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作戦会議

 僕とウワズル―がネンベルク家を訪れると、ディークマンが2階に通してくれた。


 もはや作戦会議場所になっているいつもの食堂。僕らの話を聞いたディークマンが困った顔で腕を組み、口を開いた。


「レプテンタイン城からの救出ですか……また厄介なところに。わたくしも何度か訪れたことはありますが、城を囲むように街が形成されており、それなりに警備は厳重です」


 ネンベルクの姿が見えない。不安げな僕の目に気がついたのかディークマンが答えた。


「実は、ネンベルク様はしばらく不在なのです。長兄様の城に出向き、家族間でのお話し合いがあるとか。ここ数日は戻られません」


「……では力を借りるのはむつかしそうですね」


「はい。しかし……これはかえって好都合かもしれません」


 言葉の意味が読み取れず、僕は首をかしげてディークマンを見つめた。ディークマンは続ける。


「ネンベルク家の家族会議には、もちろんの事、ゲルル様も出向いているはずです」


「つまり……」


「ええ。ゲルル様には精鋭の護衛が付き従いますので、ゲルル様不在のレプテンタイン城の警備は手薄になっている可能性が高いのです」


 ウワズル―が僕たちの顔を交互に見ながら、肩を揺らす。


「手薄ったってな、お城だぜ。そんな簡単じゃないだろうよ」


 ディークマンはなだめるように、ウワズル―を見つめる。


「不安はわかりますが……指揮系統のいない組織というのは意外ともろいものです。しかし行動を起こすにしても、城の内部にある程度くわしい人間がいなければ」


 僕はディークマンに提案してみた。


「トトが手を貸すと言ってくれています。彼女はレプテンタイン城に出入りしたことがあるようです」


 ふいにディークマンの視線が鋭くなる。


「トトというと……? まさか、あの死霊魔術師の事ですか?」


「ええ」


「あのものを信用しろと?」


 ディークマンの声がこわばった。


「あの死霊魔術師は、わたくしの生まれ故郷をおそったのですよ? あなた様もあの夜、見たはずです。ゴブリンに切りつけられたユッテの姿を。おわすれにでもなったのですか?」


「そ、そういうわけでは……」


「ならば、どうしてそのような提案を? わたくしが承諾するとでも? 村人たちが……どれほど恐ろしい目にあったか……」


 抑えようとしても、ディークマンの怒りは抑えきれないようだった。その体中を包んでいるのがわかった。


 僕は唇をかむ。軽率な提案をした自分を恥じた。


 その時、ウワズル―の声が響いた。


「おい、アンタ」


 僕が目を向けると、ウワズル―はテーブルの上に小さく立ち上がった。腕を組みディークマンと対峙する。


 ウワズル―は、故郷を襲われたことは気の毒だった、と前置きをして、話しだした。


「アンタらは、なぜオイラたちホビット族に、トトを尾行する、という仕事を依頼したんだ?」


 ディークマンは、質問の意図がわからない、といったように首をかしげる。ウワズル―が続ける。


「まぁ、聞いてくれ。オイラたちホビット族は、盗賊団だとか、財宝運び、だとかよく言われる。だがな、オイラたちにはオイラたちの理由があり、価値観があり、掟がある。トトも同じさ」


 ウワズル―は呼吸を継いでさらに続けた。


「トトには、なにかその時にすべきことがあり、それを行っただけだ。それをアンタが認められないってんなら、仕方がない。でもな、チャンスはやるべきだ」


「……チャンス?」


「そうだ。オイラたちは盗賊団と呼ばれながらも、ギルド団として仕事の依頼が来る。なぜだ? なぜ人々はオイラたちに仕事の依頼をするとおもう?」


 ディークマンは答える。


「ホビット族は義理堅く、約束を守る。そういわれているからでは」


「そうだ。オイラたちは堅実に仕事をこなし信頼を得てきた。だからさ、トトにもチャンスをやるべきなんだよ。オイラたちがトトを信用してもいい、と思えるようなチャンスをな。あの子はまだ小さな娘っ子だ、判断を間違いもするだろう。でもきちんと向き合えば、きっと分かり合える。オイラはそう思うんだ」


 ディークマンは黙り込み、深いため息をついた。ウワズル―の説得に心が動いたのか、口調が元に戻る。


 しかしその返事の内容は、まだトトに対して懐疑的なものだった。


「わたくしには、こうも考えられるのです。そのトトというものは、この救出作戦の途中で我々を裏切り、我々をゲルルに売り渡す。そして、その代わりに、彼女自身の身の安全をゲルルに保証させる、とね……彼女がそうしない、と言い切れますか?」


 僕とウワズル―はお互いの顔を見て言葉につまった。僕たちは、しばらくトトと一緒に過ごしたことで、彼女に情がわいてしまったことは否定できない。


 ディークマンのように冷静な判断は今の僕たちには難しいのかもしれない。


 しかし、今から新たに仲間を集めるのはむつかしい、事は急を要するのだ。


 モニモニ救出作戦の話し合いが膠着(こうちゃく)状態におちいる。僕たちは皆黙り込んだ。しばしの沈黙の後ディークマンが最終判断を述べた。


「トトを同行させるというのならば、わたくしはこの作戦からは手を引きます」


 ディークマンはそういうと立ち上がり、部屋を出て行った。





 その後、日暮れを待って、僕たちは、とある森の入り口に集まった。


 ホビット族、魔道具使いウワズル―。


 サキュバス族、死霊魔術師トト。


 そして、【言霊術師】アルフレートの3人。即席の隠密ギルド団が結成された。


 ディークマンは、来なかった。だからといって彼を責めることはできない。


 僕たちはトトの操る髑髏馬車(どくろばしゃ)に乗り込んで、闇の中を音もなく飛ぶように駆けていく。


 皆無口に、流れる景色を眺めていた。それぞれの緊張と戦いながら。


 闇が深まるたびに髑髏馬車(どくろばしゃ)の足は一段と早くなっていった。そして一晩中、夜を北に駆け抜けた。





言霊術師:言葉にはそのまま霊力が宿るとの考えをもとに、言葉そのものから魔術を引き継ぐ能力を持った魔術師の総称。他にも継承術師、口承術師と呼ばれることもある。魔術を引き継ぐには、実際にその魔術を扱えるものの言葉を聞かなければならないとされている。また、自身の能力以上の魔術も引き継いでしまう危険がある。さらに、心に悪影響を及ぼす”即死の魔術”や”暗黒の魔術”も継承できてしまう。その為、言霊術師が道を踏み外した場合”冥府の番人アンタウェル・ホーター”と呼ばれる邪悪な存在に堕ちる恐れがあるとされている。

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