Delighting World Break ⅩⅩⅩⅩⅡ.Ⅸ ~ボルドー・バーンとカナタ・ガデン ただいまと、おかえりなさい~
忘却の惑星に現れたイビルライズの残滓と戦った。
イビルライズは神力を持つカナタと強く結びついている俺様の始末を図っていたんだ。
ガデンとナチュラルの神力を受けてイビルライズに立ち向かう俺様はイビルライズの圧倒的な力に苦戦しつつもなんとか食らいついていたが、ついに瀕死の重傷を負ってしまう。死にかけちまったが、カナタが勇気を振り絞ってイビルライズの前に飛び出し、俺様に神力を注いだ。
そして俺様は復活し、カナタの神力をまといイビルライズをなんとか撃退することに成功した。
そして、カナタは――やっと自分の意志で、自分のこれからの未来を話してくれた。
「私を――シンセライズに連れていって」
俺様はカナタと共にシンセライズに戻ることになったんだ。
カナタはこの忘却の惑星の管理人。カナタが居なくなれば忘却の惑星は崩壊する。
だが、ナチュラルの計らいでここの動物たちも自然もシンセライズに移動することが出来るみてぇだ。
だが、唯一移管できない存在…それは、この忘却の惑星で眠っていた前の管理人でありカナタの愛する老竜、ガデンの残滓だ。
俺様達は、ガデンと最後の別れをするため、ガデンの元に向かうのだった―――
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「カナタ。」
「ガデン!」
ガデンの元に戻ってきた俺様たち。
カナタはガデンの残滓に向かって走り出す。
「ガデン、私…私に出来ることをやり切ったよ。」
「あぁ、ガデン。よく頑張ったね。君の勇気はここからしっかりと見ていたよ。」
ガデンは微笑み、カナタも微笑む。
「ガデン、サンキューな。力を貸してくれて。」
「儂は大したことはしておらんよ。全ては、君とカナタが成しえたことじゃ。この惑星を守ってくれて、本当にありがとう。」
ガデンは俺様に深くお礼を言う。
「ハハ、よせよ。それよりだ!カナタはようやく自分のやりてぇことを伝えられたんだぜ。」
「ウム、カナタ。君が遥か昔から願っていたことが実現出来るのだよ。」
「うん。でも……」
カナタは下を向く。
「私がここからいなくなると…ガデンも…」
カナタはやはりガデンとお別れしなきゃならねぇことが唯一心残りなんだろう。
「…カナタ…」
ナチュラルはカナタの顔を覗き込むが…
「ううん、ガデン。私…前を向けるようになったんだから…前を向かなきゃならないんだよね。」
カナタは前向きになろうと必死だ。ナチュラルも心配そうに見ているが…
(涙をこらえている…)
「その通りじゃ。ここに居る儂は残滓…儂はもうすでにこの世には居ない存在なのじゃ。だから気にすることはない。」
ガデンは優しく微笑み、カナタの身体に触れる。
「…ナチュラル、少しでもカナタにガデンの何かを引き継がせることってできねぇのかよ。」
俺様はナチュラルに言う。
「えっ、どういうこと~?」
「なんつーかよ。シンセライズにカナタが行ってもガデンの何かを持っていれば寂しくねぇかなって。」
俺様はカナタがこれから前向きに生きていくために、そしてガデンのことをこれからもずっと大切に出来るようなものが傍にあればいいんじゃねぇかなと思う。
「う~ん…今のガデンは残滓だから…何も持っていけないかもぉ…」
ナチュラルはう~んと悩む。
「何かねぇのかよ!絞り出してくれよ!」
俺様はなんとかナチュラルに頼むが…
「ボルドー…」
「…そういやナチュラル。この惑星の自然や動物たちはシンセライズに移管出来るんだったよな。」
「うん~そうだよぉ~?」
「だったらよ、その自然や動物たちをドラゴニアに持っていくことは出来ねぇか?」
俺様は提案した。
「ガデンの何かを持っていけないなら…せめてこの惑星の持っていける全てを1つの場所に納めてぇ。どうだ?」
俺様の提案にナチュラルはしばらく頭をつんつんと指でつついて考えているが…
「ウ~ン、出来ると思うよぉ~ちょっと現地の人は驚いちゃうかもだけどぉ…」
「ホントか!そんなの構いやしねぇよ!事情は後で説明すりゃいいさ!」
「…ボルドー、ナチュラル…ありがとう。ガデンと会えなくなるのは変わらないし、寂しいけど…いつでもこの惑星の自然を見て過ごせるならとっても嬉しい。」
カナタは礼を言い、そしてガデンが口を開く。
「カナタ、大丈夫。君が儂を忘れないでいてくれれば…儂はいつだって君の心の中に居るんだよ。」
「…そうだね。そうだよね…ガデン。私、今までだってガデンのこと忘れたことなかった。だから…これからも忘れない。だからね…私がおばあちゃんになって…この命を使い切ったその先で…待っててくれる?」
「あぁ、もちろんだとも。儂は待っている。君とまた魂の道の向こう側で会えること、楽しみにしているよ。」
ガデンとカナタは抱き合う。
「カナタ。ありがとう。最後に君の顔を見られて本当に嬉しかった。」
「私もだよガデン…ありがとう…会えて、嬉しかった。」
2人が納得いくまで抱き合い、俺様とナチュラルはそれを静かに見守った。
そしてしばらくして、カナタは俺様とナチュラルを見た。
「もう、良いのか?」
「うん。」
カナタは俺様の前に手を出す。
「これから、よろしくしてくれるんだよね。ボルドー。」
「おう!任せときな!俺様が責任もって面倒みてやるからな!」
「子供じゃないんだケド。」
「ダハハ!お前も家族なんだから!世話焼かれときな!」
「家族…か。」
「おうっ!家族だッ!お前も俺様の家族だッ!みんなでドラゴニアで暮らそうぜッ!誰も反対なんてする奴はいねぇ!安心しなッ!」
そんな保証があるのだろうか。少し前のカナタならそれがよぎっていただろう。
だが、今は違う。カナタは俺様は信じてくれている。だったら俺様もそれに応えなきゃならねぇな。
俺様はカナタと握手を交わし、これからのカナタの人生を受け入れ、そして共に生きていくことを誓った。
「じゃぁ、準備に入るねぇ。」
ナチュラルはそう言い、再び神力解放を行った。
「―――当機の任務を確認、ロード中・・・・ロード完了、忘却の惑星をドラゴニア城、中庭へと移管。処理―――開始。」
ナチュラルのその言葉により、惑星が大きく歪むような感覚に俺様たちは襲われる。
「こいつは…!」
「この惑星が崩壊しようとしているのだよ。」
ガデンの身体から粒子が飛び散っている。
「ガデン…!」
「カナタ。」
ガデンは微笑む。そして――
「また会おう。カナタ。我が愛する子。」
「――うん、今はさようなら。ガデン、そして―――またね。」
「ガデン!またなッ!!」
「ボルドー、君は“あの時”と何も変わらず真っすぐであった。本当にありがとう。」
その声を聴きながら、ガデンは目を閉じ、身を委ねた。そして粒子は激しくなり―――やがて消えてしまった。
俺様は手を繋いだままカナタを見る。カナタはガデンが消えたとたんに、大粒の涙を流し始めたんだ。
「…カナタ。よく我慢したな。」
「―――うん…最後だもん…笑顔で、送りたかった。」
「偉いぞ。カナタ。」
カナタは俺様に寄り添い、涙を拭いた。
「ボルドー、カナタ。当機の傍へ。」
俺様とカナタは消えゆく忘却の惑星を見守りながら、ナチュラルの傍へと行く。
すると結界のようなものに包み込まれ、そしてその先には白い渦が現れる。
「この先がシンセライズ。ボルドー、君の魂と肉体・精神の情報は向こう側の君の身体に移管される。そして当機とカナタはこの惑星の自然が移管された地に降り立つ。位置は中庭だ。」
「…分かった。」
「カナタ。待っててくれよ。俺様が起きたらすぐ迎えに行くからよ。」
カナタと一旦離れることになってしまうようだが、俺様もすぐに目覚めたらカナタと合流するつもりでいた。
しかしカナタは首を横に振る。
「ううん、私が会いに行くよ。多分だけど…ボルドーは魂と本体が同期されるまでに時間がかかると思うし…無理しない方が良いよ。」
「そ、そうか…?けど衛兵に見つかると事情を説明するのも大変だしよぉ…」
「当機が傍に居る。安心して欲しい。」
「そっか!分かった!信じるぜ!」
「では、ボルドー、カナタ。その渦の中へ。」
ナチュラルは2人を渦の中へと誘導する。
「…」
カナタは崩壊する惑星を見つめる。
寂しそうな顔と、少し不安そうな顔を見せるが…
「…大丈夫か?カナタ。」
「うん、大丈夫。だって…家族として一緒に居てくれるんでしょ?」
「おう!もちろんだぜ!」
俺様は満点の笑みでカナタに応えた。
俺様はカナタと手を繋いだまま、渦の中へと入って行った…
(さようなら、ガデン。さようなら忘却の惑星。私はこれから、新しい自分として生きていくわ。私だけの未来を創る。だから…私と出会い、私と仲良くなってくれた前世界の皆、そして忘却の惑星で出会った皆。どうか見守って欲しい。私は死竜“エグリマティアス”として、ただの生物“カナタ・ガデン”として、生きていく――だから――――ありがとう。)
(みんな、待たせちまったが…今帰るからな…!待ってろよ!)
カナタは目を閉じ身を委ねる。そして俺様もまた―――その身を委ね、元の世界へと帰還していくのだった。
それを後ろから見守るナチュラル。
(…感じる。当機はこれよりヴァジャスたちへと連絡を取る。イビルライズの力の急速な高まりを観測。何かが起こった可能性あり。ボルドーたちの保護が終わり次第、当機も帰還する。)
ーーー
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朝がやってきた。
小鳥が鳴き、今日も良い天気だ。
そして、城下町の方角からは復興の音がする。
三国同盟が行われ、ドラゴニアの妨害をしていた者たちが居なくなってからは順調に進んでおり、ヒューシュタットの機械が大活躍している。
ヒューシュタットやワービルトからも多くの人々が応援に来てくれており、ドラゴニアの復興は一気に進み出している。
カーテンを開けると、朝の陽ざしが部屋を照らす。
「ん…ッ…」
「あう~」
「おはよう、ブランク。今日も良い天気よ。」
メルシィはブランクを抱き、外の景色を見せる。
「あうあ。あう~」
「お外行きたいの?」
「あう!」
「そうね、いい天気だものね。」
ブランクを抱いたまま、部屋を出て中庭へと歩き出すメルシィ。
時刻はまだ早朝であり、朝日が昇ったばかり。あたたかな日差しがメルシィたちを穏やかな気分にしている。
「…あら?」
曲り角を曲がるとその先は中庭への出入り口だ。
その方角から強い風が吹いている。そしてそれは扉を開き、そこから葉がぶわっと大きな音を立てて舞い散っている。
「…何、かしら…」
メルシィは警戒しながらそっと中庭の出入り口から中庭を除く。
すると…
「…何、かしら…これ…庭の景色が…変わってる…?」
見ると、芝生で整えられていた中庭には草がたくさん生い茂っており、無数の見たことも無い花が咲き乱れ、そして庭の奥には木々も並んでいた。
メルシィには全く見覚えのない光景が広がっていたのだった。
「…これは…」
メルシィはブランクを守るように包み込みながら中庭へと入る。
そこからはとても穏やかな雰囲気が漂っており、何故だかとても魔力に満ちている。
明らかに様子が違うため、引き返した方が良いかと考えたが、もし危険なものであった場合は自分が王妃として何とかしなければという気持ちもあった。
ブランクも、置いて行くわけにはいかず一緒に連れて来ているが、何かあれば命懸けで守るつもりだ。
中庭を歩いていると、大きな花畑のような場所に出た。
そこには…
(…あれは…人間の…女の子…?と、アレは…何かしら?)
花畑に座っているのは人間の少女だった。
その横には見たことも無い球体の生物がフワフワと浮いていた。
「…」
そして、球体の生物がメルシィに気がつき、少女の肩を叩いて少女はメルシィの方を向いた。
「こっちを見てる……」
悪い気配は感じなかった。むしろこの少女と球体の生物には少し違和感のような、心地の良いものを感じていた。
「…そろそろ起きてるかな。」
「起きてると思うよぉ~案内するねぇ~」
少女と球体の生物は2人で話をして、少女はメルシィの元へと走る。球体の生物はフワフワと浮かびながら向かう。
「あの、あなたたちは…」
メルシィは少女たちに尋ねる。
「あの、竜人さん。何も言わずについてきて欲しいんだケド…良い…かな?」
少女は首をかしげながらメルシィに尋ねる。
「えっ、えっと…」
急に言われてよく分からないメルシィだが…
「大丈夫だよぉ、僕たち怪しい者じゃないからねぇ~」
球体の生物はのびのびと話すが、本当に見たこともない生物であるため、メルシィから見ると怪しさ満々である。
「…」
「あう~うあ!」
ブランクはナチュラルの顔に興味深々のようだ。とても笑っている。
「…ブランクが笑っているなら…悪い人じゃないと思います。」
メルシィはひとまず2人を信じることにした。
「ありがと~。じゃ、案内するねぇ~」
球体の生物はフワフワと城の中へと入っていく。
その後ろに少女が走って追いかける。
メルシィはブランクを抱いたままそれを追いかける。
球体の生物と少女はサクサクと先に進んでいってしまい、メルシィはそれを頑張って追いかける。
そして向かっている場所が、メルシィにとって大切な場所であることに気が付いたのは早かった。
(まさか…!)
メルシィの心臓の鼓動が早くなっていく。
先導する球体の生物。そしてメルシィを手招きをする少女。
その行先は―――
「…やっぱり…」
そう、ここには―――彼が、眠っている。
扉は閉まっている。少女が開けて閉めていったようだ。
ドキドキしながらドアノブに手をかけるメルシィ。
「あう!あう!ぱっぱ!ぱっぱ~!!!」
ブランクは父の名を呼ぶ。
「…」
メルシィは扉をゆっくりと開ける。
―――
ベッドは部屋の端、窓沿いにある。
朝日が照らされるベッドにその姿はなく、そして窓の前には1人の竜人が立っている。
「…!」
少女と球体の生物は微笑んでその様子を見守っていた。
そして、メルシィの存在に気が付いた竜人はその姿を見る。
「―――あな、た――?」
「――よっ。」
竜人は小さく笑い左手を上げる。
「―――ッ…」
メルシィの目に涙が溜まる。そして顔を下に向け、身体を震わせる。
「…よっ…じゃないですっ。」
「…ダハハ。だな。」
「…どれだけ…どれだけ……心配したと思ってるんですか…!」
「…そうだな。心配かけた。」
「どっ…ど、れだけ…寂し…かったと…どれだけ…心細かったと…思ってるん・・・ですか…!」
動揺して声が出せない。だが、それでも声を絞り出そうとするメルシィは、必死に想いを伝える。
「そうだな、寂しい思いさせちまった。すまなかったな。」
「―――!」
メルシィは顔を上げ、ブランクを抱えたまま走り出す。
そして、竜人―――ボルドー・バーンは大きく手を広げ、微笑んだ。
「あなたっ!!」
メルシィとブランクを受け止め、ボルドーは、ぎゅっと抱いた。
「ぱっぱ。ぱっぱ!」
「あなたっ…あなたっ……!!」
「すまなかったな、メルシィ…ブランク…!!帰って来たぜ…!お前らの元に…!」
「っ、ううっ、うあああ…」
「ぱっぱ~ぱっぱ~」
声を震わせ、涙を流すボルドー。そして声を上げて泣くメルシィとボルドーの肩に乗って喜ぶブランク。
「すまなかった。悲しい思いさせた。もうお前を悲しませるようなことはしねぇからな…!」
「…約束…してくださいね…!」
「おう、この命に代えても誓うぜ。」
「…はいっ…はいっ…!」
ヒューシュタットで命を落としてからどのぐらい経っただろうか。
ずっとボルドーの帰りを待ち続けたメルシィとブランク。
そしてやっと帰ることの出来たボルドー。
家族はついに再会を果たし、ドラゴニアにも明るい未来が見えてきた。
王の帰還である。
「メルシィ、ただいまだ!」
「おかえりなさい…!」
(良かったね、ボルドー。)
(おめでとう~ボルド~。)
抱き合う3人の姿を見てカナタとナチュラルは微笑みあい、3人の喜び、涙する姿を祝福した。
―――ボルドーの帰還、国民には重症のため意識不明となっているのだが、ボルドーの意識が戻ったことはその日の日中には国中に広がることとなる。
そして、その報はドラゴニア国民を大いに盛り上げ、大きな活気を取り戻すことになるのだ。
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3人が落ち着いたところで、ボルドーはベッドに戻り、カナタとナチュラルのことをメルシィ、そしてベルガにも説明した。
そして、忘却の惑星での出来事も全てを話したのだった。
ボルドーはまだ魂と身体が少しだけズレており、あまり長時間立ち上がることが出来ない状態にある。そのため、ボルドーはベッド上で話をしている。
「…なるほど、事情は分かった。カナタ殿、ナチュラル殿。息子が世話になった。ありがとう。」
ベルガは事情を把握した上でカナタとナチュラルに深く頭を下げ、感謝を伝えた。
「えっと…頑張ったのはボルドーだから…」
カナタは謙遜し、ナチュラルも恥ずかしそうにしてる。
「でもよ、カナタがイビルライズに立ち向かってくれたから俺様は救われたんだぜ!カナタもたっくさん頑張ってくれたんだ!ナチュラルもそうだぜ!」
ボルドーは2人を褒め、笑顔で話す。
「色々なことがあったんですね…でも、無事に帰ってきてくれて良かったです…」
「まぁ一回死にかけたけどよ。なんとかなっちまった!」
「で、お前はカナタ殿を家族として迎え入れたいということだな?」
「おう。頼むよオヤジ、メルシィ。」
ボルドーは頭を下げてお願いする。
「あなたが受け入れるなら、私も受け入れますわ。それに…ブランクの良いお姉ちゃんになってくれれば嬉しいです。」
「断る理由は無い。カナタ殿…いいや、カナタと呼んでいいかな?」
「あ、うん。」
「我がバーン家にも立場や血の系譜があるが故、養子としての受け入れは出来ぬが…この城の住人としてであれば私はそなたを歓迎しよう。そして、同じ屋根の元で暮らすのだから故に、家族として…メルシィと共に息子を支えてくれるか?」
「私からもお願いしますわ。カナタ。」
「…」(あぁ…ボルドーの言う通りだった。)
カナタは少しホッとしたような顔を見せた。
やはり内心不安だったのだろう。急に現れた種族も違う少女を家族として迎えてくれるのか。それが不安だったことは当たり前のことだ。だが、やはりボルドーを信じて正解だったようだ。
「ありがとう…よろしく…お願いします…!」
カナタはメルシィとベルガに頭を下げる。
「そんなに畏まらなくて良い。私たちはたった今をもって家族なのだから。」
「えぇ、もっと自然に話していいんですのよ、カナタ。」
「…うん!」
カナタは笑顔で返事をした。
ボルドーはその様子を見てウンウンと頷いていた。
「ナチュラルはこれからどうするの?」
カナタはナチュラルに尋ねる。
「えっと、実はねぇ…」
ナチュラルは何か言いにくそうな顔をしているような気がする。
「実は…忘却の惑星から帰る直前にイビルライズの力が大きく高まっているのを観測しちゃってぇ…多分、何かあった…と、思うんだぁ…」
「なんだって…!?」
ボルドーは表情を変える。カナタも冷や汗を流す。
「イビルライズはもしかしたらエテルネルを捕らえちゃったかもしれないんだぁ。このままだと…この世界が負に侵されて大変なことになっちゃうよぉ…」
「…やっぱ残滓を倒しただけじゃ駄目ってことか…!」
ボルドーは拳を震わせる。
「そんな…ビライトさんたちは間に合わなかったのでしょうか…」
「ビライトたちは今イビルライズに潜入したばっかりだよぉ。彼らが最奥に居るイビルライズをなんとか出来れば…間に合うかもしれないけど…」
「…ビライト…皆…」
ボルドーは外を見る。
外はすがすがしいほどの快晴だ。とても今、世界が危機的状況になっていることなど想像もつかないだろう。
「…あなた…どうしましょう…せっかくあなたが戻ってきたのに…このままじゃ世界が…」
「…息子よ。お前の考えていることは分かるぞ。だが今のお前には何も出来ん。今はビライト殿たちを信じて待とう。」
「…へっ、思ってること当ててんじゃねぇよ。でもそうするぜ。どっちにしても俺様はしばらくは動けそうにねぇからな…それに、メルシィとの約束もある。」
「あなた…私は…」
「分かってる。お前を悲しませるようなことはもうしねぇって誓った。だから…信じて待つさ。ビライトたちをな。」
ベルガはボルドーが今すぐにでもナチュラルに頼んでビライトを追いかけようと考えているのではないかと察した。
だがそれはここに居る皆が望んでいない。
「だけど、もしこの国に何か災いが起こるのであれば俺様は戦う。俺様は王としてこの国を守らねぇといけねぇからな。」
「…そうですね。その時は…私も戦います。今度はあなたの隣で…!」
「私もお伝いする。」
「ありがとよ、メルシィ、カナタ。そんときは頼んだぜ!」
ボルドーはイビルライズをビライトたちに託し、自国を守ることを決めた。
これから起こる可能性のある災いに向けて、ボルドーたちは準備を進めることとなる。
そしてナチュラルはいったん神の領域に戻り、イビルライズの侵攻を阻止するために動くことになる。
―――
「いったん、お別れだねぇ。ボルドー、カナタ。」
「ナチュラル…気を付けてね。」
「すまねぇな。一緒に行けなくて。」
「いいんだよぉ。これは僕たち神様の役目だから!君たちは君たちの守るべきものを守るんだよぉ。じゃぁねぇ~!」
ナチュラルは手を振り、フッと姿を消した。
「…神様というのはアトメントさんと言い、色々なお姿でいらっしゃるのですね。」
「ウム…神様も戦っておる。ビライト殿たちも戦っておる。我々には我々の出来ることしよう。そして―――」
ベルガはボルドーの手に自身の手を置く。
「ボルドー・バーン、我が息子よ。その身体が癒え、動けるようになったその時、私は王を降りる。」
「オヤジ…!」
「これからのドラゴニアに必要なのは私ではない。お前だ、ボルドー。」
ベルガは正式にボルドーを王とし、自身は王の座を降りることを告げた。
「…分かったぜオヤジ。この国は俺様が必ず立て直す。そして、世界の脅威からも守って見せる。んでよ…全て終わってもだ、もっともっと良い国を創り上げて見せるぜ。」
「メルシィ、カナタ。息子を頼んだ。」
「はい!」
「うん。」
「あうー!」
「おお、そうだな。ブランクも頼んだぞ。未来の王なのだからな。」
「あい!」
ブランクは言葉が分かっているかのように返事をする。
少しずつ言葉を覚えつつあるため、これからの成長が楽しみだ。
「そして!全部が終わったらメルシィ!オヤジ!王位継承の式、そして最高の結婚式を挙げようぜ!」
「…はい!その時を迎えられるように頑張りましょう!」
「ウム。引退するとしても私も出来ることをやるつもりだ。皆でこの困難を乗り越えよう。」
「私も手伝う。」
「おう!頼むぜカナタ!」
ボルドーが王となる日は近い。
そして、それはドラゴニアにとって大きな風となる。
しかし、世界には大きな脅威が迫っている。
本当の戦いは、まだ始まっていない。これからが本当の戦いだ。
忘却の惑星の物語は終わり、2つの物語は1つになった。シンセライズとイビルライズを巡る戦いが始まるのだ。
(ガデン、私頑張れそうだよ。私はここで…生きていく。ボルドーたちと一緒に…生きていく…!)
Delighting World Break 0.9巻
ボルドー・バーンとカナタ・ガデン
終幕
物語は1つとなる。
――
【EXTLA EPISODE】:30年前の「生きる」
――
シンセライズに戻ってきた俺様はしばらくはあまり身体を動かすことができず、ベッドの上で過ごすことになった。
戻ってきた最初の日はずっとメルシィとブランクと一緒に過ごした。
もちろん、兵士たちや療養中のクルト、そしてゲキも様子を見にきてくれ、この日は久しぶりに多くの人と会話をした。
その時にカナタのことも紹介して、とても楽しい時間を過ごすことができた。
そして、そんな楽しい時間はあっという間に過ぎていき、陽が沈み夜となった。
「…ドラゴニアの夜も久しぶりだな。」
「変わらないでしょう?」
「あぁ、変わらねぇな。空はホント何も変わらねぇよ。」
俺様は窓越しから夜空を見ながら微笑んだ。
「…すぅ…すぅ…」
「フフ、気持ちよさそうに眠っていますね。」
ベッドに突っ伏して眠っているカナタはとても幸せそうな顔をしている。
「カナタは忘却の惑星では神様だった。眠らずとも生きていける身体だったけどよ、今はカナタは普通の人間の少女だからな。眠るのも久しぶりなんじゃねぇかな。」
「きっと、ガデンさんの夢を見ていますよ。」
「かもしれねぇな。」
カナタはメルシィにガデンの話をたくさんしていた。
ガデンの思い出をまるで忘れないように、それはとても楽しそうに話してくれたんだ。
「ねぇ、あなた。今日は私もブランクも一緒に寝たいわ。」
「ヘヘッ、そうだな。ちと狭いかもしれねぇけどよ。」
「構いませんわ。あなたの傍で…眠りたい。」
メルシィは既に眠っているブランクと一緒に俺様の身体にピタリと寄り添い目を閉じる。
「…温かい。」
「そっか。良かった。」
俺様はメルシィの背中を撫でながら…
「おやすみ。」
「はい、また明日。」
メルシィはそのまま気持ちよさそうに眠りについた。
「―――」
俺様は天井を見て、忘却の惑星でのことを思い出していた。
本当に色々あったが…一つだけうやむやにしていたことがあったことを思い出した。
(ガデンは…俺様のことを知っていた。昔―――俺様は―――あの惑星に―――――)
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30年前――
まだ21歳の若造だった俺様は初めての世界周りの旅に出た。
この時は勿論メルシィとも出会っていない。つまり一人旅だ。
ドラゴニアからワービルト。そしてヒューシュタットを通り山脈を超えてコルバレー。
そこからぐるりと回りドラゴニアに帰ってくるという長い旅だった。
――
俺様は、30年前の旅の記憶があまりない。
いや、あまりないという言い方は違う。
一部の時間の記憶がない…と、言うのが正解だろうか。
確かそれはヒューシュタット山脈からコルバレーに向かっている道中だったか。
本来ならばドラゴニアから東へ向かい、ヒューシュタット山脈南端から回り込んでコルバレーに向かうのが正規ルートだが、俺様は腕に自信はあったからか、ヒューシュタットの東から山脈を登り、コルバレーに向かう道を選んだんだ。
そして―――
“ガラガラガラ!!!”
「!?」
そう、この時は大荒れの天気だったんだ。
激しい雨で視界は何も見えず、更に足場の悪い山道だ。
明かりなんてほとんど役に立たないほどの大荒れの天気の中…
「う、うおおおおお!!!?」
そうだ、あの時大規模な土砂崩れがあったんだ。
豪雨を避けるために大きな洞穴を魔法で作って避難していた。
だが、その洞穴はあっけなく土砂崩れで崩壊し、そのまま俺様は土砂崩れに巻き込まれちまったんだ。
そして、俺様のその後の記憶は山の麓で目を覚ましたところだ。
幸い怪我もなかった。
だが、あの大規模な土砂崩れで怪我をしていないことそのものがおかしかった。それだけじゃねぇ。何もクッションになるようなものもなく、大岩やボロボロの折れて流れてしまった鋭利な木々が辺りに散乱していたんだ。
なのに無傷という不思議な現象が起こっていた。
あの時は「運が良かった」としか思ってなかった。
だけど、あれは運が良かった…と言えばそうなのかもしれねぇが…多分今回のヒューシュタットの戦いの時のように―――中途半端な状態だったんだと思う。
死んではいない。でも死んでいるような。
生死の境を彷徨っている…という表現が正しいのか。
いや、そんなのよくある話――じゃねぇけど、だからと言って知らない場所に迷い込むなんてことはねぇだろう。
―――あぁ、やっぱ俺様は運が良かったんだろうな。
そう、俺様がガデンに会ったのは、その時だ。
だからこそ、俺様はヒューシュタットの時もまた、巡り合えたのかもしれねぇ。
ハハ、本当にそうだったら幸運なんてモンじゃねぇな。流石に何かの力、働いてただろ?
まぁ、そんな芸当が出来るとしたら…ナチュラルみてぇな神様なんじゃねぇかな…って思うけどよ。
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「―んあ…?ここは…何処だ?」
土砂崩れにあった俺様は、不思議な場所に迷い込んでしまった。
周囲は夜のようで、所々に黄色い光や緑の光がフワフワと浮いている。
しかし、白い霧で周囲の様子はよく見えない。
「…確か…そうだ、土砂崩れに巻き込まれて…死んじまったのか…?俺…」
当たりを見渡してもやはり見覚えが無い。そして何よりも自分の中にある…そう、魂のようなものがぽっかり抜けているような。そんな感覚がする。
「じょ、冗談じゃねぇ…!俺はこんなところで死んでたまるかよ…!」
まだまだ道半ばだ。これからどんどん力も知識もつけて最高のドラゴニアの王になるんだと。
オヤジも、母さんも期待してる。
そして何より、フリードにも素晴らしい王となる俺様を見届けて欲しい。と思っていたんだ。だからこそ、死ぬわけにはいかなかった。
「…死ねるか…!!死ねるわけねぇだろうがッ!!!」
大きな声で叫ぶ俺様。その声は虚しくただ消えていく……
「…クソッ、クソッ!!」
俺様は走り続けた。そしてその先にはより光り輝く大きな大樹が聳え立っていた。
「……この樹…何か妙な空気を感じる…お…?」
傍に座っていたのは老竜だった。
「騒がしいと思ったら…彼女が起きてしまう…」
老竜は実体が無いように見えた。ゆらゆらと揺れる陽炎のようにゆらめく身体。だが、そこに居るような。触れられるような。
そんな不思議な雰囲気を感じた。
「…あんたは…」
「…フム、珍しい。君は迷い子のようだ。」
「俺がここに居る理由を知ってんのか?」
「ウム。君は何の因果かここに迷い込んでしまったようだね。君の魂は…フム、欠けてしまっているようだ。死んでいるようで死んでいない…とても不安定な状態のようだね。」
「…死んでいるようで死んでいない…だとォ…?」
老竜はそう言うが…正直意味が分からない。
「今なら引き返せる。でもこのまま何もしなければ君は本当に死んでしまう。」
「…引き返せる…!?」
俺様はその言葉に大きく反応した。
「引き返せるのか!?帰れるのか!?」
「ウム。今ならば…な。君に問おうか。“君は、生きたいかい?”」
「生きてぇ!生きてぇに決まってんだろ!!」
俺様は即答した。
「…フム、即答とは。君の目は輝いておる。」
「ッたりめぇだッ!!俺には夢がある!ドラゴニアの最高の王になるんだ!そして愛する家族を、国を守るんだッ!こんなところで立ち止まってる暇なんてねぇんだよッ!!」
「…フム、分かった。君の目はとても輝いている。君のような者が彼女と一緒に居てくれればと良かったが…君はまだここに来て良い存在ではないようだ。」
「ごちゃごちゃ言ってんなよ!頼むぜ!」
「せっかちじゃのう。」
老竜は手を前に出す。すると淡い光が俺様を包み込み、フワリと宙に浮く。
「おわっ、なんだこりゃ…!」
「身を委ねると良い。すぐに君は目を覚ますだろう。」
「そっか!誰だか知らねぇけど助かった!ありがとうなッ!」
「君の夢が叶うことを願っているよ。」
老竜の声を聞いた直ぐ、俺様の意識はフッと途絶えた。
―――
そう、本当に僅か数十分の出来事だった。
俺様は―――ガデンに救われてたんだ。
最初に忘却の惑星に迷い込んだのは本当に運だったのかもしれねぇ。でも、ヒューシュタットの戦いの後は…なぁ、あんたが俺様を―――また忘却の惑星に連れて来てくれたんだろう?
そりゃあの時も死んでるのか死んでねぇのか分かんねぇ状態だったかもしれねぇけど、そんな都合よく2度忘却の惑星に辿り着くことなんて奇跡だ。だからこそ、今回は導かれたのかもしれねぇなって思うんだ。
ガデンが今度は俺様とカナタを引き合わせるために、カナタが前に進むための道を俺様が作ってくれるかもしれないとか、思ってたのかもしれねぇなぁ…
だとしたら…感謝しかねぇよな。
俺様は隣で眠るメルシィとブランク、そしてカナタを見て微笑んだ。そして窓の外の夜空を見る。
「…ガデン、ありがとよ。カナタは必ず俺様が守る。だから―――見守っててくれや。――またな。」
俺様はそう呟き、目を閉じた。
いつかまた、魂の道の向こう側で会えると信じて―――
【EXTLA EPISODE】:30年前の「生きる」
終
【後書き+お知らせ】
ご覧いただきありがとうございました。
0.9巻は今回で最終回となります。
次回の10章は第2部最終章となりますので、0.5巻と0.9巻はありません。予めご了承ください。
以上、お知らせでした。