Delighting World Ⅸ
ドラゴニアにやってきたビライトたち。
早速未踏の地に行くための許可証を貰いにドラゴニア城に行くが、その望みは絶たれてしまう。
途方に暮れている中、竜人が襲われているところを目撃。
襲っていたのは機械人間”オートマタ”が6体。
ヒューシュタットの技術で作られたそれと対峙したビライト、キッカ、ヴァゴウの3人。
なんとか倒すことに成功したが、陰に隠れていた7体目のオートマタに襲撃される。
ビライトをかばって負傷したヴァゴウ。
絶体絶命の時、襲われていた竜人がドラゴニア兵たちを連れてやってくる。キッカの回復魔法と力を合わせてヴァゴウはなんとか回復をすることができた。
襲われていた竜人の名はクルト・シュヴァーン。魔法学園の学園長であり、ドラゴニアの魔法部隊の隊長でもあった。
クルトはビライトたちに告げる。王が会いたがっていると。
ビライトたちは許可証を貰うことができるのだろうか…
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「王よ、お連れいたしました。」
クルトは扉の向こうから声をかける。
そこは玉座の間ではなく、王の私室のようだ。
「入るがよい。」
少し力無い声が聞こえる。
扉を開けるとそこにはキングベッド。そこに力なく座っている老竜人。
「王よ、私を助けてくれた旅の者達をお連れ致しました。」
「あぁ、苦労をかけるな…本来ならば我が赴かねばならぬが…」
「あなたが…ドラゴニア王ですか?」
「こちらが現ドラゴニア王、ベルガ・バーン様でございます。」
「ドラゴニアの英雄王バーン様の子孫、ベルガ様…まさか本当に会えるなんて…!」
レジェリーは感動的になっている。
「そうだとも、私はベルガ・バーン。このドラゴニアの王である。旅の者よ。このような場所で申し訳ない。私は今、ここから動くことは出来ぬ故、許して欲しい。」
「い、いえ。もしかして…身体がよろしくないとか…?」
「あぁ…私はこの見た目の通り…老体だ。もうずいぶんと長い時を生きてきた。」
ベルガは見たところ相当な高齢のようだ。
身体の鱗は剥がれ落ちており、力無い姿をしているが、身だしなみはとてもしっかりしており、王の風格というものを感じることができる。
「故に私は現在、療養の為、ほとんどをこの部屋で過ごしている。」
「これが王が謁見が出来なくなった理由だったのね。」
レジェリーは納得するが…
「いえ、それだけではないのです。」
クルトが言う。
「ビライトさん、キッカさん、ヴァゴウさんが戦ってくださったオートマタ…つまりヒューシュタットがほとんどの原因です。」
「ヒューシュタットが?」
「ヒューシュタットは我々ドラゴニア、そして獣人国家のワービルトにて怪しい行動を見せていることが分かっている。」
王がため息をつく。
「ヒューシュタットは何かを企んでおる。故に誰であろうと警戒を怠るわけにはいかなくなてな。旅の者と話をするのはとても楽しみだ。だがこの状況なので断らざるを得なくなった。」
「でも、俺たちも旅の者です。なのにどうして?」
ビライトは王に尋ねる。
「簡単だとも、そなたたちはクルトを助けてくれた。そしてヒューシュタットのオートマタを倒してくれた。そのような者を疑うほど愚かではない。そして国を守ってくれた恩人たちに礼の一つも言えぬなど、納得いかぬのでな。」
王はゆっくりと頭を下げた。
「ありがとう、旅の者。」
王に頭を下げられるなんてと、ビライトたちは焦ったが、しかしそれと同時に嬉しさもあった。
「さて、一応クルトから話はある程度聞いているが…もう一度そなたたちから、話を聞かせてもらおうか…そなたたちは何故、未踏の地の許可証を求む?その少女が関係しておるのか?」
キッカは自分のことだと思い、えっとえっとと慌てふためいた。
「キッカのこと、見えてるんですね…ならお話がしやすいです。」
ビライトは、改めて自分たちの自己紹介をし、これまでのことを話した。
ビライトたちが目指しているのはイビルライズと呼ばれる誰も知らない場所。誰も知らない場所こそ未踏の地。
そしてキッカの身に起きたこと。そしてそれについてきてくれたヴァゴウのこと。
旅の途中で出会ったレジェリーのこと。
ビライト、キッカ、レジェリーはこれまでのことをすべて話した。
本来ならばキッカのことは精霊だとかで適当にごまかすのだが、今回は王の前、きっと噓をついても意味はないであろう。
ならば全てを話してしまったほうがいい。ビライトはそう判断した。
「…ということでして。」
「なるほど…そなたたちは我々には想像もつかない奇妙なことに巻き込まれておるのだな…」
「イビルライズにキッカが…キッカの身体があるかもしれない。わずかな手がかりですが、俺たちはそれにすがるしかないんです。」
「お願いします。許可証をいただけませんか?」
ビライトとキッカは頭を下げる。
「…では、1つ頼みを聞いてもらえぬか?それを成し遂げることができれば許可証を書こう。」
「頼み…ですか?」
「なに、お使いのようなものだ。」
王の目を見たクルトは書類が入った封筒をビライトたちに渡す。
「これは?」
「親書である。これをここよりさらに南にある熱帯の町、サマスコールの町長に渡して欲しい。そしてその返事を受け取ってここへ届けてほしいのだ。」
「サマスコール…聞いたことない町だ。」
「サマスコールは海沿いにある熱帯の町ね。ドラゴニア領にある2番目に大きな町よ。」
レジェリーが説明を入れる。
「ヒューシュタットの脅威はサマスコールにも及ぶ可能性がある、今こそ我々ドラゴニア国はヒューシュタットへの対応を改めて考えるべきなのだ。そのためにはサマスコールとの協力が必要なのでな。」
つまるところ、ビライトたちに、ドラゴニアとサマスコールの橋渡しをしてほしいとのことだ。
「我々が出向いても良いのですが…王の傍を手薄にしては王が危険ですからね。ヒューシュタットの目的がもしこのドラゴニアに強襲することであれば真っ先に王が狙われる。」
ヒューシュタットの目的はわからない。だが、その可能性もある。あらゆる可能性を考えると、ここを手薄に出来ないということなのだ。
「お兄ちゃん、どうする?」
「…分かりました。やってみます。」
ビライトは頷いた。
「ありがとう、旅の者…いいや、ビライト殿。」
ベルガは改めて頭を下げ、名を呼んだ。
「次の目的が決まったね、ビライト。」
「あぁ、オッサンが回復したら出発しよう。」
「ヴァゴウさんが回復するまであと数日はかかるでしょう。その間、この城で是非ゆっくりして行ってください。」
クルトの斡旋により城で寝泊まりを許されたビライトたち。
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「うっわーーーー!!すっごぉーい!!!」
案内された客用の寝室。
城の寝室というだけあって本当に豪華な装飾が施されたきらびやかな部屋だった。
「皆様それぞれの個室を用意致しましたので、こちらでゆっくりされても良し、ドラゴニアを観光なさっても良し。ヴァゴウさんが癒えるまで自由に行動してください。」
「ここまでしてもらえるなんて…本当に良いのかな…」
「構いませんとも。私も、王も貴方がたには感謝しております。信頼もしておりますので。ご安心ください。」
あまりにも良いサービスに驚くビライトたち。
「それでは皆様、ごゆっくり。」
クルトは頭を下げ、部屋を出る。
「…あっ!えっと!クルトさん!」
レジェリーは思い出したかのようにクルトの後を追った。
「レジェリー?」
「ごめんビライト!先にのんびりしてて~!」
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「クルトさん!」
「おや、レジェリーさん、どうかなさいましたか?」
「えっと、その…あたし、今の旅が無事に終わったら魔法学園に入学したいって思ってるんです!」
レジェリーは学園長であるクルトに自分の意志を伝えておこうと考えたのだ。
「…なるほど…私が見た限りレジェリーさんはなかなか変わった力をお持ちのようだ。それを何処で?」
「…あたしの故郷です。でも、これ以上は言えません…」
レジェリーには何か秘密がある様子。
だが、それを話すことは出来ないようだ。
「…お話出来ないことを無理に話す必要はありません。レジェリーさんの意志は受け取りましたよ。」
クルトはレジェリーに微笑む。
「一応私から一つだけ提案を。」
クルトは紙を取り出し、1枚レジェリーに手渡した。
「これは…」
「読んでみてください。」
そこに書かれていた内容は、魔法学園の入学概要であった。
基本的には5年制の学校であり、学生寮も存在しており、年に2回程度新入生を募集しているということ。
そしてその下に書かれていたのは、短期集中コースと書かれた内容であった。
「短期集中コース…そんなのがあったのね。」
「短期集中コースは自身で習熟期間を設定し、その期間だけ学園で勉強が出来るという制度です。最短で2週間なので旅の途中でも短期間で勉強することが出来ます。」
「レジェリーさん、あなたは素晴らしい魔法使いになる素質を秘めています。短期でも通常入学でも私は貴方を推薦入学へ導きましょう。」
レジェリーは嬉しかった。
自分の実力をすぐに認めてもらえて、そして入学までの道を斡旋してくれるということに。
しかも推薦入学という形になるため、学費だって大幅な免除が効く。
「…クルトさん、あたし…絶対入学します。だから、その時が来たら…よろしくお願いします!」
「はい、いつでもお待ちしていますよ。」
夢みたい。こんなことになるなんて。
レジェリーは喜びでいっぱいだった。
(この魔力の流れ…レジェリーさん…貴方は本当に伝説の魔法使いになってしまうかもしれませんね。フフッ、面白くなりそうです。)
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ビライトたちはドラゴニアでつかの間の休息を過ごした。
療養のため、動くことが出来ないヴァゴウがブーブーと文句を言いながら、時間は流れていく…
その日は何事もなく1日が過ぎ、翌日。
ヴァゴウの調子は少しずつ良くなり、明日には動けるようになるだろうとの知らせを受けた。
ドラゴニアの兵士たちが回復に尽力してくれているようだ。
「ビライトさん、キッカさん。」
朝、クルトが訪ねてきた。
「クルトさん。おはようございます。」
「おはようございます。」
「はい、おはようございます。今日はお二人にお願いがあって来たのです。しかし、無理ならば無理とお答えいただきたい。」
「あっ、はい。一応話は聞きます。」
「ありがとうございます。では…」
クルトは一息入れて話し出す。
「単刀直入に言います。お二人の身体を調べさせて欲しいのです。」
「身体を…」
「調…べる?」
驚くビライトとキッカ。
「キッカさんは人によっては見えない存在で、身体を失ってビライトさんに憑依している。そしてその依り代となっているビライトさん。お二人には謎が多い。そこで。」
「…そこで?」
「ビライトさんやキッカさんのことを調べれば、何かを知ることが出来るのではないかと思うのです。未知なる現象ならば我々ももちろん何かを得られる。今存在している謎がもしかしたら1つでも解決するかもしれません。」
クルトは少し表情が良くない。
「もちろん、これはビライトさんたちにとっては不愉快なことかもしれません。身体を調べさせてくれなどと、無粋なことを言いましたが…一考頂けますか?」
クルトは失礼を承知でビライトたちにお願いした。
「お兄ちゃん、調べてもらおうよ!」
先に声を上げたのはキッカだった。
「キッカ…いいのか?」
「うん、私、実は少し不安なの。何もわからない状況が。もしかしたら何か分かることでこれからの考え方とかが変わるかもしれないから!」
キッカは賛成のようだ。
「ビライトさんはどうですか?」
クルトはキッカの賛成を受け入れ、ビライトにも質問を投げかけた。
「キッカが良いなら…それに俺もキッカの状態を詳しく知ってるわけじゃないし…それをちゃんと知る必要もあるから。」
「ありがとうございます。なに、痛みなどがあるわけではありません。多少魔力の流れを見て、二人の魔力を多少頂戴するだけ…健康診断のようなものです。」
クルトは頭を下げた。
「もしかしたらこの結果が我々ドラゴニアの魔法文化に良い影響を与えるきっかけになるかもしれません。それにお二人のお力添えが出来るかもしれない。提案の受け入れ、感謝します。」
明らかに自分たちよりも上の立場であるクルト。これまで何度も頭を下げられた。王にもとても優しい対応をされる。
このドラゴニアという国の人々は本当に優しくて暖かで。幸せな国なんだなとビライトとキッカは感じた。
「では本日のお昼にこの城の魔術兵の駐屯部屋へお越しください。」
クルトは地図を渡し、お辞儀をして去って行った。
「…キッカ、お前の今の状況とか、謎が何か分かるかもしれない。」
「うん、クルトさんにはお世話になりっぱなしだね。」
「そうだな…だからサマスコールの町に行く王の頼みは絶対にやり遂げないとな。」
ビライトたちは改めて決意を固めた。
ここまでよくして貰ったのならば、何か力になって恩返しをしなくては。
そんな気持ちになるビライトたち。
午前中はレジェリーと一緒にヴァゴウの見舞いと、都市内を再び見て回って時間を過ごした。
そして昼、ビライトたちは駐屯部屋へと来ていた。
「お待ちしておりました。こちらへ。」
クルトに案内され、ビライトたちは駐屯部屋の奥へと案内される。
そこには魔法陣がいくつも描かれた床があり、クルトはその魔法陣を光らせる。
「この魔法陣は魔力の流れを具象化するもの。こちらを使い、魔力の流れや、その人潜在する魔力や血の流れを見ることが出来ます。我がドラゴニアにしかない高等魔術です。」
目の前にある資料には兵士たちの魔力流れや潜在能力、そして身体に流れる血の流れ。様々な健康状態が記載された資料がきれいに整頓されて置いてある。
「ではビライトさん、こちらへ。」
クルトの光らせた魔法陣の中にビライトは足を踏み入れる。
「そのままリラックスして。はい、深呼吸。」
「…」
身体を楽にして目を瞑るビライト。
やがてビライトの身体から魔力の流れが具象化し、渦を生む。
「…これは…!」
驚いているクルトの声が聞こえる。
「なるほど…これは…フムフム。」
何かを書く音。
結果を記しているのだろう。
「良いですよ。終わりです。」
クルトはビライトに声をかける。ゆっくりと目を開けるビライト。
「キッカ、特に何も無いか?」
「うん、大丈夫。」
「これは…今までに見たことのない現象です。」
クルトはビライトたちに説明を始める。
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「まずビライトさん。あなたの魔力の流れは他の人とは異なる動きをしています。」
「異なる動き?」
「はい、原因は定かではありませんが…ビライトさんの魔力の流れは他の人と異なっています。まるで“何かに吸われているような”…」
「何かに…」
「キッカさんも同じです。何かに吸われているような…そしてキッカさんが見える人と見えない人がいる理由ですが…今のキッカさんは魔法そのもの…と言いますか、魔力と極めて近い存在になっています。」
「魔力と極めて近いって…」
「つまり“実体が占める割合が極めて少ない状態”。まさに精神体ということでしょう。そして魔力とは本来魔法使いの者たちが認識できるものであります。」
「もしかして…魔法使いとしての適性があるかどうかってことですか?」
「その通りです。つまりキッカさんが見えるか見えないかの基準…それは“魔法使いへの適性があるかどうか”という可能性が高いです。確定ではありませんが…」
「魔法使いに必要なものって…やっぱり魔法ですよね。魔限値とか。」
「はい、本来我々は種族によってある程度の魔限値や魔力が決まっています、無論個人差はありますが…」
前にヴァゴウとキッカとビライトでヒューシュタット山脈を登っていた時に聞いた話だ。
種族によって、魔力と、魔力を保有できる魔限値が異なる。
一番適性が高い順で、ドラゴン>人間>獣人>竜人となる。
「つまり、ドラゴンや人間にはほぼ確実にキッカさんは見えている可能性が高いです。しかし、獣人や竜人にはキッカさんが見えない人も居るでしょう。」
「そうか、ドラゴニアに来て、キッカが見えない人が多かったのは…」
「竜人の魔限値が低く、魔法使いとしての適性が低い者が多いから…ということになりますね。」
「でも同じ竜人でも見えてる人は見えてるよね…ヴァゴウさんやクルトさんみたいに。」
「そうですね。そこで関係してくるのは”血の流れ”です。」
「血の流れ…そうか混血!」
「そうです。ご存知ですか?この世界…シンセライズに住む人々の大半は混血なのです。」
「はい、混血が多いというのは知っています。でもそれを知ることは難しいって…」
血の流れ。
このシンセライズの人々は、世界統合ですべてが混ざり合い、血の流れも混ざり合い、やがて純血はどんどんその数を減らしている。
「例えばドラゴンであっても、竜人と獣人いずれかの血が混ざり合い、なおかつそれがハーフである双血であれば、ドラゴンの高い魔力と竜人獣人の低い魔力で相殺し、魔法適性が低いドラゴンになる…という流れです。血の流れについてはご存知ですか?」
「あっ、知ってます。本で読みました。」
キッカが言う。
このシンセライズには4つのカテゴリーに分けられた血の流れが存在する。
まずは純血。
名の通り、1つの種族の血が100%を占める。
続いて亜血。
2つの血が混ざり合っているかつ、1つの血が占める割合が80%を超える者がここに当たる。
このシンセライズの生き物の大半はここに当たる。
見た目も能力もほとんどを血の濃い方に依存し、混血病の発生例もほとんど報告されておらず、純血と特に大きな違いは存在しない。
そして双血。
亜血と同じく2つの血が混ざり合っているが、1つの血が占める割合が79%を下回った場合は双血に当たる。
「双血は混血病になる可能性が飛躍的に上昇するため、長生きをする人も非常に少なく、幼いころに拒絶反応で亡くなる方も珍しくありません。容姿も2つの種族が混ざったような姿になることが多いのです。」
ヒューシュタットで会ったあの家族もおそらくここに当たるのだろう。混血病で倒れていた母親が良い例だ。
最後に重血。
重血は3つ以上の種族の血が流れている者。
重血の生き物のほとんどは生まれて間もなく拒絶反応が起こり、大半がここで命を落とすと言われている。
そこで拒絶反応が起こらなくても重血の人は幼少の頃~成人になるまでの間に100%拒絶反応が発生することが確認されており、その拒絶反応を乗り越えて成人を迎えられる確率は1%程度と言われている。
故にこのシンセライズに重血はほとんど存在しないとされている。そして拒絶反応を乗り越えた重血の者は以後、混血病にかかることなく完璧な抗体を手にするとも言われている。
「よくご存知で。」
「えへへ。」
「私とベルガ王はドラゴンの血を混ぜた亜血竜人です。故に魔力の適性値が高い。だからキッカさんが見えるのです。」
「では、キッカが見えない人は…」
「恐らく純血の竜人、もしくは魔力適正の低い竜人と獣人の血しか持っていない人…これらの存在にはキッカさんは認知出来ないでしょう。」
「なるほど…じゃぁオッサンもドラゴンの血とか人間の血を引いているのかな。」
「そうかもしれないね。」
「ヴァゴウさんは…フム…」
「?」
「いえ、なんでも。」
クルトは何かを言いかけるがそこで話は終わってしまった。
「ちなみにキッカさんは肉体がほとんどないので分かりませんでしたがビライトさん。あなたは人間の亜血獣人という結果が出ています。」
「つまり俺には獣人の血が流れているってことですか?」
「ええ。しかしその割合は微々たるものです。キッカさんも血がつながっている兄妹ならば恐らくそうでしょう。」
次々と自分たちの知らないことが判明していく。
ヒューシュタットとはまた違うが、このドラゴニアも相当な技術を誇っている
だが、その技術の使い方も大きく異なっている。
ドラゴニアではこのように、研究面で大きな技術を誇っている。
ヒューシュタットはセキュリティ面や攻撃的な面で大きな技術を誇っている。
「すごい、俺たちの知らない自分の身体のことがこんなにも分かってしまうなんて。」
「このドラゴニアでは我々と、そして国民たち。すべての生き物の安全と健康、そして平和を願う優しい町を目指しています。我々の魔法の研究は国民すべての命の為なのです。」
「とても素晴らしいと思います!素敵な国だね、お兄ちゃん!」
「あぁ、ホント、良い国だよここは。」
「ありがとうございます。それと…キッカさんの現状ですが…」
一番知りたかったことだ。
「恐らく、しばらくは問題ないと思います。」
「問題…ないんですか?」
「あくまで仮説です。キッカさんの身体はほとんどが魔力です。数値でいうと95%ぐらいはそうでしょう。」
「残りの5%が肉体ってことですか?」
「いえ、肉体の他に精神…そして魂。命を構築する3要素が残りの5%に凝縮している…といった形でしょうか。」
「3要素…」
「はい、我々命を司るものは肉体、精神、魂の3要素で成り立ちます。これら1つでも欠けるとそれは命として成り立たなくなるでしょう。」
「そして問題ないと思われる理由ですが、まず3要素が残っていること。そして魔力は3要素ではないこと。そして魔力は吸い取られているようなという表現を先ほどしましたが、魔力というのは失ったら勝手に供給されていくものです。このシンセライズにいる限りは。」
クルトはなるべくわかりやすいように説明をしてくれている。
「キッカさん、魔力の使い過ぎにだけ注意してください。おそらく魔力を使いきってしまうと、あなたに残るのはわずか5%の命だけということになります。キッカさんには本来100%ある3要素が5%しかないということになります。魔力が底を尽きると非常に弱い3要素だけが残り、非常に危険です。」
「は、はい。」
「でも、それでもキッカは大丈夫なんですか?」
ビライトは心配そうに言う。
「ええ、3要素が確かに存在している。この時点で命としての存在が確保されています。そして、本来ヒトが何かしらのダメージを受けるときは肉体や精神が傷つきますが…キッカさんの場合はそもそも攻撃が当たらないので外部からの攻撃による死はあり得ないでしょう。となると、今キッカさんの命の要素として加わっている魔力。こちらを使い過ぎなければ安全と言えます。」
「おお!」
キッカの不安要素があくまですべて仮説であるが、取り除かれていく。
「では、最後に危険性について…」
「危険性…魔力の使い過ぎ以外にもあるんですか?」
「残念ながら。危険性については3つ。まず1つは先ほど申し上げたキッカさん本人による魔力の使い過ぎ。」
クルトは指を1つ。
そして2つ目の指を立てる。
「2つ目はビライトさん。貴方です。」
「お、俺?」
ビライトは驚いた。
「ええ。今のキッカさんは原理は分かりませんが、ビライトさんに憑依しているようなもの。つまりビライトさんの身に何かが起こればキッカさんも大きな影響を受けるでしょう。」
「そ、そうだよな。確かにそれは言えてる…!」
「ということなのでビライトさん。貴方とキッカさんは一心同体のようなものです。貴方の負傷や死はキッカさんと同等と思って行動した方が良いかもしれませんね。」
「そうか…気を付けないと…!」
ビライトは改めて気合を入れなおした。
「そして3つ目…これは残念ながら気を付けるだけでどうにかなる問題ではありません…」
「えっ…」
「イビルライズです。」
「「…!」」
「キッカさんの身体が本当にイビルライズというところにあるのであれば…そもそもイビルライズとはなんなのでしょう?キッカさんが何故そこに囚われているのか?イビルライズに意思があるのならば、その目的はなんなのか…不確定要素が多いのですが、その不確定要素こそが危険です。」
確かにそうだ。イビルライズについてビライトたちはよく知らない。
その言葉自体自分たち以外に聞いたものだ。
「イビルライズの目的は分かりません。ですがそれの手によってキッカさんが危機に陥る可能性はゼロではないということです。」
「「…」」
イビルライズが何かの意志であるならば。キッカに何かをしてくる可能性がある。
それは気を付けるだけでどうにかなる問題ではないのだ。
「こればかりは信じるしかありませんね。とにかく最初の2つを守るようにお願いします。」
「分かりました。」
「クルトさん、色々ありがとうございます。」
「いえ、厳しいことも言いますが…今後の貴方たちの旅の参考になればと思います。」
希望と現実。
その両方を知ったビライトたち。
しかし、ここで得たことはきっとこれからの旅に必ず役に立つ。
ビライトがキッカを。
キッカがビライトを守り、そしてお互いが力を合わせて先に進む。
そしてイビルライズにたどり着く。そこに真実がある。
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それからビライトたちはドラゴニアでの時間をゆっくりと過ごすことになった。
そして夜が明けて…
「復活!!ワシッ!ガハハー!」
元気になったヴァゴウの高笑いで迎えたドラゴニアの朝。
「わっ!朝から元気満々だね。ヴァゴウさん。」
キッカが笑顔で言う。
「おーう!動けない時間は窮屈でなッ!もうワシは動き回りたくてたまらん!!」
ヴァゴウは腕やら身体やらをブンブン動かしている。
よっぽど窮屈だったようだ。
「ヴァゴウさん、元気になられたようでなによりです。王も喜んでいましたよ。」
「おう、すまんかったなァ。命拾いした!ありがとな!」
兵士たちに囲まれて感謝を述べるヴァゴウ。
ヴァゴウはこの城の兵士たちに大人気。めったに顔を見せないものだからこの機会にと、ヴァゴウが動けない間にも多くの兵士たちがお見舞いも兼ねて訪れ、人の出入りが絶えなかったようだ。
ちなみに、コッソリ夜にベルガ王も来ていたようだ。
昔から知り合いの二人は楽しい話で盛り上がったらしい。
「しかしホント無事で良かった。もう平気そうだな。」
「おう!心配かけたなァ。」
ヴァゴウの元気そうな姿に胸をなでおろすビライトたち。
「ビライト殿」
声のする方を見るとそこにはクルトに支えられたベルガ王だった。
兵士たちは全員膝をついた。
「王様!わざわざ来なくてもこっちから伺いますのに!」
「良い。私が見送りたかったのだ。」
「王のわがままを叶えるのも私の勤め。お気になさらないでください。」
クルトが王を支えながら優しく微笑んだ。
「ビライト殿、キッカ殿、レジェリー殿。そしてヴァゴウ殿。我々の頼みを聞いていただいて感謝する。」
王は頭を下げた。
「いえ、俺たちもその代わりを頂いていますので。必ず届けて必ず戻ります。」
「…そのことだが、やはりそなたたちに何日もかけてサマスコールへ行かせるのは忍びなくてな。我の友であるドラゴンをドラゴン便として使っていただこうと思うのだが。」
「えっ、ドラゴンを!?」
ドラゴン便。ドラゴンに乗って物資を届けたり、人を乗せて移動したりする交通・流通手段の1つだ。
ただし、所有している人は少なく、非常に高価であるため、使用する人は富豪ばかりだ。
「しかも王のドラゴンって…もしかしてのもしかして…えーっ!」
レジェリーは動揺を隠せない。
「どうだろう?年老いたドラゴンではあるが我々ドラゴニアの象徴とも言えるドラゴンであるが…もちろん許可は貰っておる。」
驚きの提案に息をのむビライト。
ドラゴン便とはそれほどまでに高額なのだ。そしてドラゴンという存在自体もあまりお目にかかることは無い。
ドラゴンは基本的にヒューシュタットの北部に位置するドラゴンの集落に住んでいる。
それ以外の場所ではドラゴン便のような業者しか見ることは無いのだ。
もちろんビライト、キッカ、レジェリーはドラゴンともほぼ無縁である。
「ビライト、お言葉に甘えようぜ。」
ヴァゴウが言う。
「ドラゴン便はワシも何度か乗ったことがあるが、気持ち良いぞォ。良い経験になるんじゃねぇの?」
ヴァゴウは太鼓判を押す。
「…わ、分かりました。心遣い、ありがとうございます!」
「では、準備をしよう。この城の屋上に私の友が居る。私はそこまで赴くことは難しい故、ここまでの見送りとさせていただくが…」
「いえ、わざわざ来てくれて嬉しかったです。」
「必ず帰ってきます!」
「ドラゴンにもよろしく伝えてくれ。私と彼は長い付き合いだからな。あやつも会えずに寂しがっているやもしれんからな…」
「はい。分かりました。」
思わぬ展開。まさかドラゴンに乗る日が来るなんて。
ビライトとキッカはこれから起こることにワクワクした。
レジェリーはレジェリーで色々起こりすぎて何がなんだか分からないようだ。
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クルトに案内されてビライトたちは城の上を目指す。
「レジェリー、凄く動揺してるけど大丈夫?」
キッカは移動しながらもまだドキドキしているレジェリーに声をかける。
「だ、大丈夫じゃなわよ~…ドラゴニア王のドラゴンは“古代人”と呼ばれてる特別な種族なのよ…?」
「古代人?」
「やだ、知らないの!?はぁ~…いいわよ。教えてあげる。」
一回ため息をついて説明をするレジェリー。
「古代人ってのはね…どういう原理だか知らないけど、世界統合前から生きている存在のことを言うのよ…」
「統合前から!?だって世界統合って…」
「そ、世界統合は1000万年前の話。つまりこれからあんたたちが会おうとしてるドラゴンは1000万年以上生きているおっそろしい存在なのよ!」
「そ、そう聞くとなんだか緊張するな…!」
スケールのでかい話に驚き、ドキドキしてきたビライトだが、ヴァゴウは「ビビることはねぇよ」と言う。
「じいさんは良いドラゴンだぜ。」
「知り合いなのか?」
「おう、じいさんはワシが幼い頃に結構世話になったんだ。命の恩人って言っても良いぐらいだ。」
「ヴァゴウさん顔広すぎでしょ…そこにもビックリよ…」
「ガハハ、ワシの顔が広いのはドラゴニア地方に限ってだぞ!ホレ、見えてきたぞ。」
きらびやかな明かりがついた階段を上り、たどり着いたドラゴニア城の屋上テラス。
出た瞬間に気持ちの良い風が吹き、髪をなびかせる。
「フリード殿!ビライトさんたちを連れてきました!」
クルトの声が聞こえる。
そして屋上に出たビライトたちを待っていたのは…
「お前たちか?ベルガが言ってた者たちは。」
目の前には大きなドラゴンが居た。
「で、でたーーーー!」
「で、でかァッ!!!!」
「わぁ~…!」
そのドラゴンはただのドラゴンではないとすぐに分かった。
大きさだ。
大きさが桁違いなのだ。
普通のドラゴンは大体体長3m~6m程度だ。
だがこのドラゴンは違う。
その3~6mが顔だけで足りないほどでかいのだ。
全長で見ると確実に30mを超えている。
「驚きすぎだ…って、おお。お前は。」
巨大ドラゴンは顔をヴァゴウに近づける。
「久しいなァ。ヴァゴウ。」
「おう、じいさん久しぶりだなッ。まだくたばってないか!」
「ばーか、まだまだ儂は元気だとも。」
笑顔で挨拶するヴァゴウと巨大ドラゴン。
「はえー…普通に会話してら…」
「す、すごいね…」
驚きに驚いて呆然とするビライトとキッカ。
そしてレジェリーはというと
「きゃーやばいわもうどうしよっ、まさかドラゴニアの王のドラゴンにお目にかかれちゃうなんてもう、もう。」
誰よりも興奮していたのだった。
「まさかとは思ったけどお前を乗せる時がくるなんてな。」
「ガハハ、ワシもじいさんに乗る日が来るとは思ってなかったぜ。」
ドラゴンはビライトたちの方を向く。
「ベルガから話は聞いとる。儂の名はフリード。ちょっくら身体が大きいただのドラゴンさ。」
「いや…ちょっくらじゃない気が…と、とにかく!お、俺はビライト。そんで、こっちがキッカ。そしてレジェリー。」
「ちょっと変わった姿ですけどよろしくお願いします!」
「ひ、ひょろしくお願いしまぁす!」
キッカは丁寧に挨拶し、レジェリーは緊張しすぎて呂律があまり回っていない。
「ウム、色々と訳ありのようだな。まぁ良い。ここからサマスコールは儂でも1日はかかる。故に道中、お前たちの話をゆっくり聞かせてくれ。」
フリードは身体をしゃがませ、翼を倒し、地面に敷く。
「ここからよじ登ってくれ。なに、ドラゴン便用に登れるようにしておる。」
翼には人が手で掴んで登れるように鱗が杭のように天に伸びている。
ビライトたちはそれを伝ってフリードの上部へ。
背にはドラゴン便の為に用意されたと思われるスペースが確保されており、フリードの頭の上の方まで歩けるように続いている。
「すごい。流石王のドラゴン…!」
「歴代の王たちが勝手に儂の背をいじくりおってな。まぁ儂は別に気にしとらんがな。」
全員が乗ったのを確認し、フリードは翼を力強く羽ばたかせる。
「では早速行こうか。クルト、儂の留守の間は頼んだぞ。」
「ええ、王は私たちが命に代えても。」
クルトは頭を下げ、そしてビライトたちを見る。
「皆さん!くれぐれもよろしく頼みます!」
「クルトさん!ありがとう!行ってきまーす!」
キッカは手を振ってそれに答え、ビライトたちも手を振る。
やがてその巨体のフリードは城を飛び立つ。
「おお!フリード様がお飛びになられているぞ!」
「わあああ!」
「フリード様ーっ!また今度遊んでねーっ!」
ドラゴニアの町は大騒ぎとエールに満ちた。
フリードはこのドラゴニアにとっての宝。人々からの信頼も非常に熱いようだ。
「さぁ行くぞォ!目的地はサマスコール!」
「しゅっぱーつ!」
元気よく声をあげるキッカとフリード。
大空を舞う巨大なドラゴン。
目指すは南部のサマスコール。
ビライトたちを優しく包んだドラゴニアと一時の別れをし、一行はサマスコールを目指し、巨大ドラゴンのフリードと共に大空を飛び立った…
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「フム…オートマタのデータ解析が終わったようだ…なるほど…」
「いかがいたしますか?」
「こいつらを要注意人物としてデータベースを更新しろ。」
「ハッ。データベースを更新します。」
「我がヒューシュタットの計画を邪魔するものは容赦せん。追跡しろ。データを集めるのだ。」
「かしこまりました。」
第二章 ドラゴニア編 優しい魔法と竜の国 完
第三章に続く…
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