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Delighting World  作者: ゼル
Break 第七章 追憶の残滓編 ~Episode ビライト・シューゲン ボクのトモダチ~
103/139

Delighting World Break ⅩⅩⅩⅢ

「哀れだと思うかい?」


「俺は―――」




イビルライズの出生とこれまでのことを見たビライト。


エテルネルやアトメントからおおまかなことは聞いていたが、ここでイビルライズの記憶をより深く、鮮明に刻んだビライト。


イビルライズは世界の敵。


かつて邪神となってしまい、世界中の負を受け暴走した邪神ヴァジャスの残滓から生まれたイビルライズは世界が統合されたこのシンセライズのシステムによって生まれてしまった存在だった。

シンセライズで溜まった負を流し、それを正の力へと変換していくための溜め場としてあったイビルライズの世界。

ここには生命も存在しないただ真っ暗で無の世界であった。


だが、そこにかつての邪神ヴァジャスの残滓が残っており、何らかの因果で命が宿ってしまった。

それがクロ・イビルライズの正体だ。


その存在は正を…光を受けることができない闇に生きる者。


だが、イビルライズは憧れた。光に。外の世界に。

だが、イビルライズはそれを認められなかった。


自分の残滓から生まれたことを受け手を差し伸べる元邪神のヴァジャスの声にも耳を傾けるどころか、他の神々から始末するべきだと、この世界に生きる権利すらも得られなかったイビルライズは、自分を受け入れてくれない世界ならばいらないと、シンセライズを滅ぼすことを選んだのだ。



運命にも、世界にも愛されなかった哀れな子。

その事実を知ったかつての友であり、イビルライズの器であったビライトは何を感じるのか。


―――


「ボクは生まれてはいけなかった。誰もボクを受け入れてはくれなかった。ヴァジャスはボクを受け入れようとしたけど奴は自分が原因であるからこそのただの罪滅ぼしだ。そんな慰めなんてもらうぐらいなら、何もいらない。」


「…」

ただ、聞こえる虚しい空間に響き渡る声。

ビライトは言葉を失っていた。

だが、そのうちに秘めた気持ちは…変わらない。


「…俺は、それでも…あんたを止めなきゃいけない。」

「…フフ、キミはそう言うんだよね…ハハハ、アハハハ!!」

クロは笑う。

その声には悲しみだけじゃない、怒りも含まれている。


「キミは本当に変わってしまったね。これも全て…キミの周りにいる奴らのせいだ。嗚呼、憎らしい。」

「…そうだな。俺は変わったよ…皆が居てくれたから。皆が俺の背中を押してくれたから。だから、俺はここに居るんだ。」

ビライトの目に光は消えていない。


そこにはクロに対する同情は残しつつも、それでも自分の意志だけは決して曲げないという強い目だ。


「俺は、この世界が好きだ。旅を初めて、たくさんの人と出会って、多くの経験をして…時には争ったり、時には誰かを死なせてしまったり…悲しませてしまったり…本当に色々なことがあった。でも、何一つ無駄なことは無いと思ってる。だってそれが“生きる”ってことだから。」


「…キミは良いよね。そうやって好きに旅が出来て、好きに誰かと交わることが出来るんだから。憎らしいよ。」

「そうかもな。俺はクロとは違う。クロの気持ちも理解できないわけじゃない。だけど、あんたはキッカをさらった。俺の家族をさらって…しかもこの世界を滅ぼそうとしている。だから…クロが描くこの世界の終わりを願い続けている限り…俺はクロ、お前と戦うよ。」

ビライトは大剣を構える。


「…そうか、キミならボクに同情して見逃してくれるかもとか…少しでも願っていたけれど…もはやそんなことはないようだね。」

クロは姿を見せる。

人間の子供ような姿で黒い靄で覆われていて実体はよく見えない。だが、そこに纏う負の力はトーキョー・ライブラリで出会った時よりも更に増している。


「この世界は負の力が強まっている。魔王カタストロフの暴走、トーキョー・ライブラリでの魔物たちの大量死、そしてドラゴニアでのグリーディ襲来とガジュールによるヒューシュタットの支配、そして…ボルドー・バーンを失った時の君の負の感情。これら全てはボクの力となる。今やボクは世界中に撒いた残滓すらも操ることができる。」

クロはニヤリと微笑んだ。


「今もまだ、世界は受けた傷の影響で大きく疲弊している。キミたちがどんなに光を得ても…無駄だよ。」

「そんなことはない。俺は信じてる。」

ビライトはクロの言葉を強く否定。


この世界は今は疲弊していても、これから立ち直る。ヒューシュタットも元の姿を取り戻し、ドラゴニアでは今もきっと復興が続いている。

ボルドーの帰還も約束されている。


これからの世界には希望がある。正が負に負けないほどに満ち溢れる。ビライトはそれを信じている。


「全く持って憎らしい。不愉快だ。」

クロは手を前に差し出す。

「もう良いよ。かつての友だったキミはもういない。」


手には負の力が凝縮されていく。


「決別だ。」


「…!」

クロの手から放たれた負のエネルギーは光線となりビライトを襲う。


「ブレイブハーツを…!」

ビライトはブレイブハーツを発動させようと試みた。

だが、ブレイブハーツは自分の意志では発動出来るほどまだ完成されていない。


間に合わないと悟ったビライトは即座にメギラエンハンスを発動させ、真横に身体を動かし、緊急回避した。


「もう死ねよ。」

クロは次々と光線を放つ。


「ッ、クッ…!」

メギラエンハンスを使ってもギリギリになるほどに光速で飛んでくる光線をビライトは交わし続ける。


しかし、交わしてばかりでは反撃できない。

ビライトは隙を見つけて攻めに転じようとするが…

「なっ!」

「遅いよ。」


目の前にはクロが迫っていた。

光線をかわした先に待ち受けていたクロはビライトの身体に掴みかかる。

「しまった…!」


クロの腕が突然大きくなった。黒くとげとげしい竜のような腕がビライトをがっちりと掴む。


「クソッ…!」

ビライトはそこから抜け出そうとするが全く抜け出せる気がしない。力をどんなに入れてもその腕はビクともしない。


「みじめだね。」


「ぐっ…ああっ…!」

腕に力をこめ、ビライトの身体がギシギシと締め付けられる。

「う、ああ…ッ…!!」


「…こんなのでよくボクを止めようとか思ったよね。」

「こ、のおおおっ!!」

ビライトの身体が光り出す。

「ブレイブハーツか。」


「だあああっ!!」

ビライトからブレイブハーツの光が放たれる。

「くっ…おおおっ!」

ビライトの力がより増して、ビライトをつかんでいる手が動き始める。


「へぇ。流石だね。でも…」


クロはそれに匹敵…いや、それ以上の力を込める。

「っ…!」

(ブレイブハーツを以てしても…!?)


なんと、少し力を入れただけでビライトのブレイブハーツを纏ったメギラエンハンスの力を完封してしまったのだ。


「こんなもんなの?ブレイブハーツって。アハハ、笑っちゃうね。」

クロは涼しい顔でビライトを握りつぶそうとより力をこめる。

「うっ…ぐっああああああっ…!!」

「良い顔だねぇ。苦痛に塗れた良い顔だ。感じるよ君の痛いと感じる心を。それも…ボクの力になるんだよ?」

「…ッ…」

気を失いそうなほどに激痛が走るビライト。


(やばい…こんなにも力の差があったなんて…!ブレイブハーツを持っているからと…いける気になっていた…!俺はまだこの力を完全に使いこなせていないっていうのに…!)

ビライトは今の自分ならクロと対等に戦えると思っていた。


だが、クロはビライトの予想を大きく上回るほどに力をより増していたのだ。


ここはビライトの心の中。だが、ここでビライトがやられてしまうということは現実のビライトにも確実に影響が及ぶ。

いいや、影響が及ぶなんてものではない。内部からビライトの心そのものが潰されてしまい、その命すら壊されてしまう可能性だってあるのだ。


----------------------


影響は現実にも及んでいた。

時刻は夕方。間もなく夜が訪れようとしている頃だった。


アトメントからイビルライズの情報を聞きながら歩き続ける一行だが…


「…」


異変が起こっていた。


「…あー…ワリィ、ちょっと良いか?」


最後尾を歩いていたのはヴァゴウだった。

顔色が悪いようでフラフラとしているその姿は明らかに不調であると見て分かる状態であった。


「ヴァゴウさん…?」


「…お前、ちょっと服の下を見せろ。」

デーガはヴァゴウに近寄り、ヴァゴウの服を脱がせる。

胸には自分が傷つけた大きな傷が残っているままだが、その傷の跡が紫色に変色していたのだ。

それはじわりと広がっており、腕や脚にも紫色の小さな斑点が鱗に付着していた。


「ヴァ、ヴァゴウさん…!それ…!」

「ウオッ…なんだこりゃ…」

ヴァゴウもその異常を見て驚くが、次第にヴァゴウも力を奪われるかのように尻餅をついた。


「…大丈夫か。」

一行はヴァゴウの元へと駆けつけ、様子を見る。


「…ワリィ…力が入らねぇ…」

「…イビルライズの残滓の影響か。強い闇の力を感じる。」

カタストロフはヴァゴウの身体に触れ、呟いた。


「ヴァゴウはビライトほどではないがイビルライズの影響を長く受けている…このままではビライトのように目覚めなくなるかもしれん…急がねば…」

クライドは今の状況が芳しくないことを悟る。


イビルライズに長く影響を受けていた者から順にこうなってしまうならば、次に危ないのはカタストロフとレジェリーだ。

「…!ビライト…!」

カタストロフに背負われているビライトの呼吸が荒い。

激しい動悸に大量の汗をかき、顔色がどんどん悪くなっていく。


「ビライト…!」


「マズいな…イビルライズが中で何かしているのかもしれねぇ…」

アトメントはそう呟き、レジェリーたちに言う。


「応急処置になるか分からねぇが…」

アトメントはビライトとヴァゴウに手を当てる。

淡い赤色の光がビライトとヴァゴウに注がれ、2人の呼吸が安定し始める。


「これ…神様の?」


「一応な。俺たちには神力じんりきと呼ばれる力を所有している。それは俺たち神々の力であり、正の力の結晶のようなもんだ。」


「神力…」

「そ。こいつを全開に解放すれば強い力を発揮できる。俺がトーキョー・ライブラリで見せていたのは神力解放した時の状態だ。」


アトメントはカタストロフとの決戦の時に髪が逆立ち、額に紋様が浮かび、背には炎の翼が生えていた。

それが神力を解放した状態だったのだ。




「ビライトとヴァゴウに少しだけ神力を流し込んだ。今は正の力が作用して落ち着いているはずだが…イビルライズの闇は強い。これはあくまで応急処置だ。とにかく急いで神の領域に近づかねぇと、2人ともどうなるか分からねぇ。」


これはあくまで応急処置だ。

急がなくてはならないことは変わらない。


「…分かった。では今日は徹夜で歩くべきだ。」

「そうね、そうしないと間に合わないわ!腹くくらなきゃ!」


「神の領域にまで入らなくとも入り口に近づけばそれだけ正の力は高まる。まずは入り口を目指すぞ。」

アトメントに言われ、一行は速足で神の領域を目指すことにした。


「ヴァゴウ、動けるか?」

デーガはヴァゴウに言うが…

「…ワリィ…」

ヴァゴウは必死に身体を動かそうと試みるが、身体が動かない。

立ち上がることも困難になるほどヴァゴウは衰弱していたのだ。


意識がないビライトよりはまだマシとは言え、もはやヴァゴウもいつ意識を失ってもおかしくない。


「…カタストロフ。ビライトは俺が運ぶ。お前はヴァゴウを抱えられるか?」

デーガはカタストロフに言う。


ヴァゴウの身体を支えるにはヴァゴウと同じぐらいの背丈は最低限必要だ。

そしてヴァゴウと最も背丈が近いのはカタストロフだ。

「心得た。ヴァゴウ、我の肩に掴まるがいい。」


「おう…ワリィな…」

ヴァゴウはカタストロフの肩を掴み、カタストロフはヴァゴウを支える。


「…なんか持ちにくそう…」

レジェリーは呟いた。カタストロフの肩には無数の突起が生えている。

ヴァゴウも何処を掴んで良いのか分からなさそうではある。


「ム…すまない。我はどうやら掴まれることに適していないようだ…で、あれば…」


カタストロフは魔法を唱える。


「彼の者を守護せし青き泉を纏え。ブルースフィア。」

するとヴァゴウが宙に浮き、魔力をヴァゴウに纏わせた。薄い青色のような膜の中にヴァゴウはまるでシャボン玉の中に入っているような感覚になっていた。

「わっ、なにこれ!」


驚くレジェリー。レジェリーも知らない魔法のようだ。


「これならば我の魔力を使用しながらではあるが、移動も可能だ。最も…ヴァゴウの身体の大きさであれば…1人が限界だ。ビライトはデーガに頼む。」

「分かった。」


「…ワリィな…迷惑をかけちまう。」

「気にするな。」

カタストロフがヴァゴウをブルースフィアで誘導し、そしてデーガはビライトが背負うことになった。


「よし、急ぐぞ。そのまま速足で行けるな?カタストロフ。デーガ。」

「問題ない。」

「行けるぜ。」

カタストロフもデーガも全く問題なさそうだ。


「流石抑止力ね。」

「俺たちも足を引っ張るわけにはいかない。」

「もちろん。あんたこそ足引っ張るんじゃないわよ。」

「こっちのセリフだ。」


この中だとレジェリーとクライド以外は抑止力だ。2人は足を引っ張らないように気を引き締める。



ビライトとヴァゴウを抱えながら急ぎ、神の領域を目指す。

まもなく夜が訪れる。

だが、一行に休んでいる時間はない。

魔物もいない、気候も安定している今の状況であれば、多少の無理はするべきだと誰もが考え、歩き続けるのだった。


そして、先程の応急処置を受けたビライトは…



----------------------



「ッ…ハッ…ハッ…グッ…」

「弱い。弱いよビライト。」

哀れみの顔で見つめるクロはギリギリとビライトを締め付ける。


だが…


「…!」

ビライトの身体の痛みが和らぎ、少しだが、力が湧いてくるような感覚を覚えた。

外部ではアトメントが神力を送り込んだことで応急処置を施したのだ。


「こっ…のおおおおっ!!!」

ビライトは気合で声を張り上げて腕を大きくこじ開ける様に力を込めた。


するとクロの腕が徐々に開き始め、ビライトはなんとかそこから脱出することができた。


「ふぅん、外部から邪魔が入ったか。」

クロは微笑んだ。

「でも、やっぱりキミの負は美味しいね。ボクの力がより高まるのを感じた。そのお陰かな。キミの仲間を1人動けなくすることができた。」

「何…!」

誰かは分からない。だが、ビライトに緊張が走る。


「キミの仲間たちは神の領域を目指している。ボクの干渉から逃れるためにね。」


(神の…領域…俺たちが目指しているイビルライズもそこにあるんだっけか…)

「フフ、確かに神の領域は正の力に満ちている。ボクの残滓も取り除けるだろうね。なら、それまでに君も、キミの仲間もじわじわと弱らせて…どうにもならないようにしてあげよう。」


「…みんな…俺は…必ず耐えきるから…だから…任せたぞ…!」

ビライトは再びクロと対峙する。

状況は不利でも、今は仲間たちを信じるしかない。



ビライトは必死に仲間たちの顔を思い浮かべながらクロの猛攻を食い止める。


腕を自由自在に変化させて襲い来るクロの攻撃をかわしながら、剣でうけながしながら対応していく。

「時間稼ぎかい?それだといつボクに捕まるか分からないねぇ。」

「くっ、クソッ…」

次第に追い込まれていくビライト。

この空間には壁は存在しない。自由に逃げ回ることは出来るものの、相手は疲れを知らないのか容赦なく猛攻を繰り広げる。

「ボクに協力してくれるって言えば助けてあげるけど?」

「…ッ、それは…出来ないッ!!」

ビライトはなんとか反撃の隙を見つけようとするが、ビライトの身体には確かに疲労が溜まっていく。

メギラエンハンスとブレイブハーツを併用してもクロに攻撃1つも与えられない。


もはやこれまで…と思いそうになるが、ビライトは気持ちをしっかり強く持つ。


「…ダメだ、弱気になるな…!俺は…!絶対にお前に屈しない…!仲間が俺のために…頑張ってくれているんだ。俺が頑張らなくてどうする…!そうだ…俺は…1人じゃない!」

ビライトは仲間のことを何度でも思い続ける。


それはビライトの力をより強いものへと変えていく。


「…何だ、ビライトの力が高まっていく…?」


―――


レジェリー。


いつも元気で、みんなを盛り上げてくれて、仲間になってくれた時も…全く赤の他人だった俺とキッカのために命を懸けて頑張ってくれている。

キッカにできた初めての友達。


俺がくじけてる時も、優しく声をかけてくれた。

そして今も…きっと必死に戦っている。




クライド。


いつも厳しい言葉で俺を立ち上がらせてくれるけどそれはクライドなりの優しさなんだって…俺には分かる。

俺が間違えた時はクライドが正してくれた。


俺がここまで間違いをしながらも歩き続けられるのはクライドのお陰なんだ。



ヴァゴウのオッサン。


オッサンは旅の始まりからずっと、ずっと傍に居て、俺を支えてくれた。

どんな時でも明るくて元気でおおらかなオッサンの気持ちが俺にとってはとても暖かかった。

そして、誰よりも辛い現実を見て、誰よりも苦労しているのに、くじけずにいられるオッサンに…俺は憧れているんだ。



デーガ。


最初はおっかなそうだと思った。そりゃ最初の試練の時に死の宴の中で何度も殺されたんだから。

でも、それを乗り越えた俺たちに力を貸してくれて…

いつもかったるそうにしていて、厳しい言葉も言うけれど、とても頼りになる。

実はすごく優しい抑止力なんだって…分かるよ。



アトメント。


最初は胡散臭いって思っていた。

でも俺たちをここまで導いてくれて、トーキョー・ライブラリの時は戦いにも参加してくれてさ…たくさん助けられたよな。

世界を想う気持ちは本物で、そのためには少しドライなことをするときもあるけれど…それでも、アトメントが俺たちをここまで導いてくれたから…今俺はここまで来られているんだ。



カタストロフ。


レジェリーから話は聞いていたけど…見た目に反してとても優しくて…お人好しで…誰よりも仲間のことを想ってくれる。

まだ少ししか話が出来ていないけれど…これから…もっと交流して…仲間として一緒に頑張れたらって思ってる。



ザイロンさん。


レミヘゾルに旅立つ時、ザイロンさんが教えてくれた。俺の、ううん。俺たちの力の源は絆であり、心の強さなんだって。

その心があったから。繋がる絆を忘れなかったから。

俺たちはブレイブハーツを得て…カタストロフを助けることも出来た。

ザイロンさんと話が出来て良かった。



フリードさん。


身を挺してドラゴニアを守ったフリードさん。

フリードさんは言ってた。

“この世界を楽しめ”って。その気持ち、忘れてないよ。俺はこれからもこの世界で生き続けたい。この旅で出会った仲間たちとも、これからも楽しんで生きていきたい。

そのために俺は…この世界を守りたい。そして、キッカを助け出し…夢をかなえたい。キッカと一緒に今度こそ…楽しい旅をするんだ。



ボルドーさん。


ボルドーさんが命を懸けて俺を庇ってくれたこと、今でも思い出すと苦しいんだ。あの時の自分がどれだけ無力で、どれだけ弱かったかって。

でも…夢さえも諦めよう、生きることすら拒絶しようとした俺に、ボルドーさんは言葉をかけてくれた。

ボルドーさんが教えてくれたんだ。俺は1人じゃないって。

だから俺…ボルドーさんを復活させることができて凄く嬉しいんだ。今はまだ別の場所で戦っているみたいだけど…戻ってきてさ、また会えるなら…もっと、色々な話をしたいよ。もっと色々教えて欲しい。だから…楽しみなんだ。ボルドーさんにまた会えるのが。



そして、キッカ。


キッカ、辛いよな。苦しいよな。きっと泣き出しそうだよな。俺さ、あれからお前と離れ離れで苦しいよ。


でも、待ってて欲しいんだ。俺は絶対にお前を助けに行くから…!これは、昔俺がお前にしたことに対することとか、そんな気持ちじゃない。

ただ1人の家族だ。クロに依存していた俺をまだ“お兄ちゃん”と呼んでくれた。

嬉しかったんだ。俺は…ずっと…キッカと一緒に…生きたいんだ。この世界を。


一度死んでるとか、イビルライズとかシンセライズの器だとか、そんなことはどうだっていいんだ。

俺は、俺はお前と一緒に…この世界を楽しく生きていたいんだ。みんなと一緒に…明るい未来で…!!





「俺は…1人で戦ってるんじゃないんだッ!!」


「なんだ、力が強まっている。」


「だあああああーーーーっ!」

「速い!」


ビライトの反撃が始まった。


ビライト速度が一気に高まり、ブレイブハーツの赤い光を纏った大剣はクロの腕を両断する。


「何ッ!」

「はああーーーーっ!!」

ビライトの大剣はクロの身体スレスレを切り裂いた。

そのまま連撃を狙うビライトは大剣をクロに向かって振り続ける。


「ボクが押されている…!このボクが!」

クロは腕を大きく変形させ、竜のような腕でビライトの大剣を受け止める。

「くっ…おおおおっ!!」

「ブレイブハーツの力が強くなっていく…!お前のその力の源はなんだ…!?」

「俺は…みんなと明るい未来に行きたいだけだッ!!キッカも!オッサンも!クライドも!レジェリーも!これまで出会ったみんなと一緒に…これからも…ッ!!」

ビライトはしゃがみ、クロの懐に入る。

「クッ!」

「ハッ!」

クロはビライトを上から攻撃しようとするが、腕が大きすぎて攻撃を与えられない。

ビライトは手から咄嗟に覚えたばかりの炎属性の初級魔法をクロの背に当て、ひるませる。

「その程度の魔法でッ!」

「隙ありだッ!!!」


ビライトは怯んだタイミングを狙い、クロの背を大剣で切りつけた。

「!」


「だあああーーーっ!!メギラ!ブレイブハーツ!もっと力をッ!」


「やるな…!!」


あくまでここに居るクロは残滓だ。ここに居るクロを倒したところで本体を倒せるわけではない。

痛みも感じないクロはビライトに切りつけられても痛そうにはしていない。


だが…


「再生できない…!ブレイブハーツかッ…!」

ブレイブハーツの力がクロの残滓に流れていく。

それはクロの再生を邪魔し、やがて体がボロボロと砕けていく。


「ハァ…ハァ…」


「フフッ、アハハ!やるね!ここまでやるとは大したものだ!!良いよ!今は見逃してあげるよ!ボクの本体はもっと力を蓄えている!まもなくこの世界全てを負で染めるだけの力が整うんだ!その時こそ…キミたちの最後さ!楽しみにしておくんだね!」


クロは高笑いをし、呟いた。


「ボクはもう、立ち止まれない。ボクを止めたければ…ボクを倒してみろ。」

クロの残滓はビライトの中から消え失せた。


「…ッ…」

ビライトはガクッと膝をつき、倒れた。


(…気配はない…みんな…もうすぐ起きるから…でも、今は……少し、眠らせてくれ……)

視界が閉じていく。


(クロ…お前を倒すことでしか救えないのか…?でも俺は…お前のことは許すことは出来ない…)

ビライトの意識はより深く、沈んでいく。



(だけど…これからのお前を…許すことが出来る……でも、お前はもう…引き下がれないんだよな…なら…俺が……止めてやる……か、ら…)




―――




----------------------




この変化は外でも起こっており、ビライトの顔色は少しずつ良くなっていった。

時刻は深夜。一行は休む間もなく神の領域を目指して歩いていた。


「呼吸が安定して来たな。ビライトも自分の深い意識の中でイビルライズと戦っていたのかもしれねぇな。」

ビライトを背負うデーガが呟いた。


「ホント!?良かったぁ…でも、ヴァゴウさんは相変わらずみたい…」

レジェリーはカタストロフのブルースフィアの中で辛そうにしているヴァゴウを見て呟く。


「カタストロフ、レジェリー、お前たちは大丈夫なのか。」

クライドは2人に問う。

カタストロフもレジェリーもイビルライズの影響を受けている。残滓が残っている可能性が高いのだ。

特にカタストロフは一度イビルライズに暴走させられている。


「あたしは平気だけど。」

「我も今のところは問題ない。だがヴァゴウも気がつけば急に体調を悪化させていた。我々も急に何かが起こるかもしれぬ。急がねば…」


ヴァゴウの状態がこれ以上悪化しては最悪の結果もあり得る。

そして、レジェリーとカタストロフもまた、どうなるか分からない状況である以上、一行は急がなければならない。


「このまま夜通し行けばあと半日ぐらいで神の領域の近くまで来れるはずだ。入り口付近でも正の力は多いからな。今よりはよくなると思うぜ。そこまで来たら一旦は休みを取れるな。」

アトメントは一行を誘導しながら歩く。


「え、そこまで来たなら領域の中まで一気に行けばよくない?」

レジェリーは言うが、「そういうわけにはいかねぇんだよ」とデーガが言う。


「どうして?」

「神の領域には“番人”が居る。まぁ…抑止力の試練だと思えばいい。」

「番人…?そいつも抑止力…神なのか?」

クライドは尋ねる。


「あぁそうだ。戦いになっても恐らくお前らじゃ…いや、俺たちでも勝てねぇぐらいの“バケモン”が居る。」

「へ…?」

「…どういうことだ。」

「まぁそれは入り口付近まで来たら話してやる。今は急ぐぞ。」


不安な言葉を耳にしてしまったレジェリーとクライドだが、今は考えている余裕などない。いずれ分かるのだから…

一行はビライトとヴァゴウの状態を良くするため、急ぎ、神の領域を目指すのだった…





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