温泉で会おう!
ノリだけでやってみた。
体格差異種族カップルが読みたい。見つからない。よし、自分でやろう。
BLが読みたいので、NLは出てきません。
どこまでも暗い。
「おー、これが洞窟風呂かあ」
アルキウ山での採取の帰りである。大気のしんと冷えた冬期の野外活動は、降雪前ど言えど体を芯まで凍えさせる。
一仕事終えたスフィルは、帰り道にある温泉へと寄った。
絶対寒い。きっと寒い。凍えた体を暖めてもバチは当たらない。
採取に登る前から、帰りは温泉に浸かると決めていた。
アルキウ山自体は火山では無いが、周辺にそびえる山脈には火山もあり、この辺りには湯脈が点在している。
「すげぇな。天然洞窟の中に湧いてる温泉をそのままに利用したって、発想力がちげーわ」
さすが神龍リゾート。
うきうきと洗い場に足を踏み入れる。
天然の洞窟らしく鍾乳石が垂れ下がる。床は岩肌を削りすべらかに均されているが、壁や天井は自然の洞窟のままにしてある。
神龍リゾートは、近年頭角を表している旅行産業の組織で、大胆な観光施設や宿泊所のプロデュースで噂になっている。
お高めの値段設定だが、庶民でも頑張れば手が出せる、ちょっとした贅沢を体験させてくれると、憧れのリゾート地である。
今回スフィルが選んだ洞窟風呂は、日帰り入浴もさせてくれる施設だ。宿泊しなければ、一回の食事代ほどの値段で温泉を楽しめる。
洗い場の隅に積まれている洗い桶と椅子を取り、並んでいるシャワーのひとつを陣取る。とはいっても、スフィル以外に人の気配は無い。
時期のせいか、時間のせいか、貸切状態である。
「贅沢だなぁ」
天井から垂れている乳石が発光成分のあるものなのか、上の辺りだけほんのりと明るい。
洗い場にはランプが吊るされているが、湯船の方は目を凝らしてみても闇しか見えないような暗さである。
体と髪を洗い、スフィルは湯船の方へと近づいた。
湯船といっても、ほぼ自然のままの岩の窪みである。気を付けながら、そろりと脚を入れて見る。
「お、意外と深さは無いんだな」
すぐに底に足の裏が着いた。想像していたより、つるりとしている。多少の隆起はあるが、邪魔になるほどではなさそうだ。
そろそろと身を沈めて座ってみると、ちょうど臍辺りまでの深さのようである。
「はー、解れる・・・・・・」
湯船の淵に頭を起き、だらりと力を抜けばわずかに体が浮いた。
そのまま湯に浮かぶようにしている。
他に客が居たらこうはいかない。人が居ないから出来る入り方である。
仄かに輪郭が見えるだけの洞窟の中に、時折落ちる水滴の音。
体は暖かな湯に包まれて、スフィルは少し瞼が重たくなる。
(ちょっとだけ・・・・・・)
「失礼」
「ふわっ」
声をかけられて、スフィルは跳ね起きた。尻を打ち付ける。
盛大に湯がはね上がった。
「ああ、申し訳ない。驚かすつもりは無かったんだが」
脇の下を大きな手で救い上げられ、スフィルは湯船から持ち上げられる。手足がぶらん、と揺れた。
「へ、あ」
驚きに声も出ない。
スフィルは、とうの昔に成人した男である。今は中年に差し掛かったといっても過言ではない。
採取専門ではあるが、年中野外活動を行っている。つまり、それなりの筋力がある。そして、種族的に一般的な人形種より身長も高い。
それが持ち上げられ、手足が地につかない。着かないどころか、ぶらんと揺らされている。
恐る恐る見下ろすと、手足だけではなくぶらんと揺れている。
「う。わぁぁぁぁぁ!」
「ちょ、落ち着いてくれ!」
「ふおぇ!?」
ぎゅっと抱き込まれた。
わあ。ふかふか・・・・・・。何て肉厚な。
「貴方に危害を与える者ではない。ただの湯治客だ。湯船に浸かるために、すこし場所を開けてもらおうとしただけなんだが」
「あ、あ、・・・・・・すいません」
湯船の入り口に寝そべっている非常識な客がオレデスネ。
スフィルの顔は真っ赤になった。
「ちょっと驚いて。すいません」
もはやすいませんしか出てこない。
「いや、こちらも悪かった。貴方が気持ち良さそうにしていたものだから、邪魔しては悪いと気配を消しすぎた。どのみち邪魔をしてしまうなら、物音の一つくらいは立てておけば良かったな」
穏やかな口ぶりに、ずいぶんと心の広い人のようだとスフィルは俯いていた顔を上げた。
迷惑をかけているのはこちらの方だというのに、そんな心からすまなそうに言われると、申し訳なさも倍増だ。
ちらりと相手の顔色を伺って、いや、伺おうとしてスフィルは再び上げそうになった悲鳴を飲み込む。
縦に入った瞳孔の、黄金の瞳。その光を放つような黄金と、ひたりと目が合う。風が吹き抜けた気がした。
「し、神龍族?」
その頭は龍顔と呼ばれるものだった。
うねる鬣。額から覗く枝又の角。凹凸の無い鼻梁。細かい鱗が、暗闇の中でも光を湛えている。
その頭を支える首は一般的な人形種族より少しばかり長く、はるかに太い。
肉体は、スフィルの三倍はあろうかというほどの巨躯。
「いかにも、神龍族と呼ばれる身だ」
スフィルを驚かせたと謝る男は、そっとスフィルを湯船に戻すと、自らもその体を湯に沈めてきた。
「こちらは浅い。奥に行けば肩まで浸かれよう」
そう言うと、スフィルを抱えたままに暗い奥へとザブザブ進む。
「え?いや、何で抱っこされたままなの」
「明かりも届かぬゆえ、足元が悪かろう。私は明かりが無くてもよく見える」
「左様で・・・・・・。ん?」
疑問に対して微妙な回答に首を捻っていると、ぶっ太い腕に抱えられたまま、洞窟の奥深くまで連れて行かれる。
「だいぶ奥までつながってんだ、この洞窟」
自分の足で移動していない気楽さで、のんびりと暗闇を見学する。やはり天井の方はほんのりと蓄光されているようで、白く浮き上がって見える。
結構な距離を歩いたと思った頃に、洞窟の空気が変わった。温泉の湯気が薄まり、冷たい外風が顔をなぜた。
「上を」と自分を抱える男に言われて、スフィルは天井を見上げる。
ぎっしりと煌めく銀河があった。
「わ、すげぇ」
「こちらはセリョウ渓谷と繋がっている。そこにある裂け目だな」
ざっくりと開いた裂け目から、白銀の光の粒が隙間なく散りばめられているのが見える。
「セリョウ渓谷って、あの断崖絶壁のかぁ」
「元はこの裂け目から利用していた。龍族の湯治場だったのだ」
「へえ~。さすが龍族はどんな場所にでも行けるのな」
雲駆、と呼ばれる龍族特有の移動技能がある。
文字通り、雲を足掛かりにして自在に空を駆け巡る技である。
(こんだけ龍族しか知らねぇ秘境の名所がありゃあ、リゾート開発もそりゃはかどるわなぁ)
もはや疑うまでもなく、スフィルを抱える男は神龍リゾートの関係者だろう。それも、けっこう上の方の立場に居る。
そうなると、ますますスフィルは今の己の有り様に疑問を持たずに居られない。
オレハナンデオ偉イサンニ裸デ抱ッコサレテイルノデセウ
「あのォ」
「ん?ああ、すまない。冷えたか」
そろそろ下ろして欲しいと訴えようとすると、お偉いさんであるはずの男は何を察したのか、スフィルを首まで湯に浸からせた。
片腕抱っこから横抱きに変えて。
「・・・・・・・・・・・・」
あれ?
「先程のように眠って頂いても構わない。私が貴方を抱えていよう」
「いやいやいや、待ってください。おかしいでしょうが」
「なにか、おかしなことが?」
「おかしくないって思ってることがまずおかしいからね?」
離せ、と力を込めて男の腕から逃れると、とぷんと沈みかけた。
「うわっ?」
「ああ、ここは人の身には少し深い。私から離れぬ方が良いだろう」
するりと腰に手を回され、ぐいと体を引き寄せられる。
裸の肌がひたりとくっつき合う。
ああ、雄っぱい。何て巨ぬー・・・・・・
いや、違う。
「あの、今さっき知り合ったばかりの人間同士としては、近すぎる距離だと思われませんかね」
虚無を目に宿しながら、スフィルはご立派すぎる体格の男にいくぶん遠慮がちに尋ねた。
もしかしたら自分が間違っている可能性も、なきにしもあらずだ。
神龍族では普通の距離感ゆえに、ついついいつも通りの行動をしているのかもしれない。そうかもしれない。
スフィル自身は、成人した男同士でぴったりくっつき合うという文化に抵抗があるが、こちらさんはそうではないかもしれない。
「驚かせただろうか、すまない。貴方が番と思うとつい、側に寄せたくなってしまう」
「はあ、なるほど。番。番ェエ?」
「貴方の瞳を見たときに確信した。藍の夜空に銀星輝くその瞳が私の魂を揺り動かした。星辰の一族の方だろうか」
「そ、そうだけど。待って。おれのしゅ、しゅ、種族は単性で、どどどうせいでのせいしょくは、しないからッ」
番とか、何かの間違いでは!
スフィルの星辰族は、第二次精徴期に女性体と男性体に変化するとそのまま固定されて、男女間の性交で子孫を繋ぐ。
同性で番う者も居ないではないが、圧倒的に少数だ。
ゆえに番は異性で、というのがスフィルのなかでの常識だった。
スフィル自身も、性的指向は異性愛である。他種族であっても、目が行くのは女性体だ。
対して、神龍族は男性体しか生まれぬと聞く。他種族の雌体を番にするらしいとの噂は知っているが、本当のところは知らない。そうだとしてもスフィルは完全なる単性で、雌雄同体でもない。
というようなことを、しどろもどろに訴えた。
「ああ、概ねはそうだ。だが性別はあまり関係なく番は選ばれる。魂に触れる者が伴侶だ」
「へっ、へぇ~!そうなんですかッ。ずいぶんと浪漫に溢れているッッ。でも、おれは違うんでェェ。つか、魂に触れるってなに??」
「天壌無窮、愛しく思えると感じた。貴方が存在していると思うだけで、私の心は温かく満ちる」
「やめて!おれはただのオッサンだし!若くも美しくも才能も無い、くたびれたフツーの由緒正しきオッサンなの!魂の伴侶とか荷が重いからっっ」
「貴方の若さや美貌、才能といったものが、私の番であるということに何ら影響を及ぼすことはない」
「及ぼしてっ!そんでもってそこじゃない!そこじゃないから!!おれはオッサンなの!男なの!」
ばちゃばちゃと湯を掻いて、神龍の男から逃れようと暴れるが、男の腕は丸太よりも太く岩よりも頑丈である。スフィルとて、決して小柄でも軟弱でもないというのに、どれ程暴れてもびくともしない。
「ひえっ!」
スフィルの脚の間に、これまたぶっといものが挟まれた。一瞬硬直してしまう。
スリ・・・・・・、と太股に擦れる感触にゾワッと怖気が走った。
「貴方が男性体なのは、存じている」
男のみっちりと張った太股が、スフィルの内股を擦り上げ、男性の証をも。
スフィルは目の前が真っ赤になった。
こ、こんの、変態野郎~ッ!!
「ふざっけんなっ!!」
おもいっきり頭を仰け反らせ、勢いよく振り下ろした。
「あれ?」
天井にはファンが回っている。竹で編まれた、大きな羽がカラカラと音をたてている。
しばらくボーと見つめ、それから横を見るとこれまた竹で編まれた卓があり、そこには水滴の付いたグラスが置いてある。自分が竹で編まれた寝椅子に横たわっていることがわかった。
「何で、こんな。アデッ!なんだあ?」
体を起こそうとして、額がひどく痛んだ。くらりとして、再び寝椅子に倒れ混む。
「あ、気がつかれました?お客様」
蟻人族らしい女性が近づいて、「お風呂で逆上せられたんですよ」と冷たい飲み物を渡してくれた。
「はあ、そうでしたっけ・・・・・・?」
遠慮なく頂いて、ストローに口を付ける。ほんのりと甘く、少し塩気の感じられる不思議な味の飲み物は、何だかとても美味しい。
飲み終えて、ぼんやりとグラスを弄んでいると、お代わりお持ちしましょうかと聞かれ、こくりとうなずく。
自分の体を見ると、湯着と呼ばれる一枚布の着物を着せられている。
風呂場で倒れるなんて、よほど疲れてたのだろうか。そんなに根を詰めた仕事をしていたつもりはないのだが。
それより、誰に運んで貰ったのだろう。まさか、あの蟻人の女性ではないだろう。
こんな重たい大男を運ぶなんて、かなりの重労働だ。謝罪とお礼を言わねば。
「お代わりどうぞ」
戻ってきた蟻人の女性スタッフに、「あの」と声をかける。
「すいません、おれ覚えてなくて。まさか風呂で逆上せるなんて、ご迷惑をおかけしました。運んで下さった方は」
「お気になさらず、と伝言を承っております。当然のことをしたまでと」
「はあ、恐縮です。ですが、おれを運ぶのには大層苦労なされたでしょうに」
こんな図体のデカイ男を、と身を縮めてみれば、女性スタッフはくすりと笑い
「羽根のように軽いと申されてましたよ」
と、にこやかに伝えてくる。
「はぁ?ハネノヨーニカルイ・・・・・・」
助けて貰ったというその人物に、軽く反発心がわく。
気にしないようにとの心遣いなのかもしれないが、それなりに筋肉もある長身の男に「羽根のように軽い」は無いのでは。
どんな気障野郎だ。
「お客様のお着替えはこちらに。脱衣場から篭に入れたままお持ちいたしましたので、お確かめ下さい。お荷物は、フロント預かりのままになっております」
蟻人のスタッフから、脱衣篭を受け取り、篭のなかを確かめる。
たぶんそのままだ。なんとなくパンツが無くなってたらどうしよう、なんて頭を過るが、馬鹿馬鹿しい。オッサンの下着になんの価値がある。
「下山するにはもう夜遅く危険ですので、よろしければこのままご宿泊下さい」
「あ、や、しかし」
神龍リゾートはお値段高めとはいえ、泊まれない訳ではない。急な出費は痛いが、出せない訳ではないのだ。
しかし、今は手持ちが無い。採取に来ただけなので、往復の交通費と何かのための予備費が少し。
それで足りるのだろうか。
「今は閑散期で、部屋にも少し余裕がございます。お気になされませんよう。ですが、もしお客様がお気になされるようでしたら、大変恐縮ではございますが、スタッフルームにご案内させていただくこともできます」
「え、スタッフルームに?良いんですか?」
「はい。お客様がお気になさらないのでしたら」
「気にしないもなにも、おれはありがたいですが」
多分、スタッフの仮眠室を貸してくれるとのことだろう。
従業員の皆様のお邪魔にならないのであるならば、大変に魅力的な申し出だ。
「それではご案内いたしますね。お着替えはなさいますか」
「あ、はい。すぐに着替えますので」
「ごゆっくりどうぞ。私は扉の外にてお待ちいたしております」
女性スタッフが退出するのを見届けて、篭から衣類を取り出す。新しい下着を身につけ、着て来た方は小袋に入っているのを確かめる。
それから下衣と上着を着て、扉から出た。
扉のすぐ横に、言葉通りに蟻人のスタッフが待っていてくれたので、「お待たせしました」と頭を下げる。
「いいえ。ではご案内いたしますね、こちらへどうぞ」
スッと手のひらで誘導されるままに続く。
フロントホールに出て、ラウンジの前を通り、奥へと連れられて行く。
すぐに裏側の従業員通路に入るのかと思っていたのだが、庭園に出た。
庭園を通った先に、従業員の宿泊施設があるのかな、なんて思っていた自分を殴りたいと。後のスフィルは思い返す。
あの時、びびらずに客室に泊まっていたら。
いや、逆上せたというスタッフの言葉に覚えた違和感を捕まえていたら。
それとも、人が居ないとはいえ、温泉で寝たりしなかったら。
こんな、ぶっとい腕の中には居なかったに違いない。
「あ、うぅぅ。離せよぉぉ、ンッ」
「貴方が選んでくれたというのに、つれない・・・・・・」
「選んでない!えらんでねーからなぁぁあぁん」
スフィル
星辰族の植物採取人。世界各国から珍しい植物を探しだしては、植物園や庭園に卸す仕事をしている。もちろん個人的にも集めている。時には危険地帯にも行くので、それなりに腕もたつ。背筋が素晴らしい。雄っぱいは控え目。腹筋は鍛えてもあまり目立たないタイプ。
星辰族。長身と銀を散らした濃紺から藍色の瞳が特徴。産まれた時は無性体。長じて男性か女性になる。因子としては雌雄同体になる。星を読み時を読むことに長けた種族であり、政事に深く関わる者を多く輩出する。しかし、それも一部の者であり、大抵は星読みをしながら旅をすることが多い。星さえ見えれば迷うこともないので、配達人になるものも多い。
神龍族
非常に気高く雄々しい種族と言われている。龍顔と呼ばれる獣頭をしている。尾があるものもいる。肉体は頑健で、人形種族の中でも最大である。人形種族で最大と言われているのは他に鬼人種や熊人種がある。
世界最古の種族の一つだが、地に降りず、高山で暮らしているために、あまり人に知られていない。
雲駆という、種族技能があり、雲を産み出し空を駆ける。龍種族に行けぬところは無いと言われている。
龍珠、または龍玉という財宝を持ち、常に手にし非常に大切にしているという。「手中の珠」という諺は、龍族のこの性質から生まれた。
近年、神龍リゾートという一大観光事業を起こして名を知られるようになった。
蟻人族
地中に住まう、昆虫型人形種族。頑健な顎を持つ。女性優位な種族であり、蟻人の女性を妻にすると一族を乗っ取られるという風にも言われてきた。
近年は、蟻人の女性は有能で管理職に向いているという評価が高く、組織のなかで高い地位についているものが少なくない。
神龍リゾートの洞窟温泉の総支配人に蟻人の女性が就任し、ますますその名声を高めている。
男性は穏やかで勤勉と評価されるが、目立って台頭してくるものはとても少ないとされている。
神龍リゾートはシェンロンリゾートと読みますが、種族名はしんりゅうぞくです。
数名の合議制で運営されております。
世界各国に施設がございます。お好みのリゾート地にてお待ちしております。