Delighting World Break ⅩⅩⅩⅡ
カタストロフをイビルライズから救い出したビライトたち。
しかしビライトはカタストロフの心から出る際にイビルライズの残滓によって意識を奪われてしまった。
ビライトは夢を見る。
その中でビライトは自分の幼い頃の記憶を鮮明に振り返っていた。
漠然としていていた記憶、思い出してもなお覚えていなかった記憶。
ビライトは幼い頃、抑止力に出会っていた。それはまだ会ったことのない抑止力。
そして、自分がいかにクロに依存していたかを改めて思い知った。
クロの記憶を失うまでの時間を体感したビライトは夢から更に深い心の中へ。
そこでビライトはイビルライズの意志を持った残滓と対話する。
クロは世界の敵だ。そして、かつての友だった存在だ。
だが、ビライトはキッカをさらい、世界を滅ぼそうとするクロに手を差し伸べることは出来ない。
だが、クロが何故このようなことをするのか。そもそもクロは何故生まれたのか。
クロ・イビルライズとはいったいなんなのか。
それを知る為、ビライトは自らクロを知るために、更なる記憶へと身を委ねることになった…それは、世界統合戦争から数百万年が経過したころまでさかのぼるのであった。
一方、シンセライズの仲間たち。
意識が戻らず眠り続けるビライトを抱え、一行は神の領域を目指して足を進める。
ここは名も無き荒野。トーキョー・ライブラリから真東に歩き続けると、その入り口が見えてくるという。
イビルライズの残滓を打ち払うためには、宿主の内部にある残滓を取り払わなくてはならない。
神の領域は正の力のみが存在する聖なる場所。
そこならばイビルライズの残滓を浄化することができるかもしれない。
アトメントが言うには治療に特化している者も存在するという。
そして、この残滓が宿っているのはかつてイビルライズの器であったビライトだけではない。
イビルライズの力の影響を受けた者たち全員に残滓が宿っている可能性があるのだ。
一行の中だと、長い間イビルライズの記憶操作の影響を受けていたヴァゴウ。
そして、イビルライズに侵されたカタストロフ。
そしてカタストロフの心に入ったレジェリー。
この3人はいつイビルライズの残滓の影響を受けるか分からない。
一行は3人に何か起こる前に、そしてビライトを目覚めさせるためにも、急ぎ神の領域を目指すのだった。
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「しかし、本当に変わり映えしねぇな。」
辺りを見渡しても一面の荒野。
草木も生えておらず、丘もなければ水辺も無い。
ただ同じ高さの大地が延々と広がっているだけだ。
「それに…この土の粒子、大きさが同じなのよね。それでいて均一に敷かれていて…段差すらも無い。自然なのに自然じゃないってカンジ。」
レジェリーはそう呟き、地面の砂を触る。
「この地はかつての“グァバン”という世界からやってきた場所だ。そこは世界統合戦争前に滅びてしまった世界でな。」
アトメントが得意げに解説を始める。
「あぁ、歴史書にも記されていたな。邪神グァバンが世界統合戦争前に倒され、世界は滅びたと。」
クライドは思い出しながら語る。
「そ。神が消えた世界は全てが無機質となり、何も残らない。その結果がこの荒野だ。わらっちまうぐらい何もねぇ!」
アトメントは手を広げ、荒野を見渡して笑う。
「滅びた世界は全部こんな荒野だったってのか。」
「神の領域もグァバンから来た地形の中にあるがそこは岩場だ。だが、生物もいない無機質な場所でな。神の居ない世界には何も残らねぇのさ。」
神様の居ない世界。
それはすなわち世界が滅びると同義。このシンセライズという世界も、同じなのだろう。
「この世界もそうなんだよね、師匠。」
レジェリーはデーガにも質問する。
「まぁ、そうだな。だが今までと違う点があるとすれば…この世界は八人の神々全てで管轄されている。一人一人が特定の要素を管轄しているから1人神が死んだところでこの世界は滅びねぇ。最も…エテルネル・シンセライズとヴァジャス・シンセライズだけは別だがな。」
デーガが語る2人の神、エテルネル・シンセライズとヴァジャス・シンセライズ。この2人は八神の中でも特別の存在のようだ。
「序列第1位、世界創生・原初の神エテルネル・シンセライズ。序列第2位、罪を背負いし白銀の竜ヴァジャス・シンセライズ。彼らは世界の核となる存在だ。特にエテルネル・シンセライズには正の力をエネルギーへと変換する役割がある。エテルネルが死んだとき、この世界は負の力に溢れ、大混乱が巻き起こるであろう。」
ビライトを背負いながら歩くカタストロフは呟いた。
「もう一人、ヴァジャス・シンセライズは負の力を正の力のエネルギーへと変換する役割を持っている。」
「えっ、凄い!そのヴァジャスっていう神が居るからこの世界は負に侵されないってことなの?」
ヴァジャスの持つ力はとても良いもののように聞こえるが…
「そうだ…だが、今は違う。」
と、カタストロフは首を横に振る。
「ヴァジャスの力は残り七人の神の力を集約し、ヴァジャスが中心となることで成り立っている。特にエテルネルはここに大きく力を分け与えている。そして今、エテルネルは力を大きく弱めている。つまり…ヴァジャスの力も弱まっているということだ。」
カタストロフは今の状況が芳しくないということを伝える。
エテルネルの力はイビルライズが活性化するほど弱まっていく。つまりエテルネルの力が弱まっているということは、ヴァジャスの力も弱まっているということだ。
負の力を抑えきれず、それがイビルライズの活性化の一因にもなっている。
イビルライズが活性化すればエテルネルの力が弱まり、そしてヴァジャスの力も併せて弱まってしまう。
そして負の力は更に抑えが効かなくなり、世界にあふれ出る。それはイビルライズにとっては美味い餌だ。
完全に状況は連鎖的に悪い方向に向かっているのだ。
「世界に負が蓄積するとそれは時には天災となり、時には我とデーガが管轄する魔物の制御にも影響が及ぶ。そして…」
「そ、そして?」
「時には人の心を狂わせる。それは世界にとっての悪となる。ゲージュや魔竜グリーディのように…な。」
「…」
ヴァゴウは思うところがあるようで、表情を曇らせる。
「…グリーディが道を間違えたのも、負の力の影響なのか?」
ヴァゴウはカタストロフに訊ねる。
「全てがそうではない。だが無関係ではないだろう。」
「そうか…だったらこれ以上悪いことにならねぇようにしねぇとだな。」
「…ウム。我も、この世界をこれ以上汚すことを見過ごすわけにはいかぬ。我は…生きる希望を得たのだから、この世界を悪しき者から守りたい。」
カタストロフはレジェリーを見て呟き、レジェリーはちょっと照れ臭そうにするが、微笑み返した。
そして、ヴァゴウはグリーディが自分の親であるからこそ、負の力の影響が少しでもグリーディの人生に影響したのであれば…そしてもうあのような存在が生まれることは決して無いようにしなければならない。
そう感じるからこそ、ヴァゴウは気合を入れ直した。
これからの未来を決める大事な戦いなのだと、一行は改めて感じるのだった。
「…負を発生させないようにすることは、やっぱり出来ないのかな。」
レジェリーは呟く。
「負のない世界なんてありえねぇ。生物には感情がある。正の力も、負の力も生物の感情、心が産むものだ。それは生物の特性なんだよ。」
デーガはレジェリーの呟きを否定する。
「そう、だよね…あたしたちには感情がある。心がある。それがあるからあたしたちは笑ったり泣いたり、怒ったりするんだもんね。」
「そういうこった。負は必ず生まれる。それらを何とかするのが抑止力の務め…なんだがな。」
アトメントは今の現状何も出来ていないことを理解しているが故に、少し言葉を濁す。
「なぁに、ワシらにはブレイブハーツがある!なんとかなるだろッ!」
ヴァゴウは前向きな言葉をかけ、場を安心させる。
「…だな、期待してるぜ。」
アトメントは微笑んだ。
「神の領域まではあと2日ある。せっかくだから今晩はイビルライズについて詳しく教えておくぜ。奴が何故生まれ、どういう意図がありこの世界を滅そうとしているのかをな。」
アトメントはイビルライズが何者なのかを詳しく語ることにした。
「そうね、あたしたちがこれから戦わないといけない相手だもの。より詳しく知るべきだわ。」
「ただ、これは奴に対しての同情を生む可能性もある。そこだけは注意しとくぜ。どんなに同情が生まれたとしても奴は世界の敵だ。決して躊躇はすんな。」
アトメントはレジェリーたちに忠告した。
デーガとカタストロフもここに関してはアトメントと同じ気持ちのようだ。
レジェリーたちは頷いた。
何もない荒野の旅はまだ続く…
そして…ビライトもまた、こことは違う場所で、イビルライズのことを知ろうとしている…
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―――はじめて意識を感じた時には既に絶望していた。
辺りを見渡しても、そこにあるのは只の真っ黒でなにもない空間。
虚無だった。
そして蠢く目に見えない何かは自然と耳に入り、身体を侵食していく。
ボクは…いったいなんなのか。
ここは何処なのか。
ボクは、誰なのか。
誰も知らない、誰も分からない、何も知らない。ただ、あるのはこの身体に流れていく“負”という力。
何も知らなくても分かる。
これは、悲しい。
これは、怒り
これは、失敗
これは、妬み
これは、恨み
これは…絶望。
聴こえる声は、悲鳴、叫び、辛い、痛い、怖いと嘆く声。
この全てがここに凝縮され、ボクの身体を壊していく。
でも、ボクはこの環境以外を知らない。だから、これは当たり前のことだと思っていた。ボクはこういう生物なんだと受け入れることにした。
だけど、ボクが当たり前なんじゃない。
ボクは…異常だったんだ。
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ボクは好奇心を抱いた。
この空間の先にもずっとこの虚無が続いているのだろうかと。
いつかそこには色があるのではないか。いつかそこには光があるのではないか。
ボクは、ここにある“負”ではない何かを追い求めた。
そして、見つけたのは……希望という名の絶望だった。
「…なんだヨこレ…」
流れてきたのはとても心地の良いもの。
これは“正”だ。
これは、笑顔
これは、希望
これは、夢
これは、成功
これは…愛。
なんて、眩しくて、明るくて、優しい。
だけど…
「…ボクも…ッ…!」
そこに手を伸ばそうとすると、ボクの身体は朽ち始めた。
「あ、アアアアッ…!痛い…ッ。痛いッ!!!」
焼ける様に眩しいその力はボクを拒んだ。
「ドウシテ…ドウシテダヨ…」
ボクはそこに居てはいけないのか。
ボクは…光を求めてはいけないのか。
何故だ。
どうして、ボクはそこに行けないんだ。
どんなに手を伸ばしてもとどかない明るい光。
やがて、ボクの心にも、嫉妬が生まれた。
「ユルセナイ。どうして…どうしテお前たチばかリ…」
羨ましかった。
許せなかった。
ボクはこんな暗い場所に閉じ込められているのに、のうのうと笑っている奴らが許せなかった。
ボクの中に流れている感情は、こんなにも辛いものばかりだというのに。
―――
「聞こえるか。」
「…誰だヨ。」
「…やはり、宿っているか…新しい命、イビルライズよ。」
ボクに話しかける存在。
その気配には少しだけ懐かしい感じがした。
「イビルライズ…それはボクのことカ。」
「そうだ。私の名はヴァジャス。そなたの…そうだな…元となった存在…と言うべき者だ。」
そいつは自分のことをヴァジャスと名乗り、ボクの元になった存在だと語る。
何を言っているのか分からないが…親のようなものなのだろうか。
「…そのヴァジャスが…ボクに何の用?」
「…私は…そなたを救いたい。」
ヴァジャスの声は力無く語りかける。
「…ボクを?」
「…そうだ。そなたは私がかつて邪神であったときの残滓から生まれた存在。つまり…私の罪のカケラなのだ。」
「…」
「イビルライズ、そなたはそこから出ることが出来ぬ。これは私にも変えることが出来ぬ定め。だが…私はそなたに寄り添うことができる。」
ヴァジャスはボクに優しい言葉を投げかけるが…
「…それデ…どうするつもりなんだイ?」
「そなたの抱える負を私が少し肩代わりしよう。少しは…楽になるはずだ。」
「…それ、何も変えられないじゃないカ。」
「…」
ボクはそんな中途半端な策しかないのなら、それは意味が無いことだと思った。
「変わらないかもしれぬ。だが…私に出来ることを、させて欲しい。」
「…分かるサ。アァ。ハハ。」
ボクは天を睨みつけて笑う。
「お前、ただ罪滅ぼししたいだけなんだロ。」
「…私は…」
「分かんないとでも思ってル?なんとなく分かるヨ。きっとお前とボクは似ているからなんだろうネ!それはボクのためじゃなイ!お前のためダ!!ハハッ、そうなんだロ!」
「…」
何も言えなくなったヴァジャスにボクは畳みかける。
「いいヨ!だったら好きにしろヨ!お前がボクの負を肩代わりするなら、ボクは必ずここから飛び出し!お前たちの明るい世界をぶっ壊してやル!!」
「…イビルライズ…」
ヴァジャスの言葉を否定し、ボクは宣言した。この世界を飛び出し、ボクはお前たちの世界をぶっ壊してやると。
「ヴァジャス、無駄だ。コイツは我々ではどうすることも出来ん。」
別の声が聞こえる。
傍に誰かいるのだろう。
「…しかし…私は…」
「世界に災厄をもたらす存在だ。育ち切る前に滅するべきだ。」
ボクを殺そうとしている。やっぱりそうか。ボクは誰にも愛されない。この世界に生まれてはいけなかった。
「…ユルセナイ。コンナボクヲ生み出した…この世界ガ…ユルセナイ。」
「!」
ボクも、いつかあの光に触れて、そして…この暖かい気持ちを知れると思っていた。
皆と同じようになれると思っていた。だけど、そんなものは…何処にも無かった。待っていたのは残酷な運命だけだったんだ。
「ウアアアアアアアアッ!!!」
ボクは今まさに、抱えた全ての負を力に変え、天を貫いた。
「!!いけない!やめるんだ!」
更に別の声が聞こえた。だが、もう知らない。どうでもいい。全部消えてしまえ。
「エ、エテルネル!!」
ヴァジャスの叫び。そしてエテルネルと呼ばれる者がボクの力を遮る。
「ッ…クッ…ううっ…」
「エテルネル!」
「…ハハハッ、外だッ!!」
僕は光をつかんだ。
外の世界へと飛び出したボクは神の領域を飛び出し、シンセライズの空を飛ぶ。
「ここガ…外の世界!!アッハハハハ!!!正の力も、負の力も感じル!!でもここにはボクの居場所はナイ!なら、壊してやル!何もかモ!!」
「ボクを受け入れない世界なんてイラナイ!!ボクを殺そうとする世界なんてイラナイ!!ボクは…ハハハ、生まれてはいけなかったんだかラ!!」
ボクはそれから、世界中に暗躍し、負の集まる場所を転々として成長していった。
いつか世界の脅威となる存在となり、その時は全てを壊してボクも死ぬ。
それでボクの憎しみは全て終わりを迎えるんだ。
だけど、ボクにはどうしても足りないものがあった。
それは世界の負ではなく、生物個人による濃い負だった。
世界に蔓延る負はとても多いが、それは世界に拡散しているため、とても弱い。これではいつまでも力を得ることは出来ない。
そこで目を付けたのが、個人の負だった。
ボクは器を探して世界を回った。絶望を抱えた者を探しに。
だが…ボクを追いかけてくる奴が居た。
「待って!イビルライズ!」
「…シツコイ…!」
エテルネルだ。
奴はボクの攻撃を受けて力を弱らせている。
エテルネルの力が失われるとこの世界は破滅に向かう。だから、エテルネルは自分の力の半分を分離させ、ボクを追いかけてくる。
残りの半分は何処かボクの気づかれない場所に身を隠しているようだ。
「…チッ、、面倒だネ…おや?死にかけの人間か…?」
近くに炎で燃えている密林がある。
そこでは見るも無残な光景が広がっていた。
ドラゴンが1匹。そして多くの人間が息絶えており、燃え盛る炎で黒焦げになっている者、ドラゴン便が運んでいた木材に身体を貫かれて死んでいる者まで居た。
その中で、生き残っている人間の子供が2人居た。
人間の男と女が1人ずつ。
まだ2人共幼いが、男の方が年齢は上のようだ。むしろ女の方はまだ赤ん坊。
この状況でも負の力は何も感じない。
だが、男の方は悲しみと絶望に支配されている。そして、まもなくその命は尽きようとしている。
…エテルネルは手を出せないだろう。ならば、これは良い機会だ。
「ちょうどいい。お前の身体を借りル。」
「あ、あああああっ!!!?」
ボクは男の身体に入り、器とした。
「イビルライズ…!この人間の身体を器にするつもりか…!そして力を蓄えるつもりなのか…!」
こうなればエテルネルもまた、イビルライズの器を見ておく必要がある。
そのためには、自分も器を見つけなければと考えた。そして目を付けたのが赤ん坊の女の方だった。
「彼女はまだ幼い…でもまだ…魂が離れていない。だったら…!」
エテルネルは女の身体に入っていく。
「今こソ…蘇ル!」
「今こそ…蘇って!」
こうしてボクはビライトに。
エテルネルはキッカの身体を器とした。
ボクはビライトを利用して力を得ようとしたが失敗に終わった。
エテルネルはキッカが成長するまで何もせずにボクを監視しながら時を待っていた。
だが、生物は普通に生きていても負を生み出すものだ。
それがわずかなものだとしても、個人の生み出す負を吸収する方が効率は良い。
それから十数年と時間がかかったが、ボクはようやくビライトの身体から力を切り離すことに成功した。
「な、なんだこれ…!」
「た、助けて!助けてお兄ちゃーん!!!」
「キッカーーーーッ!!」
ボクはキッカの身体を奪った。
そこにエテルネルの力もあるだろうと踏んだからだ。
だが、キッカは完全に奪えず、精神体はビライトとくっついてしまった。エテルネルの力も全てを奪ったわけではなかった。
ボクも核をビライトの中に残し、ビライトの中で精神体のキッカの力を少しずつ奪い続けた。それはわずかなものであったが、時間をかければいずれは全てを奪えるだろうと考えた。
しかし、都合の良いことにビライトはボルドー・バーンを失ったあの時、心の中の負を一斉に解き放ち、ボクの力は覚醒まで一気に加速した。
お陰でボクはより一層力を高め、キッカを完全に奪うことに成功した。
これでエテルネルの力の半分はボクの手中に収まった。
残るは姿を隠している残り半分のエテルネルだ。
その場所は未だにつかめてはいないが、ボクはまだまだ力を高めることができる。
この世界に蔓延る問題はまだ多い。
魔竜グリーディの襲来により、ドラゴニアを始めとする3つの大国は混乱の最中だ。
そして、魔王デーガ、魔王カタストロフの瘴気の毒問題。
これらから溢れる負の力をボクは更に吸収した。
後者はもう解決してしまったようだが、それまでの過程でボクは十分カタストロフから負の力を貰った。
それに、カタストロフには残滓を残してある。今もまだ、ボクは奴の力を吸収し続けている。
―――よりボクの出来ることは増えていった。
ボクに干渉された者に残滓を残し、力を奪うことも出来るようになった。
ビライトの仲間たちの中にも残滓を残している者たちが居る。彼らからも力を奪い、そしてもっと上手くいけば操ったりすることも出来るかもしれない。
ボクはまだまだできる可能性を残している。
もっと、もっと力を得ることができればいずれエテルネルのもう半分の力を見つけることができるだろう。
そのためには…残りの抑止力共、そしてビライトを始めとする奴らをまとめて始末する必要がある。
フフフ、もうやるべきことは定まった。
ボクの力を以て、この世界をぶっ壊す準備はもう整おうとしている。
―――
生まれてこなければよかった。
何故ボクは生まれてしまったのだろう。
何がヴァジャスの残りものだ。
何がイビルライズだ。
何が世界の敵だ。
ふざけるなふざけるなふざけるな。
ボクには…光を浴びる資格すらない。当たり前の権利すら与えられないボク。だけど、世界を滅ぼすだけの力を持っているボク。
だったら…答えは簡単だ。
ボクを受け入れないこんな世界はいらない。誰が手を差し伸べようが信じられるものか。ボクは……世界の敵なんだ!
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―――
「…」
真っ黒な空間で再び目を開ける。
これは、現実だ。
「…これが…イビルライズの過去…」
ビライトは呟いた。
正がつかめない。負を抱えるしかなく、存在が世界を脅かす者。
イビルライズは、世界の敵。彼がそれを望まなくても、この世界に居てはならない存在だった。
生まれた時から彼は決して逃れることの出来ない、理不尽な運命を持って生まれてしまったのだ。
その正体はかつて人々の負の力を一身に受け、邪神となったヴァジャスの残滓から生まれてしまった存在だ。
元をたどれば…これは今の神々が遥か昔に落としてしまった失敗から生まれたものだ。
ビライトは、イビルライズの運命に対して胸を締め付ける。
誰かが悪いとするならば、これは…きっと神々を含めたこの世界に生きる人々なのだと。
負を生み出す生物。
そしてそれをコントロールすることに失敗した神々。
この要因が絡み合い、生まれてしまった者…そして、自分たち生物の生み出す負の心。
とても、理不尽だ。
「―――哀れだと思うかい?」
イビルライズは語り掛ける。
「俺は…」
ビライトはイビルライズの過去を知り、何を思うのか。
ビライトとイビルライズの対話は続く・・・