るイビルライズの住民を倒しながら辿り着いた先は不気味な洞窟だった。

まるで人の体内のようなドクドクと鼓動を鳴らす洞窟を歩くビライトたち。

その先にあったのは大きな空洞。


待ち受けていたのは大量の住民たち。囲まれたビライトたちはそれぞれが武器、魔法を構え戦闘態勢を整える。





しかし、ビライトたちに更なる現象が襲い掛かるのだった――


―――




「ね、ねぇ洞窟の壁!なんか溶けだしてるよ!」

レジェリーは洞窟の壁を指さす。

洞窟の壁がドロドロと溶けだし、プシューと湯気のようなものを出しながらドロドロの液体がじわりと流れ出している。

そして鼻をつんざくような臭いが充満し始めているのだ。


「あの液体…間違いなく触れてはならぬものだ。イビルライズの住民と同じく、触れると溶かされるかもしれん。」

カタストロフは皆に注意喚起するが、液体は徐々にプシューと音を出しながらビライトたちにも迫ってきている。


「急いでここから出るぞ!前の邪魔者は全て倒す!」

デーガとクライドが先陣を切り、イビルライズの住民を次々となぎ倒しながら道を作る。


「援護する!」

「おう!」

後ろに続くビライトたちも襲い来る住民たちを倒しながらまず空洞から抜け、そのまま出口まで走り抜けようと試みる。


だが…


「おい!出口が塞がれそうだぞ!」

なんと、空洞の先へと続く穴がドロドロの粘液でふさがろうとしていたのだ。


「急げ!!迂闊に壊すと液が飛び散って逆に危険だ!だったら閉まっちまう前に抜けちまうしかねぇぞ!」

先陣を切っていたデーガとクライドはなんなく通ることができた。

更に後続に続いてたビライトとヴァゴウもなんとか潜り抜けることができた。


「レジェリー!カタストロフ!急いで!」

ビライトは手を前に出す。


「言われなくても…分かってるわよっ!」

レジェリーは手を掴もうとするが…

「!いっつ…!」

「レジェリー!」


横から急に飛び出してきたイビルライズの住民に腕を掴まれてしまうレジェリー。

腕がびりびりと刺激され、服が溶け始める。

「レジェリーから離れよ…!」

カタストロフはすぐさまレジェリーから住民を引きはがす。

その際にカタストロフも住民に手が触れてしまい、カタストロフの手の平から煙があがる。


「クッ…」

「カタストロフ!」

「大丈夫だ。すぐに治る。」


「レジェリー!カタストロフ!急げッ!」

デーガが声をあげるが、もう穴は塞がりかけている。



「―――レジェリー、あの小さな穴であればお前ならば行ける。」

「えっ、駄目よそんなの!あなたはどうするの!!」

「我は大丈夫だ。この程度で遅れは取らぬ。すぐに追いついてみせよう。」

カタストロフはレジェリーを先に行かせて自分はここに留まろうとしている。


だが、レジェリーがそんなことを許すわけがなかった。


「駄目!それは駄目よ!だから一緒に切り抜けよっ!あなたをもう絶対に1人にしないからね!あたしは!」

「レジェリー…ありがとう。」


レジェリーとカタストロフは穴の向こうに居るビライトたちを見る。


「レジェリー!カタストロフ!」

「あたしたちは大丈夫!すぐ追いつくから先に行ってて!」

「…!」



「デーガ、ビライトたちを頼んだ。」

「…死ぬんじゃねぇぞ。」

「我を誰だと思っている。安心しろ。」


カタストロフの背にレジェリーは飛び乗り、カタストロフは空を飛ぶ。


「行けェッ!」

「…必ず追いついてこいよ!」

カタストロフの声に背中を押され、ビライトたちは拳を握り、前に向かって走り出す。



「――みんな行っちゃったね。カタストロフ。」

「あぁ。だが我らとてここで終わるわけにはいかぬ。そうだろう。」

「もっちろん!あたしたちで切り抜けようね!」


カタストロフとレジェリーはビライトたちを先に行かせ、2人でこの状況を打破するため、大量の住民たちを相手に戦うのだった――



----------------------



「レジェリー…カタストロフ…」

ビライトは仲間を置いてきたことを悔やむが…


「大丈夫だビライト。レジェリーちゃんもカタストロフも絶対大丈夫だ。」

「…うん。そうだよな。」


心配ではあるが、今は2人を信じるしかない。

ビライトたちはレジェリーとカタストロフを心配しながらも歩みを止めず、先へ進む。




またしても小さな道に戻った洞窟を抜けた先には再び広大な世界が広がっていた。


「…近いな。エテルネルの力をより近くに感じる。」

デーガは呟く。

走りながら頷くビライトたちだが…そう簡単には通してはくれないらしい。


「ア"…」


「くっ!またか!」

イビルライズの住民は苦しそうな顔を見せながらビライトたちの前に現れ、その身体をビライトたちに近づける。


「押し通るぞ!」

クライドは短剣でその道を切り開く。

「ケッ、こんなもんで止まるわけにゃいかねぇんだよッ!」

デーガも魔法で周囲を一掃しながら先に進む。

ビライトたちも打ち漏らした住民たちを倒しながら進んでいくが、その度に断末魔のような悲鳴をあげる住民にビライトとヴァゴウは心が少しだけ突き刺すような気持ちを感じていた。


「情を持つな。カタストロフにも言われたろ。」

その表情を読み取ったデーガはビライトとヴァゴウに言う。


「あぁ…分かっちゃいるけどよ。」

「でも…割り切れない所もあるよ。」

「だとしてもだ。俺たちにはやらなきゃならねぇモンがある。たとえ相手が誰であろうと…だ。」


デーガは非情を貫き通す。そしてクライドも同意見のようで、デーガに同意するように頷いた。

「魂無き者が苦しんでいるというならばそれを鎮めてやるのも俺たち生者の務めだ。それにこれがイビルライズの意志によって発生しているものであるならば一刻も早くイビルライズをなんとかするのだ。それがこいつら住民を救う道にも繋がるだろう。」

クライドは短剣で住民たちを倒しながら語る。



「ビライト。クライドの言う通りだぜ。ワシらで救ってやろうぜ。」

「…うん、分かってる。分かっている、つもりだ。腹、くくらないと。」

ヴァゴウとビライトは腹をくくる。


ビライトとヴァゴウもまた、住民たちを倒しながら更に奥を目指す。


そしてしばらく先に進むと、地面が段々と赤みを帯びてくるようになり、ついには蒸気のようなものが強烈な匂いを纏ってブシューブシューと音を立てて蒸発するように地面が膨らんだり弾けたりしている。

まるでマグマのようだ。


「うっ…酷い匂いだ…」

「こいつは…確実に触れたらまずそうだな。」


ビライトたちはその領域を慎重によけながら先に進もうとするが…

「!!」

それは突然ビライトたちの足元にも出現したのだ。



「わっ!?」

「あぶねぇ!」

間一髪でビライト、ヴァゴウはそれを躱す。


「気を付けろ!どんどん来るぞ!クライド掴まれ!」

「!」

デーガはクライドを掴んで空を飛ぶ。

ヴァゴウは咄嗟に翼を潜血覚醒させ、ビライトを抱えて空を飛ぶ。



「あ、ありがとうオッサン。」

「そイつは良いガ…こりゃ地面には降りラれねェゾ。」

ヴァゴウは潜血覚醒の影響で言語に少しノイズがかかったようになっている。


「仕方ねぇ。そのまま進むか…」


ヴァゴウはビライトを抱え、デーガはクライドを抱えて空を進むが…

「オいおイ!!」


その蒸気はやがて球体へと姿を変えてビライトたちに襲い掛かって来たのだ。


「しゃらくせぇ!」

デーガは水属性の魔法で相殺しようとするが、あまり効き目がない。

「チッ、熱そうだから水でいけるかと思ったが…!ヴァゴウ!気を付けろ!」

「…!」


気がつけばヴァゴウたちの周囲には無数の球体が出現しており、このままだと間違いなく挟み撃ちされるような状況だった。

ビライトは炎魔法を撃つが、効き目は薄い。

ヴァゴウも銃を召喚し命中させるが…


「ダメだ!こうなったら迎え撃つしかない!」

ビライトは大剣を構える。

「オッサン!突っ込んでくれ!」

「危険ナ賭けだがヤるしかねぇナ!」

ヴァゴウは球体に正面にから突っ込み、そしてビライトは大剣を振る。


「何ッ!」


球体はビライトの大剣に当たった瞬間液体となりはじけ飛び、ビライトの全身を包み込むように襲い掛かる。

「ビライトッ!」

ヴァゴウは腕を潜血覚醒させてビライトの代わりにその液体を受けてしまう。

「アッツ…!」

「オッサン!!大丈夫か!」

「ヘイキダ。」

ヴァゴウは更に言葉にノイズがかかっているようだが、なんとか無事のようだ。だが、ヴァゴウの大きく、そして硬化したドラゴンの腕でさえも鱗を溶かし、酷く爛れていた。


「へ、平気じゃないじゃないか!急いで何とかしないと…!」


「らちがあかん。こうしている間にもイビルライズは完全に覚醒する準備を整えているぞ…」

少し離れた場所でクライドとデーガもなんとか抵抗を見せているが、その球体は液体となりクライドやデーガもあちこちにそれを被液してしまいまるで火傷したように皮膚を焼く。


「…クライド。」

「何だ?」


デーガは決意の顔を見せ、クライドに話す。

「ビライトをここで立ち止まらせるわけにはいかねぇ。ビライトだけでも先に行かせるぞ。」

「…つまり、俺たちだけでこの状況を?」

クライドは尋ね、デーガは頷いた。


「自信がねぇか?」

「まさか。そんなわけがないだろう。」

クライドは頭が切れる。

この状況をなんとか出来る算段をすぐに思い付くだろう、そして力であれば自分の出番だとデーガは考えた。

「お前の状況判断能力を信じてやるってんだよ。」

「フン、なら俺はお前の底抜け魔族の力を信じてやる。」

デーガとクライドは微笑み、デーガは一気にビライトとヴァゴウの元へと飛ぶ。


「クライド!デーガ!大丈夫か!」

「平気だ。ンなことよりだ。」

デーガはイビルライズの気配がする方を指刺す。


「こんなところで時間食ってる場合じゃねぇ。お前ら先に行け。」

「なっ!?」

「…!」


「そ、そんなこと出来るわけがないだろっ!レジェリーとカタストロフに続いて…デーガとクライドまで!」

クライドは「そう言うと思った。」と言い、ため息をつく。


「お前は行かなければならん。お前は何のためにここまで来た?妹を助けるために来たのだろう。こんなところで足止めを食っている場合ではない。」

「…ッ、でも…!」

決断が出来ずにいるビライト。


「俺たちならば心配いらんすぐに追いつくと約束しよう。だから気にせずにお前は行け。」

「…俺は…ッ…みんなを犠牲にしてまで…ッ…」


「まぁ、お優しいお前のことだ。そうやって躊躇うのは予想済みだ。」

デーガはヴァゴウを見る。

「…」


「…ワカッタ。」

ヴァゴウは頷く。言葉には言わずとも、ヴァゴウはデーガの目を見て頷いた。


「!…オッサン!!」

ヴァゴウは全身を潜血覚醒し、ビライトを抱えたまま、イビルライズの居る方向へと飛んだ。


「グルゥッ。」

「…くそっ!!絶対…絶対追いついてこいよッ!絶対だからなッ!!」

「…グルル…」

ヴァゴウの小さな呻き。そしてその目は泳いでいた。

ビライトは拳を震わせ、デーガとクライドに叫んだ。


----------------------


「絶対追いついてこい…か。」

「どうした?」

「いや、本当にお優しい奴だなって思ってよぉ。」


「ビライトはそういう奴だ。お前まさかここで果てる気だったのか?」

クライドはデーガを煽るように言うが、デーガは笑い飛ばす。


「ッハハ!ンなわけねェだろ!せっかく長い苦しみから解放されて新しいダチまで出来たのに死ねるかっての!」

「俺はもう友人認定か。」

「不服か?」

クライドは小さく微笑んだ。


「…フッ、それも良いだろう。」

「そっか。で、あれば…」


迫りくる球体。

挟み撃ちするように襲い来る球体に向かって叫ぶ。

「「生きて帰るぞ!」」


魔族の力を解放し、更にブレイブハーツを発動するデーガ。そしてブレイブハーツを発動し、内側に眠る転生者としての力を引き出すクライド。


「一気に片付けるぞ!」

「おおっ!!」


デーガとクライドはビライトとヴァゴウを先に行かせ、2人での戦いを始める。


最初にビライト達を行かせたレジェリーとカタストロフ。そして続いてデーガとクライド。


残されたビライトとヴァゴウは急ぎ、イビルライズの元へと向かう…





―――





「…皆…」

ヴァゴウは急ぎデーガの指した方向目掛けて飛び続ける。

そしてビライトは拳を震わせ、皆の無事を祈るばかりだった。


「ガルッ。」

「…オッサン…」

なんとなくだがヴァゴウの言いたいことが分かる。


ヴァゴウは心を強く持てと言いたいのだろう。ここはイビルライズだ。心の乱れはイビルライズに押しつぶされてしまい、実質死を意味するに等しい。


「…そうだ、みんなが命をかけて俺をここまで連れて来てくれたんだ…それに必ず追いつくって約束もした。だったら俺が信じなきゃだよな。」

「グルアッ!」

励ますようにビライトを見るヴァゴウ。その目は鋭く険しいがビライトにしっかり激励を贈っているように感じる。

「イビルライズ…いや、クロ…待ってろよッ!!」



「グルアッ!!」

「あれは…!」

飛行するヴァゴウの前から先ほどビライトたちを襲った球体が再び現れた。


「オッサン!一気に抜けよう!」

「グルアアッ!!」


ヴァゴウはビライトの声に応える様に咆哮し、武器を無数に展開した。

巨大な砲台をイマージで無数に出現させ、一気に放出する。


その砲撃で大半の球体が消滅するが、まだ残っている球体が一斉にヴァゴウの周りを囲い始める。


「グルアアアッ!!」

ヴァゴウは周囲に武器や砲台をイマージで創作して一斉に全方位に放つ。

撃ち漏らしたものをビライトがヴァゴウの背に乗り、大剣で両断して打ち倒す。はじけ飛んだ液体を剣で受け止め、付着に気を付けながらではあるがなんとか対処が出来ている。

まるでドラゴン便の上で戦ってるようだ。


速度を緩めることなく進んでいくヴァゴウ。


迫りくる球体や地上から崖を登い襲い来る住民たちもビライトたちは薙ぎ払って進んでいく。

そしてビライトたちの眼前に見えてきたのは―――巨大な赤紫の茨だった。

それは遥か高くまで続くほど縦に伸びており、そしてその内部から不気味に赤い光が心臓が脈打つように点灯している。


「…これは…!」

後方からも前方からも敵の気配は無い。

住民たちも茨の傍まで来れば襲ってはこないようだった。そして球体もまた姿を消し…そしてそれだけではなく…


「…音が…さっきまで響いていた声が聞こえない。」

イビルライズでずっと耳を超えて頭にまで響いていた悲鳴や鳴き声は突如として聞こえなくなり、そして…世界を脈打っていた音もしない。

完全に無音となったのだ。

「…ッ…」


潜血覚醒を解いたヴァゴウはガクッと膝をついた。


「オッサン!大丈夫か!」

「あぁ…大丈夫だぜ…ちょっと魔力を使いすぎただけだ…」

ヴァゴウはかなり長い時間飛行していた。


飛行はどんな魔法よりも大きく魔力を消耗する。元々ドラゴンの血を引いているヴァゴウ、そしてブレイブハーツの力も相乗してある程度の飛行は可能となっていたが、それでもかなりの速度で移動し、更には襲い来る敵に対してイマージを駆使して惜しみなく武具を召喚していた。


膨大な魔力消費は必然であり、ヴァゴウには大きな疲労が残ってしまった。

「オッサン、少し休んだ方が…」

「馬鹿言ってんなよビライト。こんなところで足止めてる場合じゃねぇだろ…?」

ヴァゴウはフラリと立ち上がり足を大きく地面に踏んで大きく深呼吸する。


「うっし!行けるぜ!もう一息だ!」

「オッサン…うん、行こう!」


―――最初は6人だった。

だが、皆がビライトを先に行かせるために襲い来る敵を引き受けた。

残ったビライトとヴァゴウの2人は茨の中へと入っていく。


この先にイビルライズは居る。

ここまで来ればビライトにもハッキリと分かる。デーガやカタストロフほど敏感ではないがやはり長い時間イビルライズの器としていただけのことはあり、イビルライズの気配を今は大きく感じ取れている。

「気配、感じるか?」

「あぁ、感じる。近いよ。」

「そっか、ワシにはまだ分かんねぇからよ。頼むぜ。」

ヴァゴウには気配を感じ取ることは出来ない。ビライトは頷き、先頭を歩き、ヴァゴウは後方を警戒しながら茨の中を進んでいく。


「っ…棘に気を付けなきゃ…」

茨の棘がビライトたちの肌を刺激するが、もはやこの程度は止まることは無い。

「一気にぶった切っちまうか!」

「その方が早そうだな。」

ヴァゴウの提案でビライトは炎魔法や大剣、ヴァゴウも剣を出し、それを使って茨を切って、燃やして進んでいく。


そして、その先に待ち受けていたものは――


「…!!」


茨の先に待ち受けていたのは赤黒い空間の先に待ち受ける巨大な渦。

その目の前に、彼女が居た。


「キッカ!!!!」

「ビライト!」

ビライトの表情が一変した。

項垂れており、ボロボロの状態のキッカ。そしてそこから少し離れた場所にもまた別の存在もまた、同じように項垂れている。

「あの小さいのがエテルネルか…!」

ビライトを追いかけながらヴァゴウは呟く。


走り続けるビライトにはキッカしか見えていなかった。


「キッカ…!キッカーーーーーーッ!!!」

ビライトの叫びにキッカは応えない。意識が無いようだった。

ようやく見つけたキッカの肉体。そしてイビルライズに囚われて消えてしまった精神体のキッカ。その2つが合わさった、そこに居るのは間違いなく本物で、確かにそこに居るキッカだった。


「ビライト!待てって!!」

ヴァゴウはビライトを引き留めようとするが、ビライトは止まらない。


「仕方ねぇッ!」

ヴァゴウは潜血覚醒し、ビライトを救い上げる様に飛び上がった。


「オッサン!?」


「ガウッ!!グルアッ!!」

ヴァゴウは必死で何かを訴えていた。

「オッサン、何を……!!」

そしてビライトとヴァゴウは何か強い気配を背中に感じる。


「グルアッ!!」

ヴァゴウは気配から背中を向ける。するとヴァゴウの目の前から大きな腕が出現し、ヴァゴウの背を叩き落とすように爪を振りかざす。


「グアアアッ!!」

「うああっ!?」


叩き落とされて地面に身体を強打するヴァゴウはビライトを庇うように背中から落ちた。

そしてヴァゴウの潜血覚醒は解かれてしまった。

「オッサン!」


「…ッ…危なかったなァ…」

「オッサン、ごめん…!ッ…あれは…!」

我を失っていたビライトはヴァゴウに謝る。そして、先程ヴァゴウを叩き落とした大きな腕。それは大きな渦から現れており、その全貌が姿を現す。


「おや、数が少ないようだけど…まぁここまで来ただけ立派だと思うけど。」

「…オイオイ…ンだよ…あれ…!」

そこから顔を乗り出すように現れたのは巨大なドラゴン。

それも、ビライトやヴァゴウにとっては…その姿は決して始めてみる姿ではなかった。


「どうしてだ…どうしてテメェは…“そんな姿”でそこに居るッ!!!」

ヴァゴウは怒りの表情でその存在に訴える。


その姿は間違いなくヴァゴウから見ると、母、魔竜グリーディの姿を模している。

翼や顔の一部、細かい部分は異なってはいるが、土台の姿としてはどう見ても魔竜グリーディの姿をしているのだ。


そして細かい部分にはあのガジュールの魔族姿の時の面影もある。


「ああ、この姿かい?魂の道から上質な魂を吸収してボクのものにしてやったのさ。歴史上で猛威を振るった巨悪、そして国1つ簡単に滅ぼせるほどの大いなる悪。全ての歴史上で失われた魂の情報は今、ボクの手の中に在る。そして――この姿が君たちに一番心に傷を負わせることが出来そうだなぁ…と、判断したまでだよ。」


「クロ…お前ッ…!!」

ビライトたちにとってはドラゴニアを壊滅状態に追い込んだ存在。

そして、ヴァゴウにとっては腐っても母親なのだ。


「その顔!!その顔良いなぁ。怒り、悲しみ、憎しみ。君たちのその顔が見たかった!この姿を模して正解だねぇ!あはは!」

「…クロ、その魂たちは…お前の中で苦しんでいるんじゃないのか…!」

「ああ、そうかもね。ボクに使われることを喜んでいる魂もあるけれど、もうやめてくれと懇願する魂もあるようだね。でもいいじゃないか。ボクの中に在る魂はかつての大悪党共だ。もう一度悪いことが出来て本望だろ?」

クロはニヤリと笑う。

その歪んだ表情にヴァゴウは拳をぎゅっと掴み…

「ざけんな…!これ以上…罪を重ねさせんじゃねぇ…!」


「お前って奴は…何処まで…!!」

クロに怒りを感じて今にも飛びかかりそうなビライトだが、今先程それでヴァゴウに怪我を負わせてしまった。

ビライトは冷静さを欠かないようにしつつ、様子を見ている状態だ。だが、クロの狂ったような笑いと、ヴァゴウの必死にこらえているその姿を見てビライトもどうにかなってしまいそうだった。

だが、それはブレイブハーツの発動にも影響を与える。ビライトたちは心を揺るがされる一歩手前、メンタルが崖っぷちの状態だった。


「良いね。そこまで怒ってくれるなんて、この姿を模した甲斐があったというもの!最高!」

クロは嬉しそうに微笑んだ。


「なぁ、ボクを止めたいんだろ?やってみろよ。」

その表情は急に冷めたように感情を失ったような目でビライトたちを見下す。


「…言われなくても!俺たちはその為に来たんだ!キッカとエテルネルを返してもらう!」

「…てめぇは一回ぶんなぐってやらねぇと気が済まねぇ。そこに例えワシの母親が居たとしても…もう一度眠らせてやらなきゃならねぇ。それが…息子であるワシの責任だ。」

「はは、たった二人でどうにかなるかな!?君たちの他の仲間たちも結構苦労してるみたいだし?それまでにボクがお前らをぶっ殺しちゃうかもねぇ!!」


「もう許してはおけねぇ。ビライト、もうアイツは…アイツはお前のダチだったクロじゃねぇ。ただの、悪魔だ。」

「うん、分かってる。これ以上…悲しみを増やしちゃいけない。誰も…傷つけさせない。行くぞ!クロ!俺はお前を絶対に止めて見せる!」

「あはは!やってみろよ!歴史上の巨悪を束ねたこのボクに勝てるもんならねッ!!」


「「ブレイブハーツ!!」」

より強力に、強い意志を見せるビライトとヴァゴウは強い赤き光に覆われた。


ついに始まるイビルライズ、クロとの決戦。

果たしてビライトたちを先に行かせた4人は間に合うのか。

そして、キッカとエテルネルを救い、クロに侵略をやめさせることが出来るのか。




世界を賭けた戦いが幕を開く―――


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