Delighting World Break ⅩⅩⅩⅦ.Ⅴ
キャラクター紹介
グロスト・ガディアル
・性別…男性
・年齢…1000万年以上
・身長…328.8cm
・体重…240.1kg
・種族…八神・抑止力(容姿:竜人)
・一人称…俺
抑止力序列第3位。
世界最強の守護神の名を冠しており、世界に危機が訪れた際の最終防衛ライン。
八神の中で唯一元生物であった歴史があり、神として抜擢されたのは世界統合戦争後であるため、歴史書にも載っていない七神から外れた幻の八番目の存在(抑止力内では七神ではなく八神と呼ばれている)
世界統合戦争前は邪神であったアトメント・ディスタバンスの管轄する世界で生きており、世界を滅ぼす為に動いていたアトメント・ディスタバンスの半身を倒すと同時に命を落とし、魂がエネルギーへと還元される前にエテルネルに回収され、神すらも倒せる実力を見込まれて世界統合戦争へと参戦することになり、大きな戦果を挙げる。
世界統合戦争が終わった後は、元の世界で生きる大事な友たちがこれからも幸せに生きて、そして友たちが愛した世界を未来永劫守る為、エテルネルの推薦も受けて八番目の神として生まれ変わった。
それからは世界を守る抑止力として世界を見守り続けながら、神の領域を守る番人をしている。
アトメント曰く、カタブツだとのことだが、ビライトたちのことはアッサリと認め、神の領域への立ち入りを認めた(ガディアルはアトメントを介してビライトたちのこれまでを全て見ていたため、それを踏まえた上での結論であると語っている)
雷魔法を得意としており、その力はまだ披露されていないが故、未知数であるが、世界最強の守護神たるその威厳と力の大きさでその力の大きさが分かるほどに強力であることは間違いないだろう。
かつて昔、ディスタバンスで生きていた頃は光と闇の力を所有しており、その力はディスタバンスの世界で起こっていた死竜戦争の際に使われていた強力な力であったと言われているため、同じ元死竜であるカナタ・ガデンともつながりがある。
現在は神力を解放した時のみ、その力を使うことができるようだが、ヴァジャスから神力解放は禁じられている(あまりにも強大な力であるが故、神力解放そのものが世界に大きな影響を与えかねないとされているため)
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ヴァジャス・シンセライズ(33.5巻の補填:完全版)
・性別…男性
・年齢…1000万年以上
・身長…5m以上
・体重…500㎏以上
・種族…八神・抑止力(容姿:ドラゴン)
・一人称…私
抑止力序列第2位。
現在身を隠しているエテルネル・シンセライズの代理としてシンセライズの主神を務めている。
かつての世界統合戦争を引き起こした張本人であり、最悪の邪神となっていた歴史がある。
世界の負を一身に受けて暴走していたが、世界統合戦争でエテルネルたちに救われて共にシンセライズで生きていくことになったとされている。
世界の負を正のエネルギーに変換する力を持っており、現在のイビルライズの負の力の侵攻を防いでいる砦となっている。
イビルライズは自身の残滓から生まれた存在であるが故にきっかけを生んだ責任と、これまでの自分の暴走した際の罪の重さを抱えている。
デーガが言うには、ヴァジャスが抱えている罪の重さはどんなものよりも重いが故に、決して許してもらうものでもなく、許せるものでもなく、その罪にかける想いも強いため、使命を持って愛する世界のために向き合っている。
エテルネルの1番の友であり、エテルネルを救うことが出来るのが現状ビライトたちだけであるため、ビライトたちには何としてでも成功して欲しいと願っている為、ビライトたちの扱いはとても慎重。
邪神である時はガディアルと並ぶほどの戦闘能力を持っていたが、現在は戦う力はほとんど無い。しかし、内に秘めている神力と魔力は抑止力の中でも最高クラスであるため、魔法を中心とした戦いであればある程度はこなすことができるが、本人が戦いを好まないので力を行使することは滅多に無い。
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アリエラ・アーチャル
・性別…女性
・年齢…1000万年以上
・身長…157.7cm
・体重…秘密
・種族…八神・抑止力(容姿:竜人)
・一人称…私
抑止力序列8位であり、アトメント同様元邪神。そして八神の紅一点。
ビライトたちがヒューシュタットで出会っていた不思議な竜人。
オールドでは神であることを隠してビライトたちをヒューシュタットで手助けしては姿を消していたが、神の領域にて再会を果たした。
基本的に怠惰で無気力なめんどくさがりや。
ヴァジャスに召集を受けても顔を見せずに図書館で本を読み漁っていた。
邪神の時から惰性的で何もかもを無気力で放任していたが、世界統合戦争では同じアーチャルの管轄する世界の英雄たちに説得され手を貸すことになり、世界統合戦争では屈指のサポーターとして活躍した。
世界統合が行われた後はヒューシュタットの図書館を根城にして日々本を読み漁っているいわば本の虫。
同じ本を何百回と読み直しても飽きないほどに本が好きで、神の仕事は基本そっちのけにしているため、神々からは呆れられているが、やるときはしっかりやるようで、期待はされているようだ。
アトメントとは同じ元邪神ということもあり気が合うようで、アトメントの言葉には少し弱く、アトメントの言うことならばたまに言うことを聞くらしい…?
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―――序列一覧【全員集合版】(肩書)
9位…リヤン・シヤン(世界改変の鍵)
8位…アリエラ・アーチャル(堕落の元邪神)
7位…オンゲルグ・ナチュラル(自然窮愛の神)
6位…タイトース・レクシア(魔法始祖の神)
5位…アトメント・ディスタバンス(戦を司りし元邪神)
4位…デーガ・カタストロフ&魔王カタストロフ(魔の物を統べし王)
3位…グロスト・ガディアル(世界最強の守護神)
2位…ヴァジャス・シンセライズ(罪を背負いし白銀の竜)
1位…エテルネル・シンセライズ(世界創生・原初の神)
序列例外…カナタ・ガデン
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地名紹介
・神の神殿
神の領域の最奥に位置する浮島の上に在る白銀の神殿。
番人であるガディアルに認められ、抑止力の神力を使用して作られる虹の橋を渡ることで行けるようになる。
八神はここに暮らしており、ヒューシュタットには無い本が無数に存在する図書館をはじめ、多くの部屋が並んでいる巨大な神殿。
玉座の奥には黒い浜辺とイビルライズの入り口がある。
・黒い浜辺とイビルライズゲート(イビルライズの渦)
神の神殿玉座の奥にある扉から行ける、神殿の裏手にある浜辺と海。
イビルライズの入り口の大渦があり、その影響を受けてか浜辺と海は漆黒に塗りつぶされている。
ヴァジャスは定期的にここでイビルライズの負を吸い上げ、正のエネルギーに変換しているが、ヴァジャスにとっても重い負担となるため過剰な力の使用はできない。
イビルライズに繋がる黒い大渦はどの色にも交わらない純正の漆黒で、あらゆるものの心を覆いつくすほどの暗黒と闇を見せつけている。
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Ⅰ【三国同盟:手を取り合って】
ドラゴニアに集まったヒューシュタット、ドラゴニア、ワービルトの三国の王たち。
グリーディ襲来で壊滅的な被害を受けたドラゴニアの援助、ガジュールの支配から解放されたもののまだ治療が必要となるヒューシュタットの援助。
そしてこれからの三国の在り方を語り合う三国会議が終わり、王たちは本格的なドラゴニアとヒューシュタットの復興に動こうとするが、ドラゴニアに送られるはずの物資が届かない問題があった。
これはグリーディ襲来により被害を受けたドラゴニアに住むワービルト民たちが起こしていることであった。
ドラゴニア国民はグリーディ襲来で多くの命を失ったとしてもまだ、王族への信頼は確固たるものとして残っている。ボルドーの不在もあり、小さな亀裂が入っていることは間違いはないのだが、それでもドラゴニア国民は王族をまだ信じている。
しかし、他国の者たちは別だ。
王族の不甲斐なさを恨み、ドラゴニアの支援を妨害することでドラゴニアの復興を遅れさせている。
そんなことをしても何も変わらないということは分かっていても、何もせずにはいられないのだろう。
ワービルト国王、ヴォロッドは憤慨していた。
ドラゴニアとヒューシュタットの復興はワービルトにとっても大きな恩恵があるというのに、自国の者たちがそんな復興を邪魔しているというのだから、ヴォロッドが憤慨するというのも頷ける。
そこでヴォロッドの頼みを受けてホウは会議の際、犯人たちをいち早く発見する為にヒューシュタットの技術を投入することを提案した。
果たしてホウが提供するヒューシュタットの技術とは…
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会議から2日後。
ヒューシュタットからとある道具が送られてきた。
ホウがヒューシュタットと連絡を取り、すぐにドラゴニアに向けて発送されたのだ。
幸いそれが狙われる恐れはあったが、今回はドラゴン便での輸送であったため、地上から狙えないが故に襲撃は免れた。
今後の物資はドラゴン便で行えば影響は少なくて済むのかもしれないが、ドラゴン便はコストも高く、ドラゴン自体の疲弊も大きくあまり乱用は出来ない。
やはり陸路での運搬が主体とならなければ復興は捗らないのだ。
「これは“カメラ”という道具でな。まだまだ最先端の技術であるがこれは革命的だと私も感じている。」
ホウが見せたのは機械だ。
長方形の形をしたもので、先端にはガラスで覆われているレンズが装着されている。
「なんだこれは…オートマタの目についていたものと似ているな…」
ヴォロッドはそれをまじまじと見つめる。
「これを使えばここから見える景色をそのまま記録することができるのだ。」
「なんと…!」
ホウは試しに、目の前に居たベルガを撮影する。
そしてホウは撮影したものをベルガたちに見せる。
液晶と呼ばれるものにベルガとその付近の背景が映し出されているのだ。
「これは…凄いな…このようなものがヒューシュタットには存在するのか。」
「そしてそれを応用したものが“防犯カメラ”だ。」
ホウはまた別のカメラを見せる。
「…どう違うというのだ?」
首をかしげる2人。
「このカメラに映る状況を映像として残し、記録することができるのだ。」
「なんと…停止しているものだけでなく、動いている様子まで記録できるのか…!」
ヒューシュタットの技術は恐ろしいものだと冷や汗を掻くベルガとヴォロッド。
こんなものがヒューシュタットでは当たり前に使われているのかと驚いている。
「つまり…これを設置して事件が起こる場所で何が起こっているかを記録するということだな?」
ヴォロッドが尋ね、ホウは頷いた。
「そこで、ベルガ殿とヴォロッドに頼んでおいたこの周辺の調査が役に立つ。」
ホウは会議のあと、予めベルガとヴォロッドに頼みごとをしていた。
それはこの周辺で起こっている襲撃の場所だ。
ドラゴニア兵やワービルト兵、そして今ドラゴニアに物資を運んできているヒューシュタットの人間たちから情報を集め、その場所を記録した。
それにはメルシィも協力し、すぐに各所での情報は集まった。
「これをこの端末にまとめてみた。」
ホウはまたしても見たことのない機械をヴォロッドとベルガに見せる。
「…フム…これはドラゴニアとその付近に地図であるな…」
「なんと…紙に記す地図ではなく、このようなものに地図を映し出せるとは…」
先程のカメラと同じく、液晶に移されていたドラゴニアとその周辺の地図。
そしてそこのあちこちに赤い丸がマーキングされている。
「この赤い丸が襲撃が起こっている場所。どれもドラゴニアの南部を中心に行われている。」
ドラゴニアは周囲が川で囲まれた円形の都市だ。
出入口の数は限られており東西南北に4か所存在している。
その中でもやはり大きな玄関口となっているのが南部の大広場だ。
英雄バーンの石像があり、多くの行商人や観光客でにぎわっているが、グリーディ襲来の際の激戦区であった大広場は最も被害が大きい。
しかし、物資を運ぶ際に最も広く、都合が良いため、復興にもより力を入れていた場所でもあるため、現在ではしっかり整備が行われていて物資もここを中心に運び込まれている。
そして、物資が襲来される被害が相次いでいる場所もまた、南部なのだ。
物資を運んでくる道で待ち伏せをして襲撃し、物を壊したり盗んだりしている。
「つまり被害のあった街道にこの防犯カメラとやらを設置すれば良いのだな。」
「そうだ。我がヒューシュタットで作成した防犯カメラを複数用意したが故、今それぞれの街道に設置を行っている。」
「ム、それを襲撃犯に見られたらマズイのではないか?」
ベルガの質問にホウは「大丈夫だ。」と答える。
「我がワービルト兵が同行している。気配遮断の魔法が使える隠密部隊だ。設置している様子は外部からは確認出来ぬようにしてあるぞ。」
「魔法に関しては我々ヒューシュタットは後れを取っているからな。ワービルトやドラゴニアの魔法は大変役に立っている。良きことだ。」
今日で設置を終え、早速夜にはカメラを起動し、観察に移すことが出来るだろう。
そして、南部だけではなく、北部、西部、東部の入り口にもカメラを配置し、ドラゴニアの防犯対策を行うことにした。
「あくまでこれは犯人グループを捕らえるまでの間だ。そなたの国が別国に監視されているようになっていてすまないが、協力をお願いしたい。ベルガ殿。」
「背に腹は代えられぬ。私たちとしても一刻も早く復興を急ぎたい。故に、仕方のないことだ。」
ベルガとしてもやはり不本意な部分はある。だが、今ドラゴニアの復刻を進めるには必要なことだ。それに事が終わればカメラは取り外される。
それが分かっているからベルガはホウを信じ、同意する。
「ヨシ、ではまた後日、カメラの様子を確認するとしよう。」
ベルガたちは1日、様子を見ることになった。
この日の物資の搬入は南部からの搬入が複数件ある予定だ。
ヒューシュタットやワービルトも今のドラゴニアは治安が悪く物資が狙われているという情報が分かっている為、少し不安がっているようだが、今回は兵士たちを同伴させて何があっても良いように警戒しながらの搬送を行うように各国に命令をしている。
この物資の襲撃は基本的に1日1回は起こっている。故に今日も何かがあるはずだ。
そう睨み、王たちは時が来るのを待つのであった…
そして…
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「見てくれ。」
翌日になり、王たちは再び集まった。メルシィも同席し、4人は防犯カメラに映った映像を見る。
「先日も1件物資搬送の道中で被害があった。怪我人は居ない。護衛につけていた兵士が追い払ったようだ。」
ホウはカメラの映像を見せながら言う。
「これは確かに獣人であるな…フムフム…」
その容姿、特徴を覚え、そしてその襲撃者たちが何処から現れ、何処へ逃げていくのかを確認し、情報をまとめていく。
「逃げた方向は東の方…ですね。更に東に行くとヒューシュタット山脈です。」
メルシィは液晶に移った地図を見ながら呟く。
ヒューシュタット山脈は南北に広がる長い山脈だ。
ドラゴニアの東部はそのヒューシュタット山脈の南端に当たる部分となる。
「ドラゴニアの東部を中心に探すのが良いかもしれぬな。」
「よし、では早速部隊を…」
「いや、待て。」
ベルガは兵士を集めようとするが、ヴォロッドはそれを静止する。
「ヴォロッド?」
ホウは首をかしげる。
「あまり多い人数で行くと向こうも警戒する。気配遮断もかけられる人数に限りがある。故に向かうならば少人数で行くべきであろう。」
ヴォロッドは提案した。
「確かに…そうかもしれぬ。ではどうする?」
ベルガは尋ねる。
「私はもちろん行く。元は我が国の者たちだ。私自らがお灸を据えてやる。」
「…では、私も行こう。」
「ホウ、そなたは…」
ヴォロッドは危険だと判断し、ホウを止めようとするが…
「元は私が至らなかったことが全ての原因なのだ。私にも責任を果たさせて欲しい。無理はしないと約束する。」
ホウの目は真剣だ。ヴォロッドはやれやれとため息をつく。
「それにだ、何かあっても守ってくれるのだろう?」
「フッ、ハハ。それもそうだ。よく分かっているではないか。」
ホウはニヤリと笑い、ヴォロッドは笑いながら答える。
「私はこの老体だ。すまないが…ここでそなたたちの無事を祈ることにする。」
「ウム、それが良い。吉報を待っているがよいぞ。」
ベルガは身体を動かすことに少し苦労が必要なほどに弱っている。
故に、ここでヴォロッドたちの帰りを待つことになった。
「メルシィ殿も、こちらで待機を。」
「はい。その間ドラゴニアはお任せください。」
自国を守るため、ベルガとメルシィは残り、そしてヴォロッドとホウは何人かの兵士と少人数で陽が沈んだ頃、ドラゴニアの東部に向かうこととなった。
「カメラを搭載した空中飛行装置を用意した。これで前方の様子を確認しながら警戒して進むことにしよう。」
「そんなものまであるのか…」
「ヒューシュタットの技術とは、本当に凄まじいものだ。」
「なに、ドラゴニアやワービルトの技術も我々には無いものばかりだ。」
次々と新しい文化、より一層万能なものが出てくるヒューシュタットの技術にヴォロッドとベルガたちは驚かされっぱなしだ。
しかし、ヒューシュタットにもドラゴニアとワービルトの技術は疎い。
こうやって三国はそれぞれの強みと文化を集めて、これからの問題に立ち向かっていくのだ。
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Ⅱ【残された者たち、そして世界のこれから】
―――
ドラゴニア東部。
そこはひたすら温暖な草原と、小さな林が点在しており、時に湖が姿を見せることもあるとても穏やかな地域だ。
そして東に行くほど岩や崖があちこちに現れだし、段々道は傾斜となり山脈が顔を見せてくる。それがヒューシュタット山脈の南端部分だ。
本来、ビライトたちの住むコルバレーからヒューシュタットやドラゴニアに向かう際の正規ルートとなる。
ビライトたちは先を急いでいたためコルバレーからヒューシュタットに直線の真西で向かうルートを選んでおり、サーシャが通った道も同じようにこのルートだ。
気配遮断の魔法を使いながらホウとヴォロッドは歩く。
陽が沈み、静かな夜の草原を歩く2人と、そして護衛にドラゴニアとワービルトの兵士を4人。合計6人の少人数行動だ。
「相手の人数が何人かは分からぬが、映像に映っていたのは約4人。他にも仲間が居るかどうかは分からぬが、他の被害に遭った者たちの情報を統合させても相手も少人数だ。この程度で十分であろう。いざとなったら私がまとめて相手しやるともフハハ!」
自信満々のヴォロッドだ。そして一行は全員ヴォロッドの強さは知っている。
それにヒューシュタットの武器には遠距離攻撃に長けたモノが多い。
それを装備する兵士たち。
ホウも銃を装備し、辺りを警戒しながら進む。
「ドローンが何かを発見したようだ。」
ホウが言っていた“カメラを搭載した空中飛行装置”のことだ。
ヒューシュタットでは“ドローン”と呼ばれているもので、これも比較的新しい技術で、ここ直近数十年で出来上がったものである。
ドローンと連動しているカメラの映像が、ホウが持っている端末に映し出される。
そこには前日襲われた時に映っていた人物と同一の人物が映されていて、洞窟に入っていく様子が見えた。
「ここからどのぐらいだ?」
「すぐ近くだ。あそこに崖が見えるだろう。あの上に洞窟がある。」
端末の情報を見てホウは指さす。
ここから1kmもないほど離れている位置に小さな岩場があり、その奥に洞窟が見えた。
「よし。」
ヴォロッドは一歩前に足を踏み出し歩き続ける。
「お、王。まさか正面突破ですか?」
ワービルトの兵士がヴォロッドに問う。
「まどっころしいのは苦手でな。」
「フッ、そう言うと思った。」
ホウはやれやれとため息をつくが…
「分かった。付き合おう。しかし、無理はするなよ。」
「ハハハ、案ずるな。私が手負いになることなどあり得ぬ。」
自信満々に正面突破しようとするヴォロッドだが、誰一人反対はしなかった。
それほどここに居る者たちはヴォロッドの実力が分かっている、信頼しているということだ。
それに、気配察知の魔法を使っている為、近距離でないと気が付かれないだろう。
つまり、不意打ちも容易に可能ということだ。
―――
崖を登り、洞窟の入り口から少し横に逸れた場所まで辿り着くヴォロッドたち。
「よし、私が先陣を切る。お前たちは外に逃げた者たちを捕らえよ。」
「かしこまりました。」
兵士たちは束縛の準備を始める。
「ヴォロッド、気を付けるのだぞ…と、言っても君には野暮だったか?」
「フッ、一応受け取っておこう。」
ヴォロッドは堂々と正面から入っていく。
そしてしばらくして…
「な、なんだお前は!?」
「げっ、あなたは…!」
「そなたらを連行するッ!大人しく従えッ!従わず、己の意志を貫くならば戦いで示し!証明してみせろッ!!」
「く、クソッ!捕まってたまるか!!」
「行けっ!怯むな!こっちは10人!相手は1人!」
声が聞こえる。
「なるほど、敵は10人。外に出た者を捕らえる準備は?」
「まもなく。」
ホウは相手の声を聞いて分析。そして洞窟の出入り口に魔法で作った罠を作る。
地面に透過させた魔法陣だ。これを踏むともれなくそこに閉じ込められてしまうという代物だ。
「本来ならばこのような手荒な真似はしたくはないのだが…やむを得まい。」
ホウはもうこの騒動の結末が見えているようだ。
ヴォロッドの戦いのセンスは一級品だ。
武術と魔法を極めたボルドー・バーンと対等に渡り合えるほどの力を持つヴォロッド・ガロルという男を敵に回せばたとえ相手が10人だろうが…
「どうしたどうした!その程度かッ!つまらぬぞ!」
「こ、こいつ強い!」
「ちょ、ま、ぎゃっ!!」
「た、助けてくれぇーーーっ!!!!」
「…すまぬな。」
「流石でございます。ヴォロッド様…」
ホウは敵ながら、心中察し、言葉を零した。
兵士たちも声だけで分かるヴォロッドの圧倒的蹂躙に感服している。
「に、逃げろッ!」
そして予想通り、逃げようとする者たち。
「な、なんだこれ!」
魔法陣にかかったようだ。捕らわれたのは3人の獣人たち。
「くそっ!罠か!」
「出られないぞ!!」
「動くな!」
兵士たちが顔を出し、獣人たちに武器を向ける。
「…くっ!!」
「ここまでのようだ。我々はこれ以上戦うつもりはない。大人しく捕まってはくれないだろうか。」
後ろでヴォロッドに蹂躙されている7人の獣人たち。そして魔法陣に囚われて身動きの取れない3人の獣人たち。
あっさりとケリがつきそうだが、それはやはり圧倒的力でねじ伏せたヴォロッドの実力が高いからだ。
だが…
「…そいつは…どうかな!?」
「何?」
獣人の1人がニヤリと笑う。
すると後方から殺気を感じたホウは後ろに下がる。
「後方貰ったッ!!」
もう1人居たのだ。
外に出ていたひときわ大きい虎型の獣人だ。
鋭い爪でホウを切り裂こうとするが、ホウは間一髪でそこから逃れた。
服にかすったようでビリッと音がして繊維が獣人の爪によって地面に落ちていく。
ホウはバランスを崩してうつぶせに転倒してしまい…
「!しまっ…」
「おらぁ!!」
虎獣人の爪が更にホウの身体目掛けて襲い掛かる。
「ホウ様!!」
突然の登場に判断が遅れた兵士たち。反撃とはいかずとも、この身を投げれば庇うことができる。
1番に動いていたドラゴニアの兵士がホウを庇おうと飛び込んだ。
「ガッ!?」
「…!」
兵士は傷つき倒れる。鎧を破壊するほどの強力な一撃でドラゴニアの兵士は傷を負った。
「くっ…!私のせいだ…!しかし…これ以上は…やらせない…!」
ホウは銃を向ける。
「ンなもんが効くと思ってんのかァ!!」
「ホウ殿をお守りするのだ!」
他の兵士たちも獣人に攻撃するが…
「うぜぇ!」
「がっ…!」
「なんて強さだ…!?」
中々の手練れだ。兵士たちの攻撃を受け流し、返り討ちにする。
「やっちまってくだせぇー!!ボス!!」
(ボス…こいつがこの団体の長か…!)
ホウは銃を構え、後退する。
「逃げんなよジジィ。」
(…私を庇った兵士殿の傷が…このままだと命に関わるかもしれん…!)
息をするのも忘れる程の緊張感。
ホウは銃を構え続けるが、しまいには魔法陣のある部分まで後退してしまう。
(!魔法陣を解除…いや、そうしてしまうと後ろの3人が…!)
魔法陣を作っていた兵士は魔法陣を解除しようとするが、後ろの3人がホウの背中を狙っている。
このまま解除すると余計に危なく…そして、もう逃げ場はない。
「ドラゴニアの刺客か。だがもう二度と邪魔しないようにしてやるぜ。」
「…」(愚策だが…やむを得ん…!)
ホウは息を大きく吸う。そして…
「ヴォロッドッ!!!!!!」
大きな声でヴォロッドの名を呼んだ。
「何ッ、ヴォロッドってあのヴォロッド…!来てるのかッ!?」
やはり元ワービルトの者としてはヴォロッドの存在は脅威だ。
その名を聞いただけで獣人は驚いている。
そしてその時だ。
洞窟の奥から…勢いよく何かが飛んできた。
それに気が付いた魔法陣を作っていた兵士が咄嗟に魔法陣を解除した。
「う、うわっ!!」
咄嗟に何かをしゃがんで躱す3人の獣人たち。
それは虎獣人の腹に勢いよくぶつかり…
「グァッ…!!」
ぶつかったのは別の獣人だった。
洞窟の中から勢いよく身体を投げられてそれが虎獣人の腹に勢いよくぶつかってきたのだ。
そして、それに続くようにまた、洞窟の中から巨体が飛び出し、しゃがんでいた3人の獣人を突き飛ばしながら虎獣人に追撃する。
ヴォロッドだ。
その顔は怒りの顔を見せている。
「て、てめっ!ヴォロッド・ガロル…ッ!!」
「貴様、我が友と我が友好国の兵に傷を負わせた罪は重いぞ…!」
「くっ、くそっ!!」
ヴォロッドの爪は虎獣人を遥かに凌ぐほど重く、その一撃、一撃にはより強く力が籠っていた。
そして、結果は一目瞭然だった。
徐々に追い詰められていく虎獣人はやがてバランスを崩してしまい転倒してしまう。
「フン、まだあの時のビライト・シューゲンの方が良い戦いをしていたぞ。」
ヴォロッドは3人の獣人を拘束している兵士とは別の兵士に「捕らえよ」と言い、兵士はそれに応えて虎獣人は拘束された。
―――
「すまない、私が遅れなければ傷つくことも無かった…」
治療を受ける怪我をしたドラゴニア兵士と、ホウに謝るヴォロッド。
「いえ、私こそホウ殿をお守りできませんでした…」
「いや、私も油断してしまった。すまなかった。」
兵士とホウも反省し、3人がそれぞれ謝る形になってしまった。
「正面突破ですぐに蹂躙してやるつもりだったが、外に出ている者のことまで気が回らなかった。全く…情けない限りだ。」
ヴォロッドは落ち込んだ顔で呟く。
「ヴォロッド、もう良いのだ。皆無事だったのだからな。」
「はい。こうして目的も達成できたのですから。」
「…フッ、すまないな…いや、ありがとう。と言うのが正解だな。」
「ヴォロッド様、彼らはどうしますか?」
残りの3人の兵士たちが獣人たち11人を拘束し、一か所に集めていた。
「荷台を用意している。もう少しで来るはずだ。」
ホウは後続に荷台を持ってくるように手配していた。
それまではしばらく待機することになっている。
「さて…その間に尋問といくか。気を取り直してな。」
ヴォロッドは拘束されている獣人たちの元へと歩く。
今意識があるのは入り口で拘束されていた3人とリーダーの虎獣人だ。
「…さて、逃げようなどと考えてくれるなよ。お前たちは皆我がワービルトが身柄を預けてもらうぞ。」
ヴォロッドはその巨体で獣人たちを睨みつける。
「ボ、ボスゥ……相手がワービルト王じゃ…」
「チッ、こうなっちまったらもうどうにもならん…煮るなり焼くなり好きにしやがれ…」
潔く諦めを見せる虎獣人のボスは悪態をつく。
「ではそうさせてもらう。だがその前に聞かせるがいい。貴様らは何故ドラゴニアへの支援を妨害する?」
「…フン、そんなことを聞いてどうするってんだ。」
「答えよ。」
睨むヴォロッド。
ビクッと怯える獣人3人だが、ボスだけは怯むことなくヴォロッドを睨み返す。
「あんな弱っちい国、消えちまえばいいんだよ。クソみたいに平和ボケしてるからあんな目に合うんだ。」
「フン、平和ボケは多少同意してやる。だがドラゴニアの冒涜は私が許さん。あの国は平和を何よりも願い、そして時には強大な力にも恐れずに立ち向かえる心の強き国だ。ドラゴニアは決して弱い国などではない。」
「…なら、何故俺たちは…俺たちはこんなにも苦しまなきゃならねぇッ!!!」
虎獣人はヴォロッドに対して怯むことなく叫ぶ。
「グリーディがドラゴニアをめちゃくちゃにしてここに居る俺たち全員は皆家族やダチを失ったッ!皆が孤独になった!だというのにドラゴニアの奴らはすぐに前を向いて復興に向けて歩みだしてやがるッ!」
「…ボス……」
獣人は叫び続ける。
「誰もがあんなにも前向きになれるわけじゃねぇ!俺たちみたいにやり切れねぇ奴らがいるッ!だというのにドラゴニアは俺たちを置いて復興に向けて明るくしやがって…!」
「…ムカつくんだよ…」
ここに居る獣人たちは皆、グリーディ襲来で家族や友を亡くして孤独になってしまった者たちだった。
そして、そのやりきれない気持ちを抱えた者たちを置いてドラゴニアは前向きに明るく振るまい、皆が必死に笑顔を作ってドラゴニアを復興させようと頑張って、努力している。
「眩しすぎるんだよ…なんでどいつもこいつもそんなに前向きになれるんだ。」
置いて行かれた気がした。立ち直れない自分たちが嫌いになった。
そして、それはやがて嫉妬に変わったのだ。
「…そうか…この者たちは…心のよりどころを失ってしまったのだ…だからこうすることでしか満たせなかったのだな…」
ホウは呟いた。
そしてフラフラと傍まで歩き、獣人たちの前に立ち、頭を下げた。
「私はヒューシュタットの王、ホウ・ワルトだ。すまなかった。私がもっとしっかりしていれば…このようなことにはなっていなかった。」
「てめぇが…」
「ホウは悪くはない。悪いのはグリーディを使役していたガジュールたちだ。」
ヴォロッドはそう言うが、ホウは「違う、私がガジュールに捕らえられなければこのようなことは起こっていないのだ。私の責任だ。本当にすまなかった。」
ホウは何度も頭を下げて謝り続ける。
「…チッ……もう終わったことだ…てめぇが何度謝っても何も変わらねぇんだよ。」
「…そう、だな…その通りだ。この代償はこれからのヒューシュタットが必ず返す。だから君たちもこれからのヒューシュタットを、ドラゴニアを信じてあげてもらえないだろうか。」
ホウは獣人たちに頼む。ヴォロッドはそれを静かに聞いている。
「フン。信用出来ないな。それにドラゴニア国王はどうした?んでもってこんな時でもおねんねしてやがる王子様と無能な王妃は何処だ?」
ベルガ、ボルドー、そしてメルシィのことだ。
「……」
身体をピクッと動かすヴォロッド。
「彼らは…事情があって来れぬのだ…だから私たちが来た。ベルガ殿、メルシィ殿、ボルドー殿の気持ちを背負って私たちはここに居る。」
ホウはそう言うが…
「ハッ、知るかよそんなこと。自国の問題に他国を巻き込んでそんでもって俺たちも他国の協力に丸投げだ。本当に無能な国だな。そんなんだから俺たちのようなはみ出し者たちが現れるんだ。」
「き、貴様!それ以上の言葉は見過ごせぬぞ!」
ドラゴニアの兵士たちは怒りを見せた。普段は穏やかなドラゴニア兵でも国だけに飽き足らず王族までも馬鹿にされて腹を立てた。
「ドラゴニアが俺たちの孤独を満たしてくれるのかよ!俺たちだってワービルトを出てドラゴニアに暮らしていた国民だぞ!信頼を預けなけりゃならねぇ国が無能で他国頼みなんだ!今おねんねしてやがる王子も無能な王妃もさぞ無能なんだろうなァ!!!」
「貴様…ッ…!!ボルドー様やメルシィ様…ベルガ王までもを馬鹿にして…!!王族の皆様は…国民の平和と幸せを何よりも大事にされている素晴らしいお方たちなのだぞ!今、このような事態になっても1秒でも早く皆に元の生活に戻って欲しいからと…一生懸命になってくださっている!」
「死んだ奴らは戻ってこねぇ。綺麗ごとばっか言ってんじゃねぇよボケが。」
「…ッ…この…ッ…」
怒りで手が出そうなドラゴニア兵士たち。
そして拳をぎゅっと握るホウ。
「俺たちを捕らえたって無駄だぜ?きっと俺たちのような奴らはまだまだ居る!もう馬鹿みたいに平和ボケしてたドラゴニアは終わりだぜ。無能な王族が俺たちのようなはみ出し者に狙われて大変なことになってしまうかもしれねぇなぁ!!ざまあみろだ!」
「ボス…」
「その辺でやめときましょうよぉ…」
ボスの虎獣人はやけになっているのか、ただひたすらに暴言を吐き続けている。
他の獣人たちはすっかり委縮してしまっている。
「…確かに死んだ者は戻ってこない。それは真実だ。」
ヴォロッドは呟いた。その言葉には怒りが籠っているように聞こえた。
「だが…ドラゴニアは貴様らのような後ろ向きな気持ちではなく前向きに進んでいる。ボルドーたち王族はドラゴニアに住む者たち全員に言葉を伝えたはずだ。私はその場には居なかったが、話は聞いている。」
ドラゴニアが崩壊した翌日の演説のことだ。
―――
(この国を立て直そうと多くの市民が今こうやって復興作業を行ってくれている。本当に嬉しい。この場で礼を言わせて欲しい…ありがとう。)
(私たちの力ではまだまだ及ばないこともありますが、これから前に歩き出すために、この国を再び蘇らせるために…努力を致します。ですから…皆様の御力も貸していただきたいのです。私たちは1人では何もできません。2人3人でも出来ることは少ないです。ですが…この国の人々全員が集まればどんなことだって出来ます。どんなことだって乗り越えられます。だから…力を貸してください。)
(皆の期待に応えようと努力してきたつもりだ。だが、結局俺に出来たことはたかがしれていた。かっこ悪かったと思う。失望した人も居ると思う。けどよ、またここから立ち上がる力をくれたのは…お前たちだ。寝る間も惜しんで復興作業をしている人たちを城から見ていた。そんな姿を見たから、励ましてくれた仲間が居たから、家族がいたから、俺はここに立っていられるんだ。俺は1人では何も出来ねぇ弱っちい王だ。そんな俺でも良かったら…また、力を貸して欲しい。このドラゴニアを再び美しい町へと戻すために。フリードを…我が国の象徴が笑って見守ってくれるような素晴らしい国にするために…力を貸して欲しい。)
(皆が、ドラゴニアも、ヒューシュタットも皆がこれから笑って生き抜ける為の、“未来を皆で笑って生きるための戦争”だ。だから必ず戻ってくる。だから、お前たちには信じて待っていて欲しい。信じてくれるか?)
―――
「王族たちは言った筈だ。かっこ悪くても、失望されたとしても、それでもドラゴニアは皆でこれからの未来を創るために進んでいる。家族や、友の死を乗り越えて皆が進んでいるのだ。辛い気持ち、泣きたい気持ちを隠してな。」
「…ッ…」
「前向きになれない?皆がそうではない?たわけが。無能なのは貴様らの方だ腰抜けめが。」
「なっ…だと…!?」
ヴォロッドは真っすぐに獣人たちの目を見て語る。
「無能だ。腰抜けだと言ったのだ。死んでいった者たちも死んでも死に切れぬわ。」
ヴォロッドはグッと獣人に顔を近づける。
「誰もが逃げたい、苦しい、自分ばかりが。そういった気持ち…負の感情を抱えている。だがそれすらも力に変えて我々は生き続けているのだ。そして…誰かが君たちのように前向きに慣れずにいたらきっと、誰かが手を引っ張ってくれる。誰かが許し、誰かが支えてくれる。ドラゴニアはそれが出来る国なのだ。信じて欲しい。ドラゴニアを。」
ホウもまた、獣人たちの目を見て言葉を贈る。
「貴様ら全員その腐った根性を叩き直してやる。そして、これから貴様らのような者たちが新しく現れたとしてもだ。あの国は決して砕けん。決して無くならぬ。あの国は…強き国だ。私はそうなることを確信している。ドラゴニアは今も強固であるが、これからの未来、ドラゴニアを治める王は…誰よりも強い男だ。この私よりもな。」
ヴォロッドはそう言い放つ。
「…チッ…」
「ボス……」
「……眩しいんだよ…クソが……」
ボソッと呟くボスの目には、一筋の涙が流れていた…
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その後、獣人たちはドラゴニアに連行され、牢屋に全員送られた。
ボス以外の獣人たちは酷く反省しているようだが、ボスの虎獣人は未だ反抗的な態度を見せている。
だが、時折辛そうな顔をしているところが目撃されているようだ。
やはり、ヴォロッドやホウからの言葉を受けて何か心に変化が現れていっているようだった。
「ボスの虎獣人の名は【バルーサ・グロー】。ドラゴニアでワービルト印の鉄鋼業を生業としていたらしい。グリーディ襲来で妻と子を亡くしたそうだ。」
「…そうか…」
獣人たちの情報を見ていく中で、バルーサをはじめとする全ての獣人たちは皆、グリーディ襲来で家族や友を失い、天涯孤独となっていた。
落ち込む時間すらなく、ドラゴニアは前向きに復興を始めたことによる焦り。そしていつまでも立ち直れない自分たちに腹が立った。
そして、やり場のない怒りや悲しみ、憎しみ。それらが連なり、最終的には“グリーディ襲来で民を守れなかったドラゴニアという国が悪い”という認識になってしまったのだ。
「…私たちの力が足りなかったばかりにこのようなことになってしまった…しかし…私たちは歩みを止めるわけにはいかぬ。そうだな?ヴォロッド殿。」
「その通りだベルガ殿。これからのドラゴニアでそれらが許されるほどに、死者が報われるような国を創り上げていけば良い。フハハ、ボルドーの奴め。責任重大だぞ。」
その報告を聞いてもなお、落ち込まずに前向きを貫くベルガ。そして、そんな姿を見て笑うヴォロッド。
「それで…バルーサさんたちは、どうなさるおつもりなのですか…?」
メルシィはヴォロッドに尋ねる。
「フッ、なぁに、予定通り我が国でこき使ってやるのだ。特にあのバルーサという男、腕は立つようであるからなッ!」
ヴォロッドは笑って見せる。そして…
「奴にはこれからのドラゴニアを見ていろと伝えてある。この意味が分かるな?ベルガ殿。メルシィ殿。」
ヴォロッドは真剣な目で伝える。
「…あぁ、もちろんだとも。」
「えぇ。私が…いいえ、私たちが…バルーサさんたちもまだこの国で同じように立ち直れなくて怒りを抱えている人たちも皆に許され、再びドラゴニアを愛していただけるようにより努力せねばなりません。」
ベルガとメルシィはヴォロッドの言葉を受け止め、これからの復興をより全力で取り組み、1秒でも早く元のドラゴニアに戻し、そしてそれからも、もっともっと一層よりよい国になるようにと、決意をより強くさせた。
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それから数日。
バルーサたちが捕まって以降運搬トラブルは発生しなくなり、ようやくドラゴニアは本格的な復興を再開出来るようになった。
そして東西南北のカメラは外された。当分は大丈夫だろうと判断されたからだ。
――問題がひとまず落ち着いたことを確認し、ヴォロッドとホウはそれぞれの国に戻ることとなった。
「ヴォロッド殿、ホウ殿。本当に世話になった。ありがとう。」
「ありがとうございました。ヴォロッド様、ホウ様。」
「ウム。私もこれよりワービルトにてドラゴニアの支援を直接手配しよう。」
「私も部下たちと共に、ドラゴニアの復興をお手伝いさせて頂こう。」
ワービルト側はドラゴン便に獣人たちを乗せ、更にホウからはカメラをいくつか提供してもらったようだ。城の監視に利用するのだという。
そしてヒューシュタット側も同じくドラゴン便だ。ドラゴニアの医療に長けた魔法使いたちを乗せている。
「ベルガ殿、メルシィ殿。ボルドー殿が目覚めた時にはまた皆で会議をしよう。そして…これからの未来を大いに語ろうではないか。」
「あぁ。そうだな…そうだとも。これからの未来を。」
「えぇ、必ず。」
握手を交わすホウとベルガ、そしてメルシィ。
「ではな、ヴォロッド。また会おう。」
「ウム!今度はワービルトにも来ると良い!歓迎しよう。」
「あぁ、そうさせてもらうよ。」
ホウたちがドラゴン便に乗り、そして空へと飛び立つ。
ホウたちは一足先にドラゴン便で飛び立ち、ヒューシュタットに戻って行った。
そして…
ベルガとメルシィはワービルト側のドラゴン便に乗っている獣人たちの元へと行く。
「…なんだよ…文句の一つでも言いに来たか?」
ボスのバルーサが言う。
「いいや、違う。バルーサ殿、そしてここに居る皆に、謝りたい。」
「はい…」
「…」
「すまなかった。我々の力が足りなかったばかりに、そなたたちの大切な家族を、友を失わせてしまった。」
「決して謝って済むことではありません。ですから、私たちはこの国を元に戻して、そして更にもっとこのドラゴニアをよりよくしていきます。それが私たちが出来る責任の取り方です。だから…」
メルシィとベルガはそう言うが、バルーサはそっぽを向いてしまう。
しかし――
「…もういい。これ以上何も言うんじゃねぇ。」
バルーサはそう呟く。
「俺の家族は…この国が好きだった。俺も同じだった。だから…その言葉、口だけじゃねぇって証明してみせろ。おねんねしてやがる王子にも伝えとけ。」
「はい。必ず、伝えます。」
「…これからのドラゴニアを見ていてくれ。」
ベルガとメルシィはそう言い、バルーサとの対面を終えた。
「もう良いのか?」
「あぁ。」
「えぇ、ありがとうございます。ヴォロッド様。」
「ウム。まぁコイツらことは私に任せておけ。そなたたちはこれからやらねばならぬことがたくさんあるだろう。しっかり励めよ。フハハ!!」
ヴォロッドはそう笑い飛ばし、ドラゴン便に乗り込む。
そして、ヴォロッドもまた、ワービルトへと帰っていった。
「…私たちは本当に助けられっぱなしです。」
「そうだな…だが、我々もずっとそうであってはならぬ。我々も、ヒューシュタットやワービルトに負けてはいられぬぞ。」
「はいっ!」
ようやく本格的な復興を再開出来ることとなったドラゴニア。
大きな責任を背負い、ドラゴニアはまた元の姿に戻り、そして更にそれを超えるような良き国を創れるよう、これからも国民達と共に、歩き続ける。
(あとは…あなただけです。私たち、いつまでも待ってますからね…ボルドー・バーンがこの国に再び立つ姿を…待ってますから…)
メルシィは心の中で、遠く離れた地で戦う夫を想い、今日も歩き続けるのだった…
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次回のDelighting World Break!!!!!
私はヴァジャス。
この世界の主神…の代理をしている。
ついに神の領域まで辿り着いたビライト・シューゲンたちに私は暇を与えた。
無論、それには意味がある。これは実質試練のようなものなのだ。
各々がそれぞれ領域内で過ごす中、やはりビライト・シューゲンは落ち着かぬようだ。
仲間たちはそんなビライト・シューゲンを心配しているようだが…
じっとしていても仕方がないとビライト・シューゲンを連れ出す仲間たち。
この暇を使い、様々な会話をしたり、神々と交流したりしているようだな。
私の意図に気が付いてくれれば良いのだがな…でなければイビルライズに行ったとて、何も出来ずに終わってしまうであろう。
私にとってそれは都合が悪い。世界最後の希望は彼らだけなのだから。
この試練は謂わば、“決戦前の休息”と名をつけるのが良いものなのだろうな。
次回、第九章 神の領域編Ⅱ
~決戦前の休息 失ったカケラ~
世界の命運はそなたたちにかかっている。
だからこそ…今は休み、そして気が付いて欲しい。
そなたたちがこれまでの長い旅で失ってしまったものを、取り戻すのだ。