表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

43/46

二匹のバジリスク

 僕は少女の亡骸を抱きかかえて、部屋のすみに寝かせた。


 ネンベルクと死闘を繰り広げていたディークマンは魔術が解けてからは死んだように眠っている。


 僕たちはひとまずディークマンを柱の後ろに横たえ安全を確保してから部屋の外に出て、皆の援護に向かった。


 しかし、城の中を回ったけれど、城の内部すでに反乱軍に制圧されているようだった。


 縛り上げられた小汚い男たちが、兵士に連れられて、どこかに連行されている。


 兵士たちは、ネンベルクを見ると敬礼した。


 ネンベルクが兵士の一人に聞いた。


「おい。こいつらを一体どこへ連れて行く気なのだ?」


「はい。ひとまずは、街の一番広い公園である【チェルクの広場】へ連行する手はずになっております」


「そうか、頼んだぞ」


「はい」


 その兵士は改めて敬礼をした。





 僕とネンベルクが、城門を出るとチャウニーがこちらに駆け寄ってきた。


「おふたりさん!」


 チャウニーはあちこち擦り傷だらけの体で僕たちに告げる。


「騒動はだいたいおさまったようだ。なにせ反乱軍に加担する方が圧倒的に多い。ただ、街の入口から入ってきた大きな蛇に苦戦している」


 僕はネンベルクと顔を見合わせると、先導するチャウニーについて街の入り口に向かった。





 奇妙で甲高い泣き声が遠くから聞こえ、それと同時に大きな地響きが足から伝わる。


 先に走るチャウニーの背中が曲がり角を右にまがる。続いて僕たちが曲がった道のその先。


 噴水を囲む大きな広場に、2匹の大蛇バジリスクが絡み合うように首を上に伸ばしていた。


 ふいに2匹のバジリスクは大きな体をくねらせて、周囲の建物をなぎ倒した。


 粉々に砕け散った石つぶてがあちこちにふりかかる。


 チャウニーとネンベルクは手をかざして、立ち止まり、大きく見上げる。


 ネンベルクがつぶやいた。


「なんだ、あれは……あんなバケモノをどうやって」


 僕は杖を握ると、前に進み出る。


 すっと大きな蛇を睨みつけながら、噴水のある広場に近づいていく。


 チャウニーが僕を呼び止める声が聞こえる。けれど、僕はさらに進んでいく。


 不思議と怖くはなかった。それは勇気というよりも、感情の麻痺に近かいのかもしれない。


 さっき体験した、トトの死のせいかもしれない。僕の心は、周囲の出来事と自分の感情を切り離そうとしていた。


 2匹のバジリスクの目がぎょろりとこちらを向いた。僕をとらえたのがわかった。次の瞬間、大きな牙をむいてこちらに向かって来る。


 僕は杖を身構えて、詠唱した。



【聖光重槍】



 天のどこかからか一筋の光が降りてきた瞬間、2本の光の槍がバジリスク二匹の頭を上から下に突き抜けた。


 バジリスクはつかの間、痺れたように、ぶるっと体を震わせたかと思うと、首をゆっくりとおろし石畳に打ち付けて動かなくなった。


 舞い上がった砂埃をかきけ分けるように、周囲から人が集まってきた。


 みな、それぞれに感嘆の声を上げている。


 僕の隣にネンベルクが現れ、つぶやいた。


「……すさまじいな。お前は」


「でも、僕には、彼女を救えませんでした」


「自分に、全ての選択権が与えられているわけではない。覚えているか? ”できることをするべきだ”これはお前が俺に言った言葉だぞ」


 じっとうつむいた僕にネンベルクが優しく話しかける。


「あちこちに怪我人がいる。力を貸してくれないか?」


「……はい。もちろんです」


 僕はネンベルクと共に怪我人の救出に向かった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ