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Delighting World  作者: ゼル
Break 第八章 神の領域編 ~最果ての地にて待つ神々~
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Delighting World Break ⅩⅩⅩⅣ


トーキョー・ライブラリにて、カタストロフを救出することに成功した一行。

ビライトはイビルライズの活発化による影響で、体内に残された残滓に干渉されて意識を失った。


残滓を取り除く為、正の力に満ち溢れている神の領域とその周辺を目指して一行は名も無き荒野を歩く。

道中で同じく残滓の影響を受けてしまったヴァゴウ、そして眠り続けるビライトを背負い歩き続ける。



そんな中、ビライトはクロ・イビルライズの残滓を経由して昔の記憶を遡る。

両親を失い、ビライトにクロが憑依することで生き残ったビライトの前に現れたクロはビライトとトモダチとなり、ビライトは日に日にクロに依存していくことになったが、ある日、クロを追っていた名も知らぬ新たな抑止力の言葉により、ビライトはクロの依存から抜け出し、現在の人格が形成されていった。


クロの目的を知ったビライト。

そして、クロの出生を知ることにもなるが、ビライトはその過酷な境遇を知ってもなお、シンセライズを守る為、奪われたキッカを救う為、同情はしつつもクロと敵対する選択をした。


ブレイブハーツを完全に使いこなせないまま残滓のクロと戦うビライトだが、クロの圧倒的な力の前に屈してしまいそうになる。

だが、ビライトは仲間のことを思い、それを力としてクロを退ける。



ビライトは戻りゆく意識の中で思う。

クロは世界の敵だ。だがその境遇を思うと、許せなくともこれからを許すことは出来る。

カタストロフとデーガの罪と同じように、誰かが許すことが出来る。

だが、もうクロはもう引き下がることは出来ない。

だからこそ…クロを止めるのは、かつて、トモダチだった自分だと、ビライトはそう思うのだった。




―――



第八章 神の領域編

~最果ての地にて待つ神々~



―――


「そっか…そんなことがあったんだ。」


神の領域の手前で休息を取っていた一行。

ビライトとヴァゴウは神の領域とその周辺にある正の力の効果によりすっかり体調が良くなっていた。


ビライトはトーキョー・ライブラリからずっと眠っていたため、これまでの情報を共有する為に皆から話を聞いていた。


「でも、カタストロフがこうやって仲間になってくれたのはとても心強いよ。」

「我も、受け入れてもらえて感謝している。」


「よし、じゃぁビライトも聴かせてくれるか?眠っている間にあったことを。」

アトメントはビライトからも情報を聞くために質問する。



「あぁ…そうだな。」



ビライトはこれまで自分が追った記憶を話した。


クロとトモダチであった期間の記憶、そして自分がいかにクロに依存していたかを語る。

そして、イビルライズの出生、ヴァジャス・シンセライズとの対話。


ビライトは見たことを全て語った。


ビライトが眠っている間に、アトメントからイビルライズのことを詳しく聞いてはいるが、ビライトが経験したことはビライトしか分からないことも多い。

アトメントから聞いた情報と、ビライトが話した内容を合わせて1つの情報として認識する。


「あの時は急にビライトがキッカちゃんことを見るようになったから驚いたが…それまでの過程にも色々あったんだなァ…」

ヴァゴウは唯一ビライトの変化を最初から最後まで見届けていた。

だが、ヴァゴウ自身もイビルライズによって記憶を書き換えられたり、忘れさせられたりしていたため、おぼろげな部分が多かった。

「でも、ビライトはクロじゃなくて、ワシとキッカちゃんを選んでくれたんだよな。」

「うん、でもそれは俺が俺自身で決めたことじゃない。俺は…気づかされたんだよ。きっかけがあってさ。」


ビライトは心の変化を生み出したきっかけを語る。


「俺も記憶から抜け落ちていたんだけど…俺は抑止力に出会っていたんだ。見たことのない奴だったけど…凄く大きい竜人で、雷を操っていた。」

ビライトがそう言うと、アトメントとデーガが顔を合わせる。



「なるほど…アイツか。」

「知ってるんだな。その竜人が俺にクロ以外の存在を認知させてくれたんだ。俺はあの抑止力に言葉をかけてもらえなかったら、どうなっていたか分からない。」



“お前の心の光を信じよう。お前の帰るべき場所へ帰るがいい。お前の居る場所はその者の元ではない。”



ビライトは抑止力の言葉を思い返した。


自分の帰るべき場所、自分が見なければならないもの。

そして、ビライトにわずかに残っていた正の力を信じ、託したあの抑止力は、ビライトにとっては今更だが恩人のような存在だったのだ。



「なぁ、アトメント。この先の神の領域に行けばその抑止力とも会えるのかな。」

ビライトは問う。


「おう、会えるぜ。まぁついでに言うと…この先に向かうなら必ず会うことになる。」

「どういうこと?必ず会うって。」

レジェリーが質問する。


「まぁ…そいつは神の領域を守る番人みたいなもんだからな~…」

アトメントは顔を少し渋らせている。何か問題があるのだろうか。


「なんだその顔は。何か難があるのか。」

クライドはアトメントの表情を見てそう言うが…


「ちょっと頭がカタイやつでな。多分簡単には通してはくれねぇだろうな~って。」

「そ、そうなのか…でも、アトメントが連れてきたってなるなら話は別なんじゃ…?」

ビライトはそう言うが、アトメントは首を横に振り小さくため息をつく。


「アイツは俺より格上なの。ムカつくけど。んで、ちょっと色々あってな。あんま俺は良いイメージ持たれてないわけ。」

アトメントにとってはやりにくい相手のようだ。


「神様にもワシらみたいな合う合わない…相性みたいなのがあんのか?」

「あるんだよ。」


どうやら神様同士でも仲の良し悪しがあるようだ。

そしてアトメントがこれから会う番人とはあまり仲が良くないらしい。


「師匠とカタストロフはどうなの?」

レジェリーはデーガとカタストロフに訊ねる。


「俺たちは神の領域に住んでねぇし、神でもねぇからあんまり関りはねぇんだ。」

「我も同じだ。だが、彼の戦闘面での実力はどの抑止力にも負けぬほどの存在だ。」

デーガとカタストロフもあまり交流はないようだ。

そして、その抑止力はとても強いらしい。


「師匠より強いの?」

「俺なんか比較にもならねぇよ。」

「我でも敵わぬだろう。むしろ…もし我があのまま絶対悪で居続けていれば、我は世界の脅威と判定されて処理されていただろう。」

「そ、そうなんだ…師匠やカタストロフでも歯が立たないぐらいなんだ…」


そんな存在がこの先に待っていることに息を呑む一行。


「まぁ、何かしらの理由を付けて試しては来るとは思うが、戦いにはならねぇ!これは間違いない!」

アトメントはそこだけは自信満々そうに言うが…


「でも、それだけ強いなら試練をするとしたらやっぱり戦いなんじゃ…」

レジェリーはそう言うが、アトメントは否定する。


「戦いの方面に関してはもうデーガがやっちまってるからな。それはそれは結構派手に。だから2度も試しはしないさ。」

アトメントはデーガを見て呟く。

「お前らの実力は俺と…それからトーキョー・ライブラリでのカタストロフを止めてくれたところで既に実証済み。神の領域の奴らもそれは知っているはずだからな。」


「そして何より、彼は最も戦闘に長けた強き者だ。戦いとなったらブレイブハーツを以てしてもこの中の誰一人勝つことは出来ぬ。」

カタストロフがそう言うのだ。それほどまでに大きな存在なのだろう。


「…で、そいつの名と序列は?最も、俺たちが認知している抑止力は9人中7人。残すは8位、3位のみだ。」

クライドが尋ねる。




「“世界最強の守護神”。抑止力序列第3位。名は“ガディアル”。歴史では一切語られていない8番目の神だ。」


「歴史では神は7人と言われているがしかし、8人目の席があることは聞いているな。その座席に座るのがガディアルだ。」

「序列3位…アトメントやデーガたちよりも上だな…」


「あくまでガディアルが3位に属しているのは上2人が特殊なだけだ。力だけで見るならば満場一致で1位である。」

カタストロフが補足する。それほどまでのこのガディアルという存在は強大なのだろう。


「ガディアルは俺たち神々の中で唯一、元はお前たちと生物であった…という歴史を持つ。」

「え、そうなの!?あたしたちと同じ生物が神様になるなんてこと…そんなことあるの!?」

レジェリーは驚き、アトメントに尋ねる。


「まぁ、アイツは特別なんだよ。アイツは神を倒せるほどの力のポテンシャルを生物だった頃から持っていた。それをエテルネルに買われたってことだ。不愉快なことに。」

アトメントはちょっと不服そうにしている。


「不服そうだな。もしや倒されたというのは…」

「あーあー、それ以上は言うなっての!!」

クライドは興味本位でその話を掘り下げようとするが、アトメントから却下された。


「そんな存在でもイビルライズには届かないっていうのかよ。イビルライズがいかにとんでもねぇかを思い知るぜ…」

ヴァゴウは呟く。


「いや、戦闘面で言うなら間違いなくガディアルの方が上だ。けどイビルライズには神力は効かない。んでもってただ力を振るっても無駄。だからいくらガディアルが強かろうと無効化されたら意味がない。そして唯一の対抗策であるブレイブハーツは、神には使えない。そういうこった。」


イビルライズを倒すのにはやはりブレイブハーツは欠かせない。そして神々には神力があってもブレイブハーツは無い。


「で、あたしたちはそれからそのガディアルに会うってことね。」

「そうだな。そこを超えればもう神の領域の中心部。イビルライズの入り口があり、そして俺たち神々の暮らす、世界の最果てだ。」


「その最果てにみんないるってことなんだよね。ヴァジャスも。まだ知らない8位の抑止力も。」

「そうだな。まぁ最もお前たちも知ってる奴だぜ。」

「えっ、そうなの?」

「まぁ行けば分かる。それより、身体はゆっくり休めてるか?そろそろ出発するぞ。」


アトメントは会話を打ち止め、立ち上がる。


「ビライト、ヴァゴウ。どうだ?」

クライドが問う。


「あぁ、俺は平気だ。」

「ワシも気分が良いぜ。これも正の力のお陰かもなッ!」

ビライトとヴァゴウはすっかり調子が良くなっていた。


「カタストロフは平気?」

「ウム、レジェリーも問題なさそうだな。」

「もっちろん!」

カタストロフとレジェリーにもイビルライズの影響の可能性があったが、2人は特に問題はなかったようだ。

はやり、イビルライズにどれだけ長い時間干渉していたかでその影響具合が決まっていたのだろう。


「よし、出発だな。」

「よーし!もう一息ね!頑張ろっ!おー!」

レジェリーは元気よく声をあげる。

「…オー。で、良いのか?」

「そうそう!そんな感じ!」

「そうか。」

乗る雰囲気を察したカタストロフは手を挙げ、声を出す。それから何度か言い合うレジェリーとカタストロフ。


こういった少し天然で、見た目に反したことをするのはカタストロフらしいが、この状況に驚いたのは何と言ってもビライトだった。

そしてそんな反応を見て爆笑するアトメントとあきれるデーガであった。


----------------------



いよいよ神の領域に突入する一行。

目の前には今現在いる茶色の荒野とはうって変わった白い岩場が連なる光景だ。


この光景に1歩踏み出せばそこはもう神の領域の一部なのだという。


「よーし、行くぞ。こっからもう少し歩けば中心部に向かえる道がある。そこまでは何も考えずについてくればいいぜ。」

アトメントはあっさりと神の領域に足を入れる。


「よ、よし。行こう。」

ビライトが続いて足を入れる。


「…!」

全身がその領域に到達した瞬間、ビライトの身体の中から何かが抜け落ちるような感覚がした。


「これは…なんだろう、何か良いことがあったような気がする。」

「…あ、あたしも感じる。これ、何だろう?」

「ワシもだ。」

続いて入ってきたレジェリーとヴァゴウも同じ感覚を味わっていた。



「もう効果が現れてるみたいだな。」

「…?俺は何も感じないが。」

更に入るデーガとクライド。クライドは何も感じていないようだが…


そして…

「我も感じる。これは…イビルライズの残滓が…」

カタストロフも感じていた。


「恐らくイビルライズの残滓が溶け始めてんだよ。残滓であれば正の力で浄化出来るって話があったろ。つまりそういうことだ。」


今残滓が残っているであろう、ビライト・レジェリー・ヴァゴウ・カタストロフの4人の中に宿る残滓が消えようとしているようだ。


「これが…神の領域なんだな…」

「おう、ここではあらゆる負を許さない。たちまちどんな負でも打ち払ってしまうのさ。」

神の領域というのは、まさに聖域。


ここは決して負の力に負けることなく、1千万年以上の長い時間残り続けているのだ。

そしてそれを守り続ける抑止力たちもまた、同じ時間を共に過ごしているのだ。


「ところで、デーガとカタストロフはどうだ?問題なさそうか?」


「あぁ、特には問題ないぜ。」

「我も問題ない。」


「そうか、んじゃこれからはたまには顔見せろよ?もう引きこもりは終わりにしな。」

「ケッ、引きこもり言うなっての。」


「どういうこと?問題があったの?」

レジェリーはアトメントたちの会話に質問する。


「我とデーガはついこの間まで、瘴気の毒を宿していた。あれは負の力とはやや異なるものではあるが似ているものだ。そんなものを宿したままこの領域に入ると…」

「な、なるほど…」


「死にはしないけどな。結構身体壊すぐらいダメージ食らったりしてたもんな~」

「まぁな…だがブレイブハーツを取り戻し、カタストロフもブレイブハーツを使える今なら神の領域も特に問題ない。」

「へぇ~じゃぁ師匠もカタストロフも、これからはみんなと仲良くできるね!」

レジェリーは微笑む。


「ケッ、めんどくせぇのは御免だっての。」

「そうか…そうだな。フフ、それは楽しみであるな…」


デーガは面倒そうだ。しかしカタストロフはそう聞くととてもワクワクしてそうに感じる。


「…何か、反応が全然違うな。」

「この間まで同化していたとはいえ、それぞれが違う命なのだろう。」

ビライトのツッコミにクライドは呟く。


「これからは向き合い方も変わってくるんだな!長い時間生きていても新しい何かが生まれるのは良いことだぜ。」

「そうだな。俺たちも…それを目指して頑張らないと。」

これからはデーガとカタストロフにも新しい未来が待っている。




特にカタストロフはこれからのことにも前向きでいるようで、1000万年以上の何も変わらなかった時間が変わっていくのは、とても奇跡のような光景に見えた。

そして、ビライトたちもまた、これからの未来に向かえるように…今、襲い掛かる脅威に立ち向かわなければならないのだ。



(…アイツ来ないな。様子を見てんのか…?)

神の領域に入ると何かしらのアクションを見せて来ると踏んでいたアトメントは内心拍子抜けしていた。何かしてくる可能性があったからこそ、先程まで手前で休んでいたというのに、何も起こらないのだから、アトメントは疑問に思っている。だが、今は前に進むしかないとアトメントはそう思うことにした。


----------------------



白い岩場を歩き続けるビライトたち。


先程までの岩場すらない荒野とは大違いではあるが、岩場自体もそこまで大きなものはなく、小さめの岩場がゴロゴロとしているだけだ。

生物の気配も一切感じないので、名も無き荒野と同様、魔物は生息していないようだ。


「お、そろそろだな。」

アトメントが奥の方を見る。


「崖…?」

クライドは呟く。

その先に見えていたのは断崖絶壁の崖だった。


「うわっ、底が全然見えないよ?」

レジェリーはあまりの崖の高さに驚いた。

底は真っ暗でどこまで続いているかも分からないのだ。


「奥に別の陸地があるのが見えるか?」

デーガが指さす。


その先には確かに小さな浮島がある。

「不思議だな…浮いているのか?」


「あぁ。あそこが神の領域の中心地だ。俺たちはあそこに住んでいる。」

アトメントが説明をする。ついに、旅のゴール地点が目の前にあるのだ。

そして、あそこにイビルライズに繋がる道が、キッカが待っている。


「あれが…俺たちの旅の終わり…」


「だな。でもまだまだ終わりじゃねぇ!キッカちゃんを助け出すまではな!」

「あぁ。そうだな!」

ヴァゴウの言葉にうなずくビライト。


「でも、あそこまでどうやって行くんだろう。」

ビライトは呟く。

浮島まではかなり遠そうだ。

デーガやカタストロフは問題なく行けそうな気がするが、ビライトたちには飛行の手段はない。



「大丈夫だ。俺は神様だぞ?こんなもん顔パスみてぇなもんだが…」

アトメントはその前に周囲を見渡す。



「おい、居るんだろ?そろそろ出て来いよ。領域まで行っちまうぞ~?」

アトメントが声を出す。


「え?」


戸惑うビライトたちだが…

次の瞬間だ。


「「!」」


ゴロゴロと鳴る雷鳴が響き渡る。

そして…岩場の上にいつの間にか座っている竜人の姿が見えた。



「!あんたは…!」

驚く一行だが、ビライトはその顔を知っている。


黄色い鱗を蓄えたデーガと同じく赤髪で、薄い赤色のヒゲを蓄えた竜人がそこに居た。


白いマントを靡かせているが、背にある翼をすり抜けている。何か特殊な加工のマントのようだった。


3mは超えているであろうその巨体と鋭い目つきは見る者を威圧させる。

全身から小さな雷がバチバチと音を立てて弾けている。それはやがて縮小し、雷は周囲にバチッと弾け飛んで消えてしまった。



「…よくここまで辿り着いたものだ。お前のガイドが良かったからかもしれぬな。」


カタストロフほどではないが、低く、ドスの効いた声で喋る竜人。その声を聞くだけでびりびりと伝う強者の貫禄に一行は動くことを忘れてしまうほどだ。


「大したことはねぇ。ていうか久々に会ったんだから喜んだらどうなんだよ。」


「誰がお前などに喜ぶか。それにお前が勝手に出て行ったのだろう。」

「相変わらずつまんねぇツラしてんな。」

「…お前と話をしている場合ではない。それよりも…」

言い合いを始めるアトメントと竜人だが、話を逸らす為、ビライトたちを見る。


「…ビライト・シューゲン。久しいな。」


「…あぁ。でも、俺はあの時は自己紹介なんてしてもらってないけどな。」

ビライトは驚いてばかりはいられない。だからこそ、堂々としていなくてはと心に言い聞かせて喋る。


「フッ、言うようになった。あの幼い子供が…」

竜人は崖から降り、一行の前に立つ。

高身長のヴァゴウやカタストロフすら悠々と超えるその巨体が目の前に立つが故、その半分程度の身長であるレジェリーやビライト、クライドは首を上に大きく向けないと顔が見えなくなるほどだ。


「我が名は“グロスト・ガディアル”。この世界を守りし抑止力の1人であり、八神の1柱である。」

「元生物だけどな。」

「お前は黙ってろ。」

茶々を入れるアトメントを睨むガディアル。


「ガディアル、アトメントから話は聞いているよ。俺たちの紹介は…いらないよな。」

「不要だ。」

ビライトはなんとかその威圧感に負けないようにしているが、冷や汗が止まらない。

レジェリーたちは唖然としすぎていて声も出せずにいる。それほどまでにこのグロスト・ガディアルという竜人から放たれるプレッシャーは強いものなのだ。


「…八神ガディアル。俺たちはこの先に行かなければならない。タダで…というわけにはいかないのだろう?」

クライドがガディアルに声ようやく発した。


ガディアルは一呼吸おいて喋り出す。それは…


「…構わぬ。行きたければ行くと良い。」


「…ハァ!?」

「は?」

「…ム…」

アトメント、デーガ、カタストロフは驚く。


ガディアルは世界最強の守護神という称号を持つ神だ。

そして抑止力の中でも屈指のカタブツと言われているが、ガディアルから帰ってきた言葉はあまりにも意外な言葉で、ビライトたちですらキョトンとするほどであった。


クライドは「おい、話が違うぞ」と言わんばかりの顔でアトメントを見ている。


「えっ、ちょ、ちょっと待って!あたしたちてっきり試練があるのかと…!」

言葉を失っていたレジェリーもつい声をあげる。


「俺の単独試練などいらんだろう。お前たちのこれまでの軌跡は全て知っている。それを全て見た上でここを通しても良いと判断している。」

ガディアルはアトメントから定期的に送られて来ていたビライトたちの軌跡を他の神々と共有している。だからこそ、これまでの流れを全て知っている。

それでも、ガディアルがこのままアッサリとこの先を通してしまうことに違和感しか感じないのだ。


「お前、頭でも打ったか?」

デーガが尋ねる。

「そんなわけがないだろう。本心だ。」

ガディアルはそう返す。


「…真意を聞かせよ。ガディアル。」

カタストロフは言う。


「言ったとおりだ。俺はコイツらの軌跡を全て知っている。それに…」

ガディアルは更に呟く。

「俺をパスしたところで向こうでヴァジャスが何かをするはずだ。それが試練であるならばヴァジャスに任せれば良い。」

ガディアルは浮島を見て呟いた。

「ヴァジャスが?」

「そうだ。どっちにしてもお前たちは我々抑止力全員と向こうで会うこととなる。そこで改めて全員の同意を得られなければイビルライズに向かうことは認められんのだからな。」


「…そっか。じゃ、良いんだな?」

アトメントが言い、ガディアルは頷いた。


「だが、その前にビライト・シューゲン。お前と話がしたい。」

「お、俺?」

「そうだ。だが案ずるな。これは試練ではない。故に少し付き合ってもらおう。それにお前も何か言いたいことがありそうだ。」

「…そうだな。うん。」


ビライトは同意した。


「席を外すぞ。戻ってきたら共に浮島へ向かうがいい。」


ガディアルはビライトの身体をつまむように持ち上げ、背に乗せた。


「わわ!」

「ビライト…!」


「だ、大丈夫!すぐ戻るから!」

「ちょ、ちょっと!ホントに大丈夫なんでしょうね!」


「ビライトッ!気を付けろよ!」

「分かってる!」


ヴァゴウ、レジェリー、クライドたちは心配そうにしているが…

「大丈夫だ。アイツはクソ真面目な奴だから悪いことはしねぇ。」

デーガはそう言い、一行を安心させた。


「…やれやれ、律儀だねぇ…」

アトメントはそう呟き、ガディアルとそれにしがみつくビライトを見送った。


「…ガディアルの狙いは?」

カタストロフが尋ねる。


「狙いなんてねぇよ。アイツはただ、ビライトが気になるんだろ。一応ビライトにとっては恩人みたいなもんだしよ。」

「…そうか。我でいうところのデーガやレジェリーのようなものか。」

「そういうことになるのか…?まぁ、いいや。気楽に待とうぜ。」

「…分かった。」


一行は少し不安にはなるものの、ガディアルとビライトの帰りを待つことになった。



幼い頃にガディアルの言葉で我に返れたビライト。

そして、これまでの旅を全て見てきたというガディアル。


世界を救う最後の希望と、世界最強の守護神との会話が始まるのだった。

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