Delighting World Break ⅩⅩⅩⅥ
神の領域に辿り着いたビライトたち。
世界の最果てに待ち受けていた世界最強の守護神、グロスト・ガディアルはビライトとの会話を申し出た。
ビライトはクロの依存から救ってもらったガディアルに感謝をし、そしてまたガディアルもビライトの気持ちを直接聞き、ビライトたち一行を支持することを決めた。
アトメントとガディアルは神力で生み出した虹の橋を創り、ビライトたちは虹の橋を渡り、浮島に浮かぶ白銀の大神殿へと辿り着いた。
その中で待っていたのはこれまで出会った抑止力たち。
そして、現シンセライズの主神である抑止力序列第2位、ヴァジャス・シンセライズは姿を現すのだった。
彼に認められ、そして改めて全ての抑止力から同意を得られることで、ビライトたちはついにこの奥にあるイビルライズへと進むことが出来るのだ。
世界の最果てでビライトたちは果たして、ヴァジャスとどう向き合うのか。
これが最後の試練となるだろう。ビライトたちは何が来てもいいよう、心して挑むのであった…
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「ビライト・シューゲン。レジェリー・ウィック。ヴァゴウ・オーディル。クライド・ネムレス。そして…ここには居ないがそなたたちの力となった友、ボルドー・バーン。そして、そなたの妹、キッカ・シューゲン。」
ヴァジャスはここまでビライトと共に冒険した者たちの名を言う。
「まずは、ここまで来てくれたことを感謝する。ありがとう。」
ヴァジャスは頭を下げる。
「あ、頭をあげてくれよ!」
「そ、そうよ!そんな頭を下げられるようなことしてないって!」
ビライトとレジェリーは慌てて言う。
「ワシらは望んでここに来てんだ!なっ?」
「俺は最初は依頼のつもりでここまで来ていたが…今は違う。俺は自分の意志でここに居る。」
「それでも、感謝する。」
ヴァジャスもまた、律儀な性格なのだろう。ガディアルと少し似ているようだ。
「そして、ディスタバンス。ここまで彼らを連れてきたこと、苦労をかけたな。」
「良いってことよ。俺も色々世界を見て回れて楽しかったし、何よりガディアルにコイツらを認めさせたからな。」
「…俺はお前と張り合ったつもりはない。ただ、お前に期待などしていなかっただけだ。」
アトメントとしては、ガディアルは当初は何も出来るはずがないと考えていたからであり、アトメントは逆に希望を持って世界を飛び出している。
違う意見を持っていたからこそ、アトメントは自分の希望をガディアルに信じさせたことで勝ち誇っているようだった。
「…さて、そなたたちはここまで多くの経験を重ね、悲しみも苦しみも乗り越えてここまで来た。それを全て踏まえた上で、私が最後に判断を下すべきだが…まずは皆の同意を聞いておかねばならん。」
ヴァジャスは他の抑止力たちを見る。
「要は全員の同意がいるってことだ。勿論俺は認めてる。」
アトメントはビライトたちを既に認めている。むしろ、抑止力の中では最もアトメントは一行のことを長く見ており、そして1番信用していると言っても良い。
それは抑止力全体で見ても信用性に大きく響いていることだ。
抑止力は見ているものを全員で共有できる。
アトメントがこれまで見てきたビライトたちの行動は全員が知っている。
そして…
「俺も異論はねぇ。」
「我もだ。そして我々はビライト・シューゲンたちと共にイビルライズに立ち向かえる術がある。イビルライズの果てまで付き合おう。」
デーガとカタストロフも同意をする。
そして彼らはブレイブハーツを使うことが出来るようになった。
それはイビルライズにとっての対抗策を持っているということだ。2人は全員の同意を得られ次第、ビライトたちと共にイビルライズへと足を踏み入れるのだ。
「他の者たちはどうだ?」
ヴァジャスは残る、シヤン、レクシア、ガディアルに尋ねる。
「俺は異論はない。俺がここにコイツらを入れることを許可したことが証拠だ。」
ガディアルも異論はなく、同意を選ぶ。
「儂も異論はないとも。ストレンジ砂漠で儂とシヤンはもう彼らを認めておる。」
「うん!僕も良いと思うよ!」
レクシアとシヤンもビライトたちを認めている。ここに居る神々は皆、ビライトたちを歓迎しているようだ。
「ウム…エテルネルからも同意は得てある。で、あるならば…」
「あと2人の姿が見えんようだが。」
クライドは言う。
この場に居ないのは序列1位のエテルネル。エテルネルは身を隠している為、やむを得ないが7位と8位の存在だ。
「アーチャルは図書館に居るようだな…」
アーチャルという名前の抑止力は図書館に居るようだ。だから扉が開けっ放しだったのだろう。
「アーチャルは序列8位だ。ちょっと変わりモンでな。」
アトメントが補足を加える。
「そして、ナチュラルはボルドー・バーンの元に居る。」
「「!?」」
「えっ、ボルドー様のところって!?」
ヴァジャスの言葉に一行は驚く。
消去法で行くと、序列7位がナチュラルという存在のようだ。
ボルドーは現在、何処か遠い場所におり、そこで何かをしているということだけは聞かされており、そこでやることが済んだらドラゴニアで眠る肉体に魂が戻ると言うことをカタストロフから聞かされている。
「その通りの意味だ。ボルドー・バーンのおかれている状況は聞いているだろう。ナチュラルにはボルドー・バーンの手伝いをしてもらっているのだ。その辺りはカタストロフの方が詳しいであろう。」
ヴァジャスはカタストロフを見て言う。
(カタストロフ、ボルドー・バーンの現在の状況は内密にしろ。)
この時、カタストロフはヴァジャスから口で話す言葉とは違う伝達を受け取っていた。カタストロフはそれも含めて頷いた。
それと同時にヴァジャスはカタストロフに現在のボルドーの様子を記憶に植え付けた。
カタストロフの表情が一瞬変わるが、カタストロフはボルドーと一度会っている。それを踏まえた上で、カタストロフは(ボルドーならば…大丈夫であろう。)と、思い、口を開く。
「あの時も説明はしているが、ナチュラルの話も含めてもう一度説明しておこう。」
カタストロフは語りだす。
「ボルドーを呼び戻すためには我がスフィアレイズで干渉するか、神の手が必要だった。本来ならば最初のタイミングで我がボルドーを連れて戻れれば良かったのだが…ボルドーにはやらねばならぬことがあった。我の代わりに神々の誰かを遣わせ、ボルドーが役目を終えた際に元の世界に戻れるように呼びかけを行った。結果選ばれたのがナチュラルであった、ということだ。」
魔王城でデーガの試練を突破したビライトたちに約束されていたボルドーの蘇生。
しかし魂と一部の肉体と精神はこことは違う遠い場所にあり、そこでボルドーは何かをしている。
「ボルドーさんの傍には神様がついてるんだ。」
「みてぇだな…」
「ボルドーも別の場所で友の為に戦っている。しかし案ずるな。ナチュラルは少しのんびり屋ではあるが、我々と同じく八神の一柱だ。」
「ボルドーさん…」
ボルドーも戦っている。
これがどういう意味を指しているのかビライトたちには分からないが、ボルドーは自分に出来ることをやっているのだろう。そして、傍には神がついている。
それだけでもビライトたちは安心するのだった。
「ナチュラルからも事前に同意は得てある…あとはアーチャルだが、問題ないとは思うが一応一同顔を見せるという意味合いでここに連れて来てはくれないだろうか。」
ヴァジャスはビライトたちにお願いした。
「俺が同行するぜ。案内してやろう。」
アトメントが案内を申し出た。ヴァジャスは頷き「頼むぞ、ディスタバンス。」と言った。
「最後の一人…どんな人なんだろう。」
「でも、アトメント言ってたよね。あたしたちが知っている人だって。」
「…だなァ…これまでに出会ったことがある人物ってことになるが…クライドは何か分かるか?」
ヴァゴウはクライドに尋ねる。
「…想像はついている。レジェリー、お前もだろう。」
クライドはレジェリーにも言う。
「えっ、う~ん…確信までは持てないけど…もしかして…っていうのはあるかなぁ~…」
レジェリーとクライドは薄々勘づいているようだった。
「俺は全然想像がつかないや。」
「ワシもだな~…」
―――
ビライトたちが図書館に向かったのを確認して、カタストロフは口を開く。
「…言わなくて良かったのか?」
「良い。ボルドー・バーンとナチュラルならば大丈夫だ。」
「ん?忘却の惑星では何か起こってるのか?」
デーガが尋ね、ヴァジャスは頷く。
「忘却の惑星にもイビルライズの残滓が現れている。ボルドー・バーンとナチュラルはもうじき対峙するであろう。」
「…あそこはどの世界にも属さない忘れ去られた場所だろ。そんなところにも干渉しやがるのかイビルライズは。はぁ…めんどくせぇ奴だ。」
デーガは舌打ちし、ため息をつく。
「イビルライズとは儂らが思っている以上に厄介な存在ということじゃ。」
レクシアが呟く。
「でも、ナチュラルも居るし、ボルドーさんって強いんでしょ!きっとカナタを守り切れるよね!」
シヤンもナチュラルとボルドーを信じているようだ。
出会ったことのない存在でも、その強さを評価されている。ボルドーは神々にとってもビライトたちと同様に認められているということだろう。
それは会わずとも神々は誰かの見て来たものを共有できる。
アトメントを経由して神々はビライトたちの全てを見てきたのだ。それを踏まえた上で、ビライトたちと同じようにボルドーは信用するに足る存在だと評価しているということだ。
「向こうの事は彼らに任せよう。我々はこちらの防衛に全力を注ぐ。」
ヴァジャスの言葉に神々は頷いた。
カタストロフは願った。
(ボルドーはまた会おうと言ったのだ。信じているぞ。忘却の少女のことは任せたぞ。)
(2人を頼むぞナチュラル。ボルドー・バーンとカナタ・ガデンもイビルライズとの戦いに必要なピース…ボルドー・バーンの声とその強さと情熱、そして勇気は人々に正の力を与え、カナタ・ガデンの神力は可能性を残している。それはカナタ・ガデンがこちらにやってきても変わらぬことだ。残されるわずかな神力でもブレイブハーツと同じく、心を強く持てば持つほど力は大きく向上する。ボルドー・バーンとの絆を経てそれは大きな力のカケラとなるはずだ。)
神力はブレイブハーツと同じく、心の強さにも大きく影響を受ける力だ。そして、分け与えることも出来る。
分け与えたとて、個人の心の力がそのまま力となるブレイブハーツと異なる点として、分け与えた場合の神力は分け与える側と、受け取る側のお互いの絆がそのまま力になる。
つまり神力の共有は、2人の絆が高まればわずかな力でもその力は大きく向上するのだ。
まだカナタがこちらに来ることは決まってはいないが、ヴァジャス個人の願いとしてはこのシンセライズへの移住を受けて欲しいと願っているようだ。
そして、力を貸して欲しいと願っている。
(そしてカナタ・ガデンには…この戦いが終わった後は神ではなく、普通の少女として生きていける様に…故に、必ず…守り通してくれ。)
ヴァジャスたちは願う。遥か遠くで戦う者たちの勝利を信じて。
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会話をしながら図書館へと案内されるビライトたち。
図書館の中は非常に広く、ヒューシュタットの図書館と変わらないぐらいの広大な部屋に無数の本がずらりと並んでいた。
白銀の本棚に入れられた古い本たちは埃もはらわれた清掃された綺麗な状態で保管されているようだ。
「凄い!ヒューシュタットの図書館に負けなぐらい広いんじゃないの!?」
「あァ…すっげぇなァ…」
レジェリーとヴァゴウは神聖で広く大きな図書館に目を奪われる。
「おーい、アーチャル!気配で分かってんだろ!さっさと来いっての!」
アトメントは入り口でアーチャルを呼ぶ。
「…」
「…返事、ないな。」
「ったく…」
アトメントはやれやれと頭を掻くが…
「うるさいわよアトメント。聞こえてる。」
上から声がする。女性の声だ。そして、聞き覚えがある声だ。
「…この声…」
しばらくすると上空にフッと竜人の女性が姿を見せる。
「久しぶりね。あなたたち。」
「ア、アリエラさん!?」
そこに居たのはアリエラだった。
初めてのヒューシュタットでは図書館で出会い世話になり、そしてヒューシュタットでガジュールと戦う前にも手助けをしてくれた竜人の女性だ。
あれから姿を見せていなかったが、間違いなくそこに居たのはヒューシュタットで出会ったアリエラ本人であった。
「やはりな…」
クライドはそう呟き、アリエラを見る。
「なんとなくあたしも感じてたけど…でもホントにアリエラさんだとは思わなかったかも…」
レジェリーもクライドと同様に、察しがついていたが的中とは考えていなかった。
「気配でビライトたちが来たことは分かってたんだろ。だったら位置についとけっての。お陰で迎えに行かなきゃならなくなった。」
アトメントアリエラにそう言うが…
「嫌よめんどくさい。どのみちこっちに顔見せに来るって分かってたし。」
アリエラは持っている本に栞を挟んで床に足を付ける。
「アリエラさんが神だったなんて…」
「あぁ、確かに只者じゃねぇとは思ってはいたけどよ。」
ビライトとヴァゴウは予想がつかなかったようなので純粋に驚いている。
「でもどうして教えてくれなかったんだ?」
ビライトは尋ねる。
「私ね、あまり誰かと一緒に居るの好きじゃないの。一人が好きなのよね。だから言わなかった。それだけよ?」
アリエラは小さく微笑んだ。しかし、その笑みはヒューシュタットで会った時のアリエラよりも冷え切っており、目も笑っていないように見えた。
これはレジェリーがヒューシュタットでスラム街で一緒に居た時に少し片鱗を見せていたため、レジェリーはその時のことを思い出していた。
「そ、そうなんだ…」
「気を付けろよ~コイツ、ヒューシュタットでは綺麗に振舞ってたかもしれねぇけどクッソ性格悪いからな。」
「あら、心外ね。」
アトメントはヘラヘラと笑い、アリエラも小さく笑っている。
「で、ヴァジャスが呼んでるんでしょ?」
「そーだよ。」
アリエラは小さくため息をつく。
「めんどくさいわねぇ…どうせ彼らを認めているかどうかってことでしょ?ねぇアトメント。私はもう彼らを認めてるし、そう伝えておいてくれない?私今読んでいる本の続きが気になって仕方がないの。」
アリエラはかったるそうに言う。
「カーッ、相変わらずめんどくせぇなお前。」
「うるさいわね。めんどくさくて悪かったわね。」
アトメントはため息をついて、ビライトたちを見る。
「つーわけだワリィな。そういうことだから一端ヴァジャスのところに戻ろうぜ。」
「わ、分かったよ。じゃ、アリエラさんまた後で。」
「はいはい。ヴァジャスによろしくね。」
アリエラはそれだけ言い、また姿を消してしまった。
「――なんか、ヒューシュタットで出会った時は良い人だったのに、今話してみると大分違うような…」
レジェリーはアリエラの違和感を感じ取って呟くが、アトメントはそう聞いて笑う。
「言ったろ?アイツはクッソ性格悪いんだよ。自分の気分次第で隙あらばフラフラしてやがるし、基本的にはここで本読んでるかヒューシュタットで司書をしながら過ごしてる。世界に何か起こっても基本的には無干渉で無関心。そういう奴なの。やるときゃやるんだけどな。それも気分次第でな。」
「それ、アンタが言えるの…?」
レジェリーはツッコミを入れる。「あー俺は世界のこと大事に想ってんのに~」と笑いながら言う。
アトメントも大概な放浪癖がある。気が付いたら何処かに行って、戻ってきたときには「観光してた」と言っていた。
「ハハッ、違いねぇ!けど俺なんかよりアイツの方がもっとだぜ?」
アトメントは図星をつかれて笑う。
「元、邪神と呼ばれるだけあるのかもしれんが…お前も元邪神だろう。こうも違うものなのか。」
クライドはアトメントに言う。
「ま、性格の問題かねぇ~俺はホラ、結構サッパリしてるからよ。アイツは繊細で根暗、性格も悪い。けどやるときはちゃーんとやるから安心しな。」
アトメントはアリエラのことは信頼はしているようだ。やはり同じく元邪神ということもあるからか、シナジーはあるようだ。
抑止力序列8位、アリエラ・アーチャル。
抑止力の紅一点であるようだが、性格は誰よりも曲がっているようで、クセが強いようだ。
ヒューシュタットで出会ったアリエラとはかなり異なるようで、こちらが彼女の本当の姿なのだろう。
しかし、【やるときはやる】というアトメントの言葉がある。いざという時は心強い味方になってくれるであろう。
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ヴァジャスの元に戻ってきたビライトたち。
アトメントが事情を説明する。
「…そうか、全く…仕方のない奴だ…では、アーチャルは同意ということで良いのだな?」
「あぁ、それでいいぜ。」
ヴァジャスは小さくため息をつき、改めてビライトたちを見る。
「…ここに抑止力全員の同意を確認した。あとは…私がその決断を下すだけだ。」
ヴァジャスは抑止力たちを見つめる。
皆が一斉に頷いている。
「…良いだろう。私もそなたたちを認めよう。」
ヴァジャスはビライトたちを認めることにした。
「!」
「やったなッ!ビライト!」
「あ、あぁ!」
「えへへ!頑張った甲斐があったわね!」
「そうだな…」
ビライトたちは喜び合った。
ここまで旅をしてきたのだ。そして全ての抑止力たちに認められ、そしてそれを最後に判断するヴァジャスから認められることで、ついにビライトたちはイビルライズに向かうことが出来るのだから。
「へっ、嬉しそうじゃねぇか。」
「ウム、我も良かったとホッとしている。」
デーガとカタストロフは喜ぶビライトたちを見て微笑んだ。
「けど…まだイビルライズに向かうには早いんだろ。」
デーガはヴァジャスに言う。
「えっ、どういうこと?」
ヴァジャスは頷いた。
「イビルライズは世界中の負が集う場所。何の対策も無しに入ればたちまち闇に呑まれ、二度と帰ってくることは出来なくなるはおろか、世界中の負に押しつぶされて精神が崩壊してしまうであろう。」
ヴァジャスはイビルライズの恐ろしさを語る。
「…とんでもねぇ場所だってのは分かるぜ…」
「あぁ…イビルライズは…全世界の負が溜まっているんだ。きっと俺たちの想像のつかないものがあるんだ…」
ビライトたちはゴクリと息を呑む。これから行く場所は思っている以上にとんでもない場所であることは分かっているつもりだ。
だが、世界の頂点に居るような神々たちがそう言うのだから、とてもビライトたちが踏み入れられる場所ではないと言うことなのだろう。
「それはお前たちが経験してきた悲しみや憎しみなどとは比較にもならぬ。私のこの身体も…負の影響を受けているが故の状態だ。」
ヴァジャスの身体は白と黒の色が入り交ざったドラゴンの姿をしている。
「元々ヴァジャスは白銀の身体を持っていた。じゃが世界が七つに分かたれた際にヴァジャスは全世界の負を請け負う存在となってしまい全身が黒に染まってしまったのじゃ。」
レクシアが説明を入れる。
「身体に刻まれている傷はヴァジャスが苦しみを和らげるために自傷した傷なのじゃよ。」
「…しかし我は救われた。憎しみに支配され世界を全て滅ぼそうとしていた私を、我が友、エテルネルを始めとする英雄たちとここに居る神々が救い出してくれたのだ。」
「そうだったんだ…じゃぁ今白銀と黒が混ざっているのは…」
「徐々に身体は癒え、黒き身体は白銀へと変わっていっていた。けどイビルライズが現れてからヴァジャスはずっとイビルライズの負を抱えている。今もヴァジャスは再び黒に覆われそうになってんだよ。」
アトメントは解説を入れる。
「…エテルネルの力が弱まって正の力を世界のエネルギーに還元する力が弱まっている。そして私の負を正に変える力も弱まっている。溢れ出る負の力が強すぎるが故、私の身体にその影響が及んでいるのだ。」
「じゃぁ、ヴァジャスも危ないんじゃ…!」
「そうだな…すぐにではないが、私もいつまで持つか分からぬ。」
「エテルネルの残り半分の力がイビルライズに捕まってもアウト。ヴァジャスの身体が持たなくなってもアウト。状況は良くないね。だからこそ、君たちには急いでもらわないといけないんだけど…今のままじゃ危ないよね~」
シヤンが呟く。
「ウム。イビルライズに対抗しうる力、ブレイブハーツの力をより強固にする必要がある。そなたたちはまだブレイブハーツを完全に活かしきれてはおらんようだからな。」
「ま、会得したばかりだからな。」
ヴァジャスのあとにデーガが言う。
「ブレイブハーツは身体を鍛えれば強くなるもんじゃねぇからな~」
「じゃぁどうやったらブレイブハーツを鍛えることが出来るの?師匠。」
レジェリーは尋ねる。
「ブレイブハーツは心の強さだ。だがそれはあくまで発動条件に過ぎねぇ。そこから更に上を目指すならばそれを更に上回るモンが必要だ。」
「…心当たりがあるよ。」
ビライトは呟いた。
ビライトはイビルライズと対峙した時、仲間たちやこれまで出会った人たちのことを思い出し、1人で戦っているわけではない、負けるわけにはいかないと強く願った。
するとブレイブハーツの力はより強さを増したのだ。
「ブレイブハーツを鍛える近道、それは“仲間たちの絆”、そして“どんな相手にも決して臆さない勇気”、そして“これまで紡いできた絆”だ。そして、ブレイブハーツは肉体よりも精神の強さ、心の強さが重要だ。心の乱れはブレイブハーツの力を弱める。」
どれも漠然としているように感じた。
そしてビライトたちにはもはや既に備わっているもののようにも感じた。だが、それでも足りないようだ。
「…一つ、提案をしよう。」
ヴァジャスは提案をする。
「そなたたちも急ぎ足でここに来たであろう。今一度ここで…“しばらく羽を休めてみてはどうだろう”」
「…ど、どういうこと?」
「そんなことしている場合じゃないんじゃ…」
レジェリーとビライトは困惑する。
今もこうしている間にもイビルライズが活性化し続けていて、ヴァジャスの身もエテルネルの身もどんどん危うくなっている。そんな状況で急に休めと言われても納得いくものではなかった。
「案ずるな。すぐに何か起こるわけではない。それに、そなたたちには必要なことだ。」
ヴァジャスはそう言い、デーガを見た。
「…なるほどな。」
デーガはヴァジャスの提案の意味をいち早く理解し、納得したようだ。
「ちょ、ちょっと師匠!1人で納得しちゃってズルい!どういうことかあたしたちにも説明してよっ!」
レジェリーはデーガに文句を言うが、デーガは「うるせぇ。良いから休んでろ。」と一蹴する。
「…どういう、ことなんだろう。」
「さぁな…ワシにもさっぱりだぜ…」
「…」
ビライト、ヴァゴウ、クライドもやはりよく分かっていないようだが…
「…どのみち俺たちには選択権は無い。言う通りにしよう。」
クライドは仕方がないと聞き入れることにした。
「何か意図があるのだろう。無意味なことはないはずだ。」
クライドの提案にビライトたちは…
「「「…」」」
「…分かった。」
ビライトたちは提案を受けた。
イビルライズに入る前にビライトたちは一端羽を休めることになった。
しかし、今は急がなければならない状況だ。
ブレイブハーツを鍛えるために必要なことであるようだが、その意味が分からないまま、ビライトたちはこの神の領域で過ごすことになった。
いつまでなのかも聞かされず、よく分からないままだ。
だが、今はヴァジャスの提案を受けることしか出来ない。ビライトたちは不本意ながら、この神の領域に踏みとどまることとなったのであった…
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そして…
「…近くまで、来ているね。ビライト。」
イビルライズの遥か奥深く。
イビルライズは力を蓄える為に身を固めている。
その傍ではキッカの姿があった。
「全く、お前もしぶとい。」
キッカからシンセライズの力を奪い取っているイビルライズだが…
「…」
「シンセライズの力は100%でなければならない。だというのにその半分をお前を持っているからお前をここまで連れてきた。じっくりシンセライズの力を吸い取る為にね。なのに君の力を何故か全部吸い取れない。無駄な足掻きはやめようよ。」
キッカはどうやらシンセライズの力を全部奪われないように抵抗しているらしい。
本能的に自己防衛の力が働いているのだろう。
「…駄目…だよ…私が…私が折れちゃったら…この世界がめちゃくちゃになっちゃう…」
力無い声で喋るキッカ。
「死ぬときはみんな一緒さ。怖くないのに。」
「…そんなの…駄目、だよ…」
「チッ、何も出来ないくせに偉そうに言うな。クソッ、エテルネル・シンセライズは何処に居るというんだ。これだけ残滓を放ってもわかりゃしない。」
イビルライズは今もエテルネルを探している。
残り半分の力を持つエテルネル。そしてこの世界の正をエネルギーに変えている、この世界の心臓のようなものだ。
そこを叩くことが出来れば話が早いというのに、肝心のエテルネルは世界のどこかに潜伏しており、イビルライズでも気配を探ることが出来ないのだ。
(…お兄ちゃん…)
「ビライトも間もなくここに来る…フッ、でも良いさ。もうボクらは違う道を選んだんだ。もう容赦はしない。ボクのトモダチになれないのなら、ボクが君と君の仲間を全部殺してあげるよ。アハハ。」
(エテルネルさん…私は、あなたの場所を感じるよ…でも、大丈夫…きっと、見つからないよね…それに…きっと、お兄ちゃんたちがなんとかしてくれる…私…信じてるから…)
キッカは願う。イビルライズがエテルネルを見つけないことを。
そして、ビライトたちが間もなくここに来て、助けに来てくることを…




